飲み屋から学ぶ、顧客サービス    本文へジャンプ
企業家的従業員を育てよう

“企業家的従業員”の育成がポイント

「どうして、こんなこともできないんだ!」
今日も怒鳴ってしまったと、自己嫌悪に駆られている経営者はいないだろうか?
それは、あなたがまだ、プロの「経営者」になりきれていないからだ。
今は資本金が無くても起業ができる時代になっている(本当は違うが)。

会社を興して代表者になることと、プロの経営者になることとは違う。社長の席に座ることと、プロの雇用主になることは違う。
では、プロの経営者とは、どんな人か。簡単にいうと、社長室にいても、末端の現場の様子が見通せる人だ。
そして、プロの雇用主とは、どんな人か。簡単に言ってしまうと、「従業員に仕事を任せられる人」だ。
今日も怒鳴ってしまったあなたは、本当のところ、従業員に仕事を任せていないのではないのか。

なぜ、従業員に仕事が任せられないのか。
それはきっと、従業員が全面的に信頼できないからだ。
では、なぜ、従業員が信頼できないか?
それはたぶん、従業員の力量が、全幅の信頼を受けるまでに成長していないからだ。
では、従業員の能力が上げるのに効果的な方法は何なのか。
それは、従業員に仕事を任せることだ。
――こうやって、堂々巡りが続いていく。

小さい企業の社長の多くは、ついこの間までは、大きな企業でバリバリ働いていた人だ。一流の営業マンであったり、一流の技術者だったりした人が独立して、一国一城の主になる。
小さい企業の社長は、とても忙しい。だから、第一線に立って、会社を引っ張る。
社長になっても、社内で最も高い成績を上げる営業マンであったり、社内で最も高度な技術知識を持った技術者であったりする。

だから、会社を興したときすでに、社長と社員の力量差は歴然としている。
社員は、社長の有り様を見上げて「この人みたいにはなれないな」と尊敬すると同時に、「この人の指示に従っていれば、取りあえずOKだな」と、依存心を強める。
だから、社長は従業員を「指示待ち族」だと評価する。社員に任せて、とんでもないことになったら、小さい会社はひとたまりもない。だから、全部が全部、社長が引き受ける。
そんなわけで、社長は今日も忙しい。

こういう会社は、大きくなれない。
どんなカリスマであっても、一人の人間のできることには、限度がある。
それに、どんなに優秀な営業マンや技術者であっても、いずれ社会の流れにはついていけなくなる。
歳を取って老眼になれば、細かい文字は読めなくなるのだ。記憶力も判断力も根気も薄れる。体力も低下する。私にはよくわかるし、誰しも50代を越えれば実感するはずだ。

小さな会社の社長でも、50代、60代はまだ若造扱いされる。それでも、従業員に比べれば、能力の衰えは否定できない。そのとき、大切な判断を信頼して従業員に任せられるかどうかが、とても重要になる。

従業員の側も未熟さが目立つ。頭はいいのだが、立場がわかっていない。

「社長がこういうが、それは間違っている」「上司が○○という指示を出しているが、会社のことを考えると、その指示は正しくない」という主張をする従業員もいる。
あくまで法律上の話だが、従業員には、会社の方針の是非を判断する権利はない。
「指示されたとおりにやったけど、できなかった」「自分にはやるだけの能力はない」という場合はあり得る。しかし、自らの判断で社の方針を否定することはできない。意見を述べる程度なら問題ないが、強行に否定すれば、それは立派な「解雇理由」になる。唯一、断固拒否できるのは、その命令が法に触れる場合だけだ。
その代わり、会社の方針通りに仕事をした結果、会社に損害を与えたとしても、その従業員は責任を問われることはない(はずなんだが、例外は多い)。

しかし、評論家気取りで、会社の経営方針を云々する従業員は増えている。
中小企業の社長は、仕事のできない従業員は許容できても、こういう従業員を受け入れることができない。
「なまいき」だと感じる。
しかし、あえて言わせてもらえば、そういう従業員が、企業にとっては大切となってきている。

「既存製品を確実に販売できる人材はたくさんいる。しかし、新しい顧客を開拓して既存の製品を販売したり、新製品を新しい顧客に販売したり、新しい販売方法や管理方法を考え出したりすることができる人材は意外なほど少ないのが現実である。」(出典:なぜ新規事業は成功しないのか 大江 健 日経新聞出版社)

今後の社会状況を見ると一つだけはっきりしている流れがある。「高齢化」だ。そして、高齢者はお金を使わない。

そういう社会の中で、商業・サービス業が生き残っていくためには、顧客との接点をより深めていくことが必須になる。
人と人との関係が売上に直結する。したがって、従業員には、「人と人との関係を深めるテクニック」を教える必要がある。

大衆酒場でも従業員教育が行き届いている店では、テーブルの酒が切れる前に、「お代わりは何にしますか?」と、従業員側から聞いてくる。「ぼちぼち、追加のつまみをたのも〜かなぁ」と思っていると、「本日は、○○がお安くなっています」と、従業員から提案する。

来客が少ないときは、来ている客をできるだけ長く繋ぎ止めたい。
「お酒も残りわずかだし、ボチボチ帰ろうかな」と思っているところへ、「これ、いいネタがあったんで作ってみたんですが、よろしかったら召し上がってみてくれませんか?」と来れば、「しゃぁない。もう1本頼もうか」ということになる。
客から「くどい」と思われない程度に、接する。そういう心配りができる店は、客足が絶えることはない。

ところが、最近はこんな世界でもフランチャイズ化が進んでいて、つまみの種類もいっこうに変わらないところが多い。
従業員教育もまだまだ不満だ。「店が混み合ってきたから、あの子とあの男は、奥に引っ込んで出てこないんだよ、きっと」といった話題を肴に、私たちは酒を飲んでいる。
たしかに自分達は単価の安い客だから、贅沢は言えないが、もう少し大切にしてもらいたいと思う。

これを販売店に置き換えてみると、従業員が客の嗜好を考えて販売を行っているかがポイントだ。
客の視線を読めば、その顧客が何を探しているかわかるはずだ。
やみくもに言葉をかけるのではなく、「○○をお探しですか」と聞けば、迷っていた顧客も「買い」に向く。
さらに、顧客はなぜその商品を買ったのか、あるいは、なぜ買わなかったのかを、一人ひとりの従業員が常に心に留めて対応していれば、接客能力は上がる。

「このメーカーをお好きな方は多いようですね」と言われれば、客だって「自分の鑑識眼」に自信を持つ。その客が「△△が◎◎のところが気に入っているんだよ」とつぶやけば、それはそれで大変貴重な情報となる。特に、購入を決定した直後の顧客は口が軽くなっているので、なぜ、その商品を買ったかホンネを話やすくなっている。
別の客が来たときに「◎◎なものをお探しなら、このメーカーがいいですよ」と、使える。

そういったノウハウは、ベテラン店員が数多く体得しているはずなので、是非とも退職する前に「見える化」しておきたい。

だいぶ前のことだが、セールスマンらしき男性客が、飲み屋でこぼしていた。
上司から、商品の在庫を常時把握し、在庫がだぶつき気味の商品を優先させて売るようにしろと、したたかに叱られたらしい。
しかし、曰く「自分の良心に従って仕事をしているつもりなので、客に合わないものを勧めることはできない」。

おそらく店の指示を徹底すれば、余分な在庫は解消し、利益は増えるだろう。
しかしながら、その従業員がほんとうに客のことを思って商品を選別しているのだとすれば、間違っているのは店の方だ。
従業員が客のためを思って一所懸命に努力していることが、店の利益に反することになるとすれば、そのような事業計画を立てた店側のミスである。

そして、そういう不幸を招かないためにも、目利きのきく第一線の従業員を育成し、常時その者から顧客の動向を収集し、さらにそれを経営方針にフィードバックしていくことが欠かせなくなっているのである。

本稿で私が言いたかったことを、最後にまとめるなら、次の2点に集約される。
その1:顧客や他の企業の情報をとことん収集して、正しい判断をすべきだ
その2:自分で判断し、自分で行動できる従業員を育成すべきだ


「言うは易く行うは難し」というのが現実だが、家業安泰のためには、まずは先入観をリセットして企業経営の実情を再点検してもらいたいと思う。

本稿はここで終了
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