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東京ビッグサイト誕生秘話

東京ビッグサイト誕生秘話

“秘話”とつけましたが、いわゆる暴露話ではありません。裏方の苦労話です
めったにない大プロジェクトについて、後進の参考にと作りました。
すでに四半世紀が過ぎていますので、記憶違いもあると思います。主観も入っています。

オリンピックのプレスセンターへ


平成9(1997)年3月末で、私は東京ビッグサイトを離れた。その後の現場の動きは、詳しくはわからない。
数か月前から、仕事はパッタリ無くなっていた。開業が前倒しだから仕事切れも早い。燃え尽き症候群のような状態だった。
本稿は、その間の2年半の記録だ。
「これからはお客で来るよ」と言って、見本市協会を後にしたが、実際にお客で行けるようになったのは、55歳で都庁を退職した平成24(2012)年4月からである。 それからは、毎週のように東京ビッグサイトには通っている。

▼ 悲願の新会社設立

M室長は勧奨退職年齢に達すると、都庁を退職して現地に再就職した。 「たいへん仕事をしなければならないのに、都庁の職員という身分が邪魔になっている。早期退職したい」とおっしゃっていた。
“たいへんな仕事”って何なのかは、教えてもらえなかったが、その後明らかになる。
「東京見本市協会と東京国際貿易センターの合併」である。その結果、(株)東京ビッグサイトが誕生した。平成15(2003)年4月1日、開業7年目だった。
開業当初も、株式会社を作ってそこに会場運営をまとめたらどうか、というアイデアはあったが、 そもそも民間企業はダメということで見本市協会が管理者になったくらいだから、すぐには難しかった。 それが、ここに至ってようやく実現した。

▼ オリンピックのせいで使えないってホント?

東京都は石原知事の旗振りでオリンピックに立候補、そして1回目は落選。その後もオリンピック誘致が続けられていた。 後継の猪瀨知事が、IOCの関係者と思われる人たちを連れて、東京ビッグサイトを訪問しているのを見たことがある。
そして、見事、開催地に選ばれた。

その頃からすでに、東京ビッグサイトは、オリンピックのプレスセンターとして活用されるという話はあった。
そして、同時期、東の7、8ホールの増設工事が始まった。当然のことながら、この増設部分がプレスセンターとして利用されるのであろうと、 私は考えていた。東京都では、何かの目的で建てられた建物を引き続き別の用途で継続的に利用するということがある。至極自然なことである。
ところが、内容が明らかになると、話がまったく違っていた。

スケジュール表を見てわかるように、オリンピックのプレスセンターとして使われるのは、東京ビッグサイトの本丸である東棟である。
しかも、オリンピックの期間はパラリンピックを含めても3か月弱なのに、何と1年8か月も押さえられてしまう。
加えて、西展示棟、新築の南展示棟も押さえられて、5か月間は全館が使えない。このため、青海に臨時の展示棟を作るが、遠い。かなりの痛手である。

当然、主催者団体は反発した。
展示会の主催者とはいえ、自分たちもイベントの実施母体だから、オリンピックそのものには賛成している。しかし、こんなに広く、長期間に渡って 東京ビッグサイトが使えなくなるとは、聞かされていなかった。
(株)東京ビッグサイト自体も、話が固まるまで取り合ってもらえなかったらしい。

▼ 心配されるオリンピック後

主催者は「いったん離れた出展者が戻ってこなくなる」ことを心配している。
私は、そこのところは、あまり深刻には考えていない。
平成32(2020)年11月にプレスセンターが撤去されれば、出展社はまた戻ってくると、思う。

むしろ、オリンピック後に来るとウワサされている景気低迷が心配だ。
すでに団塊の世代は70代に入った。景気浮揚の担い手にはならない。それより若い世代は人口が減るばかりだ。

団塊二世と呼ばれる小さな人口の山も40代後半にさしかかっている。このため住宅需要が低迷してくる。
今、都心ではマンション建設が盛んに進んでいるが、住宅が不足しているのは都市部それも駅から近いところくらいだ。
郊外には老朽化した住宅が増え、空き家も目立つ。
住宅需要が下がれば、家具なども売れなくなる。
すっかり少なくなった若者らは、高度成長やバブル経済がもうあり得ないと知っている。 長くなった老後のためには、消費を控える必要があることもご存じだ。
オリンピックは、うたかたの夢として社会を照らしてくれるかもしれない。それゆえに終わった後が心配だ。 オリンピックによる利用停止が需要を減らさなくても、オリンピックが転換点となって経済の低迷が始まるのではないか(有識者は“一時的な”と冠をつけるけど・・・)。
そういった現実の中で、展示会がどれだけその規模を維持し、継続して開催できるだろうかと、不安には感じる。

▼ いかにして商品の魅力を演出していくか、がポイント

おそらく「何となく展示会に出してみようか」というやり方は、やがて通用しなくなる。
それに、知的財産の防衛も必要。展示会場で仕入れた情報で類似品を作られることもある。

経済トレンドの把握、これに呼応する新製品の開発、その市場展開戦略、ホームページやSNSの活用などに組み込まれるかたちで、これからの展示会は存在していかなくてはならない。
つまりは、演出力を高めるツールとしての位置づけだ。
展示会で気の利いた商品を見つけると、その会社のホームページを検索する。 だが、「展示会に出ます」だけの告知で、肝心な商品が掲載されていないことがある。ガッカリだ。
逆に「この商品が出てるから来た」と来場者から言われるようでなくてはいけない。

東京ビッグサイト開業の折、私はこう書いた。
「展示場に出展されているのは、最新の技術、最先端の機械だけではありません。 そこには、将来の夢、未来への希望も、出展されているのです」
その思いは、変わっていない。
夢や希望をもたらしてくれる商品が並べられている限り、東京ビッグサイトは今後も企業のショーウインドゥとしての役割を担っていけるはずだと、 期待している。

(終)


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