月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『不戦戦記』

 

第16話 1945年 『もう、ひとりじゃない』

 戦争は、スペックを競うだけで収まらない。

 想像力、統制力、総量、兵站、天候、地の利、

 運不運、将兵の規律、装備、練度、戦意が複雑に絡む。

 名将は、図上の戦線を追いながらオーケストラの指揮者の如く、

 駒を移動させ砲火を奏でる。

 さながら二人の名演奏家が向かい合い。

 己のシンフォニーで空間を支配しようとする。

 

 ロンドン上空

 B17爆撃機編隊は、コンバットボックスを組み、

 相互支援しつつ死角のない弾幕を形成する。

 周囲を警戒するムスタング編隊は、ロッテと呼ばれる4機編隊を組み、

 2機編隊で支援しつつ攻撃する。

 自分の国、それも首都を爆撃するのは気が進まない。

 しかし、奪われたままで済ませられない。

 パリを非武装地帯とし、ドイツ軍に明け渡したフランス人と、どっちが正しかったのか、

 少なくとも戦闘機乗りの仕事は、爆弾を落とすことではない。

 周囲を見張り、生き残るため無線機に耳を澄まし、

 目と耳の数を増やし、死角をなくそうとする。

 奇襲さえ受けなければ、数、技能、性能、運次第で生還できる。

 ロンドン市内から対空砲が撃ち上げられると

 周囲に黒煙が咲き、大気を震わせ、機体が揺れる。

 「敵襲! 4時、下だ!」

 誰かが叫ぶと、

 雲間からメッサーシュミット編隊が突っ込んでくる。

 しかし、違う方向からも敵襲の知らせが無線機から流れ、

 隊長機からの指示が飛ぶ。

 隊長機に付いていくだけ。

 ロッテ戦法は、ベテランとルーキーの組み合わせでも戦果を挙げられる。

 ルーキーはベテランについて行くことで、安全に早く経験を習得できる。

 不意に耳障りで不快な爆発音が響いて機体を揺らした。

 ロケット弾がB17爆撃機に命中したのだ。

 巨大な機体が粉砕し、バラバラになりながら爆弾が誘爆した。

 もう一度、爆発し、大気を震わせ、敵と味方の編隊を揺らした。

 コンバットボックスの一角が切り崩されていく。

 あっという間に敵味方の戦闘機が入り乱れ、

 Ta152戦闘機に割り込まれる。

 隊長機を援護しようにも背後に戦闘機に付かれ逃げ回らないと撃墜される。

 「メーデー、メーデー」

 「ジェット戦闘機だ。助けてくれ!」

 「ムスタングは何している」

 「駄目だ」

 「こっちもTa152戦闘機に後ろに付か・・・プッ・・」

 「隊長!」

 「ちっ!」

 隊長機が一瞬にして、火達磨になって落ちていく。

 背後に突こうとするTa152の掃射を逃れようと、回避運動を繰り返す。

 懺悔か、恨みごとか、罵りか、何か叫んで、自分で何を言っているのかわからない。

 バリバリと音がしたかと思うと、赤い血がガラスに散らばり意識が薄れていく。

 

 空の要塞と呼ばれたB17爆撃機が少女のように怯える。

 十数発の対空ロケット弾が白煙を曳いてB17爆撃機に吸い込まれていく、

 命中すると防弾板を紙のように撃ち破って内部で炸裂し、機体を致命的なほど破壊してしまう。

 数十機のB17爆撃機、ランカスター爆撃機が燃え落ち、街を破壊し崩していく、

 ドイツ空軍は、Me262ジェット戦闘機、Ta152戦闘機を配備。

 量で勝るイギリス空軍の爆撃を質で勝るドイツ空軍が迎撃で凌いでいく。

 

 

 地上に並べられたアメリカ製155mm砲数百門が砲声を上げ、

 立て続けに撃ち出されていく。

 砲弾の雨がドイツ軍陣地に降り注ぎ、戦力を削ぎ落とし、恐怖と動揺を誘う。

 数量で劣るドイツ軍は、世界最強のキングタイガー戦車を要害に配置し、

 周囲を土嚢で囲んで決死の防衛線を構築する。

 しかし、それも・・・・

 「んっ!」

 「どうした?」

 「新型戦車だ・・・っ!」

 キングタイガーは、それまで受けたことがない衝撃を受ける。

 50口径90mm砲弾の破壊力は、キングタイガー戦車の71口径88mm砲弾に近く。

 「なんだ? 撃ち返せ」

 砲撃の結果を銃眼から確認できた。

 「・・・弾き返した」

 「この距離でか?」

 敵戦車は重装甲で守られているのか、

 キングタイガー戦車と中距離で撃ち合うことが出来た。

 『ライス中尉。新型戦車6両を先頭にM4戦車40両』

 『シャーマン・ファイアフライ6両が迫ってきます』 無線が入る

 それまでM4戦車の数に物を言わせていたイギリスは、M26パーシング重戦車を上陸させていた。

 「撃ち返せ!」

 押し寄せたのはM26パーシングだけではなかった。

 シャーマン・ファイアフライ中戦車は、防御力こそM4戦車のまま。

 しかし、58.3口径76.2mm砲を装備し、大群で押し寄せてくる。

 「撃て! 撃て! 撃ちまくれ!」

 砲弾が命中する衝撃でキングタイガーの振動が止まらない。

 砲弾は、理論上、防弾できる距離だった。

 まだ、タングステンを弾芯に使っても弾く事が出来た。

 しかし、同じ場所に何度も命中すると装甲が金属疲労で割れてしまう事がある。

 「空軍は何をしている!」

 「火力支援を要請しろ!」

 「戦線が突破されるぞ!」

 ドイツ軍陣地から数十門の105mm砲弾が撃ち返されていた。

 しかし、数量で劣るドイツの火力支援は目立たない。

 イギリス戦車部隊は、数に任せて押し迫り、

 ドイツ重戦車を苦しめる。

 「後退だ!」

 「4号戦車に側面を援護させろ!」

 M26パーシング重戦車の防御力は高かった。

 数で劣るドイツ軍は、敵戦車を撃破できる相対距離が縮まると数に押し切られやすくなる。

 M26パーシングとシャーマン・ファイアフライ中戦車は、後退するドイツ軍戦車を追い、

 ロンドン都市部へと一気に押し寄せる。

 「来た来た」

 「撃て!」

 廃屋の屋上に隠れたドイツ兵士がパンツァーファウストを下に向ける。

 白煙を曳いたロケットランチャーは、道路上の標的に向かって撃ち込まれていく。

 基本的に全ての戦車で共通していることがあった。

 全方位で装甲を厚くすると、重量がかさみ機動力を落としてしまう。

 合理的に装甲の厚みが割り振られ、薄い部分は弱点となる。

 イギリス軍の工兵がコンクリートの壁面を命がけで爆破。

 破壊した壁面からM26戦車の砲身がキングタイガーの側面に向けられる、

 この距離までくれば、確実に撃破できた。

 「よし!」

 「てぇ!・・!?」

 次の瞬間、M26戦車が震え、内側から破壊された。

 パンツァーファウストのロケットランチャーが地下から撃ち上げられ通風口を破り、

 M26戦車の底を撃ち抜いた。

 どんな戦車であれ、車両の底を狙われたら助からない。

 ドイツ軍はロンドンの地下鉄網も利用する。

 M26パーシング重戦車とシャーマン・ファイアフライ中戦車の

 上部装甲、下部装甲に数十発のパンツァーファウストが撃ち込まれ撃破されていく。

 待ち伏せした区画にM26戦車が侵入すると、側面装甲が撃ち抜かれ、撃破されてしまう。

 ヤークトタイガーの55口径128mm砲は、長距離からでも新型車両を撃破できた。

 スツーカG型が瓦礫の谷間を緩降下し、

 37mm砲で生き残ったM4戦車の上部装甲を撃ち抜いていく。

 圧倒的な物量に苦戦を強いられていたドイツ軍は、ボロボロになりながらも善戦し、

 戦線を持ち直させ、戦場を沈静化させていく。

 ドイツ軍のロンドン市街戦で救いがあるとすれば遮蔽物が多く、守りやすかったこと。

 重戦車の数が増えたこと。

 歩兵にパンツァーファウストが大量に配られ、地下鉄網を利用できたこと。

 防弾と火力に優れ、車高が低く、

 待ち伏せに有効な突撃砲と駆逐戦車が配備されたこと。

 ドイツ軍は、苦戦しながらも地の利を生かし、時には罠を張りながら戦線を縮小し、

 イギリス軍を窮地に追い込んでいく。

 そして、1945年、

 ドイツ軍は、まだロンドンの制空権と市街地を確保していた。

 

 

 キール海軍工廠

 戦艦ジャン・バール。ビスマルク。

 空母ティルピッツ。シャルンホルスト、グナイゼナウ。

 破壊されていた艦体が修復され再建されていく、

 損傷の激しかったティルピッツの資材は、比較的損傷の少ないビスマルクに流用されていた。

 その代りティルピッツは空母に改造。

 シャルンホルスト、グナイゼナウも空母が改造されたのは、損傷が大きかったためだった。

 そして、輸送船を護衛している旧式戦艦と撃ち合いになる不利を嫌ったため。

 機能性重視のドイツ人も戦争の激しさから合理性を取り入れてしまう。

 空母ティルピッツが艦載機80機。

 シャルンホルストとグナイゼナウが艦載機60機。

 艦首・艦尾を伸ばしつつ、イギリス空母を模倣し、

 艦体と飛行甲板を一体型エンクローズド・バウにしてしまう。

 ドイツ人技術者たち

 「空母に改造して正解だったかな」

 「不幸中の幸いだね」

 「ラプラタ沖海戦で空母の価値が確認された」

 「全長を270mと246mに伸ばしたから良いとしても」

 「艦載機が問題かな・・・」

 「日本がDB 605エンジンで艦載機を開発してたぞ」

 DB 605エンジン 1445馬力

 「DB605を日本に渡したのかよ」

 「しょうがないだろう。資金不足だな」

 「日本は、まともに作れたのか?」

 「そりゃ あれだけ工作機械を持っていけば造れるだろうよ」

 「武装は、15mmモーターキャノンと15mm4丁だったな」

 「速度は650kmらしい」

 「その速度が出せて、空母に離着艦できる機体なら、やるもんだ」

 「しかし、空母改造で装甲を削ぎ落とし過ぎたんじゃないか」

 「砲撃戦はしないからね」

 「ビスマルクの修理改装は早く終わりそうだし」

 「それは、それでいいよ」

 「占領地は増えたけど艦隊を自由に出入りさせられる外洋に領土が欲しかったな」

 「スエズを落としに行けば良かったのに」

 「イギリス本土で消耗していたからね」

 「ソビエトとアメリカが全面衝突を回避しているから厳しいよ」

 「中東でクルド・イラン人を煽っているだろう」

 「そりゃ 煽るだろう・・・」

 「「「・・・・・」」」 ため息

 修理改装改造に1年を要し、

 その予算はドイツ財政を末期的な状況に追いやっていく。

 艦載機パイロットの養成も、慣熟訓練も、これから。

 さらに各艦とも大破。

 失われた人員も戻ってこない。

 人材不足は新兵を再訓練しなければ得られなかった。

  

 イギリス海軍も、

 プリンスオブウェールズ、デューク・オブ・ヨーク、アンソンを修理改装していた。

 独英海軍は、戦艦・空母の修復改装が終わらず、睨み合うばかり。

 戦艦3隻を空母に改造しているドイツ海軍が有利だったりする。

 そして、ドイツ海軍の主役は、やはりUボート。

 ドイツ海軍は、水中航行能力の高いUボートXX1型潜水艦を大量に投入し、

 イギリス輸送船団を攻撃していく。

 一方、イギリス海軍は、護衛空母と飛行船まで出して輸送船団を守り。

 イギリス本土に物資を運び込んでいく。

 ドイツも、イギリスも、天文学的な財政赤字を借用書にサインしながら戦い続けた。

 そして、義勇兵として、お得な命。

 つまり、命の値段がアメリカ人より安い日本人がアメリカ製の兵器を使って戦争していた。

 

  

 ホワイトハウス

 腹黒な男たちが集まって密談。

 「イギリスがスイス銀行から動かした資本を含めると、もう限界だよ」

 「大航海以降の蓄財を散財し」

 「今後の労働もアメリカと日本に吸い上げられることになる」

 「ドイツもだ。スイス銀行の金も動いている」

 「資本家が自腹を切って戦線を支えたら限界だな」

 「だがイギリスの方が先に根を上げるぞ」

 「だが戦線は押し返せそうにない」

 「しょうがない。例の手を使うか」

 「対価は?」

 「貸与するだけだろう。失われる可能性は、ないよ」

 「戻されても困るがね」

 「一時的にドイツを苦境に落として戦争を終わらせよう」

 「話しはつけたよ」

 「しょうがないか」

 「イギリスが降伏すると借金返済も滞るし」

 「それに欧州の足場を失う」

 「それに、もう一つ足場があれば、悪くないさ」

 「結局、イギリスとドイツの蓄財を使わせ、借金を背負わせ」

 「中国・中東の利権で大恐慌から立ち直りか」

 「まぁ 我々もいつまでも大軍を養っていられないぞ」

 「損益分岐点があるからな」

 「そう、国家の主導権を軍人に奪われると暴力に支配されたアメリカ合衆国になる」

 「それは、望ましくないな」

 「やはり、アメリカ合衆国の支配者は、資本家と政治家が良い」

 そして、アメリカの決断が欧州戦争を終息に向かわせていく。

 米仏同盟が結ばれ、

 ツーロン港に千数百隻の船団が押し寄せた。

 この船団は、ドイツ側にも事前通告され、

 攻撃すれば、どうなるかもドイツ側に通達されていた。

 アメリカは、戦艦リシュリューをヴィシーフランス政府に返還。

 自由フランス軍解体とヴィシーフランスへの帰属。

 そして、アメリカがヴィシーフランスのツーロン港に大量の戦略物資を荷揚げさせた。

 その戦略物資は、ドイツを打倒できるほどで、

 ロンドン攻防戦で疲弊していたドイツの戦意を完全に失わせてしまう。

 ヒットラー総統は、日本の大使を呼びだした。

 そして、日本大使は、ヒットラーの要請を日本本国へと通達する。

  

  

 イギリス海軍の空母戦力は、

 イラストリアス、ヴィクトリアス、

 フォーミダブル、インプラカブル、インディファティガブル。レンジャー

 ほか護衛空母多数。

 数でこそ勝っても輸送船団の護衛、補給整備など、

 稼働率の関係で常時展開できるのは半分以下。

 ドイツ海軍の空母戦力は、グラーフ・ツェッペリン、ヴェーザーの2隻で、

 数で劣っても準備さえ完了すれば出撃できた。

 ポケット戦艦リュッツォウ、アドミラル・シェーアが護衛に付き、

 大西洋で最強かもしれない艦隊が出撃する。

 水上艦と潜水艦の手柄争いは、予算を賭けた戦いでもある。

 護衛空母を撃沈すると相乗効果も見込めた。

 そして、ドイツ機動部隊直上を飛行船Lz127が浮かぶ。

 戦闘機どころか、爆撃機さえ撃墜されそうな飛行船だった。

 しかし、最大190kmの探知能力を持つレーダー(フライア)を上下左右前後に張り巡らし、

 敵機が接近すれば、視界に入る前に遠ざかることができた。

 そして、ドイツ艦隊の海上哨戒の要、艦隊の目であり、耳となっていた。

 ドイツ機動部隊

 深夜の暗い海面を眼を皿のようにして見つめる。

 潜水艦に狙われたら、

 もちろん “敵の” ではなく、味方の潜水艦。

 “間違って撃って見やがれ、弁償させるからな!”

 誰しも、そう考えていた。

 

 グラーフ・ツェッペリン 艦橋

 「イギリスは、レンジャーを購入したらしい」

 「あれは、70機ほど搭載できるはず。危険では?」

 「パイロットは、アメリカ人だろうな」

 「パイロット込みで空母まで購入か」

 「人件費を1.5から2.5倍で計算すると、イギリスは破産でしょうね」

 「ドイツもだ」

 「危ないので?」

 「ドイツの財政は、借金先送りだ」

 「国民に負担を強いるか、企業を潰すしかないからね」

 「じゃ ドイツ帝国が再建できたのは・・・」

 「財政は魔法じゃない」

 「種も仕掛けもある」

 「国民の税負担で餓死させず」

 「企業を潰さないための最後の手段は侵略」

 「それが戦争の起きた理由・・・」

 「経済を立て直せないので?」

 「だから、借金をどこかに押し付けるかだろう」

 「侵略した国での奴隷労働、土地、資源で払うか、だろう」

 「北フランス、オランダ、ノルウェー、バルカン半島か・・・足りないな・・・」

 「では、さらに戦争ですか?」

 「借金を重ねて首が回らなくなって」

 「しょうがないから拳銃密造で、隣の家を強盗だからな・・・」

 「それで、奪った資財で、借金を返せるんですか?」

 「借金を重ねて拳銃密造だと、もう、末期だしな」

 「ドイツ、イギリス、フランスだと」

 「財政上、借金の少ないヴィシーフランスが一番有利だ」

 「日本は・・・」

 「あそこも危なかったらしい」

 「国民の不満を農地改革と軍事縮小で逸らして」

 「騙し騙しの設備投資で時間稼ぎ」

 「たまたま、起きた戦争需要で大儲けだ」

 「日本は幸運の女神が付いているらしい」

 「幸運ですか・・・」

 「ドイツが必要だったのは鉄鉱石と石炭ではなく」

 「幸運と混乱する大国だったかもしれんな」

 「・・・・」

 「提督、Lz127が真南190km先に船団を発見したそうです」

 「船団か・・・艦隊じゃないだろうな」

 「フライアでわかるのは、方位と位置だけですから・・・」

 「すぐわかるだろう。フラッグの確認だけは怠るなよ」

 「アメリカ船籍だったら攻撃せず帰還する」

 「出撃しますか?」

 「無論だ」

 「イギリスに見舞金と遺族年金も払わせてやれ」

 夜中に懐中電灯を絞って、こっそりと発艦準備。

 97式戦4機、スツーカ爆撃機23機が時間を調整しつつ、

 夜明け前に飛び立っていく、

 レーダーの優位性があると、それを可能にさせる。

 イギリス艦隊は、接近する敵編隊をレーダーで察知するが夜明け前。

 パイロットは早朝の索敵当直でない限り寝るのが仕事。

 迎撃機を緊急出撃させようとするが直ぐ出せるのは、ソードフィッシュだけ。

 慌ててワイルドキャットを出撃させようとするが間に合わなかった。

 巡航速度300kmで近付くスツーカ爆撃機は、

 日の出に合わせるかのように艦隊直上に現われる。

 船団から弾幕が撃ち上げられる。

 元々、対地攻撃を目的としたスツーカは頑丈に作られていた。

 「イギリス船団だな」

 「はい、ユニオンジャックが翻っています」

 「攻撃だ!」

 発艦したワイルドキャット2機の高度はまだ低かった。

 スツーカ爆撃部隊は、標的に向かって急降下に入っていく。

 必死に回避運動を取る護衛空母ナイラナとヴィンデックスを

 嘲笑うかのように突入し、爆弾を切り離していく。

 500kg徹甲爆弾が直撃すると、

 飛行甲板と幾層もの床を貫き、機関部まで到達して爆発。

 艦底に穴をあけられた17000トン級護衛空母はズブズブと沈むしかなかった。

 護衛空母 鳳翔

 艦橋

 「急いで、迎撃機を上げろ!」

 「上空のワイルドキャットは、追跡させて敵艦隊の位置を味方の艦隊に通報させろ」

 「艦長、小型空母で助かりましたね」

 「まったくだ」

 「しかし、夜中のうちに発見されたのか」

 「Uボートと連携しているようだな」

 「ですが、船団の周囲で無線は確認されませんでした」

 「んん・・・なにか、トンデモ兵器を開発したのかもしれんな」

 「V2ロケットなんて開発するのですからドイツの科学技術は尋常じゃありませんよ」

 「機動部隊がいたはずだが・・・」

 副官が海図を見つめる。

 「一番近くにいる機動部隊は、空母フォーミダブル、レンジャーです」

 「2対2の空母航空戦になりそうだな」

 しかし、追跡したワイルドキャット2機は、97式戦10機に迎撃され、

 ドイツ空母を発見する前に撃墜される。

 さらにイギリス空母から索敵機を出撃させ、

 ドイツ艦隊を発見される前に戦闘機の迎撃にあって撃墜、撃退されていく。

 索敵爆撃で出撃させた部隊もドイツ機動部隊を捕捉できないまま、逃げられてしまう。

 

 グラーフ・ツェッペリン 艦橋

 「敵編隊は帰還していくそうです」

 「ふっ Lz127のフライアにかかれば、こんなものだ」

 「どうします?」

 「帰還コースでイギリス空母部隊の位置は、わかる」

 「もう一度、同じ手で攻撃してみるか」

 

  

 イギリス グラスゴー 仮首相官邸

 この戦争で一人得したイギリス人がいるとしたら、

 減量に成功したチャーチル首相だけと陰口を叩かれていた。

 やつれ果てたチャーチル首相は、日本大使が持ってきた親書を睨み付ける。

 日本大使が持ってくた親書の内容は、アメリカの大使から事前に聞いていたものと変わらない。

 「もう、限界だな」

 「ああ、もう戦えない。仲介は、日本でいいのか?」

 「アメリカはドイツが嫌がる」

 「ソビエトは中東の利権が絡んで恨みがある」

 「イタリアは貸しを作りたくない」

 「バチカンはイギリス国教が渋る・・・」

 「消去法で日本か・・・」

 「無節操に両方から稼いでいたのも日本だったな・・・」

 イギリスの疲弊も極限に達し、

 これ以上の戦争は不可能だった。

 日本大使に承諾したと伝える。

 

 

 「「停戦だ〜!」」

 英独双方の陣地で叫ばれ、

 砲撃戦、戦車戦、銃撃戦が終わってしまう。

 

 

 空母グラーフ・ツェッペリン 艦橋

 「・・・提督。停戦です」

 「・・・・」 憮然

 発艦しようとしていた撃部隊が飛行甲板に取り残されていた。

 「運の良い連中だ」

 「イギリス機動部隊が捕捉されていたことを座標で教えてやれ」

 「停戦の確認もだ」

 

 

 空母フォーミダブル 艦橋

 通信兵が電文を提督へ渡す。

 「提督。ドイツ機動部隊からです」

 「・・・・」 憮然

 イギリス機動部隊の飛行甲板も

 ワイルドキャットが並べられていた。

 夜明け前に全機発艦させて、

 ドイツ攻撃部隊を全滅させる作戦が水泡に帰してしまう。

 「運の良い連中だ」

 「夜中から準備していたミンチ・パーティが無駄になって残念だ、と伝えてやれ」

 「停戦は確認したとな」

 

 

 京都で始まった英独平和会議は、7日間で終わる。

 実は、会議初日、

 双方の全権大使は、ロクに話しもせず、

 30分で会議を終わらせ、講和調印も終わっていた。

 しかし、調印日の日付は7日後、

 講和会議が開始早々30分で調印したことがバレると国民に袋にされる。

 渋い顔して京都観光を行ったり来たり、

 パフォーマンスの会議で、お茶を飲んで談笑したり。

 ポーカーで暇を潰したり、

 5月7日 英独講和条約調印が発表。

 ドイツ軍は、イギリス本土から撤収。

 現在のドイツ占領地をドイツ領として承認。

 民族自治の代表権と人権保障に関する相互補償協定。

   イギリス植民地とドイツ領内を含み、

   主権以外の民族人権を認める相互協定。

   自殺協定とも、心中協定とも言われた。

 捕虜返還。無賠償・無補償が定められ、

 英独講和が成立してしまう。

 

 

 おめでとう。

 ぱち! ぱち! ぱち! ぱち! ぱち! ぱち!

 

 

 米英仏同盟調印

 アメリカは、英独講和が終わると新世界秩序のためと称し、

 アメリカ、イギリス、フランスで3国同盟を調印する。

 同盟とはいえ、アメリカ合衆国の国力は、3ヵ国の中で圧倒的だった。

 この同盟で、上海のアメリカ州化がほぼ認められ、

 イギリス、フランス、イタリアには、配当金という形で利権が分配される。

 イギリス、フランスも独立国としての形態をとっているだけで、

 アメリカ合衆国との国力比は、ドイツとスロバキア以上で属国とか、保護領に近い。

 イギリスとヴィシーフランスは、可能な限り植民地から吸い上げ、

 アメリカに借金を返さねばならず。

 日本も、かっこ悪いが資源は必要で片棒を担がされていた。

 

  

 ドイツのとある場所

 犬が草原で走り回り、

 少年と少女が干草の上に座っていた。 

 「・・・アロア。戦争が終わっちゃったね」

 「うん。ネロ。やっと、ゆっくり遊べるようになったね」

 「でも、フランス語だけの人が減ったよ」

 「私たちは、どっちも話せるから、どっちでも良いもの」

 「これからも、同じ学校だね」

 「うん、ひとりで、寂しかった」

 「ぼくも・・・」

 雲間から暖かい日差しが零れ、高原を照らしていく。

 

 

 独ソ境界線

 英独戦争が終わり、

 ドイツ軍が大陸側に撤収すると欧州に静寂が訪れた。

 ドイツ帝国は、敵対勢力のソビエト、ヴィシー・フランス、イギリスに包囲されていることに変わらない。

 ソビエトとアメリカは、交渉し

 中東の権益線が落ち着くと、正面のドイツ軍の動きが気になり始める。

 独ソ不可侵条約は、冬季の雪原ほどの制約力もない気休めに過ぎない。

 東欧諸国のあぶれ者がシベリア鉄道で満州へと移動していく。

 戦争が終われば、民族大移動が起りやすく、

 今回も、その、ことわり。

 距離が遠いのは、時代の流れと、政治的な思惑だったりする。

 揚子江の北側を含めて満州は、華北と呼ばれていた。

 しかし、現実は、日米ソの鉄道権益内を除くと、無政府状態が広がっていた。

 日本、アメリカ、ソビエトが鉄道沿線にユダヤ人や東欧人を住まわせ、

 鉄道権益を守らせても不思議ではなく。

 ドイツ民族以外の民族を国外に排除したがるドイツ帝国と日米ソ3ヵ国の利害が合致してしまう。

 毛皮を着込んだ男が二人、シベリア鉄道へと乗せられていく

 ユダヤ人と東欧人を見送っていた。

 「・・・随分と、やつれているじゃないか」 ロシア人

 「ああ、まいった」

 「米英仏同盟でヴィシー・フランスにムスタングとM26戦車が配備されている」 ドイツ人

 「強力なのか?」

 「まだM4戦車が多いがM26戦車は強い」

 「ヴィシーにくれてやった4号戦車が軽戦車に思えるほどだ」

 「そりゃ 厳しそうだな」

 「そっちは?」

 「大粛清で、まともな指揮官がいないのに中東遠征だろう」

 「兵站を急いで整備しないと崩壊寸前だな」

 「あはは・・・」

 「あんな、暑くて山道ばかりのところに住めるか」

 「山岳で涼しくないのか?」

 「乾燥しているけど、夏は30度越える」

 「イスラム教徒ばっかりだ」

 「イスラム教徒は、カザフスタンにもいるだろう」

 「もっと多いんだ」

 「クルド人とは、上手くいってるのか?」

 「まぁ 上手くはないが、北イランの口実にしている」

 「南北イランか、罪作りなやつだな」

 「何を言う、クルド問題が解決して、トルコとイラクは喜んでるぞ」

 「モノはいいようだな」

 「いやいや、滅ぼした国の数では、ドイツに遠く及ばんよ」

 「ベルサイユ条約の復讐だよ」

 「オランダ、ノルウェーは、巻き込まれ損だな」

 「情けをかけられていたのなら、情けを返すことはできる・・・」

 「まぁ 公平な人権にするつもりではあるよ」

 「日本とは同盟を結ばないのか?」

 「日本は他国の利権を排するような同盟は結びたくないだと」

 「嫌われてるな」

 「アメリカとの同盟も、そう言って断ったらしい」

 「まぁ 非同盟は外交政策上、自由ではあるがね」

  

 

 空母

  ティルピッツ、シャルンホルスト、グナイゼナウ、

  グラーフ・ツェッペリン。ヴェーザー

 

 戦艦

  ビスマルク、ジャン・バール、

  ダンケルク、ストラスブール

 

 ポケット戦艦

  アドミラル・シェーア、リュッツォウ

 

 これだけの陣容を揃えるドイツ機動部隊は、大西洋で覇を競える大国といえる。

 そして、艦隊直上をグラーフ・ツェッペリン飛行船Lz127、Lz130が浮かぶ。

 

 空母ティルピッツ

 ユモ213エンジン1750馬力を装備した新型艦載機が翼を折り畳んで並んでいた。

 日本の艦載機を参考にした機体設計は、離着艦で支障がなかった。

 艦橋

 「やはり、アメリカ海軍が最大の敵かな」

 「アメリカの空母シャンハイとは、同格だろう」

 「しかし、空母が主力になるとはね」

 「ハウ自沈が決定的かな」

 「自沈じゃ弱いよな」

 「撃沈じゃないと」

 「アメリカのモンタナ級は、最強なんじゃないか」

 「H級は造れないだろう」

 「ヴィシー・フランスとイギリスにあれだけの戦力を置かれたら海軍は後回しだろうな」

 「ソビエトも中東からドイツ側に意識が行ってるし」

 「そういえば、参謀本部は、例の母艦を旗艦にしようか、とか言ってたぞ」

 「例の氷山空母か?」

 「イギリスのアイデアだろう」

 「特許料を取られるんじゃないか?」

 「まさか、一応、機密だそうだし」

 「航空戦力500機とか、艦船15万トン格納とか」

 「現実味は、どの程度あるんだ?」

 「さぁ 凍らせておくのが大変だな」

 「どうやって、作るの?」

 「超大型の冷蔵タンカーを大西洋に持ってきて」

 「海水と木材パルプを混ぜながら凍らせるんじゃなかったか?」

 「融けるだろう」

 「世界で初めて魔法瓶を作ったのはドイツだよ」

 「それを大西洋の洋上基地にするのか?」

 「イギリス人は、ろくなモノ考えないな」

 「脳みそ膿んでんじゃないか」

 「冷凍する燃料とか、どうするんだ?」

 「ん・・・風力発電と不足分をディーゼル発電すんだっけ」

 「頭いてぇ〜」

 「それで、米と英仏を断ち切るの?」

 「本当に沈まないのかよ」

 「気持ちだけの効果じゃないのか?」

 「普通に大型潜水艦を建造した方が良いだろう」

 「だよな」

 ドイツ海軍はXXW型と呼ばれる

 3000トン級潜水艦を計画建造しようとしていた。

 戦争が終わると、各国とも、

 量から質の時代へと移行していることを敏感に感じ取る。

 戦訓を生かした実験的な艦艇が建造され、

 XXW型Uボートも総集大成ともいえる潜水艦だった。

  排水量 全長×全幅 吃水 最潜航深度 水上/海中 水上/海中 航続力(水上) 航続力(海中) 発射管 本数
XXW型 3000/4400 98m×10m 7m 300m 6000馬力/6800馬力 16kt/18kt 13kt/20000海里 5kt/500海里 533mm×6 32本

 ワルターエンジンは、研究段階で、まだ使われず。

 戦後の潜水艦という形で、数から質への移行を実証、確認していく。

 そう、平和の始まりは、次の戦争の準備期間。

 各国とも次の戦いに備えて、凌ぎを削っていく。

 

 

 イギリス

 ドイツ軍が撤収していくと

 廃墟となったロンドンをイギリス軍が回復する。

 そして、イギリスの首相に日本大使が呼ばれる。

 「つまり、大量のキャンセルが出ると」

 「ええ、つまり・・・」

 歯切れが悪い。

 「返済期日を15パーセント程度伸ばすことはできそうです」

 「あと、一部買い戻しも可能です」

 「利権とライセンス関係で日本が代替して埋め合わせられると思いますよ」

 「そ、それは、ありがたい」

 「陛下が可能な限り便宜を図るようにと政府と財界に補填を求められましたので」

 「事前に打ち合わせが済んでいます・・・」

 「助かります」

 「再建資金もと仰られたのですが」

 「そちらは、イギリスの貴族意識が再建資金の投資を躊躇させている節があるようで調整中です」

 「ありがとうございます、本当にありがとうございます」

 

 

 空母艦載機が戦艦ハウを戦闘不能にし、自沈させてしまうと戦略の転換が求められた。

 通商破壊戦艦は、空母の護衛について、機動部隊を編成するようになっていた。

 日本機動部隊は、対空・対潜能力を強化しつつ、次世代艦艇の建造を待つことになる。

 空母 赤城、加賀、蒼龍

 戦艦 金剛、比叡、霧島、榛名

 ほか20隻。

 飛行甲板にはゼロ戦護衛型艦載機が並ぶ。

 新型4式戦闘機はD605エンジン1445馬力装備機で

 転換訓練の真っ最中だった。

 艦橋

 「やはり、戦艦ではなく、空母が主力艦でしたかね」

 「そうだと思ったよ」

 「しかし、そうなると、対空、対潜が心配だな」

 「日本も儲けたのですから」

 「もう少し、軍事費を増やして良さそうなものですがね」

 「戦意低いからな・・・」

 「金持ちケンカせずですかね」

 「反戦主義者も増えてますよ」

 「陛下は、攻撃されたら反撃すれば良いと」

 「少なくとも、反戦主義者でないのが救いだが・・・」

 「どこか、攻撃してきますかね」

 日本を攻撃して占領。

 得られるモノは、労働力、工業力、土地、温泉、港湾・・・

 日本に国内市場を荒らされていない限り、

 破壊や侵略の動機になりそうになく、

 苦労と損失の割に得るモノが少なそうだった。

 「当分、冷や飯ぐらいだな・・・」

 

 

 満州

 朝鮮共産軍の動きが活発化していた。

 もっとも、兵站を押さえているソビエトは、満州で様子見。

 毛沢東・共産軍に対する支援増強にとどまっていた。

 ドイツ、イギリス帰りの日本人がシベリア鉄道を越えて長春に降りてくる。

 「おお〜!」

 「駅が大きくなってるぞ」

 「アメリカ資本が、こんなに入り込んでいるのかよ。すげぇ」

 「なんか、日本が追い詰められているんじゃないか」

 「だけど、南満州鉄道側の沿線が凄い事になってないか?」

 「おお〜!」

 「一番、発展しているじゃん」

 「路線幅5kmだっけ」

 「ユダヤ人とか、スラブ人の移民で安定しているんだろうな」

 「だけど、どうしようか。クビになったよ」

 「儲かったけどね」

 「しかし、ドイツの工場は良かった」

 「日本でも同じ方法で、やるかな」

 「そういえば、黒部ダムが出来ると電力需要が良くなって」

 「工場が建設されやすくなるんだと」

 「よ〜し、稼いだお金を元手に・・・」

 「何するの?」

 「んん・・・・遊ぶ」

 「消費者になるのね」

 

 

 中国大陸

 蒋介石・国民軍には1号戦車、2号戦車、3号戦車が配備されていた。

 しかし、英独講和によってドイツとソビエトは、急速に対決姿勢を強め、

 ドイツからの供給は船便になるため一時的に減少。

 そして、ソビエトの燃料も減少、

 代わりに毛沢東、共産軍への武器供給が増え、

 BT戦車だけでなくT34戦車まで配備される。

 蒋介石・国民軍は劣勢となって窮地に立たされていく。

 毛沢東、共産軍が増強されていくと、中国赤化を恐れるアメリカと日本は、

 蒋介石・国民軍と交渉を開始。

 

 租界

 租界保安警察が二人、

 公園で遊ぶ園児を見つめていた。

 「こうしてみると、小さい子供は国民性が出るな」

 「ボールで遊ばず持っていたがるのが日本人」

 「幼児同士でボールを転がして遊ぶのがアメリカ人」

 「一人で遊ぼうとするのが中国人か」

 「もう少し大きくなると普通に野球も出来るようになるさ」

 転がってきたボールを警察官が拾うと、ヨタヨタと近付いてきた中国人の幼児に渡す。

 「租界は平和だがな・・・」

 「租界が周辺の中国人から資源、労働、金を吸い上げているからね」

 「中国官僚のように権威と暴力で奪うより」

 「お金と資源、作物と交換の方がマシだよ」

 「しかし、アメリカ軍は滅茶苦茶するよな」

 「ああ・・・」

 欧州戦争終結は、平和の到来。

 しかし、それは、独ソ対立を深めただけだった。

 ドイツからの供給を一時的に断たれた蒋介石・国民軍は弱体化して、支援してくれる国を望む。

 アメリカも欧州戦争が終わって “リメンバーシャンハイ” がトーンダウン。

 戦意を維持できなくなったアメリカは、中国との和解を望み始める。

 そして、アメリカ軍の匪賊殲滅作戦は、中国人の殲滅作戦とほぼ同意だと気付き始める。

 キリスト教系の勧善懲悪では計り知れない。

 善と悪では割り切れない世界が中国大陸にあった。

 そして、アメリカ人と中国人は最悪と言えるほど憎み合う。

 ここで、アメリカは、中国との関係修復で、日本に仲介を求めてしまう。

 京都・日米中3ヵ国協定

 蒋介石・国民政府は、中国船のみの揚子江・公海の自由航行を条件にし、

 上海割譲を正式に承認。

 99年の租借契約で三峡ダム建設が決まる。

 航空空路協定が決まる。

 中国租界の裁判権、警察権を日本租界保安警察に一任することで妥協。

 中国は租界の外国人権益を完全保障。

 

 中国大陸からアメリカ軍の撤収が始まると・・・

 ソビエトの毛沢東・共産軍への支援が増加。

 中国大陸の体勢が変化していく。

 国民党政府の不正腐敗で裏切られ

 虐げられていた中国貧民層が共産軍側へと寝返り始めた。

 中国富裕層に支援された蒋介石国民軍・華北・華南軍閥軍と、

 中国貧民層に支持された毛沢東共産軍が中国全土で衝突。

 国民軍の3号戦車の60口径50mm砲が共産軍のBT戦車を砲撃して破壊。

 BT戦車の46口径45mm砲弾は、近付かなければ、3号戦車を破壊できず苦戦する。

 国民軍は、優勢にBT戦車を撃破していたがT34戦車が現れ、3号戦車を撃破。

 国民軍は後退していく。

 

 揚子江の租界。

 「M4戦車が欲しいある」

 「資源と交換で売るよ。一杯あるから」

 「燃料も欲しいある」

 「資源と交換で売るよ。一杯あるから」

 「武器弾薬も欲しいある」

 「資源と交換で売るよ。一杯あるから」

 「アヘンも欲しいある」

 「タダであげるよ。一杯あるから」

 「やっぱり、中国を滅ぼす気ある」

 「麻酔だから医薬品だろう」

 「・・・そ、それなら大切に使うある〜♪」

 中国商人が嬉しそうにアヘンを運び出していく。

 「やれやれ、医療上の注意はしたのかね」

 「一応、文書に書いてるはずだけど・・・」

 「文盲じゃないだろうな」

 「まさか、やり手の商人だし」

 「まぁ 自己責任。モラルだよな」

 「そう、モラル、モラル・・・」

 国共内戦が激化していく、

 そして、日本とアメリカは中国資源で経済が潤い、

 アメリカ商船が揚子江を遡上していく。

 自由航行でなくても許可さえあれば、航行で来た。

 「結局、揚子江を中国船だけに限定させても素通りか」

 「毛沢東・共産軍の攻勢のせいだな」

 「ソビエトのおかげで一儲けだ」

 「もっと、早くからやってくれたら良かったのに」

 「ソビエトも、毛沢東と組むより」

 「蒋介石と組んだ方が実入りが良かっただけだよ」

 「米中が和解したら、今度は、蒋介石が邪魔になる」

 「それで本命が外れて、対抗とか、保険に賭けたわけか」

 「主義思想もいい加減だな」

 「欲望や本音の前では、主義思想も、綺麗事も、建前で従属的だからね」

 「そういうのは、主義思想とは言わん」

 「いま、強いのは毛沢東か?」

 「ソビエトからT34を貰って、かなり強い」

 「M4戦車では勝てんよ」

 「なにより、蒋介石は不正腐敗で中国人に見限られているのが痛い」

 「重慶の蒋介石も、北京の張学良も苦戦中かな」

 「力をつけているのは華南軍閥、広州の甘志遠だな」

 「だが、租界のおかげで、中国人のお金持ちが増えただろう」

 「それで、共産軍を防いでいる」

 「アヘン患者もね。実のところ、中国全体がボロボロだよ」

 「共産軍側に落としているんだ」

 「そりゃもう。無差別」

 「もっとも、その一部が南に回ってきているから滅茶苦茶だな」

 「だけど、日本が一番、良い思いしているだろう」

 「アメリカ軍は、膨張政策だから租界が広げられると思われたんじゃないか」

 「日本の租界保安警察は大人しいし」

 「最大の理由は、ドイツ帝国とのバランスでね」

 「ドイツと日本が組むと挟撃されて困るからだろうな」

 「日本も運の良い」

 「ドイツ海軍が力をつけているから、米英仏同盟でも押さえ切れんか」

 「日本を経済的に追い詰めると、日独同盟が怖いのかもね・・・」

 「それに名目上、中国船だけ揚子江の自由航行だから」

 「日本船を上海で足止めさせることができても中国船はできないだろう」

 「それで日本は中国資源欲しさで」

 「中国船籍の船を建造しているのか。やるもんだ」

 「それにドイツは船団を率いて戦車を中国大陸に輸出するな」

 「商売敵になるな」

 

 

 上海

 中国側から見ると、水平線まで広がった大運河の向こうに壁がみえた。

 しかし、壁でなく台地だったりする。

 揚子江の洪水を防ごうと堤防を造っていこうとすると、上海の台地は高くなっていく仕組みになっていた。

 山の多い中国で整地をすると土砂が船積みされ、

 上海の台地を高くしていく仕組みになっていた。

 三峡ダムの建設が始まれば、さらに上海台地は高くなっていく。

 10本の地峡と鉄橋が大陸と上海を繋げているだけで、難攻不落の大地がそびえ立っていた。

 上海割譲が承認されると米英仏の移民が増えてくる。

 リベンジャーも、金の亡者もいたり、いろいろ。

 しかし、以前のようでないのは、上海割譲でリベンジャーの復讐心が薄れたことがあげられる。

 せいぜい、嫌がらせ程度。

 金の亡者も、契約以上に儲ける気はなく、

 上海事変以前に戻ったといえる。

 もっともアメリカ人は面白みがなかった。

 人は利害に支配されても、感情で歪められること。

 中国人は、アメリカ製が少し安く、性能が良くても、日本製を買うこと。

 中国人は、アメリカ人より、日本人に資源を安く売るということ。

 日本船の臨検は、顔パスで済まされ。

 アメリカ船の臨検は、丁寧に調べられる。

 アメリカ領上海という楔を面白いと思う中国人はおらず、

 自然な対応といえるが自業自得で、

 その好き嫌いの差が国際競争力となって現れる。

 

 

 中東

 アメリカとソビエトの代理戦争だったはずのイラン人とクルド人の紛争。

 しかし、民族紛争の激しさは、米ソ両大国の予測を超えていた。

 アメリカ軍とソビエト軍を巻き込むテロ戦争に発展。

 処置に困ったアメリカとソビエトは、日本にクルド人とイラン人の関係修復を依頼してしまう。

 天皇は、軍の派兵を拒否。

 日本政府は日本人が住んでいないと

 日本租界保安警察を出せないと拒否。

 アメリカとイギリスは、仕方なく油田の利権の一部を

 日本に引渡し租界を建設。

 日本に租界保安警察を出してもらう。

 対立するクルドとイラン人。

 そして、ごねるクルド人とイラク人を前に日本人代表が眉間にしわを寄せる。

 「・・・・」 ため息

 

 

 呉

 駆逐艦吹雪が雑役艦に改装されていた。

 1928年就役なら17年しかたっていない。

 軍艦の改装を一度というのなら頃合いかもしれないが、あまりにも切ない。

 しかし、戦争需要が終わってドックが空けば、軍艦の改装もしやすかった。

 2000トン級吹雪型駆逐艦は50000馬力の重油燃焼機関を剥がされ、

 ディーゼル機関26500馬力に換装。

 38ノットを誇った速度も28ノット。

 魚雷を剥がされて、爆雷投射機6基と換装させられる。

 主砲も45口径127mm連装砲に換装されて、見るも無残。

 イギリス製のレーダーとソナーが装備され、

 対潜対空で向上するが対艦性能は、御寒い限り。

 それでも哨戒艦なら救いがあった。

 「45口径127mm砲は、対空砲として弱くないか?」

 「アメリカは、38口径127mmだよ」

 「50口径は、あるんだから、そいつを高角砲にすべきだろう」

 「やっているけど、重くなるよ」

 「ディーゼル機関に換装して、魚雷を外しているだろう」

 「レーダーとか、ソナーとか、発電機も大きくしないとだめだし」

 「爆雷載せたら、ギリギリ」

 「弱くしてどうするんだよ〜」

 「ハウの自沈で空母優勢は、決定的じゃないか」

 「もう、艦隊戦なんて起きないよ」

 「通商破壊戦艦も、これまでか・・・」

 「あれはあれで、アメリカを牽制できたからヨシとしよう」

 「よく持った方だよ」

 「通商破壊戦艦は、機動部隊の編成で使えると思うよ」

 「対潜では、カモだけど」

 「大型のレーダーは装備できるよ」

 「あと、哨戒機とか」

 「んん・・・適当な時期を見計らって廃艦」

 「大砲を剥がして要塞砲で備え付けるか」

 「欧州帰りの将兵は、代艦ないと剥れそうだな」

 「2交替にしても旧式艦艇を抱えておくような予算も出そうにないし」

 「戦力維持を考えると適当な年齢制限が必要だよな」

 「鞍馬型の建造で良いんじゃないか」

 「イギリスのキャンセル船も改造すれば雑役艦に使えるし」

 「実のところキャンセル船で足りそうだな」

 「理想を言うと、アトランタ型だろうな」

 「魚雷の代わりに爆雷投射機で、VT信管付き」

 「VT信管造れなかったぞ、あれ、いくら予算をかけたんだ?」

 「ディーゼル機関がモノになっただけでも、ヨシとすべきだろうな」

 「でも、戦争が終わると、もう、軍事費上がらないだろうな」

 「平和になって困るのが軍人の性だよ」

 「人事で血をみそうだな・・・」

 「景気が良いのが救いだけど、いつまで続くやら・・・」

 

 

 戦後、

 国力を伸ばしたのは、アメリカ、日本、ソビエトの3カ国。

 停滞中、ドイツ帝国 (財政再建と民族問題)

 低迷中、イギリス (借金苦と独立運動)

 衰退中、ヴィシーフランス (国力縮小と独立運動)

 混迷中、中国 (内憂外患)

 迷走中、イタリア (遊楽病)

 国際社会は形骸化した国際連盟でなく。

 より強固な新しい国際秩序を求め始めた。

 各国の代表が京都に集まったのは “そこ” なら支障がないという、それだけの理由。

 国際会議は踊る、されど進まず。

 「そうじゃの 世界の国際秩序なら、地球連邦が良いかの」

 どこぞの名君の気まぐれな一言で名称が決まり。

 試行錯誤しながら、

 なんとなく、落ち着くところに落ち着き始める。

 アメリカ、日本、ソビエト、イギリス、ドイツの5ヵ国が理事国で、

 本拠地を “上海” に置くと、金本位制の地球連邦株式制度を導入する。

 企業構造で “金” さえ拠出すれば民間人でも、

 宗教法人でも、分け隔てなく、というより

 “金” と交換で見境なく地球連邦株を購入できた。

 このことで国益重視から

 配当目当てのアラブ資本、華僑資本、ユダヤ資本、複数の宗教法人まで、

 地球連邦株を購入。

 地球連邦株は、株式市場で注目され賑わせてしまう。

 個人、法人の直接購入者も増加、利害関係から地球連邦主義が育ち、

 連邦株の損益重視の傾向も強くなる。

 アメリカは、世界の金の3割を持ち、

 株の過半数を所有する。

 なので、アメリカ人の中から地球連邦初の事務総長を出そうとする。

 しかし、誰がなるか国内で揉めてしまう。

 さらにソビエト、イギリス、ドイツ、イタリア、ヴィシー・フランスなども

 アメリカ一極集中を嫌い。

 後進国もアメリカを望まず。

 地球連邦初の事務総長は、

 イギリス、ドイツ、ソビエトが推薦した日本人が選ばれてしまう。

 そして、財源を確保すると地球連邦は、行動を起こしていく。

 我田引水な国益重視で株価が下がると困るのか、

 配当の得られやすい利潤重視。

 「交通とか、物流を良くして、利益を上げよう」

 「いや情報伝達で、利益を上げるべきだろう」

 「資源開発じゃないの?」

 「中国投資は、アヘンを撲滅しないと」

 「貸し出しの公定歩合は?」

 「一応、国際公共機関なんだから」

 「文盲者の教育とか、した方がよくない?」

 「それは事業が軌道に乗って、収入確保が先だろう」

 などなど、配当が大きいと株価も上がるのか、

 理事国の目の色も変わる。

 当然、戦争で疲弊した国の財政再建に期待され、

 なぜ、日本人が代表になったのかも、それ。

 一応、地球連邦の大義名分で建前上の目標もあった。

 人権保護、国際紛争、民族紛争、宗教紛争の収拾のため地球連邦軍(傭兵部隊)を組織。

 採算性を重視しつつ、

 物流・金融・通信・交通など地球規模のネットワークの構築。

 

 

 8月15日

 皇居

 44歳の壮年と総理大臣がお茶をすする。

 そして、各国代表もテーブルに並んでいた。

 「・・・大恐慌以降の危機的な経済対立と」

 「その後の戦争。陛下の日本国采配は実に素晴らしい」

 「まったくです」

 「孫子の兵法にあるが如くの采配は、見事としか言いようがありません」

 「まさに芸術的非交戦」

 「戦わずして勝つ」

 「優れた情報収集と現実的な対応」

 「広い視野と高い視点で国際情勢の先を見越した着眼」

 「惚れ惚れします」

 !?

 「余は皆と仲よう。お茶を飲みたかっただけよの」

 がた! がた! がた! がた! がた! がた! がた!

 「だ、大丈夫かの?」

 「「「「「「お、お気遣いなく、陛下」」」」」」

 『『『『『『・・・天然ですか〜』』』』』』

 「今年も良いお茶が採れたの」

 「御意にございます。陛下」

 「「「「「「・・・・・」」」」」」 泣き笑い

  

     

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です。

 アメリカは参戦できない代わりに

 M26戦車を多めに生産です。倍くらい?

 最後は、日本租界保安警察の公平さが各国で認識されていたので

 我田引水にしてしまいました。

 公平は、器用貧乏のことで、欲張りすぎては駄目で、

 まぁ 名をとって実は一握り。

 中国大陸は、まだまだ動きがあり、

 中東もババを引いて予断を許さず。

 満州も中国・朝鮮・ユダヤマフィアの抗争が激化しそう。

 史実の国際連合は、

 この戦記で “地球連邦株式会社” という感じです。

 国際連合株式会社でも良かったのですが、

 この戦争で大戦を終わらせたいと、

 そんな気分です。

 ドイツ、ソビエトが本部を上海で賛成したのは、

 中国を踏み台とし、

 経済苦境を軽減できると計算したからでしょうか。

 この先も予測の範囲を超えてしまいそう。

 

 

 “国大なりと言えども、戦いを好まば、必ず滅ぶ”

 “天下安らかなりと言えども、戦いを忘れなば必ず危うし”

                     by 山本五十六 座右の銘

 実にすばらしい座右の銘です。

 “国大” ではなく “軍大” のような気もします。

 立場上、使えなかったのかも

 座右のまま行動できていたら名将だったのに・・・

  

 

 1946年以降、先行き不明ですが 架空戦記 『不戦戦記』 終わりです。

 さて、どんな音楽をイメージして作った戦記かというと。

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    楽 天 でした。

 

 

ランキング投票です。よろしくです。

NEWVEL     HONなび

 

 

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第15話 1944年 『わ・る・だ・く・み』
第16話 1945年 『もう、ひとりじゃない』 完結