月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『DNA731』

 

 第17話 1952年 『罪を憎んで人種を憎まず』

 大和連邦の形成は、当事者の日本軍にビジョンがなく、

 協力した和漢貴族にもなかった。

 これを身近な例で例えると、結婚するまで結婚後の分担とか取り決めがなかったとか。

 社会で例えるなら、企業合併で合併側も、合併を欲した側も

 指導者の頭に合併後の構想が描かれていなかったことを意味する。

 日本の政官財は、莫大な資源と巨大市場が欲しかっただけであり、

 併合後は、さらに地位と名誉と財産を欲し、

 元・清を真似て、行政の半分を手に入れてしまっただけだった。

 欧米諸国人は

 “非理性的で計画性のない、20世紀最後で最大の衝動的な侵略”

 と称し、誹謗と中傷と嘲笑にしてしまうのだが、

 大和連邦成立後、内戦も紛争も至らず、

 徐々に治安を高め、秩序を安定させていた。

 日本の知識人は、これを称し、

 清国滅亡以前が地獄の2丁目、

 清国滅亡後が地獄の3丁目、

 大和連邦成立で地獄の1丁目に繰り上げられた、と称した。

 なにはともあれ、

 日本人と漢民族は、性格の不一致で内戦に至るという、列強の思惑は外れ、

 大和連邦は、発電量を増大、産業を近代化させて生産量を増大させ、

 交通網と販売流通を整備させ、巨大ネットワーク市場を形成していく、

 利権はたちまち膨らみ、

 海外との貿易量を含めると、史上空前の好景気となっていた。

 無論、和漢融和の国家主義派が、日本選民の民族主義派を押し切り、

 漢民族にも紙幣をばら撒かせたからに他ならない、

 「漢民族の方がお金持ちになって、後で後悔しても知らないからな」 民族主義者

 「基幹産業、生産、流通、販売網とも日本資本が押さえてるだろう」 国家主義者

 「大陸の封建社会と列島の資本民主社会は行き来を制限してるし、有利になってる」

 「どこが有利だ。漢民族は日本民族の5倍だぞ」

 「ということはだな」

 「一旦店を作ったら、漢民族系の店の集客は5倍だ」

 「日本の半分の利潤で売っても、漢民族系の店が勝てる」

 「そうなったら日本人も価格の安い漢民族系の店で買うに決まってる」

 「と、取り敢えず、地の利のいいところは抑えてるから」

 「あほか、そんなんで勝てるか」

 「どうせいっちゅんじゃ」

 「人種差別法・・」

 「馬鹿か貴様! 内戦を起こす気か」

 「アメリカだって、差別法で白人と黒人を差別してるだろうが」

 「歴史的経緯が違うだろう」

 「日本人と漢民族とは文化的な差異はほとんどない」

 「というより、歴史で負けてるし、文化も一部負けてる」

 「それに漢民族のプライドを傷つけて大和連邦が成立するか」

 「もう、日本分離独立!」

 「独立したとたん、日本経済は破綻するわい」

 「「「・・・・」」」 憮然

 大和連邦で文化・スポーツ系が重視され、大会が催されやすくなっていく、

 それは、共通のルールにより言語に頼ることなく、和漢両民族の関係を修復し、

 個人の意識から政治色、思想色を薄めさせるために他ならない、

 また勝ち負けを競うことから和漢の軋轢を違う形で昇華させ、

 格差と差別の軋轢を解消させるガス抜きにもなった。

 

 

 

 崑崙・高天原

 真っ青な空を白く掠れた雲が棚引き、

 雪を被った山岳が周囲に連なっていた。

 茶系の大地を清流が分け、

 岩肌の合間に緑の草木を茂らせていた。

 赤、白、青、黄色の花を咲かせた高山植物が斜面を覆い、

 山から吹き下ろす風が蝶、蜂の軌道を揺らせる。

 罰当たりで耳障りな機関車が煤煙を曳きながら山道を蛇行し、

 機関車が開発されつつある現場に止まると、人々が集って降ろしていく、

 交通の基幹となる青海鉄道を起点に

 勾配に強く、空気の薄い高地でも走れる副次的な交通機関、

 ケーブルカー、モノレール、トローリーバス、路面電車が整備され、

 山間を網目のように広がろうとしていた。

 日本人たち

 「空気が美味しいな」

 「というより、空気が少ない」

 「まだ2000m級で空気が薄いじゃ やっていけんな」

 「まだ上に登るのか」

 「宇宙ロケット発射基地を4000m級の台地に建設する予定だよ」

 「本当に?」

 「4000m分の燃料を浮かせられるからね」

 「日本人の移民が進むか、それを考えた方がいいと思うがね」

 「この標高なら火事になり難くていいじゃないか」

 「モノはいいようだな」

 「町の建設予定地は?」

 地図が広げられ、山間の谷間が指差される。

 「谷間全域を使っていいそうだ」

 「道路はアスファルトじゃなく、石畳でいいのか?」

 「和漢貴族は、人海戦術で石畳するつもりのようだ」

 「こんな山岳地まで・・・本気で間引きする気なんだな」

 「大陸で主権が変わると容赦ないから・・・」

 「まぁ いいか」

 「しかし、海岸線が見えないと位置確認で混乱するな」

 「住めば都とはいうけど、果たして都にできるものかどうか・・・」

 「京都並みのモノを作れって話しだけど」

 「山岳地で日本建築は、不自然じゃないか」

 「上手く、調和させてくれ」

 「日本文化は繊細で質の高いところがあるが、多様性は怪しいからな」

 「島国だからね。画一性が好きだし、出る杭は打たれやすい」

 「大陸は新天地だから。多少、新機軸を盛り込んでもいいさ」

 「しかし、文化建築は、労働力があればいいってもんじゃないぞ」

 「宮大工の資質を持ってる奴なんて何人もいない」

 「若手をもっと回せよ。少しは、新しい文化建築も作れる」

 「そんなにいるわけないだろう」

 「中国人にも手伝わせればいいさ」

 「中国風になってしまわないか」

 「いまは、中国風も大和連邦の文化だよ」

 「正直、言っていいか」

 「ん?」

 「京都より頤和園(いわえん)が上だな」

 「「「「・・・・」」」」

 

 

 

 北京

 石畳の道を木炭車が走り回り、

 路面電車が行き交う、発電効率はあまり良くないものの、

 アメリカの石油戦略に乗せられないような産業基盤が構築されていた。

 紫禁城

 南北1km、東西0.8kmの敷地が濠に囲まれ、

 灰色の敷石の上に赤色調の壁が連なる。

 敷地は列島の皇居より狭いものの、その支配域は大陸全域に及ぶ、

 代表権を持つ代理人が大陸中から集まり、立法を作っていた。

 代表の半数は在大陸日本人行政官で故宮の東側に陣取り、

 残りの半分は和漢貴族で故宮の西側に陣取っていた。

 そして、和漢双方の利害調整によって、大陸開発が進められていく、

 軍属化による分権化の強い大陸で、これほど中央集権が進んだことは、かってなかった。

 その要因を上げるなら法治政治の定着と、発達した通信網と鉄道網であり、

 日本人行政官が大陸内の格差を埋め、ニカワの役割を果たしていたからに他ならない、

 故宮の東側に日本庭園が作られ、

 日本人行政官たちが散策していた。

 「東京オリンピックは、64年になりそうらしい」

 「侵略戦争しただけでそれだけのペナルティを受けるとはね」

 「好都合といえば好都合だよ。新幹線の開通に間に合うし」

 「大和権力体制と近代化も軌道に乗る頃だ」

 「最悪なのは、日本人の比率は、オリンピック選手団の半分以下であることが望ましいんだと」

 「ちっ 相撲の世界にも入ってきてるし、マジに分離独立したくなってきた」

 「とはいえ、和漢学校を建設しても先生が足りないな」

 「どこからか、引き抜かないと・・・」

 「生産部門と運行部門は駄目だ」

 「じゃ 軍から人材を引き抜くか」

 「あまり高学歴を引き抜くとキチガイに刃物だし。師団が空中分解してしまうぞ」

 「大陸支配が伸るか反るかだというのにそんなこと言ってる場合か」

 「陸軍を半分解体してもやるべきだろう」

 「ほかに引き抜ける部署があればいいのだが」

 「近代化が遅れる」

 「それに和漢の姻戚化が進んでる」

 「それも、いろいろ厄介といえば厄介だな」

 「元々5倍もの人口を統治するのが無理だったのでは?」

 「今更それを言ってもな・・・」

 

 

 和漢学校

 和中折衷な校舎が増築され、新入生が集まってくる。

 日本と中国人の子供たちが羽子板で遊んでいた。

 元々は、羽に硬貨のおもりを付けたモノを蹴る中国の遊びで、

 室町時代の日本に伝わり羽子板に変化したものらしく、

 中国側に羽子板らしきものはなかった。

 文化的な擦り合わせをすると漢字の使い方が違っていたり、

 その原因が勘違いだったり。

 そして、支障のなければ日本側を修正したり、中国側を修正させたりとなっていく、

 先生たち

 「卓球台が来るまでの繋ぎと思ったけど、意外とウケてるね」

 「しかし、和漢融和と言いながら子供たちが仲良くしてる光景は複雑になるね」

 「やっぱり、一荒れ起こりそう?」

 「どうかな・・・大事にはならないと思うけど、事件続きだし、思うところありそうだし」

 「結局、罪を憎んで人を憎まずは理想で難しいよね」

 「盗みや詐欺を働く人間を憎むと中国人だけじゃなく、日本人も入ってしまう」

 「かといって、中国人を憎むと盗みや詐欺を働いてない中国人まで憎むことになる」

 「それでも、一まとめに中国人を憎んだ方が勢力をまとめやすいし」

 「金になるし、ポストも作れるし」

 「普遍的な罪を憎むより、個別的な人を憎む方が楽だと思うよ」

 「子供たちもいまは仲良くやってるけど、いがみ合うようになるかも」

 「そういうのも見たくないかな」

 「だいたい、日本人って小心で長いものに巻かれやすいだろう」

 「対して度量も大きくもないのに、異民族を支配しようなんて馬鹿だよ」

 「人種差別はなくならないかな・・・」

 

 

 

 レプシロ機は、空気を曳き込み圧縮し、後方へ流すことで推進力を得る。

 プロペラの傾きが深く、回転が速くなるほど押し流せる空気量は大きくなり、

 推進力も大きくなっていく、

 しかし、速度が増すほどプロペラ自体の空気抵抗が増し、

 750km/hを超えたあたりから空回りが始まる。

 レプシロ機の速度限界は既に予測され、

 ジェットエンジンの研究と開発は列強各国で進められていた。

 ドイツ、イギリス、アメリカは、戦時中にジェットエンジンを開発し、

 ドイツに至っては実戦配備していた。

 列強のジェットエンジン開発は戦後も進み、

 ドイツ空軍は、Me1111Pを主力戦闘機とし、

 イギリス空軍は、ホーカー・ハンターを開発、

 アメリカ空軍は、マクダネル F3H(F3)デーモンを開発していた。

 

 アメリカ合衆国 白い家

 偉い人たちが集まっていた。

 「ニューデリーから始まった動乱は、北インド全域に波及。死傷者総数は200万人ほどだそうです」

 「インド独立強硬派に武器を渡して、自ら鎮圧か・・・」

 「イギリスの謀略は、上手くいったというわけか」

 「愛国者は、非国民と売国奴を作って排他的な勢力を伸ばすからね」

 「敵を作って孤立するから好都合といえば好都合だ」

 「とはいえ、イギリスも無茶をする」

 「藩王国同士の確執も上手く利用したようです」

 「死傷者の数は大和連邦より少ないとはいえ、イギリスのダーティイメージは覆せそうにないな」

 「大和大陸の様子は?」

 「権力構造が定まり、順調に近代化しているようです」

 「我々の推測と違うな」

 「面従腹背の和漢貴族は手足となる実行犯を失っているようです」

 「我々もですが・・・」

 「風魔部隊上がりの特攻がネックだな」

 「結局、暴力装置を押さえられると分離紛争の扇動すら困難か」

 「単発の犯罪をいくら誘発させたところで体制を覆す勢力になり切れない」

 「和漢関係は?」

 「権力構造上の格差、地域格差はありますが、人種的な格差はないといえます」

 「少なくともアメリカと白人と黒人より公平です」

 「突っ込みどころがなければ介入が難しい」

 「いやな国だ」

 「そうなると、一番利益になりそうな不安定な国は?」

 「植民地独立運動を力付くで抑えてるイギリス、ヴィシーフランス、オランダになるかと」

 「まぁ アメリカの利益になるなら、イギリス相手でもいいが」

 「いや、対独政策上、イギリスを失うわけにはいかない」

 「しかし、植民地抗争に巻き込まれるのは浅まし過ぎて面白くない」

 「アメリカは必要なものが、ほとんど揃ってるからね」

 「欲を言うならもっとモラルが欲しいね」

 「欲の追及が資本主義の原動力だよ」

 「そして、発展の原動力でもある」

 「発展か・・・行き過ぎれば潰し合いだよ」

 「その辺は調整できるでしょう」

 「調整するとヒエラルヒーが結束して、階層が膠着する」

 「アメリカは未開地と発展の要素が残ってる、まだ、大丈夫だろう」

 「だといいがね」

 「ところで、空軍は?」

 「B52爆撃機は、ほぼ開発できたといえます」

   全長48.5m×全幅56.4m×全高12.4m  翼面積371.6u

   推力7711kg×8  空虚重量83.25t×最大離陸重量219.6t

   最大速度 1000km/h(マッハ0.86)  航続距離16000km

   固定武装20mmガトリング砲×1門  最大ペイロード31.5t (爆弾)

 「B52をフィリピンとイギリスに配備できれば、対日、対独で優位に立てるかと」

 「ジェットエンジンでよかったのかね」

 「ドイツ、イギリスとも空軍強化が進んでいるので、むしろ、ジェットエンジンでなければと言えます」

 「怖いのはドイツのV5ミサイルの方だな。ワシントンを直撃する」

 「宇宙開発もだ」

 「ジーンリッチの力だろうか」

 「まだ、子供ばかりだよ。才覚はありそうだがね」

 「我が国は、遺伝子学でドイツに追随してるのだろうな」

 「まぁ たぶん」

 「日本は?」

 「そちらは、まだ、皆目・・・何らかの突然変異的な要因かと思われます」

 「日本の医療技術は?」

 「抗生物質を数種、国産化に成功してるようです」

 「好戦的な猿どもかと思っていたら生意気な・・・」

 「財政的な余裕は、研究開発資金を増やせますからね」

 「どうせなら、軍事費で浪費すればいいものを・・・」

 

 

 

 

 ドイツ帝国

 ソビエト軍の最後の攻勢でミンスク、キエフ、オデッサを失い、

 ドイツ陸軍の6割を失っていた。

 もっともソビエト側もそれ以上の比率で兵力を失っていたため、

 独ソ講和が結ばれたともいえる。

 戦後、ドイツ帝国は、ノルウェーを含め北欧州の多くを押さえたものの、

 就労人口の不足で軍需・民需とも困窮していた。

 ドイツ帝国は大和連邦の需要に支えられて工業社会を維持しており、

 内政と再建が最重要課題となっていた。

 キール港

 250000t級海洋宇宙ロケット発射艦の建造が進められていた。

  全長342m×全幅50m×23.2m×吃水17m

 ドイツ人関係者たち

 「緯度が高いとこういうものを建造しなければならないのかね」

 「ノルウェーから打ち上げるのもありだが、天候が悪いから船上発射がいいだろう」

 「標的にならなければいいが」

 「なったとしても宇宙開発は進めたいね」

 「陸軍が剝れてたぞ。何しろ、ソビエトが戦車を大量に製造している」

 「監視衛星で地上戦力の動きをトレースできるなら安いものだと思うね」

 「監視衛星がモノになるのが先の話しだからな」

 

 ドイツ東部方面軍

 ワルシャワ演習場

 日本人武官が呆れたようにそれを見ていた。

 ドイツ人最大の欠点は、技術的に可能なら作りたくなる衝動だろうか。

 150t級戦車マウスU

  全長11m(車体長9.03m)×全幅3.77m×全高3.44m

  2500馬力 速度50km/h 航続距離250km

  55口径128mm砲  7.92mm機関砲3丁、

 ニッケルを大量に使ってるらしく、戦中に製造されたマウスより軽量で速度もある。

 車体はどうやって製造したのだろう、というよな流線型で洗練された形になっていた。

 この戦車と1対1で戦える戦車は存在しないだろう。

 東部方面国境は、渡河不能な対戦車壕と竜の鱗と呼ばれるコンクリート壁が並び、

 戦車の侵入を制限し、数的な劣勢を補っているという。

 だからと言って、日本で採用すべき戦車といえない、

 まぁ この戦車を見て捨石の和漢軍が奮起してくれるのなら効果はある、

 とはいえ、予算内で必要な数を揃えようとすると

 おのずと1両当たりの性能も決まってくる、

 資源を売って買えばいいという単純な問題でもない、

 資源を安値で売りすぎると需要が低迷し、相場が崩れ、

 大和連邦の経済が落ち込む、

 なので一定の価格を保ちながら売買するため、

 資源があっても、予算があるようでないという現象が作られる、

 「どうです?」

 「いりませんね」

 「そうですか、残念です」

 むしろ、大型平甲板のヘリトレーラーと対戦車攻撃ヘリに興味がわいてくる。

 対戦車ヘリは、直接トレーラー平甲板に降りることもでき、

 ウィンチでヘリを引っ張り上げられるようにもできていた。

 ヘリトレーラーは、整備治具と燃料一式を格納し、

 稼働率も高いようにも見えた。

 前線に近い場所での運用なら、燃料を最小限にして、防弾と火力に力を入れることもでき、

 逆に敵後方に長駆させ、空挺作戦を展開できそうでもあった。

 日本が検討しているのは、装甲列車随伴の治安維持用のヘリだった。

 「しかし、地続きだと大変ですな」

 「まったくです。しかし、大和連邦もソビエト連邦と地続きなのでは?」

 「まぁ そうでしょうが・・・」

 人口が増えつつある漢民族を淘汰してくれるのなら

 ソビエト軍に侵攻してもらいたいと思う日本人も増えていた。

 

 

 

 

 和漢融和が進むにつれ、中華思想が排斥され、

 白虎(西・中国・大陸)・青竜(東・日本・列島)の合一が強調されていく、

 白虎と青竜の絵柄は、教科書だけでなく、一般諸本でも好んで使われていた。

 もっとも和漢融和は、人の良い日本人かカモにされやすく不利であり、

 海千山千の漢民族は、日本人をカモにしやすいく有利だった。

 そして、五行でいうなら悪いことに青竜は木に当たり、白虎は金に当たる・・・

 呉

 12000t級砕氷艦 “蓬莱” 艦橋

 「漢民族は綺麗好きを集めただろうな」

 「そういう訓練をしています」

 「和漢共同で南極探検とはね・・・」

 「共に苦労をして助け合えば、少しはいい関係になるかと・・・」 憮然

 「副長。また騙されたのか」

 「漢民族は漢民族を騙しにくいのか、日本民族をカモにする傾向が強いようです」

 「互いに手の内を知れていたら簡単に騙せんよ」

 「日本人がそうなるまで、どれほど、泣きを見ることか・・・」

 「まぁ 和漢学校で教育を受けた生徒は、日本人の感性に近いそうだ」

 「だといいですがね」

 「まぁ 遺伝的なものもあるからな。油断すると裏切られるぞ」

 「内輪が信頼に足らないとは、外征に向かない国民性ですよ」

 「それは幸運なことだったとしか言いようがないな」

 「そうでなかったら、中国人が世界を統一していたよ」

 

 

 上海

 巨大工場が建設され、

 中国人たちが衣食住の補償だけで働かされていた。

 労働者が決まった数字のインクに筆を入れ、

 セルと呼ばれる透明セルロイドの決められた枠に決められた色を塗っていく、

 後は順番通り並べて撮影機の中を通せば映像フィルムが完成し、

 映画館やTV放送で流すことができた。

 和漢融和の国策メディアとしてアニメは有望視され、補助金が投入されていた。

 市場規模は列島だけで計算するよりも倍は増え、

 当然、広告の波及効果も大きくなり、

 そのおかげか、ディズニー並みの1秒間に12枚という高密度映像となっていく、

 関係者たち

 「白蛇伝か・・・」

 「和漢友好だよ」

 「もう少し、日本寄りの映画でもいいと思うがね」

 「実のところ、市場の大きさで中国寄りの方が・・・」

 「おいおい」

 

 

 

 暗い深海を漂う気分は悪くない、

 潜水服から発達したアーマー・ローブ “イザナギ” は肢体を伸ばすことができた。

 もう一つのタンク・ローブ “イザナミ” は、イザナギより二回り大きな潜水艇で、

 イザナギを引っ張っていた。

 イザナギとイザナミは、どちらの型が主流になるか、モデルケースとして開発され、

 試作運転中、ペアで行動させてみると相乗効果で双方の欠点が補えてしまう。

 いまは、2機種とも採用され、同数が量産されていた。

 “諸君”

 “君たちは、名誉ある新兵器のパイロットとして選抜された”

 “いらない子だとばかり思ってましたよ”

 “そ、そんなことはない”

 “これが我が大和連邦海軍が開発した新型兵器”

 “アーマー・ローブのイザナギとタンク・ローブのイザナミだ”

 “なんですか、その勇ましそうで儚げな名称は”

 “それは、重過ぎると浮かび上がれないからだ”

 “ていうか。なんで英語?”

 “フィーリングに決まってるだろう”

 “・・・それで・・・どうしろと?”

 “これで、海に潜るのだ”

 “““・・・・・・”””

 志望選択で誤ったかと思いきや、いまは悪くない、

 手足に付いた小型スクリューで自在に海中を遊泳できた。

 といっても、透明度は10〜15mほどで、その先は見えず。

 各国ともこのサイズの潜水艇に力入れることはなかった。

 しかし、シグマキャリアが操作すると違ってくる。

 

 海上の補給船からケーブルが海底に向かって降ろされ、

 ケーブルは着底した伊400号に繋がっており、

 伊400号からは、十数本のケーブルが伸びていた。

 そのケーブルの先端にイザナギ、イザナミを操作するシグマキャリアがいた。

 シグマキャリアが能力を発揮しやすい環境を追及すると

 外界の刺激が体感に加わる方が直観力が増す、

 当然、海中を遊泳すると、周囲の気配を鮮明に感じることができた。

 爆雷攻撃されたら?

 対潜魚雷に攻撃されたら?

 こんな小さな標的のため魚雷を使う可能性は低いものの、巻き込まれる可能性は十分にあった。

 潜水服から発達したイザナギが水中爆発の水圧に耐えられるはずもなく、

 それよりややマシなイザナミでさえ、致命的だった。

 索敵のため潜水艦の隔壁から飛び出す必要があるのか、というと、

 軍事技術の発達は相対速度の加速であり、

 相対速度の加速は、対処時間の短縮だった。

 そして、対応を誤れば即、撃沈。

 当然、索敵範囲は広く、遠くである方が好ましく、

 シグマキャリアの特性を生かした装備が開発される、

 イザナギは、空気とパワーアシストを外部に依存していたものの耐久性は高く、

 イザナミは、潜水艇型で小回りで劣るものの、数日は生存可能な装備を有していた。

 イザナギとイザナミを空中からパラシュート降下させ、

 無弾頭魚雷で潜水艦を大破させ、捕獲する訓練が行われたこともあった。

 そして、一定の条件下で成果を上げていた。

 そして、イザナギとイザナミは、もう一つの可能性を切り開いた。

 大陸棚開発。

 イザナギ、イザナミの性能が向上するにつれ、

 開発が本命になっていく、

 『児玉少尉。下に降りてみるか』

 「千葉少尉。イザナギはイザナミより水圧に弱いんだ」

 『段差があるよ。あの辺の水圧なら大丈夫だし』

 『いざとなったらドッキングして、こっちに乗り移ればいいじゃないか』

 階級が同じでも先任の言い分が強く、普通は従う。

 「まぁ いいか」

 イザナギとイザナミは、大陸棚の端に来ると海溝に向かって降下していく、

 

 

 伊400号 艦橋

 「大陸資源すらまだ未開発なのに、どうして、大陸棚開発なんですかね」

 「大陸は五億近い人口がいる」

 「人口は増えていくし、近代化すれば当然、資源不足に陥る」

 「シグマキャリアは、暗闇でも動けるから危機回避能力が高いし」

 「大陸棚開発は、予算獲得で適当な口実になるからだろう」

 「・・・艦長、05番、児玉少尉と06番千葉少尉が海溝側面に海底洞窟を見つけたそうです」

 「そうか、じゃ・・・近い、07番と08番を合流させて、探検させよう」

 「艦長。洞窟の入口の幅は130m。高さは160m程です」

 「ば、馬鹿でかいな」

 「この規模になると・・・」

 「艦を洞窟の近づけて、全員で行くしかないな」

 

 海溝側岸の洞窟は、潜水艦をすっぽり収容してあまりあるほどだった。

 艦橋

 「イザナギ、イザナミの誘導で衝突は避けられたが、どうしたものか」

 「海上の補給艦に空気を送ってもらって、洞窟内の調査をやりやすくしては?」

 「んん・・・しかし、空気の圧力で天井が崩れるとまずいからな」

 「少しずつ空気を放出してみるか」

 「イザナミ部隊に天井が入口より上向きになってる個所を調べさせてくれ」

 「空気を放出できるところまで、前進する」

 海の岩戸 (かいのいわど) と呼ばれた海底洞窟は、4つの洞窟に分かれ、

 その一つは、3000mにも及んでいた。

 

 伊400号が浮上し、

 司令塔から艦長以下、数人が恐る恐る顔を出した。

 照明灯を付けると巨大な空洞が姿を現した。

 「空気が大陸棚から漏れてないだろうな」

 「天井から海水が落ちてこなければ大丈夫かと」

 「天井が落ちてきたときは、ペッシャンコということもあるな」

 「いまの深度は?」

 「計算上は、350mほどかと」

 「ということは・・・大陸棚の海底まで130mほどの厚みがあると考えていいのか」

 「もう少し空気を入れてもいいのでは?」

 「んん・・・天井は低いが、取り敢えずこのくらいでいいだろう」

 「鉱物資源でもあれば、幸先がいいかもしれないな」

 「運ぶのが大変だと思いますよ」

 「まぁ それもそうだがね」

 イザナギが浮上するとヘルメットが外され、児玉少尉が大きく息を吸う。

 「大変な発見だな。児玉少尉」

 声が響いた。

 「見つけたのは私ですが、千葉少尉に引っ張られましてね」

 「よくやってくれた。しばらく、洞窟内の探索をすることになるだろう」

 地上では重くて役に立たないイザナギも海中では、多様なオプション兵装を積載し、

 自在に活動できた。

 海中なら人型ロボットも活躍できる余地があるように思えた。

 「・・・これだけ広いと、ちょっとした拠点になるのでは?」

 「そうだな・・・魚雷を洞窟の中に打ち込まれなければね」

 

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です

 大和連邦は後進国ですが潜在的に超大国といえるでしょう。

 人材が育ち、設備投資が進むにつれ、総生産が増大し、

 余剰資本に任せて、近代化していきます。

 莫大な資源と巨大市場は大きな強みです。

 

 

 アーマー・ローブとタンク・ローブは、海中戦用機動ロボットに進化するでしょうか (笑

 シグマキャリアの探知力は暗闇の中でも危機回避できそうですし、

 陸上より質量を浮かせられますし、

 バラストを積めば二足歩行でも倒れることもなさそうです、

 海底が安定していなくても歩けますし、大陸棚前提ならロボット型も悪くなさそうで、

 大陸棚開発は将来的に大きいかもです。

 海底都市を練り歩く建設型ゴック、アッガイを見たい (笑

 

 

 

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第16話 1951年 『だってしょうがないじゃない』

第17話 1952年 『罪を憎んで人種を憎まず』

第18話 1953年 『箱ものイミテーションじゃ駄目ある』