月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『DNA731』

 

 第19話 1954年 『あんたのためじゃないんだからね!』

 古都、長沙(ちょうさ)は、揚子江の南にあって、瀏陽河と撈刀河が交差する。

 国民軍が長沙大火を起こした曰く付きの街で、比較的、親日が多かった。

 

 三式指揮連絡機が装甲列車脇の草原に着陸する、

 鉄道と連絡機は大陸支配の要であり、和王朝支配の象徴だった。

 「少将。前方異常なしです」

 「そうか。では、5分後に出発する」

 「よろしいですか」

 将官が声をかけた相手は、ラウンジでお茶を飲み、窓から外を見ていた。

 「大陸に御所を作るのは、いいことなのだろうか」

 「大陸に御所を作るのは善悪でなく、公務であると存じます」

 天皇陛下の兄弟は、与えられた代行に辟易していた。

 車窓から見る風景は大陸の広大さと、

 日本人が切り開いた取り返しのつかない歴史だった。

 『いったいどこの馬鹿が・・・』

 そう、日本軍が大陸を侵略した現実は、町や村のそこかしこにあり、

 仮に天皇本人に大陸支配の野心が微塵もなかったとしても

 憲法上、責任は天皇に起因する。

 結局、軍官僚と軍属は、保身と組織拡大のため天皇の権威を利用し、

 日本国民を酷使し、大陸を支配させてしまった。

 もっとも、エゴと暴走の果ての成功は、自らの首を絞め、

 大陸支配と同時に軍組織は維持しえなくなり、

 軍組織と軍組織は縮小され、国権も議会に奪い返され、

 いまでは大陸の治安維持を守る内務省の天下となっていた。

 「閣下。午後は、和漢学校で学生たちとの懇談の予定です」

 「そうか・・・」

 全ての予定が組まれ、事前に根回しがなされていた。

 そこにはアドリブはなく、決められた台本があるだけだった。

 大陸はギラギラとした個性を主張する世界だというのに、

 日本人は個性を殺す型にはまった社会を押し付けようとしている。

 足して割れば丁度いいのだろうか、

 しかし、和漢貴族の強制労働は反社会勢力の一掃を名目に反和漢貴族を淘汰し、

 自己の勢力拡大に利用してるという。

 そして、日本と共同大陸管理の和漢貴族を罰することは難しく、

 和漢貴族を弱体化させる民主化は日本権益の喪失につながる。

 むしろ、融和しきれず破綻する公算が大きくなりそうな気もした。

 大陸権益ごと白人世界に売り渡し、

 日本が白人世界の重要に応える形で日本経済が生き残る選択肢もあり得たはず、

 しかし、その分岐ははるか過去に通り過ぎ、

 いまは、侵略を正当化する外道な政策しか残されていない、

 そして、外道を王道だと嘯き、欧米列強を覇道だと言い張る無恥ぶり、

 少なくとも大陸支配で日本は余力を失っており、

 外征する力を失っているのが救いといえた。

 「時に・・・」

 「はっ」

 「日本人と漢民族は上手くいってるのか」

 「はぁ 油断ならない民族ですが、和漢が結束するには共通の敵を必要とします」

 「反政府勢力がなくなると和漢の摩擦が増えるかと・・・」

 「共通の敵? 公共事業の邪魔になる人々に難癖付けつけ」

 「反政府勢力に仕立てあげてるだけじゃないのかね」

 「敵は身内に緊張感と統一を保たせる必要悪。政治的な特効薬かと・・・」

 「内輪の紛争は、ほどほどにして欲しいな」

 「ですが、大和連邦は単一民族ではなくなっておりまして」

 「敵を必要とするほど、和漢の格差が大きいといえます」

 「・・・・」 ため息

 

 

 和漢学校

 とある教室

  「朝鮮人は清国の腐敗を知り、東アジアの安寧のため日本と協力するため韓日合併に応じたニダ」

  「韓日両民は、結束し、大陸を教育するニダ」

  「それは天が定めた運命ニダ」

  「特に半島の朝鮮人は列島日本民族と大陸漢民族の中間民族であり」

  「大和連邦の中心。東アジア統合の要ニダ」

  「朝鮮民族がいなければ、大和連邦は崩壊ニダ」

  「大陸を侵略した日本人は漢民族を滅ぼそうとしてるニダ」

  「日本人を説き伏せ、蛮行を防ぎ漢民族を守ってきたのは朝鮮人ニダ」

  「これからも朝鮮人は、漢民族を守ってあげるニダ」

  「朝鮮人を信じて付いてくるニダ」

  「「「「・・・・・」」」」

 

 職員室

  「朝鮮人は列島と大陸の中間の半島ニダ」

  「だから列島の事、大陸の事、よく知ってるニダ」

  「大陸支配は大変ニダ」

  「漢民族は、日本人を憎んでるニダ」

  「漢民族は日本人の寝首を斯くため、常にナイフを研いでるニダ」

  「中国人は残虐ですぐ裏切るから信用してはいけないニダ」

  「日本人は漢民族と仲良くしない方がいいニダ」

  「日本人は、もっと漢民族を虐めるくらいがいいニダ」

  「朝鮮人は大陸支配に関わっていないから、中国人に信頼されているニダ」

  「だから、朝鮮人が日本人と漢民族の間を取り持ってあげるニダ」

  「きっと、上手くいくニダ。朝鮮人を信じるニダ」

  「「「「・・・・・」」」」 

 

  とある教室

  テープレコーダーのスイッチが押され・・・

  “朝鮮人は、清国の腐敗を知り、東アジアの安寧のため・・・・”

  “朝鮮人は列島と大陸の中間の半島ニダ・・・”

  「・・・というわけで、朝鮮人は、注意しましょう」

  「「「「アイヤー」」」」

 

 

 

 遼東半島の西の渤海(7万8000ku)は平均水深は25mだった。

 遼東半島の東の黄海は平均水深44m。

 将来的には、遼東半島と山東半島を結ぶ海底トンネルが計画され、

 大陸と列島に挟まれた深度200mほどの大陸棚が広がり、

 大陸棚開発が目論まれたものの、

 当面は、技術開発を兼ねた海底トンネルが計画され、

 山東半島海岸から一番近い島に向かって防弾ガラスで覆われたアーチ型の通路が延びていく、

 漢民族は、珍しげに海中の道を歩き、

 日本人はなぜ、日本本土でないのかと剝れながら歩いた。

 「本当は沖縄だったんだけど。大陸に取られた」

 「和漢貴族のゴリ押しか」

 「人件費が安いから維持費も安いし」

 「養殖を兼ねた海底牧場も作ってるらしい」

 「沖縄の方が海が綺麗なんだぞ」

 「綺麗な海で観光より、集客と魚群の実利なんだと」

 海底に漁礁が作られ、淡い光が灯され、潜水夫がイルカに餌付けしていた。

 周囲を魚群の群れが幾つも泳いでいた。

 ここで投網したら豊漁だろう。

 「・・・私腹を肥やせないなら、公益で実利を追いやがるからな」

 「山東半島と遼東半島を結べるのなら将来的な利益も莫大だそうだ」

 「和漢貴族は金払いがいいし、人件費と集客を出されたら勝ち目はないな」

 「あいつら民衆の力を殺ぐことばかり」

 「生かさず殺さずじゃなくて、どうやって殺すかだからな」

 「やっぱり民衆が力を付けると殺されるとか思ってるんだろうか」

 「相当殺戮したらしいからな。庶民の憎しみと復讐を逸らすことばかり考えてるよ」

 「ふっ 権力交代で墓を暴きたくなる気持ちもわかるね」

 「墓は、内地に作ろう」

 「俺のは、北海道に残してるよ」

 「それがあったか・・・」

 「そういや、和漢貴族も日本に墓を作ろうとしてたな」

 「あいつら列島を陵墓にする気だな」

 

 旧式船を改装し、鉄筋コンクリートで覆い沈めてしまう。

 安上がりな海底建造物となった。

 電力は陸上からの送電ケーブルに頼り、

 発電を利用して淡水させ水を得ることができた。、

 潜水艦教育課程、

 あるいは養殖関連の海中生活者が増大知るにつれ、

 海洋産業の需要が高まり、海底に店が作られ、

 海底ホテル、海底ハウスの建造が軌道に乗り、

 世界初の海底都市が渤海と黄海の間に作られようとしていた。

 そして、それらの海底施設に紛れ、

 シグマキャリアの研究施設も作られていた。

 2本脚の生えたイザナミ型潜水艇が器用に海中を歩いていく、

 「振動が大きいな」

 「排水します」

 「いや、スプリングの反応をもう少し見たい」

 「海中を移動するのならスクリューの方がいいのですが」

 「足は、マニピュレーターとしての機能も持たせてるし」

 「海中作業用なら足だけじゃなく、手も欲しいくらいだ」

 「作業が複雑になりそうですね」

 「まぁ 大きくなると重量を支えるマニピュレーターを強靭にしなければならなくなるし」

 「必然的に大型になるから、乗員も増やすことに・・・」

 「堂々巡りですか。いっそのことキャタピラが良かったのでは?」

 「海中は、海水の比重と体積分の海水の分だけ質量が軽くなるからね」

 「複雑な作業もさせたいからキャタピラは建設か、掘削仕様になりそうだな」

 「さらに海底の起伏を考えると一概にキャタピラがいいと言いきれない」

 「どちらにせよ。試作試験の段階だからな」

 

 渤海 第7海底区画カプセル

 基本的に海中の出入り口は施設の下にあった。

 直径2mほどの海面からイザナギが頭を出した。

 「どうだった?」

 「やはり、海中で血を流した方が、全周囲が見えるような感じで、感度がいいですよ」

 「サメが寄ってきて面倒でしたけどね」

 「イザナギならサメを楽に撃退できるはずだ」

 「ええ、その代わり、探知が妨害されますね」

 「使えるようで使えんな。血の力・・・」

 「小型潜水艦でも大型潜水艦以上のソナー探知力と思えば安いものでは?」

 「まぁ 海中戦は、それが半分と言えなくもない」

 「残りの半分は、推進機関か」

 「原子力発電は、これからかな」

 「遅れているのでは?」

 「アメリカとドイツが競り合ってるようだ」

 「日本は?」

 「原子力機関の研究は4カ国じゃ最下位かな。下手をするとイギリスに負けてる」

 「何をのんきな」

 「公共施設建設で新規開発は後回しなのでしょう」

 「大陸は近代化以前だからな」

 「列島も都市を除けば・・・」

 「軍事傾注のツケか・・・」

 「どちらにしろ、小型潜水艦で原子炉は無理だ」

 「それに中心になるシグマキャリアを大陸支配に取られてるからな」

 

 

 インド大陸で銃撃戦が起きていた。

 イギリスは戦後再建のため、インド支配の継続を欲し、

 反発するインド軍と交戦状態となっていく、

 36000t級戦艦プリンス・オブ・ウェールズの艦砲射撃が反乱軍陣地の広陵を粉砕していく、

 艦橋

 イギリス将校のほか、

 イギリス外交官と東洋人が戦況を見ていた。

 「戦艦の砲撃は凄まじいある・・・」

 「まさか華僑がイギリスのインド支配に協力的だとは・・・」

 「インドは華僑が進出できない市場だったある」

 「イギリスのインド再支配が成功した暁には利権が欲しいある」

 「わかってます」

 「意外に気前がいいある」

 「インドを失うくらいなら華僑に利権の一部を分けるくらい・・・」

 「しかし、大和連邦もイギリスを支持してると考えていいのだろうか」

 「見て見ぬ振りある」

 「インドが独立すれば、中華の独立機運も強くなると?」

 「そうかもしれないある」

 「そうなると、和漢貴族も困ったことになる?」

 「そうある。日本人のためじゃないある」

 「「「「・・・・」」」」

 中国系外人部隊は、イギリス軍隷下軍として上陸し、

 イギリスのインド支配を支援していく、

 

 

 アメリカは、軍需景気と戦中に得た利権で不況を乗り切り、

 戦後も欧州再建需要と東アジア巨大市場の大和との交易で経済成長を続けていた。

 経済成長は、企業が個人から生産力を奪い労働者とする事で成し遂げられるため、

 必然的に貧富の格差を作り、

 格差は犯罪を誘発させアメリカ社会に暗い影を落としていく、

 カリフォルニア州サンフランシスコは、東京からの空路が整備され、

 中島6発旅客機の富岳、

 ダグラス4発旅客機DC6、ボーイング4発旅客機377が飛行場を離着陸し、

 港湾には、大和連邦の貨客船が停泊し、中国人たちがタラップを降りる、

 「凄いある。アメリカある」

 「大和のパスポートがあれば世界中に行けるある」

 「行けない世界がないある。好きなところに行けるある」

 大陸は犯罪歴がないことを条件にパスポートを発行していた。

 もっとも大陸の検挙率は、低いのだが・・・

 和漢貴族は大和の強いパスポートで海外に私腹を潜ませてリスク回避し、

 華僑ネットワークは全世界に広がっていく、

 各国の国民は表社会にはびこる日本人と

 裏社会にはびこる中国人の気質の違いで混乱し、

 日本人と中国人、中間種の和漢人を分けていく、

 イタリアンマフィアとチャイナマフィアの抗争は、徐々にではあるが拡大傾向を示し・・・

 カリフォルニア警察

 「おい、銃撃戦の証人に日本人がいたぞ」

 「「「「おおーー」」」」

 アメリカ人警察官が集まり始めた。

 「おい、日本人はどうやってチャイナマフィアを押さえてる」

 「・・・・」 ぼんやり

 「日本人は、どうやって、チャイナマフィアを押さえてるんだ?」

 「銃撃戦の証言では?」

 「そんなもん、ほかの証人に聞くから、どうでもいい」

 「そうそう、日本警察は、どうやってチャイナマフィアの犯罪を押さえてるか教えろ」

 「さぁ」

 「チャイナマフィアは、日本の特高を怖がってるそうじゃないか」

 「そうだ。なにか、秘密があるはずだ」

 「たぶん、特高が白色テロしてるからじゃ・・・」

 「そうか・・・やっぱりな・・・」

 「おれたち人権を守る主義だからな」

 「人種差別するのに?」

 「特高は、どうやって、白色テロしてるんだ」

 『おい、聞けよ』

 「・・・自分はビジネスマンですから、そんなもん知りませんよ」

 「日本人と中国人は結託してるのか?」

 「まさか。中国人は個人技。日本人はチームワークですから」

 「そうなんだよな・・・」

 「しかし、日本人と中国人が組んだビジネスは、成功率が高いそうじゃないか」

 「中国人に騙されなければね」

 「そうなんだよな・・・」 しみじみ

 『こいつらも嫌な目に遭ってるんだな・・・』

 

 

 

 大陸は弱肉強食の気風が強く、狡猾であることが求められ、

 列島は官製談合の事勿れが強く誠実であることが求められた。

 両者の気風の違いは民族性となって性格を形作っていく、

 また、漢文は同じでも方言で発音が違って、

 列島と大陸の取引量が増大するにつれ混乱も増大していく、

 そう、国益を錦の御旗とし、組織の結束と聖域化を考えればいい官僚や、

 愛国と国防権益に嵌まり込んだ偏狭な軍属と違い、

 一般企業は、国境を越えようと越えまいと

 商品を買って貰える間、企業の存続と収益に繋がった。

 そして、一般生産は、大和連邦のGDPの96パーセントを占め国家歳入の財源となっていた。

 「・・・はぁ ポンプの口が合わない?」

 「設計ミスある」

 「信用問題だ。返品してもらって、金を返して、謝るしかないな」

 「それ駄目駄目ある」

 「正直は美徳でしょ」

 「日本で尊敬されても、大陸じゃ馬鹿ある」

 「じゃ どうするんだよ」

 「任せるある」

 焦点となる利権で衝突し・・・

 ・・・・・

 ・・・

 「不良品の代わりに園芸用ポンプを3割引きで売ったある」

 「あれ、旧式で出力が足りないやつだろう」

 「半分の高さなら大丈夫ある、売れたある♪」

 「「「「いいんだろうか・・・・」」」」 

 日本人と中国人は、抗争と妥協を経ながら問題を解決し? 収束させていく、

 

 

 

 国家は外敵に対し必要に応じて、

 あるいは外圧に対し不必要であっても内圧の欲求に応じ兵装を更新する、

 そして、大和連邦は、海洋島礁防衛型から大陸国境防衛型の国防への変化を求められ、

 必要に応じて更新がされていく、

 兵装をどういうコンセプトでデザインしていくか、

 将兵が携帯する小火器から組み上げられていくか、

 戦場を支配する兵器を中心に構築されていくか、

 マクロであれ、ミクロであれ、

 その時の予算配分、科学技術工業、国情、

 そして、担当の軍官僚によって決められてしまう。

 大和連邦の兵装が内敵の反乱鎮圧を主眼とし、

 威力より弾数となったのは、国情からやむなきことといえた。

 特高を中心とした圧力で8式自動砲(20mm×124)、

 ベレッタM1951(9mm×19)、H&K MP5(9mm×19)が決まり、

 国産企業の圧力から

 8式機関銃(6.5mm×50)、8式自動小銃(6.5mm×50)の開発と装備が決まる、

 そして、擲弾筒とパンツァーファウスト、パンツァーシュレックが改良されつつ継承されてしまう。

 また、仮想敵が便衣兵としたことから

 制服と軍服の防弾機能が強化され、

 ボディアーマー化が検討され開発されていく、

 携行重量の増大により疲労の蓄積は増大し、

 活動時間と移動距離は制限され、機械化による支援が求められていく、

 結果的に装甲兵員輸送車 “カメ”(SdKfz251)の後継、 “ウサギ”(SdKfz451)の配備も増えていく、

  重量 馬力 全長×全幅×全高 速度 航続力 乗員+兵員 武装 装甲  
SdKfz251 7.81 100hp 5.80×2.10×1.75 52.5km/h 300km 2+10 なし 6〜14.5mm 半装軌
SdKfz451 15 300hp 5.80×2.90×2.21 60km/h 300km 4+6 20mm×1 6〜14.5mm 装軌

 赤レンガの住人たち

 「新型は、ずいぶん、静かじゃないか」

 「内務省のゴリ押しでエンジンを防音材と遮音材で包みましたからね」

 「襲撃車だな」

 「沿線の治安から道路沿いの治安に移行らしいですよ」

 「煙幕弾と催涙弾で昼間でも突入できるとか」

 「ちっ 我田引水しやがって」

 「内務省の方がお金持ちですから、本家ドイツ軍も同じものを使ってるそうです」

 「向こうもパルチザン対策なのだろう」

 

 

 

 満州

 塀の内側の楽園でエウェンクの子供たちが走り回っていた。

 戦後、国際緊張が薄れたためか、

 責任を取りたくない上層部は、人体実験から手を引き、

 731部隊は、エウェンク族を中心とした門閥となっていく、

 戸籍が偽造され、

 子供たちは、理想的な環境と適度な運動、適度な教育により、

 その言動と思考は、日本人と変わらない、

 元々 ツングース族は、元々日本人と身体的な差異の少なく、

 子供の代になるとツングース族特有のモノは半減していた。

 石井731機関の医者たち

 「血液のジェル化で保存日数が増えますから、汎用性が増しそうですね」

 「血液の特性を維持しながらは、なかなか、大変だったがね」

 「一般医療の治療でも血液のジェル化は流用できるそうですよ」

 「機密だからどうしたものか・・・」

 「困難でもドイツ、アメリカならやれるでしょう。時間の問題です」

 「ま、日本医療も列強と並ぶという国民的な気概も欲しいし」

 「エウェンクの秘密が漏れない程度なら公開しても構わないだろう」

 「アメリカ、ドイツ、イギリス、ソビエトは、機密に気付いてる節があるようですが」

 「現物さえ渡らなければ、推測に過ぎんよ」

 「欧米は実地な日本人と違って、理詰めの推論で動けることが気がかりです」

 「そういえば、白人が増えてるな」

 「アメリカ西海岸は大和連邦との取引でビルが建ち並びつつあるようですし」

 「大和大陸に取り付いた欧米資本は、盛んにコネクションを作ってるようです」

 「経済制裁をやめさせるためとはいえ、自由貿易が仇になったな」

 「大陸がなければ農産・畜産物と資源はアメリカに押し切られていたそうです・・・」

 「中将。竜崎カオルの準備が整いました」

 「そうか、シグマキャリア一個小隊を付けるし」

 「現地警察に巡回態勢を取らせよう」

 「はい」

 「あ、少尉。この最後の項目だが・・・」

 「竜崎カオルのたっての希望だと」

 「し、しかし・・・」

 「人目の付かない場所を選びます」

 「まぁ 社会勉強の一環と思えばいいか・・・」

 「しかし、現地の警察ともめないように頼むよ」

 「了解です」

 「やれやれ、子供の社会勉強のためにシグマキャリア一個小隊か・・・」

 「シグマキャリアの寿命は半年。彼は、死ぬまで」

 「それくらいの価値はありますよ」

 「まぁな、しかし、この最後の希望は倫理的にまずいだろう」

 「まぁ ずっと閉じ込めてきたのですから目を瞑るべきでは?」

 「「「・・・・」」」 ため息

 

 

 キャー!

 夜の森で少女の悲鳴が聞こえる、

 「おとなしくしやがれ!」

 少女は捕まり、

 誰も気付かず、誰の助けもないかと思われた時、

 暗闇の木陰から少年が現れた。

 「なんだ。小僧。向こうに行ってろ」

 「・・・・」 ふるふる

 「何か用か?」

 「・・・・」 こくん!

 「ふっ このエロガキが、お前はおれたちの後だ」

 「・・・・」 ふるふる

 「ほぉ・・・面白い、正義の味方か」

 「・・・・」 ふるふる

 「じゃ 何だ?」

 「カツアゲ・・・」

 「「「「はぁああ〜!!!」」」」

 HCBンDCだぜRSつYPL。んHFCGXDふぁZRTSTっゆG。

 頭一つの背の高い男たちがボロボロになって転がり、

 少年は男たちの懐を弄って財布を集めていく、

 「お姉ちゃん・・・」

 目の前に手が出され、

 「わ、わたしも?」

 「・・・・」 こくん

 「た、助けてくれたんじゃないの?」

 「・・・・」 ふるふる

 「・・・・・」

 「カツアゲ・・・」

 「そう・・・」

 少女は諦め、

 ポケットから、なけなしの56円を出して少年の掌に乗せる、

 「じゃ おやすみ」

 「あ、あのぉ・・・家まで送ってくれたら、あと50円あげるわ」

 「・・・・」 こくん

 通い慣れた森の小道、

 しかし、街の男たちに襲われた直後は、不気味で不安な森でしかなかった。

 少なくとも右斜め後ろにいる得体のしれない少年が一緒にいると心強かった。

 例え、自分の目線辺りに少年の頭部があったとしても、

 そして、別の襲撃者が現れても、先に少年のカツアゲに遭うだろう。

 「わたしね。君塚ヒトミっていうの、君は?」

 「カツアゲ・・・」

 「それは仕事でしょ 名前よ、名前」

 「・・・・」 ふるふる

 「まぁ カツアゲする人が名前を言うわけないか」

 「・・・・」

 「でもカツアゲしてる割にいい服ね。どこかの御曹司よ」

 「・・・・」

 「その服、仕立てで生地は絹でしょ」

 「・・・・」

 「わたし、洋服屋で働いてるから知ってるんだ」

 「・・・・」

 

 森の中の一軒家が少女の家だった。

 少年は戸口で止まり、

 「あ、入って」

 「・・・・」 ふるふる

 「お茶を入れるわ」

 「・・・・」 ふるふる

 「そう・・・」

 少女は無性に寂しく怖い思いをしてるのだが、

 少年はどうでもいいらしい。

 少年は戸口で50円を受け取ると闇の中に消えていく、

 「ヒトミ。遅かったじゃないか、どうしたんだ?」

 「お父さん」

 「何があった?」

 「森で街の男たちに襲われたけど、あの少年に助けられたの」

 「お、おい、じゃ 礼をしないと」

 「お金を支払ったわ」

 「い、いくら?」

 「んん・・・全部で、105円」

 「そ、そうか・・・」

 その金額が妥当なのかどうなのか思いあぐねてる父だった。

 少年がカツアゲしてることは秘密にしておこう。

 

 少年の前に黒い人影が現れた。

 「竜崎カオル君。気が済んだかしら」

 「うん。最後が一番ドキドキした」

 「そう」

 「カツアゲ用の服があるんだね、知らなかったよ」

 「・・・じゃ 戻りましょ」

 「・・・・」 こくん

 少年は自動車に乗り込むと森を去っていく、

 

 

 

 大陸で新たな権力構造が構築されると、

 権力闘争で敗北した者、権力構造から外れた者たちが匪賊となっていく、

 しかし、公共投資と産業の拡大は、雇用の増大に結びついた。

 そして、中国史上、類をみないほど公平公正な行政は、副次的な産業を生み、

 荒事を望まない庶民の多くは、多種多様な産業に組み込まれていく、

 企業と家は関係を強め、村単位の利害と結束を薄れさせ、

 匪賊の出現を激減させていく、

 もちろん、裏社会は、存在するものの、

 その形態は半農半賊ではなく、専門な犯罪組織となっていた。

 市役所

 列島から来た巡察官が眉を潜めていた。

 行列を捌く時間が列島より明らかに遅れていた。

 列島でさえ、行政サービスの在り方は問題視されており、

 大陸は、50パーセントも余計に時間を掛けていた。

 言語の問題はあるものの、明らかに職員が大陸化していた。

 この分では、賄賂を受け取っている可能性も大きかった。

 賄賂を常時受け取っていれば、差別化のため通常業務を手抜き化する。

 「やれやれ、ここも酷いものだ」

 「賄賂を受け取らず、仕事内容を差別化すればいいのでは?」

 「ん?」

 「つまり、配達、速達、超速達とか・・・」

 「見せしめに何人か、処分する方がいいと思うが・・・」

 「そういうの、組織で嫌われますよ」

 「組織を腐らせるか。腐った肉を削ぎ落として消毒するかだ」

 「それができていたら、日本軍は暴走しませんでしたし」

 「大陸支配なんてしませんでしたでしょう」

 「とにかく酷過ぎる。日本人と思えん」

 「内偵を進めて贈収賄が露見したら処分だ」

 「とはいえ、漢民族の行政官があれでは・・・」

 片側の漢民族職員は、ぼんやりしていた。

 賄賂を貰わない限り仕事しない、

 そういう態度だった。

 「ふっ 目の錯覚かも知れんが、日本人職員が懸命に働いているように見える」

 「くっ くっ くっ くっ」

 「戦争で負けるわけだ」

 「しかし、もっとテキパキと働いてもらいたい」

 「それは漢民族のためではない」

 「漢民族が日本人による支配が必要だと感じるほどに・・・」

 

 

 

 和漢軍第1歩兵師団

 和漢貴族の利権構造体の子弟が兵卒となって威並んでいた。

 「諸君! 特高の装甲列車が我が軍管区を巡回にくるある」

 「「「「・・・・」」」」

 「我が軍が匪賊に物資を横流ししていたこと」

 「麻薬取引に関係していた事が特高にばれたかもしれないある」

 「「「「・・・・」」」」

 「諸君! 我々 大和連邦、和漢貴族軍将兵は中国人ある」

 「しかし、地位名誉財産など、和漢貴族が世襲する特権と権益は莫大ある」

 「これらの保証は、大和連邦によってもたらせたものある」

 「そう、我々は和王朝に忠誠を誓うことによって、特権と生活の安寧が得られるある」

 「我々が命を賭けて戦い守るべきは、和漢貴族体制ある」

 「結果的にそれが和王朝の永続となったとしても」

 「それは、和王朝のためではない」

 「我々の生命と地位と名誉と財産を裏切り者の同族から守るためある」

 「アイヤー!!」

 「同族の反逆から守るためある」

 「アイヤー!!」

 「反政府勢力を一掃し、我々一人一人の豊かな権益と子孫を守るある」

 「アイヤー!!」

 「大和連邦を守るある!」

 「アイヤー!!」

 「大和連邦を守るある!!」

 「アイヤー!!!!」

 「大和連邦を守るある!!!」

 「アイヤー!!!!!」

 「特高より先に匪賊を殲滅し、証拠を隠滅ある」

 「アイヤー!!!!!」

 「そして、和漢貴族軍の手柄にして、出世につなげるある」

 「アイヤー!!!!!」

 

 

 

 中東の油田は1900年頃、確認されていた。

 その頃、列強は石炭産業が中心であり、

 石油消費は少なかったものの

 自動車、ストーブ、発電など石油消費量は増加傾向にあり、

 重油燃焼機関の艦船は、石炭燃焼の艦船より優れていた。

 油田はアメリカ、ロシア、ベネゼエラなど偏った地域に存在し、

 新たに発見されたオスマントルコの中東油田は、潜在的な可能性の高さから注目され、

 列強は石油権益を得るため中東に足場を築こうとしていた。

 好都合なことに第一次世界大戦でドイツが敗北すると、

 戦勝国のイギリス、フランス、アメリカはオスマントルコを解体させ、

 ハゲタカのように中東利権を求めていく、

 ドイツは、第二次世界大戦で勢力を盛り返し、欧州の覇権を握ったものの、

 石油は不足しがちだった。

 一方、日本も中国大陸を制し、

 大和連邦を成立させたものの、産業に必要な石油は得られないでいた。

 大和連邦とドイツ帝国は戦前と同様、石油を購入するため働かなければならなかった。

 幸運なことに開発されつつある中東の油田は、北アメリカの油田より大きく、

 世界の石油価格を押し下げるほど膨大だった。

 イギリス、フランス、オランダは、石油を輸出しなければ戦後再建がままならず。

 戦後の国際貿易は、需要と供給が成り立ち、好景気の下地が作られていた。

 そして、大和連邦の換鉄紙幣 “円” は国際的な保障が高く、

 東アジアの巨大市場と膨大な資源は、国債取引で大きな武器となり、

 工業化は列島、大陸沿岸、揚子江周辺を中心に進んでいた。

 幾つもの好条件を揃えても好景気を引き寄せる最後の力は、人だった。

 中国人の商才は国際的な販路を切り開き、

 日本人の生真面目な性品は品質の保証と生産力に繋がった。

 両民族は、不倶戴天の不幸な関係でありながらも、

 和漢の生産品は、国際的な市場に食い込むことに成功し・・・

 サウジアラビア

 『日本人のためじゃないある 日本人のためじゃないある 日本人のためじゃないある』

 『日本人のためじゃないある 日本人のためじゃないある 日本人のためじゃないある』

 『日本人のためじゃないある 日本人のためじゃないある 日本人のためじゃないある』

 「それでは、大和連邦とサウジアラビアの石油採掘権協定に調印を・・・」

 「・・・ある」

 

 

 アメリカ合衆国

 ニューヨークタイムズ本社

 「よぉ 帰ってきたのか。どうだった?」

 「ドイツは規制が強過ぎて民間活力を生かしてない」

 「俺たちには住めないね」

 「しかし、ジーンリッチの能力は驚いたよ。人的な潜在能力の高さは世界一だな」

 「じゃ 噂通りか」

 「噂以上だね」

 「大和連邦は?」

 「んん・・・何というか、いろんな可能性を見せてくれる国だったな」

 「日本人と中国人の性格の違いで、未来がどこに行くのか分からない」

 「ほぉ」

 「矛盾した力というか、人間の正と邪を日本人と中国人に分けたような・・・」

 「へぇ〜」

 「大和連邦は、和漢学校とテレビ・ラジオで日本語圏を一気に拡大させるようだ」

 「中国人は元々識字率が低かったから、意外と日本語圏が伸びるかもしれないな」

 「そんなに低いのか」

 「まぁ 贔屓目に見て識字率は20パーセントだろう」

 「中国人と日本人が文盲を取り合ってもだ」

 「話し言葉が中国語で有利だとしてもだ」

 「高水準学問の出版物は日本語に集中しているからな」

 「文盲の中国人は、どうしても日本語を覚えようとする」

 「まぁ 外資系に入って、英語、ドイツ語を覚えようとする中国人も後を絶たないな」

 「この辺が東欧と違うところか・・・じゃ 日本が有利なのか」

 「んん・・・状況的には、もう少し犯罪が増えて、独立紛争が後を絶たないはずだけどな」

 「組織化される前に日本の特高に潰されている」

 「中国人は日本人の5倍もいるだろう。日本の特高はそんなに優れてるのか?」

 「信じられないが、優れているらしい」

 「特高は、深夜に照明を破壊して奇襲するらしい」

 「匪賊が数を揃えて、待ち伏せしても勝てないそうだ」

 「まさか」

 「戦中に日本軍と戦った国民軍と共産軍の元将兵にインタビューしたがね」

 「夜と霧の時間帯に指揮系統がズタズタにされたことは一致してる」

 「んん・・・謎だな」

 「取り敢えず、大和連邦は、日本人と中国人が反発してるが安定しつつあるかな」

 「ふ〜ん」

 「ま、アメリカが一番いいよ」

 「そうだろう、そうだろう」

 

 タイプライターが叩かれ始める、

 “過去において侵略戦争は数限りなく行われ、現在の世界が存在する”

 “そのことは否定しない”

 “しかし、人類は歴史とともに理想を社会に反映させてきた”

 “そのことも否定すべきではない”

 “侵略戦争を悪としてとらえるほど、人類の精神は成長している”

 “少なくとも侵略の当事国の国民になりたくないと思うほど成長していると思いたい”

 “今世紀最大最悪の侵略が欧州と東アジアで行われ、10年が過ぎようとしている”

 

 “ドイツ帝国は、アメリカ合衆国の発祥である欧州の大半を支配している”

 “国民の多くは、強圧的な制度に隷属させられ、人権を失っている”

 “戦後、民主勢力が巻き返し法体系が変わりつつあるものの”

 “ドイツは、個人の出産から婚姻、死まで統制し”

 “その結果、優良種と呼ばれるジーンリッチ人種の人口は増加傾向にある”

 “国家は全体の利益を追求する”

 “しかし、個人の利益を過剰に阻害すべきではない”

 “ドイツ帝国は、個人の自由と平等を求めて建国されたアメリカ合衆国と”

 “合衆国国民とって、驚くべき世界といえる”

 

 “もう一つの侵略国、日本は文明の祖というべき中国大陸に侵攻し”

 “大陸を支配し、大和連邦と名乗っている”

 “大和連邦は、列島の民主制度と大陸の封建制度に分かれ”

 “大陸部の治安は安定し、近代化の兆候を見せ”

 “日本人の大陸支配は成功しているかのように見える”

 “しかし、それは、中華最悪の時期が、日本最盛期の時期と重なったからに過ぎない”

 “漢民族は、大和連邦の内側で力を付けており、着実に勢力を増している”

 “もっとも大陸に権益を持つ日本も、国力を増大させ”

 “過去において弱点であった戦略物資の多くを国内資源で賄い”

 “且つ、国外に輸出することで、さらに収益を上げている”

 “日本国内は、人口減を他所に設備投資は進み、所得は上がり繁栄している”

 “しかし、その繁栄は、軍事力によって隣人国家から強奪した繁栄であり”

 “決して日本民族の力によって得られた繁栄ではない”

 

 “真に民族の力は、戦時ではなく、平時において発揮されるべき性質のものである”

 “それは、法律、制度、行政、創造、規範、知性、交渉、連携、技術であり”

 “個々の国民の節制と良識と正義である”

 “これらで劣れば社会は劣化し、競争で負け、軽蔑され、暴力と侵略に至るのであり”

 “生かせるのであれば、社会生活は向上し。尊敬され”

 “貿易は拡大し、必要なモノは国家と国民の自制と努力によって得られ”

 “侵略に至ることもなく、国家は繁栄し、国民は豊かになるのである”

 “宗主国が行っている植民地への弾圧を含め、暴力、犯罪、侵略は決して肯定すべきではない”

 “侵略戦争は、今世紀最大最悪の侵略をもって最後にして欲しいものだ”

 

 

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 月夜裏 野々香です

 「実は、日本にイエスキリストの墓があってね」

 「それは凄いニダ。実はイエスキリストは朝鮮人だったニダ」

 「違うある」

 「漢王朝時代の商人がローマとパレスチナに伝えた古典が “イエスキリスト教の” 原典ある」

 最強の嘘は “ ” 以外、本当かもしれない中国人でしょうか (笑

 

 

 油断大敵な大陸支配と運営ですが、

 大和連邦の行く末がぼんやり見えてきたので、

 仮想戦記 『DNA731』は、第一部完にします。

 気が向いたら続きを書くかもですが、あてにしないでください。

 

 

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第18話 1953年 『箱ものイミテーションじゃ駄目ある』

第19話 1954年 『あんたのためじゃないんだからね!』 一部完