仮想戦記 『不戦戦記』
第10話 1939年 『なんだとぉおおお〜!!!!』
米英仏伊連合軍は、第二次上海事変を口実に漢口にまで到達していた。
連合軍は、揚子江沿線の点と線の防備を強化しつつ兵站線を強化し、
無意味に面として広げることなく、経済支配の準備を着々と進めていた。
機械力と資金力に任せた人海戦術で強靭な防御壁を築き、
さらにインド人、フィリピン人に武器を渡すことで防御壁に至る緩衝地帯を拡大し、
匪賊の襲撃を防いでしまう。
中国軍閥は、連合軍の近代兵器に抗し切れず、
中国大陸は、政治経済軍事とも揚子江を境に南北に分断されていく、
インド人、フィリピン人の犠牲者が出ると連合軍の匪賊狩り、資源略奪が始まる。
匪賊が山岳に逃げ込んでも、
連合軍は、地の利を跳ね返す戦車を前面に押し立てる、
軽快なクリスティー戦車(11t/400hp)は95式軽戦車(7.4t/120hp)の登坂能力40度を超え、
中国の山岳地に乗り入れていく、
その使いやすさから各国とも購入したりする。
フランス軍
「ドゴール将軍、地峡を押さえました」
「そうか、これで、揚子江に面した半島は、フランス権益の手中だな」
「もっと、戦車が欲しいですね」
「そうだな」
上海事変以降、
黄海と東シナ海に面した遼東半島、朝鮮半島、九州、沖縄、台湾は
連合軍の軍事的脅威にさらされていた。
しかし、同時に上海の米英仏軍の兵器から部品、消耗品の発注騒ぎが起こった。
アメリカ合衆国だけでも5000憶の予算を掛けて、上海・満州に居座っていた。
イギリス、フランス、イタリアも予算が小さくても近場で安上がりな日本に発注する比率は大きく、
日本に兵站を依存していた。
また、赤紙で安上がりに徴兵できる日本軍と違い、
連合軍兵士の給与は大きく、嗜好品、日用品でも外貨収益に繋がった。
日本が幸運だったのは、30年以降、軍事費が押さえ込まれ、
産業基盤で求められていた発電所が建設されていたことにあった。
これがなければ、発注されても電力不足で工場が動かせず、
十分な受け皿となり得なかったことが上げられる。
社長と師団長が睨み合っていた。
「電力が必要なんだがね」
「こっちも必要なんだ」
「そっちは後からじゃないか」
「何を言うか、先に駐屯していたのは我々の師団だ」
「違うだろう。先に追加電力を要求したのは、こっち」
「後から追加電力を要求して、先に取っていこうとするのがおかしい」
「軍機だから言えんが、必要になったんだ」
「ふざけんな!」
「こっちは納期が迫っているのに電気取られてたまるか!」
「なっ こっちも、国防でいるんだよ」
「じ、冗談じゃない」
「外貨を稼いでいるのは俺たちなんだぞ」
「俺たちが税金を納めて、おまえら軍人を養っているんだろう」
「ぐぅっ・・・」
「ほぉ 殴りたいか。殴れよ」
「・・・・・・」
軍不祥事の処断権は、政府にあった。
しかも、不祥事を見つけ、
捕らえた憲兵は報奨が出るというおまけ付き。
政府は、さらに軍の利権を奪おうと画策していた。
「お、おまえら、いつまでもいい気になってんじゃないぞ」
「上海はな、発電所も製鉄所も建設されている」
「もうすぐ、自前で戦争できるようになるんだよ」
「じゃ それまで荒稼ぎさせてもらおうか」
「馬鹿か!」
「お前らが上海に送っている資材と機材で建設しているんだよ」
「俺たちがやらなくても本国から持ってくれば、同じだろう」
「せ、戦争が起きても守ってやらんぞ」
「はあ。こっちは社員とその家族の生活を守って」
「税金払って、お前らも養っているのにそれか?」
「お〜! 結構だね!!!」
「ちっ! ・・・・いくぞ、主計長、今度は、先に電力を取られるな」
「は、はい」
この頃、日本の一般会計50憶。臨時国債70億が追加。
そして、その多くが黒部ダム、鉄道建設などの設備投資に投入されていた。
掛け捨ての軍事保険でない公共投資の積極財政も軍事費と同様に赤字先送りの投資だった。
徴収した税金で支払い建設し、
不足分も赤字国債を発行し、税金で補填していく。
一部を料金で利用者に負担してもらう。
料金が高ければ利用者が減り、
コストダウンを図るか、収益を上げなければ、時間の問題で、いずれ破綻する。
資源が下落すれば、財政破綻の可能性は低下し、
資源が高騰すれば、財政破綻する可能性も高くなる。
そして、国際情勢は、日本に味方し、
貿易収支の関係で急速に利潤が良くなっていた。
「・・社長。ワイヤーとパイプの追加発注です」
「・・・無理・・・」
むろん、電力が足りないのは、明白ではあるが・・・
上海の日本租界は中国領ではなく、
アメリカ占領地の日本租界の形式をとっていた。
いわゆる既得権の継続で、
日本に利用価値がある限りは、続けられそうだった。
海側と河川を除くと上海全てが米英仏連合軍の占領地となり、
元々、特殊な環境条件の租界が、さらに歪な論法で存在させられる。
租界は、国境ではないのでアメリカ軍は、出入り自由。
もっとも、紳士協定で出入りできるアメリカ軍将兵は、制限されていた。
日本上海租界に居る中国商人が国民党を支援している事も黙認されていた。
アメリカ軍は、重慶との交渉ルートを断ち切らないだけの良識を見せ、
それも、余裕があるからに他ならない。
もっとも、軍同士で安全保障上の話し合いはあった。
アメリカ軍将校と日本租界代表
「・・・日本は、上海租界を捨てると?」
「はい。政府は、海岸側の租界権を失うのなら撤収せよと」
「ち、ちょっと、待ってくれ」
「日本は、我々の外貨が欲しいはずだ。そんなことはあり得ん」
「これが政府から・・・」
「そして、こちらが勅命です」
日本の租界代表が新聞を見せた。
「日本人と台湾人も一ヵ月以内に引き揚げることになります」
「そんな馬鹿な。あり得ん」
「日本で軍部が台頭することになりかねませんな」
「日本製の飛行機、トラックが故障したときは」
「製造番号を連絡してくれたら送るそうです」
「・・・・」
日本は、黒部ダム建設、発電所建設、鉄道建設など、
公共設備が続いて内需拡大で人手不足に陥っていた。
アメリカに嫌がらせされてもイギリス、フランスから資源を買い、
イギリス、フランスに供給することができた。
日本は、孤立化による軍事費増大を画策する軍部の後押しで、
多少の損失も辞さぬ構えになっていた。
上海租界 保育園
園児たちが騒いでいる。
や〜い! や〜い! や〜い!
え〜ん! え〜ん! え〜ん!
「こら、やめないさい」
「みんなで、一人の子に意地悪しちゃいけないでしょ」
「どうしたの?」
「違うもん、チファが僕たちの人形を壊したんだもん」
「そうだ、そうだ。チファが悪いんだもん」
「いけないんだ。人の人形をこわしたら、いけないんだ」
「ぅぅ・・・うぐっ・・みんなが、僕のお人形セット盗った〜」
「な、なんで、壊したの?」
「なんで、盗ったの?」
「だって、みんなが僕のお人形セットで遊んでたんだもん」
「借りてただけだもん」
「壊した方が悪いんだもん」
「僕たち、悪くないもん」
「そうだもん」
「アミィ君も、イング君も、フラン君も、イターノ君も意地悪ばっかりだ〜」
「ほら、酷い壊し方なんだよ」
無残な人形がいくつも転がっていた。
「まぁ こんなにしてしまうなんて、困ったわねぇ〜」
「「「「返さないもん べぇ〜!!」」」」
「うあああ〜ん!!!」
「こら、もうやめなさい」
「「「僕たちが遊んであげるよ」」」
「まぁ ニハン君、ソエイト君、ドイト君。おりこうさんね」
「ちょっとだけ、遊んできてね」
「だってぇ〜 僕の人形セット〜」
「ちゃんと3人に話すから、待っててね」
「「「「返さないもん べぇ〜!!」」」」
「うあああ〜ん!!!」
「こら、もうやめなさい」
チファは泣きながら連れて行かれ、
いいように遊ばれたりする。
「はぁ〜 あの子たちもしょうがないわね」
「なんで仲良くできないのかしら・・・」
ナチス・ドイツがスロバキアを保護国として分離独立させる。
ナチス・ドイツがボヘミア・モラヴィアを併合、チェコスロヴァキア解体。
上海 日本租界
第一陣で日本人・台湾人が引き揚げようとしていた。
その前にアメリカ軍将校が現れる。
「ああ、ちょっと、待っていただきたい」
「この港湾は、これまで通り、日本の租界権のままということで大統領の裁可が下りました」
「・・・・」
「なので、このまま仕事を続けていただきたい」
「・・・・」
半分が日本・台湾に引き揚げ、半分が残った。
パリ カフェテラス
数人の日本人たちが歓談していた。
「なっ!」
「ひぇええ〜 やばくないか?」
「んん・・・ヒットラーは本気かな?」
「危ない橋だろう」
「米英仏とも中国大陸の深みにはまっている」
「こっちは、無視するだろう」
「フランスは中国追加派遣を見送るらしいが・・・」
「マジノ線は鉄壁だと聞いてるぞ」
「兵隊がいればね」
「兵隊がいなければタダの壁」
「そこまで酷くあるまい」
「フランス軍の上海派兵は15万だっけ?」
「ああ」
「すげぇ 5個から8個師団をアジアに派兵か?」
「日本は半師団17個だから、ほぼ同じか」
「フランスもお金持ちだな」
「そういえば、レストランの日本人見習いコックが高給で上海に引き抜かれたらしい」
「向こうでエスカルゴでも作るのか?」
「そんなところだろう」
「日本人は米。フランス人はフランスパン。退けない物はあるよ」
「ふ〜ん、連合軍需要様々だな」
「そういえば、ドイツも資源と交換で船ごと売ってくれたな」
「買い戻し契約は別にしてドイツも大盤振る舞いだな」
「・・・なんか、始めそうだな」
「戦争か?」
「んん・・・」
ナチス・ドイツがリトアニアのメーメルを併合。
フランコ軍がマドリードを占領(スペイン内戦終結)。
中国の霞がかった山間を飛行機が低空で飛ぶ。
廬山は、風光明媚で有名なだけあって、早くから外国人の目にとまり、
外国人の別荘も少なくなかった。
米英仏軍将校は、驚嘆する。
「雲海が良いですな」 ため息
「涼しいそうだ。別荘で落ち着いてみたいものだ」
「治安が良ければいいのですが・・・」
「拳銃を持ち歩いていれば滅多に襲われませんよ」
「アメリカと違って拳銃を持ち歩く習慣がありませんからな」
「まぁ 飢饉のときだけ持ち歩いてもいいと思いますよ」
「10倍返しだと叩き込んでますから懲りたでしょう」
「10倍の10倍では?」
「いや、もっと・・・・」
「まぁ 漢口の占領後、廬山の租界回収運動は、減りましたからね」
「一時は、総撤収かと思いましたが上海事変と第二次上海事件で盛り返せそうです」
「上海から廬山まで鉄道を敷くべきでしょうな」
「しかし、別荘を建てるのは良いとしても景観を考えなければ・・・」
「洋風の別荘は、合いませんか?」
「微妙ですな」
「中華風のほうがしっくりくるような」
「それは、意識下で、そう思い込んでいるだけでは?」
「どちらにせよ」
「白人が上海を維持しようと思えば、こういった場所も欲しいものです」
「そうでなければ、上海をインド人やフィリピン人に任せることになる」
「上海も造成はしてますが、ここまで、できませんからね」
「しかし、日本人め」
「上海租界を捨てようとするなど正気とは思えん」
「我の張り合いで負けたのでは?」
「アメリカの方が日本より余裕ある」
「アメリカに余裕があっても上海は余裕がなかった」
「そういうことでは?」
「フランスとイギリスも日本の兵站に依存している」
「それを放棄など身勝手も甚だしい」
「さ、最初は賛成していただろう」
「本当に引き揚げると思わなかったんだ」
「ちっ!」
「白人の世界支配でないという証拠で日本人を置いてやっているだけなんだが・・・」
「我の張り合いではなく」
「日本側に我がなかったと思うべきでは?」
「そんな、馬鹿な外交戦略があるものか」
イタリアがアルバニアに侵攻。
8月23日 独ソ不可侵条約締結。
8月25日 英仏・ポーランド相互援助条約
パリ カフェテラス
数人の日本人が集まっていた。
新聞を見ながらワイワイ。
「・・・おいおい、大丈夫か?」
「ああ、独ソ不可侵条約だと、どこか攻める気だろう」
「ポーランド回廊だろう」
「イギリスとフランスは、なんで、ポーランドと防衛協定を結んだんだ」
「大陸ゲームじゃないの、ドイツに対する嫌がらせ」
「バカじゃないの。くれてやれよ。ポーランド回廊」
「ポーランドにとっては唯一の海だから、あげないと思うよ」
「でも、それで、収まるのか?」
「戦争も、餓鬼のケンカと変わらないところがあるからな」
「そうか、どっちも高尚ぶってるぞ」
「餓えた鬼と書いて餓鬼と呼ぶ」
「どんな口実で綺麗事言ったって、戦争は奪い合いから始まるよ」
「どっちが勝つかな」
「悪党は勝って、バカは負けるじゃないの」
「どっちも救われねえ〜」
「おかげで、俺たち、羽振りがいいよ」
「しかし、ドイツ商船隊を資源と交換で縮小させるとは、本気か?」
「ん・・・おっ! フランスは、中国から派遣軍を戻すらしい」
「ひぇええ〜 独仏戦争?」
「どうなるんだろう」
「日本は参戦しないのかな?」
「したいよな。漁夫の利。漁夫の利。乗らないヤツはバカ」
「・・・どっちにつくの?」
「んん・・・・・」
9月1日 ドイツ軍がポーランド侵攻。
9月3日
イギリス・フランス・オーストラリアがドイツに宣戦布告。
ドイツ本国への帰還を諦めたドイツ船籍船は、次々と日本の港に入港し、
戦争が終わるまでの間、日本船籍レンタル契約が結ばれていく。
とある部屋
高級将校が長々と弁舌。
そして・・・・
「・・・今をおいて皇軍を動かす時期はありません」
「しかしの、押し込み強盗のような真似をせずとも国民は豊かになっておるし」
「そのようなことを言われてもの」
「・・・・・」
赤レンガの住人たち
血相を変えた将校が行き来する
「勅命はどうした?」
「まだだ?」
「ていうか、どうするんだ?」
「軍内部でも中国大陸に向かうか、欧州参戦か決まってないぞ」
「外交で選択肢があるのは、外交戦略上の余裕?」
「機を見れば、ここで動くべきだろう。何のための軍部だ」
「延々と予算を食い潰して、ここで動かねば」
「日本帝国軍人は穀潰しでしかない」
「ていうか、どこと戦うの?」
「どこだっていいだろう」
「勝ち馬に乗ったもん勝ちだ」
ドタ! ドタ! ドタ! ドタ! ドタ! ドタ! ドタ! ドタ! ドタ!
「大変だ! マル4も潰されたぞ!」
「「「「「「なんだとぉおおおお〜!!!!! 」」」」」」
海軍要求
艦艇建造予算:12億0578万円。
航空隊整備予算:3億7294万1千円
軍事整備費名目で総額7億に減額されてしまう。
「「「「「「・・・・・・」」」」」」
「「「「「「なっとくできぃいいいいい〜ん!!!!!!」」」」」」
欧州で戦争が始まり、
中国に欧米連合軍が取り付いている。
しかし、日本の軍事予算は、それほど増えなかった。
9月29日
ポーランド、ワルシャワ陥落。
パリ カフェテラス
数人の日本人が集まって新聞を見ながら歓談。
最低、1000個程度の単語がわかれば、前後の文脈から意味が理解できた。
「なんだぁ ポーランド負けちゃったよ」
「マジ?」
「はやっ!」
「国家間戦争って、普通、何ヶ月とか、何年も必要なんじゃないの?」
「準備していたはずだけど、ポーランド軍って、しょぼいのか?」
「んん・・・電撃戦って、なんだ?」
「飛行機で爆弾を落としながら戦車で突進するんじゃないの?」
「日本の観戦武官とか、行ってないのかな、話し聞きたいな」
「「うんうん」」
「だけど・・・フランス軍、まだ戻ってないけど、大丈夫なのか?」
「さぁ〜」
「たしか、上海に派遣したのって、フランス最強師団だったよな」
「ん!? おいおい、おれ達、パリにいるんだぞ。どうするんだよ〜」
「帰国の準備しようか」
「いや、こういうときこそ、命がけのビジネスだろう」
「マジノ線に期待して、がんばるのか?」
「「「「んん・・・」」」」
揚子江 フランス軍
揚子江には、フランス国旗を立てた河川砲艦が遊弋していた。
日本から運ぶ資材がそのまま、租界拡大に繋がり、
防衛線の拡大と城塞築城に繋がる。
日本からの輸送機が飛行場に着陸すると物資を降ろしていく、
「機長、フランス軍は本国が危ういというのに、のんびりしてますね」
「中国の資源と市場は、それだけ大きいということだろう」
「白人が全世界を支配する夢でも見てるんでしょうか?」
「日本が、その手助けか、かなり情けないな」
「漢民族だって、金さえ貰えば助けてますからね」
「各国とも日本からDC3を買って、満州・上海と租界間の空路で利用してるからな」
「金持ちは、わがもの顔ですね」
「日本も半島、九州、沖縄、台湾で防衛線を構築しているらしいが予算不足らしい」
「戦力を削いで国力を増やしてるからでしょう」
「国力を削いで戦力を増やすとジリ貧ですからね」
「国債発行で、どっちも、というのは?」
「資源、市場、資本、工業力、技術。全て揃っている大国なら可能だけど」
「小国がやると財政破綻を起こして、戦争するしかなくなる」
「・・・・」 ため息
「・・・さて、機体をフランスに引き渡して帰国するか」
「ええ」
フランス軍の将軍は、勝ち誇ったように揚子江の景観を楽しんでいた。
「!? なんだ? ドイツの船じゃないか?」
「日本の旗を立ててますよ」
「ちっ 紛らわしいな。臨検できないじゃないか」
「日本商船でもできるのでは?」
「この前、臨検して遅らせたらアメリカ、イギリス、フランスの銃器メーカーから苦情が来たわ」
「もう、金に目が眩んで、わけわからないですね」
「・・・ったく」
「ドゴール将軍、本国から帰還命令です」
「あの船に乗って軍の半分を帰還させよと」
「何だと? ドイツの船じゃないか・・・」
「本国がドイツに宣戦布告。戦争です」
「バカな・・・」
フランス軍の一部は、ブツブツ呟きながら、
渋々、日本国籍ドイツ製商船に乗り込んでいく。
イギリス・フランスは、39年9月3日にドイツに宣戦布告していた。
しかし、西部戦線で散発的な銃撃戦が行われただけで、
イギリス・フランス軍はマジノ線に閉じ篭もり、大きな戦争にならない。
独仏国境線。
小さな川が国境線で家々が並び、住民が住んでいた。
「アロア。好き嫌いは駄目よ。ピクルスも食べなきゃ」
「もういらない」
「もう、仕方がないわね」
少女が窓から手を振ると川向こうの家から、男の子が手を振って応える。
国境の町は、ドイツ語、フランス語、どちらも話すことができた。
国境線があることは知っていても
戦争前は、国境越え、良く遊んでいた友達。
「ママ。学校、遠くなっちゃったね」
「しょうがないわよ。しばらく我慢すれば、戻れるわ」
「ネロ君とも、パトラッシュとも、そのうち遊べるわよ」
「うん・・・・」
国境近辺の住民達も戦線が作られ、封鎖されただけだった。
まさか、川向こうの隣人と殺し合いになるとは思っておらず。
時折、手を振ったり、挨拶したり。
12月13日
ラプラタ沖
ポケット戦艦グラーフ・シュペー 艦橋
「艦長。イギリス艦隊です」
「・・重巡1隻、軽巡1隻・・・」
「・・・2隻だけのようです」
「軍需物資の輸送と中国からの帰還兵士で護衛艦を使われているようだな」
「どうします?」
「巡洋艦の方が速い。攻撃してくるなら、反撃しよう」
ポケット戦艦グラーフ・シュペーは、
重巡エグゼター、軽巡エイジャックスに捕捉されてしまう。
イギリス艦隊は、劣勢であることから本国に通報しながら追跡し、
しかし、霧と夕闇が迫ってくるとイギリス艦隊は、突進する。
「艦長!」
「第一砲塔は重巡。第二砲塔は軽巡に向けろ」
ポケット戦艦の性能は通商破壊に特化され、
装甲は、軽巡並に薄かった。
軍艦としてはアンバランスであり、
それほど、褒められたものでない。
しかし、シュペーの283mm砲が重巡エグゼターが艦首に283mm砲弾が命中、大破して逃走。
軽巡エイジャックスは艦体中央を撃ち抜かれ、傾いて沈んでいく、
「こっちの損失は?」
「艦首に20cm砲弾が命中。小破です」
「そうか・・・」
「もう、帰還するしかなさそうだな」
「帰りに船団を発見できれば楽しいでしょうね」
「そうだな」
イギリスは、まだキングジョージ5世型戦艦を完成させていなかった。
ポケット戦艦を撃沈できるイギリスの高速大型巡洋戦艦は、フッド、レパルス、レナウンの3隻のみ。
そして、フランス海軍のストラスブール、ダンケルクだった。
広い大西洋でポケット戦艦がイギリス巡洋戦艦やフランス戦艦と出会う確率は低かった。
赤レンガの住人たち
海軍建造計画マル4は、総額7億で破綻してしまう。
海軍はまだ良く、
陸軍は総額3億で鼻血もでない。
さらに軍組織から租界保安警察を引き抜かれて縮小し、
アメリカの上海日本租界の港湾権益権封鎖に対し、
日本は上海撤収で応え、
アメリカは供給減による負担増加と
現状で日米の緊張関係が高まるのは困ると妥協し、
日米間の戦雲が低下したのだった。
「今回も整備費か・・・・」
「振り分けは?」
「艦隊2億、基地関連2億。航空機3億かな」
「戦争できないよ」
「戦争が始まれば、国債発行するとか言ってたけど」
「間に合わんだろう」
「せいぜい、急造しやすい潜水艦を建造するくらいだな」
「連合軍が漢口まで後退したから議会は軍事費で手抜きしようと思ったのかな」
「上海撤収で、一気に軍事費増大すると思ったのにアメリカが折れるから」
「伏見宮博恭王の口利きで上海撤収まで、お膳立てしてやったのにアメリカのヘタレが」
「俺なんかな、閑院宮載仁親王に頼み込んで、上海財団に頭下げてもらったんだぞ」
「大国アメリカなら威信に賭けても日本租界封鎖を退かないだろう」
「大国のくせして根性無しが」
「欧州がきな臭いから足並み狂わせて封鎖を解いたのかな」
「租界保安警察を引き抜いたあげく、予算を流すわ、ろくなことがない」
「外貨稼げる民間ばっかり贔屓しやがって」
「国防をないがしろにしとる」
「目先の利益に目が眩んでさ、危機感がないんだよ」
「単細胞民族が浮かれやがって」
「最近は、民間から、お邪魔虫あつかいだし」
「妻には馬鹿にされるし」
「子供には白い目で見られるし」
「どっか、戦争し掛けてこないかな」
「台北辺りに戦艦を並べておけば、爆撃してくれるんじゃないか」
「戦争してぇ〜 男として、立つものがないぞ」
「あっ! ディズニーの白雪姫が始まる時間だぞ」
「おっ そうだった。招待されていたっけ」
「「「「行かねば」」」」
ぞろぞろ、ぞろぞろ、ぞろぞろ
日本 某工場
社長が喜んで走りこんでくる。
「よ〜し! 融資を受けられたぞ」
「「「「「おお〜」」」」」
ぱち! ぱち! ぱち! ぱち! ぱち! ぱち!
「みんな、ダム建設の発電で電力供給が増えれば電気釜の開発も無駄にはならない」
「炊飯機も、パン製造機もいける」
「良かったですね。社長」
「上海撤収騒ぎで、どうなるかと思いましたよ」
「おお、また、軍拡で資金繰りが滞ると冷や冷や物だった」
「開発できれば、きっと飛ぶように売れるぞ」
「所得も増えているようですし、上手く行けば、大会社ですかね」
「だなぁ〜♪」
ばんざ〜い ばんざ〜い! ばんざ〜い!!
ドイツは大型飛行船3隻を保有していた。LZ-127、LZ-129、LZ-230。
このうち、LZ-129がヒンデンブルグ号はニューヨークで炎上し、世紀の悲劇映像が記録される。
そして、残った2隻、LZ-127、LZ-230は、対中国用の物資輸送で利用される。
LZ-130「グラーフ・ツェッペリン」
ドイツは、イギリスとフランス相手に戦争しているのに余裕があるのか。
巨大飛行船は大巴(ターパー)山脈の台地に固定されると、
84トン分の1号戦車と武器弾薬が降ろされていく、
そして、財宝、タングステン、ニッケルが積み込まれ、空に上っていく、
ゴンドラからドイツとソ連の将校が見下ろしていた。
「風が弱くて、良かったですな」
「ええ、ここが守られるなら最悪の事態は避けられるでしょう」
「最悪の場合。我々が大巴(ターパー)山脈の一部を租借地として押さえ」
「米英仏連合を止めればよろしいでしょう」
「最悪の場合でしょうな」
「ドイツも、中国も、ギリギリまで、その選択を避けたい」
「我がソビエトは、まったく構いませんぞ」
「ドイツは、ソ連の盾になるつもりもなければ、肥やしになるつもりもない」
「でしょうな」
「アメリカが怖いですか?」
「いいえ、ですが、挑発しても無駄ですよ」
台湾から重慶まで直線距離で1600km。
日本の輸送機が6時間に満たない飛行で重慶に着陸する。
飛行機の採算を考えると必然的に高価な荷を積むことになった。
しかし、戦局の不利な中国は、少しぐらい割が悪くても武器弾薬を求め
重慶の日本租界は莫大な利益を上げる。
「・・・社長、租借地を見に行かれるので?」
「先に見に行った外交官が要塞の地下に石炭層を見つけたらしい」
「確認しないとな」
「あそこは租借地だから租界と違って、日本軍を配備できるし中国官僚との面倒な手続きもない」
「ここは支店だけでいい」
「まだ、日本軍の配備は決まってません。それに内陸に入って、不便では?」
「中国人が重慶までの道を建設してくれているし」
「要塞の造成も進んでいる」
「匪賊の襲撃も、不買運動もない」
「上手くいきますかね」
「近代戦で石炭の上にいるなら垓下の戦いの劉邦と同じで食糧庫の上にいるようなものだ」
「石炭だけでは・・・」
「それに、あれは、彭越(ほうえつ)がゲリラ戦で項羽の兵量を焼き払ったからでは?」
「良いのだ。石炭があれば発電所を作れる」
「発電所ができれば送電で金儲けができる」
「金儲けができれば自衛もできる」
「撫順は失敗したようですが・・・」
「国と軍に頼り切って、独立採算の気概と努力を怠ったからだ」
「商売の基本は、小さなことからコツコツと絶えまない努力と精進が大切なのだ」
「なんでも国営でやればいいというものではない」
「漢民族は、いま一つ信用に欠けるのですが」
「利害一致か、利害不一致かだよ」
「日本はアメリカとイギリスの上海割譲要求で国民軍と漢民族の支援を受けられやすい」
「いまは中国を信用してもいいだろう」
「あの租借地は重慶が落ちた場合の逃げ道で」
「資産隠しで日本の権益に隠れたがっているだけでは・・・」
「つまり、蒋介石国民軍は、日本に頼るしかない」
「追い風だよ」
「欧州戦争の影響は?」
「イギリス軍とフランス軍は後退する」
「アメリカは国際政治から取り残されて現状維持で上海利権にとどまる」
「蒋介石はアメリカ軍だけを相手にすればいい」
「日本に有利になるのですか?」
「微妙だな」
「アメリカは、日本に妥協しやすくなる」
「もっとも、上海利権を拡大しているから、あまり変わらないだろうが」
皇居
39歳の壮年と総理大臣がお茶をすする。
「今年も良いお茶が採れたの」
ぱりっ! ぽりっ! ぱりっ!
「まったくです」
ぱりっ! ぽりっ! ぱりっ!
「やはり、お茶は煎餅と合うの」
ぱりっ! ぽりっ! ぱりっ!
「まったくでございます」
ぱりっ! ぽりっ! ぱりっ!
「皆が、ゆるりと、お茶を飲んで、お菓子を食べていけるようにしたいの」
ぱりっ! ぽりっ! ぱりっ!
「身命を賭して奉公いたします」
ぱりっ! ぽりっ! ぱりっ!
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
月夜裏 野々香です。
気付く人は気付く、気付かない人は素通り
フランダースの犬です。
世界名作劇場は良かった。
ていうか、どうなるんだろう。
この男の子と女の子。
クリスティー戦車(BT戦車)の登坂能力がわからんかった。
クリスティー戦車(11t/400hp) 1トン36馬力弱
95式軽戦車(7.4t/120hp) 1トン16馬力弱 登坂能力40度
車高は、それほど高くなさそうだし、45度を超えるのだろうか。
それとも、95式がヨタヨタと登って、
クリスティー戦車は疾走して登っていくのだろうか。
中国大陸で戦争するなら、やはり登坂能力でしょう。
こいつにM1919を並べて載せ
機銃掃射用のガンタンクにしたり。
短口径75mm砲を載せたり・・・
あ〜 いけない、いけない、
妄想して楽しくなる自分がいる
史実
1939年09月01日早朝(CEST)
欧州で、ナチスドイツのポーランド侵攻。
イギリス・フランスがドイツに対して宣戦布告したことより始まった
この戦記では、日独伊同盟が成されず。
日独伊貿易協定のみ。
ノモンハン事件
満州そのものが緩衝地帯なので、ありませんでした。
代わりに政治外交上の鍔迫り合い。
上海租界撤収騒ぎがありました。
ここで日本が退けば、孤立化で、
日中独ソに流れそうだったのですが・・・
アメリカの方が欧州の戦雲と、
英仏の圧力で退いてしまいました。
ランキング投票です。よろしくです。
第09話 1937年 『日本版ニューディール』 |
第10話 1939年 『なんだとぉおおお〜!!!!』 |
第11話 1940年 『陛下、ご決断を!』 |