月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『不戦戦記』

 

 

第13話 1942年 『柳の下に・・・』

 日本は、忙しかった。

 日本産業は、国内需要、海外需要でフル回転。

 水力発電ダム建設が間に合わず。

 中国の石炭を当て込んで火力発電所も建設されていく、

 さらに中国の資源とアメリカの燃料・工業部品が日本に集まり、

 空前の好景気を巻き起こしていた。

 

 

 ドイツ海軍

 戦艦ビスマルク、重巡洋艦プリンツ・オイゲン。

 巡洋戦艦シャルンホルスト、グナイゼナウ。

 空母グラーフ・ツェッペリン

 夢よ、もう一度。

 柳の下にドジョウがもう一匹・・・・

 もう一回だけなら・・・

 この誘惑に勝つには鉄の意志が必要であり、

 打ち勝てる者は人類の中でも少数派に属する。

 質実剛健なゲルマン民族軍人が誘惑に勝てなくても不思議ではなく、

 むしろ、自然な成り行きといえる。

 脅威となるイギリス艦艇は、戦艦プリンス・オブ・ウェールズ。巡洋戦艦レナウン、レパルス。

 空母イラストリアス、ヴィクトリアス、フォーミダブル、インドミタブルだった。

 

 

 空母グラーフ・ツェッペリン建造は、日本海軍の赤城を参考にしていた。

 運用艦載機は、

 メッサーシュミット戦闘機22機、

 ユンカース急降下爆撃機18機。

 の予定だった。

 

 バルト海 

 グラーフ・ツェッペリン 艦橋

 メッサーシュミット戦闘機とユンカース急降下爆撃機。

 が甲板に並べられていた。

 艦載機用に改修されたものの、元々の設計が陸上機で運用に難があった。

 日本はドイツの同盟国でなかった。

 しかし、遠交近攻は、それほど、おかしな事でもなく、

 取り引きの折り合いさえ付くなら工作機械を融通すれば済んだ。

 日本も、ドイツ海軍が強かろうが弱かろうが困るわけでもなく。

 むしろ、ドイツ海軍が強ければ、

 アメリカ海軍の脅威を大西洋側に引き付けさせて好都合といえた。

 開戦前、ドイツは保険で日本から97式戦80機、99艦爆80機を購入していた。

 正確には、イタリア空軍から買ったものらしい。

 どうやって運び込んだかというと、日本発、イタリア経由、ドイツ行き。

 イギリス海軍も、イタリア海軍と正面から戦いたくないのか、

 ジブラルタルを素通りさせてしまう。

 「どうだね?」

 「日本の艦載機の方が良いですよ」

 「無論、性能ではありませんが」

 「そりゃ 離着艦を見ていたらわかるよ」

 「相手がソードフィッシュなら99艦爆でも撃墜できそうですがね」

 「・・・やはり、97式戦と99艦爆でいくか」

 「イギリス空母にアメリカ軍機が搭載されていると聞きましたが?」

 「どうだろうな」

 「そうだとすると、負けるかもしれない」

 「どうして、新型のゼロ戦にしなかったのです?」

 「97式戦がBMW水冷エンジンだからだろう」

 「それに離着艦を考えるなら、失敗のない機体を選ぶよ」

 「不安では?」

 「97式戦の航続距離は1000km越える」

 「哨戒範囲が300kmだとしても」

 「ビスマルクの有効射程の10倍はある」

 「99艦爆だと航続力1350km。空母は良いな」

 「確かに・・」

 「では、行くとするか」

 アメリカの武器貸与法で

 イギリス本土にB17爆撃機、B24爆撃機が配備され始めていた。

 イギリスの哨戒域の密度と範囲が数倍に膨れ上がり、

 ドイツ艦隊は大きく回り込みながら大西洋に出ていた。

 イギリス空軍は、バトル・オブ・ブリテンで壊滅状態であり、

 哨戒能力が数倍になったところで、タカが知れていた。

 天候が悪ければ発見されにくかったりで、発見は運しだい。

 戦艦ビスマルク、

 巡洋戦艦シャルンホルスト、グナイゼナウ。

 空母グラーフ・ツェッペリン。

 重巡洋艦プリンツ・オイゲン。

 ドーバー海峡を南下するドイツ艦隊は、運悪く哨戒機に発見されてしまう。

 イギリス本土から飛び立ったイギリス航空部隊はドイツ艦隊に向かって殺到し、

 大陸側の基地から飛び立ったドイツ航空部隊がイギリス航空部隊を迎撃する。

 このドーバー海峡航空戦。

 イギリス航空部隊は、爆撃圏外まで航空基地を後退させて、航続距離で不利だった。

 そして、ドイツ航空部隊は大陸沿岸の飛行場から出撃できて航続距離で優位だった。

 ドーバー海峡を通過するドイツ艦隊上空で、

 メッサーシュミット、フォッケウルフと、ライトニング、ワイルドキャットが飛び交い。

 B17爆撃機、B24爆撃機、B25爆撃機が爆弾を投下していく。

 ライトニング戦闘機が錐揉みしながら

 グナイゼナウの艦舷に体当たりして爆炎をあげる。

 ドイツ艦隊上空は、500機以上の戦闘機・爆撃機が飛び交って、

 史上空前の海上航空戦を繰り広げていた。

 100機以上のイギリス爆撃機がメッサーシュミット、フォッケウルフに機銃掃射されながら、

 水平爆撃を繰り返していく。

 吹き上がる水柱と立ち籠もる海霧が

 ビスマルク、シャルンホルスト、グナイゼナウの艦体を覆ってしまう。

 イギリス空軍は、本格的な本土上陸作戦と思い、

 遮二無二航空攻撃を繰り返し。

 戦艦部隊を出撃させた。

 戦艦プリンス・オブ・ウェールズ 艦橋

 「レナウンとインドミタブルは?」

 「遅れていますが、こちらに向かっています」

 「そうか、現状戦力でもやれるが損害は最小限に食い止めたい」

 「急ぐように伝えてくれ」

 「はっ」

 洋上を見渡すと巡洋戦艦レパルス。

 空母イラストリアス、ヴィクトリアス、フォーミダブルが見えた。

 ドイツ艦隊が海峡突破を試みたら海上決戦が始まる。

 ネルソン、ウォースパイト、マラヤと水雷戦隊も準備していた。

 リベンジ型戦艦は船団護衛に振り分けられて不在だった。

 イギリス戦艦部隊が海峡を塞ぎ始めると、

 ドイツ艦隊は回頭して引き揚げていく、

 イギリス空軍が嵌められたと気付いたとき、

 再建途上だったイギリス空軍部隊は、不利な状況下で戦わされて半減していた。

 

 

 そして、北大西洋

 ドーバー海峡に向かったドイツ艦隊攻撃で、

 イギリス空軍は北海の哨戒スケジュールが乱されていた。

 空母グラーフ・ツェッペリンと重巡洋艦プリンツ・オイゲンは、

 哨戒の隙を突いて、北大西洋へと回りこんでしまう。

 空母グラーフ・ツェッペリンから99艦爆が索敵で発艦していく。

 しばらくすると、イギリス輸送船団を発見し、

 97式戦5機、99艦爆20機が飛び立っていく、

 狙われたのは、護衛空母アーチャーで、ワイルドキャットを搭載していた。

 護衛空母アーチャーの速度は遅く、発艦速度で、ようやく2機が飛び立ったとき、

 2機のワイルドキャットが高度を上げる前、

 99爆撃機は、アーチャーに向かって急降下爆撃に入って手遅れだった。

 250kg爆弾が護衛空母の飛行甲板を突き破り、艦内で爆発。

 護衛空母アーチャーは、爆弾4発が命中し、

 誘爆を繰り返しながら沈没していく、

 ワイルドキャット2機と97式戦5機の空中戦は勝負が付かず、

 目的の護衛空母を撃沈すると、97式戦は相互支援しながら逃げていく、

 第二次爆撃は、戦艦と護衛艦を無視し、輸送船3隻を爆撃。輸送船2隻大破する。

 空母グラーフ・ツェッペリン 艦橋

 「爆撃で輸送船を撃沈するのは、運不運だな」

 「吃水水線面下の船体撃ち破らないと撃沈確実とは言えませんね」

 「護衛空母か、護衛艦を撃破して輸送船をUボートに任せるのが機能的だろうな」

 「ええ」

 「空母は、Uボートと違って、海中に隠れられないのが怖すぎるよ」

 「まったくです」

 「引き揚げるか」

 「提督、4時方向にソードフィッシュです。発見されました」

 垂れ込めた雲間にソードフィッシュが見え隠れしていた。

 「97式戦を出撃させろ」

 「はっ!」

 97式戦闘機15機が出撃。

 シーハリケーン10機に護衛されたソードフィッシュ20機と、

 世界史上初の空母対空母の海上航空戦が展開された。

 「アメリカ機じゃないな」

 「シーハリケーンですね」

 「シーファイアじゃなくて良かった」

 「本土防空戦で割り振り利かなかったのでは?」

 「スピットファイアなんて、勿体無くて使えなかったのだろう」

 その時、回頭中の空母グラーフ・ツェッペリンの鼻先に向かって、

 !?

 対空砲火を掻い潜りながらソードフィッシュが突っ込んでくる。

 対空砲火が集束し、ソードフィッシュをズタズタに引き千切っていく、

 雷撃コースは正確に思えた。

 冷や汗が流れ・・・

 横合いから97式戦闘機が7.7mm4丁を掃射・・・

 ソードフィッシュは海面に叩きつけられ、

 水柱を上げて爆発する。

 ほぉ〜

 空母グラーフ・ツェッペリンの防空は成功し、

 本土へと帰還していく。

 艦橋

 「アカマツ。よく空母を守ってくれた」

 「本来、教官扱いで出撃させないつもりだったが」

 「シーハリケーンとソードフィッシュの2機撃墜を確認したよ」

 「はい、ありがとうございます」

 空母グラーフ・ツェッペリンは、まだ戦えたと、

 ドイツ海軍で問題になった帰還だった。

 しかし、巡洋戦艦レナウンと空母インドミタブルが300kmまで近付いていたので、

 後に、この判断は正しいとされた。

 

 一方、空母インドミタブル

 「スギノ。97式戦2機の撃墜を確認した」

 「はい」

 「空母グラーフ・ツェッペリンに日本の97式戦を搭載しているとは思わなかった」

 「できれば、あの機体の弱点を教えて欲しい」

 「シーハリケーンで十分、押していましたよ」

 「撃墜できなかったのは97式戦に不慣れだったこと」

 「それと不運だけです」

 「とても、そう思えないがね」

 「まぁ 良いだろう。良くやってくれた」

 「次も期待している」

 「はっ」

 

 

 ホワイトハウス

 世界地図を覗き込む数人の男達。

 気になっているのは、

 中国の支配域と、

 新たに上陸した中東の利権。

 ソビエト軍の中東侵攻とアメリカ軍の中東上陸。

 中東は、アメリカにとって、世界の裏側で兵站線が怪しく、

 イギリスは、自国のことで手が一杯、

 イタリアは、交戦国に囲まれ発注しにくかった。

 仕方なく、まともな産業のある日本に軍需物資を発注していく、

 「どうだね。中東は?」

 「空母で艦載機を輸送し、飛行場に配備させました」

 「海兵隊、陸軍とも上陸させたので」

 「ソビエト軍の動きを牽制できるはずです」

 「問題は、国民に配分できるような採算かな」

 「そうでなければ、軍産複合体だけのうまみで終わってしまう」

 「中東で期待できるのは、石油ですね」

 「それとソビエトの南下を押さえ、中東に足場を作れたならインド洋のアメリカ利権に繋がります」

 「ですが採算を考えると日本に軍需物資を生産してもらうのがいいようです」

 「日本は信用できんよ」

 「あの通商破壊戦艦8隻は危険だ」

 「356mm連装4基装備の伊勢・扶桑型4隻」

 「356mm連装3基装備の金剛型4隻か・・・」

 「大砲を減らして通商破壊戦艦にされてはアメリカ海軍も形無しですね」

 「追撃できるのは、新型戦艦のワシントンとノースカロライナ・・・」

 「あとは、空母サラトガ、レキシントン」

 「エンタープライズ、ホーネット、ヨークタウン」

 「そして、ワスプでしょうか」

 「空母は、まだ未知数だけどな」

 「空母を入れるなら、日本の赤城、加賀、蒼龍、龍驤も入れなければ」

 「サウスダコタ型4隻、アイオワ型4隻が完成すれば日本の通商破壊戦艦は恐ろしくないはずです」

 「日本の新型戦艦は?」

 「建造されていません」

 「マル3、マル4ともに補助整備予算だったようです」

 「ではマル5で戦艦建造か?」

 「マル5は、44年以降ですから・・・」

 「戦艦を建造しても完成は、その2年後」

 「舐められたものだ」

 「どの道、上海のB17爆撃機とライトニング戦闘機の配備で中国も日本も、チェックメイトでしょう」

 「上海が軍事力を維持できるほどの収益を上げ」

 「設備投資さえ進めば、確実にアメリカの海外州でしょうな」

 「上海は、アジアの要ですから投資さえすれば・・・」

 「一番、恒久的で安上がりな方法は、大運河を広げ」

 「上海ごと高台の台地にしてしまうことでしょう」

 「それだけで、戦車も人海戦術も通用しない」

 「航空機と通商破壊だけが怖いか・・・」

 「まさか、中国も、日本も上海を攻撃するような国力にはさせませんよ」

 「可能な限り早く、蒋介石に上海割譲を認めさせ、自立させることだな」

 「リメンバーシャンハイと欧州戦争勃発で」

 「アメリカの対アジア戦略、対欧州戦略は、ほぼ達成と言えるでしょう」

 「日本が大人しいのは意外ですがね」

 「金儲けに目が眩んでいるのでしょう」

 「付け入る隙がないとも言えるな」

 「上海の設備投資がすめば」

 「今度は、溜めこんだ金を吐き出させる事ができますよ」

 「日本が非好戦的なら余剰戦力で中東利権を押さえるのも悪くない」

 「ソビエトも日本が非好戦的だからと安心し、中東侵攻に踏み切ったのでは?」

 「んん・・・意味深だな・・」

 「だが中国利権と中東利権を押さえればアメリカの国際的地位は最大と言える」

 「ええ、欧州も拠点になりそうな国ができそうですし」

 「そういえば、イギリスは、むかし宗主国だったかな」

 「宗主国から捨てられた石が隅の頭石になった、ということでしょう」

 「信教の自由を求め、旅立ったメイフラワー号の乗員が聞けば、泣いて喜んでくれるだろう」

 「得たのが信教の自由でなく、資本の自由だと知れば、違う意味で泣くかもしれませんが」

 「伝統や権威から解放され、自由になろうとすると拝金主義になる。道理だよ」

 「アジアから、何が得られますかね」

 「より大きな富と自由だよ」

 

 

 アメリカにとって日本は仮想敵国の一つ。

 世界情勢で言うとフランスが消えた分だけ可能性が繰り上がる。

 当然、日本に発注する工業製品も制限すべきだった。

 しかし、アメリカ軍が中東と中国の両方で兵站線を維持し、

 稼働率を高めようとすると日本の生産力を使う方が良い事になる。

 M3軽戦車のエンジンは、

 コンチネンタルW670-9A 星型7気筒空冷ガソリン 262馬力。

 中国・中東向けならM3軽戦車で十分と日本に製造させようとすると。

 日本の一式戦車がモノコック構造で被弾性能が高く、車体構造で上だと気付く。

 弱点は、車内が狭いことだった。

 しかし、砲弾を減らし、

 ディーゼルエンジンより小型のガソリンエンジンを装備すると室内が広がり、ギリギリクリア。

 大砲とエンジンをアメリカ製に変え、

 アメリカの国旗をつけた一式軽戦車が中国大陸と中東へと運ばれていく。

 赤レンガの住人たち

 港で、一式系戦車が船積みされ、

 出航していく船を関係者たちが見守っていた。

 「得だったのか、損だったのか・・・」

 「モノコック構造くらい戦闘機を製造している国なら誰でも知っている」

 「262馬力のガソリンエンジンのライセンス生産は得だったよ」

 「あとアメリカ製のM6-37mm砲だな」

 「砲身製造工程の合理化は頷ける」

 「他にも流用できて得だったよ」

 「まぁ 一式戦車を100両輸出すれば10両は、日本で配備できて、悪くないさ」

 「アメリカのM3軽戦車の技術も把握できたし、かなり助かるな」

 「中戦車も、軽戦車も、規模の問題で同列の技術で造られているからね」

 「公共投資が進めばトン数制限が増えて、中型戦車も作れるだろう」

 「公共投資が増えると軍事費が減るよ」

 「マル5はどうしても落とせないよ」

 「公共投資を増やさないと15トン戦車のまま・・・だな・・」

 「だよな・・・・」

 「まぁ アメリカ、イギリス、ドイツの良い側面を習得できれば、それはそれで良いと思うよ」

 「そういえば、民間労働者だけじゃなくて、義勇軍も随分と行ったな」

 「軍艦減らされて干されたからね」

 「生きて戻ってくれば戦果に応じて昇給も昇級もできるし・・・」

 「じゃ 適当に減ってもらわないと戻ってきたら人件費が増えて」

 「兵器とか、武器弾薬が減る」

 「新兵の徴兵は、当分見送りだな」

 「一度、膨れ上がった既得権を切り崩そうとすると血を見るからね」

 「もう、コリゴリだよ」

 

  重量 全長×全幅×全高 馬力 速度 航続力     乗員
一式戦車改 15 5.7×2.3×2.28 262 54 200 60口径37mm×1 7.7mm×2 4

 

 

 イギリス

 ドイツの爆撃圏外にM3中戦車、M5軽戦車、

 ライトニング、ワイルドキャット、ウォーホーク、B17爆撃機が並び始めていた。

 アメリカの武器貸与法と

 アメリカ人義勇軍の参戦で軍事的に余裕が生まれつつあったものの、まだ守勢のレベルだった。

 そして、ドイツは、アメリカ軍の挑発に一切乗ろうとはせず無視、

 おかげで、イギリス海軍は、ドイツ海軍の通商破壊で苦戦続き、

 アメリカは、武器貸与法と義勇軍の派遣だけで、参戦がなく。

 ソビエトには、中東で裏切られていた。

  

  

 満州 長春

 日本鉄道が標準軌1435mm。ソビエト鉄道が広軌1528mm。

 日ソ権益の鉄道が、ここで繋がる。

 日本もソビエトも施設権と付属地があるだけで沿線の外は中国領だった。

 そして、日本も、ソビエトも会談場所で適当なのか、長春を使う。

 「日本の沿線沿いは華やかになりつつあるようですな」

 「華僑とユダヤ資本が入り込んでいるのでしょう」

 「おかげでハリマンの妨害工作も減少ですかな」

 「さて、朝鮮族と漢民族の抗争が満州の治安を悪化させているような気がしますが」

 「日本は権益内だけ安定させれば良いのでは?」

 「権益圏外は自業自得だと?」

 「ふっ♪ 我が国は、国外に恵んでやるような資本も善意もありませんな」

 「国を興せない民族は、所詮、その程度の力量」

 「滅びてしまった方がいいのですよ」

 「それは、ともかくとして、中国・朝鮮共産軍にソビエトのBT戦車と」

 「ドイツの1号戦車、2号戦車を輸出するのは危険ですぞ」

 「兵器は消耗品。輸出しても減価償却がありますからな」

 「まともな産業を持たない中国軍に兵器を渡しても時間の問題で壊れだけ」

 「適当に粘れば無力化するでしょう」

 「ソビエトは資源が欲しいだけですか?」

 「資源を必要としない国がありましたかな」

 「戦車を走らせるには燃料がいる」

 「部品と弾薬が消耗すれば購入。資源と交換なら楽なものですよ」

 「資源が豊富な国が羨ましいですな」

 「それでも、全部の資源は揃っていない」

 「どこの国でも国家運営に必要な資源のためになら人身御供も辞さないものです」

 「中国大陸のアメリカとソビエトの権益線」

 「ソビエトは、どのようにお考えか?」

 「はて?」

 「我が国とドイツは中国軍閥に戦車を輸出しているだけ」

 「欲しいのは、資源だけですよ」

 「軍事顧問団が入っているのでは?」

 「戦車を動かすには、技能が必要ですからね」

 「それも、資源との交換に含んでいますよ」

 「もう直ぐ冬季明けですが、ソビエトはどのようにお考えで?」

 「ドイツの考えることですから、なんとも言えませんね・・・」

  

  

 ロンドン上空

 イギリスのマークをつけたライトニング、ウォーホーク、ワイルドキャットと、

 メッサーシュミット、フォッケウルフが空中戦を展開していた。

 「右だ! トニィ!」

 !?

 ワイルドキャットが捻りながら降下しようとすると、

 メッサーシュミットが横合いから掃射した。

 数条の弾道が連なって標的のワイルドキャットに伸び、撃破していく。

 アメリカ製機体とアメリカ人義勇兵 “アメリカ軍だろう!” がイギリス本土防空戦に参戦し、

 数的な巻き返しが始まっていた。

 ドイツ空軍は、航続力不足でも航空戦経験者。

 さらに機体の質的優勢と相まって、連合軍機を撃墜していく。

 もっともドイツ戦闘機部隊もアメリカ製の頑丈な機体に手を焼くことになった。

 空中戦に勝利したドイツ軍機が帰還していく、

 そして、実戦を経験したアメリカ軍パイロットの大半が不時着して生き残っていた。

 アメリカ軍の合理的な思考がここにあった。

 緒戦は実戦経験が足りないため生存率の高い戦闘機・爆撃機を大量に生産し、

 相互支援しながら戦訓を学びつつ数で押していく、

 あとは、経験を踏まえながら戦術を組み立て機体を改良し、

 数で敵航空戦力を消耗させつつ、

 新型機を開発し、

 ベテランとなったパイロットに新型機を振り分けていく、

 機体生産、パイロット育成で圧倒的なアメリカだからできる王者の戦略だった。

 アメリカより国力で劣る国は、少ない生産力を小賢しい質的な性能差で埋めようと無理をし、

 最終的には、圧倒され押し潰されていく、

 ラウンデルマークを付けたワイルドキャットが滑走路の片隅に不時着し、

 パイロットが降りてくると日系人が近づいてくる。

 彼らが日本義勇軍と英語圏の橋渡し役

 「クロエ。大丈夫か?」

 「ああ、やられたよ」

 「重たいワイルドキャットで、3機のメッサーシュミットを相手に良く助かったものだ」

 「土壇場でラダーペダルを蹴飛ばして機体を失速させた」

 「多対多の乱戦でワイルドキャットを失速させるなんて無茶苦茶だな」

 「艦載機は翼面積が広いから」

 「失速させてもバランスさえ崩さなければ回復させられる」

 「ちょっと、失敗したがな」

 「運が良かった」

 「しかし、ボロ負けだな」

 「スピットファイアが使えれば勝てたのに」

 「スピットファイアは再建中だ」

 「爆撃圏外まで下がると航続力の短いスピットファイアは、ドーバー海上上空で戦えない」

 「アメリカ軍機でがんばるしかないよ」

 「機体が丈夫なおかげで助かった」

 「日本機だったら戦死だったな」

 「今までと逆のことをやられた」

 「こっちが出張って待ち伏せされて叩かれた」

 「アメリカ軍機で幸いだったよ」

 「ん? ドイツ軍の上陸作戦は?」

 「無かった」

 「騙されたイギリス空軍は、半壊だな」

 「レーダーに誘導されても機体性能で劣って絶対数が少ないと、どうしようもないな」

 「ん? レーダーは日本の発明だろう」

 「らしいけどね」

 「日本は、権威に頼るし、権威に弱いからね」

 「権威のない新参業種の開発なんて、顧みられない世界だよ」

 「相変わらずだな」

 「良いところもあるんだけどね」

  

 

 2月

 独ソ国境

 気休めな独ソ不可侵条約より、頼もしく信頼できる雪が降り続き、

 東欧の大地に雪原が広がっていた。

 しかし、冬季明けが近付くにつれ

 独ソ間の緊張感が増していく。

 高まる戦機で雪解けが早まりそうな気にさえなってくる。

 互いの国境警備隊が監視し、

 その後方に主力部隊が控えている。

 敵性国家の有益は自国の不利益であり、

 自国の有益は敵性国家の不利益でもある。

 どちらも互いに思惑有りで、プラスだと行われる取引は積極的に行われる。

 ドイツの輸出品とソビエトの輸出品が大量に行き来していた。

 毛皮で着膨れた二人の男が取引の様子を見つめる。

 「・・・中東はどうだね」

 「中東はいいよ。暖かくて」

 「そりゃ羨ましい」

 「ソビエトの戦車は、イランの山岳地帯でも大丈夫なのかね?」

 「我が国のBT戦車は、山岳地帯でも十分な戦力を保てますよ」

 「主力戦車は持っていかないので?」

 「いえ、どうせ、小銃すら、まともに造れない地域ですから」

 「なるほど、アメリカ軍の前衛とは接触したのですかな」

 「いえ、まだのようです」

 「どうなりますかな?」

 「中国と同じですよ」

 「軍事境界線が権益境界線になる」

 「中東では、さらに国境になっていくでしょうな」

 「微妙な関係ですな」

 「ええ、微妙な関係です」

 独ソ開戦が行われるか否か、

 中東でソビエトとアメリカが戦争すれば、ドイツは手放しで喜べた。

 ドイツ情報部は、中東のソビエト軍とアメリカ軍の情報収集と工作を開始しする。

 米ソが中東を挟んで睨み合い。

 もし、戦闘がはじまり、米ソ戦争に発展すれば、

 ドイツがキャスティングボードを握れる可能性も高い。

 ドイツはソビエトへの宣戦布告を躊躇し始めていた。

 

 

 海軍に対する陰口の一つで、戦艦不況と言われたりする。

 戦艦建造するくらいなら学校作れ、橋造れ、公営住宅作れ、鉄道作れ、

 発電所作れ、電話線をひけ、上下水道を敷け、などなど・・・

 同じ積極財政でも掛け捨ての戦争保険より、

 地域経済が活性化して再生産に繋がる設備投資が益しだった。

 大国の国民、先進国の国民でさえ、そう思ったりする。

 軍事力は予防的なものでしかなく、

 際限なく増やしていいものでもなかった。

 しかし、いざ戦争が始まると、

 この戦争保険は、十数倍から数十倍の価値をもたらしてしまう。

 もっとも、航空戦力、潜水艦の性能が向上すると戦艦神話も値崩れを起こし、

 戦争保険の内容によっては役立たずになった。

 元フランス戦艦ジャン・バールは、

 進捗率70パーセントの段階でドイツ軍に捕獲されていた。

 戦艦は、躊躇されつつも建造が続けられている。

 『『『『建造する価値があるのだろうか・・・』』』』

 全員が腕を組んで思い悩む姿は開放的ではなく、閉塞的な姿勢と言えた。

 腕を組む行為を心理状態で分析すると、

 受け入れたくない現実が横たわっている場合が多い、

 イギリス本土は、アメリカの武器貸与法で徐々に抵抗力を増していく、

 戦艦ジャン・バールを完成させても戦果は怪しかった。

 直ぐ作れる潜水艦、戦車、航空機、上陸用舟艇に予算を使う方が良い、

 という理性の声。

 そして “きっとこの戦艦は大戦果をもたらす” という希望的感情に不安が過ぎる。

 「「「「・・・・・」」」」 ため息

 いや、それでも建造するのが “漢”

 合理性より機能性を追求するのが “ドイツ民族”

 

 

 ヴィシー・フランス

 敗北したフランス第三共和国。

 敗北したフランス人は消極的に傀儡政府ヴィシーに靡いていた。

 ヴィシー・フランスの陸軍は10万に制限され、

 戦意は低下し、希望もなく、

 失意の中で惰性に生きていく、

 国民のモラルと意欲が、どれほど国家に寄与するか、目安にもなる。

 無論、強制的に愛国心を立てようと虚勢を張っても

 実体が伴わなければ、国民は退いていくだけ・・・

 ともあれ、ヴィシー・フランス政府最大の財産は海軍で、

 フランス艦隊

  戦艦3、巡洋艦7、駆逐艦36、潜水艦16、水上機母艦1、小艦艇18

 だった。

 そして、ヴィシー・フランスは、ツーロンのフランス艦隊と、

 空軍10万とメッサーシュミット1000機、

 陸軍30万、4号戦車1000両の交換をドイツに提示する。

 艦隊と交換で陸軍と空軍を再編できればフランスは誇りを取り戻し、

 ヴィシー・フランスも自存自衛できた。

 当然、ドイツは、この提案に躊躇する。

 イギリス軍がヴィシーフランスから上陸すれば、もう一度、西部戦線が復活。

 しかし、フランス艦隊入手ならイギリス上陸作戦も可能になりそうだった。

 ベルリン

 「総統・・・」

 「中国の利権といい」

 「ソビエトの中東侵略とアメリカ軍の中東上陸といい」

 「フランスの提案といい」

 「ソビエトめ・・・運が良い連中だ」

 そして、ドイツ艦隊の活躍もあった。

 「では、交換されるので?」

 「戦車と戦闘機を渡したところでヴィシー・フランスにガソリンはない」

 「それにメッサーシュミット1000機、4号戦車1000両程度なら何とでもなる」

 「問題は、フランス艦隊の脱出ですが?」

 「ヴィシー・フランス領アルジェリアとイタリア領リビアは中立」

 「地中海のイギリス勢力圏はジブラルタルとエジプトに分断されている」

 「両方とも防備しょうとすれば、戦力が割かれるはずです」

 「イギリス海軍も、ジブラルタルとスエズの両方を守るのは不可能だ」

 「では?」

 ヒットラーは、にんまりと自分の妄想世界に浸り始める。

 「しかし、イタリアがどう出るか・・・」

 「イタリアもシベリア鉄道を使って中国の利権に食い込んでいる」

 「そういえば、中国人のお金持ちは、イタリアファッションを楽しんでいるとか」

 「イタリアは、どっちつかずだがドイツと戦えば、それもなくなる」

 「では、中立のままと?」

 「イタリアは、参戦していないだけで、一応、同盟国だよ」

 「そうでした」

 ヴィシー・フランスの提案がドイツ側に受諾されてしまうと、

 イギリスはどっちつかずの反応を示す。

 フランス艦隊と

 ヴィシー・フランス軍40万、戦闘機1000機、戦車1000両の交換 (未知数)

 航空機・戦車不足でドイツの対ソ戦は行われず (不利)

 航空機・戦車不足でイギリス上陸作戦が遅れる (有利)

 ヴィシー・フランスに非ドイツ系政権が誕生し自衛できる。(有利)

 イギリスが、この交換を妨害すると

 ヴィシー・フランス独立を妨害したことになり。

 レジスタンスは衰弱死。

 ヴィシーフランスが敵国になる可能性もあった。

 

 

 独ソ国境は、緊張を抱えたまま、静かに時が流れ、雪が溶けていく。

 独ソ間の物流は以前より増していた。

 ドイツは大量の資源をソビエトから買いつけ、

 ソビエトもドイツの工作機械を利用し、

 工業力を伸ばしていく。

 そして、日本人はシベリア鉄道を越え、

 ドイツ工場へと雇い入れられていく。

 黄色人種の日本人は、白人と違って、見分けが付きやすく破壊工作も困難。

 設備さえ整えれば、低賃金 (日本人から見ると高給) で、

 大人しく働くため使い勝手が良かった。

  

  

 灼熱の中東をアメリカ軍が進撃する。

 イギリス軍に道案内を頼み、イラン軍も同行する。

 そして、峰の向こうにBT戦車が姿を見せて砲口を向ける。

 「フォーランド大佐。ソビエト軍です」

 「そうか、散開してソビエト軍の侵攻を阻め」

 イラン、アフガニスタンに侵攻したソビエト軍。

 イラン、インドパキスタンから上陸したアメリカ軍。

 二つの世界を代表する軍隊が中東各地で対峙する。

 アメリカ軍とソビエト軍は、砲撃戦になることはなかった。

 どちらも権益線の構築が目的で、戦うつもりはなく、場の取り合いに終始。

 横に広がって戦線が形成されていく。

 そして、この戦線が権益線になり、国境線になっていく。

 アメリカ軍将校が地図を見ながら見通しを立てていく。

 「・・・アフガニスタンは取られたか」

 「ソビエト側は山岳民族の抵抗を受けてますが、地続きですから」

 「ソビエト軍の士気は、大粛清で怪しいと思っていたが、そうでもなさそうだ」

 「中東は後進国で、兵站を確保し」

 「戦車を押し立てれれば難しくない世界ですし」

 「ソビエトも南の海に憧れがあるのでは?」

 「んん・・・しかし、不利だな」

 「海岸線は守れた」

 「しかし、だいたい北緯30度線あたりまで、押し込まれている」

 「BT戦車の登坂能力は高いですからね」

 「主力戦車は、山越えできなかったようだな」

 「こちらはM4中戦車とM3軽戦車、J1軽戦車ですから勝てますよ」

 「日本製J1軽戦車の調子は?」

 「エンジンと大砲がアメリカ製なら問題ないですよ」

 「車両も良いようです」

 「どちらにせよ。数で押せれば勝てる」

 「撃って来ないかな・・・」

 「まさか、中戦車を持っている軍隊に軽戦車で突っ込んでこないでしょう」

 「そりゃそうだ」

 「ソビエト領から鉄道を南に引っ張っているはず」

 「それまでは大丈夫かと」

 「それは厳しいな」

 

 

 

 ペルシャ湾 アメリカ派遣艦隊

 エンタープライズ、サラトガ、ほか40隻

 エンタープライズ艦橋

 「ソビエトめ〜」

 「イギリスが弱ったのを見計らって、ドサクサにまぎれて中東を侵略しやがって」

 「イラク側は何とか抑えました」

 「イランは7割がた。アフガニスタンは9割がたソビエトに取られてます」

 「ぬぅあにが虐げられたクルド人救援だ」

 「ええカッコしいが」

 「侵略は、一応、大義名分が必要ですからね」

 「クルド人を利用して中東支配か、考えやがったな」

 「日本の軍縮に突け込まなかったのは、たぶん、その準備をしていたのでしょう」

 「モスクワからの距離も大きいだろうな」

 「西の強国ドイツが怖い」

 「それなら遠い東に戦力を向かうより」

 「南の方が近く直ぐ戦力を戻せる」

 「そして、南は暖かく、不凍港がある」

 「それに満州を奪えても朝鮮半島と遼東半島は侵攻が難しく」

 「カムチャッカ半島を日本に取られたら面白くないですからね」

 「とにかく、中東を反共で固めてソビエトを押し返そう」

 「利権を貰ってですかね」

 「侵略して奪うか、守ったお礼に利権を貰うかだろう」

 「偽善でも、守っての方が良いですね」

 「クルドをダシにしたのだから、ソビエトも、そう思ってるな」

 米英 VS ソ の代理戦争で、中東全域で、クルド独立戦争が始まる。

 

 

 満州

 営口から延びるアメリカ南満州鉄道は、打通線と連結し、

 奉天で日本の満州鉄道と交差し、奉海線と繋がる。

 ハリマンは、日本商船の揚子江自由航行の代償で満州の施設権益を拡大させてしまう。

 南満州鉄道を挟むように奉天から北に延びた二つの並行線、

 打通線と奉海線を大きく内側に回り込ませて長春まで延長。

 北の長春、南の奉天まで

 南満州鉄道を囲う総延長1000kmに及ぶ巨大な南満州環状線を完成させてしまう。

 環状線の効率性と利便性の良さは、圧倒的で集客力も高かった。

 ハリマン得意の囲い込みで、

 これで南満州鉄道権益戦争は勝負あった、のはず。

 ところが、この南満州環状線は、南満州鉄道の安全性を高めたに過ぎなかった。

 日本の満州鉄道に沿って華僑・ユダヤ資本の住宅地が整備され、

 自警組織を創設されていく。

 維持費軽減が集客率低下の損失を補ってしまう。

 短距離線が権益幅に沿って伸びていくと、鉄道沿線の地価が上がり。

 日本の南満州鉄道路線の価値も高めてしまう。

 ハリマン鉄道と日本南満州鉄道の鉄道権益戦争は、満州経済を活性化させつつ、

 延長戦にもつれ込んでいた。

 この頃、国家の財政支出や政策誘導に頼らず、

 自己資本で利益を上げる叩き上げの資本家も増えていた。

 ある種、詐欺的な資質と、野武士的な要素を持ち合わせた資本家。

 もっとも、必要とされたのは悪徳より、

 工程管理、採算能力などなど、無駄を省ける気質、

 日本政府は放漫財政に陥った南満州鉄道の上層部を挿げ替えようとする。

 無論、能力が低いわけでも無能でもない。

 しかし、一度作られ、淀んだ既得権を総浚いし、

 効率良く合理的に組み立て直そうとすると、

 トップ人事は、どうしても必要な処置になってしまう。

 大人しく経営権を引き渡せばよし、

 さもなくば、あらぬ冤罪で・・・と脅しをかけてくる。

 彼らが南満州鉄道に乗り込んでくると、国家予算が注ぎ込まれ

 親方日の丸で散財していた空気と役人根性が一掃されていく、

 合理的な取捨選択が進んで無駄が省かれ採算性が飛び上っていく、

 30年代と40年代の満州事情は、まったく違うので情状酌量もあるものの、

 陰で泣く者が現われ、採算重視で安全性が脅かされる。

 それでも、ハリマン資本に対抗しようとすると、

 そういった処置も必要になってしまう。

 そして、国際情勢の変化は、アメリカの対日姿勢を敵対関係から

 油断できないパートナーに変えていく。

 カメラフラッシュが光る中、

 アメリカ南満州鉄道株式会社と

 日本南満州鉄道株式会社の提携協約が調印されていく。

 これは、ハリマンの環状線建設の対価で日本側が求めたことだった。

 相互持株で一方が一方を損させると、株の配当で割損する。

 日米南満州鉄道の有機的な運用で、日米が協力し合うというものだった。

 

 

 吉林

 南満州環状線の最北端は、長春。

 そして、長春から100kmほど東側の吉林にアメリカ軍の対ソ監視用基地が整備されていた。

 満州権益でアメリカ、日本、華僑、ユダヤ資本が共闘するようになると単純に収益を求め、

 共産主義の温床になるソビエトが敵勢力となっていく、

 もっともソビエトは、シベリア鉄道を完成させ、

 東支鉄道の存在価値をウラジオストックへの近道路線に過ぎず。

 緩衝地帯の満州を監視するための路線でしかなくなっていた。

 アメリカも漢民族、朝鮮民族の有力者と結んで、搾取に徹するだけの鉄道。

 そして、日本も産業を育てる方針から華僑・ユダヤ資本と与し、

 漢民族・朝鮮民族から収奪する経営方針に切り替えていた。

 高台に構築された城塞からアメリカ軍将校たちが北方を見渡す。

 近代戦で城塞はどうかと思うが、匪賊には効果的だった。

 「上海割譲は正当性がある」

 「しかし、満州権益は、正当性がないし、怪しいな」

 「蒋介石が上海割譲を認めれば、満州は駐留部隊だけを残し引き揚げることになるだろう」

 「それまでに採算をとれるような状態にするんじゃないか」

 「普通は大人しい農民だが、飢餓のたびに匪賊に化けるからな」

 「まぁ 漢民族と朝鮮民族も含めた、利権体制を構築すればいいだろう」

 「連中が代わりに庶民から巻き上げてくれる」

 「こっちは、連中に許可書を与えるだけで手数料が転がり込むわけだ」

 「取税人か。うまくやらないとな」

 「蒋介石が上海割譲を認めれば華北、華南で軍閥が分裂するように誘導する」

 「成功するか、わからんがね」

 「上手くいけば、上海も安泰か」

 「たぶんね」

 

 

 中国

 上海は、アメリカ、イギリス、フランス、イタリアが割譲を求め、

 資本投資していた。

 居住区画、商業区画、工業区画、公共区画が合理的に区画整理され建設されていく。

 第二次上海事件以降、

 日本人・台湾人が急増して建設。

 日本人が自ら自身の手で、上海の国際的な地位を押し上げ、

 日本の国際的な地位を押し下げていく。

 売国奴とか、言われそうなのだが、

 これが、お金になった。

 “死なんとする者は生きて、生きんとする者は死ぬ”

 なのだろうか。

 世相は、将来禍根を残すような上海・満州需要で華やぎ、

 欧州戦争需要で浮かれていた。

 選民的な民族主義を振りかざし、

 独り善がりな理論で脅威を煽り、

 侵略を仄めかす軍国主義者は、財欲に押し潰され、白眼視され、影を薄めていく

 資源を産しない日本に資源が集まり、

 加工された製品が国外に輸出されていく、

 日本に集中する外貨は、毎年のように記録を塗り替え、

 日本経済を躍進させていた。

 アメリカ軍だけでなくアメリカ資本の進出が増していくと、

 さらに生活用品の量産が進み、船積され上海に輸出されていく。

 日本で土木建設機械が揃い始めると上海の電気配線・上下水道を施設したり、

 余剰資本が銀行に溜まると、貸し出しが増え、

 需要に合わせて多種多様な産業が生まれ成長していく、

 上海は、造成が進んで中国側より数十メートルもの高台になろうとしていた。

 洪水対策、防衛線にしては、高過ぎるほどで、

 白人が少しでも清涼を求めたい衝動と言えた。

 ジープが黄砂を含んだ風を切って荒野を駆ける。

 「んん・・・悪くないようだ」

 「それは良かったです」

 「2000台ほど頼むよ」

 「はい?」

 「できるだけ早く欲しい」

 「1ヶ月以内と言いたいが・・・3ヶ月以内にな」

 日本人が真っ青になっていく。

 「・・・わ、わかりました」

 『もう、戦闘機なんか作ってる場合じゃないぞ、こりゃ・・・』

 「そうそう、バイクも欲しいな」

 「ほら、サイドカー付きのヤツ」

 「陸王・・・ですか?」

 「そうそう。今度、持ってきてくれ」

 生産ラインは、トラックに切り替えられていた。

 『そんなもん、どこも造ってねぇよ〜』

 「・・・はい、何とか調整してみます」

 日本産業界は、アメリカの利潤の良い発注を好み、

 権威主義的で厚かましく、

 押し付けがましい日本軍の軍需産業から退いていく、

 特に所得が急増している民間に売れる製品はうまみがあった。

 

 

 日本 飛行場

 中立国の良いところは、折り合いさえ付けば邪魔されず、

 兵器が手に入れやすいことだった。

 メッサーシュミットF型、水冷1300馬力、20mmモーターキャノン、7.92mm×2。

 フォッケウルフA6型、空冷1780馬力、20mm×4、7.92mm×2が滑走路に並んでいた。

 他にも、スピットファイア、ライトニングも並んで万国航空博。

 メッサーシュミットF型がエンジン音を蹴立てながら旋回しつつ急上昇していく。

 そして、日本の迎撃型ゼロ戦、空冷1200馬力、15mm×4と模擬戦開始。

 上昇力と高速に特化させた迎撃型のゼロ戦を、

 それ以上に特化されたメッサーシュミットが追い立てていく。

 「・・・護衛型ゼロ戦の方が良くないか」

 「格闘性能に引っ張り込めば戦いやすいだろう」

 「単機戦でなんとかできても」

 「多対多だと五月雨にサッチウィーブを食らうよ」

 「最初の攻撃で2割以上失う」

 「そういう局面だと、メッサーシュミットはいいよ」

 「問題は、脚だな。ありゃ 着陸で難儀しやすい」

 「かといって主翼側に脚を格納すると」

 「主翼桁が大きくなって速度が低下して、キレがなくなる」

 「結局、どこかにしわ寄せが行くな」

 「まぁ それが航空力学とか、物理学じゃないか」

 「んん・・・どちらにしろ、日本の航空技術は遅れてるぞ」

 「予算の多くが整備とか、基礎技術。品質管理に取られたからね」

 「一番、取られたのが公共設備だよ」

 「なぁあにが鉄道だ、道路だ、港湾だ、通信網だ、発電所だ。バカたれが」

 「空冷1500馬力の新型機は?」

 「護衛型と迎撃型を開発していたはずだが」

 「・・・開発しても、こりゃ 普通に負けそうだぞ」

 「空冷だと2000馬力、水冷だと1500馬力の時代なんだろうな」

 「このままだと、実戦経験と合わせて、日本は列強最弱軍になるぞ」

 「実戦したいよな」

 「皇軍は動かないのか?」

 「勅命待ち」

 「政府に処断権と憲兵を取られてろくなことがないぜ」

 「海外派兵も警察に取られたし」

 「義勇兵は良いってよ」

 「皇軍辞めて、イギリスの義勇軍に入って防空戦に参加」

 「撃墜数に合わせて昇格と昇給だと」

 「英語がわからん」

 「先に行ったやつから、通訳者、マニュアル、宿舎を準備して体制を整えてるとか聞いたぞ」

 「なんだ。イギリスは、そんなに危ないのか?」

 「いや、イギリスも、ドイツも・・・」

 「どっちもかよ」

 「スピットファイアは、メッサーシュミット、フォッケウルフとほぼ同じレベルで戦えそうだ」

 「しかし、数で圧倒されたらしい」

 「いまじゃ アメリカ軍機を使っている」

 「欲かいて本国を留守して中国に踏み込むからだ」

 「義勇兵だけならヴィシー・フランスも良さそうだな」

 「戦わずに済みそうで給与が良い」

 「こっちはフランス語を覚えた方が良いけどね」

 「ヴィシーか・・・」

 「艦隊と戦車、戦闘機を交換して国防しようとしたらしいけど」

 「肝心のパイロットがいないそうだ」

 「あはは・・・」

 古来から続く、どこぞの名家が何を望もうと、

 それはそれ、これはこれ、

 欲望が人を支配し、人生を突き動かしていく。

 それが悪魔の囁きで、転落の道でも、

 魅力と可能性があれば、人は、そちらの慣性に引っ張られていく。

 日本人パイロットは初等訓練飛行を終えると、

 昇給と昇格を当て込んでバトルオブブリテンに参戦したがる者が出てくる。

 パイロット養成は、初等訓練まで多くの予算を注ぎ込む。

 民間資本力で、これができる企業は、世界でも上位数社。

 パイロットは国家財産でもあった。

 しかし、義勇兵の条件がクリアされれば元が取れ、何とかなったりする。

 日本人は欧米に比べて給与が低く、

 国が少しくらい天引きしても、まだ多い。

 アメリカ軍機は頑丈で撃墜されにくく、

 半分がベテランで帰還できるならペイする。

 ほか、日本軍で戦死するより、

 多額の遺族年金のピンハネとか・・・

 公にできない取引も裏で動いていた。

 といった様々な諸事の事情から九三式中間練習機。

 通称、赤トンボと呼ばれた機体は大量に製造され、

 パイロットの初等訓練養成が増えていく、

 これは “動かざるごと山の如し” の皇軍に原因があった。

 

 

 ドイツ海軍は、ドーバー海峡突破作戦に失敗すると港に閉じ篭る。

 元々、イギリス空軍叩きの作戦だったため、失敗ともいえないのだが、

 イギリスの哨戒圏が広がっていることから、ドイツ海軍は動きにくかった。

 

 ウィルヘルムスハーフェン軍港

 戦艦ビスマルク、ティルピッツ。

 巡洋戦艦シャルンホルスト、グナイゼナウ。

 ポケット戦艦ドイッチュランド、アドミラル・シェーア。

 重巡洋艦アドミラル・ヒッパー、プリンツ・オイゲン。

 軽巡洋艦ニュルンベルグ、ライプチヒ、ケーニヒスベルグ、ケルンが並んでいた。

 

 空母グラーフ・ツェッペリン 艦橋

 「やはり、イギリス本土を落とさないと、どうにもならないな」

 「北海の哨戒線を突破するのは、至難の業ですからね」

 「やっぱり、南フランス側の方が大西洋に出やすいか」

 「イギリスもそう考えて準備している」

 「じゃ ノルウェーか?」

 「そっちも塞がれている」

 「どうしようもないよ。イギリスに蓋をされて、ドイツ海運は伸びようがない」

 もちろん、それは水上艦艇。

 Uボートはイギリス船団を攻撃してイギリス経済を締め上げていた。

 

 そして、建造中・入手中の軍艦もあった。

 戦艦ジャン・バール(捕獲済み・建造中)

 ツーロン港 フランス艦隊 77隻。

 戦艦ダンケルク、ストラスブール

 旧戦艦プロヴァンス

 重巡コルベール、フォッシュ、デュプレ、アルジェリー

 軽巡ラ・ガリソニエール、ジャン・ド・ヴィエンヌ、マルセイエーズ。ド・グラース(建造中)

 総数、水上機母艦1、駆逐艦32隻、潜水艦16隻、小艦艇18。

 これらの軍艦と、

 航空機1000機・戦車1000両の交換が独ソ戦争を防いだといえた。

 感謝すべきかも知れないが “ソビエト、ドイツのどちらが” とは、いえない。

 少なくとイギリス上陸と独ソ戦を同時に防いだ要因なら、

 イギリスにとって痛し痒し、

 ドイツのフランス艦隊入手に対し、

 苦戦しているイギリスは、どうしても高い買い物をさせられ、

 信じられないほどの利権が日本とアメリカに渡される。

 イギリスは、調印しなければ戦争に勝ち目なしで、応じるよりなく、

 大航海以来、溜め込んできた国家財産が捨て値に近い評価で切り売り渡されていく、

 もっともイギリスの日米取引比は、日本が有利で可能な限り日本と取引したため、

 世界中のイギリス植民地に日本租界が建設されてしまう。

 日本商船は、イギリス植民地を行ったり来たり。

 資源が日本に流れ込み、加工され、

 イギリスへと運ばれていく、

 日本の貧弱な生産力で足りない部分は、アメリカと取引されてしまう。

 その中には、戦艦ニューヨーク、テキサス、ネヴァダ、オクラホマ、

 ペンシルヴァニア、アリゾナも存在した。

 さらに今後、イギリス人の労働の成果は、

 数十年にわたってアメリカのために吸い上げられる勢いだった。

 “そこまでするなら、ドイツに降伏しろよ”

 なのだが、名誉を重んじるイギリスは、それを避けた。

 

 

 とある部屋

 高級将校が長々と弁舌。

 そして・・・・

 「・・・今をおいて皇軍を動かす時期はありません」

 「陛下、ご決断を!」

 「しかしの、交戦国で働いている日本人もいると聞く」

 「そのようなことを言われてもの」

 「・・・・・」

 

 

 ロンドン

 とある部屋。

 「イタリアに動きは?」

 「いえ、特には・・・」

 「敵に回ると厄介だが味方でも怪しい・・・」

 「ええ、第一次世界大戦で懲りました」

 「日本への参戦工作は?」

 「それが・・・」

 「軍隊ごと買い取ってやると言ってるのに、なにやってるんだ」

 「どうせ、死んでも、遺族年金も、見舞金もアメリカ兵の10分の1で済む」

 「上乗せしてもいい」

 「日本の与野党とも進んでいるのですが勅命が出ないとか」

 「信じられん愚か者だ」

 「ドイツ側の工作も行われているようですし、平和好きも増えているようで・・・」

 「そんなバカたれは、日本の官僚ごと買収して干してしまえ!」

 「はぁ・・・」

 「なんとしても、日本軍をアルジェリアに上陸させろ!」

 「このままでは、話しにならん」

 「はぁ・・・」

  

  

 ベルリン

 とある部屋

 「イタリアの動きは?」

 「特にありません。どっち付かずです」

 「それなら良い。味方でも敵でも、構わんが・・・」

 「はい」

 「日本はどうした?」

 「それが・・・・」

 「いまならイギリス領を全て奪えるはず」

 「植民地も全て押さえられる」

 「イギリスと組んでいるのか?」

 「軍に動きがないようで動いているのは租界保安警察のみ」

 「通常のビジネス以上ではないようです」

 「くぅうううう〜 何を考えている」

 「ここは動くべきだろう」

 「どっちに付いても日本は、大儲けのはず、何をやっている」

 「はぁ〜」

 「いくら欲しいのだ?」

 「いえ、たんに勅命が出ないとかで」

 「日本の帝国議会も混乱して与野党とも荒れているようです」

 「んん〜 不決断にもほどがる!!」

 「はぁ〜」

 

 

 

 皇居

 41歳の壮年と総理大臣がお茶をすする。

 「今年も良いお茶が採れたの」

 「まったくです」

 「最近、華やいでいるの」

 「自動車が増えたようです」

 「交通事故に気をつけないとの」

 「はい、道路交通法を整備いたします」

 

   

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です。

 状況を説明すると

 独 VS 英

 中 VS 米(英伊)

 ソビエト・クルド人 VS 中東世界 (アメリカ・イギリス)

 それだけです。

 日本は不決断、イタリアは出遅れ。

 理由はどうあれ、高みの見物です。

  

 

ランキング投票です。よろしくです。

NEWVEL     HONなび

 

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第12話 1941年 『フラストレーション』
第13話 1942年 『柳の下に・・・』
第14話 1943年 『予算を取るぞ〜!!!』