100のお題・025.No Reason 

(千と千尋の神隠しより)

(拍手用小話13「時には、こんな日常」を

改題の上、加筆修正しました)

 

大きな窓から、午後の暖かい日差しが差し込んでくる。

この森の主は、そろそろ午後の執務に

取り掛かったころだろうか。

今まで千尋の周囲にいた眷属たちも、

それぞれの用をたしに出かけていて、

先ほどまでの賑やかな昼食の時間が

嘘のように静まり返っている部屋には、

どこかアンニュイな空気が流れているようだ。

窓の外は、早々に冬景色といった風情だが、

そんな庭を眺めるともなく見ながら

千尋はお気に入りのカウチソファーに座って、

怠惰な子猫のように、大きく伸びをした。

「なんか、こんなにのんびりしたの久しぶりね。」

ぐ〜んと伸びをした体をそのままポスッと横倒しにすると、

千尋はまぶしそうに目を細める。

「んと、今日はお茶のお客様はいないし、

リンさんがくれた和菓子があるし、

お菓子作りはしなくてもいいかな。」

「アトリエに行く前にちょっとだけ・・・」

そう呟くと、千尋は黒々と輝く瞳をゆっくりと閉じたのだった。

 

ああ、なんか暖かい・・・

なんか、とても、とても・・・

・・・まるで、はくに抱かれているみたいな・・・

 

胸の上に感じるかすかな重みと温かさを惜しみながら

千尋は、夢の世界から少しずつ浮かび上がってきた。

瞬きをしながら、自分の居場所を思い出した千尋は

狭いソファーの上で小さく身じろぎをする。

と、そこでやっと目が覚めたようで、

夢だと思っていた重みが

現実のものだったことに気づいた。

「はく!」

表の宮に行っていたはずの夫が

千尋の胸に頭を乗せて目を瞑っていたのだ。

一瞬寝ているのかと思ったが、膝たちをして、

体重をかけずに、上半身だけを千尋の上に

乗せているような姿勢で眠るなど

よほど器用でないと無理だろう。

「はく?どうしたの?」

千尋はそっと囁きながら琥珀主の

長く艶やかな髪を優しく撫で下ろす。

しばらくの沈黙の後、それに、答えるように

ゆっくりと瞼が開いていく。

「そなたの胸、どきどきしている。」

「え?」

「命の音だ・・・」

そういうと、まるで奇跡のように美しい若者は

その翡翠の輝きをもう一度閉ざした。

 

穏やかな午後の日差しが差し込む中、

千尋は微笑みながら胸の上の重みを抱きしめる。

そうして、ひんやりとした髪に

手を差し込んで、自身の命の

温もりを分け与えようというかのように

いつまでも、撫で続けたのだった。

 

 

おしまい

 

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別題・甘えん坊はく様、千尋さんに甘やかされているの図(なあんて)

 

以下、深読みをしてみようコーナー

 

仕事をサボりにきたらちーちゃんが

お昼ね中で、寂しかったのかも。

起こすにはあんまり幸せそうな顔で

寝ていたから思わずすりすり。

 

それとも・・・

千尋が、身じろぎもしないで寝ていたから、

生きているのか不安になったのか、な。

千尋は、あんたの神人なのに、

なんでこういつまでも失うことを恐れるのか。

はくの臆病さを知っている千尋は、

ついつい甘くなるのです・・・

 

 

と、いうか

ま、特に理由なんかないっつうのが

一番近いかもということで・・・