トップページに戻る
本のページに戻る

2001-03-10 「投機の円安、実需の円高」リチャード・クー、1996年1月11日初版、東洋経済新報社

古本屋で見つけた本ですが、なかなかの力作でした。経済の実務を知り、かつ日本的なしがらみと離れたところにおられる著者ならでは忌憚のない本に見えました。
1995年に執筆された本ですが、現在も経済状況は状況が変わらないというか、より悪化しているようです。現状でも円高であるということ、規制緩和、輸出基調の構造を改革しなければいけないが、雇用問題を引き起こすのでそれが出来ないという、状況が5年間は変わっていないようです。

「投機の円安、実需の円高」リチャード・クー、1996年1月11日初版
著者紹介;1954年神戸市生れ、76年カルフォルニア大バークレィ校卒、81年ジョンズ・ホプキンス大学院博士81年ニューヨーク連邦準備銀行、84年野村総合研究所に入社。

○懸念が本当になった;1995年の春、為替レートは79円50銭。8月初めから円高是正策で100円となるが、これもとんでもない円高であることに変わりない。

○94年6月24日のある出来事;クリントンがドル高を望んでいると声明。

○為替介入が効く条件;中央銀行の反対側に投機家、投資家がいる場合。

○輸出業者に食われた日銀;輸出業者は最後までドル売り、円買い。中央銀行のドル買い円売り介入は、納税者が日本の輸出業者に補助金を出しているようなもの。

○三重野総裁がぽろりと本音;日本の黒字をなんとかしなければならない。

○ドルのたれ流しにはなっていない。;クリントンが1993年7月に実施した大規模な増税を含む財政赤字削減の結果、95年の米国の財政赤字はGNP比でG7で一番低く、95年hs2.0%で1980年代の6%に比べてさまがわり。ドルの垂れ流しとは、政府の赤字を埋めるための債権をその国の中央銀行が買い取った場合のみ。マネーサプライが急増して最終的にインフレをもたらす。

○対円ドル安でも上がらない米国の物価;米国のGNPに対する輸入の割合は1割、そのうち日本からの輸入が1割、よって日本からの輸入はGNPの1%程度。

○ホットポテトで膨らむ為替取引き;1日に1兆ドルの取引き、その殆どはホットポテト。ディーラー制では、ディーラーは自分でポジション(在庫)を持ち売値と買い値の両方を出して市場に参加。彼らは売り逃げられるということを前提に参加しており、ディーラー間のホットポテトは巨額となる。一方、ブローカーは単なる仲介者で自分ではポジションを持たず、顧客の注文を市場に繋ぐだけ。為替取引きの実需は5%。

○ドルの最終需要家が為替を決める;最後にポテトを受取る人を見るべき。

○誰がドルを買っていたのか;日本には年間1200億ドルという大きな貿易黒字が出ている。日本の株式市場の時価総額は1987年に300兆円が1989年には600兆円、このためプラザ合意の後に為替が240円から120円になって為替差損20兆円が発生したが、株の含み益で埋めた。1ドル120円でも外債投資が始まり1989ー90年には為替は160円まで戻った。また80年代には米国の30年国債で金利は14%もあった。今は6.3%しかない。日本の94年末の対外純資産は7000億ドル。

○金利が低くても借り手がいない;日本のコール市場には40兆円以上もの投資資金が行き場がなくて滞留、公定歩合を0.5%という歴史的な水準に下げても借りに来る人がいない。原因は優良な投資物件がないから。1ドル100円では国内の生産能力拡大に投資したい人は出て来ない、120円を超えて大きく円安になる必要あり。86年の8月に150円となり、日本当局は150円防衛戦を展開、黒字削減を目指す。日本の自動車関連の対米黒字は94年で368億ドル。

○ルービン財務長官の誓い;カーターが大統領となった1977年は第一次オイルショックの後で世界経済は低迷、就任早々と景気拡大策、2年目に景気は拡大したが3年目にインフレ、2桁となりインフレになれていない米国人にショック、1979年10月にFRBのボルカーはインフレ退治政策、その結果金利上昇、4年目に経済はめちゃくちゃとなりカーターは落選。ルービンは景気の加熱を心配して94年から連銀の金利引き上げ、米国経済成長率は2%前後、1996年11月の大統領選挙の数ヶ月前に景気拡大に向かうようにする。

○不幸な日本の投資家と年金生活者;外債投資を始めよという圧力は日増しに強くなるだろう。買えば日本に巨額の黒字があるなかで円高のリスクに怯え、買わなければ日本の10年国債の2.7%の金利しかとれない。

○高値買いから下値拾いに展開;80年代後半、高値で日本の投資家がロスのオフィスビルからロックフェラーセンターまであらゆる資産を高値買い、現在は数分の一の価格で処分している。

○貿易赤字だから貯蓄が少なくなる;IS(investement, saving)バランス論では貯蓄が少ないから赤字が出る。実は逆に米国ではなっているのでは。

○この国に投資する人がいない。;日本経済はゼロ成長、92;0.3%,93;0.2%,94;0.6%である。このゼロ成長を財政は92年8月から総額66兆円を投入して金利を最低水準にもってきての結末、これらの政策がなければマイナス成長。

○企業は生き残っても経済はガタガタ;80年代前半の超ドル高時(1980ー85年まで、プラザ合意でドル安)に、米国企業は1ドル240円や3.4マルクでは国内で競争できないと生産拠点を海外に移し、これらの企業は生き残ったが、米国の中産階級とくに製造業に携わる人々の所得は激減。

○上と下では違う危機感;日本では上に行けばいくほど危機感が強い。自分の会社がどちらの方向に向かっているかよくわかるからだ。自分の会社の成長力、円高による輸出収益の目減り、支払わねばならない賃金を比べたら、将来の収益が痛いほどわかる。下にいけばなんとかなると楽観している。米国では逆で、米国企業はリーン&ミーン、脂肪をそぎ落し完全な筋肉質で世界の誰と競争してもまけないという自信あり。下はいつリストラの対象になるかで緊張。

○へその部分は雇用問題;貿易黒字を大幅にへらし、市場開放により輸入を増やし赤字輸出を削減する。そうすると企業収益は改善し株価は上がる。貿易黒字がなくなれな、円安になり、企業収益改善で株価があがる。赤字輸出をやめれば、工場の生産も落ち雇用問題、輸入が増えれば、雇用問題。

目次
はじめに
1章日銀を食って超円高にしたのは誰か
懸念が本当になった、94年6月24日のある出来事、為替報道には大きなバイアス、何が本当のニュー スか、為替介入が効く条件、恫喝されて相場を手仕舞う、日銀の側にいたジョージ・ソロス、円安予想で溜まっていたドル、輸出業者に食われた日銀、三重野総裁がぽろりと本音、黙り込んでしまった米国、疑惑払拭とスーパー301条の発令

2章的外れの「ドルたれながし」疑惑
ドル安をめぐる2つの疑問、米国の財政赤字こそドル安の原因?、長期金利に影響を与えない財政赤字、ドルのたれ流しにはなっていない、対円 ドル安でも上がらない米国の物価、成功した米国の金融政策

3章為替市場の本質を知らない投機決定論者
円高・投機説、ホットポテトで膨らむ為替取引き、ディーラー制とブラーカー制の違い、ドルの最終需要家が為替を決める、5%が決める95%の流れ、成功した投機と失敗した投機、10兆円もの円安投機、スワップの相手方は真っ青、円安投機がもたらした超円高、途上国中央銀行による円買いの背景、円・基軸通貨説の不可解、円の国際化のリスク

4章日本製の円高ー再論ー
誰がドルを買っていたのか、リスクをとれない日本のファンド・マネージャー、失われた米国債投資のウマ味、数字が入った交渉には金輪際応じない、ユーロ円債に乗換えた投資家、日本からの借金を返せない外国、日本はメキシコとはちがう、ドルを買う人の議論がない、主権国家日本の甘え

5章大蔵省の円安マジック
黒字の還流にメスを入れる、現実を直視した榊原プログラム、大変なことが起きた、ジャパンマネーが戻ってくる。ISバランス論の呪縛から離れたのか、日本の投資家は半信半疑、日銀による史上最大の為替介入、ブラックボックスの介入資金、国家予算は大和銀行より不明解、株高も欧米投資家が主導、発射台は1200億ドルの重要性、外国人は円を稼げない、貿易収支など見なくていいにか、疑わしい資本取引きが大半とする根拠、資本取引きに肩並べる貿易取引き、やっぱりドル支えのPKO、問題は大蔵省の管轄外

6章円高への危険性は残っている
ジョージ・ソロスの見方、実質金利が高すぎるのか、金利が低くても借り手がいない。国内で投資機会を見出せない、日本の財政は動けるのか、もたなかったルーブル合意、1987年の教訓・最後は貿易収支にやれれる、輸入が増えた理由が円高だったら、非可逆的な輸入増が必要、日本生命が我外債を買ったりとやる理由、必ず問題になる黒字の水準、日本の金融不安と米国の為替介入、邦銀による海外資産の売却不安は杞憂、生保のドル債売りは恐いか、ルービン財務長官の誓い、米国の利下げをやり易くする、為替介入・ルービンの限界、円安で弱まる構造改革の勢い、次のしっぺ返しが恐い、不幸な日本の投資家と年金生活者、超低金利政策の弊害

7章「ISバランス教」の破綻
霞ヶ関を支配する宗教、ISバランス教と為替レート、貿易交渉は為替と無関係?、投資家と輸出業者の綱引き、金利差で為替は動くのか、円高と貿易黒字は無関係?、投機犯人説に乗った日本政府、資金還流・黒字有用論への反論、資金還流の2つのケース、高値買いから下値拾いに転換、誰のための資金還流か、資金還流より対日輸出が望ましい理由。ISバランス教と貿易収支、ミクロとマクロが全く逆、財政赤字で説明できない、貿易赤字だから貯蓄が少なくなる、所得が増えねば貯蓄も増えぬ、輸出が増えたから貯蓄が増えた日本、貯蓄は所得の副産物、失われた高級は取り戻せない。アブソープション・アプローチの限界、すぐ全てが元に戻るのか、市場開放政策と失業対策の同時出動、赤字国だけではなく黒字国の責任も追求すべし、爆発寸前のを不満持つ欧米の中間層、世界的資金不足論の破綻


8章日本企業は「死ぬまで生きる」のか
評論家たちのたわごと、ばらまかず首切らず、従業員の首を切れない社長、日本経済が死ぬ日、この国に投資する人がいない、企業は生き残っても経済はガタガタ、社会不安というしっぺ返し、上と下で大いに違う危機感、系列が失業のアブソーバー、失業したら使い物にならない、外国人投資家の誤解、へその部分は雇用問題、雇用対策に100兆円投じよ、早く手を打てば結局安上がり、必要なライフスタイルの再考、先進国にふさわしくない住宅、変えるべきものと残すべきもの、ハンドルをどこで切るか、地獄を見てハンドルを切る、最悪はゆで蛙のシナリオ、ペンタコン・スーパーの謎

9章墓穴を掘る大口預金者バッシング
全体像見失うマスコミの暴走、恐いのは大口預金者の迷走、コンチネンタル・イリノイ銀行の悪夢、誤解を生んだ救済という言葉、限界がある預金者の自己責任、銀行監督官とマスコミの責任、金融の自由化と銀行監督行政、きれいごとしか言わぬマスコミ と政治家、やくざと全く変わらない大蔵省、問題先送りで困難は巨大化、景気と銀行の不良債権問題、設備投資の金利感応度は低い、撃沈された金融政策の受け皿、税制を含めた抜本対策を

10章株の「持ち合い」は妖怪なり
株の持ち合いと日本株プカプカ論、等価交換としての株主持ち合い、自社株償却の効果、持ち合い株の益出し、持ち合い依存度のチェック、株式の持ち合いと資本効率、自社株償却で激減する銀行の自己資本、持ち合いと言う妖怪退治を。

11章消費者を無視した日米自動車「合意」
市場開放政策を信用していない投資家

12章中国をとるのか、米国をとるのか
アジア万能でよいのか、民族主義に訴える中国、日本は中国の属国になりかねない、何故日本はアジアに信用されないのか、日本はアメリカとガッチリ組め

13章「権威」と「主流派」が作る日本の掟
偏りやすい日本の議論、権威に弱い日本の議論、総与党化は危ない、素晴らしい日本人の問題を直視する能力、問題の所在を知っている日本人

あとがき