龍神シリーズ・小話集15

その手の中のぬくもりを 

 続きのお話

 

「でも、ラブレターのお返事って書きにくいのよね。」

相手が、好きな人ならともかく。

もっとも、南帆子ちゃんのお相手はまだ

字が書けないだけかもしれないけれど。

そんな事を言って笑っている千尋はいまだ、

その視線を便箋に向けている。

「千尋?」

「なあに?」

なので、先ほどから名前を呼ぶばかりだった

夫の雰囲気が変わったことに気が付かなかったのだ。

「千尋?」

「どうしたの、さっきから。」

やっと顔を上げた千尋は次の瞬間、手に持っていた

手紙を奪われた事に抗議の視線を向ける。と、

ようやく夫の様子がおかしい事に気付いた。

「千尋?」

オドロ線が入っているかのような表情と先ほどより低くうなる

ような声に少し体を引きながら、それでも返事をする。

「ど、どうしたの?はく?」

琥珀主は、千尋にずいっと迫るとあごに手を

かけて顔を固定してしまった。

「千尋。」

「は、はい。」

「千尋、そなたラブレターとやらをもらったことがあるのか?」

「えっ?」

ごまかしは許さないというかのような迫力の

琥珀主に千尋は一瞬ぽかんとしてしまう。

そうして、おかしそうに顔を綻ばせながら

「やだ、もらったといっても1回だけで、子どものときの話よ。」

笑いながらの言葉はしかし、琥珀主の気持ちを

和らげるまでにはいたらなかった。

「ふ〜ん?それはいつ?相手はどのような男?」

思ったよりシリアスな夫に小さく瞬きをした千尋は

とまどいながら小声で言う。

「えっと、内緒にしていい?」

「話せないの?」

はらはらしながら様子を見ていた由良はのちにその瞬間、

気温が3度くらい下がったようだった、と語る。

「あの、はく。あご痛い。」

いまだ、事態を把握していない千尋がそんなことを言った

次の瞬間、琥珀主は噛み付くかのような勢いで唇を奪う。

そうして、息苦しさにもがいている千尋を唇を離さないまま

抱き上げるとそのまま、寝室に連れ込んでしまった。

はあ。

やっと唇を外した千尋は荒く息をしながら涙目で抗議をした。

が、しょせん無駄な抵抗なのは夫の瞳をみればわかりそうなもの。

「話したくないのなら、話したくなるようにしてあげようか。」

「え、あ、待って。話すってば。」

慌てて言ってはみたもののすでに遅くて・・・

千尋は龍神の嫉妬深さというものを、あらためて

いやというほど味わうことになったのだった。

 

のちにラブレターといっても小学生の頃に近所の

幼稚園の子からもらったかわいらしいものだったという

真相がわかり、平身低頭の龍神が千尋に許してもらえるまで、

纏わりついていっそう怒らせてしまった、とか。

 

ちゃんちゃん

 

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このほかにも、初恋の相手云々で

大騒ぎしたことがあるらしいです。

ちーちゃん、お子様のお相手ご苦労様。