月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『不戦戦記』

 

 第11話 1940年 『陛下、ご決断を!』

 中国大陸 揚子江 フランス軍

 「撤収準備は?」

 「完了していますが帰還船がまだです」

 「何をやっているんだ。バカめ」

 最大20万近いフランス派遣軍を、そうそう、動かせるものではない。

 まして、Uボートに阻まれ、

 帰還船の一部が撃沈され、

 護衛艦の都合が就くまで足止めもされている。

 「本国は、一旦、この地を日本に預け」

 「日本に帰還船を発注していますが天皇の勅令が出ないとか」

 「なんだそりゃ〜!」

 「利権なんですがね〜」

 「アメリカでも構わんぞ」

 「フランス本国は、アメリカが嫌いだそうです」

 「俺も嫌いだ!」

 

 独 VS 英仏 戦争

 戦争が始まると船舶は戦争資源を運ぶため行き交う。

 当然、日本商船も需要があれば行き来する。

 英仏伊連合は、欧州へ軍隊を戻すため制圧地を一旦日本へ預けようとする。

 アメリカ・中国に預ければ戻ってこない。

 日本だと取り戻せるだろうという単純な計算。

 

 とある部屋

 高級将校が長々と弁舌。

 そして・・・・

 「・・・今をおいて皇軍を動かす時期はありません」

 「しかしの、他国が盗んだものを守るため」

 「日本軍を派遣するようなことを言われてもの」

 「・・・・・」

 

 天皇は占領地への日本軍移動に反発し、

 イギリス、フランスを慌てさせる。

 それならばと、政府が動き出す。

 皇軍でない日本政府指揮下の租界保安警察は、共同租界限定で自由に動かすことができた。

 日本の租界保安警察は、日本租界の日本人と住人を守るため創設編成されていた。

 名目変更は議会の承認から、天皇の裁可まで仰がざるをえず。

 時間が過ぎていく。

 イギリス、フランス、イタリアは、時間が惜しいと、

 日本も含めた共同租界にしてしまう。

 日本政府は、これで大丈夫だと思った。

 ところが天皇は、共同であっても占領地を無断で日本租界にしてはいけないと反発。

 日本軍部は小躍りし

 「やはり、外征は、皇軍の聖務である」 と。

 政府との対決姿勢を強めていく、

 政府指揮下の租界保安警察は、天皇に反発されても、

 名目上、共同租界であれば強行できた。

 しかし、軍部の台頭は好ましいといえず。

 時間だけが過ぎていく。

 イギリスとフランスは大騒ぎで、

 定期便限定だった日本船の揚子江航行を自由航行にさせることをアメリカと中国に交渉し、

 中国は喜び、

 アメリカは渋々と、

 日本商船の揚子江自由航行を承認してしまう。

 米英仏中の打算と妥協の交渉が始まって、日米仏伊共同租界は50年協定を調印。

 天皇の反発が、ようやく無くなると新設された租界保安警察が租界地へと移動を開始し、

 日本軍部は失望する。

 租界保安警察は名目上、

 日本人、中国、イギリス人、フランス人、イタリア人、

 インド人、フィリピン人、黒人を守る事になっていた。

 そして、警察権だけでなく、裁判権も日本にされ、

 仮に陪審員制が執られても有利になってしまう。

 当然、防衛線を守る日本に利権が配分され、日本人の共同租界進出も始まる。

 イギリス・フランス軍と日本租界保安警察隊は、租界の貸与式で敬礼していた。

 イギリス、フランス軍は、早々に船に乗って引き揚げていく。

 「あのう・・・この戦車は?」

 「運ぶのが大変なので残していきます」

 「貸与リストに載っているはずです」

 「そうですか」

 船舶の行き来に余裕がなく、

 可能な限り兵士を帰還させるため輸送コストを逆算し、

 旧式兵器、重い物など残すモノは残し置いていく、

 東南アジアの植民地へ持っていくモノもあった。

 そして、イギリス、フランス、イタリアの巨大共同租界が日本租界保安警察の目の前に広がっていた。

 「保警士。テケより、大きくないですか?」

 「んん・・・これか、ソミュアS35中戦車。20トンあるぞ」

 「テケは4.75トンですよ」

 「なんで、こんなものを・・・」

 「自慢したかったんじゃないか」

 「いや確かに凄いですけど・・・」

 

 

 

 イタリア

 日本人が迎賓館に案内される。

 そこにイタリア人がやってくる。

 「ようこそ、大使」

 「お待たせしました」

 「なにか、御用の向きでも」

 「実は、中国におけるイタリア利権ですが少々問題がありまして・・・」

 「はぁ」

 「もし、仮にですが中国大陸の利権を日本に売却するとしたら」

 「いかほどで買って頂けるのでしょう」

 「そ、そうですね」

 「すぐには返事できかねますが」

 「できれば、武器弾薬などと交換したいのですが」

 「イタリアが戦争に巻き込まれるというのですか?」

 「実のところ売るか、も微妙なのです」

 「そりゃ 中国の利権は大きいですから」

 「日本は、なぜ、中国利権に手を出さないのです?」

 「日本軍は、天皇の軍です」

 「勅命がなければ動けません。裁可待ちです」

 「なるほど・・・随分、穏健な陛下のようで・・・」

 「そうですね」

 「一部で決断力に疑問をもたれているようです」

 「どちらが正しいか不明ですし。いまのところ、動く気配は、ないようです」

 「そうですか・・・・」

 イタリアは、欧州覇権と中国利権の天秤で迷っていた。

 

 4月

 ドイツ軍は中立国のデンマークとノルウェーに侵攻して占領。

 

 ユーゴスラビアで親独政権が倒れ、

 同盟破棄、ドイツ軍の侵攻でユーゴスラビアが制圧される。

 ドイツ軍がギリシャ占領。

 

オランダ軍

ベルギー軍

フランス軍

イギリス軍

約35万

約70万

約210万

約38万

ドイツ軍

約330万

 5月10日 ドイツ軍の西部戦線侵攻は、オランダ側から始められた。

 そして、17日にオランダが降伏して終結

 25日 ベルギー降伏。

 

 

 ソビエト連邦、リトアニア、ラトビア、エストニアに侵攻。

 

 

 満州権益線

 南満州の日本と北満州のソビエト軍は、互いに監視しあう。

 長春

 日ソの外交官

 「日ソの権益線は、まだ守られているようですな」

 「そのようです」

 「独ソ不可侵条約で西側の安全を確保。意外でしたね」

 「我がソビエトは、文明国です。侵略などという野蛮な行為はしませんよ」

 『バルト三国は? フィンランドは?』

 「・・・ドイツが信用できないようですね」

 「まぁ そんなところでしょう」 にやり

 『まさか、ドイツ狙い・・・それとも・・・』

 『・・中東・・・それとも、油断させて満州・・・』

 「・・・・」

 「・・・・」

 どうせ悪巧みしか思いつかない。

 互いにニヤリとして握手で別れる。

 戦争しているのは、イギリス、フランス、ドイツ。

 アメリカ、ソビエト、日本は、フリーハンドで外交を駆け引きできる立場だった。

 一つの選択肢を選ぶと他の選択肢が失われるため3国とも用心深かった。

 

 

 5月20日

 イギリス・フランス軍35万がダンケルクで降伏、

 その後、イギリス・フランス軍は、中国大陸から帰還しようとし、

 Uボートの妨害に遭いながら大半がイギリスに向かうことになる。

 

 ドイツ軍はパリ入城し、フランスは降伏した。

 パリ カフェテラス

 非武装宣言でパリを守ったのは、フランス人の気質といえた。

 中立国の日本人とアメリカ人は、フランスに取り残されても戦闘に巻き込まれず、

 無事だったりする。

 数人の日本人が歓談していた。

 「負けちゃったよ。フランス」

 「フランス、イギリス、オランダ、ベルギー4ヵ国は合わせると355万か」

 「ドイツ軍330万より多いけど各個撃破の見本だね」

 「弱い順にやっつけていけば、ランチェスターの法則のままってヤツだな」

 「フランス軍も分散し過ぎだよ。なに考えているんだか」

 「参ったね。何かあら捜しできるかな」

 「最終便で、あれこれ送れたけど、本国に届くかな」

 「Uボートに当たらなければね」

 「一応、日章旗立てているし」

 「ドイツの物資も載ってる。Uボートにだって連絡は行ってるよ」

 「この分だとノルウェーも落ちるよな」

 「イギリスとフランスは艦隊の一部を中国側に振り分ていたからな」

 「ドイツ海軍は、侵攻作戦で、ほとんど被害無しだよ」

 「イタリアは、どうするのかな?」

 「イタリアも中国租界から引き揚げるみたいど」

 「なんか、ゴタゴタだな」

 「日本と一緒に租界防衛で儲ければ良かったのに・・・」

 「国防のため?」

 「野心があるんじゃないか」

 「どっちに?」

 「迷ってそうだな」

 「日本と同じじゃん」

 「ていうか、天皇は、やる気ないのか?」

 「不決断だな」

 「覇気ゼロだよな」

 

 

 ニューヨーク

 日本・IOCは、国際情勢の悪化により、

 東京オリンピックを断念すると発表する。

 

 

 6月8日 ノルウェー(ナルビク)降伏

 

 フランス ロワール港

 「・・・・・」

 「・・・・・」

 戦艦ジャン・バールは、ドックに入ったままドイツ軍に接収されていた。

 フランスは条約明けを見越し、条約外の戦艦を建造していた。

 しかし、思惑よりワシントン条約が長く続き。

 さらに上海派兵で予算を食われて工期進捗が遅れ、

 脱出できず取り残されてしまう。

 一番艦リシュリューだけは、植民地ダカールに脱出できたものの戦闘不能な状態だった。

 「どうする?」

 「進捗率70パーセントか。微妙だな・・・」

 「ブレスト港でクレマンソーを起工させているようだが」

 「使える資材は、こっちに持ってくるか」

 「完成させれば大きいけど、完成させる価値があるかどうか・・・」

 「常識的にさ。潜水艦を建造すべきだよな」

 「でも戦艦を完成させたい・・・」

 「うん・・・」

 

 

 中国派兵のフランス15万、イギリス軍7万と英仏航空部隊の不足がフランス防衛の命取りになった。

 その部隊がフランス本土に残っていたとしても英仏軍が勝てた保証はない、

 しかし、戦線の崩壊は食い止められたかも知れず。

 せめて、ダンケルクから脱出できたかもしれないと考察する者もいた。

 フランス南部域に取り残されたフランス軍は脆弱だった。

 イタリアが迷っている間にフランス全土がドイツ軍に制圧されて降伏。

 国家亡きフランス艦隊は、アルジェリアのメルセルケビル(オラン港)に逃げ込み、

 生き残りを模索するも、本国フランスを人質に取られて迷い、

 

 一方、イギリスも迷う。

 フランス艦隊を攻撃すればフランス本国のフランス人は、レジスタンス運動が低下、

 フランス人は、ドイツ側へと転がっていく、

 しかし、フランス艦隊がドイツに投降すると、

 イギリス海軍は、地中海でドイツ海軍と戦わなければならなくなる。

 業を煮やしたイギリスは、フランス艦隊に協力か、投降か、無力化を迫る。

 亡国フランス艦隊は最悪でもフランス人民の財産であり、

 イギリスの好きにさせられるわけがなく、

 イギリスの条件など国民感情で飲みたくない。

 そして、イギリス艦隊の攻撃を受けてしまう。

 フランス艦隊 (戦艦3、巡洋艦7、駆逐艦36、潜水艦16、水上機母艦1、小艦艇18)

 は、そのまま、ツーロン港へと逃げ込みヴィシー政府指揮下に入った。

  

 戦艦ウォースパイト 艦橋

 「ちっ! ツーロン港に逃げ込まれたか」

 「最悪ですね」

 「ん・・・せめて、イタリアにでも行けば・・・」

 「フランス人は、イギリス人も、イタリア人も、アメリカ人も、嫌いですからね」

 「たしかに・・・」

 「イタリアとドイツは同盟を結んでいる割にどこか疎遠だし」

 「イタリアにとっても中国の利権が大きいからだろう」

 「だけどイタリアは、軍隊を中国租界に戻す動きを見せているからな」

 「イタリアもいい加減だな。中国から引き揚げる噂もあるぞ」

 「イタリアは、参戦する気がないのかも知れませんね」

 「参戦できないとも思える」

 「イタリアがドイツ側で参戦すると、地中海のイタリア海軍はイギリスにとって脅威になる」

 「燃料がないのでは?」

 「ふっ 日本と同じだな。フラフラしやがって」

 「いま一番儲けているのは、日本とアメリカですかね」

 「せめて、ドイツがソビエトに攻め込めば・・・」

 「ドイツも、ソビエト経由で中国の資源が欲しいのでは?」

 

 

 

 7月10日 

 ドイツ空軍のイギリス本土爆撃、バトル・オブ・ブリテンが始まる。

 中国派遣航空部隊不在の数的劣勢で損失が大きく、

 精神的な敗北感に打ちのめさせられ、著しく戦意が低下していた。

 中国大陸のイギリス軍、フランス軍をイギリス本土に引き戻しても失われた勢力を回復できず。

 Uボートとの戦いも苦戦していた。

 イギリス参謀本部

 「ドイツは、8月にビスマルクを就役させるそうだ」

 「はぁ〜」

 「キングジョージ5世型を完成させてない段階で、ドイツへの宣戦布告は、まずかったな」

 「ドイツ海軍は、ビスマルクとシャルンホルスト型2隻。ポケット戦艦3隻を追撃し撃沈できる艦は少ない」

 「巡洋戦艦はフット、レパルス、レナウンの3隻だけか・・・」

 「ドイツはビスマルクを1年以上早く完成させるぞ」

 「イギリスは、もっと早く、条約を破棄するべきだったんだ」

 「7つの海を支配するイギリス海軍だぞ」

 「伝統あるイギリス海軍が国際海軍条約を真っ先に破棄できるものか」

 「キングジョージ5世の完成は?」

 「予定なら来年だ。41年5月」

 「プリンス・オブ・ウェールズは8月くらいだろうな」

 「慣熟訓練期間を含めると泣きたくなるな」

 

 

 日本で軍縮で維持できなくなった旧式艦艇が処分されていた。

 艦齢20年以上は解体されるか売却されており、

 艦齢20年に足りないが戦闘艦として引導を渡され、

 経済性の理由から8000馬力ディーゼル機関と換装。

 航続力は伸びても速度20ノットから24ノット。

 物騒で管理の面倒な魚雷が剥がされ。

 代わりに対空機関砲、対潜爆雷が積み込まれる。

 もっとも、雑役艦だからと言って馬鹿に出来ない。

 鞘に納まって居合に構える正面戦力と違って、訓練、哨戒、掃海、敷設、測量、標的などなど、

 いつも使われ日本海軍の屋台骨を支える艦艇となっていた。

 中型雑役艦 

   3948トン級 天龍、龍田、  2隻

   5500トン級 球磨、多摩、北上、大井、木曽、  5隻

   5570トン級 長良、五十鈴、名取、由良、鬼怒、阿武隈、  5隻

   5595トン級 川内、神通、那珂、 3隻

   3141トン級 夕張  1隻

 小型雑役艦 

   1345トン級 峯風、沢風、沖風、島風、灘風、矢風、羽風、

           汐風、秋風、夕風、太刀風、帆風  12隻

    900トン級 若竹、呉竹、早苗、朝顔、夕顔、芙蓉、刈萱、  7隻

   1345トン級 野風、波風、沼風、  3隻

   1400トン級 神風、朝風、春風、松風、旗風、追風、疾風、朝凪、夕凪、  9隻

   1445トン級 睦月、如月、弥生、卯月、皐月、水無月、

          文月、長月、菊月、三日月、望月、夕月、  12隻

 巡洋艦クラス16隻、駆逐艦クラス43隻

 

 そして、そろそろ代艦の建造を考えねばというとき・・・

 「売ってくれないか?」

 イギリス海軍から声がかかる。

 フランス降伏で、バトルオブブリテンが始まり、

 イギリスは本土防空戦に集中しなければならず。

 対Uボート戦に使える艦艇なら何でも良かった。

 「日本人の身長に合わせた設計ですが?」

 日本人とイギリス人の平均身長は10cm弱違う。

 雑役艦改造で居住性に余裕ができても狭い思いをするのはイギリス人だった。

 「出来れば、海兵も一緒に」

 「残念ながら、中立ですので」

 「では、艦艇の売却だけでも」

 「それは、まぁ 検討できるとは思いますが・・・」

 

 

 8月 世界最大最強の戦艦ビスマルクが就役する。

 戦艦ビスマルクは、

 日本海軍の戦艦加賀、巡洋戦艦赤城の設計思想と設計を参考にしており、

 新鋭戦艦として十分な性能と戦力だった。

 イギリスの効率性も、アメリカのような合理性もなく。

 機能一点張り。

 もっとも、国民性。地政学上、戦略条件の差異でしかなく

 技術レベルで言うと同格以上だった。

 艦長は、巨艦を見上げる。

 「こりゃまた凄い」

 「訓練は、これから、実戦は、もう少し先ですかね」

 「Uボートと人材の取り合いになるな」

 「ええ」

 

 

 日本は、中国特需と欧州特需によって、

 欧米の工作機械、技術、生産管理、品質管理のノウハウが入手しやすくなっていた。

 航空機予算2億は、航空機の品質、規格性能に反映され共有部品も多く、

 胴体は同じで、主翼の形が違うなど、安直だった。

 航続力、格闘性能に比重を置いた護衛機。瑞斗(みずと)

 上昇力、高速性能に比重を置いた迎撃機。瑞馗(みずき)

  空冷エンジン 自重/全備重 全長×全幅 翼面積 最高速度 航続力 機銃
ゼロ式護衛機 瑞斗(みずと) 1200 1800/3000 9.12×12.00 22u 540km 2000 15mm×4
ゼロ式迎撃機 瑞馗(みずき) 1200 1800/3000 9.12×10.00 16u 570km 1200 15mm×4

 列強と比較しても、ソコソコの性能を発揮でき、

 赤レンガの住民たちは無難な出来に一安心していた。

 「・・・万能じゃないが、こんなものだろう」

 「15mm機銃って、中途半端じゃないか?」

 「人を撃つには勿体無い、戦車には通用しない」

 「対航空機用だよ」

 「20mmは弾道性能が悪く弾数で少ない」

 「アメリカのブローニング12.7mm機銃をぱくって、大きくしたけどソコソコに使えるよ」

 「エンジンは、水冷になると思ったがな」

 「複列星型の方が整備しやすそうだよ」

 「ふ〜ん」

 「瑞馗は操縦がな・・・」

 「財布の中身が決まっている」

 「何かを得ようと思えば、何かを失う、代償は付き物だな」

 「迎撃機は、上昇力と速度は良いがね」

 「んん・・・あ! それより、軍部は、決まってるのか?」

 「アメリカと組んで中国を抑えるのが一番無難らしい」

 「ほかにも意見が?」

 「強硬意見は中国と結んで、アメリカを中国大陸から叩き出したがる攘夷派だな」

 「その勢力は大きいのか・・・」

 「いや、イギリス側についてドイツと参戦という意見もある」

 「三つもか?」

 「いや、ドイツと組んで東南アジアを制すとかね」

 「もう、滅茶苦茶だな」

 「それぞれ、財閥、官僚、政治家を味方につけて百花騒乱」

 「議会も荒れに荒れて、わけがわからん」

 「外国から金を貰っている事はないだろうな」

 「誰かの名義でスイス銀行に口座を作られたら振り込んだヤツと受け取るヤツ以外、誰にも分らんよ」

 「はぁ どうなるんだろう」

 「挙国一致にはなりそうにないかな・・・」

 

 

 日本海軍

 戦艦10隻

  排水量 全長×全幅 吃水 馬力 速度 航続力         水上機
長門・陸奥 40000 224.94×34.59 9.5 82000 26 8650海里/16ノット 410mm連装×4 140mm×18 127mm連装×10 35mm連装×20 3
伊勢・日向・扶桑・山城 35000 215.8×33.83 9.21 136000 30 12800海里/18ノット 356mm連装×4 140mm×12 127mm連装×10 35mm連装×20 5
金剛・霧島・榛名・比叡 32200 222×31.02 9.60 160000 32 15000海里/18ノット 356mm連装×3 140mm×12 127mm連装×10 35mm連装×20 5
                        

       ※扶桑・山城、改装中

 空母4隻

  排水量 全長×全幅 吃水 馬力 速度 航続力         艦載機
赤城 38000 261.2×31.32 9.5 136000 32 10000海里/18ノット     127mm連装×6 35mm連装×20 100
加賀 38000 247×32.50 9.5 136000 29 10000海里/18ノット     127mm連装×8 35mm連装×20 100
蒼龍 20100 240×22 7.8 152000 34 9500海里/18ノット     127mm連装×6 35mm連装×14 70
龍驤 12732 180×20.3 5.56 65000 29 10000海里/14ノット     127mm連装×2 35mm連装×14 48
                       

 重巡洋艦 

  古鷹、加古、青葉、衣笠、

  妙高、那智、足柄、羽黒、

  高雄、愛宕、摩耶、鳥海、 12隻

 

 軽巡洋艦 

  最上、三隈、鈴谷、熊野、

  利根、筑摩、 6隻

 駆逐艦49隻

   吹雪、白雪、初雪、叢雲、東雲、薄雲、白雲、磯波、

   浦波、綾波、敷波、朝霧、夕霧、天霧、狭霧、  15隻

   朧、曙、漣、潮、暁、響、雷、電  8隻

   初春、子ノ日、若葉、初霜、有明、夕暮、  6隻

   白露、時雨、村雨、夕立、春雨、

   五月雨、海風、山風、江風、涼風、 駆逐艦10隻

 1930年から続く軍部の不祥事騒ぎで軍事費が縮小され、

 計画の頓挫と取捨選択のスリム化で、旧式艦艇が売却され廃棄される。

 余剰人員は、交替要員となって艦隊の稼働率を上げてしまう。

 結果、大日本海軍連合艦隊は、こじんまりとまとまってしまう。

 攻撃されたら?

 侵略されたら?

 危機意識と恐怖は常に存在する。

 しかし、日本に対し、宣戦布告してきた国は存在しなかった。

 近代になると経済と世論の占める割合が大きくなり、

 聖戦といった自己欺瞞で積極的な侵略は困難になり、

 征服欲、支配欲、領土欲に駆られた戦争は減少していく、

 経済、内政、不況の解消の手段として戦争が行使される。

 経済と軍事は損益分岐点がある。

 損失より得るモノが少ないのなら交流する価値も、攻撃する価値もない。

 そして、日本は、労働資源以上の資源価値を持たず、

 攻撃対象として面白みのない国と言えた。

 他国が侵略する価値のない国を軍需産業を守るため、

 自己申告で過大評価し、侵略されると思わせ、

 そう思い込んでいたのが日本人といえる。

 むろん、ソビエト軍の南進は、内政の誤魔化しと不凍港欲しさで起こりえた。

 むろん、アメリカ軍の攻撃は、不況対策、失業者対策で可能性として存在する。

 しかし、あくまでも損益分岐点の範囲内で起こる侵略と侵害であり。

 損益分岐点を超えるような戦争は困難に分類される。

 どちらも、自国の内政と国際外交上の失策で他国に付け込まれなけれない限り起こり難く、

 統治者が大衆を戦争へと駆り立てる扇動もリスクが大きかった。

 民主主義国家は、その戦争が損益分岐点の範囲以内でも、

 国民を憎しみと復讐で奮い立たせなければならず、

 戦争に駆りたてる統制能力も問われる。

 そういう意味で “リメンバー・シャンハイ” は、好都合な事件であり。

 民主主義国家は、そういったインパクトがなければ、戦争が難しい国だった。

  

 

 しかし、白人世界の脅威と恐怖を目の当たりにする日本で大政翼賛会が成立。

 ウツ状態の日本外交政治に対し、発奮する組織も生まれる。

 “一国一党の強力な政治体制を目指す”

 政治結社の目的が全体主義だと天皇親政を侵害してしまう。

 現状は民意によって議員を選出し、

 議員の多数決を持って首相を選出するので、よほど民主的だった。

 しかし、中国大陸と欧州で戦争が起こっており、

 党利党略の利害を超えた強力な挙国一致内閣が必要になっていく・・・

 喧々諤々

 「ドイツとイギリス・フランスは戦争してており、フランスが敗北している」

 「北部満州に権益を持つソビエトは、虎視眈々と南満州を狙っている」

 「中国大陸では、アメリカ、イギリス、フランス、イタリアが自国利権を拡大している」

 「日本帝国は、軍に予算を投資してきたのだ」

 「ここで動かねば、すべては無駄だ!」

 「そうだ。ここで座視する者は、日本男児とはいえん!!」

 勢いは強い。

 しかし、どうしようか、統合の段階で利権割れ。

 利害関係は広範囲に広がりすぎて収拾できず、

 総論賛成、各論反対。

 アメリカと組んで中国を・・・

 イギリスと組んで欧州参戦。

 フランス・オランダ領を奪うべし。

 ドイツと組んで、アジアの覇権を確立。

 欧米列強を排し、

 単独で中国利権を拡大。

 などなど・・・

 アジア主義の浪花節も絡み、

 損得勘定も絡んで悪巧み。

 決断を迫る内容が多過ぎて百家騒乱。

 意見を全てやると、全世界に宣戦布告しなければならないほど・・・

 外圧に影響されやすく、何かの衝動に突き動かされ、

 何かしないと収まらない日本人の民族性。

 周りはすべて敵。

 このまま座して待てば、白人世界に押し潰されるような強迫観念が渦巻いていく。

 その右寄りに向かう日本の風潮を食い止める逆風も吹き始める。

 日本が敵につくと面倒だとドイツとイギリスが動く、

 というより、日本の中立的な姿勢が信頼され、気に入られたのか、声がかかる。

 「「・・・日本人の雇用はどうでしょう。我が国で働いてみられては?」」

 「しかし、日本人は外国で働くのが慣れていないと思いますが」

 「「日本人は、一度、マニュアルパターンを作ると従順ですからね」」

 「「大量生産向きの民族なんですよ。高給をお約束できますよ」」

 異口同音で同じセリフを吐きやがる。

 「そりゃ まぁ 欧米人に比べて発明発見も少なく」

 「自己主張とか、自主性や想像力に欠けた民族でしょうが・・・」

 『人質かよ』

 「「待遇もいいですよ」」

 「「実は、工場を建て増し、新設中でして、いくら人材があっても足りない」」

 「しかし、日本も人手不足でして・・・」

 「「いやいや、日本国にとっても大きな外貨収入になるはずですよ」」

 『日本政府が日本人労働者貸与で賃金天引きかよ〜』

 「・・・しかし、日本国民の安全を守らなければならない日本政府が」

 「戦時下の国に労働者を派遣するのは、いかがなものかと・・・」

 「「増設・新設される工場は、どれも、地下ですし」」

 「「戦時下といっても、安全な場所は多いのですよ」」

 「ですが日本人の海外渡航はなにかと・・・」

 「「日本国籍はパスポートさえ、あれば、ビザフリーです!」」

 「な、なるほど・・・」

 建前上、日本人を身贔屓しなければならない日本政府要人は人質と判断し、

 ナショナリズム全開の軍・右翼勢力は日本人が優秀だから認められたと自惚れる。

 日本人の気質・特性は、上海需要関連で欧米諸国に知れ渡っていた。

 欧米諸国の視点で客観的に計算され、

 日本人の民族特性は、長所・短所とも近似値に近く、

 日本人より日本人の特性を掴んでいたりする。

 孤立した世界で日本民族が反逆する可能性は極めて低い。

 その勤労勤勉で忍耐強い気質は、優れた想像力とマネージメントの下、

 単調で安定した作業で最大限に発揮される。

 そして、イギリス、ドイツが欲したのは、忍耐心のない自己主張の強い白人系ではなく、

 想像力やマネージメントでもなく、薄暗い工場で働く忍耐強く従順な工員だった。

 日本の幾つもの有力組織がぶつかり、衝突し意見が割れ、離合集散していく、

 “日本に他国から奪われるような鉄鉱石や石炭。石油でも取れるのか?”

 と海外に住む日本人の冷ややかな視点も加わる。

 まとまらない。

 “陛下、ご決断を!”

 なのだが・・・・

 「「「「「「・・・・・・・・・・」」」」」」

 

 

 

 漢口

 中国が日英仏伊共同租界を承認したのは、イギリス軍、フランス軍を撤収させ、

 アメリカを国際政治外交上の利害関係から孤立させるために他ならない。

 中国が可能な限り日本利権を拡大させて承認させたのも、

 アメリカとイギリス、フランスの利害を一致させず離反させるためだった。

 アメリカ租界

 国際的に孤立したアメリカ軍は、漢口に留まり兵站線の拡充に勤しんでいた。

 そして、国際外交上の味方を探そうとすると適当な国が日本、イタリアしかないことに気づく、

 気が進まない日本。迷うイタリアと連携しようとするが、のらりくらりかわされ、

 アメリカは “リメンバーシャンハイ” という掛け声があるものの

 国民が飽きやすく、時間制限があると知っており、しだいに焦りだしていた。

 アメリカ人と日本人

 「中国の上海割譲で日本が協力していただければ助かるのですが・・・・」

 「中国は、上海の租借地なら直ぐ、承認すると」

 「“リメンバーシャンハイ”」

 「我々は、上海で失われたアメリカ国民の生命に対し代償を求める権利がある」

 「もちろん、そのことは先方に伝えていますよ」

 「出来れば、より確かな形で中国側が代償に応じるよう日本に働きかけて頂きたいのですが」

 「先方からも同じ要求を受けています」

 「日本としては、米中双方で納得できる解決を望んでいます」

 「日本が助力の対価を求めているでしたら検討しますが?」

 「ですから “米中双方で納得できる解決を望んでいます” と」

 「・・・それは、どなたの意見ですかな?」

 「総理から。陛下がそう言われたと」

 「それが、日本の外交方針ですかな?」

 「日本は大統領制ではないのです」

 「天皇、政府、官僚、議会など様々な意見を集合させているのです」

 「平時では、それで良いかもしれませんがね」

 「世界中が戦時下にある状況で不都合なのでは?」

 「その意見を集約させようとした結果。残念ながら陛下の意見が適当だと思われたようです」

 「反対なので?」

 「不敬罪に当たりますが賛成といいかねますな」

 「・・・・」 むすぅ〜

 

 

 某所

 日本人代表が白人に誘われて渉外が始める。

 「「どうでしょう。我が国と連合しては?」」

 「「日本の利益は、大きいと思いますが?」」

 「日本としては、英独双方で納得できる解決を望んでいます」

 「「ああ・・・もし、日本側により良い提案があるのでしたらいくらでも検討しますが?」」

 「ですから、英独双方で納得できる解決を望んでいると・・・」

 「「それは、どなたの意見ですかな」」

 「聞いたところでは、陛下の意見だとか」

 「「・・・・・・」」

 「・・・・・・・・」

 

 

 参謀本部

 将兵たちが召集されていた。

 とある一室。

 「いろいろ不満があるようだね」

 「雑役艦の早期退役と、その後の処遇ですな」

 「やむえない事情があって・・・」

 「予算的には、維持できると伺ってます」

 「ああ、単刀直入にいうとだな・・・・」

 「・・・・・・」

 「しばらく、貴官には、軍をやめていただきたいと思っているのだが・・・」

 「人事本部長。どういうことですか?」

 紙が手渡される。

 「・・・・・・・・」

 「むろん、貴官の決めることであれば」

 「いくつかある選択は、貴官次第でもある。強要もしない」

 「・・・・・・・・」

 「無論、事情あって部署は変わることになるが」

 「軍に残ってもらっても構わない」

 「・・・・・・・・」

 「返事は、一週間以内で頼むよ」

 「しばらく考えさせてください」

 「かまわんよ。貴官の決めることだ。次の者と変わってくれないか」

 「失礼します」

 敬礼

 

   

 アメリカ合衆国大統領選挙

 民主党候補フランクリン・ルーズベルト勝利。

 アメリカで初3期目の大統領となる。

 

 

 ハンガリー、ルーマニア、スロバキアが枢軸国に加わる。

 

 

 皇居

 39歳の壮年と総理大臣がお茶をすする。

 「今年も良いお茶が採れたの」

 「まったくです」

 こりっ こりっ こりっ 

 「空が青いの」

 こりっ こりっ こりっ 

 「はい、心地よく、澄み渡っています」

 こりっ こりっ こりっ 

 「お茶と漬物も、いいの」

 こりっ こりっ こりっ 

 「御意にございます」

 こりっ こりっ こりっ 

 

   

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です。

 ドイツ軍は、そのままです。

 フランス軍とイギリス軍は

 中国派兵で史実より少ないです。

 ダンケルクで逃げられなかったという影響。

 そして、ヴィシーフランスは史実より立場が弱体で影響が出ると思います。

 

 

史実

オランダ軍

ベルギー軍

フランス軍

イギリス軍

約35万

約70万

約224万

約45万

ドイツ軍

約330万

不戦戦記

オランダ軍

ベルギー軍

フランス軍

イギリス軍

約35万

約70万

約210万

約38万

ドイツ軍

約330万

 まず、ランチェスターの法則が働きます。

 (ドイツ軍 一部/約330万) VS (オランダ軍 35万)  鎧袖一触でしょうか

 (ドイツ軍 一部/約330万) VS (ベルギー軍 70万) 圧倒的です。

 (ドイツ軍 大半/約330万) VS (フランス軍 210万) 優勢勝ちです。

 

 

 

 

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第10話 1939年 『なんだとぉおおお〜!!!!』
第11話 1940年 『陛下、ご決断を!』
第12話 1941年 『フラストレーション』