100のお題・指輪物語より

005. 夏草

 

「セオドレド兄様、お待ちになって。」

黄金館の石段を肩まで切りそろえられた金髪をなびかせながら

まだ幼い少女が駆け下りてくる。

「セオドレド、行こう。煩いのに構うと遅くなってしまう。」

「ひどい、エオメル兄さんの意地悪!」

ぷっと膨らませた頬をからかうように見ている兄と違い、

背の高い騎士は、息せき切って駆け下りてくる少女を

ほんのりと笑みながら待っていてくれた。

「お約束よ。今日は私も連れて行ってくださるって。」

すでに馬にまたがっているセオドレドを縋るように

見上げてくるエオウィンに、エオメルが横槍を入れる。

「お前の仕度が整うのを待っていたら日が暮れてしまう。」

「すぐに、ドゥイマーの仕度をするわ。すぐよ。」

そういうと身を翻して馬小屋に駆け出そうとした

幼い少女の体がふわりと浮く。

「きゃあ。」

そうして、何がなんだか分からないうちに気がつくと

地面は体のかなり下にあり、暖かくたくましい

胸の中にすっぽりと包みこまれていた。

「いや、セオドレド兄様。わたしも自分で馬に乗っていきたい。」

「エオウィン。エオメルの言うとおり、あまり時間がない。

ドゥイマーに鞍をつけるのを待てないのだ。」

まるで幼児のように抱きかかえられ騎乗させられて、

口をとがらすエオウィンにセオドレドは言い聞かせる。

「セオドレド、エオウィンを乗せていたのでは早駆けできないよ。」

暗に不満ならば降りろといわんばかりの兄をにらみつけると

エオウィンはセオドレドにしがみつく。

「セオドレド兄様、じゃあ思いっきり早く駆けてちょうだい。

エオメル兄さんと競争よ。」

セオドレドはクスリと笑うと腕の中の少女を抱きなおす。

「エオメル、姫君の仰せだ。手加減はしないぞ。」

「うわっ、ちょっと、ずるっ。」

エオメルはかけ声と同時に馬を走らせた

セオドレドを慌てて追いかける。

館を守るロヒアリムたちの眩しげな視線を背景に

少女の楽しそうな笑い声と少年の叫び声を風に乗せながら

エオル王家の若き継承者たちは、

夏草の茂るローハンの平原を駆け抜けていった。

 

 

 

「・・・・・ム殿、デルンへイム殿。」

エオウィンははっとすると、目の前の騎士に視線を合わせる。

「どうぞ。お食事です。」

この行軍中、エオレドのものが話しかけてきたのは

初めてで、思考を現実に合わせる為に

しばし時間がかかった。

「・・・ありがとう。」

僅かばかりの干し肉に硬パン、それに干し果物のかけらを

手渡され、戸惑いながらもメリーを目で探す。

すでに干し肉に噛り付いていたメリーは、そんな少年騎士に

にっとその本質たる快活そうな笑みを向けてきた。

言葉を交わすのも視線を交じわらせるのも

久しぶりに感じるほど、思考を昔の思い出の中に

泳がせ、体だけを機械的に動かしていたこの数日は

社交的なこの種族にとって寂しいものだったのかもしれない。

そんなことにやっと気づくとほんの少し反省する。

目で謝りながら、メリーに微笑みかえすと、

あらためて目の前の騎士に視線をむけた。

その存在を極力目立たせぬように、

むしろ存在そのものがないかのように振舞うと

約束させたエルフハイムは、しかしこのような進軍は

初めてであるエオウィンをさりげなく気遣ってくれたのだろう。

今更ではあるが、どうしてもと言葉を尽くしての説得に

なんとか同意してくれたエルフハイムに対して

セオデン王と、今ではその世継ぎであろうと目されている兄に

背信ともいえる行為をさせてしまったことに

胸が軋むような思いがあった。

エルフへイムの部下であるギャムルは視線を合わせてきた

『デルンへイム』にこっと頷くと、

味気ない兵糧のほかに、小さな小瓶を掲げた。

「これが、戦の前の最後の食事になるでしょう。

これは、ほんの僅かですが葡萄酒です。

どうぞ、召し上がってください。」

エオウィンは驚いたように目を見開き、訝しげににこにこしている

騎士を見つめる。そうして、何事か思い当たったかのように

ふっと笑うと、徐に小瓶を受け取り、

そのまま直接口を当てるとこくっと一口のみ干した。

喉を滑り降りる焼け付くような感触に

体のすべてが目覚めていくかのようだ。

「セオドレド殿下の部隊のやり方ですね。」

ありがとう、そう呟くと小瓶を騎士に返す。

「メリー殿もどうぞ。戦の前の縁起担ぎです。」

ぽかんとして目の前の光景をみていたいたメリーは

騎士から渡された小瓶に恐る恐る口をつけた。

口にした瞬間、その芳香にクラリとくる。

「うまいですねえ。国のものに匹敵します。」

ぱっと顔を輝かせたメリーに、ギャムルは嬉しそうに微笑みかけた。

「我が家秘蔵の酒です。お気に召されたのならよかった。

たいして入っていないので、お二人で全部どうぞ。」

「えっ、そういうわけには。縁起担ぎなのでしょう?」

ギャムルの顔によぎった影を不思議そうに見ながら

メリーは小瓶を返そうとするが、そのまま手に押し付けられた。

「ええ、初陣の方のためのね。亡きセオドレド殿下が

初めて部隊を率いられた時からの習慣でした。」

躊躇するメリーにギャムルは遠い目で続ける。

「わたしが初陣のときは、総大将だった亡きセオドレド殿下御自ら

くださいました。あなた方にはわたしからで、申し訳ないですが。」

そう言って『デルンへルム』を見たギャムルにエオウィンは頭をさげた。

「いえ。セオドレド殿下に倣ってくださって嬉しく思います。」

微笑む少年騎士をギャムルは眩しげに見つめる。

「日が暮れたら最後の行軍になりましょう。

おそらく、次に止まるのは戦さの直前になると思われます。

どうか、デルンヘルム殿には御武運を。」

そういうと、静かに一礼し、その場から立ち去っていった。

 

エオウィンは周囲の騎士に紛れ見分けがつかなくなる

までの僅かな時間、おそらく自身の正体を

知っているのであろうギャムルの背中を見送った。

そうして、戦の前の休息をとるべく、地面に

腰を下ろすと、その瞼を閉じる。

 

セオドレド兄様。

いつも、私に甘かったあなたの、かつての

部下たちもまた私に甘いのですね。

王家の最後の者として残された国民を統治する。

本来、果たすべき義務を放り出した私の罪を

それでも、あなたはお許しくださいますか?

私が心から望んだことは,決してダメとは

おっしゃらなかったセオドレド兄様。

最後までセオデン王をお守りすることができるよう

どうぞ、このエオウィンにお力をお貸しください。

そうして、あなたのお傍に参りましたとき、

夏草の光り輝くローハンの平原を

今度こそ、ともに馬を並べて、

駆けていくことができますように。

 

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オホホホホホ・・・・激しく捏造中。

早く戦を終わらせて、ファラミア君といちゃつかせてあげたいけど

だって、本編に書かれているセオドレド殿下の記述って少なすぎなんですもの。

まあ、指輪戦争本番前に死んじゃったから仕方がないんだけどね。

オノレ、サルマン許すまじ。

セオドレド殿下が討ち死にしたのは、2月25日で、

ペレノール野の戦は3月15日の夜明けなんだよ。

この夏草は、その前日の話で殿下が亡くなってから

二十日足らずの頃なので、かつて率いていた第2エオレドの

部下たちもいまだ亡き隊長を恋い慕っていると思うんだけど、ね。

セオデン王のところにアラゴルンたちがきたときは

まだ初七日も過ぎてない頃だったんだってば。

それで、エオウィンがアラゴルンに恋するっつうのは

変。絶対に変。つか、無理すぎ。

(映画は映画でいいけどさ。

アラゴルン思わせぶりすぎだってば。)

まあ、古の力を体現したかのようなゴンドールの王(になる人)に

憧れて崇拝したってなとこがいいとこでしょう。

ので、原作重視の友林は、この路線で行かせてもらいまっす。