飲み屋から学ぶ、顧客サービス    本文へジャンプ
はじめに


およそ、客商売というものは・・・

サービス業の生産性向上が求められている。サービス業の生産性を国際的に見ると、日本の生産性は米国のおよそ7割程度という数字があるそうだ。
これに対して、日本のサービス業のスタッフはひじょうに優秀であり、サービスの質も高いので、単純に生産性が低いという結論を出すのは間違いだという意見もある。

従業員の数を減らしてサービスの質を落とせば、確かにサービス業の生産性向上に繋がるだろう。しかし、それはあまりにも乱暴なやり方だ。
しかし、厳しい経営環境に置かれている中小企業の経営者にとって、経営効率の改善は喫緊の課題となっている。それを見捨てることもできない。

景気が低迷する中、消費者の財布のヒモは固い。それに高齢化が急激に進んでいる。自分自身、齢を重ねてみるとつくづく思うのだが、若い時分に比べると、モノを所有したいという願望が著しく低下した。
このような三すくみ状況の中では、なかなか景気が回復しない。

中小企業の経営改善は、行政にとっても大きな課題であり、さまざまな支援策が用意されている。
製造業ならば、新製品開発や市場開拓の援助、経営革新計画策定への支援があり、そこへ導くことも比較的に容易だ。
しかしながら、商業・サービス業だと、そうはいかない。
「従業員を減らしたら」という助言は行政はできない。年寄りから儲けなさいとも言い難い。
それに、どこかの商店が儲かれば、その分、別の店の売り上げが落ちる。
それが商業・サービス業の宿命だ。

そんな思いに悩まされながら、毎晩、呑んでいる。
「おやじさん、景気はどうですか?」「ずっとよくありませんね。どうにかこうにか、店はやってますが・・・」
そういや、この焼鳥屋、たいして客も入っていないのに、潰れない。なぜだ。

わたしたちオジサンにとって必須の安息所である飲み屋にこそ、商業・サービス業の経営改善の鍵があるのではないのか。
そういう問題観点から、本稿を書き始めた。

仕事柄、地域の商店会に興味がある。
飲み屋を見ると、街の品格がわかる。
賑やかな店は敬遠する。学生が多いと、安いチェーン店が増える。あまりそういうところで飲む気にはならない。
かといって、きれいなおねいさんのいるような、高額な店には行けない。
パチンコ屋ができると間口を常時オープンして店の奥まで見渡せる飲み屋が増える。儲けた客をいち早く取り込もうという方針なのだろうか?

最近では、大半がシャッターを閉めてしまったような街並みも少なくない。
それでも、相変わらず営業している商業・サービス業もある。
まず目立つのは「自転車屋」、そして「理美容店」、「クリニック」。
生活には必須。しかし、自宅から遠く離れたところまでわざわざ出かけて行きたいと思わない。そういう店が、殺風景な商店会でも根強く営業を続けている。

寂れてしまった街に、私の行きたくなるような飲み屋はない。きわめて個人的意見だが、「まちづくり」にとって、飲み屋はきわめて重要だと考えている。

こういう通りを歩くと、昔見た『渚にて』という映画のラストシーンと、どうしてもダブってしまうのだ。
その物語のラストは、核戦争で人類が滅亡し、誰もいなくなった街で横断幕が風になびく様子が映し出されていた。
横断幕には書かれた文字は――『まだ、時間はある There is still time』。

家の近所に飲み屋がほしい。
カウンターがあって、あまり店から干渉されないところが、ベストだ。
歳を取ると、あまりがつがつ食事をしたいと思わなくなるので、ちょっと立ち寄って夕食代わりに一杯飲めるような店が必要になる。そんな、シルバーパブが増えたっていいじゃないかと、思う。

地方の大型店には、子供や若者の集客を目的に、ハンバーガー屋などを並べたフードコートが備わっているところがある。
年寄り向けの飲み屋を並べたシルバードリンクコートを誰か作ってくれないだろうか。

高齢化社会に向かう今日、まだまだ時間はたっぷりあるように思える。

くどいようだが、私は中小企業診断士でも経営改善の専門家でもない。
内容の活用結果については、すべて“免責”ということにしてもらいたい。お願いする。――昔ならこんな言い訳必要なかったのだが、なんて面倒な世の中なんだ。

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