月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『不戦戦記』

 

第14話 1943年 『予算を取るぞ〜!!!』

 イギリスとドイツの戦いは新たな局面へと移行していた。

 良いというわけでなく、悪いというわけでもない、

 ドイツ・ヴィシー・フランス取引が成立。

 ドイツ海軍は、ツーロン港のフランス艦隊を全て接収。

 ヴィシー・フランスは、陸軍40万、戦闘機1000機、戦車1000両を配備して完全独立。

 こうなると北フランスのフランス人は、ヴィシー・フランスが良いと流れていく。

 フランス人の人口過密は労働条件の過密が労働集約を生み、

 生産拡大に繋がり、競争力を強めてしまう。

 ドイツ人が北フランスへと移民していくと、

 ドイツの人口密度低下は、逆に生産性の低下に陥っていく現象が生じる。

 

 一方、イギリスは、ジブラルタルとギリシャに艦隊と航空部隊を二分すると、

 一方は、必ず劣勢を強いられてしまう。

 かといって、全艦隊でツーロン港で近くで待ち構えれば、ツーロン港から航空攻撃を受け。

 洋上で待機している間に疲弊する。

 ジブラルタル

 「ドイツは、ツーロン港を5年契約でヴィシーから租借し」

 「その前に返還する気のようです」

 「なくてもいいということか、ドイツ地中海艦隊は、どっちに向かう?」

 「まだ、不明です」

 「ですがストラスブールとダンケルクは通商破壊戦艦です」

 「この二隻は大西洋に出してはなりません」

 「わかってる」

 「ドイツ海軍の訓練課程は?」

 「ドイツ本国のドイツ艦隊からの引き抜きと、新規海兵で埋めているようです」

 「んん・・・それが救いか」

 「新兵の中には、元日本海軍の軍人が多数含まれているそうです」

 「東郷の弟子たちか、嫌な予感がするな」

 「問題は、アルジェリアからチェニスまでヴィシー・フランス領」

 「リビアはイタリア領」

 「地中海中部はマルタしか足場がありません」

 「ドイツは、ギリシャ側へ航空戦力を移動させているのか?」

 「いえ、航空戦力は、100機前後です」

 「ですが航空基地だけは拡張させて、準備しているようです」

 「・・・航空機なら1日で移動できるか。整備士も3日もあれば移動できる」

 「必要な物資も一週間で移動できそうだ」

 「戦艦ジャン・バールは?」

 「就役したようです」

 「通商破壊艦に近づけて完成させたようですがダンケルク型ほどではないようです」

 「イギリス本土上陸作戦用だと思うか?」

 「ドイツ軍は、大陸沿岸の崖を刳り貫いて上陸用舟艇の格納基地を建設しているようです」

 「まだ総数は掴めません」

 「ブラフ。フェイクの可能性も捨て切れんか」

 「こちらも、M4中戦車、M5軽戦車を配備していますから、十分戦えると思います」

 「上陸作戦を匂わせ、アメリカから戦車を買わせて通商破壊に集中の可能性もある」

 「ドイツ軍戦車は、中戦車の4号戦車」

 「そして、重戦車タイガー、パンター戦車を主力にしているようです」

 「重戦車は、強力なのか?」

 「わかりませんが、ドイツは入手したT34中戦車を参考に開発したとか」

 「どちらにしろ、重戦車は揚陸できまい」

 「戦車1000両、戦闘機1000機のフランス引渡しは痛かったはずです」

 「その分の資材で上陸用舟艇を作れていたはずですから」

 「ドイツで大量の日本人が雇用されていると聞いたが?」

 「そのようです」

 「まずいな」

 「ドイツに日本人を人質に取られたようなものだ」

 「これでは、日本の宣戦布告はないな」

 「それは、イギリスに対しても、同様のはず」

 「ふっ♪ 良いのか、悪いのか」

 「日本は、日本本土で生産に集中」

 「さらに労働者をシベリア鉄道でドイツ。輸送船でイギリス」

 「国外に労働者を派遣して軍需で外貨獲得」

 「さぞ、儲かるでしょうな」

 「血を流さず、血だけを吸い取ろうとしやがって、吸血鬼どもが」

 「イタリアも同じ歩調のようです」

 「あそこも貧乏ですからね」

 

 

 大陸側のドーバー海峡沿岸

 岸壁を刳り貫いたドックで上陸用舟艇が建造され組み立てられていた。

 2号戦車、3号戦車だけでなく。

 4号戦車、タイガー戦車、パンター戦車を搭載できる大型舟艇もあってイギリス軍を緊張させる。

 ワイルドキャット、ライトニング、

 B17爆撃機、ランカスター爆撃機は、大陸沿岸部の施設を爆撃して上陸作戦を妨害する。

 そして、迎撃で飛び立つメッサーシュミット、フォッケウルフと航空戦になった。

 空気を裂く音が連続で伝わると、爆弾の落下音が辺りに響き、

 爆発と爆音が大陸沿岸部を襲い、身を縮めたくなるような気分になる。

 といっても、岩盤を刳り貫いた地下格納庫の上陸用舟艇まで被害が及ばず。

 後方施設を破壊し舟艇の生産を妨害する作戦に切り替えられた。

 もちろん、沿岸部の上陸作戦用施設を攻撃するより、

 ドイツ本土爆撃の方が良いという計算もあった。

 しかし、イギリスの南部の制空権が回復しておらず、

 この戦局では上陸作戦を恐れ、目の前の敵。という気にもなる

 監視塔

 「今度は、イギリス側が攻撃か」

 「ワイルドキャットとライトニングがメッサーシュミットやフォッケウルフに勝てるわけがない」

 上空で繰り広げられる航空戦は、数で勝るドイツ軍機が圧倒的に優位だった。

 「スピットファイアは、航続力が足りないからね」

 「だけど雰囲気がなんとなく中途半端だよな」

 「ドイツは、本気でイギリス本土に上陸するのか?」

 「総統は、中東で米ソが衝突するのを待っているらしい」

 「なるほど、米ソが中東でぶつかれば」

 「イギリスに上陸しても大丈夫ということか」

 「準備だけはしているだろう」

 「イギリス人は、どうやってタイガー戦車を破壊するんだろうな」

 「ヴィシーが少し怖いがな」

 「陸軍40万と4号戦車1000両とメッサーシュミット1000機か」

 「軍事的に独立できたと言えない事もないが・・・」

 「それだけの戦力なら、イギリス本土上陸も躊躇するよ」

 

 

 陸軍国ドイツが大量の軍艦を入手しても簡単に海の男は育たない。

 独ソ国境は緊張状態にあって、簡単に陸軍を引き抜けない。

 そして、元日本海軍の将兵が雇われたりする。

 日本艦隊がイギリス海軍に売られ、

 元日本海軍軍人がドイツ海軍に雇われると。

 奇妙な現象が起こったりする。

 元日本海軍軍人が操艦するフランス艦隊がイギリスに売却した元日本艦艇と海戦になったり、

 他人のふんどしで元日本軍人同士が殺し合うなど、現場は痛過ぎる。

 もっとも、日本本国は、史上空前の好景気に湧き上がっていた。

 

 ボルドー湾に面するロワール。

 戦艦ジャン・バールは慣熟訓練を開始する。

 上空をメッサーシュミットとフォッケーウルフが飛び交い、

 周囲を駆逐艦が遊弋し、イギリス軍の襲撃に備えていた。

 元日本海軍軍人が参謀だったりする。

 一つの部署が丸ごと日本人だけで占められていたり、

 結局、戦果に応じて対価も支払われるため小型なら軍艦丸ごとだったり、

 艦隊の機動で単純なのが単従陣で

 先行艦に合わせて動き、同じように攻撃するだけ。

 艦隊指揮系統がドイツ語であれば、通訳を介して艦内が違う言語でも戦うことができた。

 戦艦ジャン・バール 艦橋

 「どうです?」

 「この戦艦ジャン・バールは?」

 「素晴らしいです。背後を突かれなければ、最強の戦艦です」

 「まったく・・・」

 誰でも、そう思う。

 しかし、乗ると、さらにそう思う。

 「どのように使うので?」

 「イギリスが購入したアメリカ戦艦を沈めることになりそうです」

 「あと、元日本の軍艦も・・・」

 「遺憾に思いますよ」

 「世の中というのは、そういうものでしょうな」

 「航空攻撃でイギリス本土全体を爆撃しては?」

 「航空機で高い性能を発揮させると馬力をトン数で割って配分を決めますからね」

 「取捨選択が重要になります」

 「航続力を捨て、他に回さないと撃墜されます」

 「なるほど、ドイツのように高性能な航空エンジンを持っていても厳しいですか」

 「侵攻側は、物量と質で勝らないと厳しいですからね」

 「いまのところ、難しいようです」

 「イギリスのロールスロイス・マーリンエンジンも優れてますからね・・・」

 空襲警報が鳴り響く

 そして、上空のメッサーシュミットとフォッケウルフが編隊を組みなおしながら上昇していく。

 日本人の参謀は海図を見つめ、上空を睨んで計算する。

 「提督、援護戦闘機をもっと上げるように伝えてください」

 「それと、4時の方向へ、速度を26ノットに上げてください」

 「周囲の護衛艦隊に対空戦闘の準備も・・・」

 「わかった」

 北方から小さいゴマ粒が数十ほど現れると、次第に大きくなり。

 メッサーシュミット、フォッケ・ウルフと航空戦を開始。

 イギリス空軍爆撃部隊は、ランカスター、B17の混成で、ライトニングが確認できた。

 そして、スマートな戦闘機。

 「あの機体は何だ」

 「メッサーシュミットに似ているが・・・」

 !?

 「メッサーシュミットを撃墜したぞ」

 「単発戦闘機ですね」

 「イギリス空軍基地から600kmも離れているはず。なぜ、来れる」

 日本の迎撃型ゼロ戦は航続力1200km。

 しかし、護衛型ゼロ戦は航続力2000km。

 ロールスマリーンエンジンなら振り分けの比率を変えるだけで航続力は足りる。

 日本の参謀は平然と受け止める。

 追加で要請したドイツ軍機が迎撃を開始する。

 メッサーシュミットの群れがロッテ戦の本家らしい機動で新型戦闘機に向かい。

 フォッケウルフの群れが蒼空を駆け上がり、

 イギリス空軍のコンバットボックスに切り込んでいく、

 戦艦ジャン・バールに迫るランカスター、B17爆撃機は、爆弾倉を開き、

 面爆撃を試みようとしていた。

 護衛艦隊が対空砲火を撃ち上げ、

 コンバットボックスに届き始める。

 爆音と黒煙が大気と爆撃機の編隊を震わせ、

 機銃弾が爆撃機に吸い込まれ、直前で流れていく、

 爆弾倉が開くのが見え、

 黒いものが落ち・・

 「最大戦速。右舷160度、回頭!」

 大気を切り裂くような落下音が押し寄せ・・・

 爆弾を落とした瞬間に軌道を変える。

 面に向かって均等に落ちてくると、

 どう逃げても、当たる、当たらないは、運しだい。

 その為、風向きで爆弾の抵抗を増やし、海流を利用して増速させる。

 通常、最大速度は、馬力だけで計測する。

 しかし、海流、風速を利用すれば、艦の最大速度を超えることができた。

 風力と海流を利用して増速し、

 敵の落とした爆弾の空気抵抗を増やす、

 全て計算ずくの回避運動で

 「・・・速度32.7ノット!!」

 爆弾の雨がジャン・バール迫ってくる中、計算外のことも起こる。

 横合いから突っ込んで来たムスタングが艦橋に向けて機銃掃射。

 防弾ガラスがバチバチ音を立てながら機銃を弾き、

 ムスタングの機体が艦橋をかすめるように抜けていく、

 辺りは数十もの水柱に覆われ、

 しかし、投射面積の外れに近く、

 ジャン・バールは危機を脱してしまう。

 「・・・なんて無茶なことを・・・」

 「カツミ中佐、助かりました。危なかった」

 「い、いえ、しかし・・・イギリス空軍にも、ああいうパイロットがいるのですか?」 真っ青。

 「いえ、爆弾投下している合間を掻い潜って」

 「艦橋に機銃掃射する戦闘機など聞いたことがありません」

 『『ドイツ空軍は、負けるかもしれん・・・』』

 イギリス空軍が去っていくと、

 生き残ったメッサーシュミットとフォッケウルフが艦隊上空を旋回し始める。

 

 

 イギリス空軍基地

 ムスタングから日本人パイロットが降りて来る。

 「スギタ少尉。フォッケウルフ2機撃墜したんだから、無理をするなよ」

 「何となく、戦艦を動かしているやつの顔が見たくなってな」

 「見えたのか?」

 「いや、見えなかった」

 「700kmで突入して擦れ違いざまに艦橋の中が見える分けなかろう」

 「そうだった。あんまり速いから、ついな」

 「ムスタングの感想は?」

 「ゼロ戦じゃ 勝てんわ・・・」 涙

 

 

 とある部屋

 「なんだったかな?」

 「い、いえ、なにも・・・」

 「前から気になっておった」

 「はい」

 「お茶が冷めないうちに飲みなさい」

 「はっ 頂きます」

 ドイツにも、イギリスにも、

 大量の日本人が雇用され、

 軍部は身動きできず。

 

 

 中東

 米ソ権益線は、それぞれの民族の代表を矢面に立て、

 正義を主張し自己正当化。

 北側はソビエトとクルド・親ソ勢力

 南側はアメリカと親米勢力。

 そして、中東の大地に鉄条網が東西に伸びていく。

 この頃は、シュトルモビク爆撃機。BT戦車だけでなく、

 T34戦車も山脈を越え、権益線へ集まってくる。

 自由資本主義と共産主義の思想的対立から次第に軍事的緊張関係も増していた。

 中東のアメリカ軍前線 監視塔

 「どうした。航空戦力はまだか。足りないぞ」

 「日本の赤城、加賀、蒼龍、龍驤に運ばせているそうです」

 「平和好きには困ったものだが、物分りの良い天皇で良かったよ」

 「運ぶだけ、限定だそうです」

 「まぁ お使いでもいいさ。駄賃ぐらい渡せる」

 「三式指揮連絡機は、そんなに良いのですか?」

 「中国は、あればっかりだ」

 「あれを飛ばすだけで馬賊と匪賊が隠れる」

 「見つけたら155mm榴弾をぶち込むだけだ」

 「こっちでも、そうなるな」

 「ソビエト空軍に戦闘機を飛ばされたら、まずいのでは?」

 「ソビエト軍が先に手を出すなら望むところだ」

 「カラクム砂漠の向こう側に押し返してやる」

 「イギリスはソビエトとの戦闘は可能な限り控えるようにと」

 「わかってはいるがね」

 「向こうが攻撃してくれば別だ」

 

 

 

 赤レンガの住人たち

 新型艦艇の設計図がテーブルの上に並べられている。

 日本海軍は旧式化していく。

 「諸君!!!」

 「無能な日本政府は、黒部ダム、東海道新幹線などという愚策で国家予算を浪費してしまった」

 「あのような無策は、不正な利権体制と、私利私欲な腐敗を生み出し」

 「国家指針を捻じ曲げ、国家の礎を放漫財政が踏み潰すのは目に見えている」

 「「「「そうだ!」」」」

 「しかし、来年は、マル6だ」

 「わかっていると思うが」

 「アメリカは、戦艦ワシントン、ノースカロライナ」

 「サウスダコタ、インディアナ、マサチューセッツ、アラバマを建造した」

 「さらにアイオワ型4隻も建造していると聞く」

 「ここにいたって、マル6は、断固として予算を通すべきである」

 「「「「そうだ!」」」」

 「さらに航空戦力もアメリカ、イギリス、ドイツに対し、遅れを取っている」

 「我が日本国は、非常に危険な状態にある!」

 「「「「そうだ!」」」」

 「アメリカは、上海に巨大な航空基地を建設し」

 「さらに海軍基地も充実させている」

 「アメリカの国力を考えるなら上海配備の機体と艦艇が少ないは、気休めに過ぎない」

 「「「「そうだ!」」」」

 「上海のB17爆撃機、ライトニング戦闘機は、東京をも爆撃圏に収め」

 「米帝のアジア支配の要になっている」

 「我が帝国は国家存亡の危機にある!」

 「「「「そうだ!」」」」

 「また、戦車においても列強に対し、遅れを取っている」

 「「「「そうだ!」」」」

 「断固として、マル6を取る〜!」

 「「「「そうだ!」」」」

 「予算を取るぞ〜!!!!」

 「「「「お〜!!!!」」」」

 「予算を取るぞ〜!!!!」

 「「「「お〜!!!!」」」」

 「予算を取るぞ〜!!!!」

 「「「「お〜!!!!」」」」

 「「「「えい! えい! お〜!!!!」」」」

 「「「「えい! えい! お〜!!!!」」」」

 「「「「えい! えい! お〜!!!!」」」」

 

 

 イギリス海軍は、艦隊不足からイギリス本土上陸の阻止。

 大西洋の通商破壊阻止を優先。

 ドイツ海軍(ツーロン艦隊)が袋小路のギリシャへ向かうのなら後回しで良いと諦め、

 エジプト配備を手抜きする。

 その為、イギリス本国艦隊とジブラルタルのH艦隊は、輸送船団の護衛に艦隊が振り分けられた。

 戦艦プリンス・オブ・ウェールズ、デューク・オブ・ヨーク、アンソン

 戦艦ネルソン、ロドニー

 戦艦クイーン・エリザベス、ウォースパイト、ヴァリアント、マラヤ

 巡洋戦艦レナウン、レパルス

 空母フォーミダブル、インドミタブル。

 ほか40隻

 

 ジブラルタルH艦隊

 空母イラストリアス、ヴィクトリアス

 戦艦ネヴァダ、オクラホマ、ペンシルヴァニア、アリゾナ

 ほか40隻

 

 輸送船団護衛

 戦艦リヴェンジ、レゾリューション、ラミリーズ、ロイヤル・ソヴァレン

 戦艦ニューヨーク、テキサス

 ほか40隻

 

 大西洋のドイツ艦隊と、

 地中海のドイツ艦隊が同時に動いた。

 ドイツ北大西洋艦隊 (バルト艦隊)

 戦艦ビスマルク、

 巡洋戦艦シャルンホルスト、グナイゼナウ。

 重巡洋艦プリンツ・オイゲン。

 軽巡洋艦ニュルンベルグ、ライプチヒ、ケーニヒスベルグ、ケルン。

 空母グラーフ・ツェッペリン

 

 ドイツ北大西洋艦隊 (ボルドー艦隊)

 戦艦ティルピッツ。

 戦艦ジャン・バール。

 ポケット戦艦リュッツォウ、アドミラル・シェーア。

 重巡洋艦アドミラル・ヒッパー、

 

 ドイツ地中海 (ツーロン艦隊)

 戦艦ダンケルク、ストラスブール

 旧戦艦プロヴァンス

 重巡コルベール、フォッシュ、デュプレ、アルジェリー

 軽巡ラ・ガリソニエール、ジャン・ド・ヴィエンヌ、マルセイエーズ。ド・グラース(建造中)

 総数、水上機母艦1、駆逐艦32隻、潜水艦16隻、小艦艇18。合計77隻

 イギリス海軍が、もっとも恐れていたことであり、

 飽和攻撃の目的がイギリス本土上陸にあるのか。

 それともドイツ艦隊の大西洋脱出にあるのか。

 地中海艦隊のギリシャ移動にあるのか。

 それとも別の目的があるのか、

 まったく不明だった。

 イギリス海軍は、上陸作戦に備え、

 簡単に動けず後手に回る。

 

 まず動いたのが地中海側だった。

 戦艦ダンケルク、ストラスブール

 旧戦艦プロヴァンス

 駆逐艦16隻、小艦艇がギリシャ方面に向かう。

 それに気づいたジブラルタルのイギリス艦隊が追いかけていく、

 ジブラルタルH艦隊

 空母イラストリアス、ヴィクトリアス

 戦艦ネヴァダ、オクラホマ、ペンシルヴァニア、アリゾナ

 ほか40隻

 しかし、ジブラルタルのイギリス艦隊がギリシャへと向かうと、

 ツーロンの重巡4隻、軽巡3隻、駆逐艦16隻が反対方向のジブラルタルへ向けて移動。

 重巡コルベール、フォッシュ、デュプレ、アルジェリー

 軽巡ラ・ガリソニエール、ジャン・ド・ヴィエンヌ、マルセイエーズ。

 駆逐艦16隻。

 ツーロン艦隊で通商破壊任務が可能な艦艇は、ダンケルク、ストラスブールだけではなかった。

 高速のドイツ巡洋艦隊は、航空攻撃を受けながらも哨戒圏ギリギリまでジブラルタルに接近。

 夕闇を利用してジブラルタルを高速で突っ切っていく、

 潜水艦、機雷、防潜網が配備されていた。

 しかし、ほとんどがイギリス本土上陸に備えられ、

 ジブラルタルは、戦艦部隊を移動させてしまうと要塞砲台で砲撃するしか打つ手がなくなっていた。

 夜間でも射撃用レーダーの命中率は良かった。

 しかし、高速で蛇行しながら突っ切られてしまうと、お手上げだったりする。

 ドイツ巡洋艦隊にジブラルタルを突破されたH艦隊は、慌てて回頭。

 追撃しようとした鼻先にドイツ駆逐艦16隻が現れる。

 航続力の短い駆逐艦が大西洋に出ても面白みがなく、

 途中まで巡洋艦を護衛していただけだった。

 フランス製ドイツ駆逐艦 艦橋

 「報告ですと、日本艦艇は少ないようです」

 「慣熟訓練代わりに輸送船団の護衛でも、させているのだろう」

 「気休めにはなります」

 「こっちも、慣熟という点では気休めだが・・・・」

 「ここで手柄を立てて、軍部の評判を回復させたいものですな」

 「まったくだ。日本にいると肩身が狭いばかりだな」

 なぜか、日本語だったりする。

 各国で日本人傭兵の活躍が立っていた。

 しかし、建前上、トップは当事国の将校。

 日本人は命令を聞いていただけ、

 という事になっていた。

 将官、佐官、尉官と、

 それぞれ責任を負わされるものの、

 ドイツ人将校の指揮下で、

 しかも、傭兵であれば、ある程度、免れてしまう。

 そして、名目上、指揮を執ってるはずのドイツ海軍将校は傍観者で見ているだけ。

 「突撃!」

 ドイツ駆逐艦隊の夜襲にH艦隊は慌て始める。

 空母イラストリアス、ヴィクトリアス

 戦艦ネヴァダ、オクラホマ、ペンシルヴァニア、アリゾナ

 ほか40隻

 ネヴァダ 艦橋

 「敵艦隊は?」

 「距離15000m。30ノット。単従陣で切り込んできます」

 レーダーを監視する士官が応える。

 「綺麗な単従陣だな」

 「本当にドイツ海軍なのか。イギリス海軍じゃないだろうな」

 「せめて、イタリア海軍というべきだろう」

 「ありえん」

 「空母を後退させろ。最大戦速、右舷40度」

 命令が復唱され、イギリス艦隊が迎撃する。

 「撃て!」

 連続する轟音が静寂を撃ち破り、

 紅蓮の炎が暗闇の海上を照らした。

 ドイツ駆逐艦隊。

 「ちっ! 各艦、蛇行しつつ、水雷戦を行う、目標に突撃!」

 こっそり近付こうとしていたドイツ駆逐艦部隊が砲撃。

 互いの砲撃が交錯するものの、

 イギリス艦隊の砲火は圧倒的だった。

 砲撃がドイツ駆逐艦隊の周りに落ち、水柱を吹き上げていく。

 そのとき、ツーロンから哨戒で飛んできた偵察機が北アフリカ側の上空に吊光弾を落していく、

 闇夜を閃光が照らし、真っ暗だった海面が照らし出され、

 イギリス艦隊を浮かび上がらせてしまう。

 ドイツ駆逐艦は、それだけで十分だった。

 計算機の結果が矢継ぎ早に伝達され、

 命令が発せられた。

 「右舷120度、回頭」

 駆逐艦が急激な回頭で重心が移動し、傾斜していく、

 「てぃ〜!!!」

 圧縮空気で押し出された3連装55cm魚雷に遠心力の勢いも加算され、海中に滑り込む。

 イギリス艦隊は、レーダーによって、ドイツ水雷戦隊の回頭を魚雷発射と知ると、

 進路を変更しつつ、見張りの将兵らは、海面を注視する。

 先行に照らしだされた闇夜の海面に不意に現れる白い軌跡を見つけ、

 さらに進路を変更。

 白い軌跡がイギリス艦隊の間を抜けて行く、

 コ〜ン! コ〜ン! コ〜ン! コ〜ン! コ〜ン!

 魚雷を避け切れなかったネヴァダの舷側は、海水を吹き飛ばし、

 水柱を艦橋より高く、吹き上げさせた。

 爆圧は、水面下の艦腹に大穴を開けていく、

 戦艦は、まだマシと言える。

 コ〜ン! コ〜ン! コ〜ン!

 駆逐艦だと艦腹を撃ち破って飛び込んだ魚雷が艦内で爆発。

 爆圧と爆風が出口を求め、

 艦内をズタズタに引き裂きながら破壊して致命傷を与えてしまう。

 コ〜ン! コ〜ン!

 巡洋艦だと、その中間。

 互いの砲火が敵艦隊に向けられ、辺り一面に硝煙と爆音が響きわたり、

 金属が軋み悲鳴を上げ、圧壊していく、

 ドイツ駆逐艦隊は、魚雷を発射してしまうと逃走。

 ドイツ駆逐艦4隻が撃沈され、

 12隻は、小中破で闇夜の中に消えていく、

 そして、イギリス艦隊は、ネヴァダを撃沈され、

 巡洋艦1隻、駆逐艦2隻が撃沈される。

 その上空を吊光弾を落としたドイツ空軍のドルニエ Do24飛行艇が旋回していた。

 「ん・・・終わったようだが、上手く行ったのか?」

 「さぁ 砲火が強い側の反対側に落としてくれと言われていたからな」

 「これで、良いんじゃないか」

 「帰るか」

 「ああ」

 

 

 ジブラルタルを突破するとき、

 軽巡ジャン・ド・ヴィエンヌが撃沈された。

 ほかのドイツ巡洋艦隊は、それなりに被害を受けていたものの、

 致命傷はなかった。

 重巡コルベール、フォッシュ、デュプレ、アルジェリー

 軽巡ラ・ガリソニエール、マルセイエーズ。

 「はぁ〜 随分と燃料を使ったな」

 「30ノットで突っ切るとこんなものでしょう」

 「燃料を余計に乗せていて、良かったよ」

 ドラム缶の燃料が、艦内の燃料タンクへと入れられていく、

 砲弾の当たり所が悪ければ軽巡ジャン・ド・ヴィエンヌのように火達磨。

 という危険を冒してもジブラルタルを突破した結果だった。

 「日本人は、上手くやってくれたでしょうか?」

 「さぁな」

 「連中の人生を国から買い取ったようなものだ」

 「・・・ドイツ本国から入電です」

 「空母イラストリアス、ヴィクトリアスが本艦隊を追撃しつつあり」

 「戦艦オクラホマ、ペンシルヴァニア、アリゾナは」

 「ストラスブール、ダンケルク、プロヴァンスを追跡し、ギリシャへ向かったそうです」

 「ん? ネヴァダは?」

 「ナグモの駆逐艦隊が撃沈したそうです」

 「戦艦を、本当なのか?」

 「はい」

 「そりゃ 凄い」

 「駆逐艦だけで戦艦を撃沈するなんて聞いたことがない」

 「こんなことなら、ジブラルタルの脱出じゃなく」

 「挟み撃ちにして、H艦隊と雌雄を決した方が良かったかも知れませんね」

 「そうだな。そりゃ そうだ。ん?」

 「ナグモが喜んでたのは、それか?」

 「駆逐艦部隊で、敵の戦艦部隊の牽制なんて普通は怖気づきますからね」

 「日本人はわからんな」

 「いま、一番喜んでいるのは、お飾りの駆逐艦隊司令と艦長でしょう」

 「建前上は、あの若造たちの手柄ですから」

 「無能の烙印を押された捨て駒の若造たちが出世するのかよ」

 「ありえねぇ〜」

 

 

 ドイツ北大西洋艦隊 (バルト艦隊)

 戦艦ビスマルク、

 巡洋戦艦シャルンホルスト、グナイゼナウ。

 重巡洋艦プリンツ・オイゲン。

 軽巡洋艦ニュルンベルグ、ライプチヒ、ケーニヒスベルグ、ケルン。

 空母グラーフ・ツェッペリン

 

 ドイツ北大西洋艦隊 (ボルドー艦隊)

 戦艦ティルピッツ。

 戦艦ジャン・バール。

 ポケット戦艦リュッツォウ、アドミラル・シェーア。

 重巡洋艦アドミラル・ヒッパー、

 

 イギリス本国艦隊

 戦艦プリンス・オブ・ウェールズ、デューク・オブ・ヨーク、アンソン

 戦艦ネルソン、ロドニー

 戦艦クイーン・エリザベス、ウォースパイト、ヴァリアント、マラヤ

 巡洋戦艦レナウン、レパルス

 空母フォーミダブル、インドミタブル。

 ほか40隻

 

 ドイツ戦艦3隻、巡洋戦艦2隻、重巡2隻、軽巡4隻、ポケット戦艦2隻、空母1隻

  VS 

 イギリス戦艦3隻、巡洋戦艦2隻、旧式戦艦6隻、重巡4隻、軽巡4隻、空母2隻

 数の上では、イギリス艦隊が上だった。

 しかし、イギリス軍はドイツ軍が上陸作戦を狙っているのか、

 通商破壊を狙っているのか不明だった。

 守るべきか、攻めるべきかと思い悩む。

 戦艦プリンス・オブ・ウェールズ 艦橋

 「大変です!」

 「どうした?」

 「ドイツ地中海艦隊の重巡4隻、軽巡2隻がジブラルタルを突破」

 「現在、空母イラストリアス、ヴィクトリアスが追尾中です」

 「ばかな。戦艦部隊は何をしていたんだ?」

 「ストラスブール、ダンケルク、プロヴァンスがギリシャ側に向かったため、追撃した隙を突かれたそうです」

 「バカな。ジブラルタルを封鎖するだけで良かったのだ」

 「まずい。まずいぞ」

 「輸送船団に警戒態勢は伝わっているだろうな」

 「はい」

 「・・・応援は出せんぞ」

 血相を変えた士官が提督に電文を持ってくる。

 「提督。中東で米ソ両国が衝突したそうです」

 「・・・うそ・・・」

 

 中東

 ソビエトはクルド族を利用し、アメリカはアラブ族を利用し。

 どちらも権益線を守るだけで満足していた。

 しかし、武装したクルド人とアラブ人は、中東権益線で満足しておらず衝突。

 クルド軍とイラン軍が互いに権益線を踏み越えていくうちに

 アメリカ軍とソビエト軍も反撃。

 アメリカ軍とソビエト軍は、利用しているはずの民族紛争に巻き込まれてしまう。

 T34戦車がM4戦車を撃破して、アメリカの前線を突き崩し、

 クルド軍が南進していく、

 その後、体勢を立て直したアメリカ軍が反撃するも、

 T34戦車は、M4戦車より強力で押し返されていく。

 

 中東の米ソ衝突がドイツ軍によるイギリス上陸作戦の開始の合図になった。

 ドイツの上陸用舟艇2000隻がイギリス本土へと向かって突き進んでいく、

 イギリス空軍が出撃し、上陸用舟艇を攻撃しようと空襲を繰り返し、

 ドイツ空軍は上陸用舟艇を守るためドーバー海峡を越えていく、

 ドーバー海峡上空で2000機以上の航空機が乱舞することになり、

 大陸とイギリス本土と海峡沿岸部を巻き込んだ爆撃が行われ、

 上陸作戦を前後して史上空前の航空戦が展開される。

 イギリス艦隊が上陸作戦を防ごうと出撃し、

 ドイツ軍も、イギリス本土を占領するため、何度も上陸用舟艇を往復させた。

 イギリス艦隊がドイツ軍の上陸用舟艇を撃沈してしまうと、掛けられていた梯子を下ろされて孤立。

 上陸したドイツ軍は降伏するしかない。

 そのため、独英艦隊は決戦を避けられず、

 ドーバー海峡を挟んで独英艦隊は集結していく、

 ネルソンの対空砲火が急降下しつつあるスツーカ爆撃機を捉えようと銃身が動いていく。

 そして、スツーカ爆撃機は、ネルソンに向けて250kg爆弾を投下し、上部甲板に命中する。

 ネルソン 艦橋

 「損傷は軽微です」

 「250kg爆弾で戦艦は沈まんよ」

 「まだ、イギリス空軍の方が不利のようだな」

 「空軍は再建中で、爆撃圏外に航空部隊を配備しているようですから」

 「ヴィシーフランスが背後を突いてくれたら良いのだが」

 「ヴィシー軍40万、メッサーシュミット1000機と4号戦車1000両ですか?」

 「無理かな」

 「迎撃作戦はともかく、燃料が足りませんから侵攻作戦なんて不可能でしょう」

 「そういえば、ヴィシーはドイツから燃料を輸入してたな」

 「既にドイツ軍の第5波が上陸したようです」

 「急いで割って入って上陸用舟艇を破壊しろ」

 「これ以上の上陸を許すな」

 ドーバー海峡上空の制海権は、ドイツ空軍にあった。

 そこに突入すれば、イギリス艦隊は苦戦する。

 しかし、ドイツ空軍がイギリス艦隊を攻撃するなら、イギリス空軍は上陸用舟艇を攻撃できた。

 総力戦とは、そういうものだった。

 大陸沿岸部 上陸作戦司令基地

 イギリス艦隊とイギリス空軍の襲撃で上陸用舟艇が撃破されていく。

 「将軍・・・」

 「上陸作戦を一旦、中止する」

 「次の上陸部隊を乗せて待機だ」

 「はっ!」

 「上陸部隊は?」

 「既に20万と4号戦車500両、タイガー100両、パンター100両が上陸しています」

 「航空部隊の進出を急がせてくれ」

 「それが、スピットファイアーが上陸部隊を空襲して進出が遅れています」

 「ちっ!」

 「やっぱりスピットファイアを温存していたな」

 イギリス軍は、イギリス艦隊投入で総戦力の分母を大きくして被害を軽減でき、

 敵への打撃を大きくすることができる。

 そして、ドイツ艦隊は、その戦力の分母差に異議を唱え、

 ドーバー海峡に切り込んだ。

 ドーバー海峡は、史上空前の海上航空戦、艦隊決戦となっていた。

 ドイツ上陸作戦部隊は、ドーバー海峡に居座るイギリス艦隊によって作戦不能に陥らされ、

 そこに南北からドイツ艦隊が挟み込むように襲い掛かった。

 ドイツ北大西洋艦隊 (バルト艦隊)

 戦艦ビスマルク、

 巡洋戦艦シャルンホルスト、グナイゼナウ。

 重巡洋艦プリンツ・オイゲン。

 軽巡洋艦ニュルンベルグ、ライプチヒ、ケーニヒスベルグ、ケルン。

 ほか20隻

 

 イギリス本国艦隊

 戦艦プリンス・オブ・ウェールズ、デューク・オブ・ヨーク、アンソン

 戦艦ネルソン、ロドニー

 戦艦クイーン・エリザベス、ウォースパイト、ヴァリアント、マラヤ

 巡洋戦艦レナウン、レパルス

 ほか40隻

 

 ドイツ北大西洋艦隊 (ボルドー艦隊)

 戦艦ティルピッツ。

 戦艦ジャン・バール。

 重巡洋艦アドミラル・ヒッパー。

 ほか20隻

 

 イギリス艦隊は南北からドイツ艦隊に挟撃され、海峡では艦隊運動もままならず、

 北の北海、南のイギリス海峡の狭い34kmの海峡に閉じ込められる。

 イギリス戦艦部隊の砲数は圧倒的でも、

 艦隊戦が始まると自由に動けるドイツ艦隊に苦戦させられる。

 戦艦ジャン・バール 艦橋

 ジャン・バールは、

 敵艦隊が正面なら45口径381mm4連装2基を向けて世界最強の戦艦だった。

 そして、その好条件に恵まれてしまう。

 雁陣形で右舷後方のティルピッツは、47口径381mm連装4基で、

 こちらも世界最強の戦艦と内外で囁かれていた。

 身動きの取れない海峡の南側に展開していたのは、イギリスの旧式戦艦と旧式巡洋戦艦。

 戦艦クイーン・エリザベス、ウォースパイト、ヴァリアント、マラヤ。

 42口径381mm連装砲4基。

 巡洋戦艦レナウン、レパルス。42口径381mm連装砲3基。

 戦艦の数で負けているため、

 まともに戦うと勝ち目がなかった。

 もっとも、まともに戦う気はなく。

 ジャン・バールとティルピッツは、ドイツ空軍の艦隊攻撃を当てにして突撃していく。

 レパルスは、ドイツ雷撃機をかわしつつ対空砲火を撃ち出し、

 ジャン・バールを砲撃する。

 艦隊を横に向けて全砲門を使えればいいのだが爆撃の損害は見逃せても、

 雷撃機の魚雷だけは、外さなければならず。

 イギリス艦隊は、どうしても艦隊運動が乱され、砲撃も散漫になってしまう。

 そして、レパルスがスツーカ爆撃機に気を取られていたとき、

 ジャン・バールの砲弾が命中する。

 第2砲塔の弾薬庫を撃ち抜かれたレパルスは、戦場を震わせるような大爆発を起こし、

 艦体を圧し折ってしまう。

 ドイツ空軍の空襲に晒されるイギリス艦隊は、狭い海峡で悶え苦しみながら砲撃を続けた。

 

 北方側でも事情は似ていた。

 戦艦ビスマルク。

 巡洋戦艦シャルンホルスト、グナイゼナウ。

 重巡洋艦プリンツ・オイゲン。

 軽巡洋艦ニュルンベルグ、ライプチヒ、ケーニヒスベルグ、ケルン。

    VS

 戦艦プリンス・オブ・ウェールズ、デューク・オブ・ヨーク、アンソン

 戦艦ネルソン、ロドニー

 砲戦力では、単純にイギリス艦隊が勝つ。

 しかし、狭い海峡でドイツ空軍の空襲に晒されると、

 どうしても主導権をドイツ艦隊に奪われてしまう。

 もちろん、ドイツ艦隊も空襲されていたが航空機の数はドイツ空軍が多く、

 損失比はイギリス艦隊が不利になっていく、

 フォッケウルフに機銃掃射されたランカスター爆撃機が錐揉みしながら墜落し、

 ビスマルクの左艦首側の海面に激突。

 積載されていた爆弾の誘爆が艦橋まで覆う。

 ビスマルク 艦橋

 「・・・どうやら、イギリス巡洋戦艦は、南側に配置したようです」

 「シャルンホルスト、グナイゼナウで、キングジョージ5世型とネルソン型は辛いな」

 「ええ、イギリス艦隊の計算通りでしょうね」

 「わかっていても出なきゃならんか」

 「少なくとも283mm砲なら発射速度で、キングジョージ5世級を梃子摺らせてくれるだろう」

 「通商破壊作戦の方が良かったですがね」

 「中東で米ソが衝突した」

 「ソビエト参戦がないなら気にするのはヴィシーだけだ」

 「それなら上陸作戦なんだろうな」

 「イギリス艦隊の乱れだけが味方ですかね」

 「ドイツ空軍の爆撃と雷撃のおかげだよ」

 ビスマルクの砲撃が戦艦プリンス・オブ・ウェールズに立て続けに命中し、大破させてしまう。

 「次は、2番艦のデューク・オブ・ヨークに集中しろ!」

 「はっ!」

 そして、ビスマルクにも

 45口径356mm砲弾、45口径406mm砲弾が命中し、艦体を揺るがした。

 「損害は?」

 「艦中央に命中しました。戦闘に支障はありません」

 「そうか・・・」

 

 ドイツ艦隊の砲撃がレパルス型とキングジョージ5世型に集中した。

 これは、高速戦艦が通商破壊の邪魔になるからであり、

 威力の強い旧式戦艦より、新型戦艦を沈める方が精神的な打撃が大きいという、

 簡単で単純な理由といえた。

 

ドイツ軍 IV号戦車H型 後期生産型 (1943年4月〜1944年2月)

 イギリス本土、ドイツ軍上陸部隊

 ドイツ機甲師団は、橋頭堡を確保したものの

 後続の上陸用舟艇が止まって不安になる。

 さらに上空を舞うスピットファイアが襲撃してくる。

 ドーバー海峡航空戦に忙殺されるメッサーシュミットとフォッケウルフは、なかなか航空支援に来れない。

 「もっと、燃料が欲しいな。食料も少ない」

 「今ある分でロンドンを押さえればいいいよ」

 「上陸地点から100kmもないからね」

 「それは、もちろんだが、上陸用舟艇では埒が明かん」

 「大型輸送船で乗り上げればいいのだ」

 「ほとんど日本に売り渡しただろう」

 「少しくらい残ってるよ」

 「それにレンタルだから戦争が終われば戻ってくる」

 「それも、いま戦っているドーバー海戦で決まるだろうな」

 海峡を押さえているネルソンが爆発して四散する。

 「なんだ?」

 「あの戦艦。40cm砲を積んで頑丈なはずだろう」

 「・・・あれじゃないか?」

 ドイツ爆撃機から黒い塊が発射、白煙を吐きながらロドニーに命中する。

 そして、爆発。

 「凄いな。あれ・・・」

 「もっと上陸用舟艇を作れよ」

 「まぁ そうだけどね」

 ロンドンを守ろうとするM4中戦車、M5軽戦車。

 クロムウェル戦車、クルセーダー戦車と、

 ロンドンを攻め落とそうとする4号戦車、タイガー戦車、パンター戦車が撃ち合う。

 「なんだ・・・あの戦車は化け物か」

 タイガー戦車、パンター戦車は、

 火力と防御力でアメリカ製、イギリス製の戦車を圧倒していた。

 「空軍に支援を頼め、このままでは、ロンドンを落とされるぞ」

 イギリス軍のいかなる攻撃も跳ね返すパンター戦車は無敵だった。

 そして、さらに強靭なタイガー戦車は手も足も出ない。

 イギリス軍戦車は、射的の的のように破壊され、

 まともに戦えず遮蔽物を盾に撃っては後退を繰り返した。

 

 

 ドーバー海峡海戦、

 英独艦隊磨り潰し海戦といった戦況になっていた。

 航空戦力で勝るドイツ空軍がイギリス艦隊を空襲し、

 艦隊運動を制限させ戦力を削いでいく、

 一方、圧倒的な火力に襲われるドイツ艦隊は、水柱に包まれ、

 時折、砲弾が命中し被弾し爆炎を噴き上げた。

 口径を小さくして艦体を強化したドイツ艦隊は、沈みにくかった。

 それでも限度がある。

 ドイツ艦隊が辛うじて浮いていられたのは、ドイツ空軍の空襲がイギリス艦隊の編隊を乱し、

 爆撃と雷撃のいくつかが成功したこと。

 そして、Uボートの雷撃で、アンソン、ウォースパイト、マラヤの被雷が上げられる。

 大破したシャンホルストとグナイゼナウが撤収し、

 弾薬を使い果たした巡洋艦、駆逐艦も撤退していく、

 残った北海側の戦艦ビスマルクも撤退。

 イギリス海峡側のテイルピッツ、ジャン・バールも大破し、

 砲弾も減少と損害の大きさを考えたのか、

 イギリス艦隊と逆行しつつドーバー海峡を北上し、ドイツ本国へと帰還していく、

 ドーバー海峡は静寂が訪れたものの、

 戦艦プリンス・オブ・ウェールズ、デューク・オブ・ヨーク、アンソンは、ボロボロになって傾いていた。

 そして、護衛艦と一緒に後退していく。

 ネルソンとヴァリアントが撃沈され、

 レナウンとレパルスも撃沈されていた。

 しかし、この戦いの勝敗は別の要素で決した。

 ロドニー、クイーン・エリザベス、ウォースパイト、マラヤの4隻が沈没を免れようと、

 ドイツ軍上陸部隊橋頭堡に乗り上げたの功績が大きかった。

 いくらタイガー戦車が強力でも戦艦と撃ち合う愚は犯せない。

 ドイツ空軍は、ロドニー、クイーン・エリザベス、

 ウォースパイト、ヴァリアント、マラヤを爆撃する。

 しかし、海岸に座礁した戦艦は、鋼の浮沈要塞だった。

 ドイツ空軍は、精力と徹甲爆弾を使い果たし、

 イギリス空軍も武器弾薬と勢力を使い果たしていた。

 

 

 ドイツ空軍基地

 「ハンス中佐。嬉しそうじゃないか。どうした?」

 「俺に空中戦を仕掛けてきたやつがいてね」

 「撃墜したのか?」

 「いや、手強くてさ。勝負付かずで分かれた」

 「なに喜んでいるんだか」

 「いやいや、一対一の空中戦というのは、ああでなくっちゃ」

 「おまえ、いい加減、協調性を学べよ」

 「また、会いたいな」

 「はぁ〜 もう、好きにしてくれ」

 超が付くエースは、かなり好き勝手できる。

 「それで、ドイツは、勝ったのかい?」

 「イギリス戦艦4隻に橋頭堡を塞がれた」

 「戦艦の砲撃を避けて上陸作戦を継続できると思うが遠回りになって、輸送効率が低下しているそうだ」

 「ふ〜ん、まずいのか」

 「上陸用舟艇の追加建造を急がせているし」

 「イギリス艦隊も壊滅状態だ」

 「もっとも、ドイツ艦隊もほとんどが大破で動かせないらしい」

 「酷い状況だな」

 「お互い様だが正念場でもある」

 「根を上げた方が退くが」

 「一度上陸させたドイツ軍は退くのが厳しいな」

 

 

 ツーロン港

 ドイツ軍は、ツーロンから撤収しつつあった。

 港の駆逐艦14隻も燃料を補給しだい。

 ギリシャへ向かう予定になっていた。

 建造中の軽巡の引渡しが終われば、租界ツーロンは、ヴィシー・フランスへ返還される。

 駆逐艦 艦橋

 「ストラスブールとダンケルクは、無事、ギリシャに着いたか」

 「戦艦オクラホマは、ジブラルタル」

 「ペンシルヴァニア、アリゾナは、マルタに配備されたようです」

 「ギリシャからマルタは、600km弱、爆撃圏内じゃないのか?」

 「護衛できる戦闘機がなければ、迎撃されて撃墜されるだけとか」

 「ドイツも長距離護衛戦闘機を開発すればいいのに・・・」

 「スピットファイアは強力ですから」

 「質をカバーできるだけの数を揃えられない限り、難しいかもしれません」

 「どちらにしろ」

 「我々も、マルタを抜けてギリシャまで行けばいいわけか」

 「ええ、やはり、ギリギリまでマルタに近づいて、夜間に抜ける方法ですかね」

 「ええ」

 「・・・・ナグモ艦長代理。フランス人の代表が会いたいそうです」

 「何でだ?」

 「フランス製の駆逐艦でアメリカ戦艦を撃沈した司令官と、どうしても握手したいと」

 「やれやれ」

 なぜか、日本人義勇海軍将兵は、フランス人に喜ばれ、

 歓迎されたりする。

 

 

 

 

 中国

 有史以来の歴史と文化を持ち、

 地下資源を有し、

 膨大な人口を有する大国。

 近代化するのに何ら支障がないはずが内憂外患で苦しんでいた。

 一歩裏道に入りこむとアヘン中毒者がたむろし、生死をさまよって、路地に転がっている

 半分は死んでいるように見えた。

 そして、少し離れた場所に餓死寸前の浮浪者が道端に座り込み、

 アヘン中毒となった父親と母親を見つめていた。

 こちらも半分以上が餓死している。

 租界周辺は、こういった場所が多く。

 中国全体でも増えていた。

 「・・・酷いものだな。トーマス」

 「復讐だよ。佐々木。俺の家族は上海で中国人に殺された」

 「中国人を薬漬けにして滅ぼしてやる」

 「それで、上海で働いた中国人に薬も渡しているのか?」

 「連中は、それで稼げばいい」

 「それが俺の復讐だよ」

 「まぁ 外交公館とか、領事館とか」

 「平気で襲って、凌辱し、殺戮できる連中だからね・・・」

 「佐々木。おれは、こいつらを絶対に許さないからな」

 「報復の応酬ってやつか」

 「だけどな。市場を台無しにしやがって、こいつらは商品を買えないぞ・・・」

 「何と言われても、おれの人生は、こいつらを滅ぼすために使う」

 「子供に飴やっても文句は言わないよな」

 「・・・・」

 佐々木は、ポケットから飴を出すと、道に横たわる子供たちに分ける。

 「トーマス。おまえ、むかしは、アヘンを憎んで償いだからって、こうやっていただろう」

 子供は、力なく受け取った手で飴を口に入れると、少しだけ微笑む。

 「シャンハイでは、女も子供も容赦なく殺された」

 イギリス人は、顔を歪め、

 憎々しげに子供たちを睨むと歩き続ける。

 良しにつけ、悪しきにつけ、

 親の因果が子に報いる場合もある。

 報いない場合もある。

 少なくとも由緒正しいイギリス人紳士は、暴力を振るわない。

 しかし、反中映画のせいか

 “リメンバーシャンハイ” で中国人に復讐を誓う者たちは多い。

 上海・香港、ほか各地の租界で

 暗躍するイギリス人、アメリカ人、フランス人、イタリア人は、十数万に達していた。

 そして、中国大陸を資源・市場と考える勢力と、毎日のように口論し衝突する。

 リメンバーシャンハイ以降、道義的な抑制が弱くなり、アヘンは急増。

 タダで配られる。

 アメリカは建前上、正義の国で軍事力で中国を抑え、

 市場にしようとしていた。

 しかし、本当に中国人を衰退させ、

 滅亡に追いやっていたのは、その復讐者たち。

 特に当座の金が欲しいイギリス、フランス商人は、市場を潰しても資源を欲し、

 インド人、フィリピン人を炭鉱に送り込んでも働かせる。

 

 中国歴代王朝とアヘンの戦いは古い、

 勝ちと言えず、負けとも言えず。

 転機は、イギリスが外交特権を利用してアヘン売り込んでからといえる。

 アヘンは、瞬く間に中国全土を席捲し、

 1840年アヘン戦争勃発。

 結果は清国の敗北。

 アヘンは、清国の国力を削ぎ落し、

 清国をして回復が困難にするほど中国人を持ち崩させ、滅亡させる要因にさせていた。

 アヘンの総元締めも華僑・中国軍閥だったり、

 民衆がアヘンに逃げたくなるような封建社会だったり。

 モラルの低い国を滅ぼすのに軍事力はいらない。

 少し助ければ、自業自得で自壊し、勝手に殺し合って自滅する。

 中国人の自業自得といえなくもない、

 無論、どこの国にも麻薬の総元締めがいて売人もいる、

 中国大陸は、多過ぎただけと言える。

 中国全体がアヘンに蝕まれ、列強はさらに付け込む。

 関東軍・満州鉄道もアヘン収益に浴し、政策資金にしていたが満州事変後、一掃されていた。

 日本は、満州事変のあと悪徳が後退し、

 実力や能力を疑われそうな穏健派とか建前派とか、

 お人好しが影響を与え始めていく、

 日本で工業力と商業が伸びて国体を支え始めると、民衆に活力が生まれ富が作られ、

 正気な人間が増えるとアヘンが敬遠されていく、

 権威と権力で押さえつけていた頃より、流通しているアヘンが減っていた。

 さらにアメリカ権益に日本租界が閉じ込められ、

 利潤の大きいアヘンルートが欧米列強の商人に奪われると、

 日本向けのアヘン自体も減少していた。

 

 

 ワシントン

 アメリカの上層部が集まって、密談。

 「中東はまずいぞ。何で戦闘になった」

 「ソビエトとは話しがついていた」

 「しかし、現地部隊が民族紛争に巻き込まれた」

 「ドイツ諜報部の工作じゃないのか?」

 「まだ。掴んでいないが、その可能性も否定できない」

 「しかし、中東で消耗戦はまずい、何とか戦いを抑えるべきだろう」

 「もちろん、欲しいのは油田の権益だけだ」

 「ソビエト側と交渉して、権益線まで後退させるように話をつけてくれ」

 「しかし、まずいのは、M4戦車がT34戦車に撃破されたことだ」

 「ああ、ソビエト軍は、嵩に掛かってくるはずだ」

 「ある程度の戦果を得てからだろう」

 「航空戦では勝っているよ」

 「それでもM4戦車が負けてはまずいよ」

 「満州は?」

 「一触即発だったがね」

 「日本が仲介に立って、緩衝地帯のまま収まるそうだ」

 「助かったな」

 「満州と中東で本格的にぶつかっては、歯止めが利かなくなる」

 「いまは、中国・上海を押さえて、中東権益の確保。これで、行きたい」

 「わかっている。戦線を広げるのは、まずい」

 「だが日本に大きな借りができた」

 「いくら?」

 「東北・北海道・南樺太を開発する土木建設機械を要求してきたよ」

 「やれやれ」

 「対ドイツ戦は?」

 「ドイツを挑発しているが乗ってこない」

 「イギリスを占領されたら、今度は、ドイツ海軍とぶつかるぞ」

 「それはまずい。イギリスは、守るべきだ」

 「なんとか、ドイツに宣戦布告させるか」

 「ソビエトにドイツの背後を突かせよう」

 「ソビエト国内の状況は?」

 「南の暖かい土地を手に入れたのが喜ばれているらしい」

 「内部崩壊寸前だったはずだが持ち直している」

 「ドイツにソビエト侵攻させられたら良かったが・・・」

 「誰でも、そう思う。中国は?」

 「華北は張学良。華南は甘志遠の軍閥で、まとめられそうです」

 「支援した甲斐もあるか」

 「ですがまだ。力不足のようです」

 「蒋介石が重慶に引っ込んでいるのなら。そのまま、中華三分の計でいけると良いが?」

 「いえ、蒋介石が上海割譲を認めてからでないと・・・」

 「まったく、どうにもならん国だ」

 「地下資源と市場がなければ相手にしたくないな」

 「日本の大使も同じ意見のようです」

 「それだけは、世界共通か」

 扉が叩かれる。

 「大統領。お時間です」

 「ああ」

 白い家の主人とヴィシーフランスの代表が向かい合う。

 白い家の主人は、中東が気になって、どうでも良くなっているのか、気だるげ。

 「戦艦リシュリューを返還していただきたい」

 「あれは、フランスの財産ですぞ」

 「・・・ああ・・・確かにそうではあるが」

 「自由フランスとの約束で修復中でしてね」

 「自由フランスは、フランスを代表していません」

 航空戦力と戦車。陸軍を保有する国は強気になれた。

 「確かにフランス人の多くは、ヴィシーフランスの体制を認めているようですが・・・」

 「修復の対価は、こちらで支払います」

 「もちろん、戦艦リシュリューは、我が国の物」

 「まぁ 調査してみますが」

 「ドイツの傀儡でないのであれば、返還することになると思います」

 「我が国は、断じてドイツの傀儡ではない!」

 「・・・わかりました」

 「とりあえず、そちらへ外交官を派遣して傀儡の是非を確認し」

 「国交回復してから、ということになりますが?」

 「それでいいでしょう」

 アメリカがヴィシーフランスに外交団派遣決定すると、

 ドゴール率いる自由フランス軍は、正当性を失って縮小していく。

 

 

 哨戒線を突破したドイツ艦隊が大西洋に飛び出していた。

  1) ポケット戦艦リュッツォウ、アドミラル・シェーア。 

  2) 空母グラーフ・ツェッペリン

  3) 重巡コルベール、フォッシュ、軽巡ラ・ガリソニエール、

  4) 重巡デュプレ、アルジェリー、軽巡マルセイエーズ。

 

 そして、大西洋を飛びだしたドイツ艦隊を追撃するイギリス艦隊もあった。

  1) 空母フォーミダブル、インドミタブル。

  2) 空母イラストリアス、ヴィクトリアス。

 

 イギリス輸送船団は、護衛空母と旧式戦艦を配備していた。

 旧式戦艦は1隻でも、ポケット戦艦の襲撃を防ぐことができた。

 そして、護衛空母のせいで、群狼作戦も効果の薄いものになっていた。

 空母グラーフ・ツェッペリン 艦橋

 「唯一、効果的な攻撃法は、空母艦載機による攻撃か」

 「ドーバーの戦いに参戦させなかったのは、艦載機の問題ですね」

 「そりゃ この艦載機じゃな」

 エンジンを強化した97式戦22機。

 ようやく離着艦ができるスツーカ艦爆18機。

 「艦載機は性能ではなく、運用ですよ」

 「どこで運用するか」

 「・・・提督。索敵機が船団を発見しました」

 「ん? 空母フォーミダブル、インドミタブルが追いかけてきているはずだが」

 「普通なら、そっちと出くわすはずですがね」

 「やれやれ・・・・」

 「どうします?」

 「・・・出撃だ」

 500kg爆弾を搭載したスツーカ艦爆12機が発艦し、

 97式戦12機が追いかけていく。

 500kg爆弾であれば、護衛空母は、ほぼ撃沈。

 戦艦も大破させることができた。

 メッサーシュミットの艦載機も開発していた。

 しかし、97式戦と同じ、引っ込み脚をやめる方が開発が早そうだった。

 12機のスツーカがイギリス輸送船団を強襲。

 護衛の97式戦12機は、護衛空母から発艦したワイルドキャット6機と空中戦を繰り広げる。

 そして、2倍の97式戦を相手にするワイルドキャットは、苦戦し、翻弄される。

 1000馬力にチェーンアップされた97式戦は、ワイルドキャットと同程度に渡り合えた。

 しかし、7.92mm4丁でワイルドキャット撃墜は困難であり。

 ワイルドキャットを妨害し、爆撃機の護衛に徹するしかなかった。

 「!?・・・ ほお〜」

 97式戦がワイルドキャットの銃撃をひらりとかわす。

 アカマツは、船団上空から離れようとしていた飛行船を発見。

 飛行船は必死に逃げようとするが遅かった。

 ワイルドキャットの銃撃をかわしながら飛行船に向けて7.92mm4丁を掃射していく。

 さらにワイルドキャットの突進をかわしつつ、数度の掃射。

 蜂の巣になった飛行船は、ヘリウムを積んでいるのか、

 ゆっくり、海上に落ちていく、

 

 一方、船団上空は対空砲火の弾幕で黒い煙玉がいくつも作られ、

 曳光弾が迫る爆撃機を追いかけていく。

 二組に分かれた6機ずつのスツーカーが護衛空母のアタッカー、バトラーの上空に付くと急降下。

 爆撃機の急降下に比べれば、

 白波を蹴立てて逃げ回る高速艦でさえ、ゆっくりだった。

 その半分強の速度で回避運動を取る護衛空母など、射的の的に近い。

 そして、弾幕が弱ければ、恐怖も薄れ、

 投弾高度も低くなり、さらに命中率が増す。

 矢継ぎ早に投下された爆弾のひとつがアタッカー飛行甲板と内隔壁を紙のように突き破り、

 艦底近くの機関室で爆発する。

 こうなると助かる見込みはなく。

 護衛空母2隻は、誘爆を繰り返しながら沈没していく、

 護衛空母さえ撃沈すれば、Uボートの襲撃は容易になり、

 編隊が解かれれば、水上艦隊が襲撃しやすくなった。

 

 北大西洋

 長良、5600トン級、ディーゼル機関4500馬力×4基。18000馬力。25ノット。

 40口径127mm連装砲4基。爆雷投射基8基。

 輸送船団を護衛しながらイギリスに向かう。

 水雷戦隊期待の軽巡のなれの果てが雑役艦。

 そして、イギリスに売られて護衛艦。

 巡洋艦は、全長150mを超えて、縦揺れ(ピッチング)を抑え、

 魚雷が当たっても、すぐ沈まないだろう、で人気があった。

 イギリスの優れたソナーと余裕のある艦体で爆雷が多く、積荷も余計に詰め込めた。

 北大西洋航路の往復でディーゼル機関は、経済効率が良く。

 Uボートの撃沈も2隻に達していた。

 長良 艦橋

 「アタッカーとバトラーがやられたぞ!」

 「護衛空母がやられては、まずい」

 「飛行船も着水します。救助を求めています」

 「睦月を回せ!」

 「あの艦載機は日本機のようですね」

 「ちっ!」

 「日本人め。ろくな事しやがらない。Uボートはどうした!」

 「弥生がソナーを打つはずです」

 フランスが降伏し、

 バトル・オブ・ブリテンが始まって窮地だったイギリス海軍を日本の旧式艦艇が救う。

 弥生と卯月がソナーを打ち、機関を止めつつ、

 海面下に隠れているUボートを捜索する。

 自ら発する機関の音が観測の障害になるため危険を冒して止める。

 「右舷4時300。深度約100。反応。3時方向へ4ノット・・・」

 そして、聴音機に耳を当てて、反応を長良と五十鈴に送る。

 小回りが利く小型艦はUボートで有利だった。

 しかし、爆雷の数は、中型艦が多い。

 大体の距離と深度がわかると、爆雷の深度を調整しつつ、投下し、投射していく。

 艦尾から滑り込むように落ちていく爆雷と、投射機から撃ち出される爆雷が海面を叩き、

 盛大な飛沫を上げていく、

 ソナー音が木霊しているなか、

 艦尾方向の海面が振動し盛り上がり、艦橋より高く海水が噴き上がっていく。

 これを交代で繰り返し、

 Uボートを追い詰めて、撃沈していく。

 「艦長!」

 救命具。そして、油が浮かんでくる

 Uボートが撃沈したように見せかけることは良くあった。

 『『『『どっちだ・・・』』』』

 その時、船団の中から爆発音が起こる。

 「ちっ!」

 「こっちは良い。船団をまとめる。反対側の護衛艦に伝えとけ!」

 「はっ!」

 ドイツ海軍は、群狼作戦を展開し、

 イギリス護送船団は、1隻のUボートに集中できなかった。

 

 

 

 空母フォーミダブル、インドミタブル。

 ソードフィッシュが出撃していく。

 フォーミダブル 艦橋

 「グラーフ・ツェッペリンのおかげで戦闘機が増やされた」

 「ソードフィッシュが減らされると対潜哨戒が、どうもいかん」

 「ポケット戦艦に上手く避けられていますね」

 「駆逐艦も4隻しか付いていないから、海上の哨戒も省けん」

 「でも、イギリス本土が上陸されているというのに・・・」

 「いいものか」

 「しかし、この空母の艦載機では、ドイツ上陸部隊を空襲するのが関の山だ」

 「それならば、通商破壊阻止ですか?」

 「ドイツ空母は、どこにいる」

 「バルト海側にいたはずですから、同じ様に大西洋に出たはず」

 「バルドー湾にいたポケット戦艦を先に補足したのなら」

 「どこかで、擦れ違ったのかもしれません」

 ポケット戦艦のリュッツォウとアドミラル・シェーアは距離を保ちながら、

 ソードフィッシュの雷撃をかわしていく、

 数十機で包囲しながら雷撃だと、かわしようがなかった。

 しかし、2、3機単位で現れ、対空砲火を掻い潜って雷撃するのなら、

 相対速度と距離しだいで、ギリギリかわせる。

 それでもリュッツォウが避けきれず1本が命中し、爆発、水柱が噴き上がる。

 舷側水線下から流れ込む海水を塞がなくてはリュッツォウは沈没する。

 ろくな隔壁もないポケット戦艦を沈没から救うため重要区画さえ、

 そう、艦尾側主砲塔の弾薬庫を封鎖しなければならなかった。

 海水が流れ込むと、艦が傾き、重くなり、速度を落としていく、

 こうなると防御力の低いポケット戦艦は、狩る側から狩られる側へと追いやられてしまう。

 フォーミダブル 艦橋

 「ポケット戦艦のとどめを刺せそうです」

 「ああ・・・」

 「・・提督。北方200kmの輸送船団が空襲にあって護衛空母2隻が撃沈」

 「哨戒用飛行船も撃墜されたそうです」

 「ちっ! 北だったか」

 「どうします?」

 「ドイツ空母をしとめる、索敵機を出せ」

 「ポケット戦艦は?」

 「輸送船団が一番怖いのは?」

 「護衛空母を空襲で撃沈するグラーフ・ツェッペリンだ」

 「ポケット戦艦ではない」

 

 

 グラーフ・ツェッペリン 艦橋

 「提督。リュッツォウが南300kmでソードフィッシュに雷撃されたそうです」

 「ソードフィッシュということは、護衛空母か、正規空母だな」

 「どうします?」

 「今度は、護衛艦を沈めて丸裸にしてやろうと思ったが・・・」

 「正規空母だと、こっちに向かってくるはず」

 「索敵機を出せ。南だ」

 「イギリスの正規空母と戦うのは、危険では?」

 「だが、戦ってみたい」

 「まぁ それも、そうですがね」

 

 

 「「出撃!」」

 

 97式戦14機、スツーカー爆撃機14機。

 シーハリケーン17機、ソードフィッシュ18機。

 双方の攻撃部隊が北大西洋上で擦れ違う。

 

 空母グラーフ・ツェッペリンは、97式戦5機を直衛機で上げ。

 空母フォーミダブル、インドミタブルは、シーハリケーン8機を上げる。

 

 1936年試作。固定脚の97式戦。

 1935年試作。引っ込み脚のシーハリケーン。

 シーハリケーンが有利。

 しかし、それだけ。

 相対速度40kmの差は、シーハリケーンが有利でも決定的と言いにくい。

 空母は、対空砲火を撃ち上げ、

 敵機の投下を見て、回避運動を繰り返していく、

 命中率は、急降下爆撃の方が有利。

 破壊力は、雷撃機の方が有利。

 ドイツ空母グラーフ・ツェッペリンは、航空魚雷1本が命中して逃走。

 イギリス空母フォーミダブルは爆弾3発が命中。

 1発は艦橋を直撃してしまう。

 イギリス空母の偉大なところは、飛行甲板に装甲を張っていることで、

 500kg徹甲弾だと良くて飛行甲板を撃ち破って爆発。

 爆発が格納庫に届いても、被害の程度は小さく済まされる。

 問題となったのは、艦橋を吹き飛ばした500kg徹甲弾で、指揮系統を失って漂い始める。

 フォーミタブルは、Uボートのウヨウヨしているような海域で、曳航する羽目になり、

 運がいいのか、悪いのか、イギリスにまで辿り着く。

 もっとも雷撃されたリュッツォウも、なんとかドイツ本土に帰還することができた。

 

 

 イギリス本土

 ドイツ上陸部隊は、タイガー戦車やパンター戦車を押し立て、ロンドンを制圧してしまう。

 ドイツ軍ロンドン航空基地

 メッサーシュミット、フォッケウルフが前進していた。

 しかし、補給が滞って防空だけで精一杯であり、

 テムズ川に陸揚げされてくる物資は少なく、不足がちな武器弾薬、医療品で防戦に追われる。

 「・・・どうやら、さっきのイギリス空軍は乗り上げた戦艦への空輸だったらしい」

 「あの4隻のせいで、輸送が遅れてますからね」

 「武器弾薬が足りないな」

 「ドーバーの底に海底トンネルでも掘ってもらわないとな」

 「しかし、瓦礫ばかり、本当にロンドンですかね」

 「パリは綺麗に残されたから、少し意外だな」

 「美学を優先できる国民性は悪くないよ」

 「少なくとも、凍えずに済む」

 ドイツ軍将校は、身震いして空を見上げると、

 垂れ込めた空から白いものが降ってくるのが見えた。

 

 

 

 皇居

 42歳の壮年と総理大臣がお茶をすする。

 「今年も良いお茶が採れたの」

 「まったくです」

 「最近は、各国からの贈り物が多いの」

 「はい、陛下を慕ってのことだと思われます」

 「そうか、貰うてばかりでは良くないでな」

 「お返しもしなければならんの」

 「はい、皇室ご用達で良い物を選んでおきました」

 「よろしく頼むよ」

 「はい、陛下」

 

 

    

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 月夜裏 野々香です。

 孫子の兵法は以下の特徴があるそうです。

  1) 非好戦的。

  2) 戦わずして勝つ。

  3) 情報収集と現実主義。

  4) 視野と視点の変化。そして、固定概念の否定。

 

 

 クラウセヴィッツ 『戦争論』

 こちらは、近代的な視点もあるのですが、

 かなり好戦的で、1)、2)が弱く。3)、4)が強く。

 戦争に勝つことだけを目的としているようです。

 史実の第二次世界大戦は、

   クラウセヴィッツ『戦争論』 日独伊枢軸国

                   VS   『孫子』 米英ソ中連合国

 の戦いともいえるでしょう。

 最初に攻勢を仕掛けた同盟国側が次第に息切れしていく。

 そして、潰される。

 この戦記では、中立国が多くて、いろんな干渉を受けそうです。

 

 

 自由フランス海軍

 イギリスに囚われの身となった旧フランス艦隊。

 意外と残っているのですが、

 ヴィシーフランスが完全独立だと、どうなるんでしょう。

 ド・ゴール将軍の身の振り方も微妙だったりです。

 戦艦リシュリュー

 旧型戦艦クールベ、パリ

 旧型戦艦ロレーヌ

 空母ベアルン

 軽巡洋艦デュゲイ・トルーアン、ジャンヌ・ダルク、

 軽巡洋艦エミール・ベルタン、ジョルジュ・レイグ、グロアール、モンカルム

 重巡洋艦デュケーヌ、トゥールヴィル、シュフラン、

 駆逐艦ミストラル、ウーラガン、シムーン、タンペート、

 駆逐艦ル・フォルテュネ、ラルション、バスク、フォルバン、

 駆逐艦ル・ファンタスク、ル・マラン、ル・トリヨンファン、

 潜水艦13隻。

  

  

 

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第13話 1942年 『柳の下に・・・』
第14話 1943年 『予算を取るぞ〜!!!』
第15話 1944年 『わ・る・だ・く・み』