月夜裏 野々香 小説の部屋

       

未来旋史 『白亜の遺産』

 

第01話 20XX年 『人類滅亡?』

 その日、航空宇宙局は、地球に接近する天体を観測した。

 太陽系外縁部オールドの雲から飛来したと思われる小惑星は、数十回に渡って計測し直され、

 3日を経ずして、軌道上の観測衛星のセンサーが大半が、その小惑星に向けられた。

 超大国の白い家

 プロジェクターに小さな天体の映像が流れていた。

 「大統領。小惑星は、直径400km」

 「大きさは、小惑星帯(メインベルト)のヒギエア族ヒギエアほどです」

 「現在、火星軌道のやや外側で、地球から7000万kmの距離にあり」

 「時速7万kmで地球衝突軌道に乗っています」

 「「「「・・・・」」」」

 「衝突は、いつかね?」

 「41日後ですので、5月18日14時頃かと」

 「なぜ、もっと早く見つけられなかったのかね?」

 「天体観測機の半分は、太陽系外の天体に向けられ」

 「残りもローテーションで既存の惑星と小惑星の観測に向けられてます」

 「新発見に使えるセンサーは少なく」

 「また、反射率の低い天体は観測し難く・・・」

 「有体に云えうと、予算が少なかったせいかと思われます」

 「「「「・・・・・」」」」 憮然

 「落ちる場所は、どこなのかね?」

 「現在の軌道ですと、中米付近と思われます」

 「被害は?」

 「・・・もちろん、人類滅亡です」

 「「「「・・・・・」」」」

 「まず、地表に衝突した小惑星は、深さ10kmほどの地殻を粉砕し」

 「衝突時に作られた1km大の岩塊が地球全域に降り注ぐ事になります」

 「地殻津波は、地殻をめくり上げながら周囲に広がり」

 「直径4000kmのクレーターを作ると考えられます」

 「クレーターから湧き出た岩石蒸気は、1500度以上の灼熱と化し」

 「大気圏外にまで膨れ上がります」

 「岩石蒸気が2000度を超えると窒素と酸素を結びつき」

 「人体に有害な、一酸化窒素(NO)と二酸化窒素(NO2)を大量に作ることになるでしょう」

 「その後、岩石蒸気は、風速300m。時速1000kmで大気圏に広がります」

 「岩石蒸気の白い家到達は、着弾して6時間40分後の予定」

 「地球は、約1日で火の玉になるはずです」

 「地球を覆う岩石蒸気は、海洋を一ヵ月で蒸発させ」

 「水素と酸素が燃え尽きるまでの数年間、地球を覆います」

 「その後、温度が下がると数千年間に渡って、雨が降り続くでしょう」

 「ち、地下シェルターは?」

 「大気圏外から1km大の破片が降り注ぎます」

 「最新の地下シェルターでさえ、生き残る可能性は低いと思われます」

 「「「「・・・・」」」」

 「その隕石のインターセプト(迎撃)は?」

 「世界中が保有する核兵器全てを小惑星に投射してもコースを変えることは困難でしょう」

 「指を銜えて眺めていろ、というのか?」

 「残念ながら・・・」

 「・・・海水が全て蒸発するのは、隕石の衝突の一ヵ月後、だったな」

 「はい」

 「海軍長官・・・」

 

 

 絶望的な知らせは、全世界の指導者のみ伝えられ、

 各国とも少数精鋭による生き残り策が進められた。

 同時に主要国共同で、核兵器によるインターセプトが試みられ・・・

 

 

 白い家

 「大統領。メタマテリアル陽子弾が完成しました」

 「それで何とかなるのかね」

 「はい、E=mc²。これは、エネルギー(E) = 質量(m)×光速度(c)の 2乗という事で」

 「これはですね」

 「逆に言うと、空間におけるエネルギーの最大質量は、決まっているわけです」

 「つまり、空間における光速度(c)の 2乗を飽和状態にした時、質量は、居場所を失い」

 「エネルギーとしての力を喪失させてしまうということです」

 「「「「・・・・・」」」」

 「このメタマテリアル陽子弾は、光速度(c)を飽和状態にはできませんが」

 「衝突時のエネルギーを原子透過率の転換に変えるだけの力場を作りまして・・・」

 「上手くいけば、地球と小惑星の原子透過率が変わって、物体をすり抜けられるかもしれません」

 「もう、なんでもいいよ。やってくれ」

 「はい」

 科学者が喜んで出て行く、

 「何でああいうマッドサイエンティストが出てくるんだろうな」

 「通常科学技術では手に負えないからでは?」

 「まぁ いいか。」

 「もう、予算を使い込んでも文句を言う納税者も消えてしまうからな」

 「ええ」

 「君は、家族と過ごす時間をどれくらい取りたいかね?」

 「立場がありますので、最後の1日ほど休ませて頂ければ・・・」

 「そうか、済まないな」

 「白い家のセキュリティーも最後は、機械任せだな」

 「安全のため、地下シェルターか、潜水艦に移られては?」

 「いや、後の事は副大統領に任せて、ここで死ぬことにするよ」

 

 

 

 とある島国の総理官邸

 偉い人たちが集まっていた。

 「天文局には?」

 「守秘義務を課しました」

 「街は?」

 「まだ平穏な社会です」

 「国民に “死ぬ” 心構えをさせるべきだろうか?」

 「犯罪が多発するかと思われます」

 「そうだろうな・・・」

 「それに、公表はアメリカが決めると」

 「先に見つけたからって、偉そうに・・・」

 「しかし、どうしたものか・・・」

 「小惑星は、火星より、内側に入ったそうですし」

 「いつまでも隠しきれるとは思えませんが」

 「列強は、迎撃は行いますが、墓標を残す事に力を注ぐようです」

 「列強が太刀打ち不能で諦めるとはな」

 「小惑星に向けて、核攻撃はするようですが・・・」

 「本当に無理なのかね?」

 「質量比から無理と思われます」

 「ではどうする?」

 「残念ながら、種が存在した事を残すべきかと」

 「列強と違って、原子力潜水艦はないぞ」

 「いくつか、策はあります」

 「ほお」

 「しかし、墓標として残すだけであり、生き残るためではないです」

 「そうか・・・取り立ててすることもないのなら、残せる墓ぐらいは、作りたいものだな」

 「それと、宇宙空間に墓石でも上げますか」

 「そうだな。できる得る限りのことはしたいものだ」

 「では、宇宙ロケットの準備も並行して・・・」

 「我々のモノリスを誰か見てくれるのだろうか」

 「そう思いたいものです」

 「「「「・・・・」」」」 ため息

 扉が開く、

 「総理! 外報で、大統領声明が出されます」

 「「「「・・・・」」」」

 「どうやら、誰かに発表される前に自分で発表する気になったわけか」

 「その方が発言力がありますからね」

 

 白い家 発

 “・・・小惑星は、直径400kmで、地球の近くを通過しますが、逸れる事になるでしょう”

 “ただ、地球の近くを通過するため”

 “異常気象を起こす可能性もあるので災害対策協議チームを編成しております”

 “心残りのないような生活を送ることをお勧めいたします・・・」

 

 「・・・また直撃なのに大嘘をついて」

 「まぁ いいじゃないか、後続の連中がなに言っても誤魔化せるし」

 「異常気象があるかもしれないで、心残りがないようにと、庶民には伝えてる」

 「悪くない考えではありますがね」

 

 

 巨大な塊が地球に向かって近付いていた。

 地上の人たちが空を見上げ、カメラに録画していた。

 「すげぇ〜」

 「何か、昨日より大きくなってるぞ」

 「本当に地球に当たらないんだろうな」

 「掠って、抜けて行くらしいよ」

 「そういえば、少し前にピカピカ光ってたぞ」

 「ああ、確か、核ミサイルじゃないのか」

 「なに? 危ないな」

 「少しでも余計に逸らしたいんだろう」

 「だと良いけど、破片が落ちてきたら危ないじゃないか」

 「そうだな・・・」

 

 

 太陽系の一角、地球で大きな閃光が発した。

 

 

 

 小惑星発見から41日後、

 地球全域は火球に包まれ、

 1km大の岩塊が軌道から落ちて地表に降り注いでいた。

 人類は滅亡し・・・

 大地は溶岩のように溶け、僅かに残った海面が沸騰していた。

 その沸騰する海面の一つ、

 マリアナ海溝中を各国の原子力潜水艦がゆっくり降下していく。

 各国とも似た様な事を模索し、人類が存在した証しを残そうとしていた。

 島国でさえ、ケロシンと水を満杯にして凍らせたタンカーに潜水艦を格納し、

 伊豆・小笠原海溝に沈めていた。

 海中は、地表の灼熱を和らげるため、

 隕石の直撃を防げるなら最後の望みといえた。

 深度が浅ければ、水圧で潰されることはなく、

 干上がる海面に合わせて、海溝へと降りて行くことができた。

 いずれにせよ。最後まで生き残れる可能性があるだけであり、

 人類存続を目的としていなかった。

 そう、人類が存在したという証しを残すための計画であり、

 それ以上ではなかった。

 地球全域を岩石蒸気が荒れ狂い、地表は溶け、海上は蒸発し、

 大気圏外から1km(1000m)大の岩塊が地表に降り注いでいた。

 

 

 60万トン級タンカーが海中に浮かんでいた。

 26万t+積載原油56万t

 全長458.45m×全幅68.8m×吃水24.6m

 内壁の内側、個体酸素と凍らせたケシロンの氷の塊に覆われた潜水艦そうりゅうは、天運任せ、

 幸運にも、まだ生き残っていた。

 そうりゅう 艦橋

 「現在の温度格差は、温度は?」

 「海中温度34℃。タンカー内温度-228℃です」

 「少し、上がってるが、風呂の温度より、まだ低いかな」

 「はい、外と内の温度差は、262℃です・・・」

 「-218℃で個体酸素の液化が始まる。大丈夫だろうな」

 「計算上は、膨張に合わせて、液体酸素を船外へと流出させられるはずです」

 「はず・・・か・・・」

 「本番で実証試験ですからね」

 「ふっ しかし、よくよく考えると、内壁の厚みからして、史上最強の防壁に包まれていることになるのか」

 「史上最低気温でもあります」

 「そういえば、地表で観測されてる最低気温は、−89.2℃だったな」

 「だが、即席の氷漬け、溶けきるのは時間の問題だな」

 「!? 艦長。科学探査船ちきゅうと有線が途絶、本土と交信不能です」

 「さっきの衝撃波の大きさからすると、でかい隕石だったのでしょう」

 「やっぱり駄目だったか」

 「むこうは、深度2500mですからね」

 「直径1000mの岩が降ってくれば、一瞬でしょうね」

 「あと数カ月あればな。もう少し、深い海底に・・・」

 「艦長。定位置に固定、深度50mです」

 「直径1000m大の岩塊が降ってくれば、タンカーの氷の中でも、深度50mでも一瞬だな」

 「深度1000mでも同じだと思いますよ」

 「まぁ 岩石蒸気の熱から身を守っているだけだからな」

 「運はともかく、メタンハイドレードが溶け出した時はどうなるかと思ったが・・・」

 「さっきは、危なかったですね」

 「危ない、か・・・」 苦笑い

 「「「「・・・・」」」」

 「ほかの艦との相対位置は大丈夫だろうな」

 「はい、有線で繋がっていて、18隻とも綺麗に並んでいます」

 「やれやれ、まだ、岩石の直撃を受けてないとは、運が良いな」

 「いまのところは、ですかね・・・」

 !?

 艦が大きく揺れ、コンパスが揺れる。

 はたして羅針盤が正しく北を指しているのかも疑わしかった。

 「北へ流されてるぞ、隊形を崩すな」

 「もっと深度を下げるべきでは?」

 「これ以上は、タンカーが圧壊する」

 衝撃でタンカーの中の潜水艦が何度も揺れる。

 「気休めでも原子力潜水艦を建造していたら、こんな危険な事をせず済んだというのに・・・」

 「まったく・・・」

 魚雷を捨て、生命維持装置ばかり積んでいたとしても状況は悪かった。

 タンカーの内壁と潜水艦の外壁の間にも緩衝剤があり、

 そこにも生命維持に必要な物資が大量にあった。

 「伊豆・小笠原海溝の最深部9780mでさえ4ヶ月後には、干上がる」

 「残念ながら現在の伊豆・小笠原海溝の最深部は8800mです」

 「もう、1100m分も海水が蒸発したのか」

 「それまでの命ですかね」

 「冷凍カプセルに入れば、少しは希望が持てるだろう」

 「少しだけ・・・ですかね」

 「しんかい6500が見つけたという海溝沿いの海底洞窟は、大丈夫だろうか」

 「押し潰されなければ、大丈夫かもしれません」

 「どちらにせよ。生き残れるわけじゃないがな」

 「ほかの18隻と衝突しないようにしてくれ」

 「はい」

 「超大国の原子力潜水艦は、マリアナ海溝の10911mですから、もう少し、長生きかもしれません」

 「北極圏も深度4000m海溝があるらしい」

 「先に涼しくなるのは、北極海かもしれないがね」

 「伊豆・小笠原海溝は、我が国に近いですし」

 「戦力の集中なら、日本が優れてると思いますが」

 「状況からして、分散の方が良いような気もするが・・どちらにしろ、気休めにしかならんが・・・」

 「艦長。メタンハイドレードの含有量さらに増加」

 「海面は岩石蒸気とメタンで火の海ですよ」

 「深度20を保て」

 「海水が蒸発した後、もう一度、海水が流れ込んだとき。この潜水艦は?」

 「一応、自動で、深度200mを保つようにしている」

 「たぶん、ほかの国も必要最小限の乗員で似たような考えだろうな」

 「しかし、仮に海が戻ってきたとしてもだ」

 「その時、我々が生きていない」

 「ええ・・・」

 

 

 マリアナ海溝 深度200m

 合衆国海軍 12000トン級原子力潜水艦ザ・ラスト・サパー

 時折、艦が揺れ動き、大きく上下していた。

 「艦長。探信の結果、マリアナ海溝に閉じ込められました」

 「海底まで、いくつだ?」

 「・・・もう少し待ってください、騒音が強過ぎて・・・・あと、4400m」

 「本当に海溝付近まで海水が蒸発してしまうとは・・・」

 「・・・世界最強の最新鋭原子力潜水艦が非武装のまま、風前の灯か」

 「僚艦との連絡は?」

 「これだけ海中が泡立っていると困難かと」

 「最後に確認したもう一つの超大国のグラニー型原子力潜水艦も五日前にロストしたままだ」

 「生き残っているかどうか・・・」

 「この艦が戦争でなく、生き残りに使われるとは思いませんでしたね」

 「生き残れるものか・・・我々は、人類の叡智という名の墓標だ」

 「確かに墓標くらいは、欲しいですね」

 !?

 「なんだ? 揺れたぞ?」

 「造山運動。海底からのようです」

 「上も下もか・・・」

 

 

 隕石津波と岩石蒸気で文明の痕跡は押し潰され、

 降り注ぐ岩石は、もっとも地下深いシェルターを圧し崩した。 

 海底だった地表は、灼熱の岩石蒸気に晒され、

 地球から海が消え、大気は燻ぶり酸素は燃え尽きた。

 溶岩層の大地は溶け、何一つないと思われるほど荒涼としていた。

 地表は、太陽光を遮断するような暗雲に包まれて冷え込み、

 数千年に渡って降り続く土砂降りの雨が大地を潤し、海が作られていく、

 二酸化炭素、亜硫酸ガス、塩化ガスは海中に溶け、酸性の有機化合物が作られていく、

 微生物が生まれ、大気成分の構成が変わり、

 海が広がるにつれ、気候が安定していく。

 そして、滅びたはずのシダ類が地表に広がっていく、

 6000万年後、原人類が誕生し、

 40万から25万年後、アウストラロピテクスからホモ・サピエンスが分化、

 歴史が作られていく、

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 4周年HIT記念です。

 人類、滅亡しちゃいました。

 

An inheritance of the Cretaceous

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