極軸望遠鏡に頼らない極軸調整(その3)

●ガイドしながら追い込む方法の問題点

 極軸を毎回「ガイドしながら追い込んで合わせる」という方法は、正確に合わせられる反面、時間がかかって効率が悪いという欠点があります。設営と撤収を繰り返す場合、毎回、どの程度追い込めていて、どの程度の品質が保てているのかが不明のため、撮影時の歩留まりがどうしても安定しません。

 撮影時の失敗する確率が高いとなると、やる気が失せてしまう原因になります。

 そこで、再セッティングを行った時に、前回の設定を維持したまま再現する方法を考えます。セッティングが正確に再現できれば、再調整は不要です。
 追い込みが不十分でも、後日その設定のまま再現するので日を改めて追い込みの続きができます。

 入門編としてはやや高度な内容になりますが、最終的には組み立てるだけで正確に極軸が出せるはずなので、最終的に楽をするためにちょっと掘り下げて考えます。


2007/12/19
●三脚の位置をマークしておく


 最もオーソドックスな再現方法は、「三脚の位置を地面にマークしておく」という方法です。
 設置場所はいつも同じ場所のはず(移動できるなら北極星の見える場所に移動しましょう。極軸望遠鏡を使えば一発で合わせられます。)なので、三脚の位置を固定してしまいます。

 ところで、この方法による再現精度はどの程度なのでしょうか?
 計算してみましょう。


2007/12/09
●三脚設置時のずれの大きさの計算

 三脚の石突と石突の間隔は約80cm。(ポラリス赤道儀の場合:三脚の長さ/開き角は変更してあるのですが、一般的に言ってもそんな所でしょうか。)
 いずれか1つの石突を正確に配置し、残り2本の三脚設置位置が所定の場所からどの程度ずれるとどの程度の誤差が生じるかを計算してみます。

 ここでは西側の石突を原点に取って、石突と石突の間隔を半径にしたおうぎ形を考えます。


半径r、扇形の中心角をθとすると、弧の長さ l は
l = r θ
ただし、θはラジアン。

角度の1度は、ラジアンにするとπ/180=0.01744
よって、角度の1度は三脚位置換算で
800mm×0.01744rad=13.95mm
のズレ。約14mm。

 14mmを1/60にすると、1分角あたりのズレになります。ちなみに1分角のズレは、三脚の位置換算で約0.23mm。シャープペンシルの芯の太さの1/2。

 眼視で見るだけなら北極星の位置を天の北極と仮定する程度で充分と言われますが、その場合の精度はおよそ±1度になるので、三脚の位置換算で±28mm。この程度なら地面にマークしておくだけでも余裕で再現可能です。

 一方、極軸望遠鏡を使った場合の据付精度は3分(SXDやアトラクスの場合の公称値)だそうで。
±1.5分として三脚の位置換算で±0.34mm。これは無理に近いです。

 撤収後、再設置したと仮定すると、どうしても5mm程度はズレそうです。
 10分角で2.33mmなので、±10分程度の再現精度という感じでしょうか。

 「±10分程度の再現精度」が写真撮影でどの程度の影響量になるのかは不明ですが、この程度が現実的に再現可能な精度の限度でしょう。


2007/12/11
●赤道儀の設置時のずれ

 一般に、運搬時には、赤道儀と三脚部分を分離します。
 だから、北極星が見えない場合(ベランダに設置する場合など)では分離してもう一度取り付ける時の再現精度が問題になります。

 方位調整ネジをどのぐらい回すと何度動くのかを知っておいて損はないでしょう。

 Newポラリス赤道儀の方位調整は、ダブルスクリュー式(ボルトを対向させて、両方から押し合う方式。)です。
 ちなみに、この画像の赤道儀本体は無印ポラリス赤道儀ですが、三脚台座部分はNewポラリス仕様にしてあります。

 その後に登場する、SP(SP-DX),GP(GPD,GP2,GPD2),SX(SXD),アトラクス等の後継赤道儀は同様の方式になっています。(取り付け位置やネジピッチは違いますが。)


中心からネジまで(半径)=50mm
ネジピッチ12.5mm/10山(=ネジピッチ1.25mm)
(あまり関係ないですが)調整幅=31.5mm、コマ厚=10.5mm

 という事で、ネジ一回転でおよそ1.43度、60倍して85分。
 10分前後という精度で合わせる場合の許容誤差は、およそ1/8回転以下になります。

 赤道儀の設定を再現する方法として、「ネジの一方を固定しておいて、もう一方だけゆるめて外し、再度取り付ける時は、ゆるめておいた方だけを締めて固定する」というのがありますが、この場合、固定する側のネジの「ゆるみ」の許容範囲は1/8回転以下という事ですね。


2007/12/11
●赤道儀の取り付け角度を知る

 三脚台座上の赤道儀の角度を10分以下の精度で再現するには、目盛りを振ってしまうのが一番です。

 Newポラリス赤道儀は方位ネジがそのまま見えてますが、ネジが見えると機構的に難しく見えてしまう事や、指を挟むなどの危険性もあることから、Superポラリス系ではカバーが付いてほとんど見えず、最近のSX系はネジ部分が完全に内蔵されてしまっています。

 SXD赤道儀を底から見た画像です。下側が北になります。
 下にあるダブルスクリューのボルトが方位調整用のネジです。(ネジピッチはNewポラリスやSuperポラリス系よりも細かいです。横にある真鍮のネジは高度調整ネジ。)
 ネジ部分が内蔵されて、ネジ山が外から見えない構造なので、調整後にロック用のナットを付けるのも困難です。現状では「一方を固定しておく」のは、難しくなってきています。

 ただ、目盛りを振る場合でも、10分という角度の目盛りの刻みは非常に細かくなってしまいます。

 半径50mmの円の円周の長さは314mm。1度という角度はこれの1/360ですので、1度の幅は、およそ1mm。10分という角度はそのさらに1/6ですから、目盛りの幅は、0.2mmよりも細かくなります。
 これでは直接読み取るのも困難なので、ノギスのように副尺を付けて読む事になります。

 目盛りそのものは10分以下の精度を維持して再現するのが目的なので、10分まで読める角度目盛りでも良いですし、0.1mm(5分相当)まで読める円周上の長さ目盛りでも構いません。


2007/12/11
●目盛りの印刷

 現在ではインクジェットプリンタという文明の利器があるので、それで印刷すればかなり正確な目盛りを作る事ができます。


 目盛りを印刷するプログラムを作って印刷します。

 「皆さん作ってください」では無責任なので、こちらのダウンロードのページからダウンロードしてください。ミリメートル単位、0.1mm読みの副尺付きの目盛り印刷プログラムです。


2007/12/19
●目盛りの貼り付け


 目盛りを印刷して、赤道儀本体と三脚の台座に貼ります。


この例だと、7.6mmを示しています。0.1mmレベル(角度の5分相当)まで充分読めますね。
 撤収するときに目盛りを読んでおけば、再設置のとき、その目盛りに合わせれば5分程度の精度できちんと復元できます。(たぶん)

 ちなみに、SXDの方位調整範囲は実測±9mm。


2007/12/19

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