月夜裏 野々香 小説の部屋

    

現代ファンタジー小説

『明けましてファンタジー』

 

 第01話 『さよならリアル』

 目に見えるモノだけが現実ではない、

 目に見えない現実が隠れ潜みほくそ笑んでいる、

 目に見える世界の権勢者と富む者が目に見えない世界を垣間見るとしたら、

 その構造が目に見える世界と近似値であることに驚き、

 亡者である愚かしさに気付き、赤面し、枯れ草のように慌てるだろう。

 では近似値が何か。

 目に見える世界の “金” に当たるモノは、目に見えない世界の “生体素粒子” にあたる。

 現実世界の“金”は、命の成果をモノに置き換えた間接的なモノに過ぎず、

 目に見えない世界では、命そのものの “生体素粒子” が移動する。

 ちなみに生体素粒子の量は一人平均21g。

 そして、目に見える世界に貧富の格差があるように目に見えない世界も貧富の格差があった。

 

 風の音がしたかと思うと “なにか” が地面に叩きつけられ、

 すぐに悲鳴が上がる、

 飛び降り自殺をした人間の “生体素粒子” は既に失われており、

 ほくそ笑んで見ていた男のモノになっていた。

 生体素粒子を奪われると生きる意欲を喪失して鬱になり、

 その後、自殺するか、廃人となっていく、

 その戦いは誰にも気づかれず進行し、

 生体素粒子のやり取りで負けた者は “生” を失い、

 生体素粒子のやり取りで勝った者は “生” を得た。

 目に見えないモノで富めるモノはますます富み、貧しき者はますます貧しくなった。

 

 

 某生命科学研究所

 関係各省庁と企業と研究者たち利権団体の願望とは別に予算獲得競争があり、

 バイオ技術は一定の歯止めが要求され検討されていた。

 バイオの危険性と軟弱な世評への憤りの狭間で、幾つかの発見がなされ、

 その中の一つは人が死ぬと消える21gの質量 “生体素粒子” と呼ばれる生命の根幹に行きあたる。

 なにはともあれ、動物実験の反発は強く、

 ましてや、簡単に人を殺して実験するわけにもいかず、

 比較的の反発の弱い植物は研究者たちも倫理的な葛藤が少なく、植物実験が繰り返され、

 研究はそちら方面へ進んでいく、

 白衣を着た男たちは、鉢に植えられたチシマザサを囲む、

 「やはり、この笹は生体素粒子反応が3.3倍ほど違いますね」

 「んん・・・しかし、学長が生前面倒を見ていた観葉植物で遺産分けで貰ったものだし、どうしたものか」

 「研究熱心な学長でしたし、ここは学長の意思を注いでチシマザサを研究すべきでは?」

 「まぁ 植物にしては生体素粒子反応が強いし興味深いからな・・・」

 外見上、変哲のないチシマザサだったが、ほかのチシマザサと反応が違う

 そして、チシマザサが生命の危機に晒された瞬間・・・

 「!? ・・・生体素粒子が移動しました」

 「まさか」

 「となりのチシマザサの質量が増えてます」

 それはごく微小な、ゼロコンマ以下の質量の移動だった。

 「「「「・・・・」」」」 呆然

 しかし、偉大な発見と可能性を示唆していた。

 それまで生命体に固定され、死ぬと消える生体素粒子が消えることなく、

 別のチシマザサに移動したことが判明する。

 それは、人間の生体素粒子でも起こりえる事と誰もが考え・・・

 「「「「・・・・」」」」 ごくりっ!

 

 

 目に見える世界が人口増大、食糧不足、インフレ、エネルギー不足で限界に達し、

 食料と水は、一般庶民が買えないほど高価なものになり世界各地で暴動が起こり、

 世界各地で戦争が始まる。

 食料自給率40パーセントの日本で、食糧輸入が断たれた時、

 貨幣価値は崩壊し、倫理道徳が消え、隣人同士が殺し合って食料を奪い合い、

 食料を作る農村へと移動が始まる。

 目に見える世界が自滅に向かいつつある世紀にあって、

 人間同士で、弱肉強食の共食いが始まろうとしていた。

 暴動は、隠れていた人外が標的になることがあり辛うじて生き残った者によって噂が広がっていく、

 そう、社会秩序が崩壊し弱肉強食の世界となったとき、

 「いまだ!」

 「「「「おぉおお!!」」」」

 一人の男が囲まれる。

 「げっ・・・お前ら警察だろう」

 「うるさい、食い物寄越せ」

 「食い物って。公僕のお前らが持ってないのに俺が持ってるわけがないだろう」

 「じゃ ・・・食い物になれ」

 「なっ!」

 「公僕なら餓死するまで毅然と公職に殉じろよ」

 「うるせ、お腹すいてんだよ」

 「し、しょうがない・・・」

 !?

 がうぅるるる!!!

 「お、狼男だ!・・・」

 バァアーン〜!

 「鉛玉じゃ 死なねぇよ」

 じゅおlふぃぢぃうづいおいうvhxcっくgxzyrdぅtふぃおいhgd

 「・・・ふぅ 生体素粒子を人肉摂取で摂り込むのは効率悪いぜ」

 「キャー!」

 !?

 「また見つかったよ」

 「キャー!」

 「もう、吸血鬼になりてぇ」

 各地で化け物が出現し人々が襲われた事にされていく、

 実は襲われ、仕方なしに反撃しただけなのだが・・・

 そう、目に見えない世界の住人たちは仕方なしに顕現の時を迎えていた。

 狼男が発見者を追いかける、

 目に見えない世界の原則は一撃必殺、

 発覚しないため闇から闇に葬るのがルールだった。

 じゅおlふぃぢぃうづいおいうvhxcっくgxzyrdぅtふぃおいhgd

 狼男が発見者の女性の首を咬み千切ったとき、

 !?

 背後の気配に気づいた。

 「へぇ 狼男か、35人分くらいかな・・・」

 200cmを超える狼男は、140cmほどの少年を見て怖気づき、

 総毛だって逃げ出そうとした時、巨大な足爪が狼男を押し潰した。

 

 

 別の県、別の学校から来た少年少女は、噴水のある公園で、たまたま出会った。

 互いを知ってる、というより、狩場が重ならないように離れていただけとも言える。

 “蒼乃か。久しぶりだね”

 “翔くん。世界が終っちゃうよ”

 “季節の変わり目だろう、春、夏、秋、冬・・・もう冬だ”

 “平均寿命を押し下げて人口を抑制すればいいのに神の怠慢よ”

 “平均寿命を押し下げる方が人口が増えるんだよ。先進国の人口増加は鈍いだろう”

 “命の寿命尽きると同時に神の肥やしになるから”

 “人口を増やしたのも産業育成に目を瞑ったのも、生体素粒子収入を増やしたい神の都合だしね”

 “おかげで、こっちも肥えたけど”

 “神は人類のバブルとバブルクラッシュで、おなか一杯。冬籠もりでもするのかな”

 “こっちも巻き込まれかよ。たまらんな”

 “わたしたちも冬眠しろってことでしょう”

 “冬眠する前にもう少し食べておくか”

 “しかし、冬眠中でもおやつは食べたいし、助けた方がよくないか。人類”

 “これまでも助けてきたわ”

 “助けたんじゃなくて、間引きしてきたんだよね”

 “間引きは大切な仕事よ・・・”

 “でもさぁ 人間の人口が減るということはさぁ”

 “巡り巡って、俺たちのどちらかが飢えるということだよな”

 ““・・・・””

 複数の足音が二人に向かって近付き周囲を囲む、

 「おい・・・お前たち、食糧を寄越せ」

 「僕、もってないよ」

 「わたしも・・・」

 「嘘を付け、食料もないのに、なぜ、そんなに元気にしている」

 「「「「「・・・・・」」」」」 ごっくん!

 手に武器を持った男たちがじわりと迫る

 「ん? 僕は殺されて食べられちゃいそう」

 「やだぁ わたしは、犯されて・・・ぅ・・・かわいそう」

 「わ、わかってるじゃないか・・・」

 「「・・・・」」 ぼ〜

 「「「「「・・・・・」」」」」 ごっくん!

 不意に少年と少女の周囲がぼやけたかと思うと2匹の龍となって飛んでいく、

 “良かったね。お前ら面倒だから見逃してあげるよ”

 “飴玉5個分なんて基本放置だけど”

 5mはありそうな灰龍と黒龍は旋回しながら上空を舞う、

 そして、1匹は南に、もう一匹は北に分かれ飛び去っていく、

 襲撃者たちは、呆然とその光景を見上げるしかなかった。

 そう目に見えない世界の住人の中で、もっとも力があり富める者は龍であり、

 その途上のワイバーン、グリフォン、喰命鬼、吸血鬼、ベヒモス、キマイラ、狼男・・・・は、龍の餌だった。

 

 首相官邸

 幾つかの監視カメラの映像が集められ、流されていた。

 「これは・・・」

 「どうやら、彼らは、人類の中に潜んでいたようです」

 「魔物が?」

 「魔物?・・・」

 「違うのかね?」

 「我々は目に見えない価値のある財産に気付いていなかったようです」

 「目に見えない財産?」

 「生命の根源です」

 「それは何だね」

 「研究中ですが、いまは生体素粒子と呼んでいます」

 「その量は1人平均21gです」

 「しかし、現実社会において貧富の格差があるように」

 「目に見えない世界も貧富の格差があったようです」

 「わたしたちは、貧乏な一般庶民に過ぎず」

 「貧乏が故に必要に迫られ、物理的な世界で繁栄を極めました」

 「そして、彼らは人間ですが数十倍から数千倍もの生体素粒子を有する生命体です」

 「彼らが個性と生体素粒子の量に応じ、生体素粒子を身に纏って変化した姿といえます」

 「つ、つまり・・・我々は・・・」

 「非物理世界のルールに気付かなかった裸の王様でしたね」

 「「「「・・・・」」」」

 「か、彼らはいったいどういう素性なのかね」

 「素性は人間出身です。生体素粒子は3倍から自覚されて表面化し」

 「10倍以上になると生体素粒子を自在に操れます」

 「その能力は拳銃弾を逸らし、あるいは身体能力を高めます」

 「そして、人の意思を支配し、何食わぬ顔で生活してるモノたちです」

 「我々の中にいないだろうな」

 研究者は検知器のようなモノを出した。

 「これは5倍以上の生体素粒子を感知できる検知器です」

 「この中にはいませんでした」

 「おお、なぜ、5倍?」

 「5倍未満は精度的に難しいのです」

 「そうか・・・」

 「彼らの世界はピラミッド型の弱肉強食で、テリトリーを持ってるようです」

 図が映写され、

 最下層に牛、魚、鶏がいて、

 その上に人間。

 その上に幾つもの階層でピラミッドが作られていた。

 「合衆国はなんと?」

 「合衆国は、彼らをハイスペック(高位人種)と総称しました」

 「物理的な攻撃は通用するとのことです」

 「ただし、装甲車、あるいは攻撃ヘリ並みの戦闘能力を有している人間も少なくなく」

 「人種を問わず数万人に一人といった具合に発生してるようです」

 「攻撃対象か。と聞いてるのだが?」

 「今のところ、研究対象のようです」

 「彼らは、我々権力者、富裕層を貶め、権力機構を脅かす存在だ」

 「戦うのですか?」

 「クズのようなオタクとニートは我々の権力機構を脅かせない、愛すべき存在だよ」

 「しかし、人々を支配する貨幣制度は崩壊し、群衆は首相官邸に迫っている」

 「屑でさえが我々に敵対し、権力機構は風前の灯だ」

 「しかし、彼らを人類の脅威として喧伝し、憎ませられるなら中央集権を保てるかもしれない」

 「よろしいので?」

 「日本の食料自給率は40パーセントだ」

 「備蓄はすぐ底を尽くだろう」

 「備蓄は我々の権力を維持するための手段で、これ以上失うわけにはいかない」

 「その前に日本人の60パーセントは、死んでもらうしかない」

 「それとも食料を得るため、他国を侵略するか・・・」

 「国防ならともかく、軍に余分な武器と燃料は・・・」

 「「「「・・・・」」」」 首が振られる、

 「とにかく、我々が人知れず彼らの餌になるか」

 「我々の権力機構を保つため、彼らを公開し、彼らに死んでもらうかだ」

 「民間に賞金。いや賞食と交換に “モンスター” を狩らせればよかろう・・・」

 !?

 街路の銃撃音が部屋の中に伝わる、

 「撃ったのか?」

 閣僚たちは慌てて窓に駆け寄った。

 自衛隊の発砲で死傷者が出ると市民は逃亡していく、

 「どの道、我々が知っていた世界は終わりだな・・・」

 官邸地下倉庫にある備蓄食糧が官邸周囲の権力機構を保っている理由といえた。

 つまり水と食料生産を握った者は権力を握るということであり、

 権力者は己が権益を守るため私兵を集め、権力機構を作り己が盾にしていく、

 そう水と食料の不足は文明を崩壊させ、

 無法地帯を作り、人々のコミュニティーを原始的な主従関係へと後退させていく、

 そして、不本意に不可抗力的に出現する伝説の生命体・・・

 人類は目に見える力関係に惑わされ、

 秘密のうちに狩られていた事を知ることになった。

 そう、飢えた人々の前にファンタジーの世界が広がっていた。

 

 

 

 

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 月夜裏 野々香です

 230万HIT記念作品です

 人口増大、水・食糧不足、エネルギー不足、インフレと貨幣価値の喪失、

 物質文明の崩壊と社会秩序の破綻で隠れていた魔物たちが現れ、

 ファンタジー世界が出現します。

 なんというか “現実社会が異世界になっちゃったファンタジー” でしょうか (笑

 

 

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