第4部龍王たちの伝説

第4章 水晶宮・・・女王様の帰還

 

4柱の巨大な龍はそのまとう色を

煌かせて流れる星のごとく天を翔ける。

深紅の光を先頭に翡翠に輝く光を囲むように

純白と黒鋼の光が残光を残して逆巻く虚空に消える様を

古の占星術師が見たとしたら

末世の終焉を占ったかもしれない。

幸か不幸か。

しかしてその光の行き着く先は

いかなる技術の進歩をもってしても

人間達には決して感知する事の

出来ない場所ではあったのだ。

 

両脇を白と黒の龍に挟まれた

一回り小柄な白と翡翠からなる龍は

つと先に立つ赤龍に鋭い視線を飛ばした。

と、飛翔速度を緩めぬまま赤龍が突然口を開ける。

そうして前方に広がる何もない空間に向かい

声なき波動を叩きつけると、唐突に現れた

まるで水面に広がる波紋のような次元の

歪みに向って一直線に飛び込んでいった。

一瞬、翡翠の瞳を眇めた白龍は

しかし躊躇うこともなく後を追い

何処に続くとも知れぬ次元の扉を潜る。

くっ

と、たゆんと揺れる気の波動が全身に纏わり付き

転移した先から龍としての本体を保てず

パリンと人型を取らされた小柄な龍はそのまま

真下に落下した。

そうして、間際に体を丸め

なんとか肢体を立て直すと

他の3柱とともにゆっくりと空(くう)に浮遊する。

 

虚空に浮かぶ4柱の神々。

 

深紅の炎を纏うがごとき赤い神。

その髪も瞳も身に纏う布でさえ燃え立つ炎と

見間違うほどの名にし負う

南海赤龍王 敖潤(ごうじゅん)。

 

霧雪がごとき白い神。

その髪も纏う布さえも純白に輝き

唯一その瞳にのみ

銀白色の色を持つ

西海白龍王 敖欽(ごうきん)。

 

闇のごとき黒を纏う神。

その髪も瞳も纏う布でさえ

光さえも吸い込むがごとき黒を持つ

北海黒龍王 敖順(ごうじゅん)。

 

そうして 

碧に光る黒髪と翡翠の瞳を併せ持つ

同じ流れを汲みながら

幼くしてその袂を分ちた若き神。

今は秋津島上位神を名乗る

饒速水標琥珀主(ニギハヤミシルベノコハクヌシ)。

 

全く異なる容姿としかし全き同じ気を纏う3柱の崑崙の神は

様々な温度の視線を、唯一異質な気を持つ神に向ける。

四海竜王一族の逸れ神。

生誕して後、敖姓を名乗ることなくこの地を去り

もはやそのつながりは遥か遠くに隔たっている。

しかしてその纏う気は紛れも無く龍王そのものである一族の末。

ましてや、その血を受け継ぐに

龍王姫なるものをこの世に生誕させたという。

妻を奪われ先に顕わにしたその神力は、ここ水晶宮にも木霊して。

3柱の崑崙の龍王は

互いに視線を見交わして微かに頷きあう。

 

人型になってもその体格差はまるで人間の大人と子どもの

ごとくに異なり、しかしそんなことなど気にも留めず

若い龍は僅かに翡翠の瞳を眇めると

目の前の「壁」を見つめた。

魂の根底を揺さぶるがごとき膨大な気の流れ。

知れない地の底から果てない天に吹き上がる

巨大な気が音も無く流れゆき

只人の魂であったら流されゆくまま

存在を保つことさえも

難しいほどの神気に満ちた空間の僅か先。

目に見えぬ結界に阻まれたその先には

闇さえも吸い込まんとするかのような

混沌が渦巻いていた。

ふっと小さなため息が空間を揺らす。

「何ゆえに?」

結界の揺らめきが僅かに伝わり、

思わず上げた手をゆっくりと閉じながら秋津島の龍は問う。

「わかっておろう。」

空間全体に響き渡る厳かな声は何れの王のものであったのか。

「神祖が去られてより、我らが力を殺ごうと西方より

魑魅(ちみ)の類が常に放たれている。」

「ここ数百年の縉雲(しんうん)一族との争いは

熾烈を極め、さしもの青龍王とて蛻骨(ぜいこつ)に入られた。」

「故に。」

しかし、その先の言葉を許さず鋭い声が空を割る。

「今更に?」

「目覚めた以上、務めであろう。」

容赦のない神の言の葉。

たゆん

と揺れる結界が、今度は足元を僅かに揺らし、

我に、関係など・・・

若い龍はつと目を瞑る。

ほんの僅かな結界の揺らぎ。

しかし、それは波紋をよんで回り回って崑崙中を揺るがし

そうして、何れは何倍もの波動を伴い

遥か東方の地さえも揺るがすことになる。

水晶宮は崑崙の要。(かなめ)

幾重もの次元が重なって成り立っている世界ゆえ

大勢からすればほんの些細な存在であっても

その存在の消滅はいずれ世界に大きな波紋を呼び

鎮まるまでにはさらなる世界の犠牲が必要となろう。

その犠牲が・・・

「故に。」

普遍が必要なのだ、と

厳かな声は続ける。

「滄寧徳王の役目を引き継ぐものが。」

水晶宮の王のうち赤き神が、ゆっくりと手を上げ指を指す。

容赦なく伸ばした指の先。

空間が少しずつ歪み碧い球体を映し出す。

 

そうして・・・

 

若い龍は息を飲むと、ギリッと奥歯を噛み締めた。

「ふざけた事を。」

「弁(わきま)えよ。」

黒き王は闇のごとき袂を

ふわりと翻し琥珀主の視線を遮る。

「その力を示せ。」

白き王が銀白色の瞳を隠すように閉じながら

間延びするほどにゆっくりと声を発する。

そうして一拍ほどの間をおくと

再び表情の無い視線を琥珀主に据えた。

3柱の神から注がれる圧倒的な圧力に

秋津島の龍は再びギリッと奥歯を鳴らすと

その総てを無視するように顔をあげ

視線を目の前の球体に突き刺す。

そうして

トン

そのまま上空に身を躍らせた瞬間

翡翠の残像のみを残して、

光の矢と化し飛び込んでいったのだ。

 

 

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うちのヘタレなにーちゃん、こんなとこでこんなことしてます。

え?訳わかんないですか?

すでに中華風ファンタジー?と化してしまっていますが

きちんとハクセンです。いずれ、きっと、そのうち・・・(と強調しておこう)

イ、イメージで読んでやってください。