100のお題・千と千尋の神隠しより

009.うたた寝

 

季節は春。

春といえば春眠。

なので、時を選ばずに眠たくなるのは

仕方がないのである。

 

あふぅ

 

小さくあくびをした千尋は

そんな言い訳をしながら

森の中の小さな陽だまりに

身をゆだねた。

上が平らになっているこの低い白い石は

普段は、野外のティーパーティーの

ためにテーブルになることが多いの

だが、今日はぬくい枕代わりとなって

千尋がのせた腕とその上につっぷした

頭を優しく支えてくれている。

日影ではまだ肌寒いような陽気。

しかしぽかぽかとした日差しは、

身も心も弛緩させてくれて。

千尋は、まどろみの中で

幸せそうに

微笑む。

 

愛しい少女の気配を探して森の花畑に

きた森の主である龍神は、その微笑(ほほえみ)に

目を奪われる。

そうして、今まで過ぎてきた長い年月

の中で、誰にも見せた事のない、

そう、己自身も知らなかった

表情を浮かべ 千尋を憩わせている

石に両手をつく。

そっと、そうっと、贈った口付けは

千尋の瞼の上に溶け出して、

小さく身じろぎをさせたけれど、

千尋は、ため息とともにまた

眠りの海に 漂っていった。

 

龍神は笑む。

そうして、いつまでも いつまでも

愛しい娘を見つめ続ける。

幸せの中に憩うている少女の

その幸せを守る事のできる幸福に、

胸に宿る小さな、そして誰よりも大きな存在、

その存在を得ることができた幸福に 酔いながら。

龍神は思う。

何度でも何度でも。

己の生はこの少女のためにあるのだと。

己の力と激情の均衡を保つ事のできる

この世界でただ一人の存在と共にあるために

己は生きているのだと。

龍神は幸せそうに笑む。

 

今まで、だれも見たことがないという

この龍神の 慈しみと幸福に溢れたその表情を

瞳に映す特権を与えられた少女が、

目を覚ますのは

もう間もなくのことである。

 

 

100のお題目次へ  テキスト2目次へ

 

 

あれ〜おかしいな。主役は ちーちゃんだったはずなのに。

はくにのっとられちゃったよ。