第4部第1章 おまけ話

妊娠中のちーちゃんをとりまく周囲のお話です。

(拍手小話22として公開済み)

 

「日々是好日・・・初夏の森編」

 

この森を支配する龍神の一の眷属の一人である

豊吾田津由良媛(とよあたつゆらひめ)は、

かつて標の森の司神(つかさがみ)であった

桜の樹神玉響姫尊(たまゆらひめのみこと)が

宙無の眠りについた折の残り香から誕生した、

双子の木霊のうちの一人である。

もう一人の木霊が早くから

性分化し男性体を取っていたのと対照的に

長い間木霊本来の姿である雌雄同体、

つまり中性体のままであった由良は、

10年ほど前のとある出来事を

きっかけに女性体として分化した。

そして、今では双子の兄であり夫でもある

豊吾田津玉尊(とよあたつたまのみこと)とともに、

この森の主である

龍神とその妻の忠実なる眷属として、

お役目を戴いているのだ。

 

「由良様だ。」

「由良さまあ。」

 

女主のために、森の奥にある

能郷原(のうごうはら)と呼ばれている場所に

急いでいた由良は、途中ブナの大木の下を

通りかかったとたん突然湧いて出た木霊たちに

わらわらと囲まれて足止めをくってしまった。

かつて自分もそうであったこの小さな木霊たちは

しかし、自分と夫とは異なり母なる木の絶対の

庇護の下でのんびりと時を過ごしていて、

すでにかなりの年月を小さな

白い影のような姿のままで存在している。

もっとも、下手をすると由良よりも

年上の木霊もいるかもしれないこの

ブナの木霊たちのほうが、

本来木霊としては自然の姿なのであろうが。

 

「由良様。森の姫様の具合はどう?」

「森の姫様は今どうされているの?」

「いつになったら遊びにきてくれる?」

大好きな森の女主人の姿を

見なくなってはや数年。

いくつもの季節を送るうちに

さすがにのんびりやの

木霊であってもじれじれしてきたらしく

口々に千尋の安否を確認してくる。

そんな木霊たちを見渡すと、

由良はにっこりと笑った。

「姫様は今日はお昼ね。お目覚めまでに

能郷原の森苺をつんでいかなくちゃ。

お前たちも手伝っておくれ。」

周りを囲んでいる木霊たちはいっせいに口を開く。

「姫様、お昼ね?」

「御胎の赤様、大きくなった?」

「うん。とてもお元気で、毎日

姫様の御胎の中で暴れていらっしゃるよ。」

由良の言葉に木霊たちは

合わせたようにに首を傾げる。

「姫様、かわいそう。」

「赤様、早くお外に出てくればいいのに。」

そんな木霊の幼い仕草に

由良は瞳を和ませると、

「時が来ればご降臨くださるよ。

それまでは、姫様も遠くへは

お歩きになれないから、

お好きな苺を取ってきて

さし上げなければね。」

さあ、手伝っておくれ。

そういうと、この森の木霊たちの

長というべき由良媛は、

小さな木の精たちを引き連れて

女主を喜ばせるべく森の奥の苺畑まで

出かけていったのであった。

 

 

おしまい

 

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拍手小話22「日々是好日・・・森の初夏編」

別題、「おっとびっくりな裏設定のお話」でした。

一年以上前に、掲示板bU7のコメントで木霊ちゃんの性別や

由良ちゃんの裏設定について書いてあったのですが、

ここに来てやっと由良ちゃんの性別公開です。

おまけに、由良ちゃんと玉ちゃんは

実はこんな関係になっていたりして。

由良が女の子になったきっかけや

玉の奥さんになった経過についてのお話は、

またいつかきっとそのうちたぶん・・・・

これも書きたいけれど時間がないよ〜

のお話になりそうな予感。

だったのですが、

5万HIT記念の脇キャラリクエストにて

形になるチャンスをいただきました。

玉ちゃん由良ちゃんについてのお話はこちらで読めます。