太陽観測用フィルタについて

●BAADER AstroSolarとは



 太陽観測用の、対物レンズの前方に置くタイプのシート状のフィルタです。

 これはA4サイズのもので、眼視用(1/10万に減光。D5相当)のもの。
 大口径用に、もっと面積の大きいものが何種類かあります。現在、白色光用としてこれを使ってます。撮影用フィルタ(1/6300に減光。D3.8相当)は、低感度フィルム用なので、デジタルカメラには使えません。

 このフィルタは、適切な大きさに切り、対物レンズを隙間なく完全にふさぐ形でセットします。少しでも隙間があると、そこからの光でコントラストが落ちたり、最悪の場合失明する可能性があるので隙間を作らないように慎重に工作する必要があります。



 これは、FS-102にセットした例。本来ならダンボールや厚紙で先端をふさぐキャップのようなものを作るのですが、私はフード内に埋め込む形式を採用しました。フィルタが付いていないように見える欠点はありますが(ノーフィルタで見ていると勘違いされやすい)、そのままレンズキャップを付けられる利点があります。


2006/10/08
●安全性は?

 太陽表面を直接観測する場合、強烈な光源を直接観測することになるので、フィルタの選定と取り扱いには細心の注意が必要です。適切な減光方法によって減光することはもちろん、もし、フィルタに不具合(ピンホール等)があるようでは失明の危険があるため、使用を中止しなければなりません。

 BAADER AstroSolarも、フィルタの取り扱い説明書にも「もし、ピンホールがあるようなら、廃棄すること」と注意書きがあります。
 

 ところが、実際に丸く切り抜いて見てみると随所にピンホールが…。(ただし、フィルタの減光率が半端でなく大きいので、夜中の真っ暗な部屋で、後ろから懐中電灯(しかもかなり強力な)を照らさないとわかりません。)

 ピンホールが1個や2個ならともかく、口径10cmの面積に対して12個という密度。おそらく、大半のピンホールは「製造工程上しかたないもので、心配するほどのものではない」のでしょうが、どの大きさが安全で、どの大きさが「致命的な欠陥」かは判断できません。

 ピンホールが全くない方が安全に決まっています。
 そこで、私は黒のアクリル絵の具をつまようじの先端につけて、ピンホールを完璧にふさいで使っています。


2006/08/18
●このフィルタを使う理由

 BAADER AstroSolarは太陽の直視観測に使える、現時点で唯一のフィルタだからです。その他のフィルタは、安全性の問題等がある場合があり、慎重に選択しなければなりません。


 PL法によって日本製太陽フィルタが絶滅してしまい、海外メーカーでも取り扱いをしている所が少なく、日本での入手しやすさを考えると、結果的にBAADER AstroSolarが太陽用フィルタとして使える唯一のフィルタとなってしまっています。


2009/07/14
●遮光基準

 太陽観察用のフィルタは安全である必要があるのですが、実は日本において『太陽を観察するための遮光器具に対する安全基準』というものがありません。このため、どの程度遮光されていれば安全なのかの判断がつきません。

 ちなみに、溶接用遮光眼鏡の遮光能力に対するJIS規格は存在します。正確な値は規格書を見ていただくとして、太陽観察に使えそうなレベルのもの(可視光域で10万分の1前後)の要求遮光度は、次のような感じの規格になっています。

遮光度番号12(やや危険)
紫外線(313nm、365nm)…50万分の1
可視光線…5万分の1(3万分の1〜8万分の1)
近赤外線(780nm〜1300nm)…3700分の1
中赤外線(1300nm〜2000nm)…1000分の1

遮光度番号13
紫外線…130万分の1
可視光線…13万分の1(8万分の1〜23万分の1)
近赤外線…7000分の1
中赤外線…1700分の1

遮光度番号14
紫外線…370万分の1
可視光線…37万分の1(23万分の1〜62万分の1)
近赤外線…1万4000分の1
中赤外線…2500分の1

遮光度番号15
紫外線…1000万分の1
可視光線…100万分の1(60万分の1〜1600万分の1)
近赤外線…3万分の1
中赤外線…5000分の1


 太陽光は、溶接時の光とはスペクトルが全く違うため、これをクリアしていれば太陽を見ても安全という訳ではありませんが、遮光度13をクリアする事は最低条件らしいので、参考まで。

 ちなみに2007年7月22日のトカラ列島での皆既日食向けにビクセンで作られた日食グラスは、
紫外線…300万分の1(#13クリア)
可視光線…250万分の1(160万分の1〜340万分の1)(#15クリア)
近赤外線…8000分の1(#13クリア)
中赤外線…3400分の1(#14クリア)
という特性だそうです。
だからと言って、安全だという保証も無いんですが。


2009/07/18
●紫外線対策

 太陽を直接見る事になるため、紫外線はカットしておくのが基本です。
 フィルタがどうであれ、対物レンズが古典的アクロマートなら、400nm近辺より短い紫外線はフリントガラス(凹レンズ)がカットするので心配いりません。
 カメラ用のUVフィルタ(厚さ1.5mm前後で、おそらく素材はフリントガラス)に比べ、対物レンズの凹レンズはかなり厚い(1.2cm前後)ので、ほぼ心配ないでしょう。
 心配ならば、カメラ用のフィルタL41(410nmより短い波長をカットする強UVフィルタ)を使うといいでしょう。ED/蛍石系屈折や、反射望遠鏡では紫外線も多く透過(鏡では反射)するので、紫外線は別途フィルタでカットしておいた方が無難です。
 ただ、紫外線は、フィルタで案外簡単にカットできます。


2006/06/29
●赤外線対策

 紫外線に比べ、カットが難しいのが赤外線です。
 赤外線は紫外線に比べて化学作用が小さいため、軽視されがちですが、多量に浴びると網膜などにやけどを起こす可能性があるので、(簡単にカットできる)紫外線よりもある意味厄介です。



 なお、赤外線が透過するかどうかは、赤外線リモコンの操作距離で測れます。

リモコンの信号(赤外線撮影)

 フィルタを通してテレビなどの機器をリモコン操作ができるような(赤外線をカットできない)フィルタは、絶対に使わないでください。(ヤケドします。)


2009/07/14
●太陽用フィルタのいろいろ

 さて、ここからは太陽を観察するためのフィルタとして、どんなものがあって、実際使って良いかどうかを検証してみましょう。

 太陽の表面を観察したり、日食の様子を肉眼で見るにはフィルタで適切に(約10万分の1にまで)減光しないといけません。

 ところが、日食などが起きるたびに、眼にトラブルを起こして眼科に駆け込む人が後を絶たないのだとか。

 可視光を約10万分の1に減光するのはもちろん、紫外線、赤外線も充分減光しないと眼にトラブルを起こしてしまうのです。


2009/07/14
●(メガネの)サングラス (×)

 「サングラス」と言うぐらいですから、太陽を見るにも適していそうな気がしますが、太陽を直接見るには透過率が高すぎます。
 市販されているサングラスで最も暗いタイプのサングラスの透過率でも25%程度。太陽を見るには10万分の1、つまり、0.001%まで透過率を下げなければいけません。透過率25%とか、10%といったレベルは、焼け石に水です。

 市販されているサングラスは、運転時の安全性(暗すぎて良く見えないという事態を防ぐ)という観点から、あまり濃すぎるものは作られていません。溶接など、さらに濃いフィルタが必要な場合は、別途専用の遮光メガネを使う必要があります。
 溶接においても、所定の遮光メガネを使わないと(メガネのサングラスでは)危険です。


 なお、赤外線に対しての透過率はサングラス自体の暗さに関係なく90%近くあります。

 余談ですが、UVカットの付いていないサングラスの場合、サングラスを通して見るとそれ自体が暗く感じるので瞳孔が開くのですが、紫外線や赤外線が減光されていないために、紫外線や赤外線をかえって多量に浴びて危険だとも指摘されています。


2009/07/18
●下敷き (×)

 ま、小学生の太陽観測の定番アイテムですね。
 なまじ太陽がきれいに見えてしまうために、「これでいいじゃん」とか思ってしまいます。

 下敷きは、フィルタ形式で言えば色素系フィルタです。色素系フィルタは赤外線で見ると無色透明です。減光しないで見ているのと何ら変わりません。(むしろ瞳孔が開くだけ危険です。)

 試しに、テレビなどのリモコンを下敷きでさえぎってみてください。
 (純粋なプラスチック製のタイプ:紙などを挟んでいないタイプでは)全く影響なくリモコンが操作できるはずです。

 ※黒い下敷きの中にも、光を全く通さないものもあります。

 下敷きを通した観察は、まず、間違いなく網膜を火傷します。
 絶対に下敷きで太陽は見ないでください。

【赤外線リモコン操作実験】
 下敷き=2m以内で操作可


2009/07/18
●(カメラ用)NDフィルタ (△)

 正確に10万分の1に減光するには、カメラ用NDフィルタが最適です。
 ということで、ND400+ND400という組み合わせにすると、露出倍数が16万倍になります。実際は、これではちょっと暗すぎるので、ND400+ND8+ND8で、露出倍数2万5600倍ぐらいにして、シャッタースピードをずっと早くして撮影します。

 ただ、NDフィルタも撮影用なので、眼視用に使うのは危険です。
 NDフィルタも、赤外線は通してしまうためです。
 一眼レフなどの光学ファインダー形式のカメラでの撮影に使用するのは控えた方が良いでしょう。太陽を導入する時点で、眼を痛める可能性があります。

【赤外線リモコン操作実験】
 ND8=操作可(3m以上可)
 ND400=1.5m以内で操作可

ND400(赤外線撮影)


ND400+ND8(赤外線撮影)



2009/06/29
●PO-1フィルタ (×)

 これは、白黒フィルム用の緑色フィルタで、減光用フィルタではありません。
 PO-1フィルタは緑色のフィルタ、すなわち、青色および赤色をカットしてしまいます。カメラ用フィルタのうち、赤色をカットできる、数少ないフィルタです。
 ということで、赤外線もカットされるのではないかと期待されるフィルタです。

 ところが、リモコンで実験してみると、赤外線に対してはあまり強い減光効果はなく、単独では赤外線カットフィルタとしては不十分(別途赤外線カットフィルタが必要)という結果でした。

 ND400 + ND8 + PO-1 でギリギリ赤外線を安全レベルまで抑え込めるかどうか、という感じです。


【赤外線リモコン操作実験】
 PO-1=2m以内で操作可
 ND400 + PO-1 =50cm以内で操作可

ND400+ND8+PO(赤外線撮影)

 横に写っている6個の明るいものは、Webカメラの赤外線LEDの光。フィルタ中央のぼんやりした白いものがリモコンの赤外線光。


2009/06/30
●偏光フィルタを直交させる (×)

 偏光フィルタを直交させると、光を全く通しません。
 ただし、光を全く通さないというのは原理的な話で、実際はほんのわずかに光を透過します。
 これを太陽用フィルタに使おうというアイデアです。
 露出倍数的には1万倍ぐらいになるでしょうか?

 ところが、カメラ用等に売られている偏光フィルタは、赤外線はほぼ素通しします。

【赤外線リモコン操作実験】
 PL+PL(直交)=操作可(3m以上可)

PLフィルタ直交(赤外線撮影)



2009/07/02
●フィルムの黒い部分 (×)

 昔、フィルムの黒い部分を使うと良いとは言われていましたが、銀を使った白黒フィルムに限った話。
 カラーフィルムは色素が使われているため、完璧にアウトです。
 赤外線カメラを通して見たことがありましたが、カラーフィルムは全く写りませんでした。(つまり、透明に見える。)

 一応、白黒フィルムはOKということになっていますが、色素系のものもあるらしく、素人判断は禁物。そういった意味で、使わない方が無難、という判断をせざるを得ません。

 いや、そもそもネガフィルムすら最近見なくなりつつありますね。

カラーネガフィルム(赤外線撮影)



2009/06/29
●ろうそくの煤(スス) (×)

 太陽を見る方法の定番の一つ。
 ろうそくでガラスをあぶってススをつけて、それを通して見る、というもの。

 『今ではろうそくの品質が向上してしまい、なかなかススが付かない』と言われていますが、意外に簡単に作れました。



 で、赤外線の透過の様子ですが、


 赤外線は結構多く通すらしく、フィルタとしてはあまり良くないようです。
 「安全に観察できる濃度」というのがあるのかもしれませんが、これは言い伝えできないので、ガラスにススをつけたものでの観察はやめましょう。


2009/07/14
●日食用メガネ(日食グラス) (△)

 2009年7月22日の日食に合わせて発売された、太陽観察専用メガネです。
 肉眼による直視観測専用で、双眼鏡や望遠鏡は併用できません。

 PL法によってメーカーとしてのフィルタの責任がとれなくなった事から、太陽を直視観察するフィルタが、日食観測用も含めて販売されなくなってしまいました。
 しかし、日本で四十数年ぶりとなる皆既日食(皆既帯以外は部分日食)となったため、安全基準をクリアするように開発されたもの。

 安全基準としてJISの溶接用フィルタ#13以上という基準は満たしています。

 日食が終わってからは、入手がずっと困難になると予想されます。


 販売価格は1,500円ほど。

ビクセン日食グラス(赤外線撮影)



2009/07/17
●BAADER AstroSolar


BAADER AstroSolar(赤外線撮影)

【赤外線リモコン操作実験】
 BAADER AstroSolar…操作不可(10cm以内)


2009/07/02
●(望遠鏡用の)サングラス (○)

 PL法施行により消滅したアイテムです。太陽観測は、下手をすると半永久的な障害を残しかねない事故を起こす可能性があり、その責任を製造メーカーが負えないという事らしいです。

 おそらく望遠鏡用のサングラスは溶接用遮光グラスを流用して作られたと思われます。ですから、紫外線や赤外線に対する防護自体は充分のようです。

 しかし、サングラスは、接眼レンズの前に取り付けるため、対物レンズで集光された猛烈な光が当たり、耐熱の都合上、口径は6cm程度までしか耐えられません。
 絞らない場合、口径10cmでは約5分、口径15cmでは1分半で破損します。(それぞれ2〜3回割って計測しました。)
 6cm程度でも大丈夫とも言えませんし、割れてしまうと望遠鏡で集光された光が眼を直撃するため、非常に危険です。
 口径を絞っていても、かなり加熱されてしまうため、長期的には加熱←→冷却を繰り返す事になり、いつ破損するかわからないというリスクもあります。

 透過特性上の安全性の問題ではなく、熱での破損の危険という観点で発売中止になったと思われます。
 眼で直接見るためのフィルタとしては安全だと思いますが…。


2009/07/18
●(望遠鏡用の)サンプリズム用サングラス (○)

 これもPL法施行により消滅したアイテムです。
 サンプリズムという、ガラスの表面反射だけで反射させるタイプの天頂ミラーと、その光をさらに減光するための専用フィルタのセットです。

 サンプリズムで太陽光のエネルギーの96%を逃がしてしまうため、比較的大きな口径(8cm程度)でも口径を絞らずに使えます。倍率を低くする場合、サンプリズム用ではなく、普通のサングラスで減光した方が良いかもしれませんが、もはや入手困難なので、このアドバイスは無駄でしたね。

【赤外線リモコン操作実験】
 サンプリズム用サングラス…操作不可(10cm以内)

サンプリズム用サングラス(赤外線撮影)。リモコンを押しているが、赤外線は完全に遮断されている。

 


2009/07/17
●ガラスの表面反射 (4回なら○)

 ガラスの表面で反射した太陽光は、入射光の4〜5%(25分の1〜20分の1)に減光されます。
 1回の反射だけでは不十分なので、この表面反射を何度も繰り返して、どんどん減光させていきます。1面4%として3回反射で1万5000分の1、4回反射させると、約40万分の1になります。太陽を観察するには10万分の1あれば良いので、3回反射+ND8か、4回反射+数倍の望遠鏡という構成が可能です。

 ガラスの表面反射は、基本的に全波長でほぼ同等の反射率があることと、厳密に言えば波長が長くなるほど屈折率が下がる関係で、赤外線については可視光以下に減光させることが可能になります。

 紫外線なら紫外線カットフィルタでカットすれば良く、赤外線も可視光レベル以下になっているので、特に対策は必要ありません。

 反射鏡を研磨しただけでメッキしない「無メッキ反射望遠鏡」に仕立てると、太陽観測に使える反射望遠鏡になります。あと3回の表面反射をどう組み込むかという問題をどうにかすれば、ですが。

 実際に無メッキ主鏡+無メッキ斜鏡+サンプリズム2回という望遠鏡で太陽を見ると、ややブルーがかった太陽像を見ることができます。青い光ほど強く反射するので、ブルーに見えるんですね。(太陽自体の実際の色は、ほんのりとアンバーです。青い光は、青空のために拡散してしまっているので、太陽像自体は、アンバーがかってます。)


2006/08/19
●ブリュースターサンプリズム (×)

 結論から言うと、ネタです。

(1)偏光フィルタを直交させると、(見かけ上)ほとんど光を通しません。可視光域に限れば、強烈な減光フィルタになります。(ただし、赤外線を透過するので、太陽フィルタに使えませんが。)

(2)サンプリズムという、ガラスの表面反射を使った減光方法があります。1回反射ではまだまだ強烈なので、フィルタ減光が必要ですが。

(3)ところで、実は、ガラスの表面反射は、特定の角度で反射させると、純粋な偏光で反射する性質があり、その角度を「ブリュースター角」といいます。

 つまり、ブリュースター角で直交するように配置すると、ガラス表面の2回反射だけで、強烈な減光フィルタになり得るんじゃないか、という推測が成り立ちます。


 で、実験してみたら、全く光を透過しませんでした。

 …色素系偏光フィルタよりも純度の高い偏光を直交させたら、そりゃ光を通しませんわな。(ちなみに、わずかでも角度がズレると、通常の2回の表面反射並みの強さになります。)
 


2006/08/19

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