しろうと考えではありますが・・・

まぼろしの経営力向上プロジェクト その2
〔疑問2:強みと弱みは、別物なのか〕

単に100問の質問をして、改善提案をレポートにしたためて経営者に渡したとしても、たぶん「あぁ、そうですか。ありがとう。」で終わってしまいます。

とはいえ、経営者にとって「聞き心地のよくない助言」をするには勇気がいります。
プロジェクトでは、かなり踏み込んだ助言をしてくれる診断士さんもいましたが、相当の場数を踏まなければ、そうはいきません。
いきなり企業を訪れた見ず知らずの者が、「おたくの会社、かなり危ないですよ」なんて言ったら、とんでもないクレームになります。


経営者の中には、自社がかなり傾いていても、それに気づかない人がいます。

事業再生を担当した人が、異口同音に言うのは「もっと早く来てくれれば・・・」という言葉です。
そりゃ、公的機関がいくら助けようとしたって、経営がピンチに至った企業を救うのは至難の業なのですが、同じ潰れるにしても、早く来てくれれば「もっと、いい潰れ方があった」というのが、担当者の言葉です。

経営者がなかなか自社の危機的状況を認めたがらないというのは、経営支援を行う人たちの間では、共通の認識でしょう。
 
成功の・・・「第一の法則は“こだわり”をなくすことだ。・・・起業家は何らかの得意分野を持っている。得意分野がなければ起業は難しいと思う。・・・起業家が陥る第一の落とし穴は、自分の能力にこだわって、顧客の存在を忘れてしまうことなんだ」
(出所:つぶれる会社には「わけ」がある 林總 日経ビジネス文庫) 

撤退を遅らせる原因として、・・・事業に対する経営者の愛着やのめり込み、現在までの成果や過去の成功を誇りに思う気持ちや将来への不安などが、経営者の感情障壁を生み出し撤退障壁となっています。
(出所:実例でわかる事業計画書の書き方・まとめ方 田中正志・岡原慶高 ぱる出版)

多くの経営者は、「銀行が金を貸してくれない。・・・」ということで、それを知ると思いますが、何とかその前で手を打ちたいところです。

だから、経営の危機を別の方法で知らせることが必要だと、私は考えています。

私が特に目を付けたのは、実は、「なぜ、経営者は自社の実情を認識できないか」でした。

上記引用を見れば明らかですが、「得意分野へのこだわり」「愛着やのめり込み、過去の成功を思う気持ち」が、経営者の目を曇らせているのは、確かです。

私が言いたいのは、「得意分野へのこだわり」「愛着やのめり込み、過去の成功を思う気持ち」こそが、“経営力”ではないか、経営の理にかなっているから問題に気づかないのではないか、ということです。
この点は、たぶん誰も指摘した人はいない話で、自分としてはかなり自信を持っているところなんです。

こういう風に言う人もいます。

中小企業は良くも悪くもワンマン経営でないとうまくいかないです。
そのワンマン経営とは決して社員を無視する傲慢な経営ではなく、社員のレベルに合わせず、自分があらゆる社内業務の社内専門家になり、社員に外部の知恵と明日への希望を与えなくてはなりません。・・・・
経営者は尊敬され、企業の行動力はますます強くなっていきます。やがて業績が伸び、会社は成長し、少し良い人材が自然に入ってきます。これにあわせて社長はさらに次の段階へと社員より先に進みます。
(出所:仕事ができる人は「負け方」がうまい 宋文洲 角川学芸出版)

「先代社長が急死して事業承継した」「学生がいきなり創業した」というケースは別として、最初から経営者って人はそういません。多くの場合、ついこの間まで、従業員だった人が、経営者になるのです。

つまり、経営者の多くは、昨日まで、他の企業の従業員だった人なのです。
だけど、すべての従業員が経営者になれるわけじゃありません。従業員時代も、なにがしかの仕事で傑出した能力を発揮した人が、経営者になります。
例えば、研究者として実績を作った人、セールスマンで表彰された経験がある人、そういった人が経営者になります。
このため、結果として、経営者の経営手法には、その前職の影響が色濃く現れてくる、ということになります。

そして、ワンマン経営者が、他の従業員に比べ抜きんでた能力をもっていることが、その会社の経営力であり、したがって、「得意分野へのこだわり」「愛着やのめり込み、過去の成功を思う気持ち」は、企業経営の必須条件だということになります。

かつて、海外からの技能研修員の受入事業をやっていたとき、外国人研修員に「日本の企業のどこがすごいか?」と聞くと、「社長が第一線に立って、得意先回りをやっている」という答えが多く聞かれました。
現地での即断・即決が、もっとも“効率的”な事業運営になるからです。
必要なのは「経営理論」ではなく「経験と勘」。たぶん、中小企業の経営者の多くも、「そうだ」と実感されるでしょう。

ところが、私たちは画一的に経営力向上のチェック項目を作ったために、「経験と勘」でやる経営は好ましくないということを前提とし、「社是は社内に浸透しているか」といったチェック項目を作ったのでした。
そこに、私の違和感があったのです。

私たちのチェックシートの項目と真逆なことを言えば、
・社是や経営理念を説教するより、社長が得意先に乗り込んで価格交渉する。
・自社の事業領域から外れていても、ものになりそうな分野には首を突っ込む。
・特定の販売先に末永く付き合ってもらうように、休日のゴルフにも参加する。
・社内のノウハウが知られぬよう、同業者とは距離を置く。
・自分からやる気を示す従業員は面倒を見るが、そうでない者は早々に退職してもらう。
・取りあえず「売上目標」は定めるが、細かな資金管理は苦手だし、時間の無駄だ。その分、商売してた方がいい。

どうです、これって、中小企業の実態としてはさほど違和感を感じないでしょう。
そして、そういう会社が生き残り、きれい事ばかりの経営をしている企業は躓いている、ってことが経営界では、けっこうあり得るのでは。

しかし、そういったワンマン経営が“強み”だからこそ、だからこそですが、一つ間違えると、会社は大きく傾く。
それを知ってもらうことが、本当の“経営力向上プロジェクト”ではないかと、私は思いました。
つづく→

ホームに戻る→