月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『不戦戦記』

 

 

第15話 1944年 『わ・る・だ・く・み』

 満州 長春

 ソビエトの東支鉄道の南端。

 日本の南満州鉄道の北端。

 アメリカの南満州環状鉄道の北端。

 日米ソの3つの満州権益路線が長春で交差する。

 中東で起きた米ソ衝突は、満州に飛び火することなく未然に防ぐことができた。

 統制された軍隊は、本国の攻撃命令がなければ戦争に至らない。

 それでも、日本が仲介に立つことで現地の米ソ両軍の不信感を削いだことは特筆に値する。

 その功績が認められたのか、

 南満州環状鉄道が完成して余裕なのか。

 長春に至る南満州鉄道路線を挟んでいたアメリカ権益路線幅3kmを日本権益に変更してもらう。

 アメリカは、満州権益、中東権益が欲しいだけであり、

 いまのところソビエトとの戦争を望んでおらず。

 ソビエトも中東の油田と不凍港を得てインド洋に覇権を唱えようとしただけに過ぎず。

 アメリカとの対決を避ける。

 もっとも、米ソとも戦争で食べていくつもりはなく、

 対決は後回し、権益確保に専念したいだけだったりする。

 

 

 中国大陸は、いくつものグループに分かれていた。

 毛沢東 共産軍・朝鮮共産軍  BT戦車    支援国 ソビエト

 蒋介石 国民軍  1号戦車、2号戦車配備   支援国 ドイツ、ソビエト、日本、

 張学良 華北軍閥  クリスティー戦車    支援国 アメリカ、イギリス、ヴィシーフランス、イタリア、日本、

 甘志遠 華南軍閥  クリスティー戦車    支援国 アメリカ、イギリス、ヴィシーフランス、イタリア、日本、     

 そして、上海と租界の米英仏伊連合。M4中戦車、M3軽戦車。

 もっとも、戦車が並んでも運用の段階になると、中国・朝鮮共産軍は、維持管理能力が問われた。

 アメリカ・ドイツ・ソビエトから供給される消耗品と燃料によって、機能していたに過ぎない。

 当然、アメリカ軍が保有するM4戦車、M3戦車、J1戦車の方が強く圧倒的だった。

 アメリカ軍のやり方は、徹底して待ち、攻撃されたら反撃して気が済むまで前進。

 中国側と交渉して、有利な条件を引き出し、半分ほど後退する。

 後は、その繰り返しで地場が大きくなっていく、

 そして、地場が広がると、アメリカ軍が増え、

 日本への発注が増えていく。

 

 

 中東

 イラン

 クルド軍とアラブ軍の戦争は続いていた。

 トルコ、イラクにいたクルド人まで、イラン北方域に移り住むため、

 トルコも、イラクも内心応援していたりする。

 クルド人とイラン人双方とも権益線を越えての銃撃戦に発展し、

 アメリカ軍とソビエト軍も巻き込まれていく、

 

 イラク

 イラク軍は、ソビエトの支援を受けて武器弾薬が豊富なのか、

 アメリカ軍との戦いが続いていた。

 アメリカは、油田権益を得るため積極的に前進するものの、

 内陸の奥深くまで行くと勢いが弱まり苦戦する。

 

 アメリカ軍基地

 「三式指揮連絡機は、まだか?」

 「空母を総動員して運ばせています」

 「しかし、この暑さは、たまらんな。どうにかならんのか?」

 「日本人がジェラルミン製の網で簡易二重テントを持ってくるとか」

 「ほぉ 良さそうだな」

 「ある程度の広さがないと涼しくないそうで、軽いので移動させやすいと聞いてます」

 「砂嵐でも三式指揮連絡機を吹き飛ばされなくて済むでしょう」

 「何にしても、この暑さが凌げるのなら助かるね」

 「できれば盗難を防げそうなテントも欲しいものだ」

 「ここの連中は、油断できませんからね」

 「まったく。アラビアンナイトの世界らしい。盗賊ばかりだ」

 

 

 満州

 アメリカ軍は営口から直接鉄道を打通線に繋げ、

 南の奉天・北の長春駅を基点に巨大な環状線を建設。

 アメリカ軍の駐留は、満州に治安と経済効果をもたらし、

 朝鮮人や漢民族が周囲に集まり始める。

 そして、日本も拡大した権益。遼東半島から長春まで5km幅を利用し、

 水路を引き区画整理、農地や商業地帯を整備し、転売を繰り返していた。

 路線と沿線沿いの付加価値が相乗効果をもたらし、

 徐々に収益を伸ばし、

 権益内だけでも自給自足体制が作られていく。

 沿線経済を引き上げたのは、ドイツとソビエトから逃げてきたユダヤ人だった。

 日本政府がユダヤ人を満州鉄道沿線に居住させても良いとしたのは善意でなく、

 馬賊や匪賊に対する防波堤。

 ユダヤ人がコミュニティを自衛すれば、南満州鉄道の治安維持につながる。

 そして、アメリカのユダヤ資本が飛びついて金の流れが作られ、

 ドイツから一人いくらでユダヤ人が買われシベリア鉄道で満州まで流れてくる。

 ドイツもユダヤ人を売って戦争資金になるのであればと、アウシュビッツから引っ張り出し、

 シベリア鉄道へと乗せてしまう。

 これがドイツを強靭にさせ、

 イギリスを苦しめる。

 嫌われ者のユダヤ人は、例え、ドイツを助けることになっても同胞を助けたいと思ったり。

 いや、ドイツを打倒し、同胞を助けたいと思ったり、

 いろいろ。

 満鉄沿いのユダヤ人が増えるに従い、

 満州鉄道の治安と経済収支は著しく好転し、

 漢民族も再建された張学良の奉天軍に搾取されるより、

 日本の権益線内に住む方が安全なのか住みたがり、

 収穫率が良く、成功したりする。

 「しかし、すごく多いな、ユダヤ人って、何人ぐらいいるんだ?」

 「さぁ 2、300万くらいいるんじゃないか?」

 「それが全部来るのか?」

 「さぁ」

 「だけど、漢民族、朝鮮民族、満州民族、回族、ユダヤ人」

 「日本人、ロシア人、アメリカ人か」

 「滅茶苦茶な民族編成だな。混沌・・・」

 「雑多で面白いけどね」

 「面白いか?」

 「雑多な方が戦争になり難い」

 「民族紛争ばかりだろう」

 「満州で統一国家が建国されるより」

 「雑多なままの方が良いと思うよ」

 「その方が軍事費をケチられるか」

 「日本の軍事費の占める割合が12パーセントは、少ないと思うよ」

 「本当はもっと多かったけど」

 「経済成長が早すぎて目減りしたんだ」

 「良い傾向だよ」

 

 

 ドイツ ベルリン

 イギリス本土上陸後、

 ドイツ本国への爆撃は、行われていなかった。

 それ以前でもドイツ本国への爆撃は、困難で、ほとんど行われていない。

 おかげで、被害は、修復され、

 整然とした大理石作りのゲルマニアが建設されようとしていた。

 「「「「おおお〜!!」」」」 日本人労働者たち

 ワビサビな日本人の感性だと感心するが感銘はしない、

 日本人労働者が休日で地下工場から出され、

 ベルリン市内の観光案内がされていた。

 ドイツ人たちは、過酷な労働条件で、不平も言わず働く日本人が異様に見えたのか、

 遠巻きにヒソヒソと見守る。

 「あんな子供を働かせているなんて・・・」

 「あれでも、大人らしいよ」

 「うそ、中学生じゃないの?」

 「そんな、いくらなんでも大人だって・・・」

 実のところ、日本の労働条件レベルだと過酷でなく、楽勝だったりする。

 これで、高給なのだから、日本人は、かなり嬉しい。

 技能を持ち、軍務に服するとさらに高収入。

 その手の技能者は、そっちに行きやすかったりもする。

 ドイツ帝国は、日本人を働かせることで、日本の参戦を防いでいたので待遇は良かった。

 日本も将来の日独関係で有益な取引できるよう、

 大学出や物覚えの良い人間ばかり選んで送り込んでたりする。

 「ドイツ人って、でかいよな」

 「足なげぇ」

 「正月でもないのに、あれだけ肉、キャベツ、ジャガイモ、ソーセージ、ハム、食ってたらでかくなるよ」

 「卵も付いてるし」

 「でも、ご飯も欲しいよな」

 「うんうん」

 「南の方で水田作ってみるらしいよ」

 「「「「おおお〜!!」」」」

 「やっぱり、味噌、醤油だぜ」

 「で、この絵は何?」

 「・・・ルーブル美術館から持ってきたってよ」

 「「「「ふ〜ん Ich bin schrecklich (すご〜い)」」」」

 

 

 ドイツ軍占領下のロンドン

 4発爆撃機の水平爆撃は、命中率が低い。

 無駄弾が多過ぎて費用対効果で怪しかったりする。

 数を揃えて都市の絨毯爆撃が効果的運用であげられる。

 もちろん、こんな戦争ができるのは大国だけ。

 貧乏な国は、命中率の高い急降下爆撃でピンポイントが良いに決まっている。

 そして、4発爆撃機を揃え、陣地攻撃は、あまりにも非効率。

 この時期、ロンドンのドイツ軍陣地を爆撃するより、

 ドイツ本国を都市爆撃すべきという意見もあった。

 しかし、ロンドンのドイツ軍を潰せばドイツは立ち直れない、

 という感情的な意見もあったりする。

 結果的にムスタングとB17爆撃機は、

 ロンドンのドイツ軍陣地と大陸沿岸施設を爆撃するため投入される。

 ムスタングは、メッサーシュミット、フォッケウルフの迎撃を排除し、

 爆撃部隊の進入路を抉じ開け、

 B17爆撃機は、ドイツ軍陣地の爆撃を繰り返した。

 爆撃でロンドンが崩れ落ち、大地がえぐれていく、

 建物と建物の間、車両の周りを土嚢で囲み、

 砲塔だけを出した最強戦車タイガーが川向こうを睨む。

 155mm榴弾の支援砲撃が、稜線の向こうから撃ち出され、

 タイガー戦車の周りに降り注ぎ、

 周囲を瓦礫に変えていく。

 それほど大きくない川だと、戦車の登坂能力で普通に渡りきれた。

 しかし、脆弱な上部装甲は、長距離でも簡単に撃ち抜けた。

 タイガー戦車の56口径88mm砲が火を噴くと、先頭のM4戦車が上部装甲を貫かれて爆発。

 生き残ったM4戦車は、破壊されたM4戦車を避けつつ、52口径76mm砲で反撃し、突進してくる。

 砲撃でタイガー戦車を守る土嚢が突き崩されていく、

 世界最強のタイガー戦車を土嚢の内側に隠れさせている原因。

 それは、川向こうの稜線に居並ぶM4戦車の大群で、

 52口径76mm砲でも至近距離の直撃だと、タイガー戦車も撃破される。

 多勢に無勢だとタイガー戦車も負けるため、包囲されないように建物の間に潜ませる。

 タイガー戦車がM4戦車10両を撃破したとき。

 生き残ったM4戦車は目の前に迫っていた。

 至近距離からM4戦車の砲がタイガー戦車を射抜こうとしたとき、

ドイツ軍 IV号戦車H型 後期生産型 (1943年4月〜1944年2月)

 隠れていた4号戦車6両がM4戦車の側面を砲撃して撃破していく。

 しかし、それでも生き残ったM4戦車群に押し切られそうになったとき、

 建物の中から白煙の軌跡を曳いた砲弾が飛び出し、M4戦車を撃破した。

 「やったぁ〜♪」

 「これ面白いな。パンツァーファウスト」

 使い捨ての対戦車ロケットランチャー。

 複数回使えるパンツァーシュレックも開発生産され、

 遮蔽物の多い市街戦で有効だった。

 「ほら、まだ来るぞ」

 「ああ」

 ドイツ軍兵士がパンツァーファウストでM4戦車を破壊すると、

 イギリス軍兵士もバズーカーを発射して4号戦車を撃破。

 M4戦車の突撃と砲撃戦に合わせて、イギリス兵士の攻撃も始まっており、

 銃撃戦と狙撃戦も加熱する。

 ドイツ軍の侵攻は、ロンドンで止まっていた。

 タイガー戦車、パンター戦車は紛れもなく世界最強の戦車だった。

 しかし、空襲は頻繁に繰り返され、稜線の向こう側から155mm砲弾が降り注ぐ、

 M4中戦車・M5軽中戦車の数が多過ぎて、地の利を行かせる現状に留まるしかなく、

 ロンドンより先に進めない、

 ドイツは、可能ならイギリスと講和を結びたいと考えるが戦闘が継続していた。

 イギリス空軍の空襲に対し、ドイツ空軍の迎撃も繰り返される。

 スピットファイア、ムスタング、サンダーボルトと、

 メッサーシュミット、フォッケウルフの空中戦が行われない日が珍しく。

 ロンドンは、毎日のように爆撃されていた。

 補給で不利なドイツ軍は、防戦一方で攻めが続かない。

 それでも、ドイツ空軍は、橋頭堡に乗り上げたイギリス戦艦4隻に1トン爆弾を命中させて爆破し、

 無力化させることに成功する。

 しかし、ドイツは輸送船が少なく、

 最短距離で輸送できても物資は不足気味だった。

 大陸から海峡を越えて1隻の大型上陸用舟艇がイギリス本土の海岸に乗り上げ、

 そして、1両の戦車が海岸に降ろされた。

 「こいつはでかいな」

 「試作のキングタイガーだってよ」

 「良く運べたもんだ」

 「特注の大型上陸用舟艇だよ」

 「戦車に希少金属をたくさん使っているから、見た目より重くないさ」

 「重いわい」

 

 

 ロンドン上空

 ムスタング1機とメッサーシュミット1機が空中戦を繰り広げていた。

 ロッテ戦が当たり前の時代、

 単機同士の空中戦は珍しく、双方の将兵たちが見上げていた。

 「よう、今日は敵も静かなようだ」

 「いくら国土を踏み荒らされても、少し休みたい時があるだろう」

 野戦郵便隊のトラックが回ってくると、将兵が浮足立ち、

 家族からの手紙を心待ちにする。

 「・・・手紙だ。さっきの舟艇で届いたそうだ」

 「ほう・・・」

 ドイツ軍将校は、ようやく届いた家族からの手紙に魅入る。

 「・・・この戦争はいつまで続くんだ?」

 「さぁあな」

 「聞くところによると、アメリカの戦艦8隻がイギリスに売却されたよ」

 「本当か?」

 「ニュー・メキシコ、ミシシッピ、アイダホ、テネシー、カリフォルニア」

 「コロラド、メリーランド、ウエストバージニア」

 「良く売ったな」

 「新型戦艦が揃ったからだろう。日本も大人しいし」

 「どうやら、アメリカは、本気でドイツ軍をイギリスから叩き出したいらしいね」

 「ドイツ艦隊は?」

 「まだ修理中だ」

 「動かせそうなの地中海のストラスブールとダンケルクだけ」

 「本当かよ〜」

 「イギリス艦隊は?」

 「新型戦艦が1隻増えたらしい」

 「4隻だが、3隻は修復中」

 「もう、戦車より戦艦を建造すべきだな」

 「いや、それは困る」

 将校は、試作生産されたばかりのキングタイガー戦車に頬ずり、

 「んん・・・ヴィシーの動きも気になるし」

 「ソビエトの動きも気になる。大丈夫かな」

 「戦艦リシュリューがヴィシーフランスに返還されるらしい」

 「アメリカがヴィシーフランスに梃入れし始めると。やばくなるそうだ」

 「そりゃ まずいだろう」

 「まずいな」

 しばらくするとムスタングとメッサーシュミットは、機銃を打ちつくしたのか、

 互いの機体をバンクさせて離れていく、

 『『なにやってんだよ』』 ドイツ軍 & イギリス軍

 「・・・とにかく、イギリスが購入した戦艦8隻はまずい」

 「ああ、制海権を失う」

 「どうするんだ?」

 「さぁ・・・」

 

 

 イギリス グラスゴー

 日本人労働者が休憩で地下工場から出てくる。

 「なんか寒いな」

 「500kmくらい南は戦場なんだと」

 「爆弾は、まだ落ちてこないか」

 「あれ、落ちて来ないかな。V2ロケット」

 雑誌を見せる。

 「当たったら、どうするんだよ」

 「おみくじにさえ、当たったことねぇよ」

 「まじぃ おれ、大吉当たったことあるよ」

 日本人労働者たちは、大吉男から離れていく。

 「お〜ぃ!」

 「だけど、爆撃機の数が、すげぇな」

 「滑走路に200機くらいか」

 「エンジンが4つも付いているなんて、お金持ちだな」

 「戦闘機は?」

 「戦闘機は、爆撃機を守るから、もっと南の飛行場になるんじゃないか」

 「おっ! 戦闘機だ」

 イギリス軍航空基地にムスタングが着陸。

 右翼に7.92mm弾の穴が開いていた。

 日系人が駆け寄ってくる。

 「スギタ。大丈夫か?」

 「翼がちょっとな・・・」

 「連携断っただろう。司令が剥れてたぞ?」

 「ちっ!」

 「あのメッサーシュミットのやろう。また勝負が付かんかった」

 「向こうのエースだってよ」

 「スギタが相手してくれるなら被害が減って助かるそうだ」

 「撃墜できんのなら金にならねぇ」

 「じゃ 何で行くんだよ」

 「いやぁあ〜 何となくな」

 

 

 赤レンガの住人たち

 少しばかり落ち込んでいた。

 少しばかりというのは、思ったより少なかった。

 しかし、それほど酷く、少ないわけでもない程度。

 海軍マル6計画。

 優先すべきは航空機であり、

 最大公約数的に効率よく海軍再編していく必要もあった。

 「・・・どうするかな」

 「戦闘機と4発爆撃機だろう、それと潜水艦」

 「それで戦艦を撃沈できるのか?」

 「フリッツXが欲しいな」

 「赤外線を追尾するロケットなら微妙だが作れそうだぞ」

 「やっぱり、図上演習で言うと4発爆撃機と潜水艦だな」

 「水上艦艇は?」

 「軽巡でいいんじゃないか、租界にも送れる」

 「戦艦と空母は?」

 「この予算じゃ造れね」

 「仮に造っても図上演習みたく、面白くない結果になるよ」

 「敵艦隊攻撃で効率がいいのは、4発爆撃機で飽和攻撃か・・・」

 この頃、ドイツとイギリスに傭兵を送っていた日本は戦訓を得やすかった。

 頑丈な機体の強みが強調されていた。

 機体が頑丈であれば、弾幕を突破して敵艦隊に突入しやすく。

 パイロットが無事であれば、機体を替え、再攻撃も可能になる。

 建造し損なった10000トン級伊吹型を改良した軽巡洋艦8隻。

 2500トン級潜水艦8隻の建造が決まってしまう。

 

鞍馬型 巡洋艦

排水量(t) 全長×全幅×吃水(m) 馬力(hp) 最大速力(kt) 航続力(kt/海里) 武装 水上偵察機
10000 180m×18m×5.95m 80000 32 16/13000 60口径155mm3連装×3基 60口径37mm連装×12 爆雷投射機×4 4機

 「「「「・・・・・」」」」

 「微妙だな」

 微妙だった。

 「魚雷は?」

 「対潜巡洋艦?」

 「怖いのは、上海の航空機と潜水艦だそうだ」

 「そりゃ 満州・上海に配備された航空戦力と潜水艦は洒落にならないけどね」

 「B17爆撃機を撃墜できるの?」

 「そりゃ 60口径155mm砲だから、当たれば落ちるよ」

 「レーダーは?」

 「逆探も赤外線探知機も一緒に艦橋の周囲に配置したからね」

 「かなり良いはずだよ。さすがイギリス製」

 「球状艦首は良さそうだけど」

 「ソナーもイギリス製をコピーしたから良さそうだ」

 「電探が八木アンテナから来てるのは、冗談?」

 「いや、本当」

 「はぁ〜 舶来神話ばかりで足元を見ないからだ」

 「権威主義だと。ありがち、ありがち」

 「だいたい、日本の空母が何でアメリカのために飛行機を運ばねばならんのだ」

 「イギリスとアメリカに頼まれて “運ぶだけなら良いよ” と、陛下が言ったから」

 「自分の空母で運べよ」

 「自分の空母で運んでいるのは、自国製の戦闘機だろう」

 「日本に見せたくないのは当然」

 「鞍馬型は、何隻ぐらい造るつもりだ?」

 「さぁ 年間2隻ずつ建造していくけど予算しだいだね」

 「駆逐艦は?」

 「日本の周りは、時化やすいから」

 「耐波性とか、作戦能力とかで、こっちが有利だそうだ」

 「それに艦隊駆逐艦どころか、このままだと」

 「吹雪型23隻、初春型6隻もディーゼル機関に換装だ」

 「魚雷を剥がして雑役艦に改装だよ」

 「頭いてぇ〜」

 「まぁ 戦艦を通商破壊戦艦に改装した時点で艦隊駆逐艦の役割も変わったようなものだけど」

 「戦艦を護衛する任務から離れられたのは、良いと思うよ」

 「だけど、空母からの空襲が怖いな」

 「戦艦は、値崩れ起こしてないか?」

 「そりゃ 上海から日本本土を直接爆撃できるなら、戦艦なんて・・・」

 「対艦隊攻撃の主力は、4発爆撃機か」

 「あとは、B17爆撃機を撃墜できる迎撃機だな・・・」

 「軍艦作れねぇ〜」

 「計算上、あと、10年くらい、大きな戦争はないと思うよ」

 「だからって、軍事費削減されたら、おまんま食い上げだよ」

 「そうそう、子供にいい格好したいし、良い服も買ってあげたいし」

 「物価も上がってるしね」

 

  

龍号型 巡洋潜水艦

排水量(t) 全長×全幅×吃水(m) 水上/水中 馬力(hp) 水上/水中 速力(kt) 水上/水中 航続力(kt/海里) 安全深度 武装
2500 100m×9m×5.40m 4000/5000 16/15 21000/165 140 53mm魚雷×6 60口径37mm連装×2

 潜水艦はUボート技術に負うところが大きかった。

 ドイツも日本にアメリカを牽制して欲しいのか、技術的な制約は低く。

 イギリスに捕獲され、知られている技術なら金次第。

 「潜水艦は、良さそうだな」

 「水上機の格納庫がないと安全深度も深くしやすい」

 「だけど、まだ、ドイツのXXI型に負けているってよ」

 「もう良いよ、あそこは、別世界の国だから」

 「艦橋に格納式の機関砲って、どの程度?」

 「浮上して、すぐ撃てるのが強み」

 「まぁ 上海にアメリカ空軍基地を作られたのが悪い」

 「だよな・・・」

 「アメリカは、大運河の幅を5kmくらい、浚渫して広げている」

 「太(タイ)湖より、水深が深いくらいだ」

 「それと、上海全体を高地にして要塞化している」

 「金持ちはやることが違うね」

 「無茶苦茶するな・・・」

 「“リメンバーシャンハイ” で、何やっても許されると思っているんだよ」

 「国際法違反とか、虐殺は、犯罪者認定で」

 「無差別爆撃とか、占領を正当化させる口実になるからね」

 「というより、アメリカ国民の自発的、積極的な世論がそうなっているからね」

 「全体主義で押し付けられた強制、消極的な動機じゃないから強いよ」

 「日本も、アメリカの挑発に乗らないようにしないとな」

 「蒋介石が日本政府に支援を求めているらしいよ」

 「まず匪賊を片付けないと話しにならんよ」

 「日本人も被害にあってるし」

 「日本は、景気が良くなった途端、犯罪が減ってるし」

 「中国も、豊かになれば変わるんじゃないか」

 「衣食住足りて礼節?」

 「欲の深いやつは、衣食住が足りても財産を増やそうとするよ」

 「人を踏み躙っても、子供から金を巻き上げてもね」

 「そういう人間が多い国は、匪賊が増えるんだよ」

 

 

 

 ギリシャ ドイツ地中海艦隊

 戦艦ダンケルク、ストラスブール

 旧戦艦プロヴァンス

 軽巡ド・グラース

 総数、水上機母艦1、駆逐艦28隻、潜水艦16隻、小艦艇18。

 ドイツ地中海艦隊は、ツーロンをフランスに返還。

 ギリシャへと移動していた。

 元々、アメリカ戦艦部隊を突破するのは困難と諦めてギリシャ配備。

 アテネ港からエジプトを制し、

 スエズを奪う魂胆だったが状況が変わっていた。

 中東の米ソ衝突に誘発され、

 ドイツ軍のイギリス本土上陸作戦が始まると、エジプト攻略は後回しにされてしまう。

 イギリス本土への輸送作戦で、ドイツ地中海艦隊の乗員は、引き抜かれ、

 日本人の元海軍兵士が増えていく。

 

 そして、イギリス海軍もドイツ地中海艦隊に関わっていられない。

 マルタに戦艦ペンシルヴァニア、アリゾナ。

 ジブラルタルに戦艦オクラホマを配備しただけ、

 それ以外は、イギリス本土決戦に集中していた。

 そして、ドイツ軍も日本人傭兵の力を認めたのか、期待する。

 金だけの計算で済む傭兵は、死傷者を出しても、心が痛むこともなく、

 予算しだいで使いやすかった。

 日本人傭兵部隊が稼いで日本本国に送る外資・製品は、日本を史上空前の好景気にさせていた。

 そして、フランス駆逐艦でアメリカ戦艦を撃沈すると妙な現象も起こる。

 端的に書くと

 “ドイツ人が日本人に金を払って、フランス人の誇りを回復させてしまう”

 というもの。

 ドイツ軍の軍服を着た日本人少尉が、

 拙いフランス語でフランス製駆逐艦を褒めるとフランス人は嬉しがる。

 西地中海沖海戦の映画が作られるという。

 フランス人は、日本人が指揮を執っていたことを知っている。

 しかし、現実がどうあれ、映像がどうあれ、

 日本とドイツは、公に認めるわけにはいかず。

 それでも中立国をいい事に

 ヴィシー・フランス人は、エーゲ海でカメラを回していたりする。

 撮ったフィルムは、一度、ドイツ軍に預けられ、

 戦後、戻すことになっているらしい。

 ふてぶてしい国民性なのだろう。

 フランス人たちが艦橋に手を振って帰っていく。

 愛想で振り返すと喜んだりする。

 「ちっ! カタツムリやろうが」

 「エスカルゴは美味かったですよ」

 「フランス人は、美味い物を食い過ぎて堕落して負けたのだ」

 「なるほど・・・」

 「ナグモ。勝てると思うかね?」

 「戦艦2隻にですか?」

 「護衛艦は10隻程度」

 「夜襲で突撃すれば、撃沈に至らなくても大破くらいと思います」

 「ですがマルタ港に閉じ篭られたら」

 「こちらは、駆逐艦。要塞砲と航空機の餌食ですよ」

 「我々は、駆逐艦だけで戦艦を撃沈できるとは思わなかったのだ」

 「もし知っていたのなら、ギリシャなどに配備されていない」

 「魚雷が何本も命中したら戦艦でも沈むでしょう」

 「そりゃ そうだが・・・」

 『このバカたれが近付く前に砲撃で全滅するだろう』

 『誰でも、そう考えるわい』

 ゴホン!

 「もし我々がエジプトに対し攻撃をかけた場合」

 「マルタの艦隊は出てくると思うかね?」

 「そりゃ 出撃してくるかもしれませんが上陸部隊を編成できたので?」

 「いや、フェイク」

 「いくらなんでも、フェイクじゃ出てこないでしょう」

 「・・・」

 ドイツは、イギリス本土に集中していた。

 余力は、対ソ戦とヴィシーに備えて身動きがとれず・・・

 「航空攻撃は、ほらネルソンを撃沈した」

 「あれもイギリス配備だ」

 「それに600km先のマルタまで援護できる戦闘機はない」

 「・・・・」 ため息

 駆逐艦で要塞攻撃は、ありえない。

 どこまでも青い空、白い壁、エメラルドグリーンのエーゲ海。

 日差しは暖かく、

 日本人傭兵部隊を和ませてしまう。

 1931年の満州事変以降の軍縮は、陸軍の縮小。

 そして、1932年の5・15事件以降は、海軍も標的となって縮小。

 海軍は、相次ぐ予算縮小で新造艦を建造できず。

 旧式艦を手放し、

 あるいは、雑役艦へと改装していく。

 目減りしていく艦艇で、必要な新兵獲得と居座る古参兵の狭間で衝突も起こる。

 農地改革と経済成長で余裕ができても違う職場は抵抗があった。

 地上勤務と艦隊勤務の交代制で練度を維持しても予算の割り振りも厳しくなっていた。

 イギリス、ドイツへの義勇軍派兵は、この古参兵と新兵の問題を軽減させてしまう。

 法外な給与、一時金、待遇。見舞金、遺族年金・・・

 さらに戦果をあげれば、海軍教育部へ転向して世生も安泰。

 乗らない手はない、

 そう思った日本の古参兵は多かった。

 フランス製艦艇も基本的な構造は似ており、

 単従陣など、最低限の艦隊運用は可能になっていた。

 ギリシャに配備されたドイツ艦隊は、存在しているだけで、スエズ運河を使用不能にさせてしまう。

 辛うじて通過できるのは中立国船だけであり、

 当然、行き先は、中立国スペイン、イタリア、ヴィシーフランスに限られ、命の補償もない。

 

 

 

 中東

 アメリカとソビエトはクルド・アラブ紛争に巻き込まれながらも宣戦布告せず中立を維持する。

 結果的に米ソ権益紛争は、小競り合いのまま収束していきそうな気配をみせていた。

 ソビエト軍は、ドイツ軍が気になって強力な兵団を欧州側に残したままで、強引な南進ができず、

 アメリカも中国情勢が気になって中東で本気になれず、

 またイギリス救援のためソビエトと本格的な衝突を避けようとしていた。

 米ソの戦略的な駆け引きは地球規模で計算され、

 両国とも自国だけの戦力で戦争するような低い視野も矮小な戦略も持ち合わせていない、

 つまりドイツが願うような米ソ戦争に至らず。

 ドイツは、イギリス本土に戦力を注ぎ込めない状況が続く、

 

 

 中国

 アメリカ、イギリス、フランス、イタリア人の中からシャンハイ市長が選出されていた。

 当然、建前的な議題も上がる。

 「君たちの中に飛行機を使ってアヘンをばら撒いている人間がいるようだが」

 「市長。言葉は、もっと選ぶべきでは?」

 「名誉棄損、営業妨害ということもありますよ」

 「無駄な支出は避けたいと思っている」

 「しかし、予算をかけられないわけではない」

 「予算をかければ、本格的な調査を行えると思うがね」

 「・・・・」

 「・・・・」

 「アヘンの売買は中国軍閥じゃないですか?」

 「中国軍閥に飛行機とアヘンを渡しているのではないかな」

 「そりゃ 資源と交換なら飛行機は売りますよ」

 「アヘンと関わっていないと?」

 「むろんです」

 無差別爆撃は爆弾だけと限らない。

 より深刻な損害を恒久的に与えようと思うなら、命を失わせ体に障害を負わせる爆弾より、

 心を打ち砕き、精神を病ませ、性根を腐らせるアヘンだった。

 通常の国ならほとんど焼き捨てられる。

 しかし、絶望した国では、使われやすかった。

 「・・・どちらにしろ “リメンバーシャンハイ” で、彼らの人権は、ないも同じなんですよ」

 「だがね。彼らの労働と消費は、我々にとって有益なのだ」

 「そうとばかりは言えないでしょう」

 「列強が軍事力だけで、これだけの中国権益を得られたと、そう、お思いか?」

 「・・・無論、車の両輪には違いないがね」

 「無差別にやられては困る。アヘンは統制されるべきだ」

 「中国人が統制を望んでいないのなら、何をやっても無駄ですよ」

 「」

 「」

 “リメンバーシャンハイ” で得た権益を市場と考える金の亡者と、

 “リメンバーシャンハイ” を復讐と考えるリベンジャーは対立していた。

 

 

 アメリカ軍の租界拡大方法は、フィリピン人、黒人、朝鮮人を利用する。

 危ないところに追いやると、山賊や匪賊に襲われる。

 それを口実に権益を拡大して、鉄道や炭鉱など制していく。

 後は、それの繰り返し、

 実のところ、中国もアメリカの謀略を見抜いていた。

 もっとも、有史以来、どの歴代王朝も貧しい民衆に山賊や匪賊をやめさせるなど不可能で、

 それでも国民軍は1号戦車、2号戦車で権益線の民衆を監視し、

 匪賊行為を同族同士に制限させようとする。

 国民軍の保有する戦車は推定、1号戦車400両、2号戦車400両といったところ。

 代価は、希少資源で支払われ、

 最近、3号戦車を見かけるという。

 そして、共産軍にはBT戦車が配備され、

 こちらも、徐々に力をつけようとしていた。

 しかし、圧倒的なのは、アメリカ軍で、戦車総数は5000両を超え、

 M4戦車、M3戦車、JI軽戦車を配備し、

 南満州を守り、揚子江を南北に分断していた。

 これがリメンバー・シャンハイと、その後の謀略戦の顛末だった。

 アメリカ租界に周りを囲まれた日本租界は、不思議と治安と景気が良くなってしまう。

 公道は、生殺与奪権を握られているだけで普通に通過できた。

 揚子江の停泊地があれば孤立しているわけでもなく、

 そして、日本で生産した方が利潤が小さくて済むせいかアメリカ相手に儲かっていた。

 上海 日米協議。

 「ノムラ大使。黒部ダムは上手く行ってるのかね?」

 「えっ まぁ 上手く進んでいるはずですよ」

 「再来年には完成でしょうか」

 「それは素晴らしい」

 「では、その技能を生かせますな」

 「はて?」

 「日米中共同で、この揚子江にダムを作りませんか?」

 「ダムですと?」

 「巨大なダムを作って中国を南北で分断」

 「日米中で利権を分けるのはどうです?」

 「そりゃ 公平に分けていただけるのでしたら検討しますが」

 「この99年の租界ダム建設契約で」

 「蒋介石に上海割譲を認めさせていただきたいですな」

 「電力供給で、中国軍を強力にしてしまうのでは?」

 「99年間は、電力を押さえて生命線を断ち切れるのにですか?」

 「しかも中国を南北に分断できて大型船も乗り入れできる」

 「確かに上流に行くと小型船に乗り換えるのは不便ではありますがね」

 「もの凄いお金持ちになれるぞ」

 『それが本音ですか』

 「・・・中国に工場が作られて、アメリカに輸出されるようになってもですか?」

 「上海で出口を押さえられるのならかまんよ」

 「しかし、ダムとは・・・」

 「どの道、自分達で作ってしまうのなら、こっちでやるべきだろう」

 「いまなら都合良く利権を広げられる」

 『こいつ、金に目が眩みやがって、日本に悪巧みの片棒を担がせる気だな』

 「しかし、蒋介石がダム建設の権益で上海割譲を認めるでしょうか?」

 「だから、彼らに利権が配分される」

 「彼らにとっても、大変な利益になるだろう」

 租界外周で匪賊と対峙するアメリカは、大軍を中国に駐留させられないと実感していた。

 それならば守る利権を防衛しやすい一ヵ所に集中し、

 日米中共同利権であれば、日本の協力も得られ、

 同時に中国にとって重要な施設であるべきだと計算する。

 アメリカは、それで上海割譲とダムの99年権益まで得ようとする。

 目聡いのだろう。

 上海は、商人を除き漢民族が住んでいない。

 追い出された上海の漢民族はアヘンを手に中国各地に散っていた。

 正気な人間に見つかって捕まればよし、

 しかし、一部は、豪族と化して中国を衰弱死させる片棒を担いでいた。

 というわけで、上海は事実上、アメリカ領土といっても差支えない、

 とはいえ、日本も再来年に黒部ダムが完成してしまう。

 巨大プロジェクトが終わると、1000万に膨れ上がった建設業者が巷にあぶれてしまう。

 既に工事の多くは山場を過ぎて、縮小段階になっていた。

 もっとも、黒部ダムの建設場から建設業者があぶれても不況は免れそうだった。

 諸外国からの外資、送金で住宅建設は好景気。

 農地改革は区画整理さえきちんとすれば、売りやすい土地、買いやすい土地が増え、

 民間の建設業務も増えていく傾向にある。

 しかし、政府主導の巨大プロジェクトは、社会資本・人材・資財を奪い民間活力を塞いでしまう。

 日本政府は、黒部ダム完成後、緊縮財政で民間活力に社会資本を吸収させるか。

 積極財政を継続して日本縦断高速鉄道に向かうか、躊躇していた。

 周りは欲と利権に目が眩んで、やいのやいの言っても、

 政府は、小さな政府と大きな政府の判断が常に付きまとう。

 陸軍と海軍が利権で膨れ上がり、

 それ以外の可能性を閉ざしそうになった記憶は新しく、

 陸海軍が親方日の丸で癒着構造が大きくなり、

 採算性とサービスが低下。

 尊大、我が世の春で軍人が暴走しかけたことも事実で、

 日本政府が不祥事の問題で陸海軍を切り崩さなければ、

 日本全体が軍事費で食い潰されていた可能性もあった。

 しかし、ここで、アメリカと共同利権を確保できるなら、

 日米の利害関係は一致してしまう。

 絆が強くなれば、軍事費も手抜きできた。

 しかもアメリカ資本の担保付なら中国投資のリスクも小さくできそうだった。

 「どうです? ノムラ大使」

 「わかりました。ハル長官。政府に伝えて、検討してもらいます」

 アメリカにケンカを売ってはいけない。

 アメリカにケンカを売った中国は “リメンバーシャンハイ” で多くのモノを失っていた。

 中国が再建を目指すなら、その電力は有益だった。

 近代化も可能といえる。

 漢民族がアヘンから立ち直り、

 モラルと識字率と信頼関係が高くなれば、自動的にそうなっていく。

 

 

 重慶 日本租借地

 蒋介石国民軍側の日本の租借地は、軍事的な戦略拠点になろうとしていた。

 地下を採掘して得た石炭を燃やして発電し、

 揚子江を汲み上げ濾過しながら上下水道を作る。

 送電線を伸ばし、照明を照らし、文化的な環境を作ってしまう。

 これといった戦力はなかったものの、国際情勢によって守られていた。

 アメリカは、日本と妥協しつつ、上海割譲を要求している

 それを防ぎたい蒋介石・国民軍は、採掘した鉱物資源を日本に供給し、

 日本の租借地を略奪から守りつつ、日本に対米仲介の圧力をかけて行く。

 重慶の租借地からDC3が台湾経由日本本土行きで飛び立っていく、

 中国人の気質に文句を言い、被害者を出しながらも、

 なぜ空路を作って日本と重慶を往復するのか。

 5トンの積荷の価値は、人に言えないほど大きく。

 何が載っているかというと金塊(1g=約2円)。宝石、財宝などの類。

 世の中、金とは言わない。

 しかし、毎日の生活で生産活動を行って金を作り、消費しなければ人は生きていけない。

 危機的状況にある中国軍は、金と資源に任せて武器弾薬を揃え、体勢を立て直していく。

 数百万丁の38式小銃が中国軍閥の手に渡って、アメリカ軍の進撃を躊躇させる。

 1丁を80円で計算すると、

 200万丁だと1億6000万で大和建造費1億4000万を超える。

 さらに上乗せ分と手数料と運送費が加算され、日本経済を潤おしていた。

 重慶 日本租借地

 「アメリカは、中東の油田を押さえ」

 「日本が中国から集めた金塊を燃料を買わせることで、吐き出させるつもりのようだ」

 「東南アジアの重油25パーセントでやりくりするしかないよ」

 「足りればいいがね」

 「どの道、アメリカに上海を押さえられた時点でチェックメイトだろう」

 「それは、日本のせいとは言えまい」

 「“リメンバーシャンハイ” を起こしたのは、中国人だからね」

 「日本人が逃げたからだと中国人は、言ってるぞ」

 「日本人が上海に踏みとどまって、第19路軍の犠牲になれば良かったと?」

 「中国人は、その方が嬉しかっただろうね」

 「それで、上海が日本の手に入るのなら嬉しいがね」

 「日本軍だと軍事予算欲しさで大陸に深入りしそうだな」

 「国益より軍益?」

 「そういう連中だよ」

 「あの当時は、そういう風潮だった」

 「どいつもこいつも権威を振りかざしたバカ軍人ばかりで、軍隊と警察の衝突も珍しくなかった」

 「元々、天皇の権威で倒幕して打ち立てた明治維新だし、権威に頼って捻じ伏せるしかなかったからね」

 「それより、この租界地、大丈夫なのか?」

 「一応、採算に乗りそうだな」

 「穴蔵ホテルは、刑務所の個室より広いぞ」

 「例えが酷いな」

 「中国旅行の宿泊地になりそうだ」

 「空路で、ここで降りて、四川の旅」

 「僻地だろう」

 「上海、漢口より温暖多湿、霧は多く」

 「年間日照時間は1000時間前後」

 「暑くて湿っぽそうだな・・・って、1日3時間ねぇぞ」

 「揚子江降りもできる」

 「青魚(アオウオ)、草魚(ソウギョ)、黒連(コクレン)、白連(ハクレン)も釣れるぞ」

 「資源がなけりゃ、こねぇよ」

 「なにをいう、かまぼこを作ったら重慶で売れたぞ」

 「大人気の白黒パンダもいるぞ」

 「あ、そう」

 民間人を養いそれなりの収益を上げられても、

 高価な軍事力を維持するには足りない、

 

 

 イギリス戦艦4隻とドイツの戦艦5隻はドーバー海峡海戦で大破し、ドックで修理改装中だった。

 イギリスもドイツも年内で改装を終える戦艦は1隻もなく、お手上げ。

 イギリスは空母インプラカブル、インディファティガブルが揃って就役したのが救いでも慣熟訓練中だった。

 ここで、イギリスが購入した戦艦ニュー・メキシコ、ミシシッピ、アイダホ、テネシー、

 カリフォルニア、コロラド、メリーランド、ウエストバージニアの8隻は旧式でも戦艦だった。

 ドイツ軍にとって脅威以外の何者でもなく、

 ドーバー海峡に1隻でも配置されたら輸送が止まる。

 ドイツ上陸部隊の存続の可能性があるとすれば飽和攻撃で戦艦を撃沈することしかなく、

 フリッツXで撃沈するか。Uボートで撃沈するかだった。

 アメリカは、いくら新型戦艦を建造したとはいえ、旧式戦艦を全て売却したのだから大儲けといえる。

 そして、アメリカが日本と共同利権で揚子江のダム建設を進めたのもアメリカ側の都合だった。

 アメリカは、旧式艦隊の売却資本の運用資金を得ており、

 日本に対し一時的に劣勢になった海軍戦力を共同利権で日米の利害を一致させ、

 日米の戦争状態を未然に防ごうとしただけだった。

 国際外交戦略は、かくあらんや、の見本。

 もっとも、してやられた日本も、うまみの大きさにニンマリで、無節操だったりする。

 

 

 キール港

 ビスマルク、テイルピッツ、ジャン・バール、

 シャルンホルスト、グナイゼナウ。

 大破した戦艦5隻は少しずつ修復されていく。

 頑丈に造られているドイツ戦艦だったものの沈まなかったのは運が良かった。

 もっとも修復する価値があるのだろうかと疑ったりする。

 “解体して上陸用舟艇か、戦車の材料にすべきだろう” と考えたりもする。

 しかし、この戦艦5隻をドイツ海軍と思っているドイツ人は多い。

 イギリスは、バーラム、ロイヤル・オークが潜水艦に撃沈され、

 ネヴァダが駆逐艦に撃沈され、

 ネルソンが航空機に止めを刺され・・・

 統計だとイギリス海運を追い詰めているのは戦艦でなくUボート。

 戦艦の価値は暴落中なのに、下手に活躍するとロクな事がない。

 「「「「・・・・・」」」」 ため息

 「ポケット戦艦とグラーフ・ツェッペリンは?」

 「出撃したよ。もう一隻も・・・」

 「がんばるな」

 「南大西洋なら護衛空母も付いてないし」

 「船団じゃない場合も多いからね」

 「レナウン、レパルスを撃沈して、新型戦艦4隻も大破させたからだろう」

 「イギリスが追撃に使える戦艦は1隻、空母は3隻か」

 「ローテーションを考えれば半分だな」

 「この艦隊も、十分役割を終えているよ」

 「いっそのこと、空母に改造しちゃえよ」

 「だよね・・・」

 

 

 アメリカ フィラデルフィア工廠

 イギリス戦艦プリンス・オブ・ウェールズ、デューク・オブ・ヨーク、アンソン。

 空母フォーミダブル。

 戦艦を建造すれば財政が傾く。

 維持費で貧血。

 修理改装で立ち眩み。

 アメリカ軍需産業は、イギリスから戦艦と空母の修復改装を受注して、おいしい状態だった。

 イギリスの国家財政は破綻状態で、再建も危うい状態。

 庶民から吸い上げても間に合わず。

 イギリスから金持ちがいなくなるだろうと思われるほど。

 植民地の治安も日本の租界を拡大し、

 租界保安警察に委託する始末だった。

 イギリスとドイツは、アメリカと日本の財政再建のため、殺し合っている状態だった。

 「・・・・・・」 ため息のイギリス人官僚

 「どうしました? 工事は順調ですよ」

 「儲かっていますな。アメリカも、日本も・・・」

 「いやなら、他の国に発注されても良かったのに・・・」

 『そんな国はあるか、人の弱みに突け込みやがって』

 そう、アメリカと日本を儲けさせるのがいやなら他の国に頼めばいい。

 しかし、この地球上に、そういう国は存在しない。

 アメリカも日本も吸血鬼のように甘い汁を吸い続ける。

 とはいえ、アメリカも “リメンバーシャンハイ” と、戦争需要で不況を脱出し、

 経済で弾みがついたが、いつまでも続かない、

 アメリカ軍であれ、アメリカ人の義勇軍であれ、

 戦車を中国大陸に10000両、

 中東に10000両、

 イギリスに10000両も配備すると維持費がかさむ。

 利権さえ確保できれば支出を押さえるため、軍隊を必要最低限に縮小すべきなのだ、

 しかし、どこも油断できない状態が続く、

 そして、戦争していない日本が一番、儲けていた。

 電力不足から火力発電所が建設され、

 アメリカから油が購入される。

 この頃の日本産業は、あまりの人不足に在学中の学生を金で釣る有様で、

 その無節操振りに “学徒動員” と陰口を叩かれる始末だった。

   

  

 南大西洋

 イギリス空軍がイギリス本土決戦に忙殺されているおかげで、

 ボルドー湾側に配備されたドイツ艦隊は、外洋に出やすかった。

 イギリス艦隊の哨戒圏を抜いて外洋に出ると、

 ひとまず安心。

 空母の有用性は、通商破壊でも発揮できた。

 艦載機を上空に滞空させるだけで、視界が水平線のかなたに広がっていく。

 グラーフ・ツェッペリン 艦橋

 「やっぱり、空母は良いねぇ」

 「ポケット戦艦でチマチマ探し回るなんて原始的だよ」

 艦隊上空をシュトルヒが、ゆっくり旋回する。

 陸上機なのだが離着艦に支障なく。

 突風に煽られないよう甲板上に固定させなければいけない機体だった。

 艦隊上空の哨戒が重要なことはもちろんだったが、、

 この機体が使われたのは、常時飛ばしても燃料消費が少ないことにあった。

 「インドミタブルとハウが追撃しているらしい」

 「見つけられたらまずいか」

 「大砲降ろして、艦載機を増やしたから、何とかなるよ」

 「おかげで艦隊行動だけどね」

 ポケット戦艦リュッツォウ、アドミラル・シェーアが、

 空母グラーフ・ツェッペリン、ヴェーザーを挟んで護衛していた。

 既に護衛空母2隻、護衛艦4隻、輸送船14隻を撃沈し、

 輸送船6隻を拿捕していた。

 Uボート艦隊からは、護衛空母と護衛艦を撃沈してくれと、

 催促されていたがイギリス艦隊の追撃を受けると都合良く行かない。

 北大西洋では、一撃離脱か、せいぜい、二度の空襲。

 三度目はなく、さっさと逃げる。

 輸送船狩りで拿捕ができるのは、南大西洋にきてからだった。

 「イギリス海軍も通商破壊阻止じゃなくて、本土に集中したらいいのに」

 「必要な物資があるんじゃないの」

 「ギリシャのドイツ艦隊のせいでスエズが使えないから、喜望峰を回るしかない」

 「いいよな」

 「そこに存在するだけで良い艦隊って」

 

 

 ラプラタ沖

 ポケット戦艦リュッツォウ、アドミラル・シェーア。

 空母グラーフ・ツェッペリン、ヴェーザーの艦隊が恐れるとすれば巡洋艦の夜襲だった。

 薄暮前、最大哨戒で艦隊の周りの安全を確認する。

 そして、夜明け前、シュトルヒ機を出して艦隊接近を索敵する。

 その日、空母グラーフ・ツェッペリンが、シュトルヒ機を発艦させ、

 しばらくすると敵艦隊接近が暗号抜きの無線で届く、

 提督は、暗号抜きの無線に舌打ちしたくなった。

 しかし、東から上る朝日に敵艦隊がうっすらと浮かび上がると、仰天。

 「180度回頭。西だ!」

 直ちに西進するが、相対距離は40000m。

 戦艦ハウと空母インドミタブルが追いかけてくる。

 「提督、このままでは、南米大陸に追い詰められます」

 「97式戦を出せ。スツーカを爆装して全機、発艦」

 「ヴェーザーにも攻撃隊を出させろ!」

 空母グラーフ・ツェッペリン 32ノット

 空母ヴェーザー 31ノット

 ポケット戦艦リュッツォウ、アドミラル・シェーア 28.5ノット。

 空母インドミタブル 30.5ノット

 戦艦ハウ 27ノット。

 競争が始まる。

 97式戦28機とシーハリケーン10機が空中戦。

 スツーカー爆撃機28機とソードフィッシュ23機が発艦すると、

 戦闘機同士の空中戦を潜り、爆撃部隊が敵空母へ直行していく、

 インドミタブル 艦橋

 「この距離で空母戦が行われるとは・・・」

 「厳しいですね」

 「こちらの方が艦載機が少ない」

 「戦艦ハウなら勝てるよ」

 「1隻に集中して、なんとしても1本命中させろ」

 「全滅させてやる」

 数で余裕がある97式戦がソードフィッシュを撃墜。

 ソードフィッシュは、不時着水しようとして海面に激突して海水を吹き上げた。

 

 西に逃走するドイツ艦隊は、進路を変えるとハウに追いつかれる。

 その程度の相対距離であり、

 その程度の相対速度だった。

 空母グラーフ・ツェッペリン 艦橋

 「・・・このまま進めば南米大陸にぶつかるな」

 「提督!」

 「リュッツォウ、アドミラル・シェーアが盾になるので、北上して逃げて欲しいと」

 「いや、まだ、逃げる」

 「まだ遠い、ハウの主砲は当たらないだろう」

 「しかし・・・」

 「わかっている」

 「敵軍に冷酷でも味方にだけは・・・・」

 「・・・・」

 副官は、恭順するかのように押し黙る。

 有能な提督ではない。

 しかし、将兵から好かれる提督といえた。

 

 インドミタブル 艦橋

 「たぶん、ギリギリまで逃げ」

 「海岸線の手前で、空母とポケット戦艦が2隻ずつ北と南に分かれるだろうな」

 「そのときは?」

 「北に向かう」

 「行けますか?」

 「全速で逃げているなら燃料消費は激しいはず」

 「どの道、ドイツ機動部隊の通商破壊は終わるな」

 「我々も、給油が必要ですが」

 「どっちの給油が早いかだ」

 「どっちが早いかは、歴然としているがね」

 「ドイツ艦隊は、下手をすると帰還不能ですかね」

 「だな。このまま、ハエのように南米大陸に叩き潰してやる」

 しかし、航空戦力の差は、海戦の勝敗を決定付けた。

 ソードフィッシュは、雷撃コースに入る前に97式戦に撃墜されていく。

 「ぜ、全滅?」

 「23機のソードフィッシュが全滅?」

 「20分もたたずにか?」

 シーハリケーン10機は、97式戦28機の数に押さえ込まれ、

 撃墜されていく。

 そして・・・

 「最大戦速。取り舵180度回頭!」

 スツーカ爆撃機が空母インドミタブルが撃ち上げる弾幕に向かって急降下、

 五月雨式に襲い掛かった。

 「こ、こんな、バカな・・・」

 遠心力でインドミタブルが大きく傾いていく、

 しかし、スツーカー爆撃機は波状爆撃で降下し、

 微調整しつつ突入し、爆弾が投下されていく、

 インドミタブルが至近弾の水柱に包み込まれ・・・

 「ド、ドイツ艦隊などに」

 「ドイツ艦隊などに」

 「このインドミタブルがしてやられるというのか?」

 飛行甲板に着弾した500kg徹甲爆弾が炸裂し、

 爆炎を噴き上げ、

 破砕した装甲片を撒き散らす。

 その後も回避運動と波状爆撃は続き、

 インドミタブルの飛行甲板に500kg徹甲爆弾4発が命中して大破。

 

 一方、ドイツ艦隊は、戦艦ハウに追いかけられ、

 南米大陸海岸線に追い詰められつつあった。

 「「回頭180度、砲撃戦用意〜!」」

 戦艦リュッツォウ、アドミラル・シェーアは、同時に南北に別れて展開、

 決死の覚悟でハウに牙を向く。

 「「撃て!」」

 2隻で3連装4基52口径283mm砲がハウに向けて砲撃。

 砲口が火を噴いて砲弾を撃ち出していく。

 

 戦艦ハウ 艦橋

 「ふ ようやく、諦めたか、可愛がってやれ」

 「はっ!」

 「しかし、ドイツ軍爆撃機がインドミタブルに爆弾を当てるとは・・・」

 「・・艦長、シーフォックス水上偵察機が97式戦に撃墜されました」

 弾着観測が出来ないと命中率が低下する。

 そして、忌々しいことに、

 ポケット戦艦から射出されたアラド196水上偵察機がハウの上空を旋回していた。

 「ちっ!」

 「もういい。このままでも十分、仕留められる」

 「北側のポケット戦艦を先にやるぞ」

 ハウの45口径356mm砲10門が砲撃。

 砲弾がポケット戦艦リュッツォウを包み込むように降り注いだ。

 

 インドミタブル 艦橋

 「提督!」

 「シーハリケーンも全滅しました!」

 「くっそぉ〜」

 「破損個所をすぐに修理して建て直せ!」

 「もうすぐ海岸だ」

 「ハウにドイツ艦隊のとどめをささせろ」

 「提督!」

 「ど、どうした!」

 「ハウが!」

 スツーカ爆撃機の編隊が単従陣でハウに向かって急降下していく、

 戦艦ハウに500kg徹甲爆弾7発が立て続けに命中し、

 第1砲塔、第3砲塔が破壊されて大破し炎上していく、

 

 リュッツォウ 艦橋

 「な、なんだ?」

 「スツーカが爆撃に成功したようです」

 死を覚悟していた艦橋の将兵は、状況の変化に胸を撫で下ろし狂喜する。

 「よし、撃ち返せ。ハウの艦尾側に回り込んで至近距離から撃ち込めば撃沈できるぞ」

 ポケット戦艦リュッツォウ、アドミラル・シェーアは、大破炎上しているハウに砲撃を繰り返す。

 ハウも第二砲塔連装1基で撃ち返す。

 しかし、山なりな放物線を描く砲撃戦で、散布界を作れなれば、公算射撃が得られにくく。

 一方、ポケット戦艦は、観測機の弾着観測を受けながら砲撃できて命中率が良かった。

 リュッツォウ、アドミラル・シェーアは、直接、射撃されないよう遠巻きに艦尾側へ回り込もうとし、

 ハウは、片方に艦尾を見せることを恐れ、絶体絶命。

 

 インドミタブル 艦橋

 「こ、こんなバカな・・・」

 「提督!」

 「ウルグアイに逃げ込め」

 「このままでは、全滅させられるぞ」

 イギリス艦隊は、中立国のウルグアイ港に逃げ出し、

 空母グラーフ・ツェッペリン、ヴェーザーは、南米大陸の海岸線の近くまで来てようやく反転する。

 

 ウルグアイ沖。

 艦隊を組んで呆然としていたのは、海岸線に追い詰められ、

 全滅を覚悟していたはずのドイツ通商破壊艦隊だった。

 空母グラーフ・ツェッペリン 艦橋

 「・・・副官。我々は、勝ったのか?」

 「小官は “勝った” と判断しますが?」

 「「・・・・・」」

 「すごい・・・」

 空母艦載機が海戦史上、初めて戦艦を大破させ、

 追い詰めた事が判明する。

 「そういえば、もう一個、通商破壊艦隊が出てたな」

 「応援を呼ぶか?」

 北大西洋に重巡コルベール、フォッシュ、

 軽巡ラ・ガリソニエールが出撃していた。

 「ウルグアイですと燃料で厳しいかと」

 「本艦隊も全速で逃げた。燃料が少ない。まずいな」

 「イギリス艦隊は、ウルグアイに72時間の寄港だけです」

 「出てきたら、とどめをさせるだろうか」

 「ハウの二番砲塔の45口径356mm連装1基は健在だ」

 「スツーカ全機は、ハウに集中すべきでしょう」

 「インドミタブルは」

 「ポケット戦艦リュッツォウ、アドミラル・シェーアでとどめをさせるはず」

 「ドイツ本国に燃料補給を頼んだ」

 「しかし、イギリス本土の上陸部隊も燃料を欲している」

 「輸送艦がウルグアイ沖まで辿り着けるか怪しいな」

 「スツーカ爆撃機は、あと、16機」

 「爆弾は500kgが13発、250kgが10発です」

 「それも厳しいな」

 そして・・・・

 72時間後、インドミタブル、ハウは、港外に出ると自爆。

 ドイツ艦隊の目の前で沈んでいく。

 その日、

 ヒットラー総統は、チャップリンの如く踊り、

 チャーチル首相は、一日、泣いたという。

 

 

 戦艦ニュー・メキシコ、ミシシッピ、アイダホ、テネシー、

 カリフォルニア、コロラド、メリーランド、ウエストバージニア。

 戦艦8隻ともイギリスのユニオンジャックを翻していた。

 しかし、大半の乗員が元アメリカ海軍兵士で義勇兵の給与は良く、羨ましがられ、

 原隊復隊も保障されている。

 これで、イギリス海軍? イギリス艦隊? は詐欺。

 もっとも、ドイツ海軍も同じ手法で、ドイツ地中海艦隊を動かしているので同業詐欺師に違いなく、

 こちらは、元フランス艦隊を使っているため3国籍海軍とか、3国籍艦隊とか・・・

 ともかく、イギリス海軍は、前回のイギリス上陸作戦地とドーバー海峡海戦で、艦隊を磨り潰し、

 現在、唯一自由に動かせたのが購入した艦隊戦力だった。

 「インドミタブルとハウが自沈?」

 「大破してウルグアイの港に閉じ込められて・・・」

 「ドイツ艦隊は?」

 「損傷無しのようです」

 「ドイツ本国に帰還しているようですが・・・」

 「イギリスの空母と戦艦がドイツのポケット戦艦2隻と空母2隻に自沈させられたのか」

 「「「・・・・・」」」

 「残っている戦力は空母フォーミタブル、イラストリアス、ヴィクトリアスだけか」

 「フォーミタブル、イラストリアスは整備と補給中」

 「輸送船団からヴィクトリアスを引き抜くしかないのでは?」

 「論外だ」

 「空母インプラカブルとインディファティガブルは慣熟訓練中ですし・・・」

 「・・・・・」

 「大英帝国海軍も末期ですかね」

 「ああ・・・」

 

 

 ニュー・メキシコ、ミシシッピ、アイダホ、テネシー、カリフォルニア、356mm3連装4基12門。

 コロラド、メリーランド、ウエストバージニア、406mm連装砲4基8門。

 深夜の海を戦艦部隊は護衛艦に守られて進んでいく。

 戦艦の射程を35kmとすれば、ドイツ軍主力は、100km先のロンドンで、それほどでもない。

 しかし、戦線という視点で見ると、そうとばかりも言えない。

 一つの砲門で100発撃つと・・・

 356mm砲弾×12門×5隻で6000発。

 406mm砲弾×8門×3隻で2400発。

 (コロラド、ニュー・メキシコ、ミシシッピ、アイダホ)の砲撃は、イギリス沿岸を襲い、

 ポーツマス港のイギリス軍と対峙していた沿岸部のドイツ軍を壊滅させてしまう。

 (メリーランド、ウエストバージニア、テネシー、カリフォルニア)の砲撃も、

 北海側のコールチェニスターに降り注いでドイツ軍を壊滅。

 8400発の大口径砲弾が二つのドイツ軍陣地を吹き飛ばしたことになる。

 イギリス軍は、沿岸部のドイツ軍が壊滅した隙を突いて戦線を突破していく、

 M4戦車の大群がようやく沿岸線に沿って進めた頃、

 ドイツ空軍の反撃が行われ、

 イギリス艦隊上空でドイツ戦闘機(メッサーシュミット、フォッケーウルフ)と、

 イギリス戦闘機(ムスタング、サンダーボルト)が400機以上乱舞する。

 そして、ドイツ軍爆撃機がイギリス戦艦部隊へと突進してくる。

 ニュー・メキシコ 艦橋

 「なんだ? あれは・・・」

 VT信管の弾幕が撃ち出されると、

 ほぼ同時にドイツ軍爆撃機からフリッツXが投下される。

Fw200 C-4 コンドル

 

 フリッツXは時速1000km以上の速度で、白煙の軌跡を描いて弾幕を突破。

 ニューメキシコに命中する。

 それを合図にドイツ爆撃機は、弾幕に入ると、すぐにフリッツXを発射していく、

 誘導ミサイルは、白煙を曳きながら戦艦群に命中し、爆発、

 戦艦群を炎上、損傷させていく。

 戦艦ニューメキシコ

 フリッツX4発が命中していた。

 艦体全部が黒くすすけ、

 4つの大穴が地獄の釜のように開いて赤黒い爆炎を吐き出していた。

 3連装4基の主砲塔のうち艦首側の主砲塔2基が破壊され、

 艦尾側の主砲塔2基は打ちひしがれ・・・

 「畜生! 助けてくれ! 誰か助けてくれ〜!」

 負傷した兵士が泣き叫び。

 「衛生兵! 早く! 衛生兵すぐ来てくれ〜!」

 金と出世、名誉に目が眩んでやってきたアメリカ義勇兵が後悔しながら呻いた。

 腕と脚が永遠に失われたら誰でも泣き叫びたくなる。

 目を失い、腹から腸が飛び出しているのを見れば、現実感を喪失してしまう。

 この戦艦がドイツ軍陣地に主砲弾を撃ち込み、

 それ以上の戦傷者を出したことは意識されていない、

 そして、イギリス艦隊の損害統計も報告されていく、

 フリッツXは、戦艦8隻全てに1発以上が命中し、全艦が大破していた。

 沈没しなかったのは、アメリカ戦艦のダメージコントロールが優れていたこと。

 ドーバー海峡まで空路を迂回し、艦隊防空したムスタング戦闘機の勇戦

 そして、イギリス爆撃部隊がロンドン爆撃でドイツ空軍を煩わせたからといえる。

 この作戦の損害は、ドイツ軍側も、イギリス軍側も目を覆うほどで呆然自失。

 イギリス軍は、辛勝でロンドンを半包囲してしまう。

 ドイツ軍は残った戦力をロンドンと、

 ノースダウンズ丘陵からカレーを守って、防衛線を再構築するよりなかった。

キングタイガー ポルシェ型

 ドイツ上陸部隊は、世界最強のキングタイガー戦車を繰り出し、

 最低限の橋頭堡を維持しつつ戦線を立て直していく。

 歪な防衛線に閉じ込められたドイツ軍は窮地に陥る。

 反撃して戦線を回復したくてもイギリス軍のM4戦車、155mm砲の数は多過ぎた。

 

 ロンドン

 ドイツ軍将校が図上演習を何度か行って、お手上げな状況に俯いていた。

 M4戦車は52口径76.2mm砲で防御力も中程度でしかなく、

 ドイツ重戦車を撃破するには自殺的な特攻を強要される。

 しかし、増えているシャーマン・ファイアフライM4中戦車は、58.3口径76.2mm砲装備で

 ドイツ重戦車を梃子摺らせていた。

 防御力はM4戦車と変わらないのに火力だけは、パンター戦車の70口径75mm砲や

 タイガー戦車の56口径88mm砲に近づいていた。

 撃破できる相対距離が遠くなると数に勝るイギリス軍に余裕を与えてしまう。

 主力の4号戦車、3号突撃砲は、48口径75mm砲で、完全に撃ち負けてしまう。

 狭い戦場を防衛するなら数を揃えて機動力を発揮するより、

 輸送で不利で少数でも重防弾と強い火力が求められる。

 陣地を守るだけなら、

 車高を低く出来て、防御力と火力を重視した駆逐戦車が製造され、

 ドーバー海峡を越えて、ロンドンに配備されていく。

 ヤークトパンター71口径88mm砲と。

 ヤークトタイガー55口径128mm砲がロンドン郊外に並べられた。

 しかし、数量が少なかった。

 

 ロンドン・ドイツ軍司令部。

 ドイツ軍将校たちが双眼鏡でイギリス軍戦車部隊を覗き込む。

 「なんと言うことだ。戦艦8隻で沿岸部の陣地を砲撃してくるとは・・・」

 「だが、戦線は立て直した」

 「しかし、包囲されず大陸対岸を守れたのは不幸中の幸いだな」

 「キングタイガーとパンターで幹線道を押さえて時間を稼いだだけだ」

 「もう一度やられたらドーバーとノースダウンズ丘陵を奪われて、補給が断たれるな」

 「それは大丈夫そうだ」

 「戦艦8隻は撃沈出来なかったが大破させたよ」

 「そりゃいいが、この状態でも苦戦だな」

 「しかし、何であんなに戦車があるんだ」

 「自転車みたいにポンポン作りやがって。非常識な国だ」

 「まったく・・・」

  

  

 12月7日 東南海地震

 天皇は勅命を持って陸海軍に救援させると、

 今度は、陸海軍とも信用と予算が掛かっているのか、

 全陸海軍の6割が救出作戦で出動し、必死になって被災者を助けていく。

  

  

 皇居

 43歳の壮年と総理大臣がお茶をすする。

 「今年も良いお茶が採れたの」

 「まったくです」

 「地震が気になるの」

 「軍は、全力で救援しているとの事です」

 「皆に大事がなければよいが・・・」

 「日本の地震に対し、各国とも救援物資と見舞いを送るとの事です」

 「そうか、やさしい世界は、ありがたいことだの」

 「陛下のご人望のなせる業かと」

 「皆が困難に立ち向かい、良くやってくれておる」

 「それが一番良いことじゃの」

 「御意にございます」

 

    

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 月夜裏 野々香です。

 イギリスの提督は、ちょっと、コンスコン風でしょうか。

 

 独ソ不可侵条約は持続。

 ドイツはニッケル、タングステンなど希少金属をソビエトから大量に輸入し、

 戦車の軽量化に成功します。

 防御力、機動力、航続力とも史実より上です。

 史実 パンター戦車45.5トン。タイガー戦車57トン。キングタイガー戦車68トン。

 戦記 パンター戦車43.8トン。タイガー戦車45トン、キングタイガー戦車54トン。

 

 

 日本の軍事費は、

 日清戦争で60パーセントを超え、

 日露戦争で80パーセントを超え。

 それ以外でも毎年30〜40パーセントを推移。

 戦後、日本の経済再建と経済成長は、国防をアメリカに任せ、

 弱者見殺しの斜傾経済と強制的なインフレ。

 さらに赤字財政先送りの積極財政で、

 その予算の多くを

 再生産可能な公共設備に投入したことが上げられるわけです。

 この戦記だと、それは望めません。

 経済成長を望める必要最低限の

 軍事費の比率がわかればいいのですが微妙だったり。

 それが、わかっても、極東情勢の次第で、

 これくらいいるぞ、という感じです。

 欲を言えば、大統領が政権を維持できなくなる程度、

 アメリカ軍を梃子摺らせられる軍事力でしょうか。

 大義名分がパールハーバーだと

 米軍死傷者100万越えでも済まされそうにないけど。

 メイン号レベルの捏造なら

 動機が弱くて米軍死傷者10万くらいで収まるかも・・・

 現在、ほとんどの先進国が5パーセント以下で推移。

 これだと、成長率は、

 いまの先進国程度で収まるかという感じです。

 日本の戦後は、

 上海需要と欧州戦争需要で、

 どの程度の国力を身につけたか。

 安全保障を手抜きできる程度の国際外交を繰り広げているか。

 不足分を、どこか搾取できそうな地域。

 たとえば、満州とかでしょうか。

 イギリス・オランダの植民地の上り

 25パーセントとかで補えるか。

 戦後の経済成長を妨げない程度の軍事力を維持できるか。

 いろいろ、バランスを考えてでしょうか。

 

 

 

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第14話 1943年 『予算を取るぞ〜!!!』
第15話 1944年 『わ・る・だ・く・み』
第16話 1945年 『もう、ひとりじゃない』 完結