100のお題・別設定の千と千尋より
094. 横雲の空
キンと晴れ渡った冬も終わりに近づいたある日。
目の前には味気ない金網のフェンスがあって。
千尋は、制服の汚れをほんの少し気にしながらも、
ふらっとフェンスに寄りかかると顔をあお向けた。
『・・・・・・く・・・』
と、瞳に写った光景にはっと目を見開くと
千尋は思わず出そうになった声を呑みこむ。
「ちぃったら、なに笑ってんのよ。」
お昼のお弁当タイムの後、なんとなくふらりと
来たくなった屋上に、なんとなくついて来た級友。
目の前の光景に心を捕らえられて、瞬間存在を
忘れていた友人にバツの悪い思いをしながら
千尋はなんでもないと首を振った。
「あっやし〜。なんかいいことあったんでしょ。」
・・・ここで、彼の名前を呼んでしまったら大変だろうな。
空を横切る雲にふと重なってしまった愛しい龍。
千尋がその名を囁くだけで、どこにいても会いに来てくれる
恋人に想いをはせながら、けっこうしつこい友人の追求に、
千尋はにこっと笑って見せた。
「ちぃちゃ〜ん、その笑い方怪しいですから。」
「そう?飛行機雲が見れて嬉しかっただけなのに。」
「飛行機雲?」
しれっと答えた千尋が向けている視線の先には、
つい先ほどまで糸のようだった
雲が次第に幅広の帯のように広がりつつあって。
その先端を飛んでいく機体が真昼の光を受けてキラッと輝きを放つ。
「ああ、ほんとね。あれってどこ行きだろう。」
「・・・さあ。」
「いいなあ、わたしも海外へ行きた〜い。」
金網を掴んで揺らしながら、騒いでいる友人を傍らに
千尋は、青いキャンパスにまっすぐに引かれていく
真っ白い線を眩しげに見つめ続けていたのだった。
おしまい
ちょ〜短い。
しかも、ありがちな設定ですみません。
ですが、ニュアンスが伝わってくれたら嬉しいかと。
友林の住んでいるところは航空路になっているらしく
とくにお昼過ぎと夕方によく飛行機雲が見られるんですよね。
同じ時間帯に何機も。
雲どうしがクロスしたりして、思わず飛行機が視界から消えるまで
ボーっと見つめ続けてしまいます。
飛行機雲を見るたびに、ハクだ、ハクが飛んでる。
と思ってしまうのは友林だけではないですよね。ね。
(↑センちひファンの同志様たちを
キラキラとした瞳で見つめながら)