前回、ギターコードの話をしたように見せかけておいて、実はギターの話はほとんど出さなかった。 そもそも、コードとは和音の事であって、使う楽器は問わない。 だから「コードとは何か」という事については、純粋に音の組み合わせについて語る事になる。 同じCのコードであれば、ギターだろうがピアノだろうが、ドミソ(C,E,G)の3種類の音が鳴っている事に違いは無い。 ギターのコード、ピアノのコードというのは、それを鳴らすためにどのように押さえるかの違いでしかない。 とは言っても、ギターでコードを弾く以上は、もう少しギター寄りのコードの話があってもいいんじゃないか、という事で、もう少しギター寄りのコードの話をしてみる。 |
ギターのコードが、実際どんな音が鳴っていて、どんな構造になっているかを調べてみることにしよう。 本来、この辺の解析は、初心者自身がコードを理解する時点でやるべき宿題であり、分析していく中で「あー、なるほどそういう事か」と気づいてほしい内容である。 だから、こんな事を公開するのは躊躇するところだが、意外にコードを形でしか覚えていない例も少なくない。 特に顕著なのがアコギの初心者で、アコギではカポタストを使う事が多いため、たとえば「Amは、こう押さえるもの」という形で覚えてしまう。2カポでAmの形で弾いた時の実際のコードはBmなのだが、Bmを弾いているという自覚がなく、あくまでも「2カポでAm」という感覚でいる例も少なくない。 コードというのは、押さえ方の形の名前ではなく、鳴っている音の響きそのものの名前である。 |
まず、最初に覚えたであろう、C,Dm,Em,F,G,Amの6個と、関連しそうなコードの構造を見てみることにする。 最初はC(Cメジャートライアド)の構造である。 メジャートライアドは、ルート+長3度+完全5度という構造のコードである。 ルート音をCとすると、C(Cメジャー)という名前のコードになる。
C
Cは、おそらく初心者が最初に押さえるコードなのだが、「6弦はミュートする(弾かない)こと」と言う教則本がある一方で、「6弦は弾いてもかまわないよ」と友人が言ってみたり、はたまた別の教則本では「6弦は3フレットを押さえなさい」などと書いてあって、「どれが正しいのだろうか?」という疑問に悩んでしまうコードでもある。原則論で言えば、ルート音は最低音でなければならないため、5弦3フレットのCが最低音であることが望ましい。このことから、「6弦はミュートする」というのが原則論として一番正しい。しかし、6弦開放がE、6弦3フレットがGなので、いずれもCのコードの構成音である。だから、6弦を弾いたからと言ってCのコードである事に違いは無い。「6弦は弾かないのが原則だが、弾いても別にかまわない」という事になる。 通常、ミュートする弦には「×」を書くが、ここでは「どっちでもいい」弦に対しては△を書いておくことにする。 次にDm(Dマイナー)である。 マイナートライアドは、ルート+短3度+完全5度という構造のコードである。メジャートライアドの3度の音が半音下がったものがマイナートライアドだ。 ルート音をDとすると、Dm(Dマイナー)という名前のコードになる。
Dm
今度もミュートする弦のあるコードなのだが、このコードでは6弦を弾いてはいけない。なぜなら、6弦開放はE音なので、コード構成音ではないからだ。一方、5弦開放はAで、コード構成音なので、これは鳴ってもかまわない。これはCのコードの6弦と同様の理由である。 また、音の配列を見ていただくとわかるが、このコードは低い方からルート→3度→5度という順にきれいに並んでいない。 「音楽理論では1オクターブ違いの音は同じ音」という事を思い出してほしい。コードは何も順番にルート→3度→5度(→7度)の順で並ばなければならないというものではない。 コードはとにかく、所定の音さえ鳴っていればいいのだ。 さて、音の配置をよく見ると、1弦が3度(短三度)になっている。つまり、ここを1フレットずらして半音高くすると、Dのコードになる。
↓Dmの短3度を半音上げて長3度にするとDになる。
D
ギターは最大6重和音を出せるが、コード弾きでの実態は「メジャーかマイナーかを決定づける3度の音が弦1本しかない」という事も珍しくない。だから、その弦の位置を1フレットずらすだけで、メジャーコード/マイナーコードの切り替えができてしまう。「そんなもんなの?」と思ってしまいがちだが、そんなもんである。 続いてEm(Eマイナー)である。
Em
指2本で押さえられ、どこもミュートしなくて良いので、簡単に弾けるコードだ。このコードも、基本的にルートと5度の繰り返しになっていて、3弦だけが3度という「順番バラバラのコード」である。 ここまで来ればわかるように、ギターの多くのコードは、音が順番に並ばないため「転回形」というものがない。 Dmと同様、3度の音を出す弦が1本だけなので、3弦を半音(1フレット)高い方にずらす(というか、指を足す)と、Eコード(Eメジャートライアド)になる。
↓Emの短3度を半音上げて長3度にするとEになる。
E
初心者最大の難関Fである。
F
人差し指で全弦を押さえるスタイルなので非常に弾きにくいコードだが、これが押さえられると応用範囲がずっと広くなるという便利なコードでもあるので、絶対に避けては通れないコードである。Fコードでよく言われる事だが、Fのコード全体を1フレット高い方にずらすと、F#というコードになる。
F# もう1フレットずらすと、Gのコードになる。
G(ハイコード)
さらに1フレットずらせば、G#になり、以下1フレットずらすたびにA,A#,B,C…となっていく。そもそもコード名は、ルートとなる基準音と、その音に対してどれだけずれた音を重ねたかで決まるものなので、全体が半音上がると、コードのルート名だけが変わって、後ろの「マイナー」とか「セブンス」の部分は変化しない。 すなわち、Fコードの音を全部半音上げるとF#コードになり、さらに半音上げるとGのコードになる…という、単純明快な原理であらゆるメジャートライアドが作れてしまう。 加えて、このコードは、音の間隔がそのままEコードと同じだという事に着目してほしい。 言うなれば、Fの0フレットバレーの形がEである。 Eコードと同様、M3である3弦を半音下げる(指を離す)と、Fmになる。
↓Fの長3度を半音下げて短3度にするとFmになる。
Fm
Gは、どちらかと言えば、どの指で押さえるかで悩むコードである。
G
ここまで来ると、音の構成については今更述べる事は特に無い。Gは、装飾的な意味でG7に進行する(逆に、G7→Gと進行することもある)事が割と多いため、Gは人差し指を遊ばせておくような押さえ方が良いとされる。
↓Gメジャートライアドの一部の弦を短7度に変更するとG7になる。
G7
G→G7という進行では、小指を離して、人差し指で1弦を押さえる事で、最小限の移動でコードチェンジができるというメリットがある。ただし、必ずしもG→G7という進行が多い訳でもないので、個人的には押さえやすい押さえ方で充分ではないかと思っている。 最後にAm(Aマイナー)である。
Am
6弦についてはミュートする指定のある事はあまりないが、「弾いても弾かなくてもどちらでも良い」弦である。アルペジオで親指で太い弦を弾く場合は、5弦を弾いた方が良い。 このコードも、2弦だけが3度というコードなので、この音を半音高くすると、Aコードになる。
↓Amの短3度を半音上げて長3度にするとAになる。
A
そして、FとEの関係と同様、Aコードをバレーコード化して1フレットずらすとA#に、
A#
さらに1フレットずらすとBになる。
B
…という具合に、C,Dm,Em,F,G,Amと、そこから派生するいくつかのコードを見てきたが、メジャートライアドと、マイナートライアドのパターンがなんとなく見えてきたと思う。 トライアドは、基本的には、F(Fm)かB(Bm)さえ弾ければどうにかなる。もちろん、C、D(Dm)、Gをバレーコード化して発展させても良いが、よほどハイフレットで弾かない限り、弾けたものではない。 |
次はセブンスになるが、その前にメジャートライアドのコードを整理してみよう。 Aの0フレットバレー…A Aの1フレットバレー…A#(またはB♭) Aの2フレットバレー…B Aの3フレットバレー…C Aの4フレットバレー…C#(またはD♭) Aの5フレットバレー…D Aの6フレットバレー…D#(またはE♭) (以下略) Eの0フレットバレー…E Eの1フレットバレー…F Eの2フレットバレー…F#(またはG♭) Eの3フレットバレー…G Eの4フレットバレー…G#(またはA♭) Eの5フレットバレー…A Eの6フレットバレー…A#(またはB♭) (以下略) Dの0フレットバレー…D Dの1フレットバレー…D#(またはE♭)(実際はバレーしない) Dの2フレットバレー…E(実際はバレーしない) Dの3フレットバレー…F(またはG♭)(実際はバレーしない) (以下略) C…Cローコードのみ。 Cのバレーコード形式もあるが、押さえられたものではない。
C#(弾けるかっ!)
G…Gローコードのみ。 Gのバレーコード形式もあるが、押さえられたものではない。
G#(鳴らせるものなら鳴らしてみろ)
基本的には、A、E、Dの3コードと、そのバレーコード変形でどうにかなる。 マイナーコードも、一部の例外はあるが、基本的に上記に準じる。 |
続いてセブンスである。トライアド(三和音)と、四和音の代表であるセブンスまでわかれば、曲に出てくるコードの7-8割はカバーできることになる。 ギターコードとしては、セブンスも基本的には、A、E、Dの3コードと、そのバレーコード変形でどうにかなる。 セブンスは、4和音になるので、トライアドの一部の音をセブンスに置き換える事になる。 具体的なギターコードに入る前に、理論としてのセブンスのコード構造を復習しよう。 3度の音が長3度でメジャー、短3度でマイナーになり、7度の音が短7度でセブンス(ドミナントセブンス)、長7度でメジャーセブンスになる。この組み合わせだ。 つまり、 ・メジャートライアドに短7度を追加するドミナントセブンス(C7など) ・メジャートライアドに長7度を追加するメジャーセブンス(CM7など) ・マイナートライアドに短7度を追加するマイナーセブンス(Cm7など) ・マイナートライアドに長7度を追加するマイナーメジャーセブンス(CmM7など) の計4種類ある。
前述のように、セブンス系はG→G7(G7→G)のように装飾的な使われ方も無い訳ではないが、独立したコードとして使われる事も多いため、トライアドと対比して覚えても仕方ない所があるが、参考のためとして、トライアドと比較してみよう。 |
Aコードを変形させる形式のセブンスコードでは、Aコードに対して3弦のルート音(のオクターブ違いの音)を1音(2フレット)下げて短7度を、または半音(1フレット)下げて長7度を形成する。 もちろん2弦のM3を半音下げることでマイナーコードになる。 AとA7
A
↓Aメジャートライアドの一部を短7度に変えると、A7になる。
A7
Am7
↓3度音が短3度、7度が短7度でマイナーセブンスコード。
Am7
AM7
↓3度の音が長3度、7度の音が長7度になると、メジャーセブンスコード。
AM7
AmM7
↓3度の音が長3度、7度の音が長7度になると、メジャーセブンスコード。
AmM7
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Aコード系をバレーコード形式にしたものがBコード系である。理屈は、A系と同じだ。
B
B7
Bm7
BM7
BmM7
※A#7、A#m7、A#M7、A#mM7(1フレットバレー) C7、Cm7、CM7、CmM7(3フレットバレー) C#7、C#m7、C#M7、C#mM7(4フレットバレー)は、このタイプのバレーコード。 |
セブンスの基本形にはもう1つ、E系のコードがある。こちらでは、Eコードに対して4弦のルート音(のオクターブ違いの音)を1音(2フレット)下げて短7度を、または半音(1フレット)を下げて長7度を形成する。 もちろん3弦のM3を半音下げることでマイナーコードになる。
E
E7
Em7
EM7
EmM7
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E系コードをバレーしたもの。
F
F7
Fm7
FM7
※F#7、F#m7、F#M7、F#mM7(2フレットバレー) G7、Gm7、GM7、GmM7(3フレットバレー) G#7、G#m7、G#M7、G#mM7(4フレットバレー)は、このタイプのバレーコード。 |
さらにD系もある。こちらでは、Dコードに対して2弦のルート音(のオクターブ違いの音)を1音(2フレット)下げて短7度を、または半音(1フレット)を下げて長7度を形成する。 もちろん1弦のM3を半音下げることでマイナーコードになる。
D
D7
Dm7
DM7
DmM7
もはやお約束の、バレーコードスタイルである。もちろん、D#m7は、Dm7の1フレットバレーコード形式にはなるのだが、D系のコードは5.6弦を特に弾かないため、4弦を押さえるのみでバレーしない形が一般的である。
例)D#m7
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Cメジャートライアドに短7度と長7度を追加したスタイルもある。
C
C7
C7では、3弦のP5の部分がm7に変化する。ローコードのC7には5度の音が無い。
CM7
CM7では、2弦のP8の部分がM7に変化する。一方、Cmは元々バレーコードの形しかないためAm7、AM7の3フレットバレー型になる。 |
セブンス番外編(2) GとG7は既出なので、今更改めて述べる事は無い。
G
G7
GM7も想像通り、1弦がフレット1つずれただけである。
GM7
これのバレーコード形式も無い訳ではないが、高いフレットか、よほど手が大きくないと難しい。ギターのコードは、理論(ピアノ)と違って、構成音の順番がバラバラだったり弾いても弾かなくても良い弦があったりで、おそらく「思ったよりはいい加減な」というイメージを持ったかもしれない。 逆に言えば、転回形を考えなくて良いので、ギターはピアノよりは作曲するときのコード進行を純粋に検討しやすい楽器でもある。 そこがギターの良い所でもある。 |