龍神シリーズ小話集

15、その手の中のぬくもりを

くすくすくす・・・

楽しげな笑い声に顔をあげると、千尋はどこから届いたのか、白い便箋を

手にしていた。楽しそうで、そうして優しさに満ちたその笑みに見とれている

白と翡翠を併せ持つ龍神に気付かないまま、妻である千尋はその文に夢中になっているようだ。

と、視線を感じたのか、千尋がふと顔をあげる。日の光を受け輝いている髪がさらりと

零れる様にも目を奪われながら、琥珀主は千尋に目線で問うた。そんなはくの

もの問いたげな様子にも笑みを誘われたのか千尋はくすりと笑みを溢れさせると夫に応える。

「南帆子ちゃんからのお便りをリンさんが届けてくれたの。かわいいったらないのよ。

ついこの前、生まれたばかりだと思っていたのに、もう、お手紙が書けるんですもの。

子どもの成長って早いのね。」

「・・・・ああ、リンの守屋敷(もりやしき)の娘、だったね。」

「そうよ、信也君と沙良さんの子。もうすぐ、小学生になるのですって。」

この2人の血筋であるせいか、信也と沙良の長女として生まれたその子も、

屋敷守たるリンの姿を見ることができる程度の能力を受け継いでいるらしい。

リンの社の行く末も、まあしばらくは安泰だといえよう。

「沙良さんはこの年にはもう、信也君が許婚として決まっていたでしょう。なので、リンさんが

お相手を探してやるって言っているのに、もう好きな人がいるのですって。

どうやら、ラブレターを書いてわたしたらしいの。」

お返事が来ないって悩んでいるんですって。

そういうと、かわいくておかしくて仕方がないというようにくすくす笑う。

龍神は手の中の手紙に慈しみ溢れた視線を落している妻をしばし見つめる。

「千尋。」

「なあに?」

「・・・いや。なんでもない。」

そなた、子が欲しい?

心のうちにかなり前から浮かんでいた問いを今日も口にしないまま、

独占欲の塊の龍神は小さくため息をつくのであった。

 

おしまい

 

 

 

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その手の中のぬくもりを独り占めしていたいってか。

男ってば。つうか、はくってば。

あんた、いいかげん大人になれよ。

リンさん、こいつ、一喝してやって。

 

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