月夜裏 野々香 小説の部屋

   

20XX年 日本沈没 『龍の魂魄』

        

第01話 04月 『はあ〜』

 どこかの豪勢な室内。

 十数人の男たちの視線が、一人に集まる。

 「田所博士。観測データーを見ると」

 「そういった予兆は、感じられませんが・・・・」

 地震観測の学術上の大家、山城教授が冷たく言い放つ。

 「・・・・山城教授。日本列島は、5年以内に沈むよ」

 「「「「・・・・・・・・・・」」」」

 多数の者たちの嘲笑に似た表情と。

 田所博士に対する失望と喪失感が漂う。

 彼は、終わったのだと。

 

 日本の地震観測の歴史は、古い。

 1875年(明治08年) 内務省地理局から始まる。

 地震に苦しめられてきた歴史、国家政府は、当然の責務として負う。

 過去から積み上げられてきたデーターは、蓄積され、

 より精確に、広範囲に、雪達磨式に膨れ上がっていた。

 これらを総ざらいしても、日本列島が沈んでしまうような兆候はない。

 窓から外を見れば、ありふれた日常が広がっていた。

 もちろん、地震計の針は揺れる。

 微震が常に起こっていることを知らせる。

 震度8クラスの地震もありえる。

 しかし、日本沈没という現象は、ありえなかった。

 仮にそういった兆候があれば、見逃すはずが無い、という自負もある。

 多くの学者が、そういった視線で、一人の男を見詰める。

 専門調査会。

 地震調査委員会。

 判定会(略称)。

 地震予知連絡会

 全ての機関が田所博士の日本沈没に異を唱える。

 田所博士も、その道の地震予知のエキスパートであり、

 これが震度8クラスの警告であれば、再度、洗い直すだけの柔和さは持ち合わせている。

 しかし、日本沈没では、それもない。

 彼らは、日本沈没なら、絶対に見逃すはずが無い、と確信している。

  

  

 田所邸 書斎

 全ての研究機関から見放されたとき、

 彼は、異端者で世を惑わす者でしかなかった。

 地震観測データーに羅列された数字。

 彼の世話になった者で同情する者。

 そして、味方が、わずかにいて、彼の欲するデーターを転送する。

 この数字の羅列を日本列島の固有振動数と符合させてしまう理論、その公式。

 田所博士、彼自身でさえ、明確になっていおらず。まだ、勘に近い。

 仮に公式化させ、体系化させたとしても、

 まだ認知されていない公式を信じる者はいない。

 しかし、叫ぶしかなかった。

 日本列島が、沈没すると。

 保身を重んじて、心のうちに忍ばせていれば、安逸に生きられた。

 しかし、日本が沈没するという、

 その恐怖が彼を突き動かす。

 日本は、沈没する。

 誰も信じない。

 最初からわかっていた。

  

 いくつもの数値。

 頭の片隅で、符号が、合致し始めている。

 それが、何を意味しているのか、わからない。

 しかし、恐ろしいことが起きようとしていた。

 いくつかの数字が関連しつつ、一つの時期と位置を示そうとしている。

 当てはめる明白な公式がない。

 漠然と危機感が募っていく。

 いつだ?

 どこだ?

 目を凝らしなが数字を追っていく、

 すぐそばに来ている。

 しかし、公式が見つからない。

  

   

 海洋調査船、

 深海調査潜水艇 “わだつみ6500” がマリン・スノーと一緒に降下していく。

 小野寺と結城は、数少ない田所博士の味方で、隠れて情報を転送したりする。

 組織からするとアウトサイダーとか、アウトロー。

 彼らが組織に残っているのは、純粋に能力によるものだった。

 「・・・本当に日本が沈没するのかな」

 「さぁ〜 俺は、田所博士を信じたいな」

 「おまえが、信じたいのは、田所博士の娘のエリだろう」

 「えっへへ」

 「おまえなぁ〜」

 「おまえは、どうなんだよ。下心あるんじゃないのか?」

 「まぁ・・・・ははは」

 「むふ かわいいからなぁ〜」

 潜水艇の建造費は、125億。

 高いと思うか、安いと思うか。微妙でF15戦闘機より少し高い。

 2人のパイロットを見ると。125億は、なんとなく、高く感じてしまう。

 しかし、性格とパイロットの資質は、反比例しており、

 2人とも、優秀だった。

 「・・・・・君たち、少し黙ってくれないか」 斎藤博士

 「「はい・・・」」

 2人は恐縮する。

 一緒にもぐっている人間は、地震関係者と限らない。

 海洋調査は、資源調査も含まれている。

 採掘も出来ない深海を調べ、どうするのだろうと思うが採算次第。

 超水圧下での物質が有用な成分になる可能性もある。

 たとえ、10億賭け、100億の利益があるなら、

 少しくらいのリスクがあっても、投資もしたくなる。

 一般の賭博は、それ以上に分が悪い。

  

 

 この海溝は、大陸棚の崖っぷち、

 日本列島が載ったメガリスの下に向かって、

 マントルが沈み込み、プレートが引っ張り込まれる。

 可能なら、探査機ごと、マントルに沿って沈み込ませれば、どういった重金属があるのか、わかるというもの。

 滑り込もうとする海溝へ、チタン製の球が落とされる。

 一定以上の圧力と熱で爆発する仕組み。

 その震動を計測して、地核の資質を探る。

 それほど大きな爆発とも言えず。

 一定以上の圧力と熱が計算より深過ぎれば、爆発も計測されない。

 それは、それで、その地核の圧力と熱が小さいとわかる。

 どちらにしても、情報が得られた。

 そして、今回、縦割り行政の日本で珍しく、地震関連から予算が出て情報が共有されていた。

  

 深海潜水艇の浮上は、ゆっくりと減圧しながら、段階的に浮上する。

 急速浮上は、もってのほかで、体が爆発してしまう。

 おかげで、浮上まで、時間がかかったりする。

 「あ・・君たち。先ほど、田所博士のことを話していたが・・・」

 「えっ! ご存知で?」

 「一流の地震学者が学会で謀反を起こしたと。聞いているよ」

 「いえ、田所博士は、立派な方です」

 「・・・そうか、学術の世界も潰しが利かないからな」

 「馴れ合い、事なかれ、処世術が嫌な人間は辛い」

 「ははは、そうですね」

 「・・・よく、空を飛びたいという者がいるがね」

 「わたしは、深海の底を歩いて回りたいよ」

 「同感です」

 「地球の表面を漁って、資源が足りないなどと争ってばかり」

 「海洋には、十分な資源があるというのに・・・・・」

 「今後は、海洋資源が注目されると?」

 「そう思いたいね」

  

  

 東京 原宿 竹下通り

 田所エリと阿部玲子は、いわゆる普通の女子大生。

 「エリ・・・あんたねぇ〜 美人だからって、バカでも、いい訳じゃないのよ」

 「ば、ばかって、玲子も失礼なやつね。そんなに、バカじゃないよ」

 エリは、手提げ袋をいっぱい持って、四苦八苦。

 最初に買い物をしてしまうと歩き回るのは不便。

 それが道理。

 「・・・エリ、ごめん、頭が弱いね」

 「か、かよわい、よ」

 「頭が、か弱い?」

 「おい! 一応、大学生で、あんたと同じレベルでしょ」

 「・・・同じレベルねぇ〜」

 阿部玲子は、しっかり者という点で自立意識が高く。

 田所エリは、依存心が強い。

 美人だと財力のある男に嫁げば済むのだから、楽に生けるのかもしれない。

 阿部玲子は、そうもいかない。

 まぁ 容姿が人並みでバカだと男に飽きられ、捨てられるに決まっている。

 危機意識の差が精進の差となり、姿勢の差。性格の差として広がっていく。

 2人の気が合うのも互いにしっくりくるのも、

 “人” という漢字からすれば、なるほどと言えなくもない。

   

 竹下通りを歩き回って、何を考えているか、というとアバンチュール探し。

 語源がフランス語で、

 一般的な表現にまで広がっているのは、響きの良さと、冒険を期待してのことだ。

 とはいえ、出会いは、まったくない。

 いい男がいても、擦れ違うだけ。

 日本の男は、シャイなのか、失礼なヤツが多い。

 これがイタリアなら、つんけんされても、めげずに声ぐらいかけてくる。

 それが男というものだ。

 それを満員電車の中で痴漢など・・・

 日本の男は、情けない上に陰湿すぎる。

 とはいえ、声かけてくる男に限って、ろくなやつじゃないから、興醒め。

 2人とも、そこまで、飢えていない。

 昔の日本は、良かった。

 家同士の許婚が勝手に決められ、探す手間も、お金も省ける。

 当たり外れは、あっても、お互いに経験不足で擦れていない分、気持ちも楽。

 比較するのは、いい。

 しかし、比較されるのは、いやなもの、

 というわけで、二人の春は来たらず。恋愛遠し。

 田所エリは、安易に買い物に走る

 お金は、どうしているかというとインターネットの某サイトで契約で、

 画像とお話しだけで、お小遣いが入ってくるらしい。

 それでいて、良い出会いがないのは怖がりで、一人で会えないという。

 人気があるのか、

 この女の写真と口車に乗って加入し、

 ポイントを買い潰す男の多いこと、多いこと・・・・・

 少なくともパン屋でアルバイトの阿部玲子より、お金持ちだった。

 

 

 

こんごう

 

きりしま & むらさめ

 

横須賀 配備艦隊
旗艦 DDH143しらね     5200トン
第61護衛隊 DDG174きりしま   7250トン
  DDG171はたかぜ     4600トン
第5護衛隊 DD111おおなみ DD110たかなみ   4650トン
第1護衛隊 DD107いかづち DD102はるさめ DD101むらさめ 4550トン
         
横須賀地方総監部
第21護衛隊 護衛艦「はつゆき」 護衛艦「しらゆき」 護衛艦「さわゆき」 2950トン
第41掃海隊 掃海艇「すがしま」 掃海艇「のとじま」 掃海艇「つのしま」  
  特務艇「はしだて」 輸送艇「2号」 多用途支援艦「すおう」 砕氷艦「しらせ」
         
         
         

 波止場で

 「・・・もうオンボロ艦隊ばかりだ」 梅津誠吾 防衛庁長官

 「東シナ海や日本海に新型艦を持っていくからですよ」

 「まぁ。大人の事情って、やつだな」

 「・・・艦には、馴染み過ぎてしまいましたがね」

  

おおよど

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です。

 20万HIT記念です。

 またもや名作に手を出してしまいました。

 日本沈没。の二次小説です。

 つい、出来心という感じです。

  

 田所博士。

 まったく同じ情報を与えられているのに。

 彼が見ている世界は、他の地震学者と、少し違うようです。

 地球温暖化ではないです。

 むろん、地震雲や動物。“バクテリア” でもないです。

 そして、超常能力でもないです。

 地震学者と同じデーターを見て、微妙な違いを感じ取ったというわけです。

 『共振』 です。

 日本列島の固有振動数。

 大地にそんなものがあるか?

 日本列島の固有振動数がわかるって、何で?

 そんなものを感じられる人間は、超常能力ではないか?

 とかいう突っ込みは、フィクションですから、抜きにしていただいて。

 固有振動数の特徴は小さい力でも反作用が小さく、

 ダイレクトに震動が伝わってしまいます。

 小さな揺れでも現象としては、大きくなります。

 では、大きな揺れで日本列島の固有振動数で大地震がおこると、

 日本列島は、マントル側へと一気に・・・・・

 という感じです。

 あとは、原作と同じように沈んで、というか。崩れていきます。

 

誤字脱字・感想があれば掲示板へ

龍の魂魄

第01話 04月 『はあ〜』
第02話 05月 『ひぃ!』

登場人物