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コメコイ4 第二章

第4話 慰めたくて -千代島 咲蘭歩編-

私には、今彼氏がいる。
名前は、柳 美琴。
名前からして見ると、女の子のような名前だけど、一応男の子だ。
今日は、彼とのデートの日。
私は、ドキドキして眠れず、朝まで起きていてしまった。
寝坊よりもきつい。
けれど、眠気が、ドキドキで消える。
眠くはなかった。

そして、6時半ごろから用意をはじめ、余裕をもって、7時に出る。
家から学校まで、歩きで大体遅くて30分で着くくらいの距離。
けれど、今日は少々目的の彼が遅い。

「どうしたんだろ…」

と、一人教室でつぶやく。
回りの男子はうれしそうな表情を見せる…。
今この環境を、彼に見られたくはない。
彼を悲しませたくないからだ。

8時16分ごろ、私は心配になり、廊下へ出ると、一人こちらへ走ってくる人物がいた。
美琴だ。

「あっ、美琴っ遅かったね」

と、一言。

「それ以外に言うセリフ、ないんでしょうか…?」

と言って、彼の目はクリクリとまるで仔犬で言うチワワの目そっくり。

「まぁまぁ、そんなチワワみたいな目をしなさんなって、少し萌えてくるから」

実際、本当のことである。

「…まあともかくとして、今日ですよね?」

と、彼が言う。
アレ?確認のため?

「なぜに敬語?まあ、そうだね今日だよ、君が遅刻してきそうな雰囲気であったから彼女である私がここに来たわけだ、なんとも彼氏思いの彼女であろうか!…うぅ感動であるぞ!」

と、自画自賛する。
もちろん、少しはそう思う。

で、彼の瞳を見透かすように私は

「それで、その八方美人さんの彼氏である僕は、周囲から敵視されているのである。」

と、タイミング合わせて言う私。
うん、彼氏との以心伝心も夢じゃないね

「勝手に人のセリフとらないでくださいっ!」

と、腕をブンブンと大きく縦に振る仕草に私は笑う。

その後、川梛君のセリフによって、私たちのエンジョイタイムは終わった。

国語の時間、彼はつまらずか、寝てしまう傾向があり、それを見計らって、邪魔をする者が現れた。
多分私が真面目に授業を受けていると思っているのだろうけど、私は彼に没頭だ。
寝顔を一目見ようと、眼を細めて先生の目を盗んでそちらを見る。
すると、邪魔者は、なにもしていないとばかりに正位置に体形を戻す。

けれども、一瞬なので、見えるはずもない。
とりあえず、邪魔者から彼の安眠を守るのが、この時間の役目と感じた。

その国語の時間が終わると、なんとも幸福なご褒美がまっていた。
見たかった彼の寝顔だ。

「…くぅ…くぅ…」

可愛らしい寝顔をみていると、多少あってはならぬ衝動が襲うときがある。
ほんとにとても…

「美琴の寝顔…かぁいい…」

「かぁいい…寝顔…ずっと見てたいなぁ…」

だが、彼は二度目の私の声に体をビクっと震えさせるとはっ!と言って、上半身を起こす。

「あぁ、ざんねぇ〜ん、もう少し見たかったなぁ〜美琴の寝顔〜」

と、冗談でもないことを言うと、相手は冗談だろ、と言わんばかりの顔をする。
…あ、そういえば

「ああそうそう、これどうぞ」

渡したのは、一冊のノート。
彼は、国語の時間(以下つまらない授業)はほぼ寝ている。
だから私は、彼の分のノートも書いてあげている。
…、まあ家に帰ると真っ先に美琴コレクションとして、美琴のノートと同じノートを摩り替え、集めていたりもする…。
というのは、関係ない。

そんなことを心のどこかで言っていると、彼が

「いつもごめんな、二倍の授業内容をまとめるなんて…」

そう彼が言う。
いや、いいですよ?その代りそのノートは、‘私の‘ノートなんで、‘好きに‘つかってください。
なんて言葉を思いついたが、

「いいの、いいの、私もいいものを見れたんだし」

そう彼には返した。
…でも、私が彼にここまでするのは…彼が好きだから だけではない。
彼が私を助けてくれた。
これの恩返しがしたかったのだ。

思えば、それは小学四年生の頃、本当に辛い現実があった。
両親の他界。
私にとって、いや年齢と呼ぶべきだろう。
その年齢にしては、とてもつらい現実であった。
死因は、事故死。
交通事故だ。
買い物の帰りに、私たち親子、 お父さん お母さん 私の三人は、仲良く車まで手をつないで横断歩道を歩いていた。
ごく稀に見るその光景。
…だが、次の瞬間、平穏な日常が、血の色に染まったのだ。


第5話 ‘彼‘

それは、信号無視をした一台のトラックが引き起こした。
私はそれに気がつかず、そのまま楽しく歩いていた。
が、一瞬でお父さんが気がついて、私を横断歩道の外、つまりは一般に人が普通に行きかう歩道。
自転車も時にそこを使うことがある。
そこへ抱きかかえて投げた。
私は、そのあと振り向いたが、そこに父母の姿はなかった…。
10、いや100mは引きずられ、血脂がそこらにつけられ、その先に、先ほどのトラックがあった。
壁に追突し、運転席がグチャグチャにつぶれていた。
…何、これ…
と、横断歩道、さっき父母と仲良く手をつないで…そう、さっきまで、ここで私は笑ってた…。
なんで!?どうして!?

私は走った。
どこまで?
そんなの、測れない。
とりあえず、トラックまで必死で走った。

そして、ようやくたどり着く。
だが…、その時、そのトラックの積んでいたものが、もしも荷物、家具なのであれば…。
ドーンッ!
大きな音と共に大きな光がトラックから放たれた。
これは、運命?
それとも、偶然?
トラックが突っ込んだのは、ましてやクリスマスにでもなれば、飾りが多いだろうというクリスマスツリーであった…。
トラックが積んでたのは、まぎれもなく石油。
つまり、石油タンクを積んでいたのだ。
その爆風に、私は転がり、1,2mあたり体を動かされた。
その時、ほぼ背中を上に向けていた体制であった。

多分、いや私はその時、こう叫んでいただろう…。

‘お父さん、お母さん…!!!‘

と…。

そして、さっきまで、お父さんたちは、こう言っただろう…。

‘メリークリスマス、咲‘

と…!!!

私は、悲しみ、苦しみ、そして怒った。
そして、たどり着いたのは…、やはり絶望であった。

私は必死に泣いた。
お父さん、お母さん!!!
と叫びながら。

この後、トラックの運転手は、奇跡的に生きていたらしい…。
が、爆風を諸に食らっていた背中は、焼きこげていた。
そして、父や母は、全身火傷、心肺停止、出血多量…いや、簡単に言おう、 死んでしまった。
いや、殺されたんだ。

トラックの運転手が信号無視をしたのは、飲酒運転であったことを、そのころまだ生きていたお祖母ちゃんに聞かされた。
憎んだ。
だが…父は…母は…戻ってきてくれなかった…。

学校も、冬休みが終わり、新学期が始まる頃には、また顔色が戻ってきた。
無論、両親の死の時の顔ではない。
心配無用。
こういい切りたかったからだ。
…けれど…、助けてほしい、気が付いてほしい、この悲しみを…と思った。

「咲〜先に行くね?」

「うん」

冬休みが終わって、今は春。
桜も満開から役目を終え、散りゆく桜に心を躍らせ、ワクワクした一年生が入ってくる時期…。
私はある一人の子に告白をされた。

「お…俺と、付き合ってください!」

初めての告白だった…。
だが、答えはNO。
彼は、私の ごめんなさい を聞くと、去って行った。
それを見送りながら、私は一つ、溜息を吐く。

「それが本当の気持ち?」

と、私の何を見てそう言ったのか、近くにあった少し高い桜の木に上って遊んでいたのか、その子は言う。

「何の…こと?」

「いや、元気最近ないな〜と思ってさ」

と、私の前まで、桜の木から下りて来る。
…、元気がない?

「え、そんなこと…」

「…嘘だね、それ」

と、彼は言う。
私の瞳を見透かすような鋭い言い方であった。
だが、それを聞いて、私は

「何も知らないくせに、勝手なことを言わないで!」

と、怒鳴ってしまう。
…、彼はそれを聞くと、首を横に振る。
だが、それに続けて私はさらに、

「と、言うか貴方(あんた)誰!?もしかして新種のストーカー!?さっきのも、盗み聞きしてたっての?」

「あ、そうだね、自己紹介…。僕は、柳 美琴…君と同じクラスなんだけど…知らない?」

柳…あ、たしか最近いじめの的になっているっていう…。

「いじめられっ子に、私の素性なんて、到底理解できないわ」

きつくそう言う私。
このときは、少し狂っていたのかも

「じゃあ、いじめられっ子の素性も理解できないだろうね」

と、軽く返す彼。
生意気な…

「じゃあ、言ってみなさいよ!私以上に今を不幸に生きているというのならね!!!」

私は、完全に頭に血が上っていた…。
今思えば、聞かなければよかったと後悔もしている…だって、彼は…

「いいよ」

なんて、最初は冗談染みた顔だったのが、急に真面目に変わっていた。
続けて

「両親は事故死」

私と同じ。
それだけ?
いいや、まだ残っているのだ・・・。
不幸すぎる、彼の素性が…。

「そして、その後僕は一人暮らしを始めたんだ、だからって、ちゃんとした家でもないけどね」

…彼が言うには、ダンボールハウスを、川岸に作ってあるらしく、よく荒らされているらしい。
私には、おばあちゃんやおじいちゃんがいる。
家もある。
じゃあ彼は?

「祖父ちゃんは、僕が働いた金でたばこや酒を、祖母ちゃんは、他界してしまった。それで、祖父ちゃんに金を集られている」

集られている?実の孫に金を集る御祖父ちゃんなど存在するはずもない…。
が、彼はこうも言った。

「祖父ちゃんは、僕が金のないことを知ると、ダンボールハウスにあるすべての道具をうっぱらって、それを金にする。」

おかしな話だ。

「そして、ない場合は、僕の帰りを待ち、帰るとすぐに川に投げ捨てられたよ、ダンボールハウスごとね。」

そもそも祖父ちゃんとはどのような人物なのか、と言われると、ちゃんとした家を持っている人。
そして、家に入れてはもらえない。
…。

「証拠として、僕の家にでも来る?」

その必要はないと、私は首を横に振った。
それはなぜか?
それは、彼が話している途中に見えた、深く刃物で切られ、バンソウコウでも貼っていてもおかしくない傷が、服の内側、つまり皮膚についているのが、見えたからだ。

軽傷?
いいや、重傷だ。
5,6cmいや服を脱げば、もっとひどい傷があるのだろう…。

「でも、学校に来るのは…」

「無許可…かな…先生にお願いしたら、祖父ちゃんに‘殺される‘し」

と、彼は平気で殺されると思っているのか?
答えるのならYesだ。
そして、彼はその場を去る…。

が、私は彼を止めた。

「やっぱり…見に行くよ」

そう言って、放課後、私は彼の真相を確かめに行くこととなった。


第6話 告白

(−−−成瀬川 橋下のダンボールハウス−−−)

「あっ!また壊されてる!!!」

と、彼は壊れ、汚れ、本当に住んでいるのか?と言えるほどボロボロな生地で作られたダンボールハウスを見てそう言う。

「…!」

私は、彼のダンボールハウスまで寄ると、すぐに気がついた。

借金とその書かれていた名前…これは…

「柳 三郎…僕の祖父ちゃんの名前…消されてるだろ?」

そうなのだ。
マジックのようなもので、柳 三郎 の三郎の部分が塗りつぶされ、孫の名前、美琴の名を書いて、そのあと…え…これって…

「今日…お前を…こ…殺しに行く・・・!!!???」

そうたしかにマジックで、濃く描かれている。

「…そうか…今週で僕も終わりか…」

と、トンネルの下、ダンボールハウスを組み終えた彼はそう言う…

「え…こ…これ…」

「見ての通りだよ…僕は今日、ここで殺される。多分ストレス解消でもされるんだろう、いや臓器かな」

「ああ、臓器は高く売れるお前の体はな」

と、向かいのトンネルの下に…誰かが…

「祖父ちゃん、もう来たんだ…もう少し遅く来るかと思っていたよ」

「フン、くだらん…目の前に大金があるんだ、急いでくるもんじゃろ…ったく、お前の親はなんじゃ、臓器を残すどころか、粉々に粉砕じゃ。」

…一体…なんの会話を…

「残念だったな…三郎…!!!そりゃあ、家を焼かれ、その下敷きになったんだ!それも…これも…全部、お前の強欲なるその性格でな!!!」

「…気がついておったんか…まったく、でもまあ、お前の母親だけはマシだった、その分にはワシも多めに見たつもりじゃな」

え…、家を…。

「何が多めだ…川に流されて、ここまで辿り着くのに一二年かかった。」

「お前がたるんどる証拠じゃ」

「なんてことを!それでもあなたは美琴君のお祖父さんですか!」

なんて、どうしても許せなくて…。
つい口を出してしまった。

「ほほ、お前の女か?都合がいい、二人分の若い臓器か、こりゃあ、天下の微笑みか?ワッハッハッ!!!」

え…、もしかして…私…

そして、祖父さんは、こちらへ普通に歩いてくる。
それに美琴君も下がる。
そして、私のところまで来ると、彼はこう言った。

「…僕が君を守る…」

その一言を言うと、彼は祖父さんの所へ走り、殴りかかる。
が、それにカウンターをかけるように、右腕をあげ、美琴君の首をあて、一瞬宙に体を浮かせられ、首をつかまれる。

「ぐぁ…あぁあ…」

だが、美琴君は、必死に抵抗し、祖父さんから逃れる。
そして…美琴君は、殴りかかる。だが、かわされてしまう。
今、祖父さんが背に向けるのは川。
それを見た美琴君は、一瞬私を見ると、体を投げ出し、そのまま祖父さんを道連れに、川に落ちた。

「…さようなら、幸せに…な…」

最後の最後で、彼は川に飲まれ、祖父さんもまた、川に飲まれた。

「…み…こ…」

私は…彼に救われた。
だが、彼は救われなかった…。
だから、今度は…。

小学6年生。

その頃になると、ふとあることを思い出す。
2年以上も…。いや、あれは過去だ・・・。

だが、そんなことを覆すように、彼が現れた。

「ええ、今日は転校生を紹介します。柳 美鈴ちゃんと柳 美琴君です」

と、先生が言う。
そして、二人が現れた瞬間。
私は胸がドキッとした。

彼…だ。

「柳 美鈴です、前の学校では、楽しかったのですが、突然転校しなければならなくなってしまい、残念だったのですが、ここでもその時と同じぐらいに楽しくできたらいいなと思います。」

「柳 美琴です…。」

だが、美琴君は、それ以上を言わず、先生に何かを伝えると、そことそこと先生が席を指示した。

「ひ…」

「こんにちは」

「…こんにちは」

私の隣に座ったのは、美琴君だ。
美琴君は、何も覚えていないようだった。

…そして、卒業式…。
彼は、ある一人の少女に告白されていた。

「付き合って…ください」

「…ごめん」

彼女の名前は、七汐 桜歌(ななしお おうか)。
結構人気のある女子。
無論、美琴君の耳にも入っていると思っていたのだが、彼は誰?といわんばかりの返事をした。
…このとき、確かに私は、安心していた。
美琴君を誰にも取られたくない、美琴君は、私が守る。

そう…思っていた…。

それから、私は、下校する。
見慣れた街並みが、私の視界に入る。

そして、その光景の先に…彼がいた。

私は、彼を呼びとめようと、手を振りながら、‘あの‘横断歩道を渡る。
すると、あの時と同じ…横断歩道に、信号無視をしたトラックが突っ込んできた。
私が気がついた時には、遅かった。
私は、怖くて…目をつむった。

「何やってんだ!早く!」

「…え」

私は、誰かに手をつかまれ、横断歩道を走った。
その人は…

「みこ…」

「僕の名前…覚えてくれてたんだ、千代島さん」

まぎれもなく、彼だった。
でも、横断歩道の先には、‘転校してきた美琴君がいる‘
じゃあ、この私の手を握っている、彼は誰?
彼が、本当の…美琴君?
私の知っている美琴君…?

私の思考が、一瞬ブツリと切れた。

「本当に…あの、美琴君…?」

と、変なことを聞いてしまう、私がいた。
でも、彼は、首をかしげる。

「妙なこと聞くね…、もしかして、疑ってるの?」

と、彼はあの時と変わらない…いや、少し成長した声でそう言う。
…あ

「ひゃぁぁ!手…握ってたんだぁぁ…ひゃぁぁ…」

と、変な声をあげて悲鳴というよりも、喜びの声をあげていた…いや、そう思いたい声を上げた。

「大丈夫?あ、そうだね、手離そうか?」

そう彼が言ったので、プクッと膨れて

「いい、もう少し…このぬくもりを味わいたい」

「そ?」

私は、こう言われ、コクンと顔で「うん」と返事した。


美琴の過去が明らかに!
いや、それにしても…長いですね…。

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