月夜裏 野々香 小説の部屋

   

仮想戦記 『青白き炎のままに』

   

 

第51話 1946/08 『戦後、一年過ぎて』

 主要各国とも、戦後一年を目処に新たな国際秩序を模索する。

 仮に不倶戴天の国際関係でも表面上は、平和を愛していると交渉する。

 誰でも平和の使者として見られるのは悪くない。

 キリスト教徒の多い国は、聖書から影響を受けやすい。

 抜粋すると

 “平和をつくり出す人たちは、幸いである、彼らは神の子と呼ばれるであろう”

 の影響。

 特に子供がいると親父は子供や妻に良い格好したくなるのが道理。人の道。

 ヒットラーと政治的妥協をしたネヴィル・チェンバレンと同様。

 戦後一年経つと、平和も悪くないと思いやすい、

 そして、各国の慰霊祭に外交官を派遣し、

 握手したり肩を抱き合ったり、にこやかに振舞ったり。

 いくつかのパフォーマンスを見せて様子を見たりする。

  

  

 8月15日、靖国神社 慰霊祭

 主役は、一番、たくさん、死んだ華寇軍。

 日本軍戦死者は少な過ぎて脇役、

 「お父さん、どうして中国人や朝鮮人が一杯いるの?」

 「んん・・・」

 子供の素朴な疑問は、答えにくい、

 “日本軍の身代わりに死んでもらったから”  は、言えない。

 “大陸だと墓が荒らされるから”  これも、言えない。

 “大陸の口減らしで・・・”  とも、言えない。

 “義理と、人情と、国益で”  は、子供に説明しにくい。

 人間も人間が作る社会も不誠実で、不条理にできており、

 物事を正直に言えないことも、よくある。

 真実は諸刃の剣で真実を求めるほど傷口も、深く、致命傷に近付いていく、

 下手な正義感で正直に言って傷つけ合って殺し合うより、

 嘘で誤魔化して、なあなあ騙し合って付き合う。

 人の本音ほど醜く汚いものはなく、

 挨拶や社交辞令は子供から大人まで有効な処世術だった。

 「・・・華寇軍が一生懸命に戦ったからさ」

 「ふ〜ん 華寇軍になろうかな」

 「げっ!」

 子供は変なものに憧れる

 “大陸で馬賊になる!”

 は、当たり前で華寇軍も、そのノリに近い、

 いや、面白半分にそういう記事を書くヤツが悪く、

 その手のカッコイイ絵を描くヤツも悪い、

 そして、大陸に身を投じようとする日本人も現れる。

 島国で窮屈な人間関係に苦しめられるより、

 大陸で欲望のまま、無分別に生きれたら、さぞ楽しかろう。

 まじめ、真っ当、堅実な大人であるほど、馬賊に惹かれ、想像したりする。

 現実にそういった世界が大陸に開けているのが最大の原因だろうか・・・・

  

   

 10000トン級矛彩型巡洋艦

 基本の艦体フレームを固定し、

 そこにユニット化した兵器や電探・無線機器、

 その他の装備品などモジュールを配置する機構になっていく、

 モジュール化の利点は、ボアアップしたユニットを交換するだけで、

 簡単に性能を向上させられる、

 破損してもユニットを交換するだけで済むこと、などなど。

 しかし、メリットもあればデメリットも存在する。

 日本の伝統的な設計思想、従来型の艦体、建艦思想を真っ向から否定していた。

 機能的なモジュール機構とコンパクトな非モジュール機構と比較すると、

 モジュール機構は、非効率的な配置と、

 無駄な構造で10〜15パーセントほど正面戦力が低下してしまう。

 定められたトン数に兵装を詰め込み、

 艤装しなければならない艦艇にとって無駄なこと、この上ない。

 また、艦首と艦尾のバランスもユニット単位で制限されてしまう。

 ドイツ技術将校は日本海軍の小賢しいコンパクト艦体構造に対する対案で、

 図面に書かれたモジュール構想を自画自賛に勝ち誇り、

 日本技術将校は、ドイツ製と日本製のベアリングを回しつつ、唯々諾々、不承不承に頷く、

 同じ工作機械、同じ原料、同じ比率、同じ工程でも、名刀となまくら。

 日本側は、冶金技術で圧倒的に負けていた。

 ドイツ海軍は、ごり押し的に納得させてしまう。

 日本海軍は “今に見ていろ、俺だって・・・” で、面従腹背。

 もっとも、ドイツで新規開発したユニットを日本側も流用できた。

 そして、日本独自でも少ない予算でユニットを開発すれば、

 それを流用できて、長期的な視野に立てば悪くないらしい。

 ドイツ海軍も太平洋艦隊に派遣した艦隊が柔軟に戦力を維持できるため好都合であり、

 逆に日本海軍も大西洋に派遣した艦隊が戦力を維持できて好都合で、

 ユニット規格は人種差別がなかった。

 日本は、大陸で鉄鉱石と石炭・希少金属の素材を得られ、

 開発、製造はドイツの技術を利用できた。

 矛彩型もドイツ風に装甲を厚くすることで同意。

 しかし、艦体モノコック構造は日本側の思案が通ってしまう。

 もっとも日本も、ドイツも、イタリアも予算不足、

 設計図の域を出ないのが悲しいところだった。

 「軍艦作ろうぜ」

 「予算がないそうだ」

 「まだ大陸に投資しているのか、技術が民間に流れているぞ」

 「バスとか、鉄道とか、自動車とか、船とか・・・」

 「戦前のドイツは、日本の頭越しで資源と交換に中国に工作機械を輸出していただろう」

 「そうさせないようにするには投資をして、ルートを確保することだよ」

 「随分投資しただろう」

 「自力で販売ルートを作らせないようにして、日本のルートと足場を使わせることが大切なんだよ」

 「まぁ わからないこともないがね」

 「台湾人、朝鮮人と少数民族で揚子江を押さえて日本は、ドイツ製の工作機械を購入」

 「比較的安い日本の工作機械を中国に売る構造を作らないとね」

 「無理やり、ドイツと中国の間に割り込むわけね」

 「領土交換で布石を打ったのも、それだよ」

 「もっともドイツが欲しいのは資源だけどね」

 「戦争が終わると、そうなるだろうね」

 「結局、日本が中国資源を売って、ドイツから工作機械を買うか」

 「中国が資源を売って、ドイツから工作機械を買うかの違いだからね」

 「そのうち日本の工作機械も良くなるだろう」

 「良くなったときが問題だな。利害が絡むと日独衝突もある」

 「漢民族も富農が増えて識字率が上がって国力が増すかもしれない」

 「それは、中国官僚に期待するかな。あいつら国潰しだから」

 「いや、国民の大半を搾取して私腹を肥やすのが中国の伝統だよ」

 「その方が日本人に味方する漢民族が増えるから良いのか悪いのか・・・」

 「潜水艦は、どうするの?」

 「あっちは寿命が短いから、そろそろ建造を考えないと」

 「規格統合は進んでいるけど、ドイツが洋上要塞とか、言ってるからね」

 「へぇ〜 豪儀だね〜」

 「総合力で負けている側が守りに入るとジリ貧だよ」

 「敵の妨害をする方が効率が良いんだ。通商破壊とかね」

 「なるほどね」

 「まぁ 軍人も天井知らずで、あれこれ要求するからね」

 「内地を後回しにして大陸に発電所を建設しているから」

 「軍人も面白く思っていない連中は多いよ」

 「その方が資源が入ってくるんだからしょうがないだろう。金も・・・」

 「中国は日本の国債も買ってくれるって?」

 「あはは・・・」

 「ほら、戦時国債とか償還しないと日本が財政破綻で潰れちゃうだろう」

 「ハイパー・インフレやれよ」

 「本土爆撃で心身障害とか多いだろう」

 「医療技術が低いんだから。この際、心機一転、引導を渡そうよ」

 「いや、現場に立つとなかなかできないって」

  

  

 電気自動車の構造は、車体フレーム、モーター、蓄電池、タイヤ、

 ほか、必要な部品があれば、組み立てられる。

 欠点は、充電に時間がかかること、速度などなど、不便なこと、

 欧米諸国は、利便性で勝るガソリン車、ディーゼル車に傾倒していく、

 アジアは、満州油田が軽油質の燃料に向かず、

 インドネシアの油田も質の良い油田といえなかった。

 ドイツ製の優れた精油システムを導入しても、

 質の悪い油田の精油は、リッター当たり、どうしても高くつく、

 経済効率から発電所を建設、鉄道が電化し、自動車も電気自動車が有利となる。

 というわけで、特定の有力者、国防と直結する場合を除いて、

 庶民は電気系になじんでいく。

 もっとも建設した発電所から交通機関が整備され、

 利権が構築されていくことから不便なだけで悪くなかったりする。

 権威主義的に押さえ込まれていた若き技術者が停戦後、民間に流れていた。

 採算以外の制約から開放された若者は、自由なアイデアを生かすことができた。

 そこにドイツ製工作機械と見本になる部品を流用できた。

 タイヤにモーターを仕込んだインホイール・モーターは、1900年に登場していた。

 インホイール・モーターであれば、タイヤが多い方が有利という結論になりやすく。

 電気自動車は、操作性に難があっても、4輪より、6輪、8輪が検討されていく、

    

  

 そして、大陸。

 ご他聞に漏れず、

 この大地は理不尽なほど物事が早い。

 いや、本当に無慈悲で非道・・・・・

 「攻撃ある!!」

 「アイヤ〜!!」

 村を包囲した中国軍が強制的に村人を追い立てていく。

 中国政府、中国軍の立ち退き命令は事前の通達がない、

 通達すると反撃の機会が作られ、

 損害が大きくなるため、速攻で実力行使が基本だった。

 日本側は租界に近くても知らないことになっている。

 日本軍も租界の外だと名目上、手を打てないことになっていた。

 もっとも名目上で、その辺は、いろいろあって詳しく書くとモラルが下がる。

 それで租界も少しばかり潤ったりする。

 あくまで日本官僚のポケットでなく、

 租界が潤うのが日本式で中国官僚と違うところ。

 日本官僚は、自分のポケットに入れる代わりに業者を仲介そ、

 租界の収益で利益を薄めて危険分散する。

 回りまわって自分が嬉しいことになるが間接的だった。

  

 中国軍に土地を奪われた農民は、奪われた上に強制労働が待っていた。

 これをやらないと食べていけないので仕方なし、

 当然、人海戦術で “打倒、アメリカ” “ソ連帝国、滅亡” など書かれたプラカードがあって、

 実に威勢がよくて凄まじい、

 ここで逆らうと、人知れず連れて行かれて・・・

 あるいは、非国民とか、売国奴の罪状で、裁判抜きの公開処刑が待っていた。

 中国軍に慰安婦制度などない、

 他にもモラルのないことをしたり、

 邪魔な家長さえ亡き者にすれば手当たりしだいで、

 三光作戦の見本が同族に対して執行される。

 非道・刹那的快楽主義者の多い中国軍は、

 こういう作戦が好きで楽しいのか、やめられない。

  

 一方、全て奪われた農民は、悲惨極まりない、

 どこか、穴を掘って私財を埋めて隠しているか、

 租界の銀行に預金がなければ、そのまま人身売買だったりする。

 “こんな人生なら死んだ方が、マシ” とか。

 “生き恥を晒すくらいなら、死・・・” とか。

 “生きるのを諦める” とか。

 こういう状況で甘ちゃんな、感情が湧くのは日本人、

 朝鮮人ならファビョって憤死で、

 漢民族だと少数派だつた。

 踏み躙られるくらいなら踏み躙る。

 騙されるくらいなら騙す、

 奪われるくらいなら奪う、

 殺されるくらいなら殺す、

 漢民族は、最後の最後まで生き抜こうとする。

 なぜ、漢民族が民族主義を超えて日本になびき、

 租界周辺に集まるかというと、漢民族自身の自業自得な側面もあった。

 そして、日本の利権が大きくなると、日本本土からの投資も加速していく、

 相乗効果でドイツとイタリアの投資も増えてしまう。

 漢民族の搾取・勝ち組は、主権、領土を切り売りして投資し、私腹を肥やしていく、

 人災さえ、克服できれば、資源、技術、労力、土地が揃った中国大陸は投機向き。

 日本の利権と基盤が強化されるほど、

 揚子江経済圏の投資が増える体質は、神話となって固定される、

 日本資本が鉄道の支線を建設すれば、漢民族も投資。

 日本資本が発電所を建設すれば、漢民族も投資。

 日本資本が養殖池を作れば、漢民族も投資。

 利に聡い漢民族の権力貴族は、

 搾取した私財を成功率の高い日本資本に投資してしまう。

 中国最大の問題は、漢民族が漢民族を信用していないことに尽きる。

 当然、余所者の日本人、ドイツ人、イタリア人は生きた心地がせず。

 直接、漢民族と隣り合わせの朝鮮民族や少数民族は、日々、命の危険に晒される。

 大陸では、まず、身の安全が確保され、

 初めて紳士的な対応がなされる。

 朝鮮民族も河川や湖の多い場所に移民が始まり、そこに集まっていく。

 大型の湖    洞庭(トンティン)湖、○陽(ポーヤン)湖。梁子(リアンツー)湖

 大型の支流  嘉陵江(チアリンチアン)、烏江(ウーチアン)、漢水(ハンショイ)。

 朝鮮人は、狭い地峡を守れば中国軍の侵入を食い止められる場所に移民する。

 洪水が怖くても安全性を考え、中洲全体を造成し居を構えてしまう。

 最先端の治水と堤防技術、強靭な鉄橋建設に裏打ちされた造成工事が進む、

 そして、河川経済で揚子江経済圏は成長していく、

 中国史上、無視されていた不便な中洲と半島が強靭な鉄橋と

 河川商船で戦略拠点になっていく、

  

    

 上海から重慶に向かう途上の大都市、漢口、

 揚子江経済圏の利権を維持、確保する必要上、ここにも日本租界があった。

 日本の利権は、鉄道という線。

 そして、点は、鉱山、工業・商業域の租界、河川港と空港に集中する。

 漢口でも、中洲(全長11km、最大幅2.5km)は、要塞化が進み、

 大陸の利権域と中洲の要塞域の二重構造になっていく。

 租界の周りに台湾人、朝鮮人、漢民族によって共同区画が作られる。

 なぜ共同区画なのかというと、

 日本人が安心して来ると金が落ちやすく治安も良くなっていく、

 日本人がいるだけで街中の抗争やケンカが減る。

 日本人がいなくなると、収入が減って街中の抗争やケンカも増える。

 実に単純な理由で日本人を呼び込もうとしていた。

 遠くで漢民族と朝鮮人が海で死んだ華寇軍 “3000万” の “恨” が

 船員と積荷を海に引き摺り込むからと慰霊祭のための募金を募っていた。

 遠巻きに見守る日本人は、しょうがないからと少しばかりの小銭を入れていく、

 「いろいろ考えるもんだ」

 「3000万も海で死んでないだろう」

 「それに、死んだのは、ほとんど上陸した後じゃないか」

 「靖国で、やっているのに・・・」

 「靖国は、日本人が、やっているから効かないんだと」

 「自前の船でアメリカと直接貿易を諦めて宗教かよ」

 「しょうがないな・・・」

 「だけど船員も漢民族と朝鮮民族が良いんだと」

 「中国も、朝鮮も、船員を一人前に育てる機関がないじゃないか」

 「あいつら日本人に教わるの嫌って、すぐ自己流でやるから危ないんだよな」

 「学校を作ればいいのに・・・」

 「学校を作っても先生がいないよ」

 「外国人が教えようとすると、傲慢になりやすい中華思想が邪魔をする」

 「まぁ 日清戦争以前より、だいぶ、マシになったそうだけどね」

 「それでも、何年も教育するなんて・・・」

 「だけど、あれに、お金入れると、いい気になって、もっと騒ぎそうだな」

 「俺、小銭を入れたよ」

 「入れるなよ」

 「まぁ 船持っているから願掛けだな」

 「しかし、移民してきた朝鮮人も、なんとなく落ち着いたかな」

 「船で余裕ができたから、台湾人はこれからだな」

 「ああ、日本語と中国語両方わかるから都合が良い」

 「そういえば、南側の方は、朝鮮人が集まっていている」

 「大きな湖があるから、いくつかの地峡を抑えれば、この中洲より、よくないか?」

 「朝鮮人と一緒にいない方が良いんだと」

 「少数民族を漢民族の緩衝にするんじゃないのか?」

 「あいつら日本人を人質に取りかねないし」

 「存在しているだけで相乗効果で良いんだよ」

 「ちっ! 防波堤にもならんのか」

 「んん・・・最初から三竦みで漢民族に対する恐怖心で働かせるつもりだったし」

 「他の少数民族の方が頼りになるか・・・」

 「それに小さい中洲の堤防を造成するほうが楽だろう」

 「洪水のとき朝鮮人が押し寄せて避難場所にされても困るし」

 「しかし、朝鮮自治区もヤンバン復活じゃ やりきれないだろうな」

 「年取ると、儒教と権威で縛って働かせるのが楽なんだよ」

 「低賃金で扱き使う日本は、もう少し、マシかな」

 「ていうか、朝鮮自治区は堤防建設が遅れて、森林伐採も無分別に切っているだろう」

 「洪水を起こしたいのか」

 「植林無しか・・・」

 「封建社会じゃあるまいしヤンバンが踏ん反り返って、タダ働きじゃ やる気なくすよ」

 「変だな。近代的な教育はしたんだけどな」

 「権威主義は、自分より無知でバカな奴隷が好きなんだよ」

 「自分より頭が良くなったら困るから勉強させたくないとか。もう病気だね」

 「ヤンバンより無知でバカって言ったら文盲か」

 「成果を挙げようと思えば知的労働者に金を払うべきだよ」

 「その金がないんだろう」

 「金は払っているぞ」

 「それで朝鮮人や漢民族に石炭、鉄鉱石、希少金属を採掘させているんだ」

 「だから、その金をピン撥ねして日本租界の銀行に・・・」

 「搾取かよ・・・」

 「ていうか、一定以上の預金が租界にないと日本租界に住めないだろう」

 「預金は、かなり大きいけどね」

 「それで日本租界に住みたい」

 「利権をやるから日本に産業を興してくれって?」

 「そう」

 「それで、またピン撥ね?」

 「もちろん」

 「それで日本租界に預金して日本租界に住みたがるの?」

 「そう。住んで安心、日本租界」

 「腐ってやがる・・・」

 日本官僚は、基本的に搾取率が少ない、

 そこに中国官僚の甘い囁きとか、

 地元の漢民族庶民の板挟みで、かなり困ったことになったりする。

 中国官僚・有力者の視点だと日本官僚は権益特権を利用できない、

 融通の利かないバカに見えてしまう。

 漢民族庶民は、非常に助かるものの、

 やはり日本人は人の良いバカに見られてしまう。

 近代化の根底に信頼関係がある。

 しかし、利に走りやすい漢民族は、そんなことまで考えない、

 おかげで民族間の摩擦は、カルチャーショックを起こし、

 悲喜交々なドラマを作っていく。

  

  

 漢口租界 日本銀行

 金融には、いろんな情報が集まってくる。

 何しろ中国のGDPは日本の2.5倍で動く金も大き過ぎた。

 仮に中国の富裕層2割が8割の資産を握っている、

 日本のGDPの倍以上の金を中国富裕層で占めていることになる。

 利権が動くだけで桁外れのマージンが転がり込む、

 日本が中国の利権で暴利を貪るは、イギリスのインドの利権を貪るに近く、

 中国資本の莫大な富によって支えられ、

 水増しされた富裕層が日本に作られ、貧富の格差が広がろうとしていた。

 これが失われれば、日本経済がダウンしかねないほどで、

 インドの利権を失った痛手で、イギリス経済が一気に斜陽化したのも想像しやすい、

 「ん・・・これは?」

 「中国政府が検討中のヤツだな」

 「んん・・・」

 「孫文の三峡ダム建設計画。発案は1919年」

 「上流の重慶から下流の宣昌まで100万kuの人口湖」

 「100万kuって内地より、はるかに大きいぞ」

 「その水量で発電すると年間発電量800億KWh以上」

 「10000トン級の船舶が重慶まで来れるな」

 「げっ! それ、日本の全発電量より大きいだろう」

 「日本は、内地が400億KWhくらいだから」

 「たった一個のダムに日本の全発電量が負ける。さすが大陸」

 「作るの?」

 「人件費安いし。利権とか、電気代が入るなら作りたくもなるよ」

 「あとダムから上下水道を引っ張ると水道代も・・・」

 「重慶まで船舶10000トンも大きいし」

 「鉄道の電化もスムーズ。中国と折半で利益を分けても・・・」

 「あと内陸域の開発も容易になって鉱山の採掘も採算ベースに乗りやすく、市場も拡大・・・」

 「低価格の資源は国際競争力に転換されて日本製品は、国際市場に・・・むふっ♪」

 「初期投資はどうするの?」

 「金がなければ、利権。利権より、租界。租界より領地で・・・」

 「領地はともかく、租界は治安に惹かれて増えそうだな」

 「じゃ 利権も雪だるま式に・・・」

 「・・・むふっ♪」

 「しかし、ダム決壊で洪水を起こされたら下流は悲惨だぞ」

 「それは、まずい」

 「もっとも、利権が絡みすぎて中国側もダム決壊なんて、できないだろうけどね」

 「でも、危機管理は、重要だよ」

 「危機管理より、見境なく金に目が眩むよ」

 「仮に日本がやらなくてもドイツやアメリカがやるといえば、そっちに流れる可能性もあるし・・・」

 「んん・・・金だけとって持ち逃げ?」

 「中国は、利権とか、租界で払うんじゃないの?」

 「それだと、持ち逃げすると、その後の取引で支障が出るよ」

 「仮に潰しても外交戦略上で日中関係にヒビが入って、マイナスか・・・」

 「それなら日本主導で利権確保する方がいいか・・・」

 「まぁ ダムがあると揚子江で中国を南北に分断しやすい」

 「好都合といえば好都合なんだけどね」

 「あとは、初期投資と利益率か?」

 「ていうか、日本が株式会社を作れば人海戦術と租界の中華資本でできるかも・・・」

 「だったら中国人でやればいいのに・・・」

 「いや、漢民族だけだと私腹を肥やしてダム作らないから」

 「技術ないし、工程知らないし、機械もないし」

 「そういえば、日本でも拝金主義が強まっているし」

 「漢民族の二の舞は近いんじゃないか?」

 「信用より金。誠実さより金。勤労より金か・・・・」

 「信用、誠実、勤労が金を生むけど日本の新聞を見ると、相当きてるな」

 「誹謗中傷、詐欺、犯罪が金になりつつある」

 「大陸で精神が病んだかも」

 「このままだと人間不信で日本から金も逃げていくよ」

 「楽して金が入れば、そりゃ 金の亡者にもなるだろうよ」

 「金の流れを見れば日本は、漢民族の大半を奴隷にしているようなものだし」

 「贅沢病ってさ。亡国病じゃないの?」

 「うん、贅沢と保身で見境がなくなるとあ」

 「自分本位で子供を犠牲にしたり、親を犠牲にしたり」

 「夫や妻を犠牲にしたり、親族を犠牲にしたり・・・」

 「だけど節制を呼びかけたって焼け石に水だよ」

 「そういや、どの新聞だっけ・・・」

 「戦後成金が夜に明かりがないからって、百円札を燃やして足元照らしたとか」

 「またかよ。そんなヤツ。刺しちゃえば良いんだ」

  

  

 ドイツ領ノルウェー

 ノルウェーのフィヨルドは、天然の防壁で近代化も阻害する。

 ドイツが本国の再建予算だけでなく、

 ノルウェー開発予算も振り分けるのは相応の理由があった。

 地下鉄がオスロから北極圏に向かって掘削されていくのも、

 米英連合とソ連を分断するため、

 ナルビク港に運ばれる優良な鉄鉱石を鉄道で、ドイツ本国に輸送するため。

 ノルウェー支配の確立もあった。

 そして、北極海に面したフィヨルドに沿って東に回りこんでいくと陸地でソ連領と繋がる。

 国境からフィヨルドと湖のサミーランドを130kmほど突き進むと不凍港のムルマンスクがある。

 開発中の極地兵装しだいで、ここが戦場になった。

 この極北の研究所は、ドイツ人科学者の中でも、つわものが集められる。

 マネキンの手足つけたジェラルミン棒が蓄電池の電力で伸び縮みする。

 そのたびにマネキンの手足が器用に動いた。

 元々は、身体機能を失った人間がパワーアシストで使う計画なのだが表向きの話し、

 このジェラルミンの身体補助機構器具一式を身につけた兵士は全身ナックル化。

 肉弾戦になると無類の強さを見せた。

 しかし、銃撃戦では、あまり役に立たない、

 「・・・ヘルマッド博士。極地強化服は、やはり着用式ですか?」

 「着用? 着装と言いたまえ」

 「ち、着装ですか・・・」

 「そうだ。装甲を身にまとうのだから装甲兵。機動装甲兵だ」

 「問題は動力伝達をどうするかでは?」

 「蓄電池では厳しいかと・・・」

 「そうなるな。軽量で体温を保てて、7.62mm弾を防ぐことができれば最高だけどね・・・」

 「ライフル弾だと、7.62mm×54Rになりそうですが?」

 「相当な厚みになるのでは?」

 「まぁ 最悪でも極地で保温を保ち」

 「寒さで戦闘力を失わないのが最大の利益だよ」

 「現実的な数値だと、トカレフ(7.62mm×25)を防げるだけでも、兵士にとって大きい」

 「ジェラルミンを使うのですか?」

 「んん・・・兵士合わせて、強化服の寸法を変動させるものより」

 「強化服を固定して体格のあった兵士を選別する方が、いいだろう」

 「平均値でいくつかのタイプを揃えれば、それなりに揃う」

 「赤外線スコープで敵は丸見え」

 「装甲兵は保温で熱を外に出さないので有利ですが・・・」

 「それに人体だよ」

 「衝撃を受ければ作用側に力が削がれ、斜に構えれば跳弾効果も高くなる」

 「本当は、チタンを使いたいがね・・・」

 「高そうですよ」

 「無理だな。とりあえず、ジェラルミンを1人、30kgだとすると・・・・」

 「1000人分で30トンほど・・・」

 「30トン級の戦車を1両作るのなら1000人分の装甲兵を揃えた方がマシだ」

 「極地では、そうかもしれませんが・・・」

 「少ない資源を有効に使うなら手榴弾も、直撃でなければ倒れるだけ」

 「爆風に強く、散弾や小銃の利かない機動装甲兵に決まっている」

 「重くないですか?」

 「持ち歩くわけじゃない」

 「着装するのだから、それほどでもないだろう」

 「まぁ チタンを使えば20kg位にできないこともないが・・・」

 「致命傷になりそうな部分は、厚みを増やして。あと破片対策がよいかと」

 「バイタル・パート方式は、ドイツ戦術思想に合わないと思うが・・・」

 「爆発の破片や小銃弾が将兵の主要な致死傷の原因ですが・・・」

 「兵士一人当たりの予算で、クレームがきませんか?」

 「極地戦仕様で吹雪の中、起伏の激しい山岳を突破できるんだぞ。当然の費用だ」

 「小隊分(100人弱)を揃えただけでも相当なことができる」

 「歩兵同士なら機動装甲兵が勝つに決まっている」

 「このフィヨルド地域では有効かもしれませんが・・・」

 「フィヨルドと湖の世界で吹雪なら戦車は身動きとれない」

 「普通の兵士も野外に出たがらないだろう」

 「ソ連軍が占領に気付いても、冬季明けまで動けん」

 「なるほど・・・」

 「冬季明けには、ソ連軍の前線を200km後退させている」

 「しかし、吹雪の中を踏破するには、パワーアシストで動力が必要なのでは?」

 「堂々巡りか、電力をどうしたものか」

 「チタンがいいなジェラルミンだと数を揃えられるが防弾効果と重量で厳しい」

 「空挺部隊で行くのが良いのでは?」

 「それならパワーアシスト抜きでも・・・」

 「んん・・・空挺部隊か・・・」

 「吹雪の中では作戦不能。撃墜されそうだな」

 「やはり、吹雪の中で?」

 「吹雪の中で戦えるから少数精鋭で勝てるんだ」

 「そうでなければ作戦自体成り立たない」

 「しかし、かなり、仕様が困難なのでは?」

 「何を言う。魔法瓶を世界で始めて作ったのもドイツ」

 「世界の常識はドイツ民族によって成し遂げられる」

 「はぁ・・・」

 「無知で野蛮な劣等民族に “可能か” “不可能か” を決める資格はない」

 「はぁ・・・」

 「ドイツ民族がエテ公の小賢しい浅知恵に影響されてたまるものか」

 「最近、日本人に怨恨が入ってませんか?」

 「ドイツの伝統ある領土を日本に与えるなど正気の沙汰か?」

 「まぁ 与えるというより交換ですから、それに希少資源のためですし」

 「戦時国債分も最終的に中国に押し付けるそうですし・・・」

 「ふん!」

 「いっそ、人体系の研究所と連携するとか?」

 「そりゃ 足や手をセラミック、ステンレス、チタンで作れたら装甲強化兵と言えなくないが・・・」

 「体の一部を強化できる代償として身体バランスが悪く」

 「接合部の負荷や疾患が弱点になりそうです」

 「それをこちらで補うことができれば・・・」

 「問題は、どっちが主導権をとるかで・・・・ぶつかるからな」

 「人体系は戦争のおかげで身体障害者で困りませんし」

 「いい標本があると喜んでいましたよ」

 「まったく、こっちに予算を絞ればいいものを・・・ドイツの医療技術も高過ぎるよ」

 「足を失った日本人が言ってたのですが、日本だと身体障害は見殺し」

 「中国だと共食いだそうです」

 「あはは・・・人体実験の宝の山だというのにバカな連中だ」

 「医者に見せようにも日本人は、ほとんどが百姓だとか」

 「いかんなドイツ民族は知能が高過ぎて、どうしても才能を生かしてしまうよ」

 「エテ公には無理だな」

 「熟練した技術は、さらに差を広げてしまいますね」

 「高等種族は、高等種族のまま。劣等種族は、劣等種族のままだよ」

 「ですが、報告ですと日本は技術全般で著しい向上が見られるとか」

 「んん・・・・黄色人め、忌々しいわい」

 「日本民族は、イレギュラーだとか」

 「・・・そうでなければ、恥ずかしくて、同盟など組めん」

  

  

 人体系の研究所

 人間の頭にとって必要な物質を血管を通じて、脳の側に送り込む、

 そうなったら、頭は死なないという理屈になる。

 ドイツに、その理屈を追求する研究所もあった。

 “人権は?”

 “それは、何ですか?”

 “・・・・”

 “ニホンゴ ワカリ マセン”

 ドイツの人道主義者は、ナチスのおかげで少数派、

 もっとも昔から、その傾向が強かったので、理詰めに知能指数が高いのも考えモノ。

 人間の頭を戦車に取り付け、

 脳の信号を無線操縦のように戦車に伝えることができれば・・・・

 と考える科学者がいた。

 人間賛歌、人道だけで医療技術が伸びることはない、

 医療向上のため医療投資をする庶民は一握り、

 なので、医学を向上させようと思えば、必然的に医療費は高くなる。

 死ぬ人間を無駄に生かすため国家予算が使われたりしない、

 そんなものに血税が使われたら普通の人間は怒るだろう、

 ちなみに脳に必要なものは “血” 新鮮な血を動脈から送り込み、

 静脈から戻すと “脳” は血を燃料にして動く、

 血の成分と送り込む分量など、いろいろ難しい、

 しかし、失敗は成功の元。

 あまり尊くない犠牲(ユダヤ人、スラブ人)と、

 尊い犠牲(ゲルマン人)のおかげで成功する。

 そういう被験者もでてくる。

 人間の体は、脳を生かすためと開き直ったり、

 もっとも “これが新しい君の体だよ” と、戦車に載せるとパニックに陥りやすい、

 無論、こうなる前の体は瀕死の状態で、

 如何ともし難い状態だったと証拠写真を見せる。

 理解すると大人しくなる。

 さすが理性のドイツ民族、

 “他の人間の首をはねて自分のを付けろ” というヤツは、いない。

 “戦車はいやだ!! 飛行機がいい〜!” は、いた。

 墜落で全身複雑骨折の元パイロットだと、そうなるのだろう。

 潜水艦でもよさそうだが行方不明になると困る。

 問題は電気信号の伝達。

 ちなみに相性とか、神経伝達とか、筋肉とか、

 生理的な問題があり、数日の命で長生きない。

 この研究の成果が問われるのは、次の戦争のとき。

 戦争になれば使える脳は、すぐ現れる。

 そのとき、血液のストックと、

 それ専用の戦車があれば、即、実戦に投入できるはず。

 操縦席が人間の形にこだわらなくてもいいメリットもあった。

 非人道的だろうか、

 国民は、戦争に徴兵されて前線に送られるくらいなら、

 喜んで献血するだろう。

 人間の気質は非人道的にできているのかもしれない、

 頭を守れて外が見える、超々硬質防弾ガラスは必要だった。

 「・・・戦後一年で半身不随者は、随分と減ったな」

 「博士。半身不随者が、いなくなる前に形になる成果を集めないと・・」

 「カールおじさんのおかげで政府がヘタレたからな」

 「ユダヤ人狩りも、スラブ人狩りも問題になりつつあるし・・・・」

 「そうだ!」

 ぽん!

 「中国から買おう」

 「そういえば、確か、人身売買していましたね」

 「中国の揚子江に研究所を作ろうか」

 「そうですね・・・」

  

  

 ベルリン ドイツ人科学者の館

 武蔵の改装企画案が、いくつもあった。

 なぜドイツ人が日本の軍艦で実験する? と思ったりもする。

 しかし、改装でドイツ製の工作機械と部品を大量に使うのだからアイデアも募集する。

 「ん? なんだ? これ消火器じゃないぞ」

 「・・・噴水ですな?」

 「艦底から艦橋、煙突、艦尾艦橋まで5000馬力のモーター20個で海水を吹き上げる・・・」

 「んん・・・海水で一発消化か・・・」

 「ええ、水流を調整すれば武蔵艦上を二重、三重の海水幕で覆えるようです」

 「艦底に穴を開けるとは・・・さすがはドイツ恐るべし」

 「陸軍国は違いますね」

 「しかし、逆に艦底に溜まった海水も汲み出せるので被雷しても、沈み難いかと・・・」

 「んん・・・非常識過ぎて、なに考えているんだか」

 「海水が煙突から入ると、まずいだろう・・・」

 「圧力が強いので、その辺はクリアされているかと・・・」

 「しかし、破損すれば、ディーゼルの火も消える、いかにも機能主義の独善」

 「対レーダー射撃用では?」

 「んん・・・」

 「投下される爆撃を水圧で微妙に逸らせそうですし・・・」

 「しかし、こりゃまた」

 「風で水幕も壊れるとか流されそうだが奇天烈だな」

 「でも押し上げる水流は大きいので最低でも豪雨並み」

 「水煙とか、水蒸気も半端じゃないですね」

 「周辺海域ごと真っ白な霧に包まれて、艦が見えなくなりますよ」

 「戦艦は大きいから無茶とばかりは言えないが真水ならともかく」

 「塩水を艦内に通して艦上に降らせるのは考えものだろう」

 「仕様は、塩害に強い特殊強化セラミックを多用・・・」

 「発電屋とポンプ屋が結託して宣伝ですかね?」

 「そんなところだろう。また、世界一で自慢できるな」

 「対レーダ射撃でしたら、こっちの磁性煙幕がいいような」

 「煙幕の方が風に流されやすいが、こっちは味方の電子機器が使えない。ちょっとな」

 「じゃ 海水がマシ?」

 「どっちも問題ありだが火災を消せるのは悪くない」

 「味方の艦艇の火災も消せる」

 「普通、放水は護衛艦にすべきでは?」

 「いや、旗艦だからこそじゃないか、護衛艦は旗艦の近くにいるものだし」

 「・・・ですかね」

 「賢者は歴史に学び、愚者は体験に学ぶ」

 「しかし、人々は、欲望に支配される。海水幕に覆われた戦艦が見たい」

 「ふ 他国の戦艦だからな」

 「そういえば、日本の戦艦が来ていたな」

 「ああ、長門でしたかね」

 「領土交換した領地に一時的に置くそうです」

 「試したいな」

 「無理でしょう」

 「じゃ ストラスブールで・・・」

  

  

 厚木基地

 技術者たちが滑走路を見ている。

 ホルテンが ふわっ と飛び立つと旋回しつつ上昇していく、

 結局、垂直尾翼は付けられず。

 主翼翼端を折り曲げ、小翼(ウィングレット)で機体を微妙に安定させていた。

 「主翼が地面に近いが意外と短い距離で離陸するじゃないか」

 「胴体を持ち上げる必要がないからでしょう。全部、主翼ですから」

 「まぁ 隼V型や海燕よりマシだがね」

 「戦闘爆撃機ですよ。攻守を1機で使えるそうです」

 「ともあれ、随分と安定したんじゃないか」

 「ジェラルミンを使えるのなら、ホルテンは4600kgから4000kgですからね」

 「そういえば、ドイツに希少金属を送ったはずだが、やっぱり、機体は鉄を使っていたらしいな」

 「希少金属は、エンジンフレームを優先したようです」

 「全翼機構想自体は、機体にジェラルミンを使えない苦肉の策ですからね」

 「鉄でも、飛べばいいか」

 「基礎で負けて小細工で補っている日本人じゃ 考え付かない発想だな」

 「性能比で言うと飛べば勝てる、ということでしょう」

 「Me262でも、ジェラルミンなら3800kgから3000kgに落とせましたよ」

 「機体を安定させるための苦労を考えるならMe262でも良かったよ」

 「カールおじさんとメッサーシュミット社は、まだ、仲が悪いようです」

 「そうだった。迷惑な話しだ」

 「平時で希少金属が手に入ればエンジンの性能も段違いで機体も軽量化できる」

 「この分ならシューティングスターも撃墜できそうですよ」

 「これで量産に入れるのかね」

 「いえ、ジェットエンジンの耐久時間を考えると、しばらくは、試作実験が必要ですね」

 「んん・・・年間訓練時間を計算に入れると、おいそれと配備できないか」

 「ドイツが希少金属をふんだんに使って耐久時間を延ばして、やっと、60時間だとか・・・」

 「使えねぇ・・・」

 「日本独自でやったら20時間でお釈迦でしたよ」

 「日本製は期待してねぇ」

 「どちらにせよ。エンジン設計の再検討と、さらに希少金属を使うことになりそうです」

 「練度計算でいうと耐久は300時間以上は欲しいな」

 「取り敢えず、配備しないと戦力的に厳しくないか?」

 「ドイツでも、まだ、大戦中の機体を使っているようですし」

 「まぁ いいか。いまのところ、戦争という雰囲気は、ないからね」

 「ホルテンを中継ぎにして、次期主力戦闘機に期待、でしょうね」

 「フォッケウルフTa283は、スマートで、よさそうだったが?」

 「あれは、駄目でしょう。ラムジェットなんて前衛的過ぎますよ」

 「6発のMe264爆撃機と、どっちがいいかな」

 「あれも、資材不足で、全翼爆撃機になりそうです」

 「ホルテンを大型化。4発にして対艦フリッツX装備で良いと思いますよ」

 「・・・平和になると予算を民需に取られるからな」

 「フリッツXを装備できるのなら何とか戦えるだろう」

 「あと対潜哨戒機もでしょうね」

 「そいつも全翼機?」

 「そりゃ 航続力を稼げて、低速でも翼面積があって失速しない機体といったら・・・」

 「まぁ 部品の使い回しができるのなら、それは、それで、いいがね」

 「経済再建が優先されてますからね」

 「本土を焼け野原にされたくらいで軍事費削減なんて酷すぎだよ」

  

  

 大連に大型戦車が降ろされ、群集が目を見張る。

  45t級パンター戦車

   全長8.86m  車体長6.94m×全幅3.27m×全高2.99m

   馬力594hp 航続距離200km  最大速度46km/h  乗員数5名

   装甲13〜120mm  70口径75mm砲×1  7.92mm機関銃×2

 なぜこの戦車が大連に下ろされたのかというとドイツの啓蒙だった。

 これが極東に配備されれば、ソ連は萎縮して大人しくなるだろうとか、

 戦わずして負け犬になるだろうとか、そういう意図。

 ごっくん!

 もっとも予算の関係で指を銜えて見るしかなく

 “こんなもの生産できるわけがない” が、戦後の日本。

 というわけで、焼け野原を、あまり見ることのない大連に降ろされる。

 このパンター戦車。並みの戦車兵は一目惚れ、

 これを見る群集を虜にしてしまうほどインパクトがあった。

 「いい〜」

 「でかい・・・」

 「欲しい〜」

 「移動要塞だ〜」

 客観的に大陸支配で使いやすいのは、装甲兵員輸送車とか、装甲列車とか、だが、

 やはり現物を見ると夢を見たくなる。

  

  

 イギリス

 欧州連合軍の主力部隊はノルマンディ域に配備されていた。

 アメリカも、戦後再建途上で軍事費は抑えられていた。

 しかし、基礎になる国力が違うのか、桁違いの戦力が配備される。

 大陸側の恐怖は、ドーバー海峡の対岸、イギリス本土に迫っていた。

 その気になれば、地対地V2ロケットで標的にされる、

 華寇軍の掃討がほぼ終わると、

 イギリスからカナダに移住する者は少なくない。

 人口5000万を抱えていたイギリスもインドと東南アジアの利権を失い、

 左団扇だった富裕層も働かなければならず、

 経済不況に向かっていく、

 アメリカ資本の点滴で辛うじて持ち堪えるものの、

 所詮は外資、面白いはずもない、

 そして、イギリスの地域経済も対同盟アメリカ駐留軍によって支えられる。

 これでは、何のために戦ったのか、わからない。

 アメリカ軍のB29爆撃機とムスタングが飛び立っていく、

 F80シューティングスターも配備されていた。

 しかし、安定しているのは、プロペラ機であり、しばらく併用していた。

  

 

 イギリスの格納庫。

 アメリカ人とイギリス人が集まって、諸元表を比較しながら検討していた。

 F80は、本物

 ホルテンは、ハリボテ。

  空虚時/最大重量 推力 最大速度 航続力 全長×全幅 全高 翼面積 武装 爆弾 ロケット 乗員
F80シューティングスター 3819kg/7646kg 2400kg×1 966km/h 1328km 10.49m×11.81m 3.43m 22.07m² 12.7mm×6 1000kg 10〜16 1
ホルテン Ho229 3900kg/7000kg 1000kg×2 1020km/h 1400km 7.47m×16.76m 2.81m 50.20m² 30mm×2 1000kg 24 1
                       

 機体の形と推力で、なんとなく性能も特性も見当が付いた。

 そういうレベルの技術者とか、ベテランパイロットが集まっていた。

 性能差に固執して騒ぐ近視眼な人間は少ない。

 技術水準が同レベルなら性能が少しぐらい不利でも、

 戦略、数、エネルギーで押し返せると割り切れる軍人たち、

 「・・・これが、ホルテンの最新?」

 「機体に希少金属やジェラルミンを使って、もう少し、性能が上がっていると思ったが?」

 「機体の安定と防弾で重量を食われ・・・」

 「数値の出所は、いろいろで、これが、近似値だそうだ」

 「これならモーメントがあるからラダーを利かして戦えるんじゃないか?」

 「んん・・・我々は全翼機とは戦ったことがない」

 「しかし、ドイツも、日本も、イタリアも、尾翼付きの戦闘機と戦ったことがある」

 「この違いは大きいよ」

 「未経験者対経験者だと、それだけで不利だな」

 「じゃ 訓練用に全翼戦闘機を開発するの?」

 「んん・・・全翼機は軽爆撃機が良さそうだけどね・・・」

 「いや、これ、戦闘爆撃機だろう」

 「まぁ 性能は想像はしやすいだろう」

 「多少、改良されていても安定性は怪しいはずだ」

 「F80が逃げ回れば射線を合わせられない方に賭けるね」

 「それは、逆も真なりだろう」

 「F80は胴体を持ち上げなければならない」

 「ホルテンは主翼だけで旋回だろう」

 「航空力学上、慣性の軌道が違って、追尾が難しい」

 「んん・・・」

 「重量と推力差が、ほぼ同程度で翼面積が倍以上で全長が短く負荷が小さいか・・・」

 「速度を維持されたまま、旋回されると、たぶん、付いていけないな」

 「撃墜されず。撃墜できずで、両方で一撃離脱じゃないか?」

 「ジェットエンジンの耐久時間を考えると、燃料を消費しながら戦果なしは、いやだぜ」

 「いや、F80の航続力は攻向きじゃない」

 「一撃離脱でムスタングとB29が一方的にやられるな」

 「んん・・・攻め切れないか」

 「核の応酬は困るよ。イギリスが滅びる」

 「核を持って睨み合うのが戦後国際政治の醍醐味だろう」

 「ドイツが大陸間弾道ロケットを開発しているのにか?」

 「あんのキャベツ野郎、採算度外視で、のめり込みやがって」

 「ノースロップ社の親父が全翼機が好きだから調子付かなきゃいいけどな」

 「全翼爆撃機はいいんだけどね」

 「ペイロードがないと・・・」

 「基本戦略で連邦の爆撃機は対地用になりやすく」

 「同盟は対艦用になりやすい」

 「あの親父は、その辺を理解してもらわないとね」

  

  

  

 白い家

 100人中99人を一生懸命に助けて、1人を見殺しすると、

 こいつ実は、悪いヤツなんだ、と思われたりする。

 これは、どんなに努力しても一点でも欠点、

 曇りがあれば針小棒大で論う人間が多いということ、

 100人中99人を殺戮して、1人を助けると意外といいヤツかもしれないと思われる。

 これは、想像力の欠如で直接利害が絡まないと自分の善良さを示したくなること、

 そして、順華と満腹は、ワシントンにいる。

 この二人 “アメリカは、意外と、いいヤツかもしれない” と、

 中国や朝鮮人に思わせる可能性を秘めていた。

 プロパガンダの初歩で二人だけ助けて残り全部、殺してしまえばいいので実に安上がり、

 宗教の世界でも良くやる手法で千人から献金を集めて一人に施しを与えると、

 みんなで貰った気になったり。

 というわけで罪状があっても司法取引 & 大統領の戦後一年の恩赦要請、

 この二人 “西海岸から東海岸まで良くぞ、敵中横断できた” と、

 褒められ、偉業を称えられてしまう。

 そして、等身大の二人の銅像も海岸に作られるという。

 大統領を殴ってやろうと思ってた二人は、掌を返したように舞い上がり、

 いや、殴っても、それは、それで、面白かったのだが見事、

 偉大なアメリカの犬に成り下がる。

 そして、二人は、自分たち以外の英雄を望まず、

 東海岸を目指す華寇軍の障害になっていく、

 おかげで、アメリカは、中国大陸の諜報活動で少しばかり好転したりする。

  

  

 戦後一年。

 主要国の思惑を抱えたまま、地球は、回っていく。

 

 

 

 


 月夜裏 野々香です。

 史実と違って、敗戦でなく、停戦。

 少しばかり気持ちに余裕があるのか、

 どことなく非道になれない官僚がいたりで、いろいろでしょうか。

 史実の戦後、どういうことが、あったか、

 あまり詳しく書くと残酷物語になってしまうので、雰囲気だけ。

 この『青白き炎のままに』は、大陸権益と赤字国債・軍票が微妙に相殺されつつです。

 国内をばっさり切れない、

 自己改革できないと鬱積された不満は、国外を犠牲にするしかなく、

 戦争の原因になりそうです。

 停戦後、一年。

 まだまだ、戦雲は、遠く。

 各国とも、自制しつつ、歴史が紡がれていきます。

 

 

 自分で書いていて、ドイツのマッドに殺意を覚えました。

 

 とりあえず。これで、一部完ということにします。

 

   

 

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第50話 1946/07 『腹黒だね♪』

第51話 1946/08 『戦後、一年過ぎて』