100のお題・千と千尋の神隠しより
049.我が身ひとつ
ねえ、そこの人間の娘。
そう、あなた。
幸せの絶頂にいる幸福な花嫁のあなた。
あなたは、こんな事を思ったことはない?
己がいるべき場所を離れ、こんなところに
いるなんて、なんておかしなことだろうって。
その身一つしか持たないで
こんな異界にくるなんて なんて
馬鹿な事をしているのだろうって。
あなたが頼っている、あの神様はなんの柵(しがらみ)
をも 持とうとしない自分勝手な神様。
守ってくれている?
それは確かね。
そう、柵っていうのは、
他の命を守ること。
でも、よく考えて。
あの力をただ一つ、あなたを守るために
しか使わない、そんな神様は
柵を嫌っているといえるのではない?
ねえ、あなた。
幸福の絶頂にいる かわいそうなあなた。
柵を持たない男は、その生まれの性(さが)に
よって、自由を生きたくなるものよ。
そんな性を引き止めるのに
たった一つあなたの命だけでこと足りる、
そう思っているのなら、あなたも
あの神様に負けない傲慢な人間ね。
自分の事しか考えないあの神様と
案外 お似合いかもしれない。
そう。
いつか、あの男神様が
あなたの存在に飽いた時、
その身一つで、こんな所にきたあなたは
なんの拠り所もなくなって
その身一つで生きていかなくてはならなくなる。
輪廻の輪に戻ることも許されず、あの神様が
生きることに飽いて宙無の眠りにつく
そのときまで、その身一つを孤独のうちに
抱いていく事になる。
ねえ、あなた。
鏡の中の、愚かな娘。
それでも、いいの?
あなたが頼ることのできるものは
ただ一つ、その身だけ。
それでも、信じぬく、
信じぬくふりをしつづける、
そう決めたのならば、
わたしは、黙って見ていましょう。
あなたが、嘆きのうちに
その身をいだくその日まで。
完
オーマイゴット。
これは、いったいだれの心象風景だ?
つか、女ならば誰でも隠し持っている思いか?
男を完全に信じきって、頼りきって
不幸になった女は それこそ、神代の彼方から
枚挙にいとまがない。
それを知りながらなお信じたい、
それも女心ってやつか、な。
女の強さと怖さはここにあるような気がするよ。