ムリチェックシステム |
「〇〇を●●にする方法を考えてくれ」
「そんなこと、ムリです」
「オレはそんなことを聞いているのじゃない。どうやればできるのかを聞いてるんだ!(怒)」
これは、私が実際に体験した会話です。
昔から、「10%の経費削減は困難でも、50%の削減は可能だ」などという教訓は言われておりまして、蓄電池の原価を半額まで下げた松下幸之助の実話なども伝えられています。
しかし、この教えは、「現在の枠組みの中では不可能でも、枠組み自体を変えることで可能になることはある」という、パラダイムシフト(発想の転換)を促すものでありまして、現在の枠組みを変えずに実現することは<ほとんどムリ>だと言っていいでしょう。
できたとしても、それは意図的な操作や詭弁、虚構と言われる範疇になります。
ですが、会社の人間は、その会社に飯を食わせてもらっています。「やりません」というのは明白な業務命令違反で、解雇理由にもなります。
何年のだったかわかりませんが、サラリーマン川柳に「無理させて 無理をするなと 無理を言う」というのが、ありました。そういう悲哀は、いつの時代でも起こることだと思います。
なんで、こんな物言いを持ち出したかと言うと、どうも最近は企業の不祥事が多いからです。
建設現場での杭打ち工事の偽装、大手企業のまさかの経理粉飾、など、立派な企業がなんて情けないことをするのかと嘆かせる事件が増えています。
私は、むしろ立派な企業だからこういう事件が起こると考えています。
大手企業は、株主などに経営状況を公開しなくてはなりません。ですので、無理にでも収益が上がっているように見せかけたいという欲が出ます。
それを「チャレンジ」と呼べば、とてもいい響きに聞こえますよね。
振り替えれば、行政でも<ムリを通せ>という考え方が、組織を席巻した時期がありました。
以前、『行政が銀行を持っていいのか』という議論が出て、私は直接係わっていませんでしたが、当時、関連部署では心配する声が少なくありませんでした。しかし、たくさんの都民の信託を受けたトップの方針に楯突くわけにはいかず、ああいう結果になりました。
確かに「銀行が困っている企業に金を貸さないのはけしからん!」というのは、一般人にもわかりやすい主張で、半沢直樹ばりに肩を持ちたくなるところですが、「金融機関が見放した企業に融資すれば焦げ付きが増えるのは当たり前」というのも、専門家でなくてもわかります。
だからといって反論を唱えれば「チャレンジ精神に欠ける」と言われてしまいます。
もっとも、別項で「リスクテイク評価制度」なんているのを出しておきながら、こんなことを書くのはえらく矛盾しているように思えますが・・・。
ま、グチ話はこの辺にしておき、提案に移りましょう。
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これを聞いたのはたぶん昭和の頃だったので、かなり昔の話になりますが、「ちゃんとした労働組合がある会社は潰れない」という説が信じられた時代があります。
労組が経営参加をすれば、経営陣がムリな会社運営をしたり、将来に禍根を残すような判断をしたりするのに、ブレーキが働くということを言っています。
しかし、経営はあくまでも経営者の専管事項です。また、今、そこまで口を出す力量が残っている労組がどれだけあるかというと、いささか心許なくも思えます。
そうした反面、最近ではコンプライアンス(法令遵守)というのが盛んに言われていますが、豪腕なトップが命令していることをコンプライアンス室が妨げることができるかというと、それはそれで絶望的でしょう。
そこで、企業外の第三者機関に、是正勧告の権限を持たせる、そんな制度があってもいいのではないかと考えます。
例えば、公認会計士です。
通常、会計監査報告に「適正である」と書かれますが、そういう会社でも倒産するようなことがあります。
聞くところによると、この「適正である」は、会社がその会社のルールどおりに会計を処理していると判断できる、という意味であって、会社経営の健康度合いを云々するものではない、とのことです。
決算時に売掛金を操作したり、在庫を過大にすれば、儲かってなくても儲かっているように偽装することは可能です。その処理がルールどおりだと、発覚しません。
しかし、会計処理は適正であっても、監査の過程でその企業についての問題点を把握することは多いと思います。
ですから、そういう機関に、従業員の声、特に派遣社員や下請企業などからの情報の収集能力を持たせ、その結果を非公開で会社側に伝える、そういうシステムを作るっていうのはどうでしょうか。
なぜ非公開かというと・・・、そうじゃないと会社が費用を負担するはずがないからです。
最近は、仕事のアウトソーシングが流行っており、いわゆる“手を汚す”仕事は下請けに出して、知らんぷりを決め込むというのが増えているのではないかと、気がかりです。
そういう弱い立場の人から情報を入手するようなシステムを付け加えるのは、いかがでしょう。
セクハラなどでは外部に相談窓口を設置する企業もあります。それを企業経営そのものにも適用しよう、というアイデアです。
この「ムリチェックシステム」を託された外部窓口は、ネットで自分たちが企業からその役割を託されていることを公表します。また、クライアント企業側も、その旨を公開し、「事業運営にムリがあればここに通報するように」と、誘導します。
ネットでも、会社のブラック情報を集めるサイトがありますが、そんなところへホイホイ通報されるより、企業にとっても安心だと思います。
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古くから、「企業が本社の新社屋を落成させると、経営が傾く」ということが言われてきました。
また、事業によっては、花火のように消えてしまうものがあります。
ICチップ、ユビキタス、プラズマTV、ガラケー、ADSL、J-SaaS、RFID――、「当社はこの技術を前面に出して事業展開していく」と華々しくPRされたこれらの中で、今後息を吹き返すものは、はたしてどれだけあるのでしょうか。
技術の革新性は評価できるが、収益には繋がらない、市場での競争力はイマイチ、ということもあります。
1年か2年は、花形事業のようにもてはやされているけれども、5年もすると経費ばかりかかってお荷物になっている。かつて社の主力商品だったが、今では、累積赤字が増えるばかり。それなのに経営者は過去の栄光を捨てられない、というケースも考えられます。
最悪、社の命運を左右するような場合もあるでしょう。
そういうことって、意外と社員の方は気づいているものです。しかし、面と向かって上司には進言できない。
軽減課税にマイナンバーを使う、恐ろしく大きな梁を使った国立競技場を作る、――「はっきり言ってそれはムリ」の一言で終わったかもしれません。でも、自分より偉い人がそう言っているとなかなか反抗できないのです。
こういう部分で、「ムリチェックシステム」の活用が期待できます。
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また、私は、企業を退職した人間から、その企業についての情報を得るというのも有効な方法ではないかと思います。
一般的に、良い社員は退職しても会社の悪口を周りに話したりしませんし、辞めてく会社に何か言っても得にはならないことも承知していますから、あまり批判をしようとはしないものです。
しかし、辞めていく理由というのはあるものです。逆に、辞めてみてはじめて気づく良さというものもあります。そういう情報を集めるのも、何かの足しになるのではないかと、考えているのですが・・・。
辞めちゃった人間がこんなこと言っても、仕方が無いかな・・・。
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