それでもAI化は進む
利便性の良さ
最初にご説明したように、AIが相談を受けるようになれば、いちいち窓口に訪れなくてもよくなります。この便利さは捨てきれません。人件費の節約になる
サービス業のコストの上で、やはり人件費はかなりの部分を占めています。行政側としても経費節減は必要です。ともかく時代の趨勢だ
今、行政の仕事を動かしている原動力はこれかもしれません。役所は“トレンド”にたいへん弱いです。人間が介在しないことのメリット
情報と相談者の間に担当者という“人”が介在すると、そこに情実が発生します。別に「忖度(そんたく)」と呼ばれるようなすごい利益誘導でないのですが、 初対面の人と対峙してしまうと、ストレートに物言いができません。いくら専門家だと言っても、相手を傷つけたくないと考えます。
「そんな会社に残業代を請求するのだったら、とっとと見切りをつけて別の企業に行った方がよい」とか、
「このままで行くと、遠からず御社は倒産します」とか、
「残念ながら、ご主人は余命半年です」とか、本当ならキッパリと言った方がいいときでも、なかなかストレートな表現は使えません。
「わざわざ足を運んで来てくれたんだから、何か一つでも役に立つ助言をしてあげたい」という親切心も生じます。
ダメならダメでマイルドな表現を使いたいと思うのが普通です。
しかし、機械は率直です。
「こんな給料では家族を養っていけません!!!」と、どんなに懇願しても、「条件を変えて、もう一度検索してください」としか言いません。
だいぶ前に、ハローワークに仕事の検索システムが導入されました。
それまでは、仕事の紹介は担当者が行っていました。担当としては「いい会社にいい求職者を紹介したい」と思うのが人情です。
ですが、今は求職者が自分で検索して「この会社をお願いします」という仕組みになっているので、そのような心の動きに悩ませられることはなくなったと聞きます。
それに、最近では自分の思い通りに行かないと「オマエの言うとおりにしたら、こんなことになった。損害賠償しろ!」と、“キレる”相談者もいます。
相手が人間だと、「もっといい話があるのに、隠しているんじゃないだろうか?」と疑ってかかったりする相談者もいるでしょう。
自己責任の世界は、担当者にとって住みやすくできているのです。
それでもAI活用は進む
だから、窓口相談のAI化は、徐々に徐々にではありますが進むと思います。 AIは“忘れる”ということをしませんので、最初は少々のデータであっても、やがてはビッグデータに蓄積されていきます。もう一度、Webによる情報提供の項を思い出してください。あのWebサイトの個別項目に「ご意見、ご質問」のメールアドレスを設けたらどうなるでしょうか。
きっと、いくつもの質問が寄せられると思います。これに対する答えを専門家に書いていただき、掲載をします。 そうなるとサイト上にかなりの分量の“FAQ(よくある質問コーナー)”ができます。それをAIに引き継げば、やがてはビッグデータになっていきます。
AIは関連情報もネットから吸収しますから、人は太刀打ちできません。
近い将来、かなりの額の予算が、AI活用のために投入されていくことになるでしょう。今の行政でそれを止める人はいません。 これまでのIT化が、多くの犠牲を払い、反省と促進を繰り返してきたように・・・・。
心配なのは、投入された費用の効果を際立たせるために、窓口相談業務が大幅に縮小されることです。
最初に書きましたが、相談案件の1件のウエイトはかなり違うのです。 でも、「年間5万件の相談が2万5千件になったら窓口担当者の数は半分でいい」と官房系の職員は平気で考えますし、実際にそうします。
だから、そんな心配から、この駄文を書きました。
私は技術者ではありませんので、AIの仕組みはよく存じません。しかし、AI化の足を引っ張るのも、AI化の促進を進めるのも、ヒューマンファクターの側にあるように、 感じています。
そんなことなので、まずは筆を置いて、今後の成り行きを眺めることにいたしましょう。(この項、終わり)