100のお題・千と千尋の神隠し(別設定のお話です)

080. カンテラ

 

この夏は楽しい夏でした。

いつもは、銭婆様の元に時たま来る

お客様の出入りがあるだけの

静かなこの家に、

若い恋人達の笑い声や

幸せそうな話し声が響き渡って、

心なしか銭婆様も若やいで

いつもの年より、お元気に

お過ごしになったのはわたしの

気のせいばかりでは無いように思います。

ずっと昔に一度だけ来た事のある

人間の子どもが、

すっかり大きくなって

再びこの家に来たときは

何事かと思いましたが、

この夏中、それはそれは、

よく働いて銭婆様を助けていましたよ。

わたしのことも、とても丁寧に扱ってくれましてね、

それは、わたしはカンテラですから、

いつも風雨にさらされていて

おまけに道案内のお役目もかねて

跳ね回る事も多いものですから、

そこはかとなく、くたびれて、

かなり古びているように見えるでしょう?

ごくたまに遊びに来る小さなネズミなどには

ガラクタ扱いさえ

されたこともありますし。

ですが、あの人間の娘は、

わたしをそれは優しく扱ってくれましてね。

煤が飛び出て手や顔を汚しても

いやな顔ひとつしないで

毎日ぴかぴかに

磨き上げてくれましたっけ。

毎朝、一晩中、闇を照らしていたわたしに、

おはよう、夕べはご苦労様と

言いながらこの場所から

降ろしてくれるときの感動は

どう言い表したらいいでしょうねえ。

ですから、夏が終わる前に

あの娘が恋人と一緒に帰ってしまってから

本当に、寂しくて寂しくて。

元気がなくて、光が弱いように見えるのは、

燃料切れではなくて

きっとそのせいですよ。

でも、いいんです。

銭婆様がおっしゃるには、

また来年の夏休みとやらには

来てくれるそうですし、

あと2、3年もすれば、

あの龍の恋人と結婚して

この世界の住人になるそうですから。

そうすれば、この沼の底の家にも

しょっちゅう来てくれるでしょう?

ああ、そのときが、待ちきれないですよ。

あの娘さんの花嫁姿、きれいでしょうねえ。

 

ただねえ、一つ心配が。

あの龍の青年が

娘さんに振られてしまったら・・・

銭婆様は、大丈夫だろうっておっしゃるのですが、

わたしには、どうも。

この夏のあの龍ときたら、

娘さんのあとをついてまわってばかりいて、

おまけにしつこくし過ぎて、

娘さんに叱られたときの

しょんぼりとした顔。

なにやら力のある魔法使いらしいのですが、

ちょっとばかり、情けないような。

なんとなく、あんな龍に奪われるくらいなら

わたしの方が、などと思ってしまいましたよ。

いやいや、これは戯言として

お聞き流しください。

あの龍に知られたら、ことですからね。

まあ、銭婆様が大丈夫とおっしゃるの

ですから、大丈夫なのでしょう。

 

でもやっぱり心配、です。

ほんとに無事、お嫁さんに

もらえるのでしょうか。

どなたか、未来とやらを

覗く事のできる鏡を

お持ちではないですか?

 

 

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カンテラさんにまで心配されるって、

はく、あんた男としてどうよ。

つか、カンテラさんにまで惚れられるって

ちひろ、あんた女として

いいんだか悪いんだか。