月夜裏 野々香 小説の部屋

    

架空戦記 『大本営特攻』

 

第01話 『地位を捨ててやる!!!』

 20世紀初頭

 欧米列強の脅威に晒される極東の島国。日本

 一つの国境、一つの民族、一つの言語、

 一つの政治制度、一つの文化、一つの文字体系等々国内の軋轢が小さかったものの、

 山がちで台風、地震、津波の多い国情と、取り立てて目星い資源のない国土で、

 狭い土地で人口が増加すると低所得者の生活圏は狭められていた。

 とはいえ、国の始まりから天皇を中心とした歴史の継承がなされ、

 江戸時代から培われていた高い識字率と宗教的対立が低いことは利点となり、

 欧米列強の侵食を辛うじて防いでいた。

 しかし、他のアジア諸国が植民地化されてる東アジア情勢であることに変わりなく、

 日本の独立がいつまで続くか、朝野とも最大の関心事だった。

 日本は、幕末の内紛が収まり、明治維新で近代国家の下地が作られると、

 近代化のためには資本を集中しなければならず、

 土地が奪われ、地主の寡占化が進み、

 地主から大なり小なり耕地を借りる小作人は、農家の69パーセントに達していた。

 また、初期資本主義のためか、明日の保障もなく、労働者と借家が増えていく。

 資源がなく、技術的な遅れを含め、国力で劣る日本が外貨を得て、

 近代化の下地を作るには、繊維産業しかなかった。

 もっとも、貧富の格差が大きくなると軋轢が増していく。

 日本が国防の選択肢として外征を試みたのも、

 見境なく拡大した軍需利権と軍部の保身と、生存圏拡大による国家安寧のためだった。

 また、アジアの大国、清国国内が不正腐敗で荒れていたこと。

 朝鮮半島の民意が国から離れていた事も日本の帝国主義化を誘発させる材料になった。

 日本は、外征を行い、日清・日露戦争を経ながら国政の指針を軍事力に頼っていく。

 身の丈に合わない軍事費は、国力を削ぎ、国庫を擦り減らしていた。

 そして、外貨を求めて租界を足場に中国市場を狙う。

 第一次世界大戦は、白人世界を一時的に弱体化させていた。

 日本は、間隙を縫うように富を求め、資源と市場を得ようと中国大陸への外征を繰り返した。

 陸軍と海軍は、国内にしがらみのないアウトロー。

 つまり、ヤクザ。

 突き詰めると朝鮮人を利用した。

 彼らが非合法右翼活動の核となって、民権派など反対勢力を切り崩していく。

 国民総生産は軍製品に偏り、国民生活を充実させる民生品は縮小し、

 繰り返される外征で列強の反発を強め始めていた。

 中国は内政の不和を反日で糾合し、列強の力を利用しつつ、反日運動を激化させていた。

 日本の国際外交の選択肢は、軍部の暴走とともに狭められていく。

 日本国民は、次第に右翼化していく世相に村八分を恐れ媚びていく。

 そして、世界的な排日、不買運動に直面していた。

 ABCD包囲網により資源は得られず、加工品の製造ができなくなっていく。

 生活物資は不足がちとなり、物価は高騰。嗜好品は手が出せなくなっていく。

 日本企業は設備投資ができなくなり、回転資金、維持費の捻出が困難となっていく。

 労働条件は悪化し、賃金は天引きされ、軍事費を中心にした税金が大きくなっていく、

 田畑を騙し取られ、不作一つで娘は売られ。

 息子も養子に出されて始末され、買い手がなければ自ら間引き、

 爺捨て、婆捨てが行われ。

 一家離散で自殺者や犯罪が急増する。

 新聞を見ると不況続きで世相は悪化。

 本来、大日本帝国の規範となるべき皇軍将兵の不祥事も珍しくない。

 自殺、部下殺し、上官殺し、盗難、強盗、強姦、

 心中、贈収賄・横領・横流し、警官との乱闘事件。

 生きていく手段が狭められれば、他者から奪い、食いものにしてでも生きていく。

 日本軍は閉塞的で絶望的な状況下で、軋轢をはね返そうと暴走。

 結果は、経済制裁による孤立だった。

 

 

 朝鮮半島

 憲兵がチラシを掻き集めていた。

 “大日本帝国は美国の傀儡ニダ 赤国の白丁ニダ”

 “日本は、美国に土下座外交ニダ”

 “日本は、赤国にお尻を向けてるニダ”

 「は、早く、回収しろ!」

 「「「「はっ!」」」」

 この手のプロパガンダはよく行われる、

 酒場

 「いったい、どこのバカが、こんなチラシを撒いているんだ?」

 「きっと、バカ白丁ニダ。気にすることないニダ」

 「そうニダ。日本軍は世界最強の軍隊ニダ」

 「日本軍はアメリカやソビエトに屈してはいけないニダ」

 「アジアの希望ニダ」

 「有色人種の太陽ニダ」

 「戦えば、日本軍は絶対に勝てるニダ」

 「朝鮮人は日本を応援するニダ」

 朝鮮人の漁夫の利狙いは、むかしから、乗るヤツが馬鹿なのだ。

 それでも繰り返し繰り返し・・・

 日本人の自尊心を よいしょ! よいしょ! よいしょ!

 『『『『『日本を戦争に引き摺りこんで疲弊させてやるニダ』』』』』

 日本人の面子を よいしょ! よいしょ! よいしょ!

 『『『『『軒下を借りたら母屋も奪ってやるニダ』』』』』

 日本人の優越感を よいしょ! よいしょ! よいしょ!

 『『『『『日本語が分かるニダ。アメリカ人、ロシア人、中国人と組んで日本を支配するニダ』』』』』

 「・・・そ、そうかな〜♪」

 「「「「「そうニダ〜♪」」」」」

 

 

 

 欧州大陸は戦争が始まり、中国大陸でも日中戦争が続いていた。

 アメリカ国防省 & 日本参謀本部

 二つの研究機関で似たような研究がすすめられ、似たような書類が届けられる。

 「・・・戦略研究部からの報告です」

 「変化は?」

 「総合的に悪化しているようです」

 日米の司令長官は、パラパラと報告書をめくる。

 「ええと・・・日本国民の収入は軍事費に天引きされて購買力がなく」

 「日本産業を支えられない」

 「国民総生産は国民生活と関係のない軍需に費やされている」

 「八木アンテナのような新規開発は権威を脅かすため」

 「既存勢力に押し潰される傾向にある」

 「代わりに権威を脅かされない外国製を購入・・・」

 「経済制裁で科学技術を得られず。必要な工作機械と消耗品が得られず摩耗する」

 「賃金が低いにもかかわらず競争力のある製品の開発製造ができず。社会資本は縮小」

 「排日不買運動で輸出もできず。反日とABCD包囲網で資源の輸入もできず」

 「備蓄燃料がなくなり、艦隊も航空機も動かせず。工作機械も使用できなくなる・・・」

 「狭い国土では人口を支えるだけの食料自給率は得られず・・・・膨張政策に走ると・・・」

 「無理、無駄、ムラが多く、ジリ貧ですね・・・」

 「自暴自棄に戦争を始めても長くはないな」

 「燃料もですが。研磨剤、機械油も失われ」

 「工作精度が保てるのは1から2年か、そこらです」

 「軍縮は」

 「軍事力が大きくなり過ぎた・・・軍縮させられるくらいならクーデターだろうな」

 アメリカの国防省は、ほくそ笑み。

 日本の参謀本部は、苦虫を噛み潰す。

 そう、アメリカ国防省も、日本の参謀本部も同じ結論を導き出していた。

 しかし、その反応は、それぞれ違う。

 貧乏日本は、お金持ちアメリカと軍事力で張り合って借金塗れ、

 身代まで注ぎ込み、自己破産中。

 そして、利権にまみれたお金持ちにとって、お小遣いの一部でしかない。

 日本は追い詰められ、行動を迫られていた。

  

  

 1941年11月26日

 国務長官コーデル・ハルがハルノートを提出した。

 1) アメリカと日本は、アジア・太平洋の包括的な多国間不可侵条約を推進。

 2) 日本はフランス領インドシナから即時撤兵。

 3) 日本は中国からの即時撤兵。

 4) 日本は1901年以前の中国大陸の治外法権を認め海外租界と関連権益全て放棄。

 5) 日米通商条約再締結のため交渉。

 6) アメリカと日本は双方の資産凍結を解除。

 7) 円ドル為替レート安定に関する協定締結と通貨基金の設立。

 8) 太平洋地域における平和維持に反する第三国との協定を破棄。

 9) 本協定内容の推進。

 

 大本営はハルノートに対し過敏に反応する。

 「な、なんと言うことだ!」

 「我々が明治以降、成し得た事が全て台無しではないか」

 「もっと楽観的な解釈をすべきでは?」

 「このハルノートは、そんな、あまい要求ではない!」

 「守っていては勝てん。攻めるんだ」

 「守っている方が有利ではないか。攻めなければというのは、強迫観念ではないのか?」

 「違うぞ貴様! 臆病に閉じ籠もっていても駄目ということだ」

 「よし! こうなったら、戦争だ!」

 「「「「「おお〜!!!!」」」」」

 『けっ 従順で威勢のいい子飼いを出世させやがるからバカが増える』

 「「「「断固戦うべし!!!」」」」

 『東條幕府か。東條や上官よりバカじゃないと、やってられんな・・・』

 「「「「「えい! えい! おお〜!!!! えい! えい! おお〜!!!!」」」」」

 しかし、総論は決まっても、各論はゴタゴタ。

 

 

 人間は、社会環境という器。知識、情感を材料に “何かを思い” “何かを考える”

 そして、どう行動するか方向性が定まり、定めた方向に向かう能力と実力が要求される。

 思う内容が下劣で考える方向が犯罪だと、

 如何に能力が高く、実力があっても身を滅ぼしてしまう。

 欧米は前者の方向性が重視され、

 日本は後者の実力・能力が重視される。

 貧しい世界では、個人の創造性や権利より、権威と服従が重視された。

 そして、本来重視するべき方向性が実力者や能力者によって捻じ曲げられたりする。

 この時期の日本は、軍国主義国家であった。

 反軍国主義者は自動的に反日、非国民、売国奴とされ、村八分となり、

 生殺与奪権を奪われ社会から淘汰され、

 クモの巣に蝶が絡まれたような、どうにもならない力によって国運が傾いていく。

 日本の権力構造を支える派閥は学閥、軍閥が強かった。

 そして、余り目立たない派閥で隠然とした関係があって、上流階層との婚姻など閨閥があった。

 実のところ学閥も軍閥も一定の階層に上がると、

 華族など、上流階層との閨閥に組み込まれることを望む。

 上層階層も権力構造を維持しようすると、実力のある学閥、軍閥との婚姻を怠れないのである。

 閨閥外は、どんなに才能があろうが、正しかろうが排斥される。

 この目に見えない閨閥政治は、網の目のように広がり、日本全体を支配していた。

 もっとも、諸外国も似たようなものだったものの、日本は幅を利かせていた。

 人は権力や金に従うのであり理念や理想に従わない。

 日本史でも閨閥外れで権力を手中にした者は少数派で豊臣秀吉などが挙げられ珍しかった。

 閨閥外れで血の背景がないと金を使うしかなく、余計に卑しい者にされやすかった。

 この時期、日本は軍部の権力と暴力が支配する世界になっていた。

 総貧乏の日本で立身出世を望まば軍閥からで、他の選択肢は狭められた。

 そして、日本の閨閥政治が誤ったとすれば、保身のため軍閥に頼り過ぎた事にあった。

 軍部は、五・一五事件、二・二六事件など閨閥政治を破壊しかねない力を持ち始める。

 閨閥が学閥や軍閥と違うのは、一度組み込まれると利害関係で簡単に切れない。

 上層階層は、骨肉の殺し合いを避けるため無謀と思える国策すら容認していく。

 そして、アメリカは、自浄能力を失った日本を開戦させるため、ハルノートで追い詰めていた。

 もちろん、アメリカも国益で、

 日本は、アメリカに日本滅亡の大義名分を与えようとしていた。

 総力戦研究所は、開戦後のシュミレーションを出していた。

 日本の政治、経済、外交、資産、資源、産業、民衆のパラメーターは全ての計算されていた。

 ABCD包囲網でじり貧、経済どころか、社会破綻するしかない。

 情勢を推測すれば日本からの開戦は避けられず、

 日本人の気質から奇襲攻撃も見当が付いた。

 

  1) 緒戦の勝利は見込まれる。

  2) 長期戦となり物資不足は決定的。ソ連の参戦で敗れる。

  3) 結論 日本必敗。

 参謀本部は結果を知っている。

 しかし、国家情報戦略より価値があるモノも存在する。

 国家権力構造、軍事力、軍事費、軍属との利権、保身、面子・・・

 泣きたくなるような状況で、一人がキレる。

 「真珠湾を航空機でやれないものか」 連合艦隊司令長官 山本五十六大将

 「反対だ!」 軍令部次長 伊藤整一中将

 「この作戦が認められなければ」

 「山本長官は連合艦隊司令長官を辞職すると仰っている」 参謀 黒島亀人大佐

 「「なぁにぃいい〜!」」

 『ふ この戦争中毒症どもが、これで開戦は無しだな』 山本長官

 くぬぅうぬぅううう〜

 『ど、どうせ、ハッタリに決まってる』 軍令部総長 永野修身大将

 「・・・や、やまもとぉ〜お この卑怯者が!」

 「なっ! 何だと! この俺のどこが卑怯者だ!!」

 「部下に戦わせて貴様だけ後方で、のうのうと」

 「な、なんだとおぉおお、きっ! きさぁまぁああ〜!」

 「どうせやるなら、戦艦部隊で真珠湾に突撃かまして占領しやがれ!」

 「お、おぉおおお〜 やってやるわ。やってやるわ」

 「戦艦部隊で真珠湾を占領してやるわい」

 「おぉお! やって見やがれ、この新潟の田舎者が!!」

 「おぉおお〜 やらないでか!!!」

 「オアフを占領したら戻って来んでいいぞ。お前をハワイ総督にしてやるわい」

 「ごっひあげた〜!! このヘタレが漢の戦いを見っけてろ!!!」 

 「「・・・・・」」 憮然

 『『し、しまったぁああ〜!!!』』

 連合艦隊長官 山本五十六 ╱(ºoº)╲  &   軍令部総長 永野修身大将 ╱(ºoº)╲

 

 

 戦艦長門 艦橋

 「良い重油なら煤煙を発見されにくい」

 「しかし、緒戦で最良の燃料を全部使い切っての作戦か」

 「後がないですね」

 「だが、これだけの大艦隊だ。発見される恐れもある。警戒を怠るな」

 「ですが、連合艦隊、第一戦艦部隊が矢面にさらされてしまうなんて・・・」

 「いや、ついうっかり・・・」

 「売り言葉に買い言葉なんて、ガキじゃあるまいし」

 「んん・・・上層部が後方で踏ん反り返っていては今後の士気にかかわる。これでいいのだ」

 日本を背負って立つはずの連合艦隊主力艦隊。

 大日本帝国のエリート中のエリート。

 出世街道まっしぐら老後安泰の官僚ポスト。

 海鳴りに紛れ、物悲しい歌が聞こえる。

   貴様と俺とは同期の桜〜 同じ航空隊の庭に咲く〜

   咲いた花なら散るのは覚悟〜 見事散りましょ国のため〜

   貴様と俺とは同期の桜〜 離れ離れに散ろうとも〜

   花の都の靖国神社〜 春の梢に咲いて会おう〜

 半ば啜り泣きの響きが胸を打ち、波音が心に残る。

 こんなはずではなかった。

 主力艦隊は、最後の最後の砦のはず。

 艦首の菊の紋章が外され、初戦から帰還できなくなるような使い方がされるとは・・・・

 

 

 オアフ島 真珠湾

 「日本の外交戦略に動きは無いようです」

 「蒋介石と和解するとか、中国から撤収するとか。いくつか、やりようがあるものを」

 「軍部は権力を政治、外交に手渡せないのでしょう」

 「まぁ そんなところか・・・」

 扉が開けられる。

 「・・・キンメル司令。日本海軍に動きがあるようです」

 「いよいよ。奇襲攻撃でもするのかな」

 「日本の軍部は軍を解体するか、国家を破産させるか、二者選択を迫られているはず」

 「どちらにしろ自業自得で財政破綻だ。自暴自棄で突撃かますだろう」

 「しかし、軍事力は正面装備だけで余力がありません」

 「一発負かせば押せ押せですかね」

 「日本は、物理的にも精神的にも余裕がない」

 「しかし、戦うか退くか、日本次第だろうがね」

 「中国戦線と同じですよ。追い詰められると自棄になって突撃かますのは予想付きます」

 「人間の営みの一部でしかない軍事だけに偏重すると視点が低くなり視野も狭くなる。当然だな」

 「ですが、社会が困窮しているのに日本国民が暴動を起こさないのが不思議なくらいです」

 「日本は閉塞した社会で日本人は保守的で臆病だ。長いモノに巻かれやすく事勿れだよ」

 「それに小心者だ」

 「主流になると反対派と許容、融和できず排斥され、反体制派は淘汰される」

 「結果的に極から極へと偏向しやすい」

 「まぁ そのくせ、神経質、短絡でキレやすい。この手の外圧には脆いよ」

 「戦闘バカが何を考えているかなんて、手を取るように分かりますからね」

 「日本海軍が真珠湾を空襲する可能性をどう思うかね?」

 「そうですね・・・」

 「38年にサラトガが真珠湾攻撃の演習に成功していますから可能性はあります」

 「問題は、その可能性をどう見るべきだが?」

 「三段階で考えられますね」

 「1、日本海軍は能力において真珠湾攻撃が実行可能か」

 「2、実行可能であれば実行する意思があるか」

 「3、実行するメリットがあるか、でしょうね」

 「それで?」

 「実行は、航続距離と洋上給油の練度を計算すれば可能です」

 「実行する意思は、山本長官の性格ならありそうです」

 「ですが、実行するメリットは微妙ですね」

 「5Wでは?」

 「When(いつ)、そろそろ」

 「Who(誰が)、山本長官が」

 「Why(どうして)、短期決戦のため」

 「Where(どこで)、真珠湾を」

 「What(何を)、攻撃する、でしょうか」

 「そんなところかな」

 「もっとハワイ沖を警戒すべきでは?」

 「・・・大統領は、日本の出方を待つそうだ」

 「日本海軍は、真珠湾攻撃が成功したら喜ぶでしょうね」

 「そりゃ 飛び跳ねて喜ぶだろうよ」

 「我々が、日本海軍の空母による真珠湾攻撃を全く予測していなかったと思ってですか?」

 「連中の懐具合も、姑息な発想も、手に取るように推測できるよ」

 「日本海軍は、我々、アメリカ海軍が真珠湾攻撃の可能性に気付いていなかったと思うだろうな」

 「驚くとしても “気付かなかったから” でなく “本当にやったから” でしょうかね」

 「仮に成功したとしても、気付かなかったと思わせて、増長させた方が得策といえるな」

 「有頂天にさせとけば慢心を誘えていいかもしれません。その方が楽して勝てますし」

 「しかし、日本海軍は来るかな・・・」

 「わたしなら、イギリス、オランダに宣戦布告し」

 「東南アジアで燃料を手に入れるだけにしておきますよ」

 「んん・・・それは困る。陸軍が及び腰で、準備ができていないからね」

 「兵士に引き金を引かせる力は、無情と憎しみですからね」

 「無情ならあるがね。日本人をイエロー・モンキーと思えるアメリカ人は半分くらいだ」

 「日本がアメリカを攻撃してくればプライドを傷付けられるから、9割くらいに増えるんだがな」

 「日本軍が攻撃してくれば、我々の戦力は、倍増ですか?」

 「戦意だけなら5倍くらいに跳ね上がるかもしれん」

 「どちらにしろ、わたしは、失態の責任を被らされてクビかな」

 「政治の犠牲ですか?」

 「政治ではなく。国民のための犠牲だと思いたいね」

 「その方が気が楽です」

 「それに軍人が国民や政治を犠牲にするより良い。わたし個人の経歴は迷惑だがね」

 「ご愁傷様です」

 

 

 1941年12月08日 ハワイ沖。

 長門、陸奥、伊勢、日向、扶桑、山城、金剛、榛名、霧島、比叡。

 青葉、衣笠、加古、古鷹、

 天龍、龍田、

 球磨、多摩、木曾、長良、五十鈴、名取、鬼怒、由良、阿武隈。

 那珂、川内、神通、夕張

 戦艦1隻に陸兵2000人が搭乗して将兵20000

 巡洋艦1隻には400人が搭乗しており将兵8000

 神州丸、7100トン、20.4ノット、将兵2000

 八幡丸、17128トン、22ノット、将兵6000

 新田丸、17150トン、22ノット、将兵6000

 あるぜんちな丸、12755トン、21.4ノット、将兵4000

 ぶらじる丸、12752トン、21.4ノット、将兵4000

 帝洋丸、9850トン、17.5ノット、将兵2200

 能代丸、7184トン、18.5ノット、将兵2000

 商船7隻 陸軍将兵26200

 艦隊30隻 海軍将兵13600人 + 陸軍将兵27800人

 艦隊総数37隻。

 合計 陸軍将兵67600名。

 

 

 長門 艦橋

 “これより戦艦部隊は、金剛型、長門型、伊勢型、扶桑型の順で真珠湾に突入する”

 “既に燃料はなく、背水の陣であり、片道特攻である”

 “各艦乗り上げ”

 “上陸後は、軽機関銃を持ち、ただちに下艦。陸軍部隊とともに野戦に入る”

 “軽巡と旧式艦隊は、オアフ島の定められた海岸に乗り上げる”

 “支援砲撃は、全弾撃ち尽くすせ、出し惜しみはいらんぞ”

 “それと、敵司令部と、食糧と武器弾薬庫は、必ず押さえろ”

 “こちらが命令を出せなくなっていたとしても、各自の判断で戦いぬけ”

 “皇国の興廃。この一戦にありだ”

 威勢の良い声が艦内に轟く。

 「・・・っくぅ 俺たちの地位と名誉と安楽な老後生活の糧もな・・・」

 「い、命も、では?」

 「死んだ後の事なんか、知るか・・・明日から、どうやって生活していこう・・・」

 「まぁ 歳を取ると環境の変化に弱いですから」

 「お前もだろう」

 「ええ」

 「・・・海軍将兵は、陸さんと違って金をかけている。なるべく、陸さんを盾にして戦え」

 「わかってます」

 「あのぅ・・・長官。陸軍は、いつでもいいそうです」

 「そうか・・・」

 陸軍の指揮官が艦橋に入ってくる。

 「いゃああ〜 さすが山本長官」

 「このような作戦をされるとは、まさに軍神ですな」 牟田口廉也 少将

 「まったく。まったく、陸軍も見習わねば」 参謀総長 杉山

 『ふ・・・こいつらも道連れにしてやる』 山本長官

 「少し遅れているようですが大丈夫ですかな」

 「古い艦隊が足手まといになって、少し遅れてますが問題ないはず」

 「長官。オアフ島を落とせば、後は楽勝でしょう」

 「そうですな・・・」

 『陸軍は、まるでヤクザの討ち入りだな。無知で想像力がないと気楽でいいなぁ』

 長官は無知な陸軍将校との会話に疲れる。

 「駆逐艦を内地に置いてきて良かったのですか?」

 「どうせ、片道でも、ここまで来れんからな」

 「あとは突入させるだけですか?」

 「ええ」

 

 

 深夜4時の真珠湾

 アメリカ軍 レーダー監視所

 数人の将兵がレーダースコープを交替で見つめる。

 「ねむぅ〜」

 「油断してると、日本海軍が攻めてくるぞ」

 「来るかな」

 「選挙で選ばれた首相を殺して、軍国主義化する野蛮な民族だ。来ると思うよ」

 「そうかな? 日系人は大人しいし、几帳面だし、軍だけの暴走じゃないの?」

 「まぁ クーデターも、暗殺も、少数派が大義名分を作って、身勝手にやることだからね」

 「そりゃ 多数派なら選挙を待てばいいことだけど、多数派が正しいとは限らないよ」

 「日本の場合、少数派の軍部が権力を奪うため軍事力で脅したと思うよ」

 「日系人は大人しいのにな。やっぱ、日本軍は外道かな」

 「外国にいるから大人しいだけじゃないか。権威主義の強い国に多いタイプだ」

 「日本人は集団にならないと力を発揮できないか、憶病なのかな」

 「しかし・・・ねむぅ・・・ん? なんだ。この艦隊は?」

 「数は?」

 「・・・港湾に向かっているのは・・・2隻・・・4隻・・・10隻・・」

 「日本艦隊か?」

 「エンタープライズの艦隊じゃないか。帰還しているはず」

 「・・・10隻・・・反応が大きいような・・・」

 「日曜日の深夜だというのに・・・」

 「一応、キンメル司令に報告。航空基地にも連絡を入れろ。要塞砲は砲撃準備だ」

 基地全体に警報が鳴り響きがアメリカ軍守備隊とアメリカ太平洋艦隊が配置につき始める。

 オアフ島 要塞砲群

 45口径406mm砲×4門、35口径406mm迫砲×2門、

 50口径305mm砲×4門、45口径305mm迫砲×12門、

 203mm砲×16門、

 152mm砲×4門、

 76.2mm砲×4門、76.2mm高射砲×86門

 37mm砲×20門

 12.7mm機銃×113丁

 全ての砲口と銃口がオアフ全周を死角なく配置させられていた。

 命中すれば日本艦隊に致命傷を与えるのに十分な火力であり。

 機銃座は日本軍を足止めさせるのに十分な弾薬だった。

 もっとも、天蓋もなく、砲塔に覆われておらず、

 機銃掃射だけでも、戦闘不能に陥るという、弱点があり、

 中口径砲の砲撃でさえ、使用不能となりかねなかった。

 そして、アメリカ陸軍二個師団が眠気を払いながら配置につこうとしていた。

 真珠湾 アメリカ太平洋艦隊

 戦艦 カリフォルニア、メリーランド、テネシー、アリゾナ、

 戦艦 オクラホマ、ウエストバージニア、ペンシルベニア、ネバダ、

 重巡 ニューオーリンズ、サンフランシスコ

 軽巡 デトロイト、ホノルル、セントルイス、ヘレナ、ローリー、フェニックス

 駆逐艦 30隻

  1850トン級ポーター型

    セルフリッジ 、フェルプス、

  1500トン級バッグレイ型

    バッグレイ、ブルー、ヘルム、マグフォード、

    ラルフ・タルボット、ヘンリー、パターソン、ジャービス

  1450トン級マハン型

    カミングス、タッカー、ダウンズ、レイド、ケース、カッシン、ショー、カニンガム

  1365トン級ファラガット型

    ファラガット、デューイ、ハル、マクドノー、ウォーデン、

    デール、モナガン、エールウィン、

  1247トン級ウィックス型

    シュレイ、チュー、ワード、

  1071トン級サンプソン型駆逐艦

    アレン、

 潜水艦  ナーワル、ドルフィン、キャッシュロット、タウトグ

 機雷敷設艦 オグララ

 掃海艇

  ターキー、バボリンク、レイル、ターン、グレイブ、ビリオ、カッカトゥー、

  クロスビル、コンドル、リードバード

 敷設艦

  ガンブル、ラムゼイ、モントゴメリー、ブリース、

  トレーシー、プレブル、シカード、プルイット

 駆逐掃海艦 ザネ、ウォスムス、トレバー、ペリー

 砲艦 サクラメント

 駆逐艦母艦 ドビン、ホイットニー

 水上機母艦 カーチス、タンジール、

 小型母艦 アボセット、スワン

 駆逐水上機母艦 ハルバート、トレントン

 弾薬補給艦 パイロ

 油槽船 ラマポー、ネオショー

 工作艦メデューサ、ヴェスタル、リゲル

 潜水母艦 ペリアス

 潜水艦救助艦 ウィジェン

 病院船 サレス

 輸送艦 ヴェガ、

 補給艦 カスター、アンタレス

 タグボート オンタリオ、サナディン、ケオサンカ

 標的艦 ユタ

 補助艦艇 アルゴン、サムナー、チェンホー

 工廠船 YP108、YP109

 ほか小型船30隻。

 カタリナ哨戒機14機

 フォード基地 哨戒機33機

 ヒッカム基地 爆撃機72機

 ホイラー基地 戦闘機158機

 バーバス基地 戦闘機・偵察兼爆撃機43機

 カネオヘ基地 哨戒機36機

 ベロース基地 偵察機13機

 合計 355

 

 長門 艦橋

 “停船せよ。停戦せねば、砲撃する”

 無線からドイツ語、日本語、英語で同じ内容の電文が流れてくる。

 「ふっ ドイツ語か・・・」

 「提督・・・」

 「シナリオ通りだ。無視しろ!」

 元より帰還の意志のない連合艦隊は、オアフ島が砲撃を開始するまで接近する。

 

 真珠湾で警戒警報が鳴り響いていた。 

 知らせを受けたキンメル司令が慌てて海上を見つめたとき、

 日本戦艦部隊は、オアフ島南岸の真珠湾港口に迫ろうとしていた。

 「バカな! なぜ、これまで発見できなかった」

 「最大戦速で迫ったのでは?」

 「巡航速度以上の速度で走れば燃料はなくなる。哨戒で見つからないわけがないのだ」

 「ですが、現に・・・」

 「しかし・・・いったい何を・・・」

 「司令。このままでは要塞砲の俯角。死角に入ってしまいます」

 「やつら、要塞砲の砲撃を受けて、どうやって、日本に帰るつもりだ」

 「き、帰還するつもりがないのでは?」

 「威嚇で1発撃つ。1分後、本砲撃を開始する。ぅっ・・・撃てぇ!!!」

 先に威嚇砲撃したのは、高台に置かれた40cm砲台だった。

 初弾が威嚇砲撃だったことはアメリカ軍の甘さであり、懐の大きさでもあった。

 戦艦部隊の周りに水柱が立ち昇る。

 長門 艦橋

 「前方200m着弾!」

 「威嚇でしょうか?」

 「び、微妙な距離だな」

 日本艦隊に転進はなく。

 「「う、撃てぇ!!」」

 要塞砲台と日本艦隊の砲撃は、ほぼ同時に始まる。

 鋼が衝突した炸裂音が轟き、閃光が闇を照らした。

 「長官、陸奥が!」

 近距離から撃たれた砲弾は、ものの見事に陸奥を貫通する。

 日本艦隊の砲撃も要塞砲に降り注いで辺りを吹き飛ばした。

 「陸奥が・・・」

 バイタルパート貫かれた陸奥の弾薬庫が誘爆していく。

 暗闇に包まれた稜線に爆発が起こり。真珠湾にも火の手が上がっていく。

 長門、陸奥、伊勢、日向、扶桑、山城は、囮で要塞砲と撃ち合い。真珠湾を砲撃する。

 衝撃と轟音、爆炎が長門を包み込む。

 伊勢、山城も炎上していた。

 「乗り上げるぞ。総員、何かに掴まれ!!」

 戦艦部隊は援護射撃を行いつつ、そのまま海岸線に乗り上げていく。

 「火器関係者以外は陸装備を持って退艦せよ!!」

 職場を失う絶望と命を失う恐怖で胃がねじれる。

 砲塔関係者以外の艦隊乗員と乗員していた陸兵が武器弾薬を持って艦から降りて行く。

 真珠湾に至る港口水道は、狭い場所では350mほどで5kmほど走り真珠湾に至る。

 狭い港湾内の撃ち合いは、至近距離での撃ち合いとなる。

 湾内に閉じ込められたアメリカ戦艦は展開ができず不利なT字戦になっていた。

 金剛、榛名、比叡、霧島が港口から真珠湾内に侵入したとき。

 数十隻の軍艦の煙突から煤煙が昇っていた。

 アメリカ戦艦部隊はフォード島側に2列に並んで艦首を見せていた。

 フォード島の内側の戦艦メリーランド、テネシー、アリゾナが砲撃しようと砲塔を向け。

 外側の戦艦カリフォルニア、オクラホマ、ウエストバージニア、ネヴァダは動き出していた。

 金剛 艦橋

 「フォード島の向こう側に集まっているな」

 「主砲は全て戦艦に向けろ! 副砲は巡洋艦以下を狙え」

 「討ち入りだ。撃て! 撃てぇ!!!」

 衝撃で艦体が振動すると、

 すぐ戦艦カリフォルニアの艦橋に356mm砲弾8発が直撃する。

 至近距離で命中した砲弾は、艦橋を貫通して甲板上の構造物を吹き飛ばした。

 日米の戦艦が数百メートルの距離で主砲を撃ち合う。

 衝撃音と大音響が湾内からオアフ島全域に広がり、

 黒煙と紅蓮の炎が真珠湾を包み込んでいく。

 ドックの戦艦ペンシルバニアでさえ、

 日本艦隊の来襲を知ると乗員が主砲を動かそうとする。

 「「「「「「「「ジャップを砲撃せよ!!」」」」」」」」

 アメリカ戦艦部隊の乗員は、一部、上陸して不足していた。

 それでも敵襲を知らせるサイレンで飛び起き、自らに課せられた職務に付いた。

 突入してくる日本戦艦に向けて砲撃を開始する。

 戦艦同士が至近距離で撃ち合うと水平発射となってしまう。

 破壊されるのは上甲板施設で砲塔、艦橋、煙突だった。

 そして、真珠湾の戦艦群は艦橋施設と砲塔を破壊されていく。

 日米の戦艦は互いに一撃で致命的なほど指揮系統を失い損傷していく。

 金剛、春名、霧島、比叡は高速を生かして港湾水道に入り込み。

 水道を塞ぐような形で岸に乗り上げ、砲撃を続ける。

 金剛型4隻の356mm連装砲4基32門がアメリカ艦隊に向けられ砲撃。

 1500m〜4000mの至近距離から一発で甲板上の構造物が破壊されてしまう。

 長門、陸奥、伊勢、日向はオアフ南海岸に乗り上げて艦砲射撃を繰り返した。

 金剛の356mm砲弾8発がカリフォルニアの艦首砲塔2基を撃ち抜き。

 さらに艦橋の付け根から、艦尾の煙突まで破壊してしまう。

 

 長門 艦橋

 「この距離になると、口径は、ほとんど関係ないな」

 「伊勢、日向、扶桑、山城は、砲数が多く、有利ですかね」

 「そうだな。副砲は各自で判断して、敵駆逐艦を沈めよ」

 「はっ!」

 日本艦隊は港口の水道を押さえ。

 要塞砲が扶桑、山城を砲撃し艦橋が吹き飛ぶ。

 しかし、高台に置かれた要塞砲は俯角がとれないため湾内まで届かず。

 要塞砲台の砲撃は、港外の長門、伊勢、日向の艦橋を破壊していた。

 長門 艦内

 「大丈夫だろうな」

 「ああ、コンクリートで塞いでるから計算上は大丈夫なはず」

 ごっくん!

 「爆破!」

 日本戦艦部隊はオアフ島の要塞砲に狙われており。

 すぐ上陸部隊を降ろす必要があった。

 長門の艦首と艦尾で爆発が起こると穴が開く。

 装甲帯から外れた場所であれば250kg爆弾でも穴が開いて出入りできた。

 「急げ! 総員退艦」

 座礁した戦艦から日本兵が飛び降りて、陸地へと向かっていく。

 混乱するアメリカ軍から銃撃されるが、戦艦の支援砲撃によって相殺される。

 

 

 オアフ島の南側。

 港湾の内と外で暴れまわる日本戦艦10隻と別の艦隊があった。

 陽動であり、アメリカ軍守備隊に包囲されていると思いこませるための作戦だった。

 青葉、衣笠、加古、古鷹、

 天龍、龍田、

 球磨、多摩、北上、木曾、長良、五十鈴、名取、鬼怒、由良、阿武隈。

 那珂、川内、神通、夕張

 神州丸、7100t、20.4kt、将兵2000

 八幡丸、17128t、22kt、将兵6000

 新田丸、17150t、22kt、将兵6000

 あるぜんちな丸、12755t、21.4kt、将兵4000

 ぶらじる丸、12752t、21.4kt、将兵4000

 帝洋丸、9850t、17.5kt、将兵2200

 能代丸、7184t、18.5kt、将兵2000

 27隻は、オアフ島の北西東から突入し各坐上陸を果たしていた。

 特に神州丸は強襲揚陸用艦艇であり、

 上陸用舟艇を利用していち早く海岸線に展開。

 橋頭堡を形成していく。

 そして、海軍陸戦隊と陸軍部隊5万が艦隊から飛び降りていく。

 「よ〜し、俺に続け!!!」 辻中佐

 「「「「おー!!!」」」」

 

 

 重巡ニューオーリンズが140mm砲弾と152mm砲弾の直撃を受けて誘爆していた。

 港湾施設への入口でアメリカ陸軍士官と海軍士官が睨み合う

 「おい! 艦に戻る。ここを通せ」

 「駄目だ。緊急事態に付き、所属を検める」

 「バカか、敵が来ているのに道を封鎖してどうする」

 「この道は、重油タンクに通じる。お前がスパイかもしれんだろう」

 ガチャ! ガチャ! ガチャ! ガチャ!

 「ぅ・・」

 「官と姓名を名乗れ!」

 「イヴリン・ジョンソン 少尉」

 「んん・・・しらんなぁ」

 「あほか!」

 「じゃ メジャーリーグの優勝チームは?」

 「知るか!」

 陸軍士官が真っ青になって拳銃を向ける。

 ガチャ! ガチャ! ガチャ! ガチャ!

 「おい! 俺は、白人だろう」

 「メジャーリーグの優勝チームを知らん時点で、お前は、アメリカ人ではない」

 「バカか、知らん奴だっているだろうが」

 「知らん時点で、ドイツのスパイに決まっている」

 「このボケが! 他の質問をしろよ」

 「じゃ ・・・・・・・俺のおばさんの名前を言ってみろ」

 「わかるか!!!」

 ガチャ! ガチャ! ガチャ! ガチャ!

 「こ、この緊急時にバカやってないで! 艦に戻させろ!」

 「ソ、ソ連のスパイかもしれん」

 「ふ、ふざけん・・・」

 流れ弾が重油タンクに命中。

 「あっ!」

 「あ〜ぁあ・・・」

 流れ出す重油は燃えながら真珠湾内に広がり赤黒く闇夜を焦がした。

 闇の中、連続した機銃弾が辺りを掃射し、兵士が倒れていく。

 「どうした!?」

 「敵襲だ! 撃ち返せ」

 「おい! 艦に戻させろ」

 「あ、そうだ。ドッグタグ(認識票)を見せろ」

 どっちも、簡単な個人認識を度忘れしていた。

 「「・・・・」」

 辺りに擲弾筒が撃ち込まれ、機銃掃射が始まる。

 港湾が火焔に囲まれ駆逐艦の魚雷が誘爆した。

 さらに弾薬補給艦パイロ。油槽船ラマポー、ネオショーが爆発し、

 火焔を辺りに散らし、真珠湾の惨状に花を添えていく。

 

 

 オアフ島の住人が逃げ出していく。

 日本軍部隊

 日本陸軍兵士が街灯の近くにいるアメリカ軍将兵に向け、92式機関砲を撃っていた。

 爆炎が頬を赤黒く照らしていた。

 「軍曹。ハワイの家って明るいですね。日本の家と明かりの強さが違う」

 「灯火管制しないのかな」

 「それ以前に敵将兵が明かりのそばにいるのが変です」

 「明るくしないと給弾できないのかな」

 「こんな真夜中に明かりを点けていられるんだ」

 「・・・海軍さんは遅いですね」

 「陸に上がって、びっくりしているじゃないか」

 「艦隊乗員とか、まともに銃を撃てるんですかね」

 「さぁな。あまり頼りにしない方がいいな」

 後方から味方が寄ってくる。

 「おい! 援護してくれ、前進する」

 「お、海軍陸戦隊」

 「わかった」

 連続した3点射でアメリカ軍を引っ込ませる。

 その間に海軍陸戦隊が建物を盾にしながら近付いていく。

 「少尉。海軍さんの持ってるのはなんです?」

 「ああ、海軍陸戦隊の短機関銃だな」

 「陸軍の百式短機関銃よりカッコ良くないですか?」

 「ありゃ ドイツ製だ。ベルグマンとか言ったっけ」

 「いいな・・・」

 海軍陸戦隊は、ベルグマンMP18短機関銃を運用して市街戦を優位に戦っていく。

 そして、アメリカ軍を牽制、後退させると合図を送る。

 「よし、行くぞ」

 3人がかりで重機関銃を持ち上げ前進していく。

 夜暗い日本と夜でも比較的明るいオアフ島は国力の差。

 代償で日本軍将兵は夜目が利きやすく有利な展開となった。

 ハワイのアメリカ軍は約3個師団相当で練度不足。

 さらに休みの夜明け前を襲われ混乱していた。

 対する日本軍将兵は練度が高く将兵60000弱。

 地の利こそないものの、いくつかの要素で日本が有利に進んでいく。

 

 

 

 

 ハワイの人口は42万。

 そのうち日本人一世3万弱と日系人二世以降の12万強を合わせて16万。

 ハワイの住人の40パーセントを日本人と日系人が占めていた。

 日本戦艦部隊の真珠湾突入で、港口が閉塞されていた。

 日本軍将兵6万は日本中から掻き集めた擲弾筒、重機関砲、軽機関砲を保有していた。

 そして、オアフ島は、日本軍によって制圧されつつあった。

 アメリカ軍陣地

 「撃てぇ」

 「少尉、あれは、日系人です」

 「かまわん! 撃ちまくれ!」

 真珠湾の悲劇は日系人への銃撃。

 そして、日系人16万の反乱だった。

 深夜から翌朝にかけての戦闘で真珠湾のフォード島飛行場が制圧されていた。

 さらに海岸に近いヒッカム航空基地、

 バーバス航空基地、カネオヘ航空機基地、ベロース航空基地が制圧されていく。

 オアフ島中央のホイラー基地も、

 生き残った日本艦隊の砲撃で滑走路が破壊されていた。

 それでも数機のP40ウォーホークが飛び立ち日本軍を機銃掃射していく。

 

 

 「や、やめろ、ま、待て、待ってくれ・・・」

 バ〜ン〜!

 日本海軍兵士が南部拳銃で地面に伏せている海軍士官を撃ち殺していた。

 バ〜ン〜! バ〜ン〜! バ〜ン〜!

 爆発する明かりが兵士の笑みを照らす。

 軍艦内いじめは、珍しくなかった。

 軍艦という閉じ込められた世界から出た開放感。

 それまで虐められていた兵士はドサクサに紛れ、

 憎んでいた上官への恨みを晴らしていく。

 「・・・おまえ」

 「ん? 見たのか」

 上官を撃ち殺していた兵士が拳銃を戦友に向ける。

 「ま、まて、上官は、名誉の戦死だ」

 「名誉の戦死ねぇ」

 「そ、それで良いじゃないか」

 「自殺や味方兵士に撃たれたら、家族への恩給にも支障が出るし・・・」

 上官の頭が蹴り飛ばされ、次に踏み潰される。

 「俺の妹を慰みモノにしやがって」

 「お、俺だって・・・この上官には・・・」

 「・・・まぁ 良いか・・・上官の家族に恨みがあるわけでもなし」

 平時に出来ない事でも戦時だと敵兵のせいに出来た。

 無論、憲兵がいたがどうでも良いという気分になっている。

 「こいつに復讐するため、早くアメリカと戦争したかったんだ」

 「な、なるほど・・・」

 敵に罪を擦り付けることができた。

 陸軍将兵は免疫があって、出撃前に上下関係を修復していた。

 しかし、海軍は、この種の事例が少ないため免疫が少なく、

 ドサクサに紛れた上官殺し、戦友殺しが行われやすかった。

 陸軍将兵は、戦艦から降ろされた弾薬を運びつつ、

 海軍の不祥事を見ても、ため息だけ。

 察しが付いているのか、同情してるのか、関与せずだった。

 

 

 

 ワシントン 白い家

 「なんだとぉ!!!」

 「日本軍がオアフ島に上陸した?」

 「はい。日本海軍は戦艦10隻を真珠湾に突入させたようです」

 「太平洋艦隊は真珠湾に閉じ込められて壊滅です」

 「ば、馬鹿な」

 「上陸した日本軍は6万を超え、ホノルルは制圧されつつありと」

 「そ、そんな・・・さ、先に撃ったのは、どっちだ?」

 「ほぼ同じかと」

 「・・・さ、先に撃ったのは、日本の戦艦だ」

 「・・・はっ」 敬礼

 「し、しかし、そんな・・戦艦10隻を捨ててきたのか」

 「山本長官の性格なら空母数隻による姑息な奇襲かと予想していました」

 「意外な反応です」

 「んん・・・すぐに大西洋艦隊を太平洋に、ハワイを奪い返して、日本本土を攻撃する」

 

 

 

 アメリカ太平洋艦隊で生き残った艦艇は2個機動部隊だけだった。

 空母エンタープライズ、

  重巡シカゴ、ポートランド、インディアナポリス。

  駆逐艦ポーター、

  駆逐艦マハン、カミングス、ドレートン、ラムソン、

       フラッサー、レイド、ケース、カニンガム。

 

 空母レキシントン

  ソルト・レイク・シティ、ノーザンプトン、

   チェスター、アストリア、ミネアポリス、巡洋艦5隻、

  駆逐艦クラーク、

  駆逐艦カッシング、パーキンス、スミス、プレストン5隻

 

 潜水艦 ガジョン、スレッシャー

 エンタープライズとレキシントンの機動部隊は、日本艦隊の真珠湾攻撃を知ると、

 オアフ島沖に到達。

 艦載機を繰り出して、日本軍を攻撃する。

 エンタープライズ 艦橋

 「キルジャップ! キルジャップ! キルジャップ!」

 「提督。もう、帰還しないと、燃料と武器弾薬が・・・・」

 「キルジャップ! キルジャップ! キルジャップ!」

 「提督・・・」

 エンタープライズ、レキシントンの艦載機は少なく、

 上陸部隊を攻撃しても戦果は上がらない。

 「・・・帰還する」

 真珠湾は閉塞されており、日本の戦艦10は大破座礁していた。

 アメリカ戦艦8隻は、浮いているだけ。

 

 石油タンクが燃え上がり、

 真珠湾にも重油が流れ込んで湾内全体を焦がしていた。

 戦艦 金剛、春名、比叡、霧島

 戦艦 カリフォルニア、メリーランド、テネシー、アリゾナ、

 戦艦 オクラホマ、ウエストバージニア、ペンシルベニア、ネバダ、

 重巡 ニューオーリンズ、サンフランシスコ

 軽巡 デトロイト、ホノルル、セントルイス、ヘレナ、ローリー、フェニックス

 戦艦と巡洋艦は相殺戦で誘爆を繰り返す。

 上甲板の艦橋、煙突、設備が根こそぎ破壊されていた。

 金剛、春名、比叡、霧島は既に総員退艦していた。

 魚雷が艦腹を引き裂いて屑鉄に変えている。

 1850トン級ポーター型駆逐艦フェルプス

 艦橋

 「撃てぇ」

 距離が近いためか38口径127mm砲の命中率100パーセント。

 気持ちいいほど金剛に命中する。

 「湾全体が炎に包まれます」

 「信管を抜いて爆雷を最大深度で落とせ」

 「残りの魚雷も日本の戦艦に向けて発射しろ、熱で誘爆するぞ」

 爆雷が投下軌条から転がされ艦尾から落ちていく。

 そして、発射管から魚雷4本が発射され、榛名に向かっていく。

 「・・・艦長。このままでは、窒息か、焼け死ぬ事に」

 「や、やむえない。一旦、武器を携行し、総員退艦。陸戦で日本軍を排除する」

 駆逐艦 30隻

  1850トン級ポーター型

    セルフリッジ 、フェルプス、

  1500トン級バッグレイ型

    バッグレイ、ブルー、ヘルム、マグフォード、

    ラルフ・タルボット、ヘンリー、パターソン、ジャービス

  1450トン級マハン型

    カミングス、タッカー、ダウンズ、レイド、ケース、カッシン、ショー、カニンガム

  1365トン級ファラガット型

    ファラガット、デューイ、ハル、マクドノー、

     ウォーデン、デール、モナガン、エールウィン、

  1247トン級ウィックス型

    シュレイ、チュー、ワード、

  1071トン級サンプソン型駆逐艦

    アレン、

 潜水艦  ナーワル、ドルフィン、キャッシュロット、タウトグも湾内で大破状態。

 厳密に言うと戦艦も巡洋艦も撃沈というより着底。

 アメリカ戦艦部隊は撃沈に至らず、上甲板以上の構造物が破壊されていた。

 水平発射で主砲を撃っても同じ高さの砲塔から鐘楼、煙突を破壊するだけ。

 魚雷が命中していないアメリカ戦艦、巡洋艦の艦体は比較的無事だった。

 152mm砲弾、140mm砲弾を至近距離で撃たれた巡洋艦と駆逐艦は解体したくなるほど。

 港口は、扶桑と山城で閉塞されており。

 湾内は燃え上がる重油に包まれた艦艇が取り残されていた。

 真珠湾の外の海岸。

 浅瀬に乗り上げ、艦橋を失い大破している長門からカッターが降ろされる。

 「長官。大丈夫ですか?」

 「・・・ああ、胸と左手がやられた。全治3ヵ月と言われたよ」

 「少し休まれては?」

 「そうだな、オアフ島の制圧は?」

 「アメリカ軍が日系人を襲撃」

 「日系人がアメリカ軍に反撃をしたことから、順調に進んでいるそうです」

 「そうか、オアフ島を完全に制圧しろ。第1艦隊を失った代わりだからな」

 「はっ!」

 「使えそうな艦艇はあるか?」

 「軍民合わせて小型艦船30隻は、すぐ使えそうです」

 「ふ こんなことなら港口を閉塞して石油タンクだけ燃やせば良かったな」

 「アメリカ戦艦8隻を奪えたよ」

 「巡洋艦以上は、撃沈されているか、自沈しています」

 「浮揚作業を進めれば戦力化できると思われます」

 「駆逐艦以下を浮揚させる方が就役が早くて良いだろう」

 「戦艦は間に合いそうにないな」

 「資材は有用そうです」

 「湾内だと、どうせ邪魔になる」

 「重油が残っているなら資材を内地に送っても良いだろう」

 「日本から増援は?」

 「いまのところ、真珠湾の水道を出入りできそうなのは、伊号くらいです」

 「そうか、通商破壊くらいはできそうだな。使えそうな資材は分別しておくようにしてくれ」

 「日本へ送った方が良い資材を分別しておきましょう」

 「任せる・・・衣食住は?」

 「日系人16万と協力すれば、やって行けそうです」

 「そうか」

 

 

 第一機動部隊司令の南雲司令長官は、新しい編成表を見ながら、先行きの不安を隠せない。

 第二機動部隊司令の山口司令長官は、加賀を座乗艦にし、一安心しているのか、ご満悦。

 オアフ島の真珠湾のアメリカ太平洋艦隊は、日本の主力艦隊と共倒れしていた。

 惜しむらくは、アメリカ機動部隊(エンタープライズ、レキシントン)が不在だったこと。

 そして、真珠湾は使用不能。

 日本海軍 連合艦隊は、第一機動部隊と第二機動部隊に分かれ、

 東南アジアを制圧していく。

 第一機動部隊

  空母(赤城、瑞鶴、翔鶴) ゼロ戦54機、99艦爆72機、97艦攻81機

  重巡 利根、高雄、愛宕、摩耶、鳥海

  駆逐艦 荒潮、満潮、朝潮、大潮、黒潮、親潮、早潮、夏潮

 赤城 艦橋

 南雲長官は空母加賀を山口長官に取られ剥れていた。

 少しばかりの人事を強行したものの第二航空部隊は精強になっている。

 「護衛機は?」

 「現在9機です」

 「もう、3機上げておこう」

 空母の隻数が減少すると不安が増し、対空、対潜に気を使う。

 「南雲長官、利根2号機がプリンスオブウェールズ、レパルスを発見しました」

 「よし、攻撃部隊を出撃させろ」

 もっとも、瑞鶴、翔鶴は、最新鋭であり、搭載機数が多く、期待できそうでもあった。

 第一次攻撃部隊 ゼロ戦9機、99艦爆37機、97式艦攻40機

 第二次攻撃部隊 ゼロ戦9機、99艦爆37機、97式艦攻41機

 97式艦攻が飛行甲板を飛び出すと海面に向かって僅かに沈む。

 加速するにつれ揚力が増え、ゆっくりと高度を上げていくことができた。

 最大速度380kmの97式艦攻も800kgの雷装で速度が低下している。

 どうせ、雷撃時の速度は200km前後に制限されていた。

 旋回しながら編隊を組みつつ、目標とする海域に向かって飛んで行く。

 行きは教導機に従えば良く。帰りは僚機と帰還できるかわからず自力の航法が試される。

 水平線に艦影6つ見えた。2つは戦艦クラス。

 砲声が轟くと大気が震え大空に黒煙の玉がいくつも作られ、衝撃波で機体が振動する。

 教導機が小さくバンクし、降下していく。

 プリンスオブウェールズは28ノット。最大時速51.856km。

 速度差は、おおむね6対1。雷撃時で4対1。

 40mmポムポム8連装砲4基が最大射程約2740mほどで弾幕を撃ち上げていく。

 故障の多い機関砲と噂されていた。

 もっとも、神仏に祈りたくなるが敵の故障を当てにするわけにもいかない。

 イギリス艦隊は、99艦爆の急降下爆撃機を回避しようと回頭していた。

 教導機が理想的な角度を求めて機体を旋回させて回り込ませていく。

 「よし、頭を押さえるぞ」

 「はい」

 97式艦攻は、速度差5対1から4対1以上で戦艦の回頭後の予想位置に回り込んだ。

 魚雷投下時の制限速度は200km前後。その後の航空魚雷の射程2000m、雷速42ノット。

 目算で計測しながら近付く。

 投下高度、風速、海流など、演習でもいろいろな要素が絡んでくる。

 それでも幾何学的な条件が合えば魚雷は命中しやすかった。

 40mmポムポム砲弾は、97式艦攻との相対速度が加算され迫ってくる。

 恐ろしさは数倍。

 低空で侵入する機体に曳光弾が集まり、近くで炸裂した弾頭が機体を揺らす。

 プリンスオブウェールズとレパルスは、もう一度、回避しようと、面舵を切っている。

 雷撃機の速度に比べ、プリンスオブウェールズとレパルスの回頭は酷く緩慢に見えた。

 あとは経験、目測、相対距離、未来予測、角度・・・

 500m近い距離で角度が合えば避けようがなく。

 プリンスオブウェールズとレパルスの艦腹から水柱が吹き上がっていく。

 「・・・てぇ〜!!!」

 800kgの航空魚雷が投下されると、ふわりと機体が浮き上がり速度が増す。

 すぐさま最大速度の370kmで、速度差は7対1以上に加速し、

 プリンスオブウェールズを飛び越えていく。

 機体をわずかに旋回させて振り返る。

 プリンスオブウェールズの舷側から数本の水柱が吹き上がった。

 「当たった♪」

 雷爆同時攻撃を旨としながら戦果確認で多少のズレを望んでいたりする。

 もっともタイミングを合わせようとしても無理で同時攻撃の方が稀。

 99艦爆隊が矢継ぎ早やに爆弾を投下し、

 イギリス駆逐艦部隊を襲っていた。

 駆逐艦エレクトラ、エクスプレス、テネドス、ヴァンパイアの4隻が爆炎に包まれていた。

 損失 97艦攻1機。

 南雲第1機動部隊は、イギリス海軍の誇りを海底に叩き込み血祭りにあげてしまう。

 

 

 第二機動部隊

  空母(加賀、飛龍、蒼龍) ゼロ戦42機、99艦爆81機、97艦攻63機

  重巡 筑摩、那智、羽黒、足柄、妙高

  駆逐艦 初風、雪風、時津風、天津風、霞、霰、陽炎、不知火

 加賀 艦橋

 「南雲艦隊は補給で引きました」

 「戦艦2隻、駆逐艦4隻を撃沈して安心したな」

 「フィリピン攻撃で休息したかったのでは?」

 「ですが、先を越されましたね」

 「油を先に給油されたからな」

 「油は戦艦部隊が優先でしたからね」

 「しかし、台湾空と南雲艦隊の活躍でフィリピンのアメリカ航空部隊も粗方片付いた」

 「オランダ、イギリスの対艦攻撃は低いので、防空は安心と思われます」

 「だが爆弾1発で飛行甲板が使用不能になる。用心を怠るな」

 「はっ」

 「しかし、敵の練度の低さと味方の練度の高さを頼りに作戦を練らないといけないとはな・・・」

 「国力で余裕がなさ過ぎますからね」

 「バタビア海当たりまで足を延ばしてみるか。こっちは時間帯を選べる」

 「基地攻撃部隊の攻撃を受ける恐れがあります」

 「事前に1式陸攻に索敵してもらっている。フィリピン沖より防空は楽なはずだ」

 「・・・山口提督。発見しました。巡洋艦4隻、駆逐艦7隻」

 「出撃!」

  第一次攻撃部隊 ゼロ戦9機、99艦爆41機、97艦攻32機

  第二次攻撃部隊 ゼロ戦9機、99艦爆40機、97艦攻31機

 

 マカッサル沖

 重巡ヒューストン(米)、

 軽巡マーブルヘッド(米)

 軽巡デ・ロイテル、トロンプ(蘭)、

 駆逐艦バンケルト、ピート・ハイン、ファン・ゲント(蘭)、

 駆逐艦バーカー、ブルマー、ジョン・D・エドワーズ、ステュワート(米)

 近代戦は精神力や露骨な殺意より、冷徹な数値に重きを置かれる。

 航空戦、艦隊戦は敵将兵の死体を見ることもなく終わる、

 そのため地上戦より殺意的な情念が薄まる。

 殺し合いよりゲームをしているような錯覚に囚われる。

 しかし、爆弾が命中すれば人が死ぬのであり。

 撃墜されれば人は死ぬのである。

 当然、敵の死が想像の範疇の向こう側でも、殺意に似た気概が求められた。

 99艦爆が天上の高みから見下ろすと、海上を走る11本の軌跡が突如乱れる。

 艦隊から殺意の籠った砲弾が撃ち上げられ、

 爆発の衝撃が機体を揺らし、炸裂弾が機体を叩いた。

 曳光弾の射線が機体を追い掛けるように撃ち上げられていく。

 天空と蒼海の狭間、目に見えない殺意が錯綜し火花を散らしていた。

 意思の力が相手の意思を挫き、精神を削り擦り減らしていく。

 「よし、行くぞ〜!!」

 「おお」

 とりあえず自分自身に気合を入れる。

 教導機に続いて、エアブレーキを効かしながらダイブ。

 駆逐艦の周りにいくつもの水柱が立ち昇る。

 250kg爆弾1発で撃沈できる可能性が高いのは駆逐艦以下の艦艇だった。

 撃沈手柄目当てで駆逐艦を狙う艦爆隊も少なくない。

 250kg爆弾が駆逐艦の上部甲板を撃ち抜く。

 隔壁鋼材が悲鳴を上げて折れ、乗員ごと隔壁を吹き飛ばし、引き千切っていく。

 爆炎が艦外に吹き上がる。 

 装甲のない駆逐艦は当たりどころが悪いと爆弾でも沈む。

 もっとも、爆撃は駆逐艦の操艦を妨害する意味合いが強い。

 本命は、97式艦攻の据物斬り。

 魚雷が命中すると装甲を破壊し、隔壁を打ち破って艦内に海水を流し込む。

 艦体が捩じられ、へし折れる悲鳴が断末魔のように響き渡り。

 魚雷の誘爆が掻き消すように爆発音を轟かせた。

 衝撃で艦橋の床に倒れた将校たちは、自らの運命を悟っていた。

 「艦長」

 「・・・総員退艦」

 惨状を確認するまでもない、

 浮力を失った駆逐艦は、速度を落としつつ傾いていく。

 甲板に飛び出した乗員がバラバラと退艦していく。

 

 

 空母加賀 艦橋

 「哨戒機の準備ができました」

 「発艦させろ」

 「潜水艦は、怖いですからね」

 「・・・2番機から連絡。本艦に広角で雷跡3本。7時方向です」

 「・・・浅いな。取り舵35。最大戦速!!」

 加賀の両舷を3本の雷跡が抜けていく。

 「全艦に通達、対潜水艦警戒を大にせよ」

 「さらに7時から雷跡1本」

 「ちっ! 読んでたな。面舵一杯!!」

 哨戒機が海面に爆弾を投下して水柱を上げていく。

 ジリジリと心臓を握り潰されるような感覚が雷跡と一緒に左舷を抜けていく。

 ホッとするような空気が艦橋に流れる。

 「第3次攻撃部隊で全滅できるな」

 「ええ」

 「山口提督。バリクパパン沖で駆逐艦4隻発見したそうです」

 「放っておくか」

 「上陸作戦部隊を狙っているのでは?」

 「・・・それは、まずいか。いま出せる機体は?」

 「すぐは・・・ゼロ戦6機・・・艦爆20機です」

 「中破させられるだろう」

 「マカッサル沖の艦隊はどうされます?」

 「巡洋艦隊に砲撃させればいい。もう、まともに動ける艦艇はない」

 軽巡デ・ロイテル、トロンプ(蘭)は炎上して傾いており、

 駆逐艦バンケルト、ブルマー、ジョン・D・エドワーズ、ステュワート(米)は誘爆を起こしていた。

 重巡 筑摩、那智、羽黒、足柄、妙高が砲撃を開始。

 駆逐艦 初風、雪風、時津風、天津風、霞、霰、陽炎、不知火は、雷撃のため回頭する。

 中大破した艦艇に空母機を発艦させるのは、無駄に思えたりする。

 

 

 

 バリクパパン沖

 駆逐艦ジョン・D・フォード、パロット、ポール・ジョーンズ、ポープ(米)

 4つ波紋が海面に広がり、そこから4本の黒煙が空に向かって立ち昇っていく。

 身軽になった99艦爆部隊が帰還し、日本の輸送船団が上陸作戦を継続していく。

 

 

 傾いた軽巡デ・ロイテルは白旗を揚げ、妙高が曳航していく。

 デ・ロイテルの甲板に日本軍将兵が38式小銃を構えて立ち、

 救助したアメリカ人とオランダ人を監視する。

 妙高 艦橋

 「役に立ちますかね」

 「役に立つかも知れない、だろうね」

 「ボフォース社製36年型60口径40mm機関砲は、役に立つかもしれないそうだ」

 「そういえば、ボフォースが話題になってましたね」

 「噂が本当か確認できるかもしれないな」

 

 

 加賀 艦橋

 「西側に巡洋艦1隻、駆逐艦1隻」

 「2隻か・・・いま、出せる機体は?」

 「・・・99艦爆だけです。加賀6機、飛龍7機、蒼龍5機です」

 艦爆艦攻合わせて18機が飛び立っていく。

 「念のため、那智、羽黒、初風、雪風を向かわせろ」

 「また、捕獲狙いで行けそうですか?」

 偶発的な流れで軽巡デ・ロイテルと駆逐艦ステュワート(米)を捕獲できただけだった。

 「そうだな。南雲長官にプリンスオブウェールズとレパルスを撃沈された」

 「捕獲艦でもないと格好つかないか」

 「ジャワ島沖に巡洋艦2隻、駆逐艦6隻を発見」

 「準備は?」

 「1時間ほどかかります」

 「4時半か。帰りは薄暮になりそうだな」

 

 

 バタビア海

 軽巡ジャワ(蘭)は250kg爆弾4発が命中。

 軽巡ジャワは、那智と羽黒の砲撃を受けつつ、

 ジャワ島の海岸に座礁させて沈没を避ける。

 駆逐艦ピルズベリ(米)は沈没。

 

 

 ジャワ海

 重巡エグゼター(英)

 軽巡パース(濠)、

 駆逐艦オールデン(米)

 駆逐艦ジュピター、エンカウンター、(英)

 駆逐艦エヴェルトセン、コルテノール、ヴィッテ・デ・ヴィット(蘭)

 煙幕が軍艦を包み込み、風に流され薄れていく。

 99艦爆が投弾し、97式艦攻が魚雷を投下していく。

 巡洋艦2隻と駆逐艦6隻は数十条の射線を撃ち上げ必死に逃げ回る。

 重巡エグゼターの艦橋は、まな板に載せられ、

 白刃のを当てられたような感覚に襲われる。

 ドイツ装甲艦グラーフ・シュペーを自沈に追い込んだ戦績も彼方に押し流されていく。

 空に黒煙の玉が点々と広がり、艦爆と雷撃機が迫る。

 重巡エグゼター 艦橋

 「・・・これほど航空機が恐ろしい存在だとはな」

 「シュペーの283mm砲弾7発を受けても沈まなかった幸運が残っていれば・・・」

 「幸運? あれは将兵のダメージコントロール。実力だよ」

 「・・・ポムポム砲が頼りないですな」

 上空の99艦爆のダイブが始まり。左舷から97式艦攻が迫る。

 「そうだな・・・取り舵30! 速度27ノット」

 余剰分の馬力を残して、投下直後に最大戦速で回避する。

 それも一度だけ。

 五月雨に降下してくる爆撃隊。

 逃げ道を塞ぐように回り込んでくる雷撃部隊。

 あとは、弾幕に期待するだけだった。

 「・・・・」

 ジャワ海に砲声が轟き、海面のいたるところに水柱と爆炎が立ち昇る。

 山口提督の第二機動部隊がジャワ海からティモール島に掛けて荒らしまわる。

 第一機動部隊と第二機動部隊は、上陸作戦部隊を支援しつつ、

 米英豪蘭4ヵ国連合艦隊を攻撃。

 4ヵ国連合艦隊は、統一行動を執れず、次々と撃沈され、止めを刺されていく。

 

 

 第一、第二機動部隊の活躍で、東南アジアの米英蘭豪の主力戦力が壊滅。

 日本の上陸作戦艦隊と陸軍部隊は、じわじわと占領地を拡大していく。

 空母 (龍驤、鳳翔、瑞鳳)、春日丸

 重巡 最上、三隈、鈴谷、熊野

 北上、大井

 雷、電、響、暁、谷風、浦風、浜風、初春、子の日、初霜、若葉、有明、夕暮、時雨、白露

 吹雪、初雪、白雪、白雲、叢雲、薄雲、磯波、浦波、敷波、綾波、天霧、朝霧、夕霧、白雲

 村雨、五月雨、春雨、夕立、野分、萩風、舞風

 朝雲、峰雲、夏雲、山雲、海風、山風、江風、涼風

 春風、旗風、朝風、文月、皐月、長月、水無月

 追風、疾風、朝凪、夕凪、睦月、弥生、望月、卯月、三日月、夕月

 曙、潮、漣、菊月、夕月、卯月、汐風、帆風、朧、秋雲

 瑞穂、千歳

 輸送船50隻

 

 

 

 日本軍は日系人の協力を取り付け。オアフを占領しつつあった。

 そして、アメリカとの取り決めによって、

 ハワイの白人系住民の西海岸輸送は可能になっていく。

 ドサクサに紛れて、航空部隊の前進も可能と思われていた。

 とはいえ、真珠湾は破壊されて使えず。

 重油タンク450万バレルの延焼は故意ではなく、流れ弾によって引き起こされてしまう。

 アメリカ軍はオアフ住人の命を惜しんだのか、

 命令されるより先に燃え始めたので徹底されて燃やされず。

 200万バレルが残存し、日本軍の手に落ちてしまう。

 日本の備蓄重油の総量が4270万バレルだったので、20分の1が真珠湾にあった。

 

 

 通商破壊部隊

 報国丸、愛国丸、清澄丸

 長鯨          伊号123、124 、121、122

 迅鯨          呂号60、61、62、65、66、67、63、64、68、33、34

 靖国丸         伊号09、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26

 さんとす丸       伊号07、10、01、02、03、04、05、06

 大鯨          伊号08、74、75、68、69、70、71、72、73

 名古屋丸       伊号53、54、55、56、57、58、

 りおでじゃねいろ丸 伊号59、60、62、64、65、66

 

 伊09号 艦橋

 伊号潜水艦が扶桑と山城の間をすり抜けていく。

 「こりゃ酷い」

 「扶桑も山城も、滅茶苦茶じゃないか」

 伊号がようやく通行できる港口水道を進み、破壊された真珠湾に停泊する。

 「本当に・・・アメリカ太平洋艦隊と刺し違えたんだな」

 「当分は、ここで補給を受けながら、アメリカ西海岸とパナマ海域まで遠征になる」

 「まるで廃墟ですよ」

 「だな・・・」

 

 

 巨大な戦艦が呉の港に浮かんでいた。

 戦艦 大和 艦橋

 「ようやく完成したと思えば・・・」

 「日本戦艦部隊は真珠湾のアメリカ太平洋艦隊と刺し違えた後か」

 「アメリカ海軍将兵は、戦死か捕虜」

 「我が方は戦艦、軽巡部隊の乗員の半分以上が生き残ったそうです」

 「敵の練度低下か。それも救いかな」

 「損得で言うと、得なんでしょうか?」

 「第一戦艦部隊の壊滅で威勢の良い報告しか聞く耳持たない風潮が壊れたことかな」

 「それが得ですか?」

 「最初に酷い報告があるとな。それで負け戦の免疫ができる」

 「最初に戦果が大きいと負け戦の報告を受け入れられなくなり。対処能力さえなくなるのさ」

 「確かに正確な情報は必要ですが、そこまで出鱈目な報告をするでしょうか」

 「するさ。威勢の良い攻勢で戦果が上がれば自分の功績」

 「敗北すれば現地の軍の無策無能にできる」

 「み、身に抓まされますね」

 「生き残った艦隊乗員がいるのが嬉しいね」

 「新造艦を建造しても乗員がいると練度を保てるのでは?」

 「生き残りは、捕獲艦艇で内地に引き揚げてくるそうだ」

 「捕獲艦は、当てにしていなかっただけに儲けモノです」

 「そのまま、ハワイ防衛戦隊にしても良かったのでは?」

 「輸送任務で練度を上げさせるらしいな。そうしないと戦えないだろう」

 「確かに・・・」

 「問題は、アメリカ機動部隊の反撃だな」

 「ですが空母艦載機でプリンスオブウェールズとレパルスを撃沈したのですから」

 「アメリカ機動部隊の方が脅威かと」

 「それにアメリカ大西洋艦隊がサンチアゴに入港します」

 「いま総反撃を受けると、オアフ島は、持たないかもしれませんね」

 「だな」

 

 

 大蔵省

 将校たちが肩をいからせながら出ていく。

 「・・・やれやれ、予算が足りんないんだと」

 「酷いよね。俺たちがどこかに金を隠しているみたいに言いやがって」

 「開戦前でさえ足りなかったんだから開戦後はもっと足りなくなる。分かり切ったことだ」

 「軍事費を増やすために戦争始めたんじゃないか、出世できないと浮かばれないからね」

 「だけどねぇ 兵站を考えて戦争するのが将校だろう」

 「輸送も出来ないようなところに攻め入って、どうするんだよ」

 「捨て台詞が “国力が低過ぎる” だと」

 「小遣い足りないで逆ギレじゃ 餓鬼だよ。餓鬼。正気な将校なら軍法会議で死刑だよ」

 「もう、どうにもならんわ」

 「予算内でやり繰りしないと駄目なんだから」

 「せめて無駄なものを切り捨てて、取捨選択して欲しいよね」

 「ったく。あれも大事、これも大事じゃ、駄々っ子だ」

 「精神的にどうかと思うよ」

 「鉄砲玉じゃなくて、大本営で討ち入りしたのだけは、褒めて良いけど」

 「でも、本当にオアフ島占領じゃ 付け上がるよね」

 「うん・・・」

 「本当は、軍事費に回すお金で公共投資していたら、もっとマシになってただろうに」

 「大恐慌が悪かったよ。金本位制が困難になったからね」

 「だけど、外国に売れる資源も工業製品もないのに金本位制をやめたら」

 「欧米の工業製品も食糧も買えなくなるわな」

 「政府の大失敗は、軍国主義者に脅されて、軍事費を減らさなかったことかな」

 「国がヤクザに頼ったり脅されたりする様になったら、お終いだよ」

 

 

 ジャワ島

 座礁した軽巡ジャワの穴が塞がれ浮上させられていく。

 日本人たちがジャワの甲板を歩いて破損状況を調べる。

 「ジャワ島に乗り上げた巡洋艦ジャワか・・・」

 「軽巡デ・ロイテルも再就役できそうだ。沈めるより捕獲する方が良いよな」

 「航空機で無力化、航行能力さえ、失わせられなければ、そんな機会もないよ」

 「軍艦同士で撃ち合えば、命懸けで、それどころじゃないか」

 「しかし、占領で忙しいのに人手を取って大丈夫か?」

 「まぁ 戦艦10隻を討死させたんだ。整備関連で余裕ができる。何とか都合付けるだろう」

 「駆逐艦も何隻か捕獲できたから、ちょっとした戦隊を組めるかもしれないな」

 「真珠湾で捕獲した戦利品は?」

 「自沈した船も多い」

 「ドックがあるから小型艦船くらいは再就役できるらしいけど、大きいのは駄目だそうだ」

 

 

 

 サンチアゴ

 戦艦ワシントン 艦橋

 「大西洋から戦艦を引き抜くと言ったらチャーチルが怒ったらしいよ」

 「しょうがないだろう。ハワイを占領されて、何もしないわけにはいかない」

 「それより、騙し撃ちとはいえ、戦艦ごと突っ込んでこられたら、卑怯とは言えないよな」

 「しかし、よく主力艦を捨てられたな」

 「それより、艦隊の集結は?」

 「ボチボチだな」

 「反攻作戦は、大西洋艦隊の増援が来てからの方がいいだろう」

 「しかし、それだと日本が優位になるのでは?」

 「日本に戦艦はないよ。新型戦艦が二隻建造されているが、それだけだ」

 「空母は?」

 「空母は脅威だよ」

 「だが日本は東南アジア制圧にかかりっきり。ハワイ増援は、困難だろう」

 「しかし、戦艦部隊を捨てるとはね」

 「職場を捨てて、出世も捨てられるとは日本海軍恐るべしだな」

 「まったくだ」

 「貧乏国でも官僚ポストだけは後生大事に持って逃げ回るかと思っていたがね」

 「気違いに正論は通用しないよ」

 「取り敢えず。反攻作戦は、戦艦と空母が揃うまでだな」

 「回航中の艦艇は?」

 「戦艦はニューヨーク、テキサス。ニュー・メキシコ、ミシシッピ、アイダホ。コロラドの6隻」

 「空母はヨークタウン、ワスプの2隻」

 「あと陸軍部隊だな。訓練が必要だし、戦争できるまで8ヵ月から10ヵ月先だそうだ」

 「それまで、東南アジアは持たないだろう」

 「だな」

 「やれやれ」

 

 

 ワシントン 白い家

 「イギリスのプリンスオブウェールズとレパルスが空母艦載機の攻撃で撃沈された?」

 「本当に?」

 「残念ですが事実です」

 「では、戦艦は戦力にならないのか?」

 「主力艦ではなくなっている。と言えます」

 「・・・・では真珠湾と交換したのは日本の主力艦ではなく補助艦艇という事になるな」

 「真珠湾で沈められたアメリカ戦艦8隻も補助艦艇という事になります」

 「ちょっとだけ、救いかな」

 

 

 サンチアゴに集まったアメリカ太平洋艦隊は、燃料を補給し、整備。

 そして、3個機動部隊が再編成されていた。

 空母エンタープライズ、

  重巡シカゴ、ポートランド、インディアナポリス。

  駆逐艦ポーター、

  駆逐艦マハン、カミングス、ドレートン、ラムソン、フラッサー、レイド、ケース、カニンガム。

 

 空母レキシントン

  重巡ソルト・レイク・シティ、ノーザンプトン、チェスター、

  駆逐艦クラーク、

  駆逐艦カッシング、パーキンス、スミス、プレストン

 

 空母サラトガ

  戦艦ワシントン、ノースカロライナ

  重巡アストリア、ミネアポリス、

  駆逐艦バルチ

  駆逐艦ダンラップ、ファニング、グリッドレイ、クレイブン、マッコール、モーリー

  駆逐艦ジャーヴィス、ベンハム、エレット

 

 オアフ島 カネオ湾

 日本軍は、オアフ島全域を制圧つつあった。

 アメリカ陸軍は山脈に引き籠ったが要塞が占領され、時間の問題と思われていた。

 「航空機400機のうち、修復できそうなのは150機ほどです」

 「時間をかければ、あと15機ほど」

 「そうか。補修部品として残しておきたい気もするが・・・」

 「なるべく早く航空戦力を確保したいな」

 「はっ」

 白人26万のうち民間人は、小型船で一番近いモロカイ島へ輸送されていく。

 そして、赤十字を描いたアメリカ輸送船がモロカイ島から救出。

 ハワイ住人を乗せて西海岸へと向かっていく。

 そして、日本の赤十字を描いた輸送船が、

 捕虜にしたアメリカ海軍水兵を日本へと連行していく。

 民間人をアメリカ本土に帰しても、軍人は捕虜とした。

 真珠湾

 黒く煤けたアメリカ駆逐艦が真珠湾内に浮かんでいた。

 「何隻浮いてる?」

 「駆逐艦は25隻です」

  1850トン級ポーター型

    セルフリッジ 、フェルプス、

  1500トン級バッグレイ型

    バッグレイ、ブルー、ヘルム、マグフォード、

    ラルフ・タルボット、ヘンリー、パターソン、

  1450トン級マハン型

    カミングス、タッカー、ダウンズ、レイド、ケース、カッシン、ショー、カニンガム

  1365トン級ファラガット型

    ファラガット、デューイ、ハル、マクドノー、

    ウォーデン、デール、モナガン、エールウィン、

 「随分、残ってるじゃないか」

 「以下、多数です」

 「それは良かった。

 「アメリカの戦艦8隻、巡洋艦8隻と討死するだけで精一杯だったのでは?」

 「駆逐艦以下が自沈しなかったのは、石油タンクが燃えた好運だろうな」

 「戦艦の代艦が出来て良かったんじゃないか?」

 「戦艦10隻、重巡4隻、軽巡15隻と引き換えですか? 割が合いませんよ」

 「ほかにも小艦艇30隻ほどある」

 「戦果とキルレートでは良いと思います。しかし、代替艦補償には、足りないかと」

 「しょうがないな。元々、当てにしていなかった戦力だ」

 「問題は、水道が閉塞されていることです。小型艦艇なら抜け出せそうですが・・・」

 「扶桑と山城を爆破してでも、水道を確保しろ!」

 「はっ!」

 「長官。大変です!!」

 「なんだ? 血相を変えて」

 アメリカ海軍司令部から発見された英文の文書が手渡された。

 「日本の暗号がアメリカ軍に解読されていました」

 「「「「な、なにぃいいいいい〜!!!!!!!!」」」」

 

    

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です。

 仮想戦記は史実からかけ離れるほど第三者の妄想になり白けてしまう。

 では、白けないようにするにはどうするかというと・・・・

 代償を支払う。

 第一戦艦部隊と、アメリカ太平洋艦隊 & オアフ島の交換です(笑)

 戦記と言いながら戦闘に刺激を感じない、別の方面に力が入っているような。

 でも、たぶん、知的興奮を求める正統派の架空戦記・仮想戦記です。

 “卑怯な騙し撃ち” なのですが、卑怯が少し薄まりそう。

 空母に改造する前の八幡丸(雲鷹)、新田丸(冲鷹)、

 あるぜんちな丸(海鷹)、ぶらじる丸も特攻で使ってしまいました。

 戦艦が消えたので機動部隊で戦争ができそうです。

 南雲と山口で競争すれば、少しは良い結果になるでしょう。

 もう一つ、オアフ島を占領したので、ニューギニア・ソロモン占領はありません。

 

 

 

 日本は情報戦略に不明だった、ではなく、

 情報戦略より保身が上だった、ところでしょう。

 今回の戦記は、保身より プ・ラ・イ・ド です。

 たぶん

 

 右翼とヤクザと朝鮮人

 右翼の中核はヤクザ、ヤクザの中核は、日本人に対し非合法活動が平気な朝鮮人です。

 意外と知らない人が多いので書いておきました。

 因みに軍隊を右翼に含めないでくださいね。

 

 

 そして、歴史が変わったのは、ココです。

 『ど、どうせ、ハッタリに決まってる』 軍令部総長 永野修身大将

 「・・・うぬぅううう〜 やまもとぉ〜お この卑怯者が!」

 失言に気をつけましょう。辞任に追い込まれますから

 

 

 最近の若者はキレやすいは、大ウソ。

 年寄りが増えて、若者がキレる光景が目に付きやすいだけ、

 日本人がキレやすいは、むかしから。

 

 日本海軍が捕獲した軽巡デ・ロイテル、ジャワ。アメリカ駆逐艦25隻です。

軽巡洋艦 排水量 全長×全幅×乾水 馬力 速力 航続距離     水上機
デ・ロイテル 6642 170.92×15.7×5 60000 32 12kt/6800km 50口径150mm連装砲×3 単装砲×1 40mm×10 2
ジャワ 8078 155.30×16×6.22 73000 31 11kt/4240km 50口径150mm連装砲×5 40mm×6 2

  1850トン級ポーター型

    セルフリッジ 、フェルプス、

  1500トン級バッグレイ型

    バッグレイ、ブルー、ヘルム、マグフォード、

    ラルフ・タルボット、ヘンリー、パターソン、

  1450トン級マハン型

    カミングス、タッカー、ダウンズ、レイド、ケース、カッシン、ショー、カニンガム

  1365トン級ファラガット型

    ファラガット、デューイ、ハル、マクドノー、

    ウォーデン、デール、モナガン、エールウィン、

 

 

 

 戦艦大和 1億4000万円

 橿原丸(隼鷹) 2400万円 × 5 = 1億2000万円

 戦艦大和より、橿原丸が5隻欲しい。

 戦略級シュミレーションゲームで良く思う。

 緒戦の上陸作戦で運用できれば、数か月早く東南アジアを固められたかも。

 

 

 

 日本の某所 暗い一室。

 「しかし、作者君。海軍と陸軍、もう少し、上手く使えんのかね」

 「初陣で壊した主力戦艦部隊。国が一つ傾くよ」

 「聞けば、あの玩具、山本に任せたそうじゃないか」

 「人、時間。そして、金、いくら使ったら気が済むのかね」

 「それに君の仕事は、これだけではあるまい」

 「大日本帝国補完計画。これこそ、君の急務だ」

 「左様、その計画こそが、この絶望的な状況下における唯一の希望なのだ。我々のね」

 「いずれにせよ。対アメリカ攻勢における計画スケジュールの遅延は認められん」

 「予算については一考しよう」

 「作者。後戻りはできんぞ」

 「・・・・・・」

 さぁてと、作者は、四面楚歌で軍国主義な日本をどうやって、正常な国に戻すでしょう。

  

 

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架空戦記 『大本営特攻』

第01話 1941年 『地位を捨ててやる!!!』
第02話 1942年 『名誉も捨ててやる!!!』