<補足説明>

人件費補助はほんとに難しい
補助金にもそれぞれに個性があります。
産業振興関係の補助金と雇用対策としての補助金は大きく異なり、産業振興の補助金だと、人件費が補助対象経費にならない場合も少なくありません。ソフトウエアの開発要員だけに限定という例もあります。
人件費補助があっても、事務が繁雑になる危険性もあります。

製造業ならば、研究開発に従事した時間を厳密に算定して人件費補助することも意味があるでしょう。
生産ラインに並んでいる工員さんたちが対象なら、秒単位で作業分析をすることも可能でしょう。




しかしながら、商業・サービス業はそれとは違います。
商業・サービス業の場合、「ここからここまでが従事時間」という、はっきりしたものがありません。

・客が入らないために、手待ちしている時間は、対象外なのか?
・顧客サービスに応えるために、事前の調べ物をしている時間は、対象外なのか?(士業の場合は、こういう時間がかなり必要だと思います)
・顧客のクレームに対応する時間は、対象外なのか?
・複数の業務を担当していた場合、それをどうやって切り分けるのか?


労働判例では、手待ち時間も労働時間で、給料を支払わなくてはならないとされることが多いです。

そうこう考えると、商業・サービス業に関しては、事業対象の範囲を時間単位で縛ることは、あまり意味がないと思います。
だとすれば、従来と同じく「〇月〇日〇時〇分から〇時〇分まで、かくかくしかじかの仕事をした」と厳密に記録を残すのは、『労多くして功少なし』、というのが私の見解です。

もちろん人数や補助額の制限は必要です。歯止めがなければ、虚偽の記載がどんどん蔓延してしまいます。
実際に新採を採用し、1年間雇用していれば、人件費は100万円ではすみません。
新規事業をやるために、他部署の人間を配置転換していれば、やっぱり相応のコストは発生します。
ですが、「新規採用〇人雇ったから〇〇百万円くれ」と言われたのでは、予算がパンクします。

このため、人件費補助額に限度を設けます。
本案の設定は、担当者1人限りとなっています。
それで十分ではないでしょうか。
人件費は実際に仕事が出る出ないに係らず必要となってくるものです。
誰かが「時間」を消費している――役所では、それに対するコスト感覚が不足しています。
仮に、社長自らが補助事業を一手に管理していたとしても、そこには何らかの時間の消費が発生します。
人件費は時間の消費に対して支払われるものなのです。

人材確保のやり方は一様ではない→

役所では賃金不払は発生しません。だから、人件費=コスト、という意識が希薄なのではないかと、私は思います。人件費がコストであることを忘れると、時間=コストという感覚も鈍くなります。だから、分厚い書類を平気で要求できるのかもしれません。

事業終了後、ポンと100万円出る。それに異議を唱える人もいるかもしれません。

しかしですね、仮に補助事業で買ったのが機械なら、思うように機能せずに予定の効果を上げられなかったとした場合でも、経理処理がきちんとされていれば、規定の補助金が出ます。
だったら人も同じだと思うんですよね。
補助対象事業に従事したくても「手待ち時間」ばかりで従事できないということもあります。それは、補助金で購入した機械が停止している時間と同じです。
にもかかわらず、作業日報に記載が無いと「補助対象にしない」というのは、人間を機械以下に見下しているように、思えます。こういうルールを作った人は、「最初から人件費なんてズルしてもらおうとするに決まっている」と想定しているんじゃないか。そう、邪推したくなります。
後出しの補助金で、人件費がポンと出るのは、企業側にとって、かなり美味しい話であることは、事実です。

毎日日報をつけるというのは、正直いってたいへんです。検査する側も大変です。

事務処理がたいへんだという理由から、「機械設備には補助金が出て、人件費には補助金が出ない」制度を作ったとしましょう。 企業はどんどん設備を向上させて合理化を図り、従業員の数を減らします。企業に血も涙もないというのではなく、企業経営というのはそもそもそういうものだからです。
しかし、行政がそういう方向に誘導していいのかと考えると、私はいささか複雑な思いです。
だから、後追いで、人件費充当分がポンと出ることがあっても、いいのではないかと思います。

雇用政策の分野では、国は「キャリアアップ助成金」として、有期雇用者を 正規社員にすると1人当たり60万円(大企業は45万円)がポンと出ますし、それに東京都が「正規雇用転換促進助成金」 50万円(大企業は40万円)をポンと上乗せして出しています(h28)。合わせれば、100万円を超えます。

なのに、産業政策だと、この厳格さ。
古くから日本には、『人は石垣人は城』という名言があるのに・・・・。


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