<補足説明>

商業・サービス業の経営向上とは
本稿では、「商業・サービス業の経営向上」が目的です。ここがぶれると、どうしようもなくなります。
そこで、まず、「商業・サービス業の特徴は何か」「経営向上とはどういうことを指すのか」が、大いに議論されるべきだと考えます。
ところが、えてしてそういう部分が飛ばされて事業が立ち上げられていきます。審査委員の価値尺度に照らして「何となくいい話」が採択されてしまうと、後々、支援側の担当も当該企業も、共に苦しむことになります。
だから、制度設計にあたっては、「常に何のための支援策か」を頭に置いて作らなくてはいけません。
 

商業・サービス業の経営改善は一般的に次の3つの方法があります。
・収益を上げる
・コストを下げる
・ロスを減らす
        

収益を上げる
収益を上げる方策としては、大きく2つの方法があります。
一つは、売上そのものを増やすこと。月商100万円を月商200万円に増やせば、それに含まれる利益も増えるということです。当たり前ですが。
同じ月商100万円でも、利益率が10%から20%に上がれば収益は倍増します。
利益=顧客単価×購入頻度ですから、顧客が1回に使うお金が増えるとか、月ごとの利用回数が増えるとかすれば、収益は増えます。

コストを下げる 
コストには販売額と連動するコストと、必ずしも連動しないコストがあります。
前者をコスト、後者をロスと呼び、区別することもあります。
原材料費や商品の仕入れ経費は前者のコストに入ります。
実は、人件費がコストのかなりの部分を占めています。
原材料費と人件費を補助対象とするか否かは、商業・サービス業の経営支援を考えるときの重要ポイントです。
その他、店舗の賃借料、内装経費、光熱水費、通信運搬費などもコストとなります。
支援制度によって、これらは補助対象となったりならなかったりします。 

ロスを減らす 
食品などは賞味期限が過ぎると捨てなければなりません。
これは経営者の見込み違いですから、ロスを補助対象とすることはできません。
しかし、経営者に責任を求めることが気の毒なロスもあります。例えば盗難や万引き、風評被害などです。
こういったことについて、これまで行政はあまり支援を行ってきませんでしたが、もう少し肩入れしてあげてもいいのではないかと、私は思っています。
 

  別項「飲み屋から学ぶ、顧客サービス」にも、詳しく説明してあります。 

 商業・サービス業には、製造業とは大きく違う点がもう一つあります。
それは、従業員の役割です。
製造業では、企業の事業計画の基本設計は経営者ないし会社組織が行います。これに従って最高の結果を出すよう事業に従事するのが従業員です。
しかし、商業・サービス業の場合、時に「カリスマ店員」と呼ばれるショッパーが生まれるように、従業員の主体性が企業経営に大きく影響します。
つまり製造業は、企業→顧客がダイレクトに繋がっているのに対し、商業・サービス業は、企業→従業員→顧客、というように、会社と顧客が従業員を介して間接的に繋がっているのです。

このため、従業員の役割がたいへん大きくなります。顧客の情報を企業内部に伝えるのも、企業のサービスで顧客に奉仕するのも、従業員次第となってきます。
言い換えれば、従業員の指導・教育がたいへん重要になるのです。
しかし、その一方で、従業員の流動性はとても高い、という矛盾を抱えています。
 

このことと関連しますが、顧客の利用度合いを平準化するということも重要です。
混むときは混むのに、来ないときは閑古鳥が鳴いている。先週は品切れが続出したので、たっぷり商材を仕入れたら全然売れず廃棄した――というのでは、経営は成り立ちません。

飲み屋さんなどでは、ハッピータイムというのを設けて、早い時間帯の飲み物を破格の値段で提供することがあります。これも平準化のための工夫です。早い時間に飲み始めた客は早々に帰りますから、客の回転数が上がることになります。
格安の理容店などが、「今、お待ちのお客様は〇人です」という電光表示板を出すのも、平準化のためです。
喫茶店などで、サービスにお茶が出てきて「ごゆっくりどうぞ」と従業員さんがコメントをすることもありますが、本心から「もっと長い時間ゆっくりしていってほしい」と思っているわけではありません。客の回転を高めるためのテクニックです。
頻繁にテーブルを拭き掃除するのも、同じです。そういう仕草に気づいたときは、早々に席を立つのが「いいお客さん」です。何もいい客にならなくてもいいですが。

繁閑が平準化すれば、従業員の数も抑えることができますので、人件費の節約に繋がります。
食材などのムダを減らす上でも有効です。


閉じる