月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『DNA731』

 

 第18話 1953年 『箱ものイミテーションじゃ駄目ある』

 紫禁城

 「だから、和漢両民族の夢と希望を・・・」

 「全然駄目ある。人はイミテーションを見ても夢も希望も持たないある」

 「人が希望を持つのは実利ある」

 「人々の生活の糧となる収益を上げる産業ある」

 「しかし、公共設備で収益を上げるというのは・・・」

 「また建前あるか。もう聞きたくないある」

 「そんな御座なりな浪費をするくらいだったら、着服した方がましある」

 「「「・・・・」」」

 「和漢両民族に夢と希望を与えたいのなら産業まで引き上げるある」

 「収益が見込めるなら民間も投資するある」

 「官営は公共の福祉を優先すべきであって、営利は民間が・・・」

 「そんなの虚栄心と自己欺瞞と自己満足ある!」

 「日本人は偽善とウソばっかりある!」

 「漢民族資本も参入させるある」

 「大陸は、手抜き工事するから・・」

 「日本人の監査が厳し過ぎるからある」

 「「「・・・・」」」

 「漢民族は、もう少し、公共の利益を考えて、加工食品を作った方がいいと思うが」

 「あれは、反政府社員が独断でやったある」

 「日本人が反政府勢力の一掃を妨害してるのが原因ある」

 「会社には責任がないある」

 「このままではいくら安くても、流通と販売ルートに乗せられない」

 「もう少し、設備を近代化させて、社員の待遇改善をしてはどうだろう」

 「そ、そんなことないある」

 「反政府勢力は子供でも心が捻じれてるある」

 「“僕は、大和連邦をぶっ壊すある” とかほざいてたある」

 「子供でさえ危険分子ある。反政府勢力を一掃すれば収まる話しある!」

 「しかし、戦争は終わって・・・」

 「戦争は終わってからが肝心ある。中途半端に情けをかけるのは馬鹿ある」

 「日本人は列島があるから呆けてるある。我々は大陸に住んでるある。命がけある」

 「利益に対して命がけなんじゃ・・・」

 「当たり前ある!」

 「だいたい、大陸が列島より優れてるのは人海戦術だけある」

 「近代化で賃金を上げたらその瞬間、採算制で列島に負けて潰されるある」

 「日本は大陸の民族資本まで狙ってるある」

 「日本だって、所得倍増計画で・・・」

 「それは、弱者切り捨てで、大陸を踏み台にしてやってるある」

 「大陸はまだできないある!」

 「」

 「」

 「」

 大陸の箱モノが多少なりとも独立採算性が取り入れられ、列島にも波及していく、

 さらに大陸の流通・販売ルートで利権を日本勢が牛耳ってるため、

 和漢貴族も社員の待遇改善を強いられ・・・・

 

 

 大陸

 道路で車が止まって難儀する。

 そういった事は、木炭車なら誰でも経験することで、

 しかし、木炭車が増えると渋滞の原因になり、

 渋滞で一度、車が止まると、それがさらに渋滞の原因になった。

 最近は、木炭・電気自動車折衷型も現れ、

 取り敢えず、渋滞を避けられる場所まで移動させられる車も売られ始めていた。

 運転手は、飴玉を持ってることが多く、

 子供たちを見つけると手招きし、

 飴玉と交換に押してもらって窮地を脱することも珍しくない、

 そういった不便性を抱えながらも、木炭車は改良されつつ、

 社会生活の中に溶け込んでいた。

 「ここでいいのかい?」

 「はい、ありがとうございます」

 学生は、飴玉の代わりに車に乗りたいといい、

 半日かけて歩いて家に戻っていく、

 そういった取引も珍しくなかった。

 「ここですか」

 「ええ」

 「日本風ですな」

 「せめて家の中くらい、日本の気分を味わいたいもので・・・」

 大陸行政官の日本人の間で、現代風にアレンジされた寝殿造、書院造が好まれた。

 そして、階級格差が固定され、貧富の格差が大きくなると、メイド産業が定着する。

 質の良いメイドを持続的に確保するためにはメイド学校が必要になった。

 1886年、東京女給学院が作られて以来、同系統の学校が建立し、

 メイド産業は安定してしまう。

 とはいえ、半数は嫁入り修行産業と呼ぶべきものであり、

 近代産業の担い手を富裕層の家事に使われてはたまらぬという勢力の反発も起った。

 それは、人権の平等を目指す社会と、生産側の合理化と嫉妬が複雑に絡み、

 上層階級の傲慢と怠惰の象徴と抗争を繰り広げた結果、

 幾つもの妥協が強いられ、メイドの能力向上と多才化に伴い高待遇が求められ、

 メイド人口は縮小していく、

 しかし、封建社会を含む大和連邦成立で状況は変わる、

 和漢貴族はメイドを要求し、

 質の良いメイドと執事を国外に人身売買する算段を始める。

 また、日本人行政官と資本家も仕事に集中するためメイドを求め、

 大陸の貧富の格差はメイド産業を喚起させる呼び水となった。

 そして、交易が増大で乱立するホテルもメイドを欲した。

 これらの需要により、

 和漢学校の一部は、女給、執事(バトラー)の教科も兼ね始める。

 日本語と中国語の堪能なメイドは、通訳も兼ねて日本人の大陸支配の一役を担い、

 同時に子女教育でも有用視され、高値で取引され、

 和洋中を折衷したようなメイド服を来た中国人女性が静々と屋敷を歩く光景が見られた。

 「おかえりなさいませ、ご主人様」

 「うむ」

 「後ろの彼らは、見なかったことにしておいてくれ」

 「はい」

 「栗ようかんを人数分、用意してます」

 「そうか、書斎の方に頼むよ」

 「はい」

 書斎

 「和漢貴族たちは、メイドと執事を国外輸出する気でいる」

 「人身売買に抵抗がないとは・・・」

 「10年前は匪賊だった連中だからね」

 「それは軍閥もでしょう」

 「大きくなると軍閥。小さいと匪賊。中身は大して変わらんとしてもだ」

 「大きくなったら品格が求められてしかるべきだ」

 「各国にコネができるのは悪くないと思うが」

 「メイドと執事を誤解しちゃいかんよ」

 「仮に交渉の前段階で連絡役になったとしてもだ」

 「彼らに国や善悪は関係ないよ」

 「たとえ、右翼に売国奴扱いされようと、警察や民衆になじられようと雇い主にだけ忠実なのだ」

 「そうでなければ国内的にも国際的にも売り物にならないからね」

 「しかし、和漢貴族の人身売買に加担すると日本からバッシングされそうだ」

 「封建社会は上が強くなるし」

 「曲がりなりにも民主制を取り入れてる地域は大衆の偽善が強くなる」

 「温度差は埋まらんと思うね」

 「しかし、調整役としては、問題点を逸らしたいね」

 「だいたい器が大きくなったというのに日本国民の多くが、いまだ、日本特有の感性だからな」

 「若手はともかく」

 「先祖伝来の田んぼを耕している爺さん婆さんに国益を言っても始まらんよ」

 「若手でも大陸で一生を終えてもいい人間は少数派だよ」

 「まぁ よっぽど大きな権益があるなら別だがね」

 「問題は大陸生まれだな」

 「やはり、中国的な影響を受けてるのか?」

 「微妙に受けてる」

 「まぁ 悪い意味ではないが、日本教育である程度修正できるだろう」

 「世代ギャップが広がりそうだな」

 「日本世代と大和世代で既に始まってるよ」

 「まぁ 大陸生まれが増えて、通信と交通機関を発達させられは意識も変わるだろう」

 「だといいがね。最近は大陸の嫌悪感ばかりが募ってる」

 「移民に補助金を出すか」

 「宝くじの懸賞を大陸の土地家屋にするのもあるね」

 「それでいこう」

 「権益をもっと増やしてはどうかな。プロ野球とかプロサッカーとか」

 「プロ野球はいいと思うが。プロサッカーは野球協会の反発があるんじゃないのか」

 「和漢の軋轢を解消するためだ」

 「この際、収入減は目を瞑ってもらうべきじゃないか」

 「列島で12球団。大陸と半島で何球団必要だろう」

 「アメリカのメジャーリーグは30球団くらいあるぞ」

 「人口比だともっと多くてもいいが、一人当たりのGDPはそうもいかないな」

 「それでも、倍の24球団はいけると思う」

 「しかし、野球は人気あるのか?」

 「生きて行くために精一杯という感じだが」

 「公共の福祉の恩恵を感じさせるために文化復興させるべきだと思うね。

 「公共施設は汚く、私物は綺麗にする。大陸は徹底してるからな」

 「列島も影響を受けそうで怖いよ」

 「あははは・・・」

 

 

 ハンカ湖

 湖の97パーセントはソビエト側で、大和側は北辺の3パーセントに過ぎない、

 もっとも湖に国境線が引かれることはあまりなく、共同管理が基本だった。

 大和とソビエトは、緊張関係にあったものの、

 川や湖を挟んで釣りをする程度には、警戒レベルが下げられていた。

 国境警備隊の野営訓練は、サバイバル訓練でもあった。

 山に分け入り、蛇、蛙、虫を捕えて、調理していく、

 前線では補給が滞ることもあり、

 基本的になんでも食べられなければ生きていけない、

 無論、大陸侵攻で、なんでも食べる中国人の気質を受け継いだ側面はあるものの、

 訓練の一環として、皿の上に蛇、蛙の肉が乗せられ、虫を揚げたモノが載せられる、

 古参の将兵でもげんなりするのか、

 「ちっ 上官だからって、こういうとき、大きめのを置くんだからな」

 軍曹は、箸で摘まんだ蚕を睨みつける、

 「何度、見ても、ぞっとしますね。除隊したくなりますよ」

 「中国じゃ 小学生くらいの女の子がおやつ代わりに食べてるよ」

 「そうなんですけどね・・・」

 不意に釣り部隊の竿がしなった。

 「お・・来た!」

 チョウザメとの格闘は、軽く10分を超える、

 大物が釣れると周りも興奮し、いろいろ準備を始める、

 チョウザメが釣り上げられると〆られ、

 刺身が作られる、歯応えはフグに近く、

 白身でタンパクな味は、日本人にも好まれた。

 余った骨と内臓は揚げてもよく、頭はスープの出汁になり、

 捨てるところがないとも言われていた。

 もちろん、メスでキャビアが採れるならいうことなしといえた。

 「やっぱり、魚はいいね」

 「そうそう、久しぶりに人間に戻った気がするよ」

 「漢民族の食品売り場じゃ 蛇、蛙、虫は、普通に売ってるものだろう」

 「あんなの食ってるから人間性が薄れていくと思うね」

 「だけど、ああいうのを常食にしてる人間から見ると日本人は脆弱に見えるかも」

 

 

 

 

 フィリピン

 独立後もアメリカ権益は残され、

 アメリカ権益を守護するコレヒドール島要塞、クラーク空軍基地、スービック海軍基地が残された。

 マニラのホテル

 日本人たち

 「クラーク空軍基地は?」

 「5km四方の基地にB47爆撃機65機とF86セイバー戦闘機46機が配備されているらしい」

 「B52爆撃機は?」

 「配備は、まだのようだ」

 「多いような少ないような・・・」

 「現戦力で、難攻不落だよ」

 「日本がその気にならない限りだろう」

 「フィリピンなんて、鉄鉱石、銅、ニッケルが少し採れるだけだろう」

 「苦労して得られるものがそれじゃ 無意味」

 「徒労感か・・・最高の国防と言えるな」

 「問題は、アメリカの対日戦略がどうかってことかな」

 「いまのところ、権益防衛だけで、攻勢の意図はなさそうだ」

 「それは助かるというべきか、予算上、面白くないというべきか・・・」

 「クラーク空軍基地が拡張される予定は?」

 「アメリカ軍の予算は縮小中だし、フィリピン駐留は人気がないらしい」

 「まぁ フィリピンも独立したというのに近代化の兆しもないし、面白みのない国だからな」

 「アメリカに搾取され過ぎているからだろう」

 「部族社会で近代化に必要な官僚と学制と税制のひな型がないからじゃないか」

 「フィリピンが駐留軍費用を賄えないなら、基地は大きくならないと思うね」

 「しかし、本当に独立させるなんて、アメリカも嫌味な国だ」

 「日本は大陸を併合してるからいいとしても、イギリスとオランダは剝れてるだろうな」

 「併合してても格差があって支配しているだけなら植民地と同じだと思われてる」

 「虐殺してるのは、和漢貴族だろう」

 「責任を負えないのなら統一国家として3流だろう」

 「ったくぅ だから統合に反対したんだ」

 「みんな、大陸のポストと利権に狂ってたからね」

 「アホどもが・・・」

 

 

 

 崑崙・高天原

 崑崙高天原場所と銘打った相撲巡業が行われていた。

 「思ったより動きがいいな」

 「室内の酸素濃度を低地並みにしてるからね」

 「問題は中国人の反応じゃないかな」

 「んん・・・中国は、シュアイジャオ(角力)があるから、いまひとつかな」

 「多数決で相撲が国技として残るか怪しいね」

 「だから必死に巡業して回ってんだろう」

 「もし国技から外されて民族技になったら荒れるかもな」

 「分離独立を言いだすかも」

 「それは困る」

 「戦争で負けてたら気にならなかったかもしれないけど」

 「戦争に勝って大陸利権が転がり込んだからな」

 「軍と軍属の利益のために庶民は徴兵され、殺されたことになる」

 「国益が庶民に転換されるまでタイムラグはあるし」

 「当然、中間搾取もあるよ。それは仕方がないことだろう」

 「それじゃ 軍と軍属不信も仕方がないことだろうな」

 「戦後、国権を政府と議会に返したとしても軍・軍属不信は大きいからね」

 

 

 

 パンターJ戦車が配備されている地域は、列島、満州、四川省の3地域と、

 重慶、武漢、上海、宜昌など重要な都市のみだった。

 その数は少なく、

 陸戦の主力は、装甲列車と軌道4号戦車と装甲車だけであり、

 治安維持軍と呼べる程度のモノでしかなかった。

 本来、外敵を持って国内の不満分子の目を逸らし、

 挙国一致させてきた政治手法が大陸を併合したことで通用しなくなった。

 外敵の存在、外憂は、即、内患を招く恐れがあった。

 四川省

 日本人の積極的な移民と大規模な農業機械の投入により、

 紫色土の台地に水田が広がる、

 周囲を山脈に囲まれた要害で天府と呼ばれ、

 崑崙高天原を開発する拠点であり、

 日本圏が作られようとしていた。

 揚子江と揚子江線の大動脈は、まだか細く思われていたものの、

 和漢貴族は表面上味方であり、

 中国民衆も敵対染みた運動はしていなかった。

 極東ソビエト軍から遠いため安全保障も高く、移民先で人気があった。

 某キリスト教教会

 中国人信者が集まってくる、

 大和連邦の信教の自由は、経済制裁の撤廃の条件の一つとして認めさせていた。

 当然、キリスト教会の一部は、列強の情報源ともなっていた。

 懺悔室に白人が座って告白する。

 「日本の様子は?」

 「文化とスポーツ。娯楽産業に予算をかけてるようです」

 「どうやら近代国家、多民族国家での国民の縛り方を学んだようだ」

 「たんにアメリカの真似をしているのでしょう」

 「とはいえ、アメリカも黒人の暴動は、社会問題だがな」

 「参戦で黒人の社会的な地位を上げられませんでしたからね」

 「黒人の地位向上は望まないとはいえ、限界を超えてるからな」

 「ところで、和漢分断は?」

 「日本人と和漢貴族の閨閥化は進んでますし」

 「元々 日本と中国の文化的な差別意識は低いので、白人と黒人ほどじゃないようです」

 「しかし、争っている」

 「日本人と中国人が争ってる要因の多くは、無知と人格的な衝突と思われます」

 「日中統合は、欧米諸国にとって悪夢だ」

 「日本主導の東アジア統一は最悪のシナリオに分類される」

 「当面は、軍事的脅威とはなりえないと思いますが」

 「むしろ、足元を固めず軍事的に暴走してくれた方が助かるね」

 「そうですね・・・日本の組織は、どこも同じ我田引水です」

 「権力抗争で必然的に派閥が生まれ」

 「視点は低く視野も狭くなる傾向にあるようです」

 「軍と軍属も同じで結論ありきの主義者です」

 「慣れ合いながら浪花節で威勢が良く、単純でまとまり安い意見に落ち着きます」

 「端的に言うとキャリアシステムと年功序列と派閥原理」

 「後は利益誘導で馬鹿な言い分に偏り気味です」

 「問題は、日本国民が軍と軍属を警戒していることで」

 「これは、日清戦争後、日露戦争後の厭戦機運でも起きたことですから予定調和と言えるでしょう」

 「今回は、大陸統合により内務省が日本の最大勢力となりましたので」

 「より強い縛りで軍と軍属が抑えられているようです」

 「大和連邦の国防政策は?」

 「対ソ戦で満州・半島域の国防産業が大きくなるようです」

 「そして、四川省と崑崙高天原の国防産業の開発でしょうか」

 「自立できそうなのか?」

 「日本は、四川盆地と崑崙高天原の国防産業だけで大陸支配を可能にする動きがあります」

 「大陸を挟み打ちか・・・」

 「問題は人口比でしょうか。日本人の移民は低迷しつつあります」

 「まぁ 列島の産業を維持するための人口も必要だし」

 「地主は水飲み百姓を手放したくなくなるし」

 「家族持ちは、よほどの利権がなければ動かないだろうな」

 「利権は、ありますよ。少なくとも持家ですし、自分の土地を耕せますし」

 「それも余裕で生きていけるほどの土地のようです」

 「中国人は、それだけ多くの土地を奪われたわけか」

 「というより、殺した。でしょうね」

 「和漢貴族は、地位と名誉と財産を守るため、積極的に日本人の移民を足した形跡がありますし」

 「売国奴が・・・」

 「最下層の匪賊が既成の利権構造を覆して権力の座に付くというのはそういうことですよ」

 「中央の不正腐敗と不信だけじゃ足りませんし」

 「日本軍を後ろ盾に目障りな者は消せですよ」

 「日本軍は、殺戮を見逃したということか」

 「むしろ見逃さなければ、大和連邦も成立しなかったでしょうね」

 「つまり、風魔部隊だけではないと・・・」

 「あんなもの日本軍と和漢軍との共闘に比べたら、ただの切っ掛けに過ぎませんよ」

 「日本人は、潔癖症の偽善者だとばかり思っていたが・・・」

 「まぁ 日本の大陸軍将兵は変質しつつありましたからね」

 「取り敢えず、信者から民衆の気持ちを吸い上げてくれ」

 「わかっていますよ。その代わり支援をよろしく」

 「ああ、クリスマスには、バスを何台か寄付させよう」

 「あと信者用に服とパンと牛を・・・」

 「わかったよ」

 「ありがとうございます」

 古今東西、膠着化した社会を壊す方法は、外圧と内圧の二つがあった。

 外圧の代表は、戦争であり、

 内圧の代表は、内戦、内乱、紛争、権力闘争、革命だった。

 無論、結果が悪くなることもあり、

 一概に改革がいいというわけでもない。

 しかし、大和連邦は成立し、既に機能しつつあり、

 最悪なことに生産力は年々向上していた。

 そして、その機能を助けていたのもアメリカ資本だった。

 外に出るとアメリカ系巨大モールが作られ、

 駐車場には木炭車が並ぶ、

 大和連邦はアメリカの経済制裁を用心してか、

 ガソリン車とディーゼル車は、公用車か、産業用に限られ、

 可能な限り石油に依存しない産業構造を構築させていた。

 広告を見るとアメリカ系、ドイツ系に並び、日本の医療品の広告も拮抗している、

 日本の医薬品はやや弱いといわれていたが、

 人体実験で日本医療は列強の水準に近付いているといってもよかった。

 

 

 

 青海湖

 海抜3205mの塩湖にウォーターフロント構想が持ち上がっていた。

 平均水深19mと浅いため、60kmにも及ぶ釣り橋を兼ねた遊歩道が計画され、

 魚種が湟魚だけでは寂しいのか、

 海産養殖用の人工塩湖が区分けされ、魚介類の養殖が始まる、

 「日本人も魚好きだね」

 「湟魚もいいけど、鮪の刺身も食いたいからね」

 「酸素が少ないけど、養殖は大丈夫か」

 「周辺の放牧と伐採を制限して、海藻とか、ミネラル分を増やせば何とかなりそうだけど」

 「生態系が破壊されるのが怖いな」

 「一応、区切って分けてるよ」

 「しかし、よくこれだけの構想になったね」

 「まぁ 実利好きな中国人に押し切られたんじゃないか」

 「どうせ、反政府主義者をでっちあげて酷使する気だな」

 「もう戦争は終わってるんだから、ほどほどにすればいいのに」

 「一度、虐殺すると恐怖心で、相手が消えるまで虐殺し続けなければならなくなるからな」

 「公共事業が利用されると思うと泣けてくるよ」

 

 

 組織が縮小にある時、地位とポストは減らされ、

 能力があっても派閥力学で弾き出され、

 努力してもヤッカミで弾き出される。

 受け皿は大陸にあり、多くの元軍人と元軍属が肩を叩かれ異動していた。

 赤レンガの住人たちは、新刊 “大和連邦戦記” を面白がる。

 「ふっ この作家は軍組織を知らないな」

 「軍組織に幻想を抱く連中は多いからな」

 「これを読んだら。元軍人は失笑するし」

 「知らない若者に希望を抱かせて入隊させ失望させる」

 「現役は?」

 「まぁ 階級にもよるけど面白がるか、バカバカしくて捨てるだろうな」

 「嘘で国威高揚してもギャップが大き過ぎたら白けるだけだし」

 「現実を知るほど失望感が大きくなって士気の低下を招くな」

 「今回の現実は、師団当たりのシグマキャリアは2人増えて、40人です」

 「どうして、シグマキャリアの割り当て折衝が上手くいかない?」

 「闇経済が膨れ上がってるからでしょう」

 「漢民族のアウトローは増えていますし」

 「シグマキャリアがいないと大陸支配は不可能だそうです」

 「こっちはシグマキャリアがいないと大陸防衛はできないよ」

 「単純計算で5000両の戦車が必要なのに3分の1以下だ」

 「対戦車多弾頭搭載の装甲列車100隊でも十分では?」

 「数で十分とは言えないし、線路に固定されていたら、即撃破されるよ」

 「しかし、装甲列車の方が涼しいから将兵に人気がある」

 「満州配備はともかく。大陸中部のパンターJは、砲弾を減らしてエアコンを装備してるだろう」

 「それでも、装甲列車の方が広いから人気があるのさ」

 「平和な証拠か・・・」

 

 

 

 ハルピン 空軍基地

 雷風は、MeP1111をモデルベーステストに開発されていた。

 ただし、ドイツよりも戦域が広いことから迎撃機というより、

 制空戦闘機として開発され、

 航続距離が求められた結果、拡大改良型の双発機になってしまう。

  自重5200kg/全備重9000kg  全長10.7m×全幅11m×全高3m 翼面積42u

  Junkers‐Jumo009推力4800kg×2 速度2000km/h 航続距離1800km

  25mm×3  X9ミサイル4発

 関係者たち

 「ようやくジェット戦闘機か・・・」

 「エンジンが外国製なのがいただけない」

 「国産だと耐久時間がドイツの4分の1だからな」

 「だから、もっと金を注ぎ込めよ」

 「消費財の生産で漢民族資本に負けたくないんだよ」

 「もう、日本民族は戦闘民族で、生産は中国人にやらせればいいのに・・・」

 「いや、それは流石にまずいだろう」

 「空軍はまだいいけど、陸軍の主力は和漢軍の督戦隊と囚人部隊だからな」

 「装備がパンツァーファウスト、軽機関銃、小銃、擲弾筒に足錠だぜ」

 「もう、泣けてくるって話しだ」

 「いまの予算比なら経済不振になっても責任は軍事費にないし」

 「陸軍から主戦派が消えたのは悪くないよ」

 「それに暴走がなければ、こっちも寿命が延びる」

 

 

 満州の澄み切った空を4発爆撃機 連山改 の編隊が旋回する、

 日本空軍の戦略爆撃機は、戦略目標攻撃に使用するには数が少な過ぎた。

 しかし、侵攻された時、

 いかなる戦線であっても、百十数機の連山改が侵攻部隊の頭上に爆弾の雨を降らせる、

 そういった運用は可能であり、

 消極的と思われながらも日本空軍の指針となっていた。

 コクピット

 キリマンジャロの酸味と甘い香りがパイロットたちの眠気を押し流していく、

 中国製の磁器カップは、和漢貴族の贈物で基地に大量にあった。

 腹黒でもこういったことに卒がないのだろう。

 中国磁器は、安く手に入るせいか、有田焼は苦戦してるらしい、

 列島の優遇政策、和漢の無理な経済格差は、日本産業を弱体化させ破壊する、

 という警告も出されていた。

 「満州北辺を巡回か・・・ちょっと命がけかな」

 「戦闘機の護衛も欲しいところですね」

 「新型の雷風は待機だ。上層部は戦爆連合でソビエトを刺激したくないらしい」

 「対空ミサイルX9を装備してるから何とかなるだろう」

 「X9は命中率が怪しいですからね」

 「ドイツ製だぞ」

 「電子関連はドイツも遅れてるそうですよ」

 「電子関連か・・・そういや大和独自に開発するか、アメリカと妥協するかで騒いでたな」

 「アメリカは、大和連邦の市場を欲しがってるので妥協するかもしれませんね」

 「漢字でプログラムできなきゃ いやってか」

 「いくらなんでも、アメリカは、そこまで妥協しないでしょうけど」

 「むしろ、大和に妥協してもらって、軍に予算を回してもらいたいね」

 「そういえば、トランジスターでしたっけ、目を回すような予算だとか」

 「連山改を量産してもらった方がうれしいがね」

 「数が少ないと攻勢には使えず、迎撃防御になりますからね」

 「国境線の内側で戦うことを前提にした戦略なんて、士気上がらねぇ」

 「侵略されたら挙国一致できるそうですよ」

 「漢民族が武装蜂起しなければね」

 「国境の外側で戦っても、武装蜂起するときはするのでは?」

 「外憂内患か・・・大和連邦の戦略は、外敵を片付るより不穏分子を片付けるだからね」

 「武装蜂起してくれた方がいろいろと口実になる・・・」

 「いやな国になっちまったな」

 「大陸式防衛は、やっぱり焦土作戦でしょう」

 「馴染めねぇ」

 

 

 モータースポーツは機械のポテンシャルを最大限向上させたことは否めない、

 大和連邦では、電気自動車レース、木炭車レースなるものが行われ、

 各企業は性能向上を競っていた。

 幾つかの決まりごとが守られているか車体が確認されるとレースが始まる、

 観客席

 「のどかなレースだねぇ」

 「アメリカから石油を買えばいいのに」

 「ガソリン機関の開発で負けちゃうよ」

 「経済制裁で痛い目見たからな」

 「産業車両でも戦前の台数を軽く超えて、燃料消費は増えてるし」

 「大陸込みで経済制裁やられたら戦わずして言いなりだ」

 「大陸で石油は出ないのかね」

 「まぁ 山師に探させてんじゃないの」

 「胡散癖ぇ」

 木炭車3台が競り合いながらコーナーを回っていく、

 木炭車の最高速は、一般のガソリン車の運転速度に近かった。

 

 

 

 ドイツ帝国 ウーゼドム島 ペーネミュンデロケット基地

 A12ロケット(全高70m×直径11m(翼幅23m))が製造されつつあった。

 完成すれば10tの低軌道衛星を高度300kmまで押し上げることができた。

 「世界初の有人宇宙飛行はドイツ帝国になりそうだな」

 「アメリカは費用対効果と採算性が合わないと投資を控える傾向があるし」

 「ソビエトは、その気があっても基礎工業力で劣ってる」

 「どちらも、V2に毛が生えたようなレベルだ」

 「とはいえ、ドイツも予算が厳しいですがね」

 「ドイツは誇りを回復したとたんに経済が低迷だからな」

 「ナチスは全体主義と積極財政の借金で表面上、再建したようなものですからね」

 「企業は貸倒寸前」

 「東部戦線で死に過ぎて、就業人口は低迷してますし」

 「大和との貿易がなければ工業社会を維持できないところでした」

 「それどころか、大和の希少金属のおかげでロケットを軽量化できたようなものか」

 「しかし、技術力があると碌なこと考えない将校も現れるからな」

 「例の大陸間降下猟兵ゲシュペンストの編成か」

 「A12ロケットなら1個小隊(50人)を敵の首都にパラシュート降下させられる」

 「12〜13発も打ち上げれば一個大隊で敵官邸を強襲制圧できるという話しらしい」

 「軽装の小隊より、普通に爆弾を直撃させた方がいいと思うがな」

 「上層部の見解だと、爆弾なら救護班を呼ぶだけで済むが」

 「重要施設に小隊を降下させられたら、中隊を差し向けて鎮圧しなければならないし」

 「現地で協力者が得られるなら、さらに倍の兵力で鎮圧しなければならない」

 「その降下部隊がジーンリッチなら、さらに倍の兵力が要求されるだろうな」

 「そして、それが私服の部隊だったら1個師団で狩り出すことになる」

 「飽和攻撃できるなら、国家機能を一時的に停止させられるだろう」

 「ジーンリッチは、日本のシグマキャリア並みの活躍が期待できるのか」

 「報告にあるようなことはできないがね」

 「それでも状況判断、対処能力、戦術、動体視力、体力、どれをとっても最高水準だよ」

 「体格が理想的だからな。潜入してもすぐにばれると聞いたことがあるが」

 「その弱点は、他で埋めるしか無かろう」

 「例のパンツァクライドゥング(装甲服)で?」

 「いくらチタンでも5mmじゃな」

 「個人装備が重くなると、人数を減らさないといけなくなるだろう」

 「いっそ、少数精鋭の重機動装甲兵で奇襲がいいのでは?」

 「んん・・・個体優位でも分隊規模じゃな」

 「死角が増えるし、相互カバーしきれない、厳しかろう」

 「軽機動装甲兵の方がましか」

 「さぁな。戦訓がないと何とも言えない」

 

 

 

 夕闇が上海を覆い始めると、ビル群を中心にイルミネーションが点灯していく、

 電力供給が増大し、人々の労働が集約されるにつれ、街は不夜城と化していく、

 中心部の表通りから、周辺に向かうにつれ、治安は悪くなっていく、

 そして、照明が少なく小さくなる場所は、グレーゾーンであり、

 権力と暴力の力関係が曖昧になっていく、

 ビルが高く大きくなるほど影も長く大きくなる

 表の産業が大きくなり動く金が増え、偽善的な法律が強制されるほど、

 違法業者を養う闇経済も大きくなっていく、

 多くは寄生虫の如く、庶民にたかりながら命脈を保ち、

 彼らを雇う資金は、非合法であることから一般庶民の支払える金額を超え、

 クライアントの階層は、それだけ上の階層に限られていく、

 そして、漢民族系の闇が強くなることを恐れる特高は、エージェントを巡回させていた。

 路地裏で息を殺した男たちが壁を背にし、

 安全装置を外した拳銃を頼りに忍びよる。

 全神経は、敵の気配を探ることに費やされ、

 命を賭けた攻防は、地の利、技量、幸運によって左右される。

 一瞬の判断ミスが死を招き、

 そして、闇の中で銃声が交差する。

 

 圧政が薄れ、公正で治安が守られ、

 衣食住と職があり、税金が安ければよい、

 9割を占める庶民の願望であり、

 その願望は、最悪、異民族支配でもよく、

 民の思いは権力転覆と大虐殺の後、大和連邦成立によって叶えられてしまう、

 人は最低限の欲望が満たされるなら生きていける。

 しかし、人の欲望は、上昇志向があり、

 昨日より今日、今日より明日に希望を求める厄介な生き物といえた。

 死ぬ直前の最後の最後まで足掻き続ける漢民族の中にも自ら命を絶つ者が現れる。

 近代化と組織化は、個性を喪失させ、

 機会の均等は、個人の能力差、実力差を明確にする、

 知識の増大に伴う感性の拡大が生活の最低水準の向上を招き、

 個人の理想と社会の現実のギャップに押し潰されたともいえる。

 開発が進むほど、灰色のビル群が増え、並木道と石畳が伸び、

 人々と車の往来が増していく、

 喫茶店 “みやび”

 日本人たちが新聞を読みつつ、アイスコーヒーを口に含む、

 「上海は、なんとなく、変わってきてるな」

 「なんとなく、漢民族の当たり障りが日本人ぽくなってきたね」

 「日本人に反発してる部分と羨望してる部分が妙なコントラストを作ってるね」

 「しかし、この暑さは何とかして欲しいよ」

 「京杭(けいこう)大運河の幅を3倍に広げる計画があるから涼しくなるかも」

 「そんなに広げてどうするんだよ」

 「大型船の通航で南北中国の流通の拡大が表向きかな」

 「でも防波堤でしょ 浚渫した土砂は東側に積み上げるだろうし」

 「海水が上流まで入り込むことになるけど」

 「どうなるかなんて考えてなさそうだな」

 「だよねぇ まぁ 日本語で識字率が上がってるというし」

 「反発はあるけど脅威にはなってないし、将来的な見通しは悪くないかも」

 「若い漢民族はともかく、数世代は、反発が大きいと思うよ」

 「しかし、利己主義は嫌だね」

 「こうも大陸の文化伝統を失わせやすくさせるなんて」

 「経済中心もほどほどかな」

 「とういうより封建社会は個人の権利が制限されてる」

 「日本は、和漢貴族をけん制するため、個人の権利をある程度、容認させようとしてるし」

 「その辺の調整がうまくいってるからじゃないの」

 「特高が裏社会を押さえてるからという、噂もあるよ」

 「ふっ 眉唾だな」

 

 

 

 

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 月夜裏 野々香です

 (−日本の箱モノ公共設備) + (−中国の毒食) = ?

 マイナスとマイナスを足すとプラスになるでしょうか (笑

 いっそ食料関係はすべて日本資本に・・・

 

 

 大陸間降下猟兵ゲシュペンスト

 大陸間空挺部隊の誕生でしょうか。

 ドイツ帝国ならやりそうな気がします。

 目的達成より可能性の追求に主眼を置いてそうな人種ですから、

 

 

 

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第17話 1952年 『罪を憎んで人種を憎まず』

第18話 1953年 『箱ものイミテーションじゃ駄目ある』

第19話 1954年 『あんたのためじゃないんだからね!』