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2001-03-17 「ホーキング、宇宙を語る」ビッグバンからブラックホールまで、S.W.ホーキング、林一訳 A Brief History of Time, from the Big Bang to Black Holes,1989年

以前、古本屋で見たベストセラーものですが、あらためて読み返して見ました。英文の原題、「時間の歴史についての概説、ビッグバンからブラックホールまで」のほうが内容をより正確に現していました。虚時間(虚数で測られる時間)という概念でビッグバンからビッグ・クランチを説明したりで、ホーキングはやはり現代の知性と思いました。この本のポイントは時間にあるようです。

「ホーキング、宇宙を語る」ビッグバンからブラックホールまで、S.W.ホーキング、林一訳 A Brief History of Time, from the Big Bang to Black Holes 1989年6月15日初版、早川書房、1600円

本の帯;「この宇宙はどうやって生まれ、どんな構造を持っているのか?」かってガリレオやニュートン、そしてアインシュタインが解こうとしたこの難問に、ホーキングもまた挑み続けている。ここで、あざやかな論理で相対性理論と量子論を統合し、まったく新しい視点から、思いもかけない解答を引き出していく。
「宇宙には境界がなく、はじまりも終わりもない」、彼が描き出すこうした驚くべき宇宙像は、読むものをすべて、限りない宇宙の神秘に対する畏怖と、その神秘さえ解き明かす人間の理性への感嘆の思いで満たすことであろう。

謝辞・まえがきにかえて
1.私たちの宇宙像
2.空間と時時間
3.膨張する宇宙
4.不確定性原理
5.素粒子と自然界の力
6.ブラックホール
7.ブラックホールはそれほど黒くない
8.宇宙の起源と運命
9.時間の矢
10.物理学の統合
11.結論、人間の理性の勝利

謝辞・まえがきにかえて
初期の宇宙とブラックホールについては、すでにかなりの本が書かれており、スティーブン・ワインバーグの「宇宙創成はじめの3分間」のような非常に優れたものから、ひどいものまで種々あり。私の最初の古典期では主な共同研究者はロジャー・ペンローズ、ジョージ・エリスなど、この時期の成果は1973年のエリスと共著の「時空の大局的構造」の中で要約してある。

序;カール・セーガン
ホーキングはいま、ケンブリッジ大学のルーカス記念講座数学教授職についている。このポストはかってニュートンとディラックが占めていた地位である。宇宙を創造するとき、神 にはどんな選択の幅があったのか、というアインシュタイン有名な問に答えるべく、彼は探究の旅に出た。

1.私たちの宇宙像
聖アウグスチヌスは、宇宙を創造する以前に神は何をしていたのだがろうかと尋ねられ、次のように述べた。時間は神の創造されたこの宇宙の属性であり、宇宙の始まる以前には時間は存在しなかった、と。
1929年にエドウィン・ハッブルがどちらの方向を見ても遠方の銀河は我々から急速に遠ざかっているという画期的な観測を行った。宇宙は膨張しつつあるのだ。今日の科学者は、一般相対理論と量子力学を用いて宇宙を記述している。

2.空間と時時間
一般相対性理論では、空間と時間は動的な量となる。

3.膨張する宇宙
1965年ニュージャージー州のベル・テレフォン研究所のアーノルド・ペンジャスとロバート・ウィルソンは宇宙からのマイクロ波を検出。

4.不確定性原理
1926年にヴェルナー・ハイゼンベルグが不確定性原理をまとめた。粒子の位置を精密に測定しようとすれば、光が粒子を散乱して性格に測定できない。

5.素粒子と自然界の力
1964年にカルフォルニア工科大学のマレー・ゲルマンがクォークと小さい粒子を命名。6種類あり、アップ、ダウン、ストレンジ、チャーム、ボトム、トップ。
4つの力、重力、電磁気力、弱い核力、第四の力は強い核力。

6.ブラックホール
1969年にジョン・ホイラーがブラックホールという言葉をひねり出した。

7.ブラックホールはそれほど黒くない
1973年、ロンドン大学のデービッド・ロビンソンはカータと私の成果を利用してブラックホールの大きさと形はその質量と回転の速さだけで決まり、崩壊してそれを形成したもとの物体の性質とはかかわりがない、ブラックホールには毛(個性)がない、と示した。
1967年にケンブリッジ大学のジョスリン・ベルが電波パルスを規則的に発する天体を発見。パルサーと名付けられたこれらの天体は、回転する中性子星であって、その磁場が周囲の物質との間で複雑な相互作用を起す為に電波パルスを放射するのである。
中性子星の半径はほぼ10マイルであり、星がブラックホールになる臨界半径の数倍でしかない。ある星が崩壊してこのように小さくなれるのであれば、他の星が崩壊して一層小さな寸法になりブラックホールになりうる。

8.宇宙の起源と運命
ビッグバンそののもの時点では宇宙は大きさゼロで無限に熱かったと考えられる。宇宙の大きさが2倍になると温度は半分になる。宇宙が膨張するにつれて放射の温度は低下した。ビッグバンの1秒後には温度は約100億度に下がっていただろう。
これは太陽の中心温度のほぼ1000倍だが、水素爆弾では同じくらいの高温が得られる。ビッグバンの1000秒後には、宇宙の温度はもっとも熱い星の内部の温度である、10億度に下がっているだろう。この温度で陽子と中性子は結合して重水素の原子核をつくりはじめる。さらに陽子及び中性子と結合して2つの陽子と2つの中性子を含むヘリウム原子核をつくるだろう。
ビッグバンから数時間もたたないうちにヘリウムその他の元素の生産は停止してしまうだろう。
それ以後、100万年くらい宇宙はただ膨張するだけ。そしてついに温度が数千度に下がると、電子と原子核が結合しはじめる。時間が経つにつれて銀河の中の水素ガスとヘリウムガスは小さな雲に分裂し、それらが自分自身の重力のもとで崩壊するようになる。そしてこの雲が収縮するにつれてその内部の原子が互いに衝突してガスの温度は上昇し、最後には核融合反応がはじまるのに十分な熱さになる。この反応により水素はさらにヘリウムに転換され、その際に放出される熱が圧力がを高めるので、雲はそれ以上収縮するのをやめる。そしてわが太陽のような星として長い間この状態で安定し水素を燃やしてはヘリウムに変え、そこから生じたエネルギーを熱や光として放射し続ける。もっと重い星はその強い重力とつりあうためにいっそう熱くなければならないので、核融合反応がずっと早く進行し、わずか1億年ほどでその水素を使い果たしてしまう。するとこのような星は少し収縮して更に熱くなりヘリウムを炭素あるいは酸素のようなより重い元素に転換しはじめる。だがこれではたいしたエネルギーが放出できないので、危機が訪れる。
その後に起こることは完全には明らかになってはいないが、星の中心部が中性子星やブラックホールのような非常に密度の高い状態に崩壊するものと思われる。
星の外殻部はときには超新星と呼ばれる巨大な爆発で吹き飛ばされることもある。これはその銀河の他の星すべてを合わせたよりも明るく輝く。
星の生涯の終わりに近い時点でつくられた重い元素のうち、あるものは銀河のガス中に逃げ去り、次の世代の星を形成する原材料の一部となる。
わが太陽には、このような重い元素が2%ほど含まれているが、それは太陽が第二あるいは第三世代の星で50億年かむかしに、それよりも前に現れた超新星の残骸を含んだ、回転するガスの雲から生まれたものだからである。この雲の大部分は、太陽の形成に使われるか、さもなくば吹き飛ぶかしたが、少量の重い元素は集まって天体をつくり、今、太陽のまわりを回っている地球などの惑星となった。地球はもともと非常に熱く大気を持たなかった。だが時が経つうちに地球は冷え、岩石から噴出した気体によって大気を持つに至った。初期の大気には酸素はなく、大量の有害な気体、たとえば硫化水素などが含まれていた。大洋で、原子が偶然結合して巨大分子と呼ばれる大きな構造を作り、自分自身を再生産し増殖したのである。
非常に熱い状態から始まり膨張するにつれて冷えていくという宇宙像は、あらゆる観測上の証拠と合致している。にもかかわらず、以下の重要な問題は答えられていない。
1.初期の宇宙はなぜ熱かったのか?
2.宇宙は大局的にはなぜこれほど一様であるのか?
3.宇宙が再崩壊するモデルと永久に膨張しつづけるモデルをわける臨界膨張速度で出発し、そのため100億年後の今日でも、依然臨界速度に近い速度で膨張しているのはなぜか?
4.宇宙は大局的にはこれほど一様かつ均質であるという事実があるにもかかわらず、星や銀河のような局所的不規則性を含んでいる。これらは、初期の宇宙にあった領域間の密度の小さな差異から発展してきたものと考えられる。この密度のゆらぎの起源は何なのか?
重力の量子論が開いてくれた新しい可能性では時空は境界を持つ必要がないので境界における時空のふるまいを特定する必要もなくなる。特異点がないので科学法則が破綻することもない。「宇宙の境界条件は、それが境界を持たないということだ」これは単に一つの提案だ。
無境界説で存在可能な経歴は、地球の表面ににており北極からの距離が虚時間を表し、北極からの一定の距離にある円の大きさが宇宙の空間的な大きさを現していると考えられる。宇宙は北極で単一の点として出発する。南下するにつれて宇宙は虚時間が経つにつれ膨張するのに対応して大きくなっていく。宇宙は赤道で最大の大きさに達し虚時間が増すににつれて南極という単一の点に収縮する。宇宙の大きさは北極と南極ではゼロであるが、これらの点は地球の北極と南極が特異点でないと同じ様にやはり特異点ではない。
実時間では宇宙は時空の境界をなす特異点にはじまりと終わりを持っておりそこでは科学法則は破れる。だとすると虚時間と呼ばれるのがより基本的なもので実時間と呼ばれているものは我々の考えている宇宙像を記述する便宜上、考案された観念にすぎないのかもしれない。
科学理論は、観測を記述するためにつくった数学モデルに他ならず、我々の精神の中にしか存在しないのである。どれが実は実時間であり、虚時間であるか尋ねるのは無意味だ。どちらがより有用な記述であるかというだけのことである。

9.時間の矢
無秩序あるいは、エントロピーが時間とともに増大することは時間の矢と呼ばれる、過去と未来を区分し時間に一定の方向を与えるものの一例である。時間の矢には3つの異なるものがある。
第一に熱力学的な時間の矢、つまり無秩序あるいはエントロピーの増大する時間の方向がある。次は心理学的な時間の矢。これは時間が経過すると我々が感じる方向で過去は覚えているが未来はおぼえていないという場合の方向である。最後は宇宙論的な時間の矢がある。この時間の方向に宇宙は収縮ではなく膨張する。熱力学的な矢と心理学的な矢は同じである。

10.物理学の統合
これまで、重力の部分理論である一般相対論と、弱い力、強い力、電磁気を支配する部分理論について述べてきた。あとの3つは、いわゆる大統一理論すなわちGUTにまとめられる。重力を他の力と統一する理論を見出すのが難しい理由は、一般相対論が古典的理論だということ。一方、他の部分理論は、本質的に量子力学に基づいている。
1984年には弦理論と呼ばれるものに有利に傾いた。統一理論は本当にありうるのだろうか? 答えの可能性は3つあると思われる。
1.完全な統一理論は本当に存在しており、我々が十分利口であればいつかそれを発見するだろう。
2.宇宙の究極的な理論は存在せず、宇宙をより正確に記述していく無限の理論の系列があるだけ。
3.宇宙を記述する理論 はない。出来事はある限度以上に予測することはできず、無作為にし意的なやりかたで起こる。

11.結論、人間の理性の勝利
19世紀と20世紀にとって科学は、哲学者、いや少数の専門家以外のだれにとってもあまりにも、技術的、数学的になり過ぎた。哲学者は探究範囲を大幅に縮小し、今世紀のもっとも有名な哲学者であるヴィトゲンシュタ インが、「哲学に残された唯一の任務は言語の分析である」と言うほどになった。アリストテレスからカントに至る哲学の偉大な伝統からのなんという凋落ぶりだろう。もし完全な理論を発見すればあらゆる人にやがて理解可能となるはずだ。我々と宇宙がなぜ存在しているのか、それに対する答えがみいだされば、人間の理性の究極的な勝利となるだろう。何故なら、そのとき神のこころを我々はしるのだから。