月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想歴史 『風が吹けば・・・』

 

 

第33話 1940年 『誰か、あいつをとめろ』

 日本

 鉄道が伸ばされ、発電ダムが建設され、

 完成したばかりの橋を土煙を上げてトラックが通過していく、

 鋼材が使われていない産業はなく、

 海運と土木開発で外貨を稼ぐことで資源を購入し、

 工業化を推し進めメイドインジャパンを輸出すると事で利潤を上げ、

 一部を設備投資に回しつつ産業を肥大化させていく、

 日本の資源は労働力だけであり、

 国外から資源を購入し、加工しない限り日本の発展はなかった。

 海上輸送に有利な大港湾を持つ大阪圏、名古屋圏、東京圏は産業を拡大させ、

 高天原(入笠山)遷都は、日本海の若狭湾から新潟へも近代化の波を広げさせた。

 新潟圏は、寒冷地用水稲農林1号(1931年〜)の開発により人口が増し、

 工場建設も進んでいた。

 

 首都 高天原(入笠山)台地、

 標高1995mほどあった入笠山は削られて1000m級の台地に変貌し、

 皇居を中心に和洋折衷の行政機関官庁が囲む、

 一部、自然破壊を嘆く声はあったものの、

 首都機能全体が澄み切った空と雲海に覆われ、

 風光明美な深緑の山岳に囲まれていた。

 帝国議会

 「ロシア帝国、東ゲルマニア、清国の成長は目覚ましく、日本帝国は危機的な状況にある」

 「ロシア帝国海軍は縮小しつつあるものの精鋭化しており」

 「むしろ、戦力は増強されている」

 「東ゲルマニア海軍は、飛行船と潜水艦を中心とした艦隊を編成しており」

 「日本の通商は風前の灯である」

 「清国海軍は、フランスとイタリアから新型艦艇を購入しており」

 「日本海軍の中古艦隊では太刀打ち不能である」

 「国民から取り上げた血税で港湾、鉄道、ダムを作っても国家防衛はできないのであり」

 「全日本人共通利益を保障する国防こそが急務であり」

 「ここに至って、国土開発などという予算投資は、族議員の際限のないポストの拡大と」

 「庶民の労働と財を奪い、特定産業のみを潤わせる亡国政策であり非国民的な思想である」

 嘘を付け!

 やかましい! 愛国言動を妨げるな! 非国民!

 「いまこそ、軍事的独立を図り、日本帝国を世界有数の列強とすべきである!」

 軍事じゃ食っていけねぇぞぉ!

 そうだそうだ

 日本を面子だけの脳無し腕力馬鹿国家にする気か!

 「そ、そんなことはない、軍需産業を中心とした重工業でも十分に食っていける」

 予算泥棒

 他国を使って恐喝すんな!

 「な、なにを言う、大陸と半島に日本侵攻を狙う大軍が集結したらどうする」

 大軍って、日本に何人上陸するんだ!

 「ど、ドイツ、ロシア、清国連合なら300万くらいだろう・・・」

 お前らに任せると、本当にそうなりそうだな

 「な、なんだと」

 兵站って知ってんのか?

 「兵站ぐらい知ってるぞ、舐めるな」

 図上演習したことあんのかよ?

 「あ、あるとも、俺を誰だと思ってる」

 お前、ロシア軍をやれよ。

 俺たちが日本軍で上陸地点から水と食料を引き抜いて殲滅してやるよ!

 「・・・・・」

 それとも金くんなきゃ軍はボイコットするってか?

 どっちが非国民だ。この軍族議員が

 「侮辱するな!」

 そっちが先に非国民扱いしたくせに偉そうに言うな

 

 

 

 封建社会は出生で将来が決定づけられる、

 親の身贔屓であり、子供の特権であり、

 血統を残し繁栄させようとする最も動物的な本能といえた。

 そして、人が人らしくあるための条件の一つが非動物的なことだった。

 生産力が大きくなるにつれ人口が増え、民衆は相対的に強くなった。

 また、人は、人権を最大限に認めうる制度下で最大限の能力を発揮するため

 封建社会は、近代化にそぐわないものとなり、

 フランス革命、名誉革命といった王権を奪う現象が起こり、

 アメリカ独立戦争といった王権からの離脱が起こった。

 民主化を無秩序な混沌に思われても近代化と切っても切り離せず、

 権力世襲は、人々の反感を買い、流動的なものとなり、

 流動的だった資本が固定されていくシステムが作られていく、

 封建国家の牙城だった清国、ロシア帝国、オーストリア・ハンガリー帝国、ドイツ帝国、

 トルコ帝国は、皇帝と貴族が失墜し、

 選挙によって選ばれた議員たちが民衆を代表し、

 国民国家の利益を代弁するようになっていく、

 

 

 スペイン内戦(1936/07/17〜)

 列強は、スペイン共和国政府が保有する700t以上の“金”と

 スペイン権力層の資産と、

 戦訓欲しさだけのために武器弾薬を供給し続けた。

 一見、資金的に優勢に見える共和国軍の内情は、

 自由主義者、共産主義者、民主主義者と

 バスクとカタルーニャの自治権を求める勢力の呉越同舟であり、

 既得権益層の反乱軍もキリスト教、領主地主の烏合の衆だった。

 共和国政府は政府資金を武器弾薬の購入のために拠出し、

 反乱軍側も地主・教会な既得権を死守するため財を拠出した結果、

 共和国軍と反乱軍の双方に武器弾薬が流れ込み、

 スペイン内戦は泥沼の戦いとなっていく、

 戦いは一進一退を繰り返し、

 フランコ将軍が全権を持つようになってようやく反撃が可能となり、

 反乱軍はマドリッドを占領し、共和国軍は四分五裂となっていく、

 バスクとカタルーニャは、共和国軍勢力として軍事力を保持していたものの

 次第に劣勢となっていった。

 スペイン某所 利害関係者たち

 「共産主義国家の誕生を許すべきではない」

 「人民戦線は、寄せ集めで共産勢力は一部に過ぎない」

 「また、国家は労働組合ではないし、農業組合でもない」

 「労働者と農民だけで国家を作れるものか」

 「共産主義国家などというモノが誕生するとは思えない」

 「権力者と富裕層にとって共産主義は危険だ」

 「ふっ 国民にとってもな」

 「しかし、共産主義が危険でも国民の意見に違いなかろう、総意を持って国家を成すべきだ」

 「総意が間違っているから反乱を起こしたのだろう」

 「スペイン人が正しい結論を出すこと自体あり得ないのだから」

 「間違った結論を含めて国民で総意を決めるべきだ」 にやにや

 「「「「・・・・」」」」

 

 

 エチオピアは、スペイン内戦と並んで注目されていた。

 エチオピア内戦は、エチオピアとイタリアの二国間だけの問題にとどまらない、

 エチオピアの独立回復は、欧州列強のアフリカ大陸支配に一石を投じる。

 しかし、エチオピアは広瀬連隊の活躍により、

 イタリアの完全支配と植民地化が困難となり、

 イタリアは、皇帝を傀儡に据えることでエチオピア人を味方につけ、

 利権を得る手法に切り替えさせられ、

 広瀬連隊は、反乱軍にさせられていた。

 エチオピア独立回復戦争は、名目上、皇帝派と反乱軍の内戦という形に移行し、

 列強の関心は薄れ、純粋に戦訓を得る場所と考えられ始めていた。

 

 

 

 全長300m級葉巻型ツェッペリン飛行船が170km/hで飛行していた。

 最先端の工学技術の結晶であれ、古めかしい技術であれ、

 自然を利用する方が有利であることに変わりないく偏西風に乗っている、

 コンパートメント客室は、中央の回路を挟んだ両舷にあり、

 船首から船尾に至る細長い橋脚を兼用していた。

 中央の共有ラウンジは窓ガラスが広く、楕円形に幅が広がっていた。

 ところどころ、ガラスの羽目板があって、子供客が覗き込む、

 ゲルマン美女のウェイトレスが食後のバームクーヘンと紅茶を配膳していく、

 船尾側から船首側に向かって小さなゴンドラが勢いよく滑空し、

 悲鳴とも歓声とも付かない叫びが空に広がる。

 空中ブランコは、予約表に名前が連なり、

 夜となく昼となく使われ、乗客たちに話題を提供していた。

 飛行船はエンターテインメント性が高く、

 航空機の利便性と速度の劣勢を覆し、富裕層に好まれていた。

 乗客160人は、人が欲するところの地位、名誉、財産を持つ者たちであり、

 思い思いに空の旅を満喫していた。

 イギリス人たち

 「空を制する者は、海と陸を制するか・・・」

 「イギリスの制海権はアメリカがドイツにヘリウムを輸出してから苦戦続きだな」

 「日英同盟を破棄しなかったからアメリカが剝れたんだろう」

 「日英同盟はインド支配で重要だよ」

 「カナダと豪州は日英同盟の存続に反発している」

 「イギリスが搾取できるのはインドだからね」

 「カナダと豪州は口先だけの不良な親戚に過ぎないし」

 「カナダも豪州も質的な問題でインド支配で使いにくい」

 「それに日英同盟破棄は日独同盟に繋がって、イギリス連邦全体が危機に晒される」

 「独日同盟の他に独清同盟の可能性もあるがね」

 「清国と陸続きだからな。独清同盟の可能性は低いよ」

 「一番怖いのは、東西ドイツを挟んで独露清の三国同盟だがね」

 「相互不信が強過ぎてなさそうだが」

 「国際情勢の流れ次第だろう。そっちへ持っていく危険は冒せない」

 「それに日本の中古艦艇買取は、イギリスの艦隊建造能力を引き上げている」

 「日英同盟は、イギリス植民地防衛だけでなく、海軍の成り立ちさえ変えてしまっている」

 「日英同盟は外せないよ」

 「日本の要望を取り入れて建造してもかね」

 「戦艦は数だよ。少なくとも質と量で列強に対し優位を保てる」

 「それに高速戦艦は、割高だが評判いい」

 「たまに有益なアイデアも出すしね」

 「最後の艦隊戦が日本海海戦では、戦訓不足だよ」

 「それは想像力で補えるさ」

 「大口径砲口兵器と航空戦力が大きくなって交戦距離が広がっている」

 「当然、砲弾と爆弾は、上から落ちてくる公算が高くなる」

 「上甲板装甲が強くなるのも仕方がないだろう」

 「艦底もかね」

 「魚雷の被害を減らせれば沈むにしても将兵の生き残る確率も高くなる」

 「近代化に伴って練度の高い将兵は価値を増している」

 「帆船時代とは求められる将兵の質が違うし、無駄に将兵を失いたくないからね」

 「もう少し航空戦力を拡充させてはどうかね」

 「対飛行船なら大型爆撃機でも十分勝てる」

 「会敵できさえすればな」

 「ドイツの飛行船は、戦争が始まれば洋上に出るよ」

 「そして、索敵でUボート艦隊にこちらの位置を知らせる」

 「しかし、ドイツが海軍の主力をUボートに持っていったのは意外だな」

 「地政学的には、そうでもなさそうだがね」

 「どちらにしろ海外州に大型潜水艦300隻配備されていてはな」

 「海外州の社会基盤が強くなるほど、ドイツ海軍の勢力は、増してしまうわけか」

 「そうなるね」

 

 

 日本人たち

 「船というより寝台列車に近い構造だな」

 「寝台列車より幅広いよ」

 「客室全体が細長くなったのは、風景を楽しませるためだろうね」

 「海面と雲が見えるだけだけど?」

 「いまは、だろう」

 「その気になれば山岳地でもジャングルの上でも飛べる」

 「希望者は空中ブランコも楽しめるしね」

 「ふっ 風速40m/秒でか。お金持ち趣味だな」

 「中央ラウンジでは手品をやってるし、展望室では風にも当たれる」

 「客船と住み分けができるのなら構わないがね」

 「お金持ちは、飛行船に取られるだろうね」

 「飛行機にもだ」

 「どちらにせよお金持ちを相手にした方が利潤がいい」

 「例えくだらないことでも彼らの利潤の一部で、一般客の待遇も良くできる」

 「そして、その待遇差が競争力となり集客に繋がる」

 「つまり飛行船と飛行機に上客を奪われると造船も響くことになってる」

 「じゃ アメリカが飛行機。ドイツが飛行船に力を入れているとなると・・・」

 「日本の造船は頭打ちにされてしまうな」

 「では貨物船が造船の主力になるわけか」

 「中島もイギリスと共同で6発旅客機を開発したがってるらしい」

 「マーリン6発なら高性能旅客機になりそうだな」

 「ドイツのダイムラーベンツエンジンも強力だと思うが」

 「日本の国産エンジンは?」

 「イギリスのライセンスばかりだろう」

 「いや、経済効率優先のエンジンを民生用で開発しているらしいけど」

 「民生用か・・・」

 「高性能じゃなくても経済効率は競争力に繋がるよ」

 「どちらにせよ、上客を飛行船に取られたら苦しくなるね」

 

 

 船橋は葉巻型の船首に近い場所にあって、客室より一段高い位置にあった。

 ドイツ人たち

 「3時間後、日本商船が右舷側に見えるそうです」

 「船か・・・造船は日本の一人勝ちのようだな」

 「産業全体で賃金格差を利用されては勝てませんね」

 「日本は、共産主義が浸透していないのかな」

 「社会主義運動は、強まりつつあるようです」

 「しかし、日本最大の反政府運動が1884年の秩父事件ではな・・・」

 「島国の利点だよ。国民が国外と繋がりが少ないから内政で無理がきく」

 「日本は日露戦争後、軍需から一転して民需への移行に成功したのでは?」

 「その原因にヴィルヘルム2世皇帝の気紛れが、あると思うと複雑な気がするね」

 「戦艦建造から手を引いて、海外州投資ですからね。大変危険な賭けですよ」

 「海軍主力が未知数の潜水艦に変えられたからな」

 「そういえば、日英同盟海軍とアメリカ海軍が力を入れてる空母戦力も未知数なのでは?」

 「戦艦にとっては知らんが、飛行船にとって空母は脅威だよ」

 「飛行船は、平和な間、金の生る木なんですけどね」

 「80隻以上が世界の空を支配している」

 「しかし、経済的な利点だけではテコ入れとし弱くなるな」

 「海外州の近代化が進めば飛行船は強い立場を維持できるのでは?」

 「ドイツ本国はフランスとロシアに挟撃されているからな」

 「いま以上の海外州投資を望んでいない」

 「そういえば、キリマンジャロの近くに宇宙ロケット基地を建設中とか」

 「宇宙開発でも抜け駆けしたいのだろう」

 「採算性を度外視しても優位性を保とうとするのはドイツ人の気質ですかね」

 「わかっていても、やめられないな」

 

 

 アメリカ人たち

 「金の生る木は、やはり、日本だな」

 「まず、労働運動の足枷が小さく、リスクが小さいのに配当が大きい」

 「政府は、おもしろくなさそうだが」

 「政府? というのは、我々のことだろう」

 「正確に言うなら最大公約数的に我々の意思が一番反映されている」

 「しかし、我々ではない」

 「邪魔な勢力は不換金不況で消したはずだがね」

 「だが国益を考えるとだ」

 「ドイツ帝国は海外州の社会基盤が整えば成長を開始するし」

 「日英同盟はインド開発と統治に成功すれば列強であり続けられる」

 「ロシア帝国は近代化に弾みがつけばアメリカ合衆国より有利だと思うね」

 「ロシアは、まだ封建体質じゃないのかね」

 「貴族特権は税制という形で残されているよ」

 「しかし、貴族の数が少なく、負担は小さい」

 「ロシア人の気質は?」

 「基本的に田舎だよ」

 「だが近代化に足る原動力は都市にあるし、都市機能は拡大中だ」

 「この状態で勢力均衡が続くと有事の際、アメリカは勝てないのではないか」

 「いくら体力があっても・・・人種はバラバラだしね」

 「大洋を越えてアメリカ合衆国に侵略軍を送ってくる国はないと思うよ」

 「しかし、いくらモンロー主義といってもだ」

 「新大陸に引込んでいるわけにもいかないだろう」

 「アジアの市場は大きいからね」

 「日用品1個をアジアの人口で掛けたら、いくらの利潤がポケットに入ってくるかな」

 「ぞれが継続なら笑いが止まらないがね」

 「どうせ消耗してくれるなら、武器弾薬にして欲しいね」

 「大アジア戦争なんか面白そうだけどな」

 「「「「「ふっ・・・」」」」」

 

 

 フランス人たち

 「列強の中で、我がフランスが一番不利な状況にあるようだ」

 「我がフランスは、イギリスとドイツに挟撃され、陸海空とも劣勢だからな」

 「まずフランス人の独り善がりな自惚れをなんとかしないとな」

 「フランス人が一番ひどいわけじゃないだろう」

 「一番ひどくはないが酷い方だろうが」

 「それは生き方の問題だから、それ抜きで考えるべきだろう」

 「フランスの国益を単純に考えるなら、アメリカとロシアとの関係を強めるべきだろうな」

 「アメリカ人は嫌いだ」

 「俺もロシア人は嫌いだな」

 「好き嫌い言ってる場合ではないだろう」

 「上手くやっていけないのに一緒に手を組めるわけがないだろう」

 「清国は?」

 「インドシナを取られそうで嫌だ」

 「だから組むんだろう」

 「清国は、インドシナより、東ゲルマニアの方を脅威に感じてるはずだ」

 「そう都合よくいくかな、清国軍が東ゲルマニアを落とせるとは思えないが」

 「だから清国は、フランスと組むチャンスだろう」

 「30000t級ダンケルク型戦艦に引き続き」

 「43000t級リシュリュー級戦艦の売却も内定済だ」

 「日本と違って新造戦艦の売却だし、仏清取引は有利なはずだ」

 「しかし、清国に新造戦艦を売却しても大丈夫なのか?」

 「修理補修は日本がやってるくらいだし」

 「売ってやったからって、座礁の心配までしないといけないのか?」

 「「「「はははは・・・・」」」」

 

 

 ロシア人たち

 「シベリア鉄道の複々線化で利益は上がってるんだけどさ」

 「やっぱり海がないとな」

 「そうそう、不凍港。どこかにないかな」

 「西はドイツ、フランス、イギリスだろう」

 「東は清国、東ゲルマニア、アメリカ権益、日本か・・・」

 「清国はともかく、他との戦争は疲れるよ」

 「西と東はパスしたいね」

 「じゃ 南か?」

 「南が一番抵抗が小さいはずなんだけどな」

 「独伊同盟と日英同盟が頑張ってるだろう」

 「直接対決じゃなく、クルド人を煽って何とかならないかな」

 「いや・・・下手に介入す売ると日英同盟と独伊同盟の両方と戦争になるからな」

 「それどころか、満洲でアメリカとも構えている」

 「いくらロシア陸軍が世界最大でも世界中を相手に戦争するわけにはいかないよ」

 「日本人は、神経質で小心で近視眼だから暴走してくんないかな」

 「ふっ いくら猿並みでも、そこまで馬鹿とは思えんが」

 「利口な奴は、利口だけどな」

 「集団になると保守的で体制に付くから、夜郎自大になって突撃かましてくるかもね」

 「小国でもか」

 「小国だって喰ってかかって来ただろう」

 「そういえばそうだったな」

 「一度、噛み付くと自己正当化と復讐される恐怖のため、また噛み付いてくるもんだ」

 「「「ふっ・・・」」」

 

 

 

 世界中から人々が東京に集まり、

 人々は前夜祭に酔い、

 未来が明るいと誰もが信じた。

 東京オリンピックは、日本が世界に催す晴れの祭りだった。

 首都機能が高天原に移動したことで、高層ビルが作られ易くなり、

 電波塔を兼ねた高層ビルが立ち並び、

 オリンピックの宿泊ホテルの陣容も整い

 和洋折衷の近代的な計画都市となっていた。

 霞が関

 180m級ツイン高層ホテル イザナギ & イザナミ

 二つのビルは道路を挟んで全長30mの陸橋が掛けられていた。

 日本の最新技術で建設され、最高のビル型ホテルだった。

 諸外国の有力者が宿泊していた。

 不動産関係者たち

 「外は浮かれてるな」

 「東京オリンピックだからな。外国人も増えてる」

 「東京オリンピック後のホテル運営は不安だな」

 「だけど、金に任せて清国資本が入ってきてるじゃないか」

 「清国は選挙のたびに資産を再分配してるから経済活力あるし」

 「新型戦艦からは清国内で修理できるようにするらしいよ」

 「いまの戦艦だって、清国内で修復可能だったんじゃなかったっけ」

 「条件は全て揃ってるのにな。内輪の問題だろう」

 「だけど、大陸の清僑資本は5億人から搾取しているから強いよ」

 「それに東南アジアの華僑資本とも結びつきを強めてる」

 「日本への経済侵略か?」

 「んん・・・清国は、ロシア帝国、東ゲルマニア、アメリカ資本に浸食されてるだろう」

 「いざとなったら、財産を持ち逃げしないといけないし」

 「脅威論もあるけど、本音は日本に避難場所を作りたいのだと思うね」

 「避難場所? 日本を押さえ込む気では?」

 「国家単位で考えられる人たちは少数派だよ」

 「だいたい、結束しているように見えても清橋と華僑は海千山千のしたたか者」

 「疑心暗鬼に駆られているからね」

 「信用できるのかねぇ」

 「慈善事業を兼ねた盟主じゃないと清橋のトップ層に組み込めないはずだけど」

 「ふ〜ん」

 「日本でも慈善事業を兼ねるつもりらしい」

 「まぁ 庶民は金をくれる人間に従うからね」

 「日本にお金を落としに来るのか、吸い上げに来るのかだな」

 「どっちもだろう」

 「なんにしても実入りのいい働き口が増えるのは嬉しいだろうし」

 「困るのは国内の同業関連だろうけどね」

 「保守・民族系団体に外資を追い出せって言われないのか?」

 「その辺がな、日本と日本資本が不当に労働者を搾取しているとか何とか」

 「そりゃ賃金格差を利用して、列強に伸し上がったようなものだし」

 「当たらずとも遠からずだな」

 「それで、外からの圧力と内側からの内圧で釣りあったのが今回の法改正だ」

 「なるほど、オリンピックの前に採決したのはそれか・・・」

 「まぁ 国際化のためには犠牲も出るだろう」

 「内患にならなければいいがね・・・」

 

 そして、事件は人々の預かり知らない時と場所で、

 不意打ちのように起こる、

 爆発と喧騒が二つのビルを襲い、

 一瞬にして幾つもの命が失われた。

 そして、何人もの人間が痛みと苦しみの中、

 失われていく命を感じつつ断末魔を上げていく、

 ツインビルの一階は炎に包まれて炎上し、

 「急いで! 出口は炎に巻かれてます」

 「上に逃げて大丈夫なのかね」

 「陸橋を使って向こうのビルへ移動します」

 ホテル職員の献身と必死の誘導で多くの客が上に誘導されていく、

 煙と炎から逃げるように上の階へと上っていく、

 ビルの近くにいた者たちは、爆風と砕け散るガラスを避けビルから遠ざかり、

 ビルの突然の爆発と炎上は、オリンピックで浮かれた庶民を驚かせた。

 消防車が集まり放水作業が始まるものの、

 この時期の消防能力は、まだ弱く、火の勢いを止められないでいた。

 ビルが崩壊しなかったのは、耐震構造であること、

 そして、日本が最高の技術と資材と人材を投資して建設したからといえた。

 「駄目だ。反対側のホテルも爆破されている」

 「いったい・・・誰が」

 「お、おい・・・」

 不意に陽の光が遮られ、

 「た、助かるぞ」

 煙と炎に巻かれる人々を救ったのは、偶然、上空に居合わせた飛行船だった。

 ゴンドラは、屋上に降ろされ、

 人々を順番に引き揚げていく、

 

 飛行船

 「犠牲者の多い方はどっちのビルだ?」

 「右・・・イザナギビルの方です」

 「全員をイザナギビル側に移動させるんだ。急げ!」

 「フィリップス提督。私が下に降りて指揮を執るぞ」

 「あ、将軍・・・」

 「止めるな。任せておけ、考え事は苦手だ」

 コーンパイプの男が救助した女性と子供を引っ張り上げ、

 ゴンドラでさっそうと降りて・・・

 「マッカーサー君・・・」

 「止めるなドゴール君」

 「いや、降りるなら水と医療器具を持って行きたまえ」

 「・・・・」

 「・・・・」 おろおろ おろおろ おろおろ

 

 船橋

 若いドイツ軍将校が船長に詰め寄る、

 「もっと近付けろ」

 「近付き過ぎると塔に接触してしまう」

 「何人乗せられる。必要なら食料と水を下に降ろせ」

 「機材もだ」

 『ロンメル君、後先を考えたま・・・』

 「そんなことを言ってる場合か! 一人でも多く引き上げろ」

 「船長」

 後ろの気配に驚き、振り返る。

 「近くの飛行船も積み荷と乗客を降ろさせて、こっちに呼び寄せたまえ」

 「ジューコフ・・・そ、そうだ。緊急事態だ。急げ」

 「東ゲルマニアからも出せる飛行船は全部出させろ」

 「・・・・」 おろおろ おろおろ おろおろ

 

 

 屋上

 「怪我人はいるか?」 コーンパイプの男

 「こちらのビルは、50人ほど。向こうのビルは、まだ20人ほど・・・」 職員

 「よし、こっちに運ぼう」

 「全員をこっちに運び込んだら、給水タンクを放水して火を消すんだ」

 「はい」

 「・・・・」 おろおろ おろおろ おろおろ

 「ん? 山本君は、ど、どうするのかね?」

 「て、手伝います」

 「そうか、行こう」

 「はい」

 

 

 世界中が注目した東京オリンピックは、爆弾テロによって

 飛行船の活躍によって最悪の事態を避けることができた。

 救助された客は世界各国の有力者たちであり、

 今回の消防活動と救助作業も多くの国の有力者も混ざっていたのだった。

 そして、爆破テロの後も、テロに屈しないとの各国の申し合わせにより、

 厳戒体制のまま、オリンピック競技は、再開されたのだった。

 各国のテレビ局が記者会見の様子を伝える、

 パシャ! パシャ! パシャ!

 不遜な功労者たち

 『まさか、人命救助をする機会があるとはな』

 『ふっ 殺す方は得意なんですけどね』

 『まったく、まったく、今回は運が悪過ぎたよ』

 『このまま、何事もなく終わればいいんだが・・・』

 『わたし、とっても嫌な予感がします』

 『そ、そういえば・・・』

 「・・・ええ、今回の爆破テロ事件は、スペイン内戦とエチオピア内戦の当事者の犯行と断定しています」 コーンパイプの男

 「彼らグループは、内戦に際し」

 「列強各国が供給した武器弾薬によって殺された者の身内であり」

 「我々が供給した弾薬による犯行を仄めかしています・・・」

 「我々 国際文明社会は、暴力に屈してはなりません」

 「武器を買ったのは彼ら自身が必要として買ったものです」

 「武器の保有は、自己責任であり」

 「アメリカ国民は自己責任において、強い正義感で武器を保有しているのです」

 「しかるに、彼らは身を守るためではなく、殺人のために武器を使用したのです」

 「そして、自分たちの責任において使用した武器の責任を我々の社会に押し付けたのです」

 「このような非道は許されません」

 「断固として戦うべきです」

 「ここに飛行船に乗り合わせ」

 「命懸けの人命救助を行った各国の有力者と将校こそ、正義なのです」

 『だ、誰か、あの男を止めろ』

 『ば、ばか、ここで、とめたら国に帰ったら、石を投げつけられるぞ』

 「我々は、人命救助専門の正義の国際組織を共に築こうではありませんか!!!」

 歓声 喝采

 「「「「「・・・・・」」」」」」 絶句 真っ青

 「各国から選りすぐりの人員を集めた国際救助隊です」

 歓声 喝采

 「「「「「・・・・・」」」」」」 放心

 『だ、誰か、反対を・・・』

 『こ、この状況で、おまえ、言えるか』

 東京オリンピックは、日本歴史だけでなく、

 世界歴史を変動させていた。

 

 

 

 瑞樹(北東ニューギニア)州開発が進むにつれ、

 太平洋上の中継港湾は大きくなり、

 DC3輸送機が離発着する飛行場の整備が進み、

 サンゴ礁が吹き飛ばされ、浚渫工事が始まる。

 外国人たちがポナペの遺跡の前に立ち、

 日本人観光案内人が盗掘に目を光らせていた。

 「これがポナペの遺跡群か・・・」

 「大西洋のアトランティス大陸。太平洋のムー大陸は知る人ぞ知るテーマだからね」

 「大陸の沈没はともかく、一夜で沈むというのはないと思うがな」

 「事実なら別の並行次元世界に飛ばばされ、捻じ曲げられた記憶が消えた大陸になったと思うね」

 「別の世界か・・・どっちが人類発祥だろうね」

 「それを言うなら生命の発祥じゃないか」

 「どちらにしても、これだけ観光開発が進めば、ルートになりえるね」

 「日本人の営業スマイルが気持ち悪い」

 「お金に媚びる民族というなら日本人よりアメリカ人と思うが」

 「日本人が媚びるのはお金より、上司じゃないのかね」

 「どちらにしろ、物事に集中しやすい傾向が強くて、視野が狭くなりやすい」

 「集中は成功の秘訣だよ。総合的なバランスと利益を等閑にするかもしれないがね」

 「日清日露戦後の民需転換は、ある意味、絶妙のタイミングだと思うね」

 「大国と戦争した後に民需転換する心臓が日本人にあるとはね」

 「どちらにしろ、民需転換で日本の社会基盤は大きくなってる」

 「資源も市場もないのに生産力だけを大きくしてどうする気かね」

 「東ゲルマニアと清国重要。あとインド経済が日本の産業を引っ張っているんだろう」

 「投資が大きくなるほど回収も遅くなる。体力がないから、いずれ鈍化すると思うね」

 「だといいがね」

 

 

 軍関係者

 「なんだかな」

 「俺たちが一年以上かけて使う火薬の数十倍が一瞬で使われちゃうとはね」

 「最近、危機感がないよな」

 「最近というか、半島から退いてからだろう」

 「半島は、適度に緊張感があったんだけどな」

 「居留民保護で軍事費の増大の大義名分も大きかったしね」

 「清国が真っ当な国になったのがいけない」

 「選挙のたびに資本層の5分の1が解体されて、資産が再編されている」

 「清国を真っ当な国というのは、おかしいと思うね」

 「安定してないとしても、総合で悪いわけじゃないさ」

 「あの国くらい民主主義な国はないがな」

 「共産主義者の一部が清国の民主主義に転向しているそうだ」

 「共産主義者には、もう少し我慢してほしいね」

 「生活と子供の教育を考えると、そうもいかないと思うぞ」

 「未開地は提供できるぞ。開拓できれば自分のモノだ」

 「それができないのは、人を嫌っても一人で生きていけない弱い生物で」

 「群れていないと生きていけないだけのことだよ」

 「人間嫌いが前提か」

 「ふっ いくら総論で綺麗ごとを言っても、各論じゃ憎み合ってるからね」

 「まぁ 予算を奪い合ってるし、あいつらがいなくなればと思うけどね」

 「少なくとも歓楽街が大きくなれば、ここで生活するのも悪くないし、嫁も貰えるだろう」

 「まだ流された気分が強いんだがね」

 「もう、腰を落ち着かせちまえよ」

 「中央から艦隊が来ても艦隊戦は避けるだろうし」

 「基地が主役の攻防戦なら、俺たちにも出世の道はある」

 「海軍も、戦艦を建造しても将兵に沈められて嫌気をさしたかな」

 「ふっ 生活もままらない将兵に世界最高の軍艦を任せる方がおかしい」

 「それ以前に生活保障ができない軍が悪いんだろう」

 「国産捨てても、まだまだかな」

 「物価が上がって、官給が間に合わないんだろう」

 「それだけ、日本産業が膨れ上がっているということか」

 「民生品のいくつかは量だけでなく、質でも欧米製品を上回ってるそうだ」

 「ふん! 軍艦よりでかい客船を何十隻も作りやがって」

 「それで民生で負けてるなんて言ったら、砲弾撃ち込んでやる」

 

 

 

 人種・文化・言語・宗教・文字が多種多様に入り混ざった社会は差別を埋められない、

 統制を強いるほど弱者は犠牲になり、大規模投資するほどく格差が広がる、

 発展と引き換えに理不尽な淘汰が行われ、

 強靭な組織と引き換えに無慈悲な政策が強行される、

 統治者は、可能性を狭め不正と腐敗の温床に繋がったとしても国家の統一を望み、

 庶民は自らのアイデンティティと生活水準を守るために戦う。

 人種・文化・言語・宗教・文字も離合集散の歴史を繰り返し、

 歪で不幸な牢獄であっても一つの国にまとめられる、

 そして、幸か不幸か、ドナウ帝国ハプスブルク=ロートリンゲン王朝は存続していた。

 ホーエンベルク・松平イツキ伯爵は、押し付けられたとはいえ、

 いまにも空中分解しそうな帝国の、

 いまにも内戦を起こりそうな橋頭堡のベオグラードにいた。

 ドナウ帝国軍の主要兵装は、ドイツ軍のライセンス生産モノが占めていた。

 40t級Kヴァーゲン4号戦車と25t級A10V突撃戦車は対セルビアで有力であり、

 12t級8輪装甲車は、治安維持で有効だった。

 日本なら一安心できるもののドナウ帝国の国情は、前提条件がまるで違った。

 ドナウ帝国の総人口構成比はドイツ系28パーセント、マジャル系22パーセントであり、

 帝国を維持運営するだけで、権力機構の多くが削がれており、

 ドナウ帝国が信頼し得る兵団を作り難いことにあった。

 危機感を持ち合わせ、信頼しうる手駒も揃っていた。

 ドナウ帝国軍は、総人口の28パーセント占めるドイツ系と

 22パーセントを占めるマジャル人の将兵によって構成されていたものの、

 国家体制を維持するため人員を差し引くと攻勢に堪え得る

 ベオグラードの一画

 数人の男たちが1人の男を路地裏に連れ込んだ。

 「ちょっと、待った」

 路地裏の反対側に数人の男たちがいて、

 ほぼ同数の男たちが睨み合い、

 互いに拳銃を突きつけ合う。

 「「「「・・・・・」」」」

 「・・・た、助けてくれ」

 「邪魔をするな。日本人」

 「それはこっちのセリフだ」

 「お客さん。この商店街で違法行為は、やめて貰いたいな」

 「「「「・・・・・」」」」

 「他の場所なら知ったこっちゃないが商店街では駄目だ」

 「「「「・・・・・」」」」

 日本人たちが前進し、

 襲撃者たちは人質を解放し、路地裏から出ていく、

 

 

 ホーエンベルク伯爵家とクーデンホーフ伯爵家の縁で日本商店街が広がっていた。

 日本人のドナウ進出は、ドイツ語圏拡大に繋がると判断され、

 この関係は、ドナウ帝国が日本と独自のパイプを維持したいと思うまで続きそうだった。

 商店街では8ヶ国語以上が話されており、

 店頭は日本製だけでなくイギリス製も売られ、

 日本の商人と、目ぼしい商品を探すドナウ商人たちとの商談が繰り広げられていた。

 当然、各国の諜報関係者が何かを探り合うといった気配も見せていた。

 「随分、店が増えたじゃないか」

 「テコ入れしましたから、ある程度、日本人がいないと諜報はできませんからね」

 「一人二人いても目立つだけだからな」

 「もっとも小心過ぎで諜報合戦ができるほど優れていないがね」

 「日本じゃ予算泥棒扱いですけどね」

 「まぁ この手の奴は成果が分かり難いものだ」

 「しかし、物流、金融から戦争予報はできるさ」

 「・・・日本の予算。厳しいらしいですよ」

 「バイリンガルが人口100人に1人じゃ話しにならんよ」

 「それも、ほとんどが英語、ドイツ語、中国語だ」

 「ドナウ諸民族語になるともっと酷くなる」

 「あと5倍は人材が欲しいね。トリリンガルもだ」

 「日本語が母国語だと多国語を覚え難いですし」

 「軍にお金を取られているようですがね」

 「軍事教練する暇があったら英単語でも教え込めばいいのに」

 「まぁ 心技体で目に見えて成果がでるのは軍事教練ですからね」

 「ドナウ帝国は空中分解しないのが奇跡だ」

 「日本と比べると、そうでしょうが」

 「文部省は、一言語で専門課程をさせたがってる節もありますからね」

 「優秀な人材を集約させないと近代化が難しいですし」

 「そりゃ 単一言語の方が合理的だけど」

 「資源のない、市場も足りない国で孤立したがってどうする」

 「だいたい、多言語圏国家の事情を認識できず、どんな外交をするつもりだ」

 「もう少し、海外開発で、うまみがないと・・・」

 「採算を押さえての海外進出だからね」

 「それも人脈金脈作りの投資みたいなものなんでしょうけど」

 「遣唐使遣隋使と同じだよ。リスクを支払ってでもやるしかない時はやるべきだ」

 「それがいまの海運と海外開発を支えているんだ」

 「総合的なバランスで見切れない部分があるのでしょう」

 「まったく、いまさらながら坂本竜馬が殺されたのが惜しいと思うよ」

 「あと、最大の問題は、危険が増してる事でしょう」

 「危険か・・・確かにセルビア人は、その気のようだが・・・・」

 「戦争になりますかね」

 「ドイツ、ドナウ、ブルガリア、トルコを結ぶ線は中東の油送管とも繋がっている」

 「鉄道を守るためなら戦争も辞さないだろうな」

 日本企業が需要で海外進出し、

 外務省系の財団法人の海援隊が横の繋がりを形成しつつ

 日系社会を世界に押し出していた。

 結果的に80万人以上のバイリンガルを育て上げて国境を越えて世界各国に広がり、

 海援隊は設立から10年も満たずして国際ネットワークを構築し、

 日本は開国から100年で国際社会で根回し可能な最低限の人材を確保していた。

 

 ドナウ帝国議会

 オットー・フォン・ハプスブルク(28歳)は、荒れる議場を無力感に包まれながら眺めていた。

 ドナウ帝国の人口構成比は移民と淘汰が進んだ結果、ドイツ系とマジャル系二極化が進んでいる、

 国家統一で有利になったものの緒問題は先鋭化され、

 内輪揉めが延々と続き、対外的な統一性はゼロに等しかった。

 ドイツ系、マジャル系、チェコ系、ポーランド系、

 ルテニア系、スロベニア系、クロアチア系の対立は激しさを増し、

 分離主義勢力を育てつつあった。

 他の利益代表もいるものの、数が少なく考慮したくもない、

 もう一つ、封建主義的な上からの国家統一でなく、下からの国家統一も勢力を増していた。

 資本主義なら特権が形骸化されたとしても特権が金に換算されるだけで済む、

 しかし、フランス生まれ、ドイツ発祥、イギリス発の共産主義は、ドナウ帝国も発症させていた。

 彼らの目的は、特権階級を抹殺することであり、

 皇帝の命すら風前の灯となった。

 そこに清国発祥の民主資従革命が迷惑なことにドナウ帝国に辿り着いて影響を与え、

 共産勢力と離合集散しつつ勢力を伸ばそうとしていた。

 ドナウ帝国は、個々の社会同士の差別と格差の対立で亀裂が拡大し、

 そこに二つのイデオロギー劇薬まで投与され、下から押し上げられ、

 崩壊寸前といった情勢だった。

 反乱が起これば、ドイツ帝国の空挺部隊と機械化師団が突入してくるとしても、

 可能な限り外国軍の蹂躙を避けたいと思うのが統治者であり、

 同時に抵抗運動をしている諸派の心情だろうか・・・

 「・・・・・」

 「50回目ですよ。皇帝陛下」

 「ため息の数かね。伯爵。日本人の気配りは感心するよ」

 「先ほど拳銃1000丁弾薬50万発を押収したそうです」

 「セルビアか・・・」

 「戦争を辞さない構えで越境してるようです」

 「内輪揉めをやめさせるために戦争できるのならいいがね」

 「この分だと、そのままドナウ帝国内戦の可能性も高いな」

 「セルビアは小さく。脅威より利用できる第3勢力としか思えませんからね」

 「内輪揉めしてる連中は、セルビアの背後にロシア帝国があるのを知らないらしい」

 「ドイツ側の情報ですと」

 「ロシア帝国はバルカン権益より、シベリア鉄道権益を取る公算が強いと」

 「それは、フランスとイギリスの出方によって変わってくるし、イタリアも気になる」

 「ハンガリーでさえ、分離主義者が増大しているのだから」

 「わざわざ、冒険することもなかろう」

 「本当の脅威は分離主義者より、共産主義では?」

 「イデオロギーで人種・文化・言語・宗教の対立を押さえられるものかな」

 「彼ら貧困層が欲しいのは理想でなく、人並の権利ですよ」

 「分離主義も共産主義も方便に過ぎません」

 「成功したら今度は権力争いでしょうし・・・」

 「日本は単一民族と聞くが内政はどうかね」

 「比較的、差別と格差が小さいようですが大同小異で卑俗に争ってますよ」

 「一度、日本に行ってみたいものだな」

 「屋敷があるので招待しますよ」

 「非公式訪問なら暗殺者も間に合わないでしょうし、一般道も歩けるでしょう」

 「皇帝が国内の道を歩けなくなるとはな」

 「日本の皇族も普段は、一般道を歩かないですよ」

 「気を使ってる部分の方が大きいようですが」

 「天皇が国民に気を使う?」

 「元々の成り立ちが祭司上がりで、権威だけの歴史が大半ですから」

 「政治権力を行使することは、あまりないようです」

 「それで権力は?」

 「その時代の実力者で公家が執ったり、武家が執ったりです」

 「ドナウ帝国最大の実力者は、私だよ」

 「それでも、このありさまだ・・・」

 議場がさらに荒れ、

 ドイツ系議員とマジャル系議員が少数派にとって理不尽な採決を強行し、

 議会衛士が騒ぎを制しつつ、多数決を決めてしまう。

 「それぞれ、政治生命を賭けた利益代表が集まっているのですから当然なのでは?」

 「日本でもかね?」

 「争っている内容は大同小異ですが利権がかかってます」

 「権力闘争で負けると生殺与奪権を奪われますし」

 「下手をすると利権を失って路頭に迷うことにもなりかねませんから」

 「我田引水は殺し合いみたいなものですよ」

 「ドナウ帝国では、みたいではなく、本当に殺されるからな・・・」

 「ところで陛下、各国で国際救助隊の人員を募ってるようですが」

 「ばかな。こっちが助けて貰いたいものだ」

 「世界のためにって、意外と国民の意識が変わるかもしれませんよ」

 「意識ねぇ〜」

 

 

 

 ロシア帝国

 ピョートル1世(1682年〜)の時代、帝国の下地が作られ、

 アレクサンドル2世(1856年〜)の時代、

 クリミア戦争の経験から地方行政、司法、教育、軍制の改革が行われ、

 半端な農奴解放で近代化の兆しがみられた。

 ニコライ2世(1894年〜)の時代、

 民権派が立ち上がり改革の機運が高まりつつあったものの、

 帝政ロシアは、吸い上げるばかりの地主領主であり続けた。

 貴重な外貨収入であるバクー油田を中心とした開発も、

 皮革輸出の莫大な利益をもってしても国内産業を育てられず、

 “下品な民衆の手に負えない独裁政治” と評した国々の商品が帝国に流れ込み、

 貴重な国内資本を海外に流出させてしまう。

 皇帝・貴族と富裕層は、国家の苦境にあっても生活水準を落とすことを望まず、

 日露戦争(1904年〜1906年)の負担は、必然的に弱者へ押し付けられた。

 血の日曜日事件(1905年)以降、

 帝国は、ロシア民衆の生活圏を守る盾から牢獄と成り果て、

 貴族は、畏敬の対象から収奪者と成り下がり、

 皇帝は、キリストの代理と国民の庇護者の象徴から憎悪の対象となっていた。

 近代化を望む勢力は、旧態依然の農奴社会を見限り、

 貧困に喘ぐ農奴と労働者は、ロマノフ王朝を憎むべき敵と認識し、

 帝国は存亡の岐路に立たされていた。

 1917年、

 革命前夜と噂されたロシア帝国で、

 ラスプーチンの貴族潰しが強行され、結果的に7割近い貴族が改易された。

 民衆の不信任は極に達しており、手遅れといった観があったものの、

 皇帝の命を受けたロシア帝国軍が評判の悪い領主の利権を奪うと喝采で迎えられた。

 農奴解放は徐々に進み、

 ロマノフ王朝は、改易した領主の私財を共有地にしたことで持ち直してしまう。

 しかし、縮小した世襲貴族層では、権力基盤を維持できず、

 専制政治は放棄せざるをえなくなり、

 ロシア帝国の政治権力は、ドゥーマ(ロシア帝国議会)へ移動し、

 “君臨すれども統治せず” の立憲君主制へと移行してしまう。

 

 見識者の多くは、ロマノフ王朝が治世と引き換えに延命したといい、

 貴族に准ずる頑迷な人々は、ロシア共産革命の可能性を信じなかった。

 何はともあれ、ロシア人の怒りは沈静化し、

 ロシア帝国の皇族と貴族は、縮小した聖域として残され、

 ドゥーマ(ロシア帝国議会)を中心に民主化と資本主義は進み、

 ロシア帝国軍と中央官僚は、鉄道とともに地方へ支配権を伸ばし、

 ロシア帝国軍は、地方領主を追い立てていく、

 行政改革の波は中央から広がる地方へ広がり、

 シベリア域の資源を開発し、増大する社会資本は産業を興した。

 そして、ロシアのシベリア開発にもっとも貢献したのはドイツ帝国であり、

 皮肉なことに東ゲルマニア開発が進むほどシベリア鉄道の採算性は向上し、

 複々線化が進みロシア帝国の産業は内陸域へと広がっていいった。

 ドイツ帝国の東ゲルマニア開発は、ドイツ帝国とロシア帝国のどちらが得か、

 多くの学者が試算していた。

 ほとんどのパラメーターでロシア帝国が有利だったものの、

 現実に弾き出された国力の成長比率はドイツ帝国が優勢であり、

 成長率の差は、ドイツ人とロシア人の国民性と識字率に起因すると結論付けられた。

 

 そして、ロシア帝国の民主化と、

 拡大するシベリア鉄道は、ロシア帝国の国情を大きく変えてしまう。

 貴族に媚びるための経済は、庶民の必需品を中心とする経済へと移行していく、

 ユダヤ商人とアルメニア商人は、シベリアの街々に工場を建設し、商品を作らせた。

 そして、鉄道が止まる度に商品を鉄道に載せ、ロシア帝国全域へと流通させる。

 

 シベリア中央域

 雪が吹雪くと赤かった大地は白銀に覆われてしまう、

 皮革と林業ばかりの農村は、一年の半分が時とともに雪に覆われるはずだった。

 しかし、領主が追い出され、

 選挙によって選ばれた知事が市長となって利権を中心とした運営が進む、

 建設されたばかりのクラスノヤルスク発電所がシベリア域の工業化を推し進めた。

 莫大な電力を利用したアルミ産業が興り、

 石炭産業を中心とした一大工場地帯が形成されていく、

 ロシア社会の変化は、学校が増えたことだろう。

 しかし、国が大きいせいか、数キロ歩いて登下校する事も珍しくない、

 もっと近くに学校を作る準備も進んでいた。

 もっとも教員と施設を作っても負担を押し付けられるのは庶民だった。

 大人たちは、学校が何を子供に教えるのか分かったものじゃないという、

 ナターシャ(14歳)は、学校に行けなかった者の不安なのだろうと思った。

 金髪に碧眼の少女は、学校から戻ると石鹸工場に行く、

 学校で勉強するより、工場で働いて小金を稼いだ方がいいように思えた。

 身を切るような空気が痛いのか、

 外に出ようとしたドイツ人旅行者がホテルへ戻っていく、

 最近は日本人の旅行者も珍しくなく、

 縮こまって震えている黄色人種と擦れ違っていく、

 ナターシャは、工場に付くとタイムカードを押し、

 固められ切り分けられた石鹸を次々袋に詰めていく、

 工場は家にいるより暖かく、夕食も食べることができた。

 そして、働く時間が長ければ給金も僅かに増えた。

 工場の女たち

 「昔は、自分の時間は、自分だけのものだったのにね」

 「いまじゃ 私たちの時間はアルメニア商人のものだよ」

 「本当、昔はゆっくり時間が流れていたからね」

 「春になるたびに男たちが驚いて振り向いたもんさ」

 「「「「はははは・・・」」」」

 「いまじゃみんな町に引っ越してきて、工場で働く男ばっかりになっちまったね」

 「むかしは、意中の娘に獲物を捕ってくるのが普通だったわね」

 「私は、イノシシを捕って来てくれる相手と結婚したわね」

 「私は、シカだったわ」

 「まぁ 私もシカにしてもらえばよかった」

 「「「「はははは・・・」」」」

 「いまじゃ 銃をしまい込んで工場で働いてるし」

 「真冬の夜中でも仕事してるよ」

 「もう、時代が変わっちゃったわね」

 「ナターシャは、獲物を捕って来てくれるような男が現れるかしら」

 「・・・・」

 「最近は宝石じゃないのかい?」

 「やだよ。またユダヤ人に儲けさせるのかい」

 「そういえば仮眠室とシャワー室まで作ってたけど、そのうち棺桶まで準備するかもしれないね」

 「あははは、婆になるまで働かせたりしないよ」

 「アルメニア商人なら死んだ人間からだって金を巻き上げるさね」

 「「「「はははは・・・」」」」

 「ドイツ人のいい男が来たら貰われていくのもいいわね」

 「・・・・」

 「「「「はははは・・・」」」」

 昔ながらの皮革産業は設備が近代化され、

 併設された石鹸工場も増設されていた。

 香料が加えられた動植物の油脂は、仄かな香りを工場の中に漂わせていた。

 工場は次々と建てられ、家々も増えていた。

 そして、広い土地なのに無理をして高いビルが建設されていく、

 ナターシャは、住み良くなっていることに気付いていた。

 年寄りは、口にしないが昔は人身売買が行われ、

 食えなくなった親は、子供を都市に売ることも珍しくなかった。

 今では、随分減ったものの学校の同級生が街へ売られていた。

 少なくともいまの職場がある限り、

 どこかに売られていくことはないだろう。

 工場の一画に一枚のポスターが貼られていた。

 “国際救助隊募集”

 「なに? これ?」

 「さぁ どうせ、アルメニア人の新しい金儲けでしょ がめついんだから」

 「・・・・」

 

 

 北大西洋 スペイン沖

 25000t級空母アーク・ロイヤル

 試作型スーパーマリン・シーファイアの離発着訓練が行われていた。

 馬力1470hp 重量2309kg/全備重3071kg

 全長9.12m×全幅11.23m×全高3.86m

 翼面積22.48u 翼面荷重119.91kg/u

 最大速度605km/h 航続距離1840km

 7.7mm×8

 艦橋

 「スペインはいまだ混迷中か・・・」

 「政権を取った陣営は全額補償を突き付けられますからね」

 「列強の有力者が何人か亡くなってるし、当然と言えば当然か」

 「ビルが倒れなかったのは奇跡らしいな」

 「耐震構造だったようです」

 「しかし、日本は、被害甚大だな」

 「たしか、ロイド保険では?」

 「あ・・・全損になるのか?」

 「まぁ 補強すれば持ち直せそうですが」

 「死人が出たホテルですし、全損扱いになるかと・・・」

 「やれやれ」

 「日本人たちは?」

 「飛行甲板に集まっています」

 「シーファイアが気に入ったのだろう」

 「上層部は、ライセンス生産を認めるようです」

 「英日印同盟で独伊同盟を押さえられるなら安いものか」

 「日本人は空母を対艦戦で考えているようです」

 「対潜戦闘の方が深刻だがな」

 「派手な海戦が好きなのでしょう」

 「ふっ 派手な水上戦闘など戦争の表面的な結果に過ぎんよ」

 「開国から90年もたっていない国だから戦争が珍しいのでしょう」

 「それにしては、国際化が早いようですが」

 「イギリスが保証人代わりになっているからだ」

 「近代化も・・・」

 「サル真似だ」

 「ライセンス生産は、上手くいってるようですよ」

 「どんなに上手く作れても二次制作は半人前だよ」

 「国産がない限り、イギリスのアシスタントに過ぎん」

 「蓄積された知識と経験から、想像力がついたときが怖いですがね」

 「それは、どうかな。日本人は想像力より、過程に価値を置いている」

 「レーダー開発で先行したはずの日本がいきなり落伍したのも権威主義とセンスのなさを物語ってる」

 「発想が貧層な連中に限って、想像性より上手に作る方を重視してしまうのさ」

 「民生品は日本国産が増えてるそうです」

 「・・・少しは知恵がつき始めたってところだろう」

 「しかし、国家予算に頼ってる限り社会資本は育たないし」

 「社会資本が育たない限り想像性は啓発されないだろうな」

 「日本に追い越されましたね。造船・・・」

 「ふん、国の後押しだよ。賃金格差を利用しやがって・・・」

 「提督。飛行船です」

 「あれは?」

 「ああ・・・新設された国際救助隊の飛行船じゃないのか」

 「なんであんなものが・・・」

 「なんでも誰も反対できなかったとか」

 「正義は怖いな」

 「「「・・・・」」」

 

 

 

 飛行甲板

 日本海軍将校たちが試作されたシーファイアを囲む。

 「量産型は主翼折り畳みにするんだよな」

 「ええ、搭載機は増やせるはず」

 「少しくらい翼面積は十分だから、重量が増えても翼面荷重は申し分なさそうだ」

 「その辺がドイツ機との違いといえるな」

 「問題は、航続距離でしょう。洋上を飛ぶのに少な過ぎる」

 「イギリスは、ドイツ戦闘機と比較してるからね。落とせない部分があるのだろう」

 「戦艦と違って中古買取じゃないから、こっちの要望は、二の次だよ」

 「まぁ 増漕で対応するしかないな」

 「主翼にタンクを積めばいいのでは?」

 「薄いから・・・」

 「機銃も不安ですね」

 「7.7mm8丁か・・・」

 「もう一回り大きい機銃が欲しいですね」

 「12.7mmブローニング.303機銃があったはずだが」

 「それは、悪くありませんね」

 「主翼桁が薄い気がするな」

 「基本設計は、そのままでも多少は融通がきくのでは?」

 「んん・・・共有機を使うことでライセンスが認められてたからな」

 「共有率は9割でしょ」

 「1割じゃたいしたことはできんよ」

 「取りあえず、シーファイアでいけるのでは?」

 「まぁ 後は、どれだけ配備できるかだ」

 「国内の派閥争いですか・・・」

 「省同士の予算の取り合いもあるが、潜水艦派も強くなってるからな」

 「あいつらときたら、いい加減、殺意を覚えますよ」

 「国内の利権争いは、イギリス将兵以上にムカつくからな」

 「そういえば、2等国扱いしやがって・・・」

 「イギリスより、ドイツと組みたがる人間も増えてるみたいだがね」

 「ドイツ人からも日本は2等国扱いでは?」

 「イギリス人ほど傲慢じゃないさ」

 「日本の立ち位置が悪過ぎますよ」

 「北東ニューギニアが日本並みの生産力になれば外交戦略で無理がきくらしいが・・・」

 「24万kuは、イギリス本土並みに広いですがね」

 「近代化させるなら16000kmほど鉄道を延ばさないと・・・」

 「あんなすぐ錆びてしまうような南国に貴重な鋼材を使えるものか」

 「ドイツ帝国は、あっという間に半島を近代化させたんですけどね」

 「日本は国内資源がないから外資を得ない限り近代化は進まないし」

 「ドイツ帝国とは国力が違い過ぎるよ・・・」

 甲板員の多くが巨大な飛行船を見上げ、

 青・黄・黒・緑・赤の5つリングを重ねながら一つの円を描いたマークを見つめる、

 「なんであんなの作ったんだろう」

 「皇軍は国民じゃなく、帝と国土を守るから・・・」

 「そんなこと言ってるから、救助作戦で活躍できなかったのでは?」

 「あのバカ師団長、クビにすればいいんだ」

 「縦割りが好きだから」

 「消防と警察にやらせればいいのに」

 「そもそも消防と警察にまともな救助器具ないじゃないですか」

 「消防も警察も飛行船持ってないだろう」

 「軍だって飛行船持ってませんよ」

 「ツェッペリンの独占だからな・・・」

 「同盟関係とお金の問題では?」

 「うん」

 

 

 

 

 南ヴュルテンベルク (東アフリカ) 99万4996

 ダルエスサラーム港とタンガ港を起点とする鉄道は南ヴュルテンベルク全域に伸びつつあり、

 ビクトリア湖畔にドイツ本国と見紛うばかりのムワンザガルトが建設されていた。

 周辺に酪農地が整備され、

 サイザル麻、コーヒーの木、ゴムの木の合い間は舗装され、

 積み荷を満載したトラックが行き交う

 設備投資が繰り返され、移民が毎年のように増加した結果、

 南ヴュルテンベルク産業は、農業プランテーションから商工業へ移行しつつあった。

 南ヴュルテンベルクはインド洋の制海権を得られるだけの潜在的な可能性が高く、

 地政学的な優位性と地域格差は大きく、

 配備された南ヴュルテンベルク軍は、アフリカ大陸最強の軍隊と言われていた。

 莫大な投資は、回収まで年月を要するものの

 戦略的な価値は東ゲルマニアと同等と思われていた。

 

 キリマンジャロを望む原野の一画、

 世界でもっも未開なアフリカ大陸に最先端技術を集めた施設が建設され、

 まだ見ぬ現実を信じない大衆を黙らせるため秒読みが始まり、

 轟音を上げロケットが白煙を棚引かせ、蒼空の彼方へ昇っていく、

 歓声が上がる中、少し離れた空に数隻の飛行船が浮かんでいた。

 国際救助隊 飛行船シュバイツァー

 船橋

 「無事に昇ったようだ」

 コーンパイプの男が呟く、

 「ええ・・・」

 「もうしばらく、周辺空域を巡回した後、エチオピア側に行くとしよう」

 「こういう職業は、憧れますね」

 「ふっ そうだな」

 金髪の少女がコーヒーカップを運んでくる。

 「御苦労さん、英語は覚えたかい、ナターシャ」

 「す、すこし・・・」

 「そうか、頑張りたまえ」

 頬を赤らめた少女は、こくん、と頭を下げ、船橋を降りていく、

 「・・・人員募集に問題ありでは?」

 「ロンメル君。人と人の信頼と絆は、努力し苦労して勝ちえるものだろう」

 「努力する事を怠り、苦労を拒んで人と敵対する道は容易なことだ」

 「国際救助隊は、人と人の信頼、国と国の絆を深められる人材を教育したいと思ってる」

 コーンパイプの男は、東京で人を救助した時の手の感触と感動を思い出していた。

 

 

 

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です。

 与野党の攻防でしょうか、

 どちらも国民の声を反映してるわけですから

 党利党略、肥大官僚、衆愚政治の間で適当な線で落ち着くと思われます、

 

 ロシア帝国は、やや、資本主義化でしょうか、

 

 東京オリンピックと国際救助隊誕生の経緯です。

 コーンパイプの男がカッコよく締めてくれました (笑

 まぁ 作ったとしても世の中あまり変わらないと思います、

 しかし、頃合いがいいので、

 この辺で、仮想歴史 『風が吹けば・・・』の第一部を終わります。

 続きは期待しない方がいいかも

 

 

 

1940年   領有 利権 人口
面積(ku) 面積(ku) (万) (万) (万)
北欧 ドイツ帝国 54万0857     5800  
朝鮮半島 東ゲルマニア 21万0000   100 3200 900
遼東半島     3462+1万2500 10 400  
山東半島 ホーエンツォレルン 4万0552 11万6700 20 900 700
カメルーン 南ザクセン 79万0000   10 300  
東アフリカ 南ヴュルテンベルク 99万4996   10 400  
南西アフリカ 南バイエルン 83万5100   10 300  
トーゴランド 南バーデン 8万7200   10 100  
 
ドイツ帝国 350万2167 12万9200   11400 1600

 

 

 

  口径 銃身/全長 装弾数 重量g 初速 発射速度 射程距離
エンフィールド 7.7mm×56R 640/1130 10 3900 744m/s   918m
ヴィッカース重機関銃 7.7mm×56R 720/1100 250 50000 760m/s 450〜600 740m
8式小銃 7.7mm×56R 640/1100 10 3700 700m/s   618m
               

 

  

 

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第32話 1939年 『うよたん、さよちん』
第33話 1940年 『誰か、あいつをとめろ』 完結