月夜裏 野々香 小説の部屋

 

After Midway

 

 

第99話 1989年 『崩 御』

01/04

 アメリカが地中海上空でリビアの戦闘機2機をミサイルで撃墜する。

 

 

01/07 (昭和64)

 昭和天皇裕仁が崩御。87歳(誕生:明治34(1901)/04/29)。

 茫然自失といった感が日本全体を打ちのめし、

 全世界でも緊急報道が流れ注目される。

 生誕からミッドウェー海戦後の天皇の介入、

 戦局の影響、さらに戦後の映像が走馬灯のように流れていく、

 多くの者が涙し、一部は、先行きの不安で戸惑う。

 証券取引所も騒然としていた。

 「逝かれたのか・・・」

 「本当の戦後だな・・・」

 「はぁ・・・」

 「やはり、陛下主導で戦争を乗り切った手腕は大きいだろうな」

 「当時の軍人は年功序列と権威主義だろう」

 「ミッドウェー海戦の敗北は良い機会だったのさ」

 「プライドばかり高くて硬直化」

 「嘘ばっかりの勅命で無理やり押さえつけていたからな」

 「本物の勅命が出されるようになったら、それもない」

 「軍の暴走と無理攻めがなくなれば戦線も安定するよ。」

 「戦争計画も悪くないぞ。大局観で間違いは少ないだろう」

 「陸海軍の規格統合で生産を画一化できたのも良いよ」

 「戦後に軍政を潰したのも大きいな。まともな議会政治に戻した」

 「しかし、議会政治の権力闘争、利権まみれとか」

 「党利党略の離合集散は停滞とか、低迷で醜いけどね」

 「軍部の独り善がりな暴走と良い勝負か」

 「予算縮小を避けるための外征じゃ 抜本的解決にならないよ」

 「まぁ 権力を握ろうとすると、金とか、暴力とか、癒着とか、醜くなるだろうな」

 「本土決戦での迎撃は、粘り強くて好きだな」

 「艦隊決戦を避けたけどね」

 「でもアメリカの目を南米に目を向けさせたのは悪くないよ」

 「おかげで出雲州だけでなく、秋津州までか」

 「開発初期は聞くも涙、語るも涙だったらしいけどね」

 「そりゃ 外地だから日本国内より成功率が低いよ」

 「いまじゃ、出雲は欧州の総合代理店だし、秋津は南米大陸の銀行と工場でドル箱だよ」

 「アメリカの横暴は強いけど、日本連邦は、まぁ 独立している」

 「日本の国際的な地位は悪くないよ」

 「結構、買わされているけどね」

 「補助兵器は付き合いだろう、しょうがないよ」

 「エイブラムズもか?」

 「外見だけらしいよ」

 「やれやれ」

 

 

01/08

 平成と改元する。

 『史記』の「内平らかに外成る」と、『書経』の「地平らかに天成る」を出典とする。

 

 

 

 

01/20

 アメリカの第41代大統領にジョージ・ブッシュが就任する。

 

 

 

 

02/

 アフガニスタン駐留のソ連軍が首都カブールから撤退完了する。

 

 朝鮮半島、南北高位級(首相級)会談を目指す第1回予備会談が開始される。

 

 昭和天皇の大喪の礼が行われる。164ヵ国、28国際機関の代表、使節が参列する。

 

 ブッシュ大統領が中国を訪問する。

 

03/

 アメリカ国防総省や筑波学園都市などの大型コンピュータに侵入し、

 ソ連に秘密情報を売っていた西ドイツのハッカーが捕まる。

 

 オゾン層保護に関するロンドン会議が開かれる。124ヵ国が参加する。

 

 

 チベット

 日本人観光客も増えていた。

 しかし、多いのは資源開発関係の業者だった。

 そして、宗教国家連合の総本山のラサで労働争議が起こり、

 ストで揺れていた。

 「共産主義世界がこけたとたん、反共の牙城チベットでスト騒ぎか。やれやれだ」

 「宗教的な押さえも労働条件が厳し過ぎると反発を招くんだろう」

 「独立できたところで借金は借金だからね」

 「いくら稼いでも、実入りが少ないと嫌気がさすよ」

 「王城を観光ホテル代わりにまで使われても簡単には借金は減らないだろうね」

 「だがチベットからウィグル、中国西部へ圧力をかけることができる」

 「独立運動は?」

 「独立運動より、中国国内で匪賊が武装して大騒動」

 「良い気味だ」

 「というか、外敵を作ることで国内の不満分子を反体制で淘汰する古典的な政治手法だな」

 

 

 ロンドン会議で、オゾン層を救うためにフロンの生産と消費の全廃を求める声明が出される。

 

 スペースシャトルのディスカバリーが打ち上げられる。

 

 ソ連で複数候補制による初の人民代議員選挙が行われ、

 モスクワではエリツィンが圧勝する。

 

 ゴルバチョフ書記長は、今後、ソ連が他の社会主義の内政に介入しないことを約束した、と報道する。

 

 

04/

 ゴルバチョフ書記長がキューバを訪問する。

 

 竹下首相が幹事長時代に、

 リクルート社による多額のパーティー券購入があったことが判明する。

 

 気象庁がフロンガスの温室効果で2030年代には気温が1.5〜3.5度上昇すると発表する。

 

 ノルウェー沖でソ連の原子力潜水艦が火災。

 2基の核弾頭搭載の海中発射巡航ミサイルを搭載したまま沈没する。

 乗員27人が救出され、乗員42人が死亡する。

 

 ゴルバチョフ書記長が訪英し、核兵器用ウランの製造中止を声明する。

 

 グルジア共和国の首都トビリシで反ソ暴動が起る。

 

 中国で、学生が胡燿邦総書記の追悼行進を行う。上海では民主化要求デモが起こる。

 

 天安門広場に学生・市民5万人が集まる。

 

 アメリカ通商代表部(USTR)が日本の貿易障壁は半導体など34項目と認定する。

 

 04/02

 6000トン級巡洋艦 “さつき” がクウェートに入港する。

   ※ 78年度の艦艇で改装され、更新整備がされていた。

 さつき 艦橋

 「また戻ってきましたね」

 「漁船の転覆事故なんて、厄介事に巻き込まれなければ日本に帰れたのに」

 「深夜には到着するから漁民を降ろして、出航しよう」

 

 ペンタゴン

 モニターの前に数人の軍人と軍官僚がいる

 「ど、どういうことだ」

 「なぜ、日本の巡洋艦がクウェート港に戻った?」

 「知らないで入港したのか?」

 「訪問は終わって日本に帰還中だったはず」

 「情報が入りました・・・」

 「クウェートの沖合いで座礁した漁船からクウェート人を救出したそうです」

 「バカな。なんて事を」

 「イラクの侵攻を遅らせられないのか」

 「このまま侵攻させて日本海軍の力を知るのはどうです?」

 「い、いや、それは不味いだろう。予定が狂う」

 「ですがイラクは、たかが巡洋艦1隻で計画を変えたりはしませんよ」

 「しかし、日本の巡洋艦の戦力・・・不安だな」

 「国防省はどの程度の戦力と予測しているのですか?」

 「・・・電子装備で少しばかり、遅れているようだ」

 「一度、改装されている、6000トン級で容積だと準アーレイバーク級だな」

 「トン数でいうとアーレイバークの8割戦力というところですね」

 「だが、十分にイージス艦レベルだよ」

 「もう一つ、近くに “すすき” もいる」

 「イラクに撃沈させればいいじゃないですか」

 「だがイラク侵攻で日本に発言力を与えてしまうぞ」

 「「「「・・・・・・」」」」

 「不味い・・・」

 「何とか日本の巡洋艦を外洋に出せないか」

 「救助したクウェート人を送り届けているから理由が要る。仮にも独立国の巡洋艦だ」

 「くそぉ・・・」

 イラク軍のクウェート侵攻は事前に知られていた。

 偵察衛星の監視ならイラク軍の意図など簡単にわかる。

 しかし、アメリカは見てみぬ振り、

 というより、クウェート侵攻を勧めていた節さえあった。

 理由は、いくつもある。

 石油の枯渇。

 クウェートは、近代科学・工業の分野でも力を付け、欧州やアメリカに進出しようとしていた。

 イスラム世界の一角が財力に任せて近代科学と工業化を狙い、

 中東で化学コンビナートや自動車工場を建設し、工業を推し進めていた。

 欧米諸国にとって容認し難い事態といえた。

 そして、最大の理由は、冷戦終結で潰れそうなアメリカ軍需産業を守るため。

 イラクのクウェート侵攻は、欧米諸国にとってシメシメであり、

 日本が蚊帳の外に置かれたのも理由があった。

 日本の衛星は探知能力が高くても中東に振り分ける余裕がなく、

 パキスタン以西の中東が日本の勢力圏外であったこと。

 日本は、イラク軍のクウェート侵攻を知らないはず。

 ところが日本海軍のつまらない偽善が事態を変えていく、

 

 

 巡洋艦 “さつき”

 港湾に着岸すると救助したクウェート人が降ろされ、

 クウェート側へと引き渡されていく。

 「どうやら中間官吏のバカ息子たちみたいですよ。少しは、日本の心証良くなりますかね」

 「封建体制じゃ レジャー船を助けるより、王様への貢物だよ」

 「石油王ですか、羨ましいですね」

 「そうだな。しかし、随分と発展している」

 「油田がある国で工業を発達させようとしているのはクウェートだけのようです」

 「油田に頼ってもいずれは枯渇する」

 「イスラム教の障害を乗り越え、工業を発達させられるなら彼ら自身の才覚でしょう」

 「聞くところによると、アラブ商人は手強いらしいぞ」

 「しかし、パキスタンと同じでスンナ派が多く、雰囲気は悪くない」

 「スンナ派は融和的ですからね」

 「さ、出航だ。寄り道したが訪問は終わった。帰還しよう」

 ガスタービン・電気推進の静かな音で、ゆっくりと岸から離れていく。

 AM2:00 不意に警報が鳴り響く。

 深夜の襲撃は、不気味さを数倍に増してしまう。

 未確認飛行物体が急速に接近し、爆撃音が辺りに響き

 クウェートの街に爆炎が立ち昇る。

 「な、なんだ?」

 「爆撃です!」

 「どういうことだ。攻撃されているのか?」

 「いえ、攻撃されているのは、クウェートです」

 「バカな! 聞いてないぞ、本国に通報しろ!」

 「・・・艦長。ロックオンされました!」

 「な・・・迎撃しろ!」

 155mm砲が自動追尾しつつ砲撃、

 数秒後、上空で爆発が起こり、

 相次いでロックオンする航空機を続けざまに砲撃し、撃墜していく。

 「敵はどこだ!」

 「イラクか、サウジアラビア、イラン。たぶん、イラクでしょう」

 「ちっ! なんてことだ。産油国ばかりじゃないか」

 「泣きたくなる状況ですね」

 「すぐに攻撃中止を通達してくれ」

 「は!」

 「艦長。この状況で攻撃中止を要求しても難しいのでは?」

 「難しくても攻撃中止を要求したことに意義がある」

 「記録に残しておけよ」

 「はい」

 「艦長。本国からです」

 「監視衛星とリンクしつつ、領海内海域で現状維持命令です」

 「攻撃命令は?」

 「まだです」

 「ちっ! 戦場なんだぞ」

 「ロックオンされました」

 「迎撃しろ!」

 「30秒後に監視衛星の映像が入ります」

 静止衛星の情報は遅く、

 低軌道の監視衛星は高速で公転し、情報の時間制限が限られる。

 そして、わずかな時間であっても飛躍的に情報量は増えた。

 「すぐに一帯の情報を手に入れろ。次に来たとき、敵の司令部を確認させてくれ」

 「“すすき” から入電。湾外から支援するそうです」

 「ようやく来たか」

 「艦の上空は任せられそうです」

 「シーホークを対空哨戒装備で上げろ。データーリンクを急がせろ!」

 「艦長、本国から入電です」

 「クウェートの王族を救出しろとの事です」

 「ったく、王族じゃなくて首長だろう・・・どこだ?」

 「月影VTOLで退避しているようです」

 「通信を送って、首長一族を受け入れる用意があると伝えろ」

 「“すすき” に首長の受け入れ用意を伝えてくれ」

 「シーホーク、出ます」

 シーホークが “さつき” の上空に滞空すると索敵能力が格段に向上する。

 「シーホークのリンク解析でイラク機が月影VTOLに接近中です」

 「牙鳳を発射しろ! 月影VTOLに近付けさせるな!」

 サイロが開くと続けざまにミサイルが白煙を棚引かせ、上空へと伸び、

 月影VTOLを撃墜しようとしていたイラク軍機が立て続けに撃墜されていく、

 「・・・艦長。月影VTOLからです」

 「なんだ」

 「クウェート首長は、クウェート領から出たくないそうです」

 「本艦で受け入れて欲しいそうです」

 引きつる。

 「・・・わかった。こっちに移させろ」

 「ったく、産油国は、みんな、月影VTOLを使っていますね」

 「どいつも、どいつも、ジャンボジェット機なみの機体を私用で使いやがって」

 「1分後、監視衛星の情報が入ります」

 「敵の師団司令部は?」

 「4つほど判別しました」

 「座標と一緒に攻撃中止しなければ反撃すると通信を送れ」

 「はっ!」

 「座標をロックしました155mmで潰せそうです」

 「対地用ミサイル牙槍も欲しいところですね」

 「載せてないよ。全部、対空用と対潜用だ」

 「対地は勿体無いけど155mm砲だけだな」

 クウェート湾内の “さつき” と領海外の “すすき” は、イラク軍機の制空権を許さず次々と撃墜していく。

 クェート湾内の限定的な防衛だった。

 一定の距離内に接近し、ロックオンした瞬間に迎撃し、撃墜する。

 月影VTOLから王族が降ろされ、艦内へと誘導されてくる。

 「副長。王族の相手をしてやってくれ。いまは、手を離せん」

 「はっ!」

 「粗相のないようにな。出世に響く」

 「はっ!」

 「本国は?」

 「外交ルートでイラクに攻撃停止を要請しているそうです」

 「悠長だな」

 日本海軍艦艇は、海外領海、公海で攻撃を受けた場合。

 反撃は著しく限定されていた。

 無警告でロックオンされた場合など、即反撃が許されている。

 しかし、事前に警告し、反撃すると通告していなければならなず。

 迎撃内容など制限され、積極的な攻勢は許されない、

 そして、クウェート軍は、イラク軍の50分の1しかなく、

 完全に寸断されて孤立し、掃討され壊滅しつつあった。

 「・・・陸上から砲撃です。ほ、本艦に向けられています」

 「回避!」

 “さつき” は、衛星とシーホークとデーターリンクされ、

 弾道計算が割り出される。

 最適な回避運動が可能で艦首が飛沫を巻き上げ、波を蹴立てて回頭していく、

 艦の周囲に水柱が立ち昇った。

 地上からの攻撃に対し、

 敵司令部への反撃も限定的に可能になっていく、

 無線の集中する地点と衛星の映像で敵前線司令部らしき場所を特定する。

 「警告は?」

 「送りました?」

 「撃て!」

 射程40kmを越える155mm砲がピンポイントで、イラク軍師団司令部を撃破していく、

 イラク軍は、将兵10万、戦車350両の大兵力だった。

 しかし、指揮系統が破壊されると攻撃は詰まる。

 首都クウェート上空はイラク軍が制空権を取れず、

 クェート軍の抵抗が続いていた。

 さつき 艦橋

 「大きいところは片付けたな」

 「はい」

 「あとは、大隊本部、中隊本部、小隊本部と順番に砲撃していこう」

 「指揮系統を潰せばただの強盗集団だ」

 「艦長。本国から補給艦を出航させたそうです」

 「やれやれ、これで、ストックを気にせず撃てるな」

 「それと、本国から積極的な攻撃は、まだ、厳禁だそうです」

 「ちっ! 砲撃は大隊本部で止めておこう」

 「艦長、近海のアメリカ巡洋艦ヴィンセンスと」

 「イギリス42型駆逐艦サウサンプトンが支援するとのことです」

 「あいつら日和見していやがって、今頃・・・」

 「知らなかったのでしょうか?」

 「まさか、日本はパキスタンどまり」

 「中東の勢力圏は欧米側だから、知っていたはずだ」

 「パワーゲームに巻き込まれましたね」

 「ちっ! あのクウェート漁船のおかげで、いい迷惑だ」

 「“さがみ” と “かしま” で上陸作戦なら面白くないですか?」

 「日本に余っている師団はないよ」

 準備して計略の結果であれば問題なくても、

 突然だと情勢がどう推移していくのか予測できない。

 また根回しができていない状況だと、

 国際外交政治で大きな得点が突然転がり込んでも動揺して躊躇する。

 根回しができていても事情が変わると逃げるほどでゴタゴタは続く。

 この時の日本は、それだった。

 首相官邸

 「何で日本の巡洋艦が戦争に巻き込まれたんだ?」

 「いくつかの偶然が重なったためだと思われます」

 「イラクが正式に砲艦外交中の艦艇を攻撃したことを外交ルートを通じて詫びれば退いても・・・」

 「それが “さつき” はクウェート王族の座乗艦なので・・・」

 「そ、そうだった」

 「「「「・・・・」」」」

 「困るよ。クウェートも、イラクも産油国なんだから、どれほど気を使っていると思っているんだ」

 「ですが飛鳥油田の原油市場は上がりそうですよ」

 「大統領が原油先物を買っておけと囁いたのは、それだったか」

 「儲かった人間はいるでしょうね」

 「一部だけだよ。戦争で儲かる発想自体がナンセンスだろう」

 「総論で損しても各論で儲けられるのであれば良いのでは?」

 「軍縮すれば良いのに・・・」

 「日本企業と違って軍需比率が高いですから」

 「ったく、地獄に落ちやがれだ」

 「しかし、日本の巡洋艦が巻き込まれると困るよ」

 「日本にとっては、クウェートも、イラクも友好国ですからね」

 「中東は、原油産出の最大手だ。飛鳥油田の収益も左右されてしまう」

 「どうします?」

 「崩御で喪に服しているというのに戦争なんて・・・」

 「アメリカをあまり怒らせない方が・・・」

 「ここは無難にアメリカと歩調を合わせておくか」

 「あまり媚び過ぎたりだと、アメリカは良い気になって押し切ってきますよ。欲張りですから」

 「イラク側に連絡を取って善処してくれ、話し合いで済ませたい」

 「アメリカは減価償却分の弾薬を消費したがっているはず」

 「話し合いを望んでないかもしれませんよ」

 「日本抜きでやって欲しいね。貿易黒字だから波風立てたくない」

 「クウェート王は “さつき” を座乗艦にしているので湾内から出たくないとか」

 「我が侭だな」

 「逃げずに戦ったという国内向けのプロパガンダでしょう」

 「王は、国民に疎まれてなかったっけ?」

 「石油で豊かな国ですが王族は特に豊かですからね」

 「とりあえず、穏便に済ませたいから退いてくれるようにイラクと話を付けておいてくれ」

 「はい」

 

 

 どこかの白い家

 イライラと行ったり来たりする男がいて、取り巻きも考え込む。

 「・・・イラク軍は、バカか。日本の巡洋艦が停泊しているのに侵略してどうする」

 「いえ、一度、日本巡洋艦が帰還したのを確認しています」

 「クウェートの漁船を救出していなければ、今頃、蚊帳の外」

 「クウェートの工業化を潰し、クウェートとイラクの油田を手に入れる計画は?」

 「日本は、イラクに派兵するだけの兵力はありませんから・・・それは、問題ないかと・・」

 「まさか、日本は、中東の石油を狙っているわけではないだろうな?」

 「どうでしょう。日本は、飛鳥油田で産油国のはず。体面を保ちながら退くつもりでは?」

 「軍艦の中東訪問は、原油価格安定といった消極的な目論見で儀礼的なものですし」

 「偶然なのか? 本当に?」

 「日本にダーティイメージを与えようとイラク軍の侵攻を訪艦の出航後に誘導したのは事実ですが・・・」

 「バカが!」

 「いやこればっかりはイラク軍の勝手ですし」

 「策士策に溺れましたが偶発的な事故ですし」

 「・・・・」

 

 ラサの宗教国家連合がイラクのクウェート侵攻を非難。撤退を要求。

 

 国連安全保障理事会は、即時無条件撤退を求める国連決議第660号を決議

 

 

 戦場での時間は、密度が濃かった。

 些細な失敗が艦を失わせてしまうのであれば、緊張感も高まる。

 日本海軍艦艇の反撃規制はイラクの攻撃が呼び水となって、徐々に解除されていく。

 さらにクウェート首長の認可が下りれば、大義名分が付いて、なんでもありな情勢だった。

 “さつき” だけでなく “すすき” もクウェート湾内に入港し。

 アメリカ巡洋艦ヴィンセンスとイギリス42型駆逐艦サウサンプトンも湾内へと入港してしまう。

 先進国の海軍艦艇は、中進国以下の二流・三流海軍だけでなく、空軍戦力、陸軍戦力も圧倒する。

 “さつき” “すすき”の155mm砲。

 ヴィンセンスの127mm砲。

 サウサンプトン114mm砲。

 衛星とのデーターリンクさえ正常ならピンポイントで標的を撃破できた。

 海岸線近付くのT54/55戦車(100mm砲)。T62戦車(115mm砲)。T72戦車(125mm砲)は砲撃され、

 次々と撃破されていく、

 艦砲と戦車砲は、火器管制システムの精度、射程距離の命中精度が違う。

 戦車砲は港湾の日米英艦隊に届かず。

 日米英艦隊から砲撃される砲弾は、放物線を描いて戦車の上部装甲を撃ち抜いてしまう。

 日米英艦隊から砲撃されるたびに

 無線を発する上級士官の乗るイラク軍戦車が吹き飛ばされていく、

 「155mm砲は、勿体ないですな」

 「指揮車両なら良いでしょう。指揮官がいなければ、部隊は動けませんから」

 「・・・6時方向から編隊機多数」

 「対空戦闘に切り替えろ」

 「速い、MiG25です」

 「対空ミサイル発射!」

 日米英艦隊から対空ミサイルが打ち上げられていく、

 「エグゾセです」

 「対空迎撃!」

 巡洋艦 “さつき” は高速で回頭しつつ、ミサイル迎撃機関砲を掃射。

 曳航弾が迫る対艦ミサイルに収束し、

 右舷側400mでエグゾセミサイルが爆発。

 爆風が “さつき” を襲う。

 そして、訪れる静寂。

 「・・・どうやら、イラク軍機は、諦めたようだ」

 「ええ、データーリンクで問題ありですがアメリカ、イギリスと分担すれば上手く迎撃できそうです」

 「しかし、弾薬のストックが、なくなりそうだな」

 「元々、主要装備は対空、対潜ですからね」

 「42型は心もとないが時間稼ぎくらいはできるか、頼りになるのはヴィンセンスだな」

 「アメリカのイージスシステムが上というのも頷けますね」

 「大きいだけはあるな」

 「しかし、Mig23は、ともかく、Mig25は速過ぎるな」

 「対空ミサイルが間に合わん」

 「マッハ3だそうですから」

 「しかし、早期警戒機に誘導されていない」

 「目視攻撃だと機銃掃射か、通過するだけ、宝の持ち腐れだろう」

 「そうなんですよね・・・」 苦笑い。

 「クウェート首長は?」

 「客室でくつろいでいますよ」

 「そうか、出たがりでなくて助かる」

 「クウェート首長はクウェート領内を一歩も出ることなく踏ん張った」

 「そういう事にしたいそうです」

 「我が侭だな」

 「外国の艦隊を危険に晒しているというのに・・・」

 

 ラサ宗教国家連合で、イラク非難決議が採択。

 

 国連でイラク経済制裁を決議

 

 サウジアラビアがアメリカ軍進駐を承認。

 

 数がモノをいうのかイラク軍はクウェートを制圧していた。

 しかし、指揮系統が破壊されてしまうと進退が窮まり、

 占領政策も不可能になる。

 そして、イラク首長を乗せた “さつき” が領内に遊弋し、

 イラクの傀儡クウェート政府の正当性を失わせてしまう。

 アラブ・イスラムの支持を得られないイラクは、傀儡政権の19番目の州宣言も空振り、

 国際的に孤立していく。

 

 “さつき” “すすき” は、クウェート領海内で補給されて一息。

 CNNの記者が “さつき” に乗り込み、クウェート首長と歓談していた。

 “・・・我がクウェートの大地に降り立つまで、クウェート領内から出ることはない!”

 「・・・副長。どうやら、ペルシャ湾で長居することになりそうだな」

 「国際的にクウェート首長の座上艦で認知されてしまいましたからね」

 「退き際を誤ったかな」

 「砲艦外交中の軍艦を攻撃するからですよ」

 「国家として最低限の面子がありますから」

 「こりゃ アメリカ軍がクウェートを奪還するまで、帰国できそうにないか」

 「当分、豚肉は無しでしょうね」

 「まぁ それくらいなら、我慢するよ」

 「それと、クウェート首長は、日本軍にも派兵を求めてますよ」

 「あはは・・・砂漠じゃ勝てんだろう」

 「アメリカ軍が信用できないとか」

 「それに有色人種諸国で日本が盟主だそうですから」

 「都合のいいときだけ、担ぎあげて盟主扱いしやがって」

 「上の方で、上手く納めてもらえればいいのですけどね」

 「「「・・・・・」」」 ため息

 「とりあえず、艦隊への攻撃は収まっているので海外派兵手当ての計算でも・・・」

 「あ・・・そうだな」 にやり

 なんとなく、CICルームの将兵が、ほくそ笑む。

 国家元首を座上させ、いくつか特典も付きそうで加算される見込み、

 生還すれば “さつき” の乗員は、昇給と階級も上がり、

 羨望の眼差しを受けるはず。

 派兵手当てが高過ぎても侵略につながり、低過ぎても士気に関わる。

 官僚の計算だと、適当と思える分岐点の手当てらしい。

 もっとも、その数値に根拠があるわけでもない。

 「艦長、2日後にアメリカ機動部隊がペルシャ湾に到着するそうです」

 「よ〜し、それまで我慢すれば、楽勝だな」

 そして、領海外に迫るアメリカ機動部隊も十分すぎるほどの圧力だった。

 イラク軍は、防衛線の構築に取り掛かっていく。

 

 

 日本

 閣僚の周りにマスコミがまとわり着く。

 「日本は、派兵するんですか?」

 「検討中」

 「“さつき” は、イラクのクウェート侵攻に合わせた日本の工作ですか?」

 「ま、まさか、偶然だよ」

 「日本は、宗教連合で参戦ですか? 国連で参戦ですか?」

 「い、いや、それは、状況に応じて・・・」

 「ラサ宗教国家連合は、ニューヨーク国連決議より先にイラク非難決議を出しました」

 「コメントは?」

 「いや、宗教的にも、国際的にも、侵略は容認できないということで・・・」

 などなど・・・・

 日本全体は、陛下の崩御で喪に服する気分になっていた。

 もちろん、そういう年にするつもり、

 なにより、産油国と敵対関係は、石油価格の安定が破壊されてしまうため望まない、

 ところが、国際外交政治の焦点に日本の巡洋艦がいると騒ぎも収まらず。

 どこで間違ったのか、パワーゲームに巻き込まれて外交手腕を問われる。

 

 首相官邸 偉い人たちの部屋

 「喪中の年だというのになに考えているんだか」

 「とりあえず、石油の高騰は飛鳥ガス油田にプラス」

 「代わりに各種産業と消費は打撃を受けるか」

 「ガソリン車と航空機産業は痛手ですね」

 「日本の交通と流通網は、鉄道と電気自動車が主流です」

 「燃料が発電所消費なら値上げに耐えられそうです」

 「戦争による景気後退は小さいと思います」

 「安いときは中東で買って、高いときは飛鳥ガス油田を使うから、どっちでもいいけど・・・」

 「問題は、石油枯渇で焦っているアメリカでしょうか」

 「アメリカの燃料消費は激しいからな」

 「「「「・・・・」」」」 ため息

 「どうする?」

 「アメリカは、中東の油田を押さえる気らしいよ」

 「「「「・・・・」」」」 ため息

 「クウェートは、日本に派兵を求めていたっけ」

 「アメリカ軍の独走に対する緩衝用だろうね」

 「・・・アメリカはなんと?」

 「クウェートはいいけど、イラクに手を出すな、だそうです」

 「あはは・・・クウェート止まりで派兵しろってことね」

 「まぁ 中東の油田が安上がりだけどね」

 「あまり無茶しても、他の産油国と衝突するし・・・」

 「イスラム圏とは人畜無害で付き合いたいんだけどね」

 「イラク産でも、クウェート産でも、石油は石油。石油が欲しいだけだから」

 「貿易立国なんだから手荒いのはまずいでしょ」

 「そうそう。買い手と売り手あっての事。ダーティなイメージは売り買いで響くよ」

 「しかし、派兵。行かないとまずくないか?」

 「かなりまずい。アメリカも日本軍の上陸無しだと正当性を疑われるらしい」

 「“さがみ” “かしま” で4000人だったっけ?」

 「イラク軍は、クウェート周辺だけなら20万くらいか」

 「4000人と20万だと勝てんだろう」

 「アメリカ軍と一緒に上陸するしかないよ」

 「戦車は74式だろう。51口径105mm砲だっけ。大丈夫か?」

 「相手は、T72戦車だから51口径125mm砲、厳しいよ」

 「90式戦車を試作量産したけど、44口径120mm砲が使えるよ」

 「大丈夫なのそれ?」

 「カタログスペックはクリアしているし、エアコンが付いている戦車は90式の黒姫だけ」

 「そうだった」

 「予備役を召集する? それとも現役部隊を統合する?」

 「んん・・・やはり、現役部隊の統合に予備役を足すくらいでいいんじゃない」

 「あとはアメリカ頼りということで・・・」

 「だけど、日本海軍の上陸作戦って、いまいちなんだよな」

 「基本的に領海内の制海権を守るだからね。上陸作戦に振り分けるような予算はないよ」

 「使えるのは、強襲揚陸艦 “さがみ” “かしま” と輸送艦2隻だろう」

 「強襲揚陸艦2隻で将兵4000人と軽戦闘車両。ハリアー12機、ヘリ50機」

 「輸送艦2隻で戦車30両じゃ、負けるよ」

 「軽戦闘車両を増やすと兵士を減らすことになるし」

 「あれは? 兵士の防弾服?」

 「そういえば、試作させていたな。暑いところだと苦労するかもしれない」

 「しかし、西側だけは問題ありなんじゃ・・・」

 「南アフリカ公国は?」

 「アメリカも公国も黒人解放は財政負担が厳しいからガス抜きで出させたがってると思うよ」

 「パキスタン軍が出張ってくれればいいけど、軍艦が沿岸警備用だし」

 「インドは?」

 「インドは、ヒンズー教だからしこりが残りそう」

 「しかし、ラサの宗教国家連合は本気で国連と主導権争いするつもりじゃないだろうな」

 「宗教連合対国家連合なんて構図、洒落にならんよ」

 「チベット独立戦争以降、財源が膨れて宗教国家連合子飼いの傭兵が集まっているからね」

 「でも、月影VTOLで師団レベルの緊急展開部隊を抱えているのって」

 「ラサの宗教国家連合とアメリカだけ」

 「それにラサの空挺師団はグルカ師団だろう。正気な国はそれだけで戦意喪失するよ」

 「宗教連合は、国連と主導権争いすれば、財源が膨らんで面白いんじゃないの」

 「威勢がよくて献金が増えれば、いろいろできるしね。日本の宗教団体も行ってるし」

 「あそこも、分担金上位で理事教団を決めているんだっけ。下位は選挙」

 「国連の真似しやがって」

 「金持ちに逆らわない方が良いよ」

 「そのうち、金に任せて、各国に出撃命令を出すようになるかも・・・」

 「そりゃ 費用を考えたら普通の国は行きたくないよな」

 「問題はスカッドミサイルだな」

 「あれに化学兵器とか、細菌兵器を使われたら・・・」

 「それは、やめて欲しい」

 「アメリカがパトリオットを出すらしいけど」

 「地対空ミサイルなら牙鳳もあるよ」

 「性能的には変わらないから、どっちでも良さそうだけど」

 「んん・・・あれもこれも持って行くのは、難儀だな」

 「でも戦訓は欲しい」

 「「「「・・・・」」」」

 

 

05/

 オーストリア・ハンガリー国境の鉄条網が撤去される。

 

 スペースシャトル、アトランティスが打ち上げられ

 金星探査機のマゼランの射出に成功する。

 

 天安門広場で約2000人の学生がハンストに突入。

 

 アルゼンチン大統領選挙で、ペロン派の正義党のカルロス・メネムが当選する。

 

 ソ連のゴルバチョフ共産党書記長が中国を訪問する。

 天安門広場が民主化を求めるデモで埋まっているため、

 歓迎式典は北京空港で行われることになる。

 

 訪中中のゴルバチョフ書記長が極東で

 12万人の兵力と太平洋艦隊16隻を削減すると発表する。

 

 

 天安門広場周辺、

 国家機関、報道機関、労働団体、民主諸党派を含むデモが30万人に達した。

 中国のホテル

 日本人とアメリカ人が双眼鏡でデモ隊を覗いていた。

 「凄いね。デモ隊もトカレフを持っている」

 「こりゃ 内戦かな」

 「困るよ。敷島に難民が押し寄せる・・・監視網整備で予算超過確実だな」

 「天皇が亡くなっても世界は動くな」

 「天皇家は続くよ」

 「自由資本主義と民主主義の恩恵を一番受けている国が君主に拘るのがわからんね」

 「人はパンのみに生きるにあらず。石には石の価値がある」

 「どんな価値だ」

 「普遍(共通)、不偏(偏らず)、不変(変わらない)」

 「経済で見境なく暴走している国にはわかりにくいだろうね」

 「天皇は、我々のキリストに当たるということかね」

 「十字架にかける気はないけどね」

 「もしキリストが生きて子孫を残していたら」

 「天皇家のように権威だけが適当かもしれないな・・・」

 「いま ゾッ! としたんじゃないのか?」

 「キリスト教は人の欲望を抑制させる」

 「しかし、民主主義で人間の欲望を活用するのは合理的で悪くないよ」

 「悪いとは言ってない。人間が合理的に作られていないだけだよ」

 「確かに中華思想の傲慢、権威主義の酷さ、不正腐敗の汚さを見ると、そう思えてくるがね」

 「しかし、個人主義と拝金主義は無節操と通じるよ」

 「アメリカは、まだ健全だよ。他の大多数の国と比較すればね」

 「そろそろ、アメリカは軍事費を削減したらどうだ?」

 「もう、必要ないだろう」

 「いやいや、世の中、怖いモノが無くなると、傲慢な国が出てくる」

 「世界に警察は必要なんだよ」

 「その維持費を世界から吸い上げているわけか」

 「中国は、油断できない国になっていくよ」

 「10億人の労働を搾取できる国だ」

 「識字率が上がって、経済で弾みがつけば、一気に伸びる」

 「その前に、この国から一気に金を持ち逃げ出しそう・・・げっ! 警官を撃ち殺した」

 軍隊、警察、民間を含めた銃撃戦になっていく。

 「あぁあぁ・・・」

 「確かに権威で人間性を踏み躙られると醜いな」

 「金に踊らされて良識を奪われるアメリカと、どっちがいいかな」

 「絡むなよ」

 「日本は閉塞的な管理社会を利用して、国民に勤労勤勉を強要しているくせに」

 「あははは・・・」

 中国軍とデモ隊の間で激しい衝突が起こる。

 「内乱未満だと思うが・・・」

 「海南国と地方の軍管区も、まだ準備できていないようだ」

 「海南国も核を持っている国に手を出す気になれないだろう」

 「地方の軍管区も核が怖いからね」

 「ウィグルの独立勢力は動くだろうか」

 「あそこは標高が足りないし、人海戦術でやられるよ」

 「それに男はやられて、子供は漢民族の血が入ってるだろうな」

 「じゃ まともなウィグル人はチベットに逃げた連中だけか」

 「どちらにしろ、中国大陸に対する野心はないよ。資源と市場は興味があるがね」

 「まったく・・・だけど、中国共産党がどう出るかな」

 「党が権力にしがみ付こうと思えば民衆を弾圧」

 「それとも権力構造に民主化を取り入れつつソフトランディングを狙うか」

 「自由資本主義の理屈は取り入れても民主化は取り入れないだろうな」

 「実力も能力もなく、党の権威だけでやっている党幹部は多いからね」

 「デモに躊躇しているのは、迷っているのかな」

 「さぁて、中国人が優しいか、人でなしか、もうすぐ本性がわかる」

 「人でなしに賭けるぞ」

 「じゃ 弾圧ですかね」

 「でも、人でなしに賭けるばかりじゃ 賭けが成立しないじゃないですか」

 中国軍とデモ隊の衝突は過熱していく。

 

 趙紫陽総書記が民主主義勢力と妥協を示唆。

 天安門のデモは100万人規模となる。

 

 北京で戒厳令がしかれて趙紫陽総書記が実権を失う。

 

 天安門広場と市内中心部に100万人近い学生・市民が集合。

 上海や天津にもデモが拡大し、香港でも100万人の支援デモが起こる。

 

 第1回ソ連人民代議員大会が開かれ、

 ゴルバチョフ書記長が最高会議議長に選ばれる。

 

 中国で、李鵬首相が全権を掌握する。

 

 戒厳部隊20万人が北京市に集結する。

 

 北京市公安局が趙総書記秘書ら3人を逮捕する。

 

 

 五島列島沖

 700トン級無人巡視船が少し離れ、木造船を追いかけていた。

 上甲板に太陽光熱発電パネルが貼り付けられ、

 船橋はレーダー、監視カメラ、無線装置、機銃塔、スピーカーが備え付けられている。

 海上交通安全法で物議を起こしそうな無人船は実験的に配備されていた。

 無人なので消耗が少なく、撃たれても人命を損なわず。

 構造的に沈まないので時化でも平気、

 なので長期の巡視計画が可能だった。

 輸送ヘリから数人の隊員が無人船に降りると、

 ハッチを空けて中に入れば有人巡視船に早変わり、

 「本部! いま付いた。船に異常なし。手動に切り替える」

 『了解した。後は任せる』

 「難民船だな」

 「んん・・・25トン程度の漁船だと東シナ海沿岸からだろうな」

 「中国が荒れているから、逃げ出してきたんじゃないか」

 「んん・・・面倒だな」

 「応援は?」

 「一番近い大型巡視船が来るよ」

 五島列島にベトナム難民と名乗る男79人、女28人の計107人を乗せた小型漁船が漂着する。

 しかし、ベトナムではなく、中国系の偽装難民であることが判明する。

 

 

 深夜、天安門広場に民主の女神像が登場する。

 

 06/

 世界自然保護基金(WWF)が象牙売買によるアフリカ象激減を発表。

 象牙輸入大国日本を非難する。

 

 ソ連・ウラル地方で天然ガスのパイプラインが爆発。

 通りかかった列車2本が巻き込まれ死亡607人。

 

 

 

 ホテルの一角から日本人とアメリカ人が双眼鏡で外を覗き込む。

 戒厳令下の天安門広場で警察隊と群衆が衝突し、押し流されていく。

 中国軍が戦車と装甲車を先頭に民衆の間に割り込んでいく、

 しかし、デモの勢いは収まらない、

 圧倒的な戦車の前に中国人が立ちはだかる。

 突如、80式戦車の砲塔が対戦車ロケット弾で撃ち抜かれ、

 民衆も軍も動揺し、しばらくすると軍隊による殺戮戦が始まり、

 民衆側も隠し持っていたトカレフで反撃する。

 「な、なんだぁ〜」

 「対戦車ロケットなんて、どこのだ?」

 「どこって、RPG(ソ連軍携帯対戦車兵器)は足が付かなくて使いやすいから、どこでも隠れて作っているよ」

 「そういえば、中国軍が日本のヤクザに売ろうとしていたっけ・・・」

 「アメリカのマフィアは買ってたよな」

 「アメリカ人は大らかだからな」

 「日本人は慎み深いんだよ」

 「しかし、どこの勢力が使ったんだ?」

 「貧困層か、ウィグルか、チベットか、あの辺じゃないの?」

 「そういえば、むかし、RPGの複製を空輸で落としたっけ」

 「んん・・・中国大陸は荒れそうだな」

 「イラクのクウェート侵攻のドサクサに紛れて、中国民主勢力を押し潰してしまうかも」

 「中国大陸は荒んでていやだね」

 「それ、昔から」

 「日本は対イラクで参戦するの?」

 「んん・・・準備しているみたいだけど、微妙らしいよ」

 「歯切れが悪いな」

 「金持ちケンカせずだろう」

 「軍事比率が低いから、しがらみもないか。いいよな」

 「中国の方が脅威だからね。中東なんてどうでも・・・」

 「うんうん、日本に比べてアメリカは、ワールドパワーで責任があるからね」

 「・・・中国はどうなるやら」

 「中国は中央が弱いと、地方が勝手にできていいのかも」

 「地方分権は悪くないぞ」

 「日本連邦だって4割自治は認めているよ」

 「問題は軍管区そのものが勝手にやっていることだろうな」

 「国家意識に欠けているんじゃないか」

 「ふ 皇族とか特殊な要素がないと、国家として、まとまりが付かないからね」

 「実力さえあれば、自分でもやれると思うのさ」

 「もし、日本が戦争で負けていたら、天皇は、どうなっていたかな」

 「そのときは、軍隊を悪者にしても天皇家を守ろうとするよ」

 「本当に?」

 「天皇家を悪者にして軍部を守ろうとする軍人は、今も、当時も、いない」

 「いくら軍国主義でも、そこまで腐ってないよ」

 「天皇は人気があるからな」

 「日本は、むかしから権威と権力の二重構造」

 「天皇が戦争と直接かかわったのは、ミッドウェー以降の数年だけ」

 「・・・便利といえば、便利だな」

 民衆の中からRPGロケットランチャーが白煙の帯を曳きながら飛び出し、

 80式戦車に命中、破砕する。

 「げっ! まだ持っているのか?」

 「こりゃ ウィグルとチベット人の復讐には、十分だな」

 「ああ」

 中国軍が鎮圧で銃撃すると、

 中国民衆は用心して使わなかったトカレフとAK47を持ち出して反撃。

 自由を求める中国民衆は狂気に突き動かされるように

 中国各地で中国軍と衝突を繰り広げる。

 「だ、大丈夫か?」

 「さぁ 民衆側は、反体制で核になる人物と組織がない。厳しいな」

 「清国崩壊の折はアメリカと日本で学んだ留学生が核になって革命を進めたけどね」

 「いまの華僑は損得優先だし、海南国も国の保身を考えれば動けない」

 「得るものより、失うものが大きければ愛国心があっても身動きとれずか・・・」

 「いや、踏み躙り過ぎだ」

 「愛国心が芽生え難く、こんな国滅びてしまえって逆に自滅意識が働くよ」

 

 

 東京外為市場

 日本経済は資本家の利潤を阻害する規制と

 資本家の利潤を足す規制緩和の狭間で揺れていた。

 戦時の油不足の反動で自動車を規制しつつ、

 鉄道を拡張は沿線経済に集中させ、利益誘導で赤字幅を減らすため、

 そして、積極財政で一定以上の設備投資ののち、特権と既得権益を廃止。

 噴水効果で利潤を社会資本に流し込んで緊縮財政で民営化、民間活力を足していく。

 この繰り返しで公共設備と社会資本が膨れ上がっていく、

 好景気なのは、金のなる木の飛鳥ガス油田の利潤を扶桑州と瑞穂州の公共投資に注ぎ込んだためと言える。

 地下鉄は、最低限の利潤を確保しながら極地域にまで到達し、私鉄も広がろうとしていた。

 自動車産業も段階的に規制が解除されていくものの惰性で電気自動車が多く、

 総じて日本経済は、石油の枯渇に対し強い耐性を持ち、

 アメリカの利己主義的な資本主義と一線を隔している。

 それでも、円相場は、天皇崩御、共産主義世界の崩壊、

 イラク軍のクウェート侵攻、中国の内紛で荒れ乱高下していく。

 やはり、どこの世界にも相場師がいて世界情勢も投機の材料になっているからと言える。

 「日本軍は、出るのか?」

 「派兵軍の編成を組んでるみたいだよ。予備役を招集して穴埋めしてるし」

 「いよいよか」

 「どうだろう。派兵好きな右翼は喪に服するって退いてるし」

 「そういえば反体制左翼も喪に服するとか退いてる」

 「何か矛盾してるな」

 「それに政府と財界はクウェートとイラクの利権分けでゴネているんじゃないか」

 「金にならなきゃ やんねぇってか?」

 「日米英で交渉中なんじゃないか。石油利権も再建需要も美味しいし」

 「政府が気が進まなそうなのがいけない。自由貿易上、ダーティなイメージはまずいし」

 「喪に服しているからね」

 「それ言っちゃお終いよ」

 

 

 カザフ共和国で食糧不足により暴動が発生する。

 

 ビルマが国名をミャンマーに変更する。

 

 天安門事件の首謀者が死刑執行され、暴動は中国各地へ広がる。

 

 中国共産党中央委員会総会で趙紫陽総書記を解任し、後任に江沢民を選出する。

 

 上海で急行列車のトイレに仕掛けられたダイナマイトにより爆発し、乗客20人が死亡する。

 中国の諸都市が無法地帯と化していく。

 

 東芝が日本初のノートパソコン(J3100SS001)を発売する。

 

 

07/

 フィリピンが木材を禁輸する。

 

 朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壤で、第13回世界青年学生祭典が開幕する。

 韓国から女子学生の林秀卿(イムスギョン)が参加する。

 8月15日に軍事境界を強行突破して帰国し逮捕される。

 

 聖地メッカ事件が発生する。

 

 ソ連の西シベリアで炭鉱労働者がストに突入。

 

 ブッシュ大統領が “鉄のカーテンは開き始めた” と講演する。

 

 

 

瑞風(ずいふう)

F15Cイーグル Su27フランカー MiG29フルクラム
全長×全幅×全高 m 16 × 10 × 4.6 19.43×13.05×5.63 21.94×14.70×5.93  17.32×11.36×4.73
翼面積 u 40 56.5 62  35.20
機体重量(自重/全備) kg 9000 / 16000 12973 / 30845 16300 / 30000  8175 / 18000
巡航 / 全速 M1.2 / M2.4 M1.23 / M2.5 M1.1 / M2.35  M1.06 / M2.3
航続距離 1000km / 2400km / 5745km 1500km / 4000km / 2100km
推力 kg 8200×2 10637×2 12500×2  8300×2
機関砲 25mm×1 20mm×1 30mm×1  30mm×1
空対空ミサイル 4 4+4 6〜8 + 2  2 + 4
搭載重量 kg 3000 10705    
乗員 1/2 1/2   1/2
  80年 72年 77年 77年
         

 

 

雷燕2型

F16ファルコン  F18ホーネット  EF2000
全長×全幅×全高 m 13.00×10.00×3.60 15.03×10×5.05 17.07×11.43×4.66  15.96×10.95×5.28
翼面積 u 24 27.90 37.20 50
機体重量(自重/全備) kg 5000 / 8500 8627 / 19187 10455 / 23541 9750 / 21000
巡航 / 全速 / M1.8 / M2 / M1.8 M2
航続距離 3000 / 3890 / 4070 600 / 1400
推力 kg 8200 13154 7330×2  9200×2
機関砲 25mm×1 20mm×1 20mm×1  20mm×1
空対空ミサイル 2 2 × 2 × 2 2 4
搭載重量 kg 2000 5443 7710  6500
乗員 1/2 1/2  1/2 1/2
  64年 74年 74年 94年
         

 

 赤レンガの住人たち

 一度、既得権ができてしまうと惰性で続いたりする。

 関係性を断ち切るのは戦争で負けない限り、難しいといえた。

 押し付けられ買わされた強襲揚陸艦 “さがみ” “かしわ” の後継艦もそうだった。

 そして、イラク軍のクウェート侵攻に “さつき” が巻き込まれて追い風、

 「出すって?」

 「石油利権はアメリカで、再建利権は日本で収まりそうだよ」

 「石油利権はダーティ過ぎて退いたか」

 「土木建設は得意だからね」

 「それで、損益収支は、大丈夫なの?」

 「たぶんね。強襲揚陸艦 “さがみ” “かしわ” と輸送艦2隻」

 「あと、巡洋艦8隻、補給船、輸送船、掃海艇40隻が出る」

 「やれやれ、戦車は?」

 「先行で製造していた90式戦車黒姫30両が間に合うよ」

 「アメリカが先行するから、大して血を流さなくていいかも」

 「怒るんじゃないか」

 「どうかな “さつき” の活躍は、大きいよ」

 「アメリカは、そのイメージを消したいほど進撃したがる」

 「そりゃ 幸運だったね」

 「・・・だけど、次期建造計画は、どうしよう」

 「“さがみ” “かしわ” は、2008年退役まで持たせられそうだけど」

 「上手くやれば、2010年も、いけるかも」

 「限られた予算で割り振りすると厳しいよ」

 「強襲揚陸艦(LHA)と戦車揚陸艦(LST)の特性を併せ持たせれば」

 「んん・・・機能追加で大型艦にして、4隻を2隻でまとめるのも、ありかも」

 「アメリカ海軍のクジュウクリ型の次艦ワスプ型がそうだよね。戦車の揚陸もできる」

 「海外州も安心か」

 「海外州は軍事工場の建設予算を欲しがるよ」

 「むしろ、その方が経済波及効果があって喜ばれる」

 「んん・・・それは、そうと、雷燕2型の後継機が微妙なんだよね」

 「ステルスを考えると予算が厳しいよ」

 「航空機に予算が流れるのは普通だよ」

 「次は、単発の紫燕だっけ?」

 「結局、ステルスとジェットエンジンが開発のネックだからね」

 「推力は13000kgだっけ?」

 「目標はね」

 「F4、雷燕2型、瑞風とも推力を8200kgに底上げしたけど、今度は、無理だね」

 「ステルスだから機体形状も変わる。新規開発になるね」

 「だけど、13000kgだと、F16ファルコンと同じか、厳しい・・・」

 「もっと、設備投資して機体価格を落とすべきじゃ」

 「たぶん、価格の比重は、電子関連が埋めると思うよ」

 「そんなに大きくなるの?」

 「ロボット戦闘機だね」

 「機体さえ無傷ならパイロットが気を失っても自分で戻ってくるよ」

 「うそ、戦闘は?」

 「戦闘は無理だけど、航法、レーダー、電子戦、通信など補助は、さらに進む」

 「コンピュータを背負って飛んでいるようなものだね」

 「い、いくら?」

 「電子関連は、瑞風の十倍」

 「げっ!」

 「早期警戒管制機を使った航空戦は?」

 「ステルス戦闘機が就役すると、監視衛星からでも追尾が難しくなる」

 「たぶん、いまの防空管制システムは、かなり変更させられるよ」

 「索敵は?」

 「電波が駄目なら索敵レーザービーム照射で探知」

 「線じゃ〜」

 「それに重量制限内で収めないと、性能が落ちるんじゃない」

 「ていうか、敵を先に見つけないと、話しにならないから、多少は犠牲にしないと」

 「レーダーの価値が低下すると厳しいな」

 「アメリカがステルス戦闘機を開発するのは、何年先だろう」

 「さぁ 10年から15年先くらいだろうか」

 「じゃ それを見越した対応をしていけばいいのか」

 「なんか・・・アメリカが敵だな」

 「ソビエト軍、中国軍だと、面白みに欠けるから」

 「どっちも、混乱しているから、自暴自棄になって攻撃してこなければいいけど」

 「あはは・・・」

 

 

 百里基地

 58年初飛行のF4ファントムは時代が進むにつれて旧式化していく、

 初期の開発コンセプトで求められた上昇力、高々度性能、高速性能も凡庸になり。

 新型機に比べ整備性が低いのが難点だった。

 アメリカはF15イーグル、F14トムキャット、F16ファルコン、F18ホーネットに機種転換したがり、

 その余波で大量に払い下げられたF4ファントムは、日本でF4Jファントムに改造される。

 理由は、ともあれ、国産の雷燕2型と瑞風は防空限定で強いだけの制空戦闘機、

 適当な攻撃機を欲していた日本は比較的安くF4ファントムを購入できて悪くはなかった。

 容積が大きく、対艦ミサイル、対空ミサイル、対地ミサイルのプラットフォームで改造しやすく、

 瑞風で開発した最新技術とアビオニクスの一部をスペックダウン式に取り入れることもできた。

 推力は、エンジン換装J79型7962kgからJ99型8200kgに増し。

 電子装備、アビオニクス、フライ・バイ・ワイヤなどの新規更新で乗員1人、

 ステルス塗料を塗るとレーダーに映る機影も少し小さくなり、

 機体の軽量化で機動性も増していた。

 F4ファントム   7962kg×2 重量13757kg    1.1575

 F4Jファントム   8200kg×2 重量12257kg   1.3380

 F15イーグル   10640kg×2 重量12973kg   1.6403

 F16ファルコン 13199kg×1  重量8627kg   1.5299

 Mig29フルクラム 8300kg×2  重量8175kg   2.0305

 Mig31フォックスハウンド 15500×2  重量22000kg  1.4090

 単純に重量当たりの推力を出しただけでも機体の性質がわかり、

 侵攻型、迎撃型など性能項目の割り振り、

 電子装備、機体形状、軽量化の度合いで性能が変わってくる。

 そして、F4Jファントムは対アメリカ戦で不都合でも対中・対ソ戦だと支障無しの改造に仕上がる。

 ずんぐりした機体は、時代遅れを感じさせつつ滑走路に進入して着陸。

 部品類山積みの格納庫へと誘導されてくる。

 「・・・しかし、随分、部品が余っているな」

 「機体の改造と軽量化で、部品の3分の1を国産で作り直して、不要になったからね」

 「おかげで、1.5トン近く軽量化できたよ」

 「F4ファントムの採用国は、多いから部品は売れるだろう」

 「電子装備は?」

 「燃料タンクを縮小して都合をつけることができた。航続距離は少し低下している」

 「対中・対ソなら有用。対米なら無駄という感じかな」

 「Mig27、Mig29、Mig31が出てくると厄介だけどね」

 「空中指揮管制機が一緒に飛べば、射的の的だよ」

 「一緒に飛べばね」

 「チベットの宗教国家連合は、日本と同じ改造で良いのか?」

 「正面がソ連軍機と中国軍機なら支障ないらしいよ」

 「あいつらも買わされたっけ」

 「F16を買えば良いのに・・・」

 「場所柄、新型機を警戒したんじゃないか、傭兵部隊だし」

 「攻守で使える機体は、敵に緊張感を強いる事が出来て有用だよ」

 「F4ファントムも最後は、巡航ミサイルになる運命かな」

 「F4Jファントムは、費用対効果が微妙な改造だな」

 「巡航ミサイルはいいとして、底上げは次に繋がる可能性が乏しい」

 「F4Jの減価償却が終わると、次はどんな機体を押し付けてくるやら」

 「結局、攻撃機が欲しいだけなんだが」

 「F4ファントムは悪くないよ。ペイロードの大きさは、ぴったり」

 

 

 フランス革命200年

 第15回主要先進国首脳会議が開かれる(アルシュ・サミット)。

 人は生きていく上で自分を養う以上の生産力を求められ、

 近代化で、さらに顕著になっていく、

 早い話しが近代化は、一人当たりのGDPをいかに大きくするか、ともいえる。

 共産主義思想は競争原理がなく、懸命に働いても平等に配分されてしまう。

 そのため積極的に働く必要もなく、より消極的に、より怠惰になっていく、

 共産主義世界は、人間の負の精神に毒され、

 軒並み生産性が落ち、経済は停滞し、社会生活すら困難になっていた。

 共産主義世界で自分を養う以上の労働生産性を失ったとき、クライシスが始まる。

 一方、自由資本主義は、苛烈な過当競争によって淘汰がなされ、

 弱肉強食な切磋琢磨の過程で新陳代謝が行われているものの、

 醜い足の引っ張り合いと抗争は、適者生存より、

 不正腐敗などで老廃物が生存する事も増える、

 市場は欲望に支配され、利益への渇望は過剰供給で無駄が相殺され、

 全般的には成長していた。

 とはいえ、共産主義世界の崩壊は脅威の喪失、

 脅威の喪失は、自由主義世界の結束力を弱めてしまう、

 幸運だったのは、イラクのクウェート侵攻だった。

 欧米諸国は、シメシメだったはずが日本が割り込み、面白くない、

 とはいえ、日本の巡洋艦がクウェート王族を救出し、

 イラク軍侵攻の出鼻を挫いて無視できず、

 クウェート王も損得勘定で日本に利権分けを振り分けようと

 いつの間にか、日本も多国籍軍に編成させられ、一翼を担ってしまう。

 もっとも、既に戦いの帰趨は見えているのか、

 事務レベル協議が詰められていた。

 「日本は、パキスタンまでだっただろう」

 「いや “さつき” の中東歴訪は、儀礼的なもので昨年から決まっていたし」

 「喪に服しているんだから、そういうときは遠慮するもんだろう」

 「産油出国との関係は重要だから波風立てたくないでしょう」

 「イラク軍は日本巡洋艦の出航を待って侵攻したのに」

 「日本の巡洋艦が夜にクウェートに戻るって、どういうの?」

 「だから、あれは、クウェート漁船の事故だから不可抗力だよ」

 「こっちの計画を妨害しようとしてたんじゃないだろうね」

 「これだけ偶然が重なって妨害はないでしょ」

 「ったく、なんで、そう日本の都合の良いように動くかな」

 「知るか!」

 などなど、米英とも中東権益に割り込んだ日本を理不尽に責めたりする。

 「ところで、ソビエトはどうしよう」

 「ソビエトは、国内の方が大変でね」

 「ベトナム連邦方式を取り入れるか、検討しているらしい」

 「国内に自由市場を作るの?」

 「たぶん、私有財産を所有できる区画を作るか、私有財産の規制を緩和するか・・・」

 「アフガニスタン撤退でソビエトの威信もぐらついたんだろう」

 「共産主義の黄昏だな」

 「東欧が崩れそうだな」

 「中国は微妙だ」

 「イラクのクウェート侵攻は救いだけど。自由主義世界が結束する必要性が低下するね」

 「それは、それで、問題になるよ。ソ連軍の脅威は依然として残っているし」

 「ソ連崩壊で軍事費削減だろうね」

 視線がアメリカに集中する。

 一番困るのは、軍産複合体が強いアメリカ合衆国で、

 火種がなければ火種を作ることも辞さない勢力だった。

 そして、イラク軍のクウェート侵攻も火種の一つ。

 「中国は、どうだろう。まだ、内紛が続いている」

 「民衆が、あんなに武器弾薬を隠しているとは、思わなかったよ」

 「チベット独立戦争のとき、ばら撒いたからね。トカレフとか、AK47とか、対戦車ロケットとか」

 「問題は、中国国内に反乱の工場があるかだね」

 「中央を狙っている軍管区があるかも」

 「横流しはしてると思うよ。事務処理とか、管理とか、いい加減だったはず」

 「でも、組織的じゃないと思うけど」

 「中国の民主化は国力が付き過ぎて望んでないからね」

 「西側諸国が応援しなかったら、あんなものでしょう」

 「このまま、資源と消費地で、中華の中に埋没して欲しいね」

 「紛争は、輸出入で悪影響があるからどうかと思うけど」

 「だけど、中国大陸に手を出すのは、面白くないよ。核兵器持っているし」

 「好きなだけ、殺し合いをさせていいんじゃないの10億もいるし」

 「でも、ウィグルとか、少数民族とか、同情するけど」

 「んん・・・・とりあえず、ウィグルと、少数民族は隠れて支援」

 「中国は、放置ということで」

 

 

 

 イギリスのサッチャー政権が最大規模の内閣改造を行う。

 外相にメージャーが就任する。

 

 ゴルバチョフ議長の説得で、ソ連11都市の合同ストが収束に向かう。

 

 通産省がアメリカに輸入発掘チームを派遣する。

 

 ソ連最高会議は1990年からバルト3国(リトアニア・エストニア・ラトビア)を独立採算制移行を決定する。

 

 08/

 連帯のワレサ委員長が与党系の農民党、民主党に連立内閣を呼びかける。

 

 中米5ヵ国がニカラグアの反政府ゲリラ「コントラ」を解体することで合意する。

 

 レバノンのベイルートで砲撃戦が行われる。

 

 ハンガリーとオーストリア国境で開かれた平和集会を利用し、

 東ドイツ市民900人が西側に集団脱走。

 その後、200人が脱走

 

 プラハ

 ソビエト侵入21周年の反体制デモが行われ、300人が拘束される。

 

 バルト3国のソビエト併合を決めた独ソ不可侵条約の秘密議定書が初めて公開される。

 

 独ソ不可侵条約50周年、

 この条約でソ連に併合されたバルト3国で人間の鎖を展開する。

 

 コロンビアの麻薬業者が政府に全面戦争宣言をする。

 

 ボイジャー2号が惑星探査を終えて太陽系外に出る。

 

 ハンガリーと西ドイツの極秘首脳会談。

 ハンガリーは東ドイツ市民の西側脱出を認め。西ドイツは援助を約束する。

 

 コロンビア政府がコカイン密輸組織に対して宣戦布告する。

 

 アフリカ、チャド内戦の和平協定の調印が行われる。

 

 

 

 

 09/

 日米貿易不均衡の背景にある両国経済の構造的問題を話し合う

 日米構造協議の第1回会合が開かれる。

 

 ハンガリー政府が、国境を開放して東ドイツ市民が西ドイツへ脱出することを認める。

 

 

 通産省が第5世代コンピュータの利用技術を日米共同で開発すると発表する。

 「基本フレームが違うのに共同開発もないだろう」

 「記憶素子とか、通信回線とか、そういうのじゃない?」

 「CDROMとか?」

 「あれは大きいな。標準装備になる」

 「抜け駆けされるのが怖いのか?」

 「どっちもだろう。JIS・TRON系とIBM・Windos系のシェアの奪い合いは、

 

 リトアニアでソ連邦加盟無効の宣言が出される。

 

 G7がドル高抑制の抑制の共同声明を発表する。

 

 10/

 ニューユーク株が高騰していく、

 プラザショック以降、日本人を含めた海外投資家が増え、

 国際色豊かになっていた。

 「冷戦の終結で軍需に引き摺られて大暴落と思ったらイラクのクウェート侵攻で大暴騰」

 「一寸先は光だな。アメリカの悪徳を信じてよかったよ」

 「アメリカ軍は減価償却分の武器弾薬を総浚い」

 「軍産複合体は、再生産と国内外への売却で大儲け」

 「アメリカ財界は、ブラザショックで国外に流出したドルを湾岸戦争で集めてホクホクか」

 「アメリカ政府は、中東の石油利権を奪取で国際的地位も上昇」

 「日本の巡洋艦が巻き込まれなければ日本からもっとふんだくって、利潤が大きかったかもしれないな」

 「そうなったら、もっと儲けが大きかったかも」

 「非国民だけど経済は怖いな」

  

 

 ドレスデンで5万人のデモが行われる。

 

 東ドイツで初の自主管理労組が結成される。ライプチヒで30万人のデモが行われる。

 

 東ドイツ国家評議会議長にクレンツ書記長が選出。

 西側への旅行の全面解禁を表明する。

 

 東ベルリンで1万2000人のデモが行われる。

 

 11/

 東ベルリンで100万人デモが起る。内閣が総辞職、政治局員が全員解任される。

 

 

 9日、東ドイツ政府が海外移住とその手続きを自由化し、

 ベルリンの壁が事実上撤廃。

 東ドイツ市民が歓声とともにゲートを通過する。

 ベルリンの壁の一部が取り壊される。

 

  

 日系人が二人、歴史的瞬間を遠巻きに眺めていた。

 「感無量だね」

 「東西ドイツが一つになっても秋田のドイツ人が本物のドイツ人だよ」

 「とりあえず。記念艦のティルピッツは返せそうだな」

 「それは、秋田のドイツ系が決めることだ」

 「共産主義も民衆の力には勝てなくなったか、良い傾向だね」

 「捻じ曲げられたドイツ民族の誇りを回復させるのは大変かもしれないな」

 「やり過ぎて、周辺国を怯えさせないでくれよ」

 「日本は出雲と秋津を人質を取られて応援できないよ」

 「ちっ! アメリカの策略にまんまと乗りやがって」

 「軍事と経済で住み分けしているんだ。どっちも軍事偏重だと衝突するだろう」

 「もっと、我を通せよ。日本は国際協調なんて志が低いよ」

 「ふ 世の中はな、思い通りにならないようにできているんだよ」

 「湾岸戦争参戦もか?」

 「油田という担保がなければ分担金だけだし、出兵しなかったと思うよ」

 「覇気がないね」

 「覇気で血税を投げ捨てられるか」

 

 

 11/17

 アメリカ太平洋艦隊と多国籍艦隊がペルシャ湾に現れる。

 「言語上の混乱を避けたいから日本軍は後詰めで頼むよ」

 「まぁ しょうがないでしょう」

 日米英3ヵ国を核にした上陸作戦艦隊は、クウェート領内のイラク軍に攻撃を加えていく、

 高度な情報管制とピンポイント爆撃と砲撃でイラク軍は指揮系統が寸断され混乱し、

 制空権と制海権は多国籍軍が制し、

 イラク軍は、砲撃と爆撃だけで無力化されてしまう。

 そして、日米英軍の上陸が始まるとイラク軍は敗走していく、

 

 

 日本艦隊は、強襲揚陸艦(LHA)2隻、輸送艦(LST)2隻、

 ほか10隻を巡洋艦8隻が守っていた。

 輸送ヘリに搭乗した上陸部隊がクウェートの橋頭堡へと飛び立っていく、

 輸送艦(LST)から出撃したホバークラフト強襲艇が海面を滑走し、

 上陸作戦艦隊の間を抜けていく。

 そして、陸地から反撃はなく、

 強襲艇ごと陸地に乗り上げ物資を陸揚げしていく、

 圧倒的過ぎて刺激がない、

 提督が白けた表情でアメリカ艦隊と多国籍艦隊を比較する。

 アメリカ艦隊は、モンタナ型戦艦モンタナ、オハイオ、メインが威並び、かなり羨ましい。

 しかし、戦艦でなくてもトマホーク巡航ミサイルを発射することはできる。

 大型原子力空母もサウジアラビア、トルコ、ソコトラ島の航空基地が使えるならいらない、

 もっとも、それだけの海軍力があるから、

 海外で航空基地を運用できるのだと思えなくもない。

 強襲揚陸艦 さがみ 艦橋

 「来た。見た。勝った」

 「そのままですね」

 「さすがアメリカ軍だ。実につまらん」

 「鎧袖一触でイラク軍を壊滅させ、すぐに掃討作戦ですからね」

 「・・・提督。戦車部隊も、全車両、無事に揚陸したそうです」

 「黒姫は試作量産だろう、大丈夫だろうか?」

 「技師は “備品を余計に持って行きましたから大丈夫でしょう” と」

 「回収車両も一回り大きくして、なに考えているんだか」

 「ですが、原案だと、一回り小さくてエアコンが付いてなかったそうですよ」

 「・・・怪我の功名か」

 「あとは、被害が少なければいいのですが」

 「今回は、右翼も退いて、左翼も崩御をどう扱うかで迷って微妙だったからな」

 「巻き込まれ損ですね」

 「まぁ クウェートを回復するだけでいいだろう。それで、引き揚げだな」

 「再建が済むまで居残りでは?」

 「年内は、喪に服したいのだがね」

 「まったくです」

 米英日仏多国籍軍は総数96万に達し、

 装備・兵力でもイラク軍36万を圧倒していく。

 

 

 クウェート

 総面積1万7818ku。人口200万弱。

 航続力が400kmあればスペック上、東西でも南北でも往復できた。

 破壊されたT72戦車、T62戦車、T55戦車が辺りに点々と取り残されていた。

 上空をF15イーグル編隊が飛び去っていく、

 90式黒姫戦車30両は、イラク国境の手前で停止し、

 出来立てほやほやの90式戦車部隊は、技術士官から熟練工員まで引き連れていた。

 寄ってたかって足回りのチェックや装備の点検が始まる。

 ハッチが開いた。

 「あじぃ〜」

 「エアコンが付いていて良かったですよ」

 「だな。74式だと熱射病で死んでた」

 「でも大佐・・・一発も撃たずに国境まで来ちゃいましたよ」

 「慣らし運転でも、つまんねぇ」

 「大砲撃ったのアメリカ軍とイギリス軍ばっかりですよ。なにしに来たんだか」

 「再建事業じゃないの土建屋が見積もりがどうので騒いでいたから」

 「上で話しを付けて、イラク国境まで退いてもらったって、本当だったんですね」

 「同士撃ちがなかっただけでも良いよ」

 「黒姫は、エイブラムズに撃ち勝てるって本当ですかね」

 「たぶんね」

 「エイブラムズの被害は、ほとんどないようです」

 「イラク軍は、結構やられてる。T72戦車だぞ、あれ」

 「見に行きたいですね」

 「アメリカは劣化ウラン弾を使ってるから近付くなとさ」

 「解体屋、泣かせですかね」

 「後先考えないところがアメリカらしいな」

 「スカッドミサイルより、アメリカ軍のウラン弾の方が怖いですよ」

 「アメリカ軍将兵は黒人とヒスパニック。あと黄色人種が多いな」

 「良いですね。磨り潰せる人種を国内に抱えているなんて」

 「日本だと同族嫌悪を避けたがるからね」

 後方から編隊機が上空を通過していく。

 「すごい・・・全部、月影VTOLですよ」

 「アメリカと宗教連合の空挺師団か。お金持ちは違うな」

 「どちらにしろ、ここで終わりですか?」

 「イラクとは、それで話しを付けている」

 「毒を食らわば皿まで勝ち馬に乗ればいいのに日本政府も中途半端に八方美人なんだから」

 「“さつき” の貢献は大きいからね」

 「勝ち過ぎてアメリカに睨まれたくないのだろう」

 数百機の月影VTOLが飛び去って行った。

 「・・・終わったら、秋津州と出雲州を回って観光して、本国に帰還だそうですよ」

 「“さがみ” “かしわ” と黒姫90式を海外州に見せたいのだろうな」

 「強襲揚陸艦の建造は増えますかね」

 「どうだろう。いらないという声も強いし」

 後続のアメリカ軍、イギリス軍、フランス軍、南アフリカ軍の部隊が日本軍を追い越し、

 砂塵を上げてイラク国境を越えていく、

 

 

 ブルガリアのジフコフ共産党書記長兼国家評議会議長が辞任する。

 

 ハンガリー国境の鉄条網の撤去作業が完了する。

 

 ハンガリーが欧州会議への加盟を申請する。

 

 チェコスロバキアのプラハで5万人のデモが起こる。

 

 ラトビア共和国のリガで、独立要求の30万人集会が行われる。

 

 プラハでの前日のデモで学生1人が死亡したとの噂が流れ、

 2000人が抗議のデモを行う。

 

 プラハで民主化デモが行われる。

 バーツラフ広場でドプチェクが30万人を前に演説する。

 チェコスロバキアの指導部が退陣する。

 

 プラハで100万人勝利報告集会が行われる。

 

 ライプチヒでドイツ再統一を求める20万人デモが行われる。

 

 チェコスロバキアがオーストリア国境を開放する。

 

 

 赤レンガの住人たち

 テレビのモニターに巡洋艦 “さつき” の雄姿が解説付きで流れていた。

 「次は、ワスプ型強襲揚陸艦だとよ。湾岸戦争のおかげで勢いが付いている」

 「また、買うの?」

 「アメリカは買って欲しいらしいよ」

 「どうせ建造するなら国産で建造しようよ」

 「そりゃ 血税をアメリカ企業に払うくらいなら日本企業に払いたいのが人情だけどね」

 「戦費負担が嫌なら買えってか?」

 「世の中、そう甘くないのが辛いところか」

 「政府は、どうするって?」

 「微妙。元々 “さがみ” “かしわ” も押し売りで買わされたようなものだし」

 「そんなの買うくらいなら現地生産を拡大すべきだけどね」

 「大型艦を後生大事に抱えて逃げ回って最後に捨て鉢な特攻とか、見苦しいからいやだよ」

 「アメリカ海軍は日本海軍の巡洋艦、潜水艦が脅威だけど」

 「強襲揚陸艦は何隻あっても脅威にならないからね」

 「日本に強襲揚陸艦を買わせて、アメリカの属軍にしようとしてるな」

 「やはり、国防は潰しの利く巡洋艦と潜水艦を主力にしたいけどね・・・」

 「しかし、主力戦力のアメリカが湾岸戦争の戦費負担を同盟国に要求しているから、買うしかないかも」

 「マッチポンプの我田引水で減価償却分の武器弾薬を使い切って、諸外国に負担させやがって」

 「“さつき” が偶発事故で再入港していなかったら利権も蚊帳の外か」

 「それどころか、侵攻を事前に察知して逃亡とか、アメリカを中心に国際非難だったかも」

 「ちっ! 日本にダーティイメージを押し付けようとしたくせに分担金だ〜 ふざけやがって」

 「だけど、喪中に何やってんだか、国民も苦虫を噛み潰しているような感じかな」

 「こういうの前例にしない方が良いよな」

 「運が良かったと言えるのか、言えないのか」

 「だけど非難されて分担金だけむしり取られるのも癪」

 「アメリカって、ずるいよね、内外の進退窮まらせてから、国際情勢で追い詰めるから」

 「一石六鳥くらいか。頭良過ぎだよ」

 「いま時の戦争は、それくらいやらないと儲からないんじゃないか」

 「開発をいくつか止めたらしいよ」

 「代わりに兵器と武器弾薬の増産で儲けるのか?」

 「その資金で民生部門を増やさないと軍産複合体は死の商人から伝染病に格上げだよ」

 「だいたい、国防以外に軍事力を使うのが勿体無いよ」

 「日本は、どのくらい負担するの?」

 「日本軍の上陸作戦費用で補うけど・・・損益収支は黒字にできるよ。たぶん」

 「国防費も少しは増額できそうだな」

 「湾岸戦争の功罪だね」

 「でも、まともに戦ったのって “さつき” と “すすき” だけじゃ・・・」

 「アメリカ軍って、厭味なほど強いよね」

 「ていうか、日本に良い格好させたくなかっただけじゃないの」

 「だよね」

 なんとなく誇らしく、運のいいやつとか、上手いことやりやがってとか、

 巻き込まれなかったら喪に服していられたのにとか、

 巻き込まれなかったら逃げたと非難され、負担金だけ取られただろうとか、

 思うところ、いろいろ。

 

 

 12/01

 ソ連のゴルバチョフ議長が

 ローマ法王ヨハネ・パウロ2世と歴史的な初会談を行う。

 

 マルタ島でブッシュ米大統領とゴルバチョフ・ソ連書記長の首脳会談で冷戦終結を宣言。

 

 出雲州のカフェテラス

 数人の男たちが海底トンネル開通を祝って歓談中・・・

 「・・・ソ連はボロボロで縮小中か。核戦争が遠のいたかな」

 「ソ連が世界赤化を諦めただけだろう」

 「湾岸戦争は勝負あり。東欧はバラバラで、中国は混迷中か・・・」

 「アメリカの一極集中はいやだけど、日本経済は良い傾向だね。出雲経済も悪くない」

 「共産圏の崩壊で東欧難民が増えて困るだろう」

 「それは言えるが白人の美人なら嬉しいかも」

 「美人ならね。野郎どもばっかりだったら、どうするんだよ」

 「ていうか、そんな区分けで難民を選別できるわけないだろう」

 「日本女性も八等身の白人男性が好きだし」

 「あはは・・・」

 「んん・・・でも失業率が大きくなると困るよ」

 「地域紛争とか、民族紛争も増えるよ。皺寄せで国際貢献させられるし」

 「ソ連が資本欲しさに兵器とか武器弾薬を輸出すると、紛争が大きくなるかも」

 「艦隊ごと中国に売却だとまずい」

 「アメリカは軍隊を維持できて嬉しいかも」

 「世界赤化の可能性って、あったのか?」

 「結局、既得特権の傲慢な連中と資産家と、ひがみ、やっかみな平等主義者の抗争だろう」

 「中間のピンハネを押さえつけて、舵取りさえ誤らなければ体制側が有利か」

 「共産主義は、人間が求める平等しか見ていなかったからね」

 「人間は地位、名誉、財産で特権意識を持ちたい」

 「それを無視した時点で怪しいよ」

 「ベトナム連邦で自由・共産が手を結んで戦意喪失、毒気を抜かれたかも」

 「日本のキリスト像ホテルは?」

 「まぁ 指先がクレムリンなら、微妙に影響があるかも」

 「南アジアのヒンズー教インドとイスラム教パキスタンが反共で結束したのも大きいだろう」

 「宗教連合が主力でチベット独立戦争も驚いたがね」

 「今度は、イラク軍のクウェート侵攻にも介入しようとしている」

 「月影VTOLで空挺師団なんか作るから使ってみたくなるじゃないか」

 「傭兵部隊なのに良くやるよ」

 「常時配備してなくても良いし、割安らしいよ」

 「士気高揚も手抜きできて、必要な時に招集掛けて突撃だし」

 「執権者も、遺族に恨みがましくされると票が減るしね」

 「軍縮で減らされた将兵の受け皿が傭兵ってわけか」

 「国連と宗教連合の不和が広がる前に共産圏がコケて良かったよ」

 「イラクが終わったらどうするのかな?」

 「アフリカ公国は、内政で余裕が出てくると、例の病気が再発するかもね」

 「アフリカ大陸黒人解放政策か・・・」

 「さすがのアメリカも人種戦争は避けたがるだろう」

 「どうかな」

 「昔の日本みたいに軍需産業が大きくなってるから」

 「内政の失敗を外征で誤魔化すかもね」

 「アメリカの独り善がりで身勝手な正義感に戦々恐々とする世界なんて、ごめんだよ」

 「それ難しそうだな、アメリカの側に付く方が楽だし」

 

 

 東ドイツの新党首にグレゴール・ギジが就任する。

 

 EC首脳会議で、東西両ドイツ再統一承認を宣言する。

 

 アメリカ海兵隊とパナマ軍の間で戦闘が起こる。

 アメリカは、世界で同時に二つの侵攻作戦が可能だと証明してしまう。

 

 ルーマニアのティミショアラ

 ハンガリー系住民の強制移住に反対するラスロ・テケシュ牧師の連行に対し、

 市民数万人が抗議デモを行う。

 

 

 ソ連・EC・日本が貿易・経済協力協定が調印。

 シベリア鉄道の客車は日本人、ドイツ人、イギリス人が増えていた。

 採算効率の悪さと非合理性だけでなく、

 サービスに対する不満は、急速に大きくなり、

 西側の富裕層の横暴と、社会主義機構に毒された乗務員の横柄さが衝突する。

 ソ連闇経済のマフィアは、この種のサービスに敏感だった。

 官僚的な社会主義機構に対し、暴力で圧力をかける。

 機関車の部品と備品は、日本製とドイツ製が急増し、改良されると顧客が増えていく、

 そして、チップ収入が増えるとサービスが改善されていく、

 車窓の外は真白な銀世界が広がり、

 日本人とドイツ人がロシア料理を楽しんでいた。

 「ソビエトは、イラクから退いてるみたいだな」

 「国家財政が破綻しているから、このシベリア交易に賭けているんじゃないか」

 「侵略戦争より儲かるものがあるなら大人しくなるよ」

 「収益が増えれば便数も増やせてリスクも減る。便数が増えると収入も大きくなる」

 「駅周辺の産業も大きくなるな。商品も増える」

 「しかし、もう少し、効率良くしてもらわないとな」

 「ドイツ製と日本製で市場を席巻できそうだな」

 「それもかなり怖いがね。ソ連の国力が大きくなる」

 「行列の数からするとしばらくは、大丈夫だろう」

 「だといいがね」

 

 

 リトアニア共和国が1940年のソ連併合を無効とする。

 

 チャウシェスク大統領がティミス郡に非常事態宣言を発する。暴動は全土に拡大する。

 

 ベルリンの壁の取り壊し作業が開始される。

 

 ブカレストで1万人以上の反政府デモが行われる。

 治安部隊が機銃を乱射し、戦車が出動して多くの死者が出る。

 

 リトアニア共産党がソ連共産党からの独立を宣言する。

 

 ルーマニア、ブカレストで数十万人規模のデモが行われ、国軍も合流。

 チャウシェスク政権が崩壊する。チャウシェスク夫妻は逃亡する。

 

 アルバニアのショコダルで初の反政府デモが起こる。

 

 ドイツのブランデンブルク門が開放される。

 

 ルーマニア

 大統領支持派の治安部隊と民衆側の国軍が戦闘になる。

 

 チャウシェスク・ルーマニア大統領と妻のエレナ・チャウシェスクが銃殺される。

 銃殺後の夫妻の姿がテレビで放映される。

 

 ルーマニアで、救国戦線評議会議長にイリエスクが、首相にロマンが任命される。

 

 イスラエル軍がレバノンに侵攻する。

 

 チェコスロバキア連邦議会が、ドプチェク(68)を議長に選出する。

 

 政府が総額66兆2736億円の90年度一般会計予算案を決定する。

 

 

 バクダット郊外

 イラク幼年学校、

 保科クララは日本政府の退去勧告にもかかわらず、校内で授業を進めていた。

 日本の外交官とイラクの官吏が一緒にいて、両国の微妙な関係を現わしていた。

 「保科さん、ここは戦場になるので、どうか、退避していただきたい」

 「わたしは、直接、イラクで教育に励むよう、陛下に言われているので動きません」

 「いや、それは戦争が終わってからでも」

 「いやです。だいたい、学校を爆撃にするなんて、人間のすることですか」

 「と言うより、この付近は防空線のラインでして、都市部に被害が及ばないようにこの上空辺りが・・・」

 「とにかく、私は、陛下の勅命を受けてここにいるのですから動きません」

 「「・・・・」」 がっくり。

 肩を落とす日本人の外交官とドイツ人の外交官が擦れ違う。

 二重国籍者だと、こういうことが起こる。

 「はぁ 園遊会か・・・」

 「彼女の服装を見たか?」

 「ええ、喪に服していますね」

 「年内は通す気らしい、ありゃ本気だな」

 「陛下も罪なことを・・・」

 「どうせ、イラクの教育をがんばってくださいね、とか。すばらしいですね、とか」

 「愛想笑いで言ったんだろう。社交辞令を真に受けやがって」

 「死んだ人間に義理を立てしなくても民間なんだから、さっさと逃げりゃいいものを死なれたら迷惑千万なんだよな」

 「ドイツとのハーフですし、後味悪過ぎますよ」

 十数分後、ドイツ人外交官も教室から叩き出されてしまう。

 「「「「・・・・・・」」」」 苦笑い

 

 

 バクダット上空

 イラク空軍のミラージュ戦闘機、Mig23戦闘機混成部隊が決死の覚悟で編隊を組んでいた。

 アメリカ軍機が急速に接近していると肌身で感じる。

 「・・大佐。きますかね」

 “こっちに向かっていると地上からの報告されている”

 「大佐。この下は・・・」

 “わかっている。前進して学校を守る”

 「大佐。あまり前進すると地上からの支援を受けにくくなります」

 “かまわん、アメリカ軍機を撃墜してイラク空軍機の実力を見せてやれ”

 

 

 イラク上空

 「こちらブラボー中隊、進入角度を確保しました」

 「バクダット上空のイラク軍機をレーダーで捕捉しています」

 “・・・了解した・・・攻撃は少し待て”

 「!? 本部。もうすぐ、射程に入りますが?」

 “・・・ちょっと、待て・・・”

 「こちらブラボー中隊。本部。攻撃命令は?」

 “・・・ブラボー中隊は、コースを変更する。新しい進入角度を維持せよ”

 「本部、敵機をレーダーで捕らえています」

 “命令だ。その空域で戦うな。空域を離脱せよ”

 「・・・ブラボー中隊。了解しました。空域を離脱します」

 アメリカ軍機の編隊が翼を翻して迂回していく。 

 

 

 イラク上空で爆音が響く、

 校舎の前で日本人外交官が二人。

 空を見上げていた。

 「間に合ったようだ。音が小さくなっていく」

 「日独で組むと意外に無理が効くもんですかね」

 「なにか、泣きたくなるような代償があるんじゃないか」

 「もう、この手の権威主義は大損なんですから勘弁して欲しいですよ」

 「そうだな」

 「しかし、陛下が怒らないと究極の権威が低下して、セクト主義で官僚が強くなる」

 「そういえばエリート意識で欲張り過ぎると、陛下が怒ると歯止めになっていたような・・・」

 「昭和天皇は最強の軍官僚と軍財閥を潰したのだから」

 「不文律でも官僚は慣習的に怖気付くよ」

 「権威主義は媚びへつらいですから、これから少なくなるかもしれませんね」

 「逆だなセクト内外の派閥抗争が統制できなくなるほど激しくなって、媚びへつらいはこじんまりと醜くなる」

 「親父が怖くなくなると兄弟げんかが激しくなるですか。どうしようもないですね」

 「損得で国家を支えると収奪と簒奪が究極になるからな」

 「世知辛くなりますかね」

 「しかし、ああいう民間人は守りたくなるよ」

 「ですけど、一方的な自己犠牲で奉仕と献身を押し付けられても・・・」

 「まぁ 昭和への花向けだな」

 

    

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 月夜裏 野々香です。

 オウム事件は荒らされそうなので、なかったことに・・・

 昭和天皇の崩御の年に合わせて東西冷戦構造が崩れて終結。

 なにやら因縁めいたものを感じます。

 

 イラクのクウェート侵攻と湾岸戦争は 『崩 御』 で終わらせるため。

 ブラザショックを口実にして4か月ほど前倒しです。

 史実

 1989年10/     ニューユーク株が暴落し、史上2番目の下げ幅となる。

 1990/08/02 イラク軍のクウェート侵攻。

 1991/01/17〜1991/02/28 湾岸戦争。

 

 戦記

 1989/04/02 イラク軍のクウェート侵攻。

 1989/10/     ニューユーク株が暴騰。

 1991/11/17〜1989/12/28 湾岸戦争。

 

 

 日本海軍は、世界最強のアメリカ海軍に邪魔されると輸送できないと諦めているようです。

 日本連邦の海外州は、現地半生産・組み立てが基本で救出艦隊を当てにせず。

 自分の州は自分で守れでしょうか。

 それでも史実の “おおすみ” 型輸送艦(LST)に似た

 15000トン級LST艦2隻を就役させています。

 艦隊は、システマチックな運用が基本。

 艦艇の橋梁計算の関係で戦車の重量、兵士の体重の差で、

 戦車と兵士を分けた方が効率が良く、

 その後、 “Landing Ship Tank” 戦車揚陸艦(LST)は、歩兵揚陸艦と別個に発達。

 上陸用舟艇を格納したドック型揚陸艦(LSD)がはやり始め。

 時代が進み、

 ホバークラフトのLCAC1型揚陸艇を格納したドック型輸送揚陸艦(LPD)が主流になり、

 戦車をスマートに揚陸できると、

 吃水が深い大型艦艇でも上陸作戦が容易になりLSTが廃れていく、

 歩兵、軽戦闘車両を上陸させる上陸用艦艇も

 輸送ヘリを採用すると空母型で大型化していく、

 クジュウクリ(史実タラワ)型強襲揚陸艦(LHA)

 “さがみ” “かしわ” は輸送ヘリで空から歩兵と軽装甲車両を上陸させる。

 時代の流れと国際情勢に伴い上陸作戦用艦艇も予算内で大型化。

 揚陸指揮艦(LCC)、ヘリコプター揚陸艦(LPH)、

 ドック型揚陸艦(LPD)、貨物揚陸艦(LKA)。

 4艦種の機能を1隻にまとめたスーパー揚陸艦が要求され。

 アメリカ海軍のワスプ型強襲揚陸艦(LHR)は、ホバークラフト揚陸艇で戦車揚陸も可能。

 

  

 と言うわけで 『ミッドウェー海戦のあと』 完結

  

 

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よろしくです。

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第98話 1988年 『秋津オリンピック』
第99話 1989年 『崩 御』 完結