tsudax99
「気づき」と「見える化」と「仮説」と・・・経営改善指導への一提言


(11) 仮説: 危機管理能力が求められる

問題の原因解明は有意義である。ただし、たいがいの場合、発生元の企業は手遅れになった時点でそれに気づく。

  私たちが心配している問題のひとつに「事業承継」がある。中小企業の経営者は60代、70代という人が多く、それでいて、引退することなど考えていない。10年、20年まだまだ元気でやっていけると思っている。そんな社長が突然ポックリ逝くと、会社自体は健康であっても、事業が完全にストップし、経営が破綻する。
私の友人が、建設会社の二代目社長をしている。50代だからまだ若手だ。しかし、子どもは全員女の子で、会社の跡を継ぐことは考えていないようである。
彼に「万一、ポックリ逝ったら、会社はどうするんだ」と尋ねてみた。「引退した親父がまだ元気だから大丈夫・・・」というのが答えだった。
この調子で10年、20年過ぎてしまうに違いない。
  忙しく働いていれば、あっという間に時間は過ぎていく。しかし、その間にも、経営環境は変化しているのだ。
ある日突然に、「得意先がライバル会社に乗り換えた」「発注元が生産拠点を海外に移したので、注文が来なくなった」「流行が過ぎて、在庫の山が残った」というのでは、企業経営は行き詰まる。
  そんなことはないかもしれない。
しかし、仮説を立てて、対応策を事前に用意しておくことは大切だ。
例えば、特定の1社だけに部品供給を頼っていると、その会社に万が一のことがあると、自社の生産ラインも止まってしまう。
海外で環境関連の法律が新設されて自社製品に使われている溶剤などが輸入禁止項目に上げられると、部品の差し替えが必要になる。
先に述べたケースの他にも、
・社長が接待ゴルフ中に倒れて意識がない、
・社員がちかんで逮捕された、
・地震(電車事故)で社員が帰宅できなくなった、
・社員の中から新型インフルエンザの患者が出た、
・会社のコンピュータが突然故障した、
・同業者から特許権侵害だという抗議が来た、
・取引先が倒産して売掛金が回収できない、
などなど、企業は様々な危険にさらされている。
  こうした万一の場合を、仮に設定し、対応策を練っておけば、似たようなケースにも応用することが可能だ。言い換えるならば、危機管理能力の高い会社は潰れにくいということになる。
危機管理能力が高い=仮説設定力が高い=経営力が強い、という図式が成立する。
そもそも自動車の生産がぱったり止まるなんて、1年前には誰が予想していただろう。そういったことが、現実に起こる時代になっているのだ。
  危機管理が甘い会社は、いざというとき致命的な打撃を受ける。
有名なハインリッヒの法則というのがある「労働災害は深刻なものから順に、1:29:300の比率で発生する」というものだが、これを横引きして、企業の不祥事が発覚するのはたった1件であっても、それに近い事件は30件近くあり、思わずひやりとするような小さなミスは300件ある、といった使われ方をする。
これを地でいくような事件が「船場吉兆」の一件だった。
最終的には、マスコミにたたかれまくり、廃業となった。しかし、原因を探ってみると、賞味期限切れをそのまま捨てたのでは「もったいない」ので何か再利用できないか、と考えたのが発端だったらしい。「もったいない」という意識だけなら美談だ。それゆえ、どんどんエスカレートしてしまった。
企業の不祥事には、「それでもいいんだ」という正当性の裏付けがあることが多い。
分かりやすく言うと「言い訳の種」であるが、それにはそれなりの説得力があったりもする。
   今後、経営力向上TOKYOプロジェクトが進む中で、商工会議所や商工会の経営指導員が、質問用のチェックシートを持参して、都内2,000社の企業を訪問することになる。
チェック項目は、ごく常識的な内容となっているので、経営者は「こんなことに答えて何になる」と思われるかもしれない。出発点は、実のところそこにある。質問や資料や支援策は、単なるツールでしかない。
「ごく当たり前のことが、本当にできているのか」 それをもう一度考えていただきたい。
経営者は忙しい。その忙しさに翻弄され、経営の本質を忘れがちになる。それを、この機会にもう一度見つめ直してほしい。
それが、本事業に込められた思いである。


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■取りあえず、本稿はここで終了