第4部龍王たちの伝説

第4章 水晶宮・・・女王様の帰還

 

 

『ここは・・・。』

純白に輝く小さな光の珠(たま)は

瞬きを繰り返しながらふうわりと周囲を見回す。

コバルトに輝く大洋の、はたまた地底深い鉱脈に光る鋼玉の、

いや、それよりもかの地に眠る我が子の瞳をもっとも

思わせる光に満ちている不可思議な場所。

天であるのか地であるのか、どのようにして

来たのかさえわからぬままに

純度の高い瑠璃の光の中で純白の光は

ただあるがままにキラキラと瞬く。

『ああ・・・なんて・・・』

自身さえもがおぼろげになるほど曖昧な空間に、しかし

欠片ほどの恐れを感じぬのは、身も心もその魂さえも

捧げた恋人と幾度も愛を交し合ったかの地の

薫香とよく似通っているせいかもしれない。

と、濃密な光がたゆんと動き、音の無い声が白い光を包み込む。

『・・・あ・・・』

瞬時に走る圧倒的な意思の交換に、

白い光は瞬きを失って、そこに肉体があったならば

まさに蒼白となったに違いない色を写しだす。

そうして、

純白に輝く光の魂は、逃げることをもせぬままに

青い光に絡め取られたのだ。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

宮殿の奥底を揺さぶるかのような振動が足元を這って来る。

「ツェン。」

遥かな昔闊歩していた見慣れた回廊を急ぎ足で

しかしさすがに気配だけは消して進んでいく朋輩は

先ほどから増している振動など感じないように

その歩調を一定に保ったまま大またで歩き続けている。

勝手知ったる宮殿の作りは、彼らがこの地を去った後も

まるで四海竜王の権勢を象徴するかのように不変を保ち続けていて

それは自分達の転変さかげんからすればどこか歪な感も

禁じえず、ヤ・シャは微かに口角を下げた。

「やっぱ、俺達も姫君の御元に行った方がよくないか?」

「・・・いや。奥方様を見つける方が先だ。

あちらにはゲイ・リーも竜泉殿もおられる。」

「・・・リーはいまさらだけど、あの海神の宮の御仁も

どっちかっつうと火に油を注ぐタイプだろう?」

「お前が行ったらなおさらだろうが。」

「・・・・」

ちらっとようやくその隻眼を向けてきた朋輩に

口の中でぶつぶつ返したヤ・シャは、

次第に強くなっていく振動に思わず背後を振り返った。と

瞬間の気配に、抜刀すると同時に半身をひねり

「おわっ、あっぶな。」

振り上げた剣先を寸前で止めて唐突に現れた同僚を

見上げると憮然と肩を落とした。

「ウェン、あんたさぁ・・・」

「・・・片腕を失って、勘まで鈍ったか。」

わざとらしい皮肉にちぇっとつま先で壁面を蹴ると

隠密行動を得意とする鋼色の竜に視線で先を促す。

「主塔の何れにもおられない。」

「・・・そっか。やっぱりな・・・」

「四方宮の何れかに託されたとは考えられんか?」

カァ・ウェンはツェンの問いかけに首を振る。

「竜王陛下ならいざ知らず、殿下の呪言から逃れられるものが

そうはいるとも思えん。俺の索敵にひっかかったのは

今のところ、例の諫議(かんぎ)だけだ。」

「・・・んじゃあさ。消去法で行くとあそこしかないじゃん。」

ヤ・シャの言葉に、鋼色の竜は視線をあげるとゆっくりと頷いた。

「確認はしていないが、おそらく。」

見交わした視線の色は同じ方向をさし

期せずして3柱の竜はその速さを競うように走り出した。

水晶宮の最下層のさらに下。

敖王家の中でも極一部のもの以外にはその存在さえも

知られずに、それ故、兵の手ならず王家の結界が

施された秘された場所。

かつて、兄竜王たちの手によって封印が施される

寸前に、生まれたばかりの主を救い出したその場所に。

幾重にも施されている結界を、蒙る反動をものともせず

かの時を再現するがごとき勢いで力技で突破してのけた武神たちは

水晶宮の基盤ともいうべき巨大な水晶の岩盤を前にして

しかし、目前の光景に息を飲むとなす術もなく立ち尽くした。

乳白色の光を放ち半透明に輝く巨石を透かして

幾重にも重なって映りだされるそれは紛れもなく。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

世界を拒絶するがごとく渦巻く風の中心に

銀色の髪をした幼い子どもが立っている。

雪の平原に差し込む曙光と見まごうほどに

煌く髪を白い炎のごとく靡かせつつ、

水晶に乱反射する周囲のことごとくを

碧く発する怒りに染め上げて。

 

ピキピキピキピキピキ・・・・

 

小さくそしてとてつもなく巨大な生き物が踏みしめる足元より

深淵を覗かんばかりの巨大な亀裂が広がっていく。

 

「ちっ。」

「怪我したくなければやめとくんだな。」

東海青龍王第一公子敖瑛(ごうえい)は

渦の中に飛び込もうとした一瞬前にぐいっと

掴まれた腕を振り払うと、気圧によって

舞い上がる髪を煩そうにはらいながら

秋津島のはるか東方の海を支配する

海神の神に仕える龍に鋭い視線を放った。

「甘く見るからだ。」

同じように長い髪を鬣のごとく舞い躍らせた竜泉が

嘲るような視線を投げつける。

互いに捻じ伏せんばかりの視線はしかし

火花を散らす寸前に、氷のごとく冷ややかな声に遮られた。

「東瑛太子。早々に手を打たれませ。」

「手を打つ、だと?」

「このままでは程なく主塔そのものが崩れ落ちましょう。」

方法はわかっておられるはず。

かつてこの水晶宮の頭脳とまでも言われた武神は

表情を消した瞳に、この騒ぎの一端をしめる首謀者を映す。

「・・・無理だな。」

今にも崩れ落ちそうなほどの災厄を抱えて

しかし、平然と立っている四海竜王の継嗣は

唇の端を嘲弄するがごとくあげた。

「は?」

「あれはすでに我の手を離れている。」

「どういうことです。」

さすがに顔色を変えたゲイ・リーに太子は無言で手を上げると

視線を右に流し暫しの間幼い龍王姫を見やった。

「・・・確かに、まるで赤子の癇癪だな。」

「わかっておられるなら、早く母殿下を。」

ゲイ・リーの切り込むような口調のことごとくを無視し

竜泉に向かい、今度は手を出すなとのダメ押しをした

東瑛太子は、徐に渦の中心に向って歩をすすめて行く。

瞬間、布の切れ端が空を舞い、かつて幼子の父が

受けた風の試しのごとき、風の刃が襲い掛かる。

切り裂かれることなど無頓着に、しかし

東映太子を名乗る龍は、歩をゆるめることさえもせずに

平然と幼い姫龍の元に赴くと、その足元に跪き、

アイスブルーの視線を捉えたのだった。

 

 

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レイちゃん、坊のように駄々こねています。

「おかあちゃ〜ん。どこ〜?」

って感じ?

・・・ほぼ1年ぶりの更新だというのになかなか話が進んでいきません。

それもこれも敖瑛君のせいです。

敖瑛君のばかあ。

ちっくそ〜、なんでたんなる悪役でいてくんないんだよ〜。

あんたなんて、あんたなんて、

そんなキャラにするはずじゃなかったのに。

おっかしいなあ。

これだけ男のオリキャラいるのに

自分的にヘタレな男が大好物のはずなのに

うちのサイトで唯一へタレなのが

主役のお兄さんだけってどういうことだ?

それにしても、はく様ってば水晶宮壊れる前に

いいかげん、奥さん助けてくんなきゃ困るんですけど。

 

(いや〜、予告していたとはいえ、

ほんとオリキャラしかでていないですね。

センチヒ話を期待されて、新規に

ご来訪いただいている皆さま

当分、お二人のいちゃこら話にはたどり着けないかと。

ほんと、申し訳ありません。)