仮想戦記 『不戦戦記』
第12話 1941年 『フラストレーション』
アメリカ太平洋艦隊は、日本を刺激しないようにサンチアゴに配備されていた。
しかし、欧州戦争の勃発と
イギリス軍とフランス軍の上海・租界からの撤収で状況が変わる。
02月01日。
アメリカは、国際的孤立を軍事的圧力で埋めようと太平洋艦隊を真珠湾に進出させ、
日本は、雑役艦に改造された旧式巡洋艦、旧式駆逐艦をイギリスに売却していく、
日米海軍戦力の比率が変わってしまうと、
アメリカ太平洋艦隊の真珠湾進出が疑問視される。
ハワイ 白レンガの住人たち
「日本は、イギリスに旧式巡洋艦と旧式駆逐艦を売却するようです」
「アメリカ軍に満州と上海に上陸され。欧州戦争勃発」
「それなのに日本は、軍縮か。舐められたものだな」
「日本人は視野が狭く、神経質ですからね」
「軍事的圧力を掛ければ経済的に無理して自滅すると思っていましたが意外です」
「日本は、一時は、財政危機だったが中国・上海需要。欧州需要で財政再建」
「いまでは経済成長率世界一か・・・」
「さらに旧式巡洋艦と旧式駆逐艦をイギリスに売却ですから相当な利益のはず」
「軍事的恐怖を気にしなければ、笑いが止まらないな」
「国際外交戦略上、いま日本を攻撃できる国はないのでは?」
「見切られているな」
「農地改革の時間稼ぎが功を奏したのだろう」
「農地改革で日本軍は国民に銃口を向けましたからね」
「国民といっても地主と、その子飼いだけだ」
「普通は、大多数の弱者にしわ寄せがいくものだがね」
「ですが欧州戦争でイギリス、フランス軍が撤収した状況で」
「日本への軍事的圧力は気が進ませんが・・・」
「上には、現状で真珠湾進出はマイナス、と言ったんだがね」
「上海割譲なら太平洋艦隊をハワイに配備するのが常識だそうだ」
「イギリスから苦情が来たそうですよ」
「艦艇の売却に支障が出たら、どうするかって?」
「・・・口惜しいがね」
「日本の通商破壊戦艦8隻は太平洋で最強艦隊だよ」
「戦艦以外は全て撃沈されますね」
「むろん。アメリカは負けはせん」
「しかし、そこまでして勝っても得るモノがない」
「日本で、石油か、鉄鉱石、石炭だ出るのであれば別だが」
「ふっ 日本人が思い詰めているより、はるかに価値のない国だよ、日本は・・・」
「それより、日本と共同で上海を押さえた方が良い」
「やはり、対中外交で、日本と組むので?」
「大統領は、そう考えているようだが日本が乗ってこない」
「中国との関係ですか?」
「そんなところだろう」
「日本が中国と組む可能性は?」
「日本の兵站が消えても上海維持は問題ない」
「しかし、上海の工業力が軌道に乗るまで負担が増えるのは面白くない」
「アジアの利権は、大きいですからね」
「しかし、日本とイギリスが同盟を組むのも、面白くない」
「今のところ、日本は、同盟を結ぶ動きはないようです」
「覇気のない国だ」
「何を考えているのか理解できん」
「誰か、わかる者がいるか?」
「情報では、天皇が軍に出動を命じなかったとしか・・・」
「結果は知ってる。知りたいのは意図だ。何考えてるんだ?」
「「「「・・・・・」」」」
「・・・ドイツとソビエトは、まだ開戦しないのか?」
「工作中ですが微妙ですね」
「日本がアジアの戦略物資をドイツに輸出しているのだろう」
「華僑を仲介に使っているようです」
「というより、華僑の仲介です」
「それと南満州鉄道沿いにユダヤ人の居住が始まって」
「アメリカのユダヤ資本も動いてます」
「ちっ!」
「華僑資本とユダヤ資本で南満州鉄道維持か」
「ハリマンも南満州鉄道への工作は躊躇するな」
「他人資本で南満州鉄道を維持するなんて誰が教えたのでしょう」
「一人占めすることしか能のない日本人が減ったということだろう」
「日系人は “柔よく剛を制す” とか “柳に風” とか、笑っていましたが」
「意味不明だ」
「気質的なことを言ってるのかと」
「もっと、日本人について調査すべきだろうな」
「情報部は何をやってるんだ」
「気質は、ともかく。日本は資源がありません」
「農地解放で一息ついても人口増加は続いてますし」
「財政再建で、なりふり構っていたら、もう一度、赤字財政です」
「それで、軍備増強で財政破綻で覇権だと思ったがな」
「その方が好都合ですか?」
「日本は乗ってこないか・・・」
「日本は、濱口総理、若槻総理、犬養総理、齋藤総理で軍部を押さえ込み」
「軍人を閣僚から締め出しましたからね」
「総理を生贄にしながら軍部切り崩しで縮小とはね」
「軍装備を近代化させつつなので、本当の意味で軍縮といえるかどうか」
「頭数と口がなければ利権を維持できないからな」
「結局、利権は人の意志で作られる」
「ですが、上海にアメリカ軍基地が建設されると」
「日本は生殺与奪権を握られて危機的状況に陥るはず」
「戦えば勝つがね。いまはアジアより、欧州側で参戦したいね」
「中国・上海利権と欧州利権。どっちが得か、ですかね」
「まぁ 大統領の好みか、軍産複合体に引っ張られるかだな」
「華僑・ユダヤ資本は、日本に味方しているようですが?」
「シオニズムとの関係もあるが、どう動くやら」
「日本が満州をソビエトとの緩衝地帯と開き直っているのであれば、正解かと」
「しかし、この状況でソビエトがおとなしいのは解せんな。何が狙いだ」
「大粛清で外征能力を失っているのでは?」
「んん・・・フィンランドの戦闘で証明されているが・・・」
ダンケルク
イギリス・フランス軍将兵5万がイギリス本土に脱出。
しかし、将兵35万以上が降伏。
フランスは敗北が決定的となり。
イギリス本土は国家存亡の危機にあった。
そして、始まるバトルオブブリテン。
ドイツ空軍は、航空機2500機
イギリス空軍は、航空機400機
イギリスは中国大陸に旧式機200機を送り込んでいた。
そのせいか、レーダーの優位性を発揮しても数の劣勢を覆せず。
対Uボート哨戒もガラ空き。
イギリス空軍は大損害となりドイツ空軍の爆撃圏外へと追い散らされていく。
中国派兵部隊が帰還しても大勢は変わらない。
イギリスは、ドイツ以外に敵対勢力がなければ植民地戦力を引き抜くことができた。
豪州軍とインド軍がイギリスに集結し、
ドイツ軍のイギリス本土上陸作戦は、一時、見送られてしまう。
イギリス沿岸
イギリス軍将校が寒そうにしているインド兵士の小銃を見つめる。
「これはなんだ?」
「日本の小銃ですよ」
「そんなものまで持ってきたのか?」
「資源を渡すと武器弾薬と交換してくれたそうです」
「使えるのか?」
「命中率はいいです」
「です、規格がでたらめで部品に互換性のないカスタム小銃です」
「ちっ!」
「使い回しの利かない小銃か、壊れたらどうするつもりだ」
「戦争を舐めてるな」
「そのようです」
「ドイツ軍が来たら撃ちまくりながら、ゆっくり後退する」
「だが命令する前に逃亡するな」
「はい、イギリスは、まだ寒くなるんですか?」
「もうすぐ暖かくなる」
「そうですか・・・」
「下着を余計に着ろ。上層部に余計に配給するように伝える」
「助かります」
人間を集めても戦争に勝てるわけではなく、規律も必要だった。
インド人に暴れられてもイギリス国民は迷惑する。
ホワイトハウス
焦心気味のイギリス大使は、いらいらと歩きまわる。
「アメリカは3月に武器貸与法を可決し」
「アメリカの軍産複合体を満足させることができたよ」
「大統領。我々は、まだ満足していませんぞ」
「しかし、大使」
「世界の民主主義を守る大義だけでは国民も、議会も動かず戦争に足りませんな」
「戦争は、国力、兵器や武器の量、兵站だけで遊び半分で起こせるものでもない」
「大統領権限で無理に開戦しても昇進や昇給だけでは、軍の士気、戦意を保てない」
「まして命令で軍人を動かせても大衆は命令で動かせない」
「民衆を怒らせ、扇動するには材料が足りない」
「それくらいわかっていますよ。大統領閣下」
「個人の権利で構築された民主主義世界は “リメンバーシャンハイ” といった強烈な動機が重要でね」
「大統領」
「この世界で、ドイツを打倒できる陸軍はソビエトとアメリカしかないでしょう」
「イギリスが敗北すればアメリカは大西洋でファシズムの脅威に直面するのです」
「イギリスは、日本から旧式巡洋艦と旧式駆逐艦を購入されたのでは?」
「旧式の巡洋艦16隻、駆逐艦43隻」
「12万トン弱の艦艇と40万トンの旧式船を泣きたくなるような価格で購入しましたよ」
「旧式小型空母も1隻購入する予定です」
「先に武器貸与法を可決できれば良かったですがね」
イギリスは空軍が壊滅しつつあり、
世界最大最強の海軍も広大な版図を守るには足りない。
そして、アメリカは、ドイツが挑発に乗らないため中国権益に傾き始めていた。
赤レンガの住人たち
日本海軍は、軍縮で合理的な再編成再構築を進めることができた。
利権に絡む派閥抗争、人間同士の確執。
捻じ曲げられ膨れ上がった体制リセットは、戦争より困難と言えた。
体制リセットされるくらいなら自暴自棄に戦争という声も強い。
しかし、昭和の日本海軍は、いくつかの不祥事を経て利権が縮小し、
再編成、再構築に成功してしまう。
新海軍大綱は、既存の利権や人事的な突き上げを抜きに構想されていた。
「ガスタービンは、まだ駄目だろうな」
「ディーゼル機関電気推進は、いけそうだね」
「航続力を伸ばせるのは良いけどね」
「上海だけを考えるとマイナス。ほかにしわ寄せがいくよ」
「上海だけに限定するなよ」
「15000トン級三笠の兵装を考えるならトン数当たりの兵装は、減っていくのが軍艦の趨勢だと思うよ」
「やっぱり、攻守で使える2500トン級艦隊型駆逐艦の水雷撃戦だろう」
「んん・・・イギリスのレーダー性能で逆算するとね」
「駆逐艦の夜襲はアルミ片をばら撒きながら突入しても困難だと思うよ」
「それより、対空兵装を優先すべきでは?」
「60口径76.2mm砲は対空で良くても対艦で不安だ」
「だが、たくさん装備できそうだな」
「50口径127mm砲。50口径140mm砲は対空砲に改造できると思うけど」
「重くなると3000トンを超える夕張型になりそうだな」
「60口径155mmは、対空対艦の両方で使えると思うよ」
「10000トンを超える最上型になる」
「問題は、水雷戦隊による夜襲が可能なのか、だろう」
「航空部隊の支援を受ければ、昼間でも可能だと思うよ」
「昼間に戦艦部隊に向かって突入はないだろう。死んで来いと同じだ」
「だから、航空部隊で打撃を与えたあと、突っ込む」
「航空部隊の方は、先に水雷戦隊に突っ込んで欲しいと思ってるかも」
「艦隊型駆逐艦は、上海基地の空襲とか」
「潜水艦の雷撃を受けるだろうから無理じゃないか?」
「だから雑役艦は、対空対潜仕様に改造したようなものだ」
「じゃ 軍艦の存在価値は?」
「外洋での示威行動か、通商破壊、船舶の護衛?」
「んん・・・艦隊決戦が遠ざかる」
「だから、航空部隊、潜水艦部隊、水雷戦隊が相互支援しながら海戦になるんじゃないか」
「予算上、そんなに作れんよ」
「通商破壊、船舶の護衛だろうな」
「通商破壊なら潜水艦と船舶の護衛なら雑役艦で十分だよ」
「敵艦隊に攻撃された時は?」
「航空部隊で空襲」
「潜水艦で襲撃」
「水雷戦隊は?」
「一番、近い済州島航空基地に上海攻撃を任せて閉鎖で良いんじゃない」
「中国と組んで、それで待ちに入る」
「できれば、中国より、アメリカと組みたいね」
「だって、陛下が軍を出さないって・・・」
「「「「・・・・・」」」」 むっすう〜
規模を小さくすれば合理的で隙のない組織編成の構築は可能だった。
しかし、日本全体の防衛となると財政を悪化させ、
歯止めを無くせば軍拡競争となって、財政破綻に追い込まれてしまう。
どこかで割り切った海軍大綱が求められた。
5月
ドイツ空軍は、イギリス空軍を壊滅状態に追いやることに成功。
それなりに消耗し、いくつかの要素と合わさって、
イギリス本土上陸作戦が見送られていた。
そして、ドイツ海軍は、イギリス弱体化を目標に
大規模な通商破壊作戦を開始する。
キール港。
戦艦ビスマルク、重巡洋艦プリンツ・オイゲン
ブレスト港。
巡洋戦艦シャルンホルスト、グナイゼナウ
二つの艦隊は、疲弊したイギリスの哨戒線を突破した。
戦艦ビスマルクと重巡洋艦プリンツ・オイゲンは、北大西洋上を遊弋しつつ南下していた。
イギリス海軍は、巡洋戦艦フッド、重巡洋艦サフォーク、ノーフォーク駆逐艦6隻で追跡。
通商破壊といっても常に高速移動しているわけではない、
通常は、経済速度以下で航行し、
補給を十分受けられるなら低速艦艇でも巡航速度以上の速度で航行することもできた。
というわけで、ビスマルクは、自艦より低速のフッドに追跡される。
ドイツ戦艦ビスマルク
「ギュンター・リュッチェンス中将。フッドと戦うべきでは?」
「艦長。本艦の任務は、通商破壊だよ」
「あんな、おんぼろ巡洋戦艦は無視だ」
「しかし、このままでは、ビスマルクの位置が通報され」
「イギリス海軍に伝わります」
「構わん、もう一つの艦隊の通商破壊作戦が成功しやすくなるだけだ」
「それに艦長」
「通商破壊艦でイギリス戦艦を追い掛け回すのは、愚の骨頂だよ」
「提督・・・あの・・・雨雲はどうです?」
「おっ 逃げ込もう」
「夜になれば逃げ切れるだろう」
ギュンター中将は軍艦と砲撃戦より、
弱い者虐めの通商破壊作戦が好きなのか、フッドを無視。
フッド艦橋
「艦長・・・」
「闇夜に雨雲に逃げ込まれては、適わんな」
ごくん!
「艦長・・・」
「イギリス海軍の伝統は、見敵必戦だったな」
艦齢20年を超える旧式巡洋戦艦フッドは近代改装されていない、
速度は26ノットでビスマルクより低速だった。
出来立てほやほやのドイツ戦艦ビスマルクに突入は自殺に等しい。
しかし、それでもビスマルクを見失う損失は大き過ぎた。
フッドは、雨雲に逃げ込もうとする戦艦ビスマルクと重巡洋艦プリンツ・オイゲンに対し、
逆T字戦で突進していく。
戦艦ビスマルク 艦橋
砲声が後方から轟いていた。
フッドの381mm砲弾が大気を切り裂いて周囲に落ち、水柱を上げていく、
「なんだ。フッドが突っ込んでくるぞ」
「提督・・・」
「見逃してやろうとしてるのに本気でやり合うのか?」
「提督。ご決断を」
「T字戦だ」
「プリンツ・オイゲンに援護させろ!」
T字戦の強みは大きかった。
ビスマルクは47口径381mm連装4基8門の全てフッドに向けられる。
対するフッドは42口径381mm連装砲4基の内、艦首の2基8門しか撃てない。
フッドは泣きたくなるような状況で、
蛇行・回避運動をしながらビスマルクへと迫っていく。
そして、ビスマルクの第3斉射がフッドの火薬庫を貫き、フッドを撃沈してしまう。
さらに支援攻撃を繰り返す重巡洋艦サフォーク、ノーフォークと駆逐艦6隻も標的となり、
ビスマルクとプリンツ・オイゲンの砲撃で撃破され、撃沈されていく、
「面舵!」
ビスマルクの艦首は、潮の香りと飛沫を吹き飛ばしながら回頭し、
最後の魚雷の軌跡が右舷をかすめていく、
「被害は?」
「右舷中央に381mm砲弾が命中。小破です」
「戦死2名、負傷者5名です」
「そうか・・・」
静寂と安堵が戦場を包み込んでいく、
イギリス海軍は稼動できる艦隊を全て掻き集め、
ドイツ戦艦部隊を索敵していた。
空母ヴィクトリアス。
空母アークロイヤル
巡洋戦艦レパルス
戦艦ロドネー
重巡洋艦ドーセットシャー
しかし、戦艦ビスマルク、重巡洋艦プリンツ・オイゲンと
巡洋戦艦シャルンホルスト、グナイゼナウは、イギリス艦隊の哨戒線を突破し、
そのまま、大西洋を荒らし回り、
巡洋艦3隻、駆逐艦10隻、輸送船64隻を撃沈、
輸送船16隻を拿捕してしまう。
その後・・・・
複葉機のソードフィッシュがビスマルクの雷撃コースに回り込みながら突入していく、
対空砲と機関砲がソードフィッシュを追いかけ、収束し・・・・
ソードフィッシュは、曳航弾に包み込まれながらもギリギリまで粘り
魚雷を投下、退避していく、
ビスマルクは、ジリジリと回頭して魚雷の回避に成功する。
ドイツ艦隊は、イギリス追撃部隊を振り切ると、
ドイツ本国に帰還してしまう。
イギリス戦艦キングジョージ5世就航
キングジョージ5世は、ドイツ空軍の空襲を避け艤装中のまま、
イギリス本土とアイルランド島の内海に逃げ込んでいた。
ようやく、就役したばかりで慣熟訓練はこれからだった。
同型艦プリンス・オブ・ウェールズも防潜網に囲まれて偽装中で、
デューク・オブ・ヨークとアンソンは、無理やり進水させ、
内海まで持ってきたものの、防潜網に囲うだけで放置されていた。
イギリス空軍がバトル・オブ・ブリテンで敗北し、
いつ上陸されてもおかしくない戦況になっていた。
ドイツ海軍が戦艦を通商破壊に投入すると、
最低でも戦艦1隻を船団護衛に付けなければならず。
ドイツ戦艦を追い掛け回す余裕もなくなる。
キングジョージ5世 艦橋
「ワシントン条約の破棄があと半年早ければ」
「キングジョージV世は、ビスマルクと雌雄を決していたかもしれないな」
艦長が忌々しげに海を見つめる。
「ようやく、就航ですね」
「ようやくだ・・・」
「ドイツ軍がいつ上陸してもおかしくない状況だと動きにくいですが」
「世界最大最強のイギリス海軍でも不可能なことがあるな」
「こんなことなら戦艦など建造せず」
「日本と同じように軍事補助整備に徹すれば良かったですね」
「空軍の増強は、海軍の縮小に繋がるよ」
「まぁ その方が正しかったのかもしれないがね」
「日本から旧式艦船購入とアメリカの武器貸与法で一息ですが・・・」
「まだ、足りんよ」
スピットファイアが艦隊上空を旋回していく、
イギリス空軍は100機ほど残されていたがドイツ空軍との戦闘を避け、
爆撃圏外に配置され、上陸作戦に備えていた。
ドーバー海峡を挟んた大陸側のカレー
ドイツ軍将校は海峡を忌々しげに見つめる。
イギリス本土上陸作戦(アシカ作戦)は、クリアしなければならない条件があった。
1) イギリス海軍海上部隊の無力化、または、襲撃阻止。
2) イギリス空軍の無力化。
3) 沿岸防衛施設の破壊。
4) イギリス潜水艦の襲撃阻止。
不十分な 1)。
ほぼ達成の 2)、3)。
未達成の 4)。
イギリス海軍は旧式戦艦5隻と水雷戦隊が対上陸作戦に備えていた。
この状況で上陸作戦をやると、空軍の支援があっても厳しかった。
ドイツ艦隊は艦隊決戦向きではなく、
イギリス艦隊に対し性能で優位でも力量で負けていた。
無論、軍人なのだから損失は、恐れないものの、損益分岐点があった。
「イギリスは、アメリカ戦艦か、日本戦艦を購入したがっているらしい」
「厄介ですな」
「イギリス爆撃は?」
「戦闘機が護衛できる爆撃圏内は、目標になるような物がないようです」
「ちっ! 上陸作戦で使いやすい1号戦車と2号戦車を中国にもって行くなんて」
「なに考えているんだか」
「500両ずつ残していますよ」
「それに資源と交換ですから是非は問えないかもしれませんね」
「時と場合があるよ。そりゃ 資源は欲しいがね」
「本当は、ソビエトが信用できないのが大きいですがね」
「ソビエトが儲けているのが面白くない」
「戦車を輸出するドイツと」
「油を輸出すればいいソビエトならソビエト有利ですね」
「上陸したあと、ソビエトに背後を突かれると厳しいか・・・」
「ええ。イタリア軍60万も大きいですし」
「国境の山道を押さえていればいい」
「イタリア空軍はたいしたことない」
世の中、子供っぽいと言われても、どうしようもない衝動がある。
ライン演習の大成功で、
ビルマルクに差をつけられた戦艦ティルピッツの乗員はやっかみ始める。
誰でも同型艦に差をつけられ、
そのまま干されたら腹を立てるのが人情で世界の常識。
“潜水艦の燃料も考えてくれよ”
キッ!
・・・・・
といった理知的で合理的な意見も押し黙らせられてしまう。
しかし、慣熟訓練が進んでいないティルピッツだけだと不安なため、
本国で修理整備中だったポケット戦艦3隻も巻き込まれた。
アドミラル・シェーア、アドミラル・グラフ・シュペー、リュッツォウ。
アドミラル・グラフ・シュペー 艦橋
「出るのか?」
「時間差で通商破壊を掛けたほうが良いような気がするがね」
「今度は、ティルピッツと一緒だそうだ」
「んん・・・未経験者は、ちょっとな・・・」
「何人か入れ替えるから、何とかなるだろう」
「費用対効果だと、ポケット戦艦のほうが良いと思うが・・・」
「イギリスが旧式戦艦を護衛につけていたら手が出せないよ」
「旧式戦艦はUボートでやって欲しいね」
「戦艦が付いていたらティルピッツでも躊躇するよ」
「まぁ 逃げればいいか」
「あと、レナウンとレパルスが残っている」
「それと、空母が厄介だな」
「アーク・ロイヤル、イラストリアス、ヴィクトリアス、フォーミダブル」
「空母は、半分が護衛任務として、半分は動けるのか?」
「どうかな。修理とか、整備もある」
「巡洋戦艦と空母が1隻ずつ追いかけてきそうだ」
6月
イギリスの劣勢は、ドイツの対ソ開戦の歯止めに繋がってしまう。
そう考える戦史家もいる。
無論、そう言えない、という意見もある。
最大の理由は、ソビエト経由の中国資源だった。
ドイツとソビエトは、中国軍に武器弾薬を売却、
代わりに資源を得てシベリア鉄道で輸送する。
犬猿の仲のはずの国民軍と
共産軍の間で資源の物流があったのは上海割譲が大きく。
ソビエト、日本、ドイツ、華僑の仲介もあったらしい。
どれが正鵠を得ているか不明で、
双方とも倒閣モノの外道な取引で、事実は闇の中と言える。
どちらにせよ、資源を輸出してくれる同盟国が他にいなければ、
独ソ戦が始まった途端、中国資源ルートが途絶えてしまう。
ドイツ船舶が資源と交換で日本へ輸出されたのも海外支援がないと見込んだため。
ドイツとソビエトの戦争が勃発しなかったのも必然ともいえた。
ドイツは、欧州の地上戦を終結させ、
陸戦兵器で余裕ができた。
戦車も1号戦車、2号戦車の時代でなく、
3号戦車、4号戦車の時代。
ドイツは、中国に1号戦車、2号戦車を売却しても資源を欲する。
対ソ戦争に切り出せない、もう一つの理由、
捕獲した戦艦ジャン・バールとツーロンのフランス艦隊があった。
修復に資源を必要とするが
ツーロンのフランス艦隊が得られるならイギリス占領は不可能ではなく。
制海権も得られやすかった。
中国大陸
アメリカ、イギリス、フランスの目的は、上海割譲にあった。
中国全土を攻めるといった無駄なことはせず、
基本は不拡大。
それでも租界権益の保護のための軍事活動は行っている。
アメリカ軍に隷属する中国軍閥軍は資源会得のため、
匪賊狩りで大陸の山野を進んでいく、
そして、稜線の向こうに1号戦車が現れ
国民党軍の旗が翻ると、アメリカ軍のクリスティー戦車は停止する。
「ドイツ戦車か・・・」
「1号戦車ですね。サンダース中尉。どうします?」
「我々は匪賊狩りをしている」
「中国軍を狩っているわけではない」
「攻撃を受けない限り停止だ」
「攻撃を受けたときは?」
「そのときは、匪賊の証拠だ。攻撃する」
中国各地の軍閥は、列強に資源さえ渡せば兵器・武器弾薬が入る、
武器弾薬さえあれば大陸で覇を唱えられた。
アメリカ・イギリス、フランス系中国軍閥は、クリスティー戦車を並べ。
蒋介石国民軍は1号戦車、2号戦車を並べ。
毛沢東中国共産軍、朝鮮共産軍は、BT戦車を並べて悦に入る。
軍閥は、資源を売って兵器を得るため、列強と組して中国で覇を競い。
進んで、独ソ VS 米英仏の資源獲得代理戦争に巻き込まれ、
あるいは、巻き込んでいく。
日本
イギリス大使が日本政府要人と会うのも参戦要請のためだった。
日本は、イギリスに対し、通常の経済支援。売り買いしかしていない。
イギリス大使の外務省詣では、いつもの光景になっていた。
そして、イギリス大使は焦りが募っていく、
「伊勢・扶桑型4隻、金剛4隻を売却していただきたい」
「陛下の裁可待ちですが難しいと思います」
「・・・・」
「それに伊勢型は45口径36cm連装4基、金剛型は45口径36cm連装3基」
「束になっても、ビスマルク型に勝てませんよ」
「日本の参戦は、どうです?」
「それも、陛下の裁可がないと・・・」
「陛下は、なんと・・・」
「内容は以前と変わらないと思います」
「貴国へは、書簡を通して伝えているはずです」
「日本側の要求があれば、こちらは、飲むと伝えているはずです」
「外務省も好条件ですのでイギリスに付きたいと思っているのです」
「しかし、日本軍は、皇軍でして・・・残念です」
とある部屋
高級将校が長々と弁舌。
そして・・・・
「・・・今をおいて皇軍を動かす時期はありません」
「しかしの、租界は守られておるし、領土も不安は無い」
「そのようなことを言われてもの」
「・・・・・」
日本の造船所
イライラ イライラ イライラ イライラ イライラ イライラ
イライラ イライラ イライラ イライラ イライラ イライラ
イギリス人は行ったり来たり、
イギリス本国南部域の造船所は爆撃されて使えず、造船能力が低下していた。
イギリスは、日本に輸送船を発注。
しかし、日本の造船能力は低く、建造も遅い。
イギリス本土から、あれやこれや機材や人員を持ち込んでも成果は上がらない。
さらに腹立たしいのは、喉から手が出るほど欲しい、
榛名、霧島がフジツボ取りの真っ最中、
そして、雑役艦を大量にイギリスに売られたせいなのだろう。
日本海軍が必要に応じてレンタルしたりリースしたりの民間船舶が行き来していた。
「・・・遅い・・・なんでこんなに時間が掛かるのか」
「出来立ての造船所だからでしょう」
「工員も若いのが多いようですし。電圧も安定していないようです」
「ここで建造して日本で製造した武器弾薬を満載し」
「イギリス本土に持っていく、はずだったが・・・」
「イギリス製の部品製造も梃子摺っているようです」
「んん・・後進国が・・・」
「鳳翔は、どうです?」
「改装が終われば、すぐ引き渡せるそうだ」
排水量 | 全長×全幅 | 吃水 | 馬力 | 速度 | 航続力 | 艦載機 | |||||
鳳翔 | 8000 | 181×22.7 | 6.17 | 16000 | 23 | 12000海里/14ノット | 37mm連装×4 | 27 |
「こいつも雑役艦に改装されていたとは・・・」
「金剛の艦齢28年より新しいですが、鳳翔も艦齢19年ですからね」
「対潜哨戒用なら好都合です」
「速度が遅くなったな」
「ディーゼル機関に換装したためでしょう」
「航続力は増してます」
「カタパルトは?」
「装備してもらってます」
「カタパルト技術を日本に教えるのは癪だが速度低下でも支障はないだろう」
「ジャイロ・スタビライザーで元が取れるでしょう」
「遠心力で艦の横揺れを安定させる、良いアイデアです」
「こんなことなら日英同盟を継続してれば良かったかもしれんな」
8月
戦艦テイルピッツ。重巡洋艦アドミラル・ヒッパー。
ポケット戦艦アドミラル・シェーア、アドミラル・グラフ・シュペー、リュッツォウ。
ドイツ艦隊が大西洋に出撃する。
イギリス海軍の討伐艦隊は、キングジョージ5世、レパルスとフォーミダブルで、
広大な大西洋を駆け巡ることになった。
南大西洋
ポケット戦艦アドミラル・グラフ・シュペーは、イギリス商船を3隻撃沈、3隻を拿捕した。
拿捕した船にシュペーの乗員を乗せ、
ドイツ本国へと向かわせる。
早い話しが海賊で褒められたものではないが戦争中なのでヨシとすべきだろう。
しかし、良いことばかりではない、
フォーミダブルからソードフィッシュが飛び立っていく、
ポケット戦艦アドミラル・グラフ・シュペーは、索敵機に発見され、
しばらくすると空襲を受けた。
対空砲火が艦隊上空を黒煙で煤けさせ、
シュペーは、必死に回避運動をとるが魚雷1本が命中。
軽装甲のポケット戦艦は、魚雷一本の命中で傾き。
航行能力を半減させた。
迫るキングジョージ5世は、
ポケット戦艦アドミラル・グラフ・シュペーに向けて砲撃。
356mm砲装備のイギリス海軍最新鋭戦艦に
283mm砲装備のポケット戦艦が勝てるはずもなかった。
キングジョージ5世 艦橋
艦長はサディスティックな表情でポケット戦艦を砲撃させていた。
「随分、あっけないじゃないか」
「慣熟訓練の標的には、丁度いいのではないかと」
「そうだな」
4発が命中するとポケット戦艦アドミラル・グラフ・シュペーは沈没していく。
しかし、好事魔が多し、
大口径砲弾が大気を切り裂いて、
キングジョージ5世の周りに落下、水柱を立ち昇らせた。
「どうした!」
「右舷後方4時。22000。ドイツ戦艦です!」
近くにいた戦艦テイルピッツと重巡洋艦アドミラル・ヒッパーが急追し、
キングジョージ5世に砲撃を射掛けた。
「なんだと、なぜ、接近に気付かなかった」
・・・・・・
新型艦艇で新兵が多いと、
ありがちな事件というか、始末書モノの事柄が起こる。
誰でも敵艦を撃沈しているところを見たいのは人情で、
その誘惑に勝てる者はいない、
そして、テイルピッツは訓練不足、キングジョージ5世も慣熟訓練中。
世にも珍しいヘタッピ海戦が始まる。
互いに逆行しながら巨大な円運動を描いて砲撃を繰り返す。
なかなか当たらず、20000mにまで距離が接近。
砲弾を一番命中させているのは、
練度の高い重巡洋艦アドミラル・ヒッパーだった。
しかし、キングジョージ5世は、200mm砲弾が命中しても意に介さず、
そして、イギリス海軍の誇りが味方したのか、
キングジョージ5世の砲弾がティルピッツに命中し、爆炎を噴き上げた。
キングジョージ5世 艦橋
「おっ♪」
「「「ばんざ〜い! ばんざ〜い! ばんざ〜い!」」」
そして・・・
ティルピッツは、時折、雷撃してくるソードフィッシュを対空砲火で防ぎつつ、
キングジョージ5世は、重巡洋艦アドミラル・ヒッパーの砲撃を副砲で反撃しつつ、
さらに巨大な円運動を続けながら17000m。
ティルピッツの第16斉射。
381mm砲弾4発が立て続けにキングジョージ5世に命中し、大破させてしまう。
ティルピッツ艦橋
「おっ♪」
「「「ばんざ〜い! ばんざ〜い! ばんざ〜い!」」」
このなかなか当たらないヘタッピ海戦は、距離が狭まると、
遠距離攻撃からの垂直落下に近い砲弾は減少していく、
ビスマルク型2隻は、加賀、赤城の設計を参考にし水平防御を強化していた。
しかし、それでも元々垂直防御が強く、
垂直装甲への砲撃が増えるとティルピッツは有利となり、
垂直防御が比較的弱いキングジョージ5世は不利になっていく、
ティルピッツ 艦橋
「左舷、中央に被弾!」
「これで6発が命中か」
「艦長、前方1時。25000にレパルス型です」
「ちっ! 引き揚げる」
ティルピッツは、駆けつけたレパルスに砲撃され、
フォーミダブルに空襲されると、戦闘を中止、北上していく。
その後、大破して取り残されたキングジョージ5世をUボートが発見し、
魚雷4発を発射して撃沈してしまう。
イギリス海軍は、艦隊でドイツ艦隊を追撃したくても上陸作戦が怖くて援軍の艦隊も出せず。
ティルピッツと重巡洋艦アドミラル・ヒッパーは、ヨタヨタとキール港に入港してしまう。
大西洋は、がら空きとなり、
ポケット戦艦アドミラル・シェーア、リュッツォウの2隻は、
アドミラル・グラフ・シュペーの敵討ちとばかり暴れ回った。
そして、イギリス商船は、50隻以上が撃沈され、10隻が拿捕されてしまう。
この頃、マレーシアに日本租界保安警察が上陸する。
なぜ日本租界保安警察がマレーシアに上陸したかというと
イギリス植民地に日本租界が作られ、日本人がいるからだった。
なぜ日本人がいるかというと日本人に利権の分け前を与えつつ、
植民地運営の片棒を担がせて助けさせる。
そして、現地の独立運動を失望させて押さえ込んだ。
イギリス植民地軍は、本国防衛に移動し、
東南アジアの植民地維持が困難になっていた。
イラク
40年3月
アラブ民族主義者ラシード・アリー・アルキーラーニーが反英運動をおこしていた。
そして、41年5月に始まった戦争では、ソビエト軍製の武器弾薬を得ているらしく、
イギリス軍は苦戦していた。
業を煮やしたイギリスは、世界各地の植民地に日本租界を置き、
日本租界保安警察に治安維持を分担させてしまう。
イギリス植民地軍と日本租界保安警察が敬礼。
「なぜ、日本軍は、この好機に参戦しないのです?」
日本が、その気になればイギリスの植民地は全て占領できそうだった。
ドイツ側、イギリス側、どちらに参戦しても莫大な利益が転がり込む。
「陛下の勅命待ちだそうです」
「その勅命は、いつ出るのです?」
「さぁ〜」
「・・・あなた方、日本租界保安警察と日本人を迎え入れたのは」
「イギリス本国が日本を非好戦的な国だと認知したからです」
「期待していますよ」
「租界内の治安だけは、確保します」
「よろしく」
イギリス人の多い居住区画に日本人も住んで共同租界にしてしまう。
もちろん、タダではなかった。
日本は、資源権益の25パーセントを得て日本租界に商品を運び込んだり、
租界に持ち込まれた物を売買したり運び出すこともできた。
状況は、オランダ領インドネシアも同じで
資源権益の25パーセントも得られ、重油が日本へと輸送されていく、
9月1日
赤レンガの住人たち
新聞を読む手が震えている
“惰眠を貪るな軍人 モロッコ・アルジェリアも占領できんのか”
“皇軍じゃなくて、考軍だろう”
“危機感を喪失して、どうして、国が守れる?”
“皇軍は反戦主義者になってるのか”
“満州を盗られて、このバカが”
“引き篭もり!”
「うぎゃぁあああ〜!!!!」
新聞がバラバラに千切れ飛ばされる。
忍び寄る軍縮の波。
押し寄せる極東ソビエト軍の脅威と満州のアメリカ権益。
上海に取り付いたアメリカ軍の軍事的圧力。
そして、日本国民の冷たい軽蔑の眼差し。
「このままでは、国が守れん」
「ソビエトが侵攻してきたら、満州どころか半島まで失うぞ!」
「ライオン宰相の暗殺に失敗してから、ろくなことがない」
「政府に不祥事の処断権を取られるわ。憲兵は持っていかれるわ」
「軍縮させられるわ。日本租界警察を作られるわ」
「ああ・・・3月事件が成功して、柳条湖事件を押し通せれば見込みがあったんだけどな」
「誰か首相を暗殺しないかな・・・」
「また、給与が1割返納だよ。軍事費減らされるし・・・」
「反乱軍の遺族は惨めなもんだよ」
「元同僚に恨まれて線香も立ててもらえない」
どた! どた! どた! どた! どた! どた! どた!
「大変だ。ソビエト軍が!」
「「「「なに〜! 満州か!」」」」
「ソビエト軍がイランとアフガニスタンに侵攻したぞ」
「「「「・・・・・・」」」」
ソビエトはイギリスの弱体化、ドイツ空軍の消耗。
ドイツ軍に背後を突かれなくて済む冬季を狙い、南下政策を決行する。
イランとアフガニスタンのイギリス軍は、弱体化しており撤退するより他なく、
ソビエトの支援を受けたイラク軍も、イギリス軍を圧倒しつつあった。
「「「「そっちかよ・・・・」」」」
軍事予算増大の夢が立ち消え、安堵と同時に焦燥感が募っていく、
ソビエトが中東を狙うのは南満州で日本と戦い、アメリカと緊張関係になるより、
弱体化したイギリスだけと戦う方が良いと、単純な理由だった。
またフィンランド冬戦争でソビエト軍の戦闘力に疑問を持たれ、
さらにソビエト国民の不満を南方の暖かい大地に向けさせる思惑とも合致していた。
日本の非好戦的な軍事力が極東で安心感を与え、
ソビエトの南下を足したとも言われるが定かではない。
一方、ドイツは、対ソ戦を意識しても9月だと、すぐ冬季になるため動けず・・・
ドイツ海軍 キール港
「ああ〜 ティルピッツをこんなに壊しちゃって、どうするんだよ」
「アドミラル・グラフ・シュペーの敵を討ったって、一応、褒められたってさ」
「仇を取ったって・・・とどめを刺したのUボートじゃないか」
「それに褒めたいのは、大西洋を荒らし回っている残りのポケット戦艦2隻の方だけどね」
「安心して荒らし回れるようにしたのだから悪くないだろう」
「まぁね。しかし、資材を使うぞ」
「でも、航空魚雷5発が命中しても帰還できる。凄いじゃないか」
「そういう風に造っているからだろう」
「ビスマルクに差をつけられたから必死だったかな」
「そりゃ ビスマルクが旧式巡洋戦艦フッドだろう」
「ティルピッツが新型戦艦キングジョージ5世ならティルピッツの方が上だけど」
「とどめを刺したのはUボートだし」
「損益計算だと変わらないような気がするな」
「Uボートがキングジョージ5世を撃沈していなかったら負けてたんじゃないか」
「まぁな」
10月 ソビエト軍がテヘラン占領
イギリス グラスゴー
大陸から250km圏は、ドイツの制空権になっていた。
イギリスは、その圏外で着々と反撃の準備を整える。
しかし、総力でドイツが有利。
そして、イギリスは、ソビエトのイラン・アフガニスタン侵攻に反応できなかった。
さらにイラク軍は、ソビエト製の武器弾薬を装備し、イギリス軍を攻撃していた。
イギリスはソビエトと敵対すると、ドイツとソビエトの両方と戦争することになってしまう。
イギリスの勝てる可能性は皆無。
イギリス首相官邸
「イランとアフガニスタンの状況は?」
「ソビエト軍は、クルド人と組んで侵攻。イラクも苦戦中です」
「残念ながら防衛不能です」
「クルド人か。大義名分には適当だな」
「イラクにもクルド人はいたはず」
「イラン側に移動した模様です」
「・・・もう、戦力の割り振りがきかん」
「日本軍は?」
「無理だそうです」
「くっそ! 日本め、何を考えている」
「アルジェリア上陸も断るわ。中東の油田も断るわ」
「勅命が出ないとか」
「バカたれが・・・アメリカは?」
「イギリス・イラン・アフガニスタンの派兵要請があれば、75パーセントで派兵すると」
「足元見やがって」
「どうします?」
「派兵を要請してくれ、全て奪われるよりましだ」
「このままだとインドまで奪われる」
イギリスは、日本軍が出ないとわかると、高給で日本の傭兵を募集し、
さらに工場で日本人の工員を募集し始める。
ドイツも同じだった。
フランス領にドイツ人を振り分けていくと工場が閑散となるため、日本人を大量に雇用する。
当初は、中国人を使ったが文盲、労働意欲で問題になり、
朝鮮人は、ストレスからくる火病で錯乱。
日本人は、大人しい上に識字率が高く、日本語のマニュアルさえ準備すればよかった。
使いやすいとイギリスとドイツの工場で評判になってしまう。
11月
ソビエト軍がアフガニスタンのカプールを占領していた。
標高1800m。
冬で寒々としていたが陽が高く、日差しも強い。
山登りさせたBT戦車が弱々しく、萎れているように見えた。
「・・・師団長、カプールを制圧しました」
「冬の間に可能な限り南下して制圧地を確保する」
「冬季明けは、ドイツに備えて輸送が滞るはずだ」
「ドイツがソビエトに攻撃するのですか?」
「わからん。冬季明けに合わせて進撃は停止」
「兵站線の確保と治安維持に努める」
「中東は、冬季限定の進撃ですか?」
「そうだ」
ソビエト国内は、十分な開発余地が残され、資源も、人材も、資本も、土地もあった。
例え、全世界から白眼視される共産主義国家でも膨張政策、侵略の動機は弱く。
圧政の軋轢を外に向けた結果に近い。
ソビエト連邦は生存圏拡大のため、
首都に近いバルト3国、ポーランド、フィンランドなど侵略を行う。
しかし、今回の侵略は、不凍港を求めた結果だった。
アメリカ太平洋艦隊は、アメリカ軍将兵を満載し、
マニラに向かいシンガポールからインド洋へと向かっていく。
上陸地はイランであり、インド・パキスタン域だった。
「いいか、野郎ども、戦争が目的ではない」
「イギリス権益の確保維持が目的だ」
「ソビエト軍と接触したら敵が撃ってくるまで、こっちは撃つんじゃないぞ」
「サー!」
「ソビエト軍が撃ってきたら、どうしたら良いのでありますか?」
「3秒数えろ、ワン〜! ツ〜! スリ〜!」
「それまでに敵か味方判別しろ」
「それから反撃する」
「絶対に敵と味方を間違うな」
「サー!」
イギリス海軍 空母アーク・ロイヤルがUボートに撃沈される
1941年12月08日
年の瀬は、忙しく流れていく。
欧州で始まった戦争でイギリスとドイツは、日本に軍事物資を発注。
さらにソビエトもイラン・アフガニスタン侵攻で日本への発注が始まり、
アメリカ軍の中東派兵が決まると、
アメリカも日本に軍需品を発注し始める。
その経済波及効果で日本経済は財政再建が進んでいく。
イギリス VS ドイツ
中国 VS アメリカ・イギリス
クルド (ソビエト) VS イラン・アフガニスタン (アメリカ)
イラク (ソビエト) VS イギリス (アメリカ)
満州 (漢民族 VS 朝鮮民族) 抗争
第二次世界大戦が日本の工業化の踏み台になっていた。
欧州戦争と中国需要、
ソビエトの中東侵攻で
日本の経済再建は、波に乗り、庶民にも鉄が回り始めていた。
貧民層は、自暴自棄に戦争を望む、
しかし、自作農が増えると我が身かわいさ、
財産惜しさで不戦に走りやすい。
この時期の日本は、貧民層が減っていた。
人口比の関係で平和勢力へと天秤が傾いていく。
日本陸軍は、17個師団
近衛師団、01師団、02師団、03師団、04師団、05師団、
06師団、07師団、08師団、09師団、10師団、
11師団、12師団、14師団、16師団、19師団、20師団
しかし、平時将兵は12000から8000に削減されて旅団と化しており、
失業率の少なさから、
戦時編成の将兵25000の徴兵と練度で苦労することになった。
1個師団 (12000 × 108) 兵士の給与129万6千円 平時
1個師団 (12000 × 108) + (13000 × 72) 兵士の給与223万2千円 戦時
↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓
1個師団 (8000 × 108) 兵士の給与86万4千円 平時
1個師団 (8000 × 108) + (17000 × 72) 兵士の給与208万8千円 戦時
旧式装備は売却され、
規格化した新式装備に換装されていく。
これでは戦えないと陰口を叩かれながらも、
95式戦車、機関銃の比率が増えて機械化が進んでいた。
満州北部
朝鮮共産軍は、BT戦車を装備し、強力な威容を見せて、
日本・アメリカの鉄道権益に緊張を強いていた。
しかし、燃料がなければ戦車は動かせず。
弾薬がなければ戦車は砲撃もできない。
訓練もままならず、見かけほど強くなかった。
ソビエト軍の傀儡でしかない朝鮮不正規軍は衣食住がやっとで、
ソビエト軍が攻撃を命じ、補給しなければ、張り子のトラでしかなかった。
ソビエト政治将校がBT戦車のそばにいる朝鮮人将校に話し始める。
「アメリカが南満州で朝鮮自由軍を編成しているらしい」
「李承晩ニダ」
「アメリカ帝国主義に魂を売った裏切り者ニダ」
「こちら側につくように説得できないだろうか?」
「叩き潰せばいいニダ」
「満州を支配して、朝鮮半島を奪い返して、中国大陸を押さえるニダ」
「ソビエトは、まだ満州で事を起こしたくない」
「なぜニダ。世界赤化が目標ある」
「燃料と弾薬さえ供給してくれたら達成できるニダ」
「まだ、準備ができていない」
そういうとソビエト将校は、去っていく。
南満州側も状況は同じだった。
『『燃料と弾薬だけは、朝鮮人に渡せんな』』
二つの世界を代表する二人の将校は、天を見上げながら同じ結論に達する。
中国大陸
日本租界保安警察は、日英仏伊共同租界を守っていた。
区画は租界とは思えないほど大きく、
裁判権も軍事基地も有して、租借地に近い。
フランス商人は傷心状態で落ち着きをなくし、
イギリス商人は焦心状態で本国の利益を追求する。
イタリア商人は衝心状態で中国女性を追い掛け回していた。
日本商人は、発注される仕事をこなしながら、徐々に業績を拡大していた。
ともあれ、日本租界保安警察は、協定にある如く仕事をこなし、租界内の治安を保っていた。
一方、アメリカ軍は権益拡大を狙い、
匪賊を追いながら大陸の荒野を進んでいた。
クリスティー戦車は、それを可能にするだけの機動力、登坂力を持っていた。
しかし、中国軍にドイツ製・ソビエト製の戦車と武器弾薬が流れ込むと状況が変わる。
ドイツとソビエトは、武器弾薬を輸出しても、中国の希少資源を欲した。
何が悪かろうといえる。
日本はアメリカ、イギリスと取引した方が儲かり、産業が育ち始めていく、
揚子江、日本租界保安警察
イギリスの置き土産
ブリティッシュ・テイラークラフト
オースター観測機から日本人パイロットが降りてくる。
イギリス本国は、一人でもパイロットが欲しいと引き抜いて、
航空機を日本租界保安警察に委託してしまう。
そして、元皇軍のパイロットが周囲の状況を報告する。
「異常無しです」
「そうか。ご苦労」
匪賊に悪さをさせない最良の方法は力の誇示だった。
他にもフランス製コードロン C.630シムーン軽輸送機が委託されていたり。
軍用機は燃料消費の関係であまり使われてなかったものの、
数種の爆撃機と、戦闘機ホーカーハリケーンなどが200機ほど並んでいる。
他にも戦車160両。トラック2000台が残されていた。
これらの兵器・武器弾薬が、
フランス戦やバトルオブブリテンの初期にあれば良かったと言える物ばかり。
そして、揚子江は、日本の国旗と、
イギリス、フランス、イタリアの国旗を並べた河川砲艦が遊弋する。
イギリス、フランス、イタリアは、欧州戦争がどうなろうと中国権益を維持する気らしい。
というより、戦後復興・再建の踏み台。
日本租界保安警察の装備は、自前と借り物を合わせると内地の皇軍より拡充されてしまう。
もっとも、アメリカ租界とアメリカ軍は、その十数倍の規模で中国大陸に侵食していた。
東洋のジブラルタル、
日本の真珠湾といえばトラック環礁で、基地建設費2億は伊達ではない。
トラックは、最優先で修復用ドック、大型航空基地が建設され、
戦艦から剥がした主砲搭も備え付けられた。
他にもサイパン、ロタ、ポナペ、パラオ、マジェロの基地も強化され、
前線基地としての機能を果たせるようになっていた。
トラック環礁の兵站能力が大きくなると困るのが、アメリカ太平洋艦隊だった。
ドイツの通商破壊作戦でイギリスが大苦戦に陥ると、
戦略的に艦隊決戦より通商破壊作戦が勝ると判断され、
アメリカの脅威は、長門、陸奥でなく、
通商破壊戦艦に改装された伊勢、日向。金剛、比叡、榛名、霧島に変わっている。
扶桑と山城もドックに入れられ、通商破壊戦艦に改装されつつあった。
日本の通商破壊戦艦は、アメリカ海軍を恐れさせ、対日作戦不能の印象すら与えていた。
伊勢 艦橋
「少ない予算でコツコツと、か」
「通商破壊の主役は潜水艦なんだけどね」
「日本は、主役の潜水艦も少ないよ」
「通商破壊戦艦なんて、どうかしてないか?」
「確かに戦艦を通商破壊に投入するのは馬鹿げている」
「しかし、戦艦を船団護衛に使うのは、もっとバカげているだろう」
「通商破壊に戦艦を投入させるのは、敵船団に戦艦を配備させるためだよ」
「敵の船団輸送のローテーションを悪化させ。確実に船団を遅延させることができる」
「まるで嫌がらせの上手い奴が勝つみたいだな」
「戦争が馬鹿げていると言わないでくれよ」
「最近は、風当たりが厳しいからな」
「旧式艦艇売却でようやく、新型艦艇建造ですから良しなんですがね・・・」
「問題は、造船所どころか、海軍工廠まで発注船で埋まってる事だな」
「あの売国奴どもが、金に目が眩みやがって」
「ですが、イギリス、オランダの東南アジア利権が入って悪くないそうですよ」
「燃料も容易に手に入りますから」
「25パーセントの権利で東南アジアの現地民から裏切り者扱いか」
「本当に割に合っているんだろうな」
「維持負担率で言うと、まだプラスですね」
赤レンガの住人達
満州鉄道の路線地図が広げられている。
ソビエト軍正面は欧州側に配備され、中東へも兵力が割かれている。
そして、辺境で三流どころの極東ソビエト軍でさえ強大で、
日本軍は、勝てそうになかった。
「・・・問題は、戦時編成時の練度だよな」
「練度は、敵に侵攻させて守っていれば、上がっていくだろう」
「守るのは辛いよな」
「日本人はせっかちで、すぐ攻撃したがる」
「戦術機動バカっているからね」
「それで戦争に勝てるなら苦労はしないよ」
「とりあえず、金がないし練度が低いのは、しょうがないよ」
「練度が期待できないなりの戦い方をする」
「それが戦略」
「最強師団の言う事を真に受けて、戦略を練るなど馬鹿野郎のすることだよ」
「あははは・・・」
「ソビエト軍が侵攻してきた場合は、とりあえず」
「防衛線を構築して将兵に場数を踏ませる」
「それで反撃できればいいけどね」
「ランチェスターの法則で言うと地の利があれば、守っている方が有利だろう」
「日本人って、鵯越が好きだから」
「奇策を戦略にされてたまるか」
「10回に1回くらいはいいかもね」
「・・・・」
「・・・20回に1回」
「そんくらいかな」
「だけど、将校クラスでも精神論者が多い、兵科の見直しが必要なじゃないか?」
「だから、教えるやつが精神論者だからね」
「自業自得で、最後は、お涙頂戴の陛下万歳で押し切っちゃうから」
「それで弾が避けてくれるのなら喜んでだけど物理の法則は公平で差別しないからね」
「下級兵士ならともかく、将校クラスが精神論者だと泣けてくるというか。負けるよな」
「だけど、満州が戦場になると、装甲列車が足りないな」
「極東ソビエト軍の質は、どうよ?」
「んん・・・正面は、ドイツのはずだけど独ソ不可侵条約しだいだね」
「それにイラン、アフガニスタンに侵攻しているし」
「独ソ不可侵条約で、ソビエトの正面は日本側だろう」
「まさか、そんなお人好しじゃないよ」
「例え、ソビエト軍がイラン、アフガニスタンに侵攻しても満州は、やばくないか?」
「だから、装甲列車で守っているだろう」
「線じゃな・・・極東ソビエト軍は、面で攻めて来るから」
「どうせ、面なんて、守れないよ」
「戦力比から、十分、攻めてこれるはず・・・」
日本軍の戦略は、南満州を見殺し、鴨緑江防衛線と遼東半島防衛線で、
ソビエト軍の侵攻を食い止める作戦に変更されていく、
しかし、ソビエトはイラン侵攻で呼び兵力を使い果たし、
来期の冬季明けのドイツの反応を恐れ、
極東ソビエト軍を動かせない。
中国東北部、満州、
半島から押し出されてきた朝鮮民族と、
満州の工業力に惹かれた漢民族が満州全域で衝突していた。
北洋軍閥が崩壊した以降は、中国の法どころか、小軍閥、馬賊、匪賊の荒ぶる無法地帯であり、
匪賊 VS 朝賊 が場の取り合いで戦い、
血みどろの抗争劇を繰り広げ、村落単位で独立していた。
日米ソの権益線は、比較的秩序が保たれ、人が集まりやすい傾向にあった。
日本の南満州鉄道を権益とした線と点は、ハリマン満州環状鉄道に包囲され、
結果的に治安も良くなり、守られてしまう。
沿線の権益地は、華僑資本とユダヤ資本に転売され、
急速に商工業が発達していく。
日本は軍縮で動けず。
ソビエトも、中東侵攻で得られる利益と、冬季明けのドイツの反応が怖くて極東で動けず。
両国とも、互いに相手の権益と国境の軍事力を監視し、満州を緩衝地帯と考え、
他方の戦線と民族紛争をしたたかに計算していた。
新型装甲列車が満州の荒野を駆け抜けていく、
脅威が馬賊だけなら程度の低い兵器・武器弾薬でも良かった。
ソビエトと戦争になれば強力な装甲列車と兵器・武器弾薬を必要とする。
それならば、弱兵装で済む緩衝地帯のまま、権益を吸い上げていた方が良い。
そして、ソビエトの中東侵攻は、極東ソビエト軍の軍事行動の可能性を著しく低下させていた。
「これが一式戦車?」
一式戦車 | 重量 | 全長×全幅×全高 | 馬力 | 速度 | 航続力 | 乗員 | ||
海軍式 | 15 | 5.7×2.3×2.28 | 240 | 50 | 210 | 60口径37mm×1 | 7.7mm×2 | 4 |
「大丈夫か。これ?」
「役に立たんな」
「役に立たん戦車を作るなよ」
「いや、欲しかったのは60口径37mm対空機関砲だから」
「少なくとも、95式戦車より強いか・・・」
「アメリカのスチュアート戦車の53.5口径37mm砲より少し強いよ」
「避弾経始もさせているし。トン数分だけ装甲も強いし」
「軽戦車かよ」
「15トン制限なら軽戦車に分類されると思うよ」
「それなら軽戦車として作るべきだね」
「はぁ もっと、設備投資すべきだな」
「マル4が落とされた分が設備投資に回っているだろう」
「道路整備と港湾整備が進めば、30トン戦車も配備できるだろう」
「設備投資が一朝一夕で達成できるものか」
「だからって、やらなければ、永遠にできないよ」
「軍事力切り崩してやるか。普通」
「困るよな」
赤レンガの住人たち
新聞を持つ手が震える
“こぉおらあ〜! それでも日本軍人か、戦え!!”
“この金食い虫が、それでも、男か! 穀潰し”
“世界中が戦っているのに大義がないのか、この、ほうけ者”
“日本軍の根性無し、軽蔑”
“戦え、戦わぬのなら田舎に帰れ”
“この税金泥棒 中東の油田くらい奪って来い”
“臆病者 東南アジアくらい占領しろよ”
新聞紙が丸め込まれ、放り上げられ。拳銃が抜けれる。
「うぅごぉおおお〜! しぇからしか〜!」
「ご乱心されたか、浅野少佐、殿中でござる〜!」
「こんなことを書かれて許せるか、梶川、離せ〜!!!」
「殿中の銃撃沙汰は、ご法度でござる〜!」
「えええぃ 軍人の情けだ。離せ〜!!!!」
ぽとっ
「「・・・・・」」
がっくり・・・・
「「はぁ〜」」
皇居
40歳の壮年と総理大臣がお茶をすする。
「今年も良いお茶が採れたの」
「まったくです」
あけぼの杉の木漏れ日が心地よい木陰を作って風をそよがせていた。
「こうして、自然に包まれているのは、幸福なのだろうな」
「陛下の幸福が帝国全体へ及んでいくことでしょう」
「だといいの」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
月夜裏 野々香です。
赤レンガの住人たちの 赤穂浪士 です。
やっちゃいました。ちょっとした遊びです。
ランキング投票です。よろしくです。
第11話 1940年 『陛下、ご決断を!』 |
第12話 1941年 『フラストレーション』 |
第13話 1942年 『柳の下に・・・』 |