月夜裏 野々香 小説の部屋

   

20XX年 日本沈没 『龍の魂魄』

        

霊峰富士。3776m

第02話 05月 『ひぃ!』

 前触れはなかった。

 地震。

 そして、数刻後、噴火が始まる。

 五合目。

 いわゆる富士山の上半分を吹き飛ばし、火砕流が火口から流れ出した。

 麓を襲う火砕流は、あっという間に周辺住民や家屋を巻き込んでいく。

 逃げ出す周辺の住民。

 火砕流の流れる先にいる者は、不運。

 その時、風下にいた者は、更に不運。

 噴火で押し上げられた火山弾は、風下だけでなく。

 物理学的な法則に従って高く、広範囲に偏西風に乗り、

 放物線を描きながら東へ向かう。

  

  

 東京 原宿

 竹下通りは、若者が集まって、いつもの賑わいを見せていた。

 若者の多くは、現実と夢・希望の狭間を行き来する。

 現実が強くなれば夢も、希望も色褪せていく。

 人が集まると、何かが、あるような気もする。

 何かが起こるような気もする。

 人波と情報の渦が真偽に関わらず、満ち溢れていた。

 「いまの若い者は・・・」 と年寄りが言う。

 しかし、それは、いつの時代でも言われていた言葉であり、

 彼ら自身も言われていた。

 年寄りが正しいのか、というと、

 そういうわけでもない。

 少なくとも若者より失敗しており、

 苦労した分だけ、経験が豊富といえる。

 しかし、時代の流れについて行けず、

 未経験なことに臆病になっている。

 活気溢れる町で若者たちは、少しばかりの刺激を求め、

 未知の可能性に期待を膨らませ、歩いていた。

  

 田所エリと阿部玲子

 似たような会話と、いつもの休日。

 そして、少しばかり憂鬱。

 目の前には、待ち合わせの男が2人が座っていた。

 エリも、玲子も、面食いで嬉しくも無く。悲しくも無く。普通。

 父親の子弟から物を預かることに・・・

 しかし、若い男女のだから、それだけでは芸が無い。

 面食いで気乗りしないものの、妥協というか、

 許容範囲内で、4人で、遊ぶことになっていた。

 喫茶店のテーブルにコーヒー二つ、パフェ二つが運ばれてくる。

 昨今の男共は、ダイエットで苦しんでいる女性を前にして、いい根性だ。

 小野寺俊夫(痩せ)と結城達也(デコ広)は、ウキウキ気分。

 脳内予定では、あんなことや、こんなことまで入っていた。

 男たちの目線だと、どっちも美人の田所エリが狙いだと、わかる。

 面食いの玲子は、憮然としながらも、清々してるのか、ホッとする。

 趣味じゃないとばかり、田所エリに同情・・・

 エリも苦笑し、玲子に助けを求めようとするが気付かない振り。

 「・・・あ、あのう、小野寺さん。ブツは・・・・・・」 エリ

 「まだ、時間が、あるから。帰りに渡すよ。荷物になるだろう」

 と、思った通りの返事。

 『まぁ〜 いいか・・・』

 なのだが、まだ10代。慌てて一線を越える気もない。

 というか、どっちも、趣味じゃない。

 「エリちゃんも、お父さんのお使いなんて偉いね」

 「・・・別に日本沈没なんて、おかしなこと言って、信じらんない」

 「えっ! 日本沈没〜」 阿部玲子

 「ほらね。こんなものよ」

 「あんたたちも、目を覚まして、お父さんから離れた方が、いいよ」

 「世間に見捨てられて、世捨て人にされる前にね」

 「あ、はは、いや、お世話になったから」 小野寺

 「そう、そう。随分、良くしてもらったから・・・・」

 いくら好きな女性が父親の悪口を言っても、

 一緒に父親の悪口を言うわけにいかない。

 家族が言うのと。他人が言うのでは、まったく違う。

 「もう、絶対に信じないから」

 「「・・・・・」」

 「あっ! そうだ。どこいきたい?」

 『『・・・・・・』』

 エリも、玲子も、金を使わせてやれ・・・と思ったりもする。

 しかし、代償に体を求められても困るので常識的な線で抑える。

 「・・・遊園地かな・・・」

 そして、クライシスが始まる。

 成層圏から落ちてくる火山弾が原宿、竹下通りを襲う。

 これが爆撃ならジェット機の音で異変に気付く。

 逃げる時間も、あるかもしれない。

 しかし、成層圏から落下してくる火山弾は音速を超え、

 先に衝撃と破壊が起こり、

 街が一瞬で破壊されていく。

 音は、後から・・・

 気付くと、次々と辺りの街が崩され、

 周りは、廃墟と化し、瓦礫にされていく。

 火山弾の地響きが辺りを響かせていく。

 そして、地震。

   

 小野寺俊夫は、阿部玲子と一緒に逃げ惑っていた。

 辺りは、東京とは、思えぬほど破壊され、

 瓦礫とガラス片が火山灰と一緒になって、積もっていた。

 そして、あちらこちに死体が重なり、

 鉄を含んだ血の臭いと死臭が漂い、モノというより。汚物。

 生きるも、死ぬも、運次第。

 辺りを見ると、生きている人間より、死んでいる人間の方が多く。

 普通に立っている人間より。

 怪我をして、座り込むか、臥せっている人間の方が多い。

 助けてと、悲痛な叫び声が周囲で聞こえる。

 余裕のある男は、適当な女の子を助けて逃げ。

 余裕の無い男は、一緒にいた女性を置いて逃げ出す。

 逆に男の方が腰を抜かして動けず、女の子に捨てられたり。

 しかし、どんなに余裕があっても助けられる人間は、一人。

 複数をつれているのは、家族だろうが数えるほどしかいない。

 降り注ぐ火山弾に当たるか、運しだい。

 まだ、無事に立っている小野寺と安部は、運がいい方だ。

 とはいえ、次の瞬間、死ぬかもしれない。

 「お、小野寺さん・・・エリは?」

 「・・・わ、わからないよ」

 怪我をしている者を助ける、といった当たり前のことも出来ないほど、神経が麻痺。

 というか、玲子がいるから、彼女でも良いか、という感じだろうか。

 本当は、エリの方が良かった。

 しかし、たまたま、そばにいて助けたのが彼女だった。

 「・・どうしたらいい?」

 しっかりしていても、女の子だ。

 こういった。状況で生き残るには男にすがるしかない。

 「・・・火山弾は、火山の噴火だろう」

 「偏西風に乗ってきたとしたら関東より、西側の山だろう・・・」

 西を見ると曇って、灰色がかり、なにやら黒ずんでいる。

 東を見ると、まだ視界が開けている。

 実にわかりやすい。状況。

 町並みに視界が遮られていなければ・・・・

 街の喧騒が無ければ・・・・

 富士山の異変に気付いていたかもしれない。

 「・・・どうやら、エリちゃんのお父さんは、正しかったようだな」

 「に、日本沈没?」

 「ああ・・・」

 「で、でも、そんな、話し、聞いたことないよ」

 「10分前に聞いただろう」

 「・・・・」

 「聞いても、聞いてなくても、信じないだろうな」

 「でも」

 「エリちゃんから聞いたとき。面白がっていただろう」

 「だ、だって!」

 近くに落ちた火山弾の爆風が応えた。

 「・・・方向からすると。富士山が噴火したな」

 「そ、そんな・・・・」

 日本沈没。

 状況から、否定する根拠を探す方が難しかった。

 降り注ぐ火山弾の雨が音速よりも速く落ちてくれば避ける事もできない。

 道路は、地下街が露になるほど、破壊されている。

 崩れた瓦礫の下から、悲鳴なのか、叫び声が聞こえる。

 次の瞬間に生きている方が不思議。

 ビルの東側の陰に隠れるものの、

 火山弾は、ほぼ、垂直に落ちている。

 ビルが破壊され、瓦礫やガラスが割れて、降ってくる。

 対地震用のガラスでも、火山弾の直撃を受ければ破壊される。

 「北側に逃げるべきだろうが・・・・」

 「北?」

 「ビルを盾にして、北側に移動しよう」

 「海底火山だと、津波が怖いし。高台の方がいいかも」

 「・・・うん」

 東京に降り注いだ火山弾が火災を起こしていく。

  

 

 東京湾

横須賀 配備艦隊
旗艦 DDH143しらね     5200トン
第61護衛隊 DDG174きりしま     7250トン
  DDG171はたかぜ     4600トン
第5護衛隊 DD111おおなみ DD110たかなみ   4650トン
第1護衛隊 DD107いかづち DD102はるさめ DD101むらさめ 4550トン
         
横須賀地方総監部
第21護衛隊 護衛艦「はつゆき」 護衛艦「しらゆき」 護衛艦「さわゆき」 2950トン
第41掃海隊 掃海艇「すがしま」 掃海艇「のとじま」 掃海艇「つのしま」  
  特務艇「はしだて」 輸送艇「2号」 多用途支援艦「すおう」 砕氷艦「しらせ」
         
         
         

 

きりしま & むらさめ

 護衛艦“きりしま” 艦橋

 CICのスクリーンレーダーに火山弾の弾道が見事に映されている。

 「・・・回避運動、急げ、弾道を外すんだ」

 「大きいやつは、皇居、官邸、議事堂に落ちる前に撃ち落せ!」

 東京湾にいる護衛艦群は、火山弾の弾道を観測。

 味方の艦艇と他の商船を避けながら、舵を切り、

 落ちてくる火山弾を避けていく。

 そして、重要施設に落下する火山弾を撃墜していく。

 艦体に向かってくる火山弾も127mm速射砲とCIWS20mmファランクスによって迎撃。

 54口径127mmの射程は、約24km。

 射程内であれば重要施設に向かう、火山弾を撃墜するのは難しくなかった。

 次々と砲撃によって、火山弾が撃ち抜かれ、

 空中で爆発、粉砕され、バラバラ落ちていく。

 「・・・艦長。弾薬が、持ちません」

 「わかっている。首相の脱出は?」

 「官邸から、こちらに向かっています」

  

 

 

  

 そして、横須賀は、もう一つの艦隊が、存在する。

 在日アメリカ海軍。第7艦隊の一部。

 アメリカ第7艦隊

 

アメリカ第7艦隊    横須賀配備艦隊

航空母艦 ジョージ・ワシントン (CVN73)
揚陸指揮艦 ブルー・リッジ (LCC19)
タイコンデロガ型巡洋艦 カウペンス (CG63) シャイロー (CG67)
アーレイバーク型駆逐艦 カーティス・ウィルバー(DDG54) ジョン・S・マッケーン(DDG56) フィッツジェラルド (DDG62)
ラッセン (DDG82) マスティン (DDG89) ステザム (DDG63)
ミサイルフリゲート ゲアリー (FFG51)

 大きな戦力で戦闘能力なら、こちらが上。

 日本の護衛艦と、ほぼ同じ頃合いに砲撃を開始。

 関東の重要施設に落下してくる火山弾を次々に撃墜していく。

 弾薬に余裕があるのか、護衛艦隊より弾幕が派手で威勢がいい。

 そして、前もって、マニュアルにあるのか、優先順位も決まっているのか、

 重要施設に落下してくる火山弾を的確に迎撃してしまう。

  

  

 “きりしま”

 「艦長! 大型の火山弾の集まりがヘリに向かっています」

 レーダーに数百の火山弾の軌道が、ヘリの軌道と交差していた。

 「回避させろ」

 「了解! しかし、間に合うかどうか」

 「撃墜しろ! 艦砲射撃。SM2MR発射!!」

   

 護衛艦の通報を受けたヘリは、急速にその空域から離脱していく。

 ヘリに向かってくる火山弾の集団。

 その火山弾の先頭に砲弾と空対空ミサイルが吸い込まれ、

 連続して爆発が起こる。

 火山弾の破片がバラバラとヘリに当たる。

 「・・・山下首相、下がってください。危険です」

 ヘリの隊員が外を見つめる首相に伝える。

 「陛下は? 陛下は、無事か?」

 山下首相は、窓からもう一機のヘリを、

 そして、外を覗き込む。

 東京は、火山弾で破壊されていた。

 大きい火山弾を迎撃できても、

 それは、重要施設にとどまっていた。

 小さな火山弾に至っては、防ぎようもない。

 「・・・あそこです。火山弾の軌道から、外れています」

 隊員が雲間に飛んでいるヘリを指差す。

 「・・・そうか・・・良かった」

 山下首相と、官邸の要員は安堵する。

 そして、皇族は、無事に “きりしま” に着艦。

 なぜ、護衛艦に・・・

 という気がしないまでもない。

 しかし、緊急時、

 コンパクトで機能的で通信・伝達速度が速い軍艦は機動力があった。

   

 そして、第7艦隊に守られた護衛艦隊が悠々と東京湾を離脱していく。

 これは、戦況によってマニュアル化されていることで、

 相手が火山弾でも、核ミサイルでも、同じ。

 戦況が変われば護衛艦隊が第7艦隊を守るパターンもあった。

 今回は、たまたま、皇族と総理を守っている護衛艦隊が守られる側だっただけ。

   

  

 暗闇の中

 瓦礫を押し退け、結城達也(デコ広)と田所エリが外に出る。

 送電されているのが、なんとなく、不思議で、

 あちらこちらで点灯。

 それでも、昨日の原宿の夜より、はるかに暗い。

 血の臭いが漂い、

 瓦礫と降り積もる火山灰の影に死体が見える。

 どうやら、火山弾は、収まり、沈静化している。

 それでも、時折、近くに火山弾が落ちて、ビルや車を破壊する。

 喫茶店は、真ん中に火山弾が落ちたのか、

 天井と床を二つほどぶち抜き、屋根に大穴が開いて崩れ落ちていた。

 生きているのが不思議。

 死体が目に入る。

 しかし、それ程気に留めず、視線が移動していく。

 探しているのは、小野寺俊夫と阿部玲子の服の色。

 嘔吐する物音。

 後ろにいる田所エリで、

 見ると、一緒に吐きたくなるのか、周りを見渡す。

 「・・・あいつ、いないな」

 「置いて、逃げやがって、冷たいやつだな」

 とはいえ、憎むつもりはない。

 これだけやられたら、手近にいる人間と逃げるだろう。

 どっちが先に逃げたか。

 分かれたか。

 瞬間的な状況判断で男2人が同一行動とれるか、

 立っている場所と運次第。

 そして、落ちてくる火山弾の間断の差で状況判断も変わってくる。

 結城達也が斜め下を見ると、

 女の子(10歳くらい)が呆然と立って、背広のすそを掴んでいる。

 灰被りの幼いシンデレラといった感じだ。

 年齢的には小さいがシンデレラの語源が、そうだという。

 少し足手まといな気もする。

 少女が一緒に行動しても運が悪くなければ、大丈夫だろうか。

 「・・・まっ いいか」

 少なくとも、ゲー ゲー やっている田所エリより、

 しっかりしているかもしれない。

 「お嬢ちゃんの名前は?」

 「倉木美咲」

   

  

 富士山は、偏西風と逆方向の名古屋に火山弾が届くほど、大噴火を起こしていた。

 地震と火事。

 日本政府と国民は慌てふためき、

 危機管理の無さが槍玉に挙げられる。

 しかし、東京も火山弾に襲われ、火山灰で覆われ、救出どころではない。

 政府も、緊急避難警報を出し、国民を誘導。

 自治体も必死に避難場所を選定するものの、

 あまりの規模の大きさと、酷さに手の打ちようが無い。

 無作為に落ちてくる火山弾は、人の運不運に左右される。

 地震学者が集められ、対策を練るものの、埒が明かない。

 比較的地震が少ないといわれる、福岡に対策本部が創設される。

 そして、閣僚たちの前に煤煙を被った田所博士が呼ばれる。

 簡単で、そっけない労いと握手。

 「「・・・・」」

 余計なことに気を使う気力もない。

 「田所博士。日本沈没、予見していたそうだが・・・」 山本総理

 「・・・マントルの対流の震動が日本列島の固有振動数に近付いたようです」

 「・・・詳しい情報が欲しい」

 「地震予測本部で君の席を用意している」

 「地震対策本部と連絡を密にとって、対応して欲しい」

 「はい」

 「田所博士」

 「はい」

 「日本列島は、本当に沈没するのかね」

 「・・・正確には、崩れると捉える方が良いかと・・・」

 「全て沈むのかね」

 「9割以上は・・・」

 「残る大地を調べて欲しい。なるべく正確に」

 「わかりました。総理」

  

  

 富士山の噴火。

 爆発は、全世界に流れた。

 被害は、1000万から2000万人と推測され、

 被害総額は、まだ選定されていない。

 福岡に移動した山本総理は、可能な限り、復興を計画する。

 しかし、結論が日本沈没なら復興も、再建も、無意味。

 富士の噴火は、数週間後、沈静化したものの、

 日本全国で、地震が小刻みな地震が起こっていた。

  

  

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です。

 いきなり始めてしまいました。

 メインディシュですが、

 インディージョンズ方式で富士山です。

 日本人の心の拠り所の一つです。

 少しは、目が覚めるでしょう。

 日本沈没。調べてみると。

 どうやって沈没させようかと思っても通常は揺れることがあっても、

 マントルの方が重いので沈まない。

 というのが、普通。

 そうなると、話が進まない。やれやれです。

  

誤字脱字・感想があれば掲示板へ 

第01話 04月 『はあ〜』

第02話 05月 『ひぃ!』

第03話 06月 『ふっ』

登場人物