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コメコイ4 第六章

第18話 

 「よぉ〜い、ドン!」

パンッ!と、ピストルの音とともに僕らは一斉に走る。
スタート地点で、僕の左右は川梛姉弟になっている。
今年の運動会では、顔を見せることなどほとんどない1,3年の人たちと顔を合わせることとなり、いつもよりも多人数で行うこととなる。
僕が通うこの水鳥乃学園は、基本的には学年によってそれぞれが別々なことをしている。無論運動会も例外ではない。
今年は校長先生の入れ替えがあり、大宮王学園の校長が今はこちらに来ている。
唯一その校長と面識があるとすれば、粕壁先輩ぐらいだろう。
ちなみに、僕が彼女のことを先輩と呼ぶようになったのは、あの日以来だ。

「あっあの!」

3年4組の教室から出た僕らは、なぜか屋上へ行った。
それから、だんまりとした二人は、コソコソと話しをした後に、僕にこう言った。

「ずっと、ずっと好きでした、この気持ちに嘘はありません。たとえ貴方が私を好きでなくても、私と付き合えなくても…私の気持ちをわかってもらいたいんです…。」

「…えと…」

「…あっあの!すっすみません!変な…こと…言っちゃ…て…」

正直驚きであった。
同級生には告白されたことがあったが、上級生に告白されたのは初めてで…それに、こんなおどおどしてる上級生を初めてみたというか…、新鮮だ。

「…僕、彼女いるから付き合えないけど、気持ちだけ…受け取っていていいですか?」

なんて、言って…。
だけど、その発言に彼女はにっこりと微笑んだ。

「はい!ありまがとうございます」

…新鮮だ。

「はぁ〜い、ラブラブ〜な雰囲気ですが〜後1分でチャイムが… キーンコーンカーンコ〜ン ほら、鳴った」

「ん〜と…それじゃあ、そろそろ行きますねそれじゃ…」

「あっああ!私のことは、環奈でいいよ!」

「私は粕壁先輩っておよび」

「それじゃ!粕壁先輩と環奈先輩」

そう言って、僕は二人に手を振り、また二人も手を振って…。
それから、僕は、粕壁先輩と呼ぶようにしたんだ。

「…!!!」

ピストルが鳴って…フライングした人のおかげで、回想していた僕は、誰にも抜かされずにすんでいた。

「ふぅ〜…」

「ぼぉ〜とすんなよ、今のそ〜とうやばかったぜ」

「頑張れ、みっちぃ」

「うん」

「いちについて!よぉ〜…いドン!」

また、ピストルのパンッ!から始まるのであった。

第19話 

だだだっ...!!!と、生徒の走る音が、地面を蹴る音とまじりあい、激しく砂ぼこりを出す。
応援席では、咲蘭歩たちが、手を振って応援している…。
まあ、それが届くのも…スクリーンがあるからというわけだ。

「頑張れー!」

「負けないでねー!」

「負けたら地獄行きだぞー!」

一人は応援し、二人のち一人は敗北をするなと、もう一方はその敗北の結果を悪いように言っているわけだ。

「ッたく・・・やってらんねぇ」

その中には、愚痴をはく者も少なくなかった。
このマラソンは、学園の内側から外側へ出て、一周してもう一度内側へ入る。
ちなみに、水鳥乃学園は合計で言っても2kmはある。
規模がでかく、敷地面積がプール何個分に想定されるかは、御想像にお任せしたい。

「おい美琴!ペースが落ちてるぜ!」

「あっああ、すまない」

考え事…をしていたわけでもなかったが、薫人たちと距離が遠くなっていた。
ペース的にはこれが普通なのだが、多分薫人がペースを上げたせいだと僕は思う。

「はぁ…はぁ…」

けれど、運動のしていない百合姉には、きついと思う。
普段百合姉は生徒会執行部の学習委員をしていて、部活を入ると、勉強や委員会ができないといった理由があり最近は運動もしていない。
…例によって、僕は薫人と同じサッカー部所属。
ここでペースをあげてもいいのだが…。

「そんな感じで上げていくと、後でばてるぞ?2kmもあるんだもう少しペース落としたらどうだ?」

「暢気なこと言ってるお前なんて、後で抜かされまくった奴等を抜けなくて、順位下がってもしらねぇぞ」

「…うっせぇ」

僕らは、特に仲がいいわけでもなく、クラスのメンバーでいうと、一種の集まりであって。
そのメンバーの中心にはいつも…あの人がいて。

「そんなんだから縫(ぬい)においてけぼりにされんだよ」

「…」

「ちょっとシゲ男!そんなこと言わなくたっていいでしょ!みっちぃはみっちぃ、ヌーに何を言われようが、人それぞれに個性があるの!なんでわからないの!」

「姉貴は美琴を甘やかしすぎだ」

「余計な…お世話よ」

百合姉は、いつでも僕をかばってくれている…。
たしかに、薫人の言葉に間違いはない。
僕は…甘えていた。

「わかったよ…やってやる」

「それでこそ、美琴だ」

ダダダッ...
そして、僕らは全力で走った。
ただ…ゴールを目指して。
…けど
やっぱりペースは落ちてきていた。

「はぁ…はぁ…、んっ…やっぱきつい…」

「だから言ったんだ、薫人少しペース落とせって」

僕の方はまだスタミナはあったが、最初からペースをあげていた薫人の体力は、徐々に落ちてきて、普段のペースより落ちていた。

「サッカー部エースのお前の助言…か」

「これは、友達としての一言だ」

「けっ…カッコつけやがって…」

そして、薫人は親指を突き出し、それを空へ向けて最後に グッドラッグ と言い残し、止まった。

「ありがとな、薫人…」

そして、後500m地点まで僕は来ていた。

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