月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想歴史 『キミンの時代』

    

 第09話 『若い血脈』

 1669年

 日ノ本

 徳川家綱の時代 (在職1651年〜1680年)

 徳川幕府は諸藩を扶桑開拓と参勤交代で足枷、手枷で骨抜きにして弱体化させる。

 さらに不穏分子、不満分子を海外に出し、

 諸藩が南蛮と組む可能性を恐れ、朱雀と瑞穂を除き鎖国。

 徳川幕藩体制は、北方開拓で得られる利益と “海” 制度で幕藩体制を強化していく。

 しかし、外敵不在は、内紛の火種となりやすかった。

 政策手段であるはずの重農主義、重商主義で幕府を分け、

 泥沼の内戦になる可能性もある。

 蘭学者、朱子学、陽明学の対立が派閥争いの火種になりかねない。

 政策目的の徳川幕藩体制堅持を政策手段で失うと本末転倒。

 幕府は内紛を恐れ、外様や外敵の脅威を残すジレンマに悩まされる。

 

 

 扶桑(カムチャッカ)半島

 シラカバ、ダケカンバ、ケショウヤナギ、カラマツ、エゾマツが群生し、

 ヒグマ、山岳羊、オオカミ、クロテン、クズリ、シルバー・フォックスが生息。

 夏季に人足を集中的に上陸させても凍土に築城は困難を極める。

 北晶と呼ばれる港町が “海” よって整備されていく。

 一見、歩いている者達は、江戸時代の日本人に見えない。

 毛皮を頭から全身にかけて覆うのはロシア人に学んでいた。

 家の壁を二重にする事もロシア人に学んでいた。

 暖炉も同じで、これもロシア人に学んでいた。

 マタギも多く、生活洋式はロシア人に近い。

 なぜ、日本人が、ここにいるのか?

 浪人を集めて北方を開拓させれば倒幕など、不遜な事を考えさせずに済む。

 それだけの理由。

 ロシア人が減っても日本人の他にイテルメン族、エベーン族、

 アレウット族、コリャック族、チュクチャ族。先住民が住んでいる。

 自然が豊かで食うのに困らないと基本的に大人しい。

 知識を蓄積し伝達できる文字体系を持つ日ノ本に隷属していく。

 ここで獲れたサケ・マス。獣皮、干物が日本でも珍重されていた。

 地熱があるところでは、小麦、ジャガイモ、ニンジン、キュウリが栽培でき、人口が増え始める。

 「このキノコ食べられるかな」

 露天風呂に入っている男が聞くと。もう一人が疑い深げ。

 「んん・・・・現地民に聞かないとキノコは怖いよ」

 「だよな」

 空を見上げるとオーロラが幻想的な光景をみせる。

 

 

 樺太

 北の果て、当初、オハと名付けられたが城が建設されると玄武(げんぶ)城と呼ばれるようになり。

 北の果ての町を玄武と呼ぶようになった。

 樺太先住民族ウイルタ族、ニブフ族は樺太アイヌと呼ばれ、少しずつ日ノ本に融合されていく。

 夏になると、海峡を挟んだ大陸側と交流が始まる。

 商人同士は、強かなのか、幕府の目を盗み、というより、

 幕府も商人から情報を得るため見てみぬ振り。

 清国の生糸・絹織物・綿織物・毛織物と、

 日本の刀剣・工芸品・各種道具類が大量に交換されていく。

 幕府が大型ガレオン船の建造を続けさせているのも清寇に備えるため。

 双方の商人は互いの国の情報を聞き出そうと、あの手この手で酒盛りを始めたりする。

 「日本人が望むなら沿海州の対岸から南のベトナム国境まで宿舎を用意するある」

 「匪賊が多いんじゃないのか?」

 「匪賊・馬賊は中国の文化ある。世界の常識ある」

 「まぁ 路銀目当てだけならいいけどね。裏もあるんだろう」

 「漢人も、日ノ本を旅させたいある〜 表も裏も路銀ある〜」

 「基本的に鎖国だからな」

 「互いの国を知れば、脅威は減るある」

 「不公平だな。日ノ本は、清国より小さいのだから日本だけ脅威が高まるとも言えるね」

 お互いに微妙な含み笑い。

 「あ、そういえば、うちの若いので中国拳法に興味があるやつがいてな」

 「伝があれば、送りたいが」

 「ん・・・そういえば、回族が必死になって覚えていたある」

 「回族?」

 「満州族が中国を統一して、回族が酷い扱いある」

 「それで、拳法を必死に覚えているある」

 「高遠。行ってみるか?」

 「よろしくお願いします」

 「何か、やっているあるか?」

 「柔術を少し」

 「そうあるか、面白いある」

 「今度、拳法で腕の立つ人間を探すある。夏は、玄武城で日清武術大会でもどうあるか」

 「それは面白いですな。商売もしやすくなるでしょう」

 『商売商売』

 『商売ある〜』

 にやり × 2

 

 

 アイヌ族シャクシャインの乱

 松前藩とアイヌ族連合が戦い。

 松前藩は和睦を申し入れ。

 「くっそぉ〜 シサム(日本人)、汚いぞ。騙したな」

 「手柄を立てぬと、お咎めがあるのだ。やれ!」

 シャクシャインが騙まし討ちされ、アイヌ連合は降伏。

 

 

 この頃、朱雀の庄を除くと、東南アジアの日本人町は10ヵ所。

 朱雀人は、朱雀に集中する事で東南アジアの一大勢力となっていく。

 

 

 1670年

 幕府は、大量の木材調達が水害を招く事から多数の小型船より、

 少数の大型船の定期便に誘導していた。

 全長60mを超える大型帆船の建造も可能となっていく。

 これは、幕府が監視しやすいように隻数を減らした代わりに大型化させただけ。

 いざという時は、徴用し清国船、南蛮船に備えるため8門の大砲を装備していた。

 朱雀・瑞穂行きの定期便を除けば、海外に向かう道は閉ざされる。

 この頃、ロシア勢力の極東進出が目立ち、扶桑(カムチャッカ)半島で日本人とロシア人が混在。

 日本人が圧倒的に多かったことから、ロシア人は退いて行く。

 徳川幕府とロシア皇帝は、カムチャッカ半島を境界に国境線を定め日本初の国境線にしてしまう。

 江戸城

 「・・・ロシアは上手く押し止められそうか?」

 「約束だけは交わしているが、どうかな、信用できるのならいいが」

 「キリスト教徒の入国は基本的に禁止している」

 「交易も必要最小限であり、衝突もあった。ロシアも日本の力を知ると少しは懲りただろう」

 「しかし、コサック騎兵は強いようだ。寒さにも強い」

 「元々、北方の民族で、金になる毛皮を追ってきているらしい」

 「日ノ本は諸藩の力を削ぎ、浪人の減らすため扶桑開拓の荷役を課しているだけだ」

 「鹿の肝、熊の肝は魅力的だけどね」

 「意気込みで負けているかもしれないな」

 「扶桑も、樺太も日本人が多ければ、ロシアも手を出せないだろう」

 「ロシア皇帝に謁見させた奉行の話だと。とんでもない大帝国で清国を超えるかもしれない」

 「身の丈で負けているのか?」

 「まあ、ほとんどが寒い地域だから米は採れぬが、それでも大帝国だそうだ」

 「イギリスやオランダは」

 「小さいというか、日ノ本と同じ程度、小さい」

 「それは、希望だな。問題は、船の力だな」

 「オランダ船は、1隻、1隻が強くても日ノ本を攻めるだけの船数はないよ」

 「鎖国なら放置してくれると思うが・・・」

 「清国は?」

 「玄武城での交流だと、清国はジャンク船にガレオン船の技術を取り入れ、強くなっているらしい」

 「しかし、東南アジアと地続き。船に頼ることもない、本気ではなさそうだが」

 「漢人は、利に聡く、個々の能力で高い」

 「しかし、文盲が多く、利己主義が過ぎて協調性に欠ける」

 「大型船の建造は、よほどの圧力をかけなければ・・・」

 「どちらにせよ。清国が日本に攻め込まぬのならヨシとすべきだ」

 「清国は、中国大陸を支配して、まだ間がない。しばらく体制の強化のはず」

 「ロシアも警戒すべきだが、やはり清国が強大だな。大陸で収まっていてくれたらよいが」

 「モンゴルと同じ、騎馬民族だ。漢民族減らしで、やるということは?」

 「清寇の脅威は、幕府の内紛防止で使えるよ」

 「しかし、本当の脅威に化けると怖い」

 「清国の情報収集と交渉ごと上手くやってもらいたいものだ」

 「玄武城経由で上手く情報を収集できるだろう。沖縄も少し城砦を強くすべきだろうな」

  

   

  

1671年

 徳川の太平が固まると取り潰し、改易が減っていく。

 浪人の偏りが少なくなり諸藩の石高に応じて均一化していく。

 そうなると無作為に浪人を集めて “海” として北方開拓をさせるより、

 諸藩の石高に応じて “海” を制限し始める。

 目的は、諸藩の一割を超えるだろう隠し田を暴いて、

 実質石高を探るためで、諸藩の実態を知るためでもあった。

 諸藩に石高に応じて一定の拠出をさせて、

 北方開拓費用を賄わせ対価を “海” に支払う。

 公儀隠密を全国に派遣するより、

 相応の役職を藩の石高に応じて与える方が近似値に近付きやすく。

 諸藩も “海” を出すことで北方開拓や諸藩の事情など探れて、諸藩同士の交易も進む。

 そして、幕藩体制の枠組みを抜けた “海” が徳川幕府の手駒のようになっていた。

   

  

 日ノ本 とある港町

 海里カズサと永未ショウエは、闇夜を利用して密入国。

 「大型御用船はないよな」

 「ああ、大砲を何門か積んでいるから、事前に調べている」

 鎖国の国に入り込むと死罪。

 しかし、伝がないわけでもない。

 小さな明かりが海岸に見える。

 「あ、越後屋だ」

 「ああ・・」

 南国の物品を運び込み、

 縛られた娘達を小船に乗せ、沖の船まで運ぶ仕事。

 「首尾は?」

 「こちらは問題ない」

 「そうか、すぐに移し変えよう」

 鮫皮・象牙・胡椒・水牛の角・鉛、薬。砂糖・皮革・香料・薬種が満載。

 「これが伽羅か・・・すげぇ 良い匂いだな」

 「こっちの娘達も、上玉だな」

 猿ぐつわをされた娘たちが怯える。

 「おぬしらも悪よの〜」

 「いやぁあ 照れるわい〜」

 和気藹々

 不意に笛が鳴り響く。

 そして “御用だ! 御用だ! 御用だ!  御用だ! 御用だ! 御用だ!” の掛け声。

 「こらぁあ〜! まてぇええ〜! ご禁制と人身売買だな。神妙にお縄につけ〜!!」

 「げっ!」

 「逃げろ!」

 「こらぁあ〜! まてぇええ〜!」

 周囲からちょうちんが現れる。

 そして、どこに隠していたのか、小船が押し出されていく。

 娘達を満載している船は足が遅かった。

 ばぁあ〜ん!!!

 しかし、大筒を撃つと 「あったり〜♪」 船奉行の船に穴が開き、何とか逃げられる。

 陸地では、ちょうちんを持った役人と悪党連中が争っている。

 「いまのうち〜」

 「あいつら、大丈夫かな・・・」

 「捕まっても、遠島申し渡しで朱雀か、瑞穂ならいいけどね」

 「最近の遠島は、朱雀も、瑞穂も減っている。来るのは蘭学者ばかり」

 「何でだろうな」

 「失策の責任を押し付けられる人間がいなくなるのを恐れているんだよ」 

 「他の悪党仲間を探さないとな」

 「うん、娘と南蛮物の交換だから、そのうち見つかるよ」

 「店に並んでいたら役人だって買うだろう」

 「ったく、幕府大事だからって、鎖国なんかするなよな。下々が迷惑だろうが」

 「お役所仕事って杓子定規で嫌だよ」

 「あれで、押収品とかいって自分達で分けるんだぜ」

 「正義面しやがって、市場に流せよ。馬鹿どもが」

 「それが、あの連中の特権なのさ」

 

 

1672年

 第三次英蘭戦争(1672年〜1674年) 

 第二次英蘭戦争(1665年〜1667年)では、オランダは戦いに勝っていた。

 しかし、フランス軍がベルギーに侵攻するとイギリスと和解して戦争で妥協させられる。

 その後、オランダ軍は、堤防を決壊させ、

 フランス軍のアムステルダム侵攻を防ぎ、スペイン、オーストリアと連合していく。

 「ちぇすとぉ〜!」

 フランス人兵士が倒れた。

 市街戦になると遮蔽物が多くなり銃の射程が狭められ、

 日本刀が使いやすくなる。

 なぜか日本人傭兵が流れ流れて、オランダ側にいたりする。

 人口の少ないオランダは、元々、異国人の傭兵に頼りやすかった。

 「銃を使えよ〜」

 「狭い場所だと、日本刀を使いたい」

 「いや、わかるけど」

 オランダ人兵士の一人が日本刀を持って近付いてくる。

 「ん・・おまえら、ハポンか?」 日本語

 「ああ・・・」

 「ほぉ〜 懐かしいな」

 白人と日本人の混血に見えた。

 「おまえも、朱雀から来たのか?」

 「ん? 支倉常長の遣欧使節団で居残り組みの子孫だ」

 「へぇ〜 支倉の子孫が朱雀の商館で働いてるぞ」

 「なんだ。ハポンは国を閉ざすとか聞いてたがな」

 「閉ざしたよ。俺たちは朱雀の流れ者さ」

 「朱雀?」

 「まぁあ 日本人のならず者が南に小さな国を作って、そこの住人」

 「ふ〜ん 今度、俺たちの村に来いよ。日本人が何十人かいるぞ」

 「どこだ?」

 「スペインのコリア・デル・リオ」

 オランダの同盟戦略が功を奏しフランス軍を押し返していく。

 

 そして、イギリスはオランダが弱体化したと考えて参戦。

 イギリス艦隊はフランス艦隊と合流。

 オランダ上陸作戦を行おうとして、デ・ロイテル提督率いるオランダ艦隊の反撃を受けていた。

 大小200隻以上のガレオン船、フリゲート船が隊列を組んで砲撃戦。

 戦列艦になると舷側に大砲80門を並べて砲撃するため、

 片側だけでも2段3段で40門近くが撃ち出されてしまう。

 こちらが大砲のある舷側を見せ、相手の後ろか斜めに付けば理想だった。

 しかし、風と潮、指揮官の資質と乗員の操船能力次第で上手く行くかは大雑把。

 正対する戦列艦同士が舷側の砲門を向け合い。

 ほぼ同時、一斉に火を噴いた。

 対面するガレオン船の舷側の木材がバラバラにされ、索具が破壊され、帆も破られていく。

 さらに接近戦になれば、マスケット銃で撃ち合いになった。

 

 朱雀船

 白地に紅い朱雀の紋章は、朱雀船の証。

 外交使節団を乗せて欧州諸国に向かっていた。

 大型ガレオン船といえる大きさで、大砲10門は、欧米諸国で言うと沿岸監視用の小型帆船レベル。

 海賊にも負かされそうだった。

 しかし、東南アジアの有力新興国に手を出しても面白くないのか、

 見逃されたり、船足が速くて追い付けなかったり。

 ここまで辿り着いていた。

 「すげぇ 戦列艦同士が撃ち合ってるよ」

 「カッコイイ〜」

 「派手だなぁ」

 「どうする?」

 「一応、招待されているからイギリス、オランダ、フランス、スペインに行けるんだけどね」

 「しばらく見物してから行こうよ。攻撃されそうになったら逃げればいいし」

 「「「うんうん」」」

 

 

1673年

 徳川家の日本支配が始まって73年、

 豊臣系など、元々からの反徳川勢力は、朱雀に吸収され消えつつあった。

 そして、キリシタンも瑞穂に向かい始め、急速に縮小していく。

  

 平泉(バンクーバー)島

 1663年。ガレオン船2隻が漂着したのは、標高600m〜1200mの山がちな島(3万1285km²)だった。

 1隻大破、1隻だけが残って、伊達謀反組みと一関藩の生き残りは600人弱。

 積載していた食料は多かったが寒冷地だった。

 一時は、400人にまで減った人口も狩りと漁業が軌道に乗り。

 小麦の生育に成功すると、10年で700人まで回復する。

 先住のインディオは、島の西岸ヌートカ族、南岸・東岸サリシュ族、北部・中部クワキウトル族。

 大陸側にウォキャシュ族・・・

 時に衝突し、時に交流しながら互いの資質、文化を認識していく。

 伊達者たちが衣食住で安定すると、

 識字率と文化的優勢を利用しつつ勢力を拡大していく。

 高台の城郭は、大砲を備え付け難攻不落の城砦都市と化していく。

 日本民族は、まともな文字体系を持ち知的財産を共有できる強みがありインディアンより有利だった。

 伊達・一関藩の生き残りが肉食を可となったのは、環境の変化も大きかった。

 日本人が南に移動せず、

 この島に居ついたのは最初の年、1隻が大破、

 もう1隻が壊れて修理しなければならなかったこと。

 荷揚げされた物資と人間が多過ぎたこと、

 難破して海に対する恐怖があったこと。

 衣食住で落ち着いてしまったこと、

 島が天然の要害になりそうだったこと、

 そして、最初に上陸した島に愛着が湧いたことがあげられる。

 和紙の原料になる苗木も育ち始めると “ここでもいいか” という気にもなる。

 城内のトーテムポールに伊達・一関藩の家紋である竹・雀紋、九曜、杏葉紋ほか、

 4、5個の家紋が彫られていた。

 日本人にとっては “それがどうした” という感じなのだが先住インディオは気になるらしい。

 「あとは、鉄が出ればいいのだが・・・」

 「刀が作れないのは、寂しいからな」

 「合戦は弓と槍だろう」

 「まだ、合戦になっていないだろう」

 「たぶん、戦いになるとしたら北のハイダ族だろうな。あいつら、すぐ突っかかるから」

 「真田が柔術で投げ飛ばしたら目を丸くしてたな」

 「最上が弓の腕を見せたからだろう」

 「まぁ まだ、言葉の行き違いから来る小競り合いで本格的なのはないよ」

 「鉄鉱石は、見せたのか?」

 「ヌートカ、サリシュ、クワキウトルには、探していると伝えられたと思う。石炭や銅を持ってきたよ」

 「うどんとソバは、気に入られたようだな」

 「熊を描いた “ちょうちん” も作って欲しいだと蝋燭、魚醤、醤油も・・・」

 「気に入られたのは柔術とか、剣術の方じゃないか」

 「あまり教えたくもないが・・・」

 「日本人の人口は少ない。無駄に血を流すより交換で鉄を得られれば最終的に勝つよ」

 「まぁ サリシュ族の衣類は、悪くない」

 「真似ができるのなら真似するべきだろう」

 「しかし、もっと南なら、米も栽培できたのに・・・」

 「まぁ 味噌があって、鮭があって、うどん、ソバがあれば、我慢できないこともない」

 「しかしなぁ 白い飯を食いたいな。酒も・・・」

 「そうだ・・・ソバで焼酎を作ってなかったっけ」

 「んん・・・いまひとつだったな」

 「若いやつは白い米を知らないから良いが俺たちは辛いな」

 「そうだな」

 「しかし、俺たちも、見よう見真似で良くやってきたよ」

 「日ノ本の伝統文化は、残したいからな」

 平泉の伊達者達は数が少ないことでインディアンとの融和を模索していく。

 

  

1675年

 摂津・河内で延宝の飢饉(1674年〜1675年)

 飢饉あるところに海里カズサと永未ショウエは現れる。

 南蛮物や米俵で娘を買うこともできるのだから悪い取引でもない。

 もちろん、現地、豪商との伝も必要だった。

 日本庭園があって、水琴音が時々響くと気持ちが少し和んだりする。

 大黒屋

 「これはこれは、海里様。朱雀の庄は、随分大きくなったと聞いてますよ」

 「ええ、まぁ おかげさまで」

 「まったく、幕府の保身には苦労させられますよ」

 「金銀の国外流出、外国勢力と諸藩の結託。悪徳の蔓延。防ぎたいのは、わかりますがね」

 「ですが、こういう、飢饉のときまで、杓子定規にやられては困りますよ」

 「潮の流れが悪くて遅れてしまいましたが、食べさせるのも大変だったでしょう」

 「ええ、できるだけ早くお持ち帰りしていただきたいですな」

 「わかっています」

 ドタドタ! ドタドタ! ドタドタ! ドタドタ!

 喧騒が響く

 そして・・・

 「大黒屋! 娘達の人身売買の疑いがある。屋敷内を検める」

 「こ、これは、これは、お代官様。なにか、誤解をされているようで・・・」

 「大黒屋に奉公に出した娘の音信が途絶えたのだ」

 「そ、そうですか?」

 「娘らは、まだ、到着していないと聞いてますが、では、茶菓子でも・・・」

 「そんなものはいらん!」

 「・・・・」

 「そっちの男は何者だ?」

 「この者は 海 で、海苔を頼んだ者」

 海は、江戸で登録される。

 「ど、どこの出身だ!」

 「長崎の桔梗屋で働いている、海里カズサと申します」

 悪徳商人ネットワークが構築されて、問い合わせても、形式通りの答えしか返ってこない。

 また小さな商いだけで潰れてもいいような店ばかり。

 役人が屋敷の中をくまなく探し回るが娘たちは発見されない。

 「じ、邪魔したな、大黒屋」

 「お役目、ご苦労様です」 深々

 3者納得の猿芝居で内心ドキドキだとしたら、かなり笑えたりする。

 役人も仕事柄、時々、しなければならないことがあった。

 出世欲に獲り憑かれ本気になるか、

 のほほんと安寧に過ごすか、役人しだいでもある。

 「済みません、まさか、今日来るとは・・・」

 「まぁ こういうのは、刻限を示し合わせようとしても、難しいですからね」

 「娘達を助けても生殺し。遊女になるか、飢えて死ぬだけなのに・・・」 ため息

 「お役人様も、わかってて、やっているんですよ。これで、しばらくは、安泰のはず」

 「朱雀に行けば、3期作、3毛作。何でも御座れ、嫁入りも、遊女も、本人の裁量と運次第なのに・・・」

 「羨ましいですな」

 取引は別の場所で行われている。

 互いに物と人を確認すると、中間にあるここに合図を送るだけ。

 そして、ここで、示し合わせて、取引成立の合図を送るだけだった。

 

   

 江戸城

 北方開拓は、参勤交代と並んで諸藩を力を削ぐのに役立つ。

 しかし、封建社会そのものが人間の自由と権利を制約するため幕藩体制の不安材料は消えない。

 「最近、密入国が増えていると聞いているが?」

 「中国人は満州族の反発から。朝鮮人は貧しさから日本に逃れてくるようだ」

 「元寇のような事は、して欲しくないな」

 「日本が売却した日本刀。威力は知られているはず」

 「合戦は、弓と槍だよ」

 「気休めでも良いよ。西国の守りを整備させた方がいいな」

 「ドサクサにまぎれて琉球を落とすからだよ」

 「朱雀に行く途中で立ち寄るからね。北は?」

 「扶桑の木材は使える。温泉も出るそうだ。米は作れぬが生きていけるらしい」

 「北方開拓のおかげで竜骨付きの船を建造できるのは良いとして、融通が利かないらしい」

 「定期船だとそうなるよ。しかし、沈む心配は少ない」

 「南は?」

 「南方のポルトガル、スペイン、オランダ、イギリスは南蛮の地を押さえにかかっているそうだ」

 「朱雀は大丈夫だろうか?」

 「大砲を自前で造っている。たぶん大丈夫だろう」

 「蘭学者も、商人も、表向きキリスト教との接触を禁じている」

 「朱雀で外国の動きを監視できるなら良かろう」

 「注意すべきはキリスト教だ。こいつが国内に入ると、おかしくなる」

 「しかし、キリシタンを完全に排斥してしまうと天災や失策をキリシタンのせいにできず辛い」

 「その辺は、舵取りが必要だな」

 「幕府が悪天候や飢饉のたびに民衆の恨み辛みを被るのは面白うないからの・・・」

 「摂津・河内の飢饉もキリシタンのせいにして、救援米を送れば、幕府の権威も保てよう」

 

 

 江戸吉原大火

 ソバ屋で海里と永未がソバを啜っていると悲鳴に気付く。

 表を見ると大火が空を焦が江戸を燃やしていた。

 「永未・・・凄いな・・・燃えてるよ」

 「家が木で作られているからな」

 「石は燃えないけど、いやなんだな」

 「大理石が取れないからじゃないか」

 「・・火事場泥棒だ!!」

 誰かが叫ぶと、燃えている方向から荷車を押す一団がやってくる。

 自分の家から持ち出した者か、火事場泥棒か、

 怪しいのがごろごろいる中、確かに火事場泥棒らしい一団。

 持ち出している者たちと持ち出した物が士農工商の枠を超えて違えば、疑われて当然。

 擦れ違いざまに辺りに血吹雪が飛んで荷車が止まっていく。

 火事場泥棒は3人とも、腕を斬られていた。

 『見事・・・』

 腕を立て筋に沿って斬るなど芸術。

 止血すれば、直りも早そうだった。

 そして、腕を斬った3人の侍が、ゆっくりと、海里と永未を睨みつける。

 「ちっ! やっちまったぜ」

 「しょうがないですね」

 「ばれたかな」

 !?

 「お前達を探っていたのだが、うっかりした」

 『『言わなきゃいいのに・・・』』 海里 & 永未

 「・・・なんで?」

 「お前達。本当に “海” で朱雀の御用商人なのか?」

 「え、へい、そうです。お侍様」

 「藩潰しとか、人買いとか、しておらぬだろうな」

 「ま、まさか、真っ当な。商人です」

 「・・・まぁ いい、今日のところは引き揚げてやる」

 去っていこうとする。

 「「「・・・・」」」

 「「・・・・」」

 「「「・・・・」」」

 「「・・・・」」

 「・・・名前は? 聞かないのか?」

 『『言いたいのかよ』』  海里 & 永未

 「・・・はぁ 見事な腕前。さぞ、高名なお侍様では、名前をお聞かせください」

 「葵」

 「流」

 「水面」

 「あ、そう」

 すたすたすた。

 「「「・・・・・・」」」

 君子危うきに近付かず。

 

 

1677年

 この頃、日ノ本から瑞穂まで島伝いで小型・中型船の定期ルートが作られていた。

 キリシタンは戻ることはできなかった。

 しかし、船賃さえ払えば行くのは自由。

 手紙の往復も金次第。

 おかげで、キリシタンの出航は後を絶たず、需要もある。

 囚人の遠島もキリシタンの船賃で賄われているほどで、

 キリシタンと囚人が同じ扱いなのが当時の風潮。

 キリシタンの無害・有害・有益諸説あれど、

 伝染性の強さでキリシタンは囚人より上だった。

 とはいえ、経済は、正直。

 グアム、スペイン城砦。

 日本人キリシタンとスペイン人宣教師が並んで釣り。水平線の向こうを見つめる。

 「黒い紙、食べてぇ」

 「海苔だよ」

 「次の船は、まだ来ないのか?」

 「まだだな」

 「今度、花火頼んでくれよ。また見たい」

 「そうだな」

 伊豆諸島、小笠原諸島、硫黄島、マリアナ、カロリンなど、

 途上の島々には宿舎が作られ、それなりに潤っていたりする。

 途中のスペイン人たちは物々交換を得られて刺激があるのか、

 日本人(キリシタン)町を認め宿舎も作らせていた。

 瑞穂島の日本人は、人口15万人でキリシタンと罪人ばかり。

 道が造成され、日本風城郭が建設され始める。

 時折、訪れるスペイン、ポルトガル、オランダ、イギリスの船との交流も進む。

 彼らも、瑞穂を中継地点。暇潰しで利用していた。

 米と水、山羊、ブタ、牛の干物を欲し、瑞穂も交換に応じる。

 スペイン、ポルトガルは、勢力を拡大する瑞穂カトリックを注目したりする。

 

 瑞穂

 天草四郎56歳。

 老いた天草四郎は、瑞穂カトリックのあり方で決断を迫られていた。

 このまま、カトリックで行くのか、

 プロテスタント系の影響を受け、キリシタン同士の紛争を抱え込むのか。

 「・・・・」

 ため息

 「天草様、カトリックとプロテスタントの軋轢。大きいですな」

 「仏教も類似性がある」

 「仏陀に信仰の主柱を置く 南無阿弥陀仏 系がカトリックなら」

 「仏陀の教えに信仰の主柱を置く 南無妙法蓮華経 系がプロテスタントに当たる」

 「確かに・・・類似しています。しかし、我が瑞穂はカトリック」

 「キリスト教も、仏教も、似たような分岐を経験をする」

 「どっちが正しいというより」

 「日本のキリシタンは、行きがかり上、カトリック系が多いだけに過ぎない」

 「・・・プロテスタントに付くので?」

 この時期、イギリス、オランダが強くなっていた。

 「キリスト教に弱点があるなら、キリストのセリフの中に家族的な繋がりの指標が少ないことだろう」

 「日本人は、善悪より損得を重視する。善悪を曖昧にして癒着しやすい」

 「自己主張より、長いものに巻かれやすいから、衝突が起こり難く」

 「宗教が生活から切り離されて形骸化しやすい」

 「そして、家族的な繋がりを重視するため」

 「個人の罪を追及していくと違和感を与えて、日本のキリシタン布教を阻害している」

 「では?」

 「聖書を独自解釈をすべきだろうか」

 「それは危険では?」

 「聖書に反していないのなら構わないだろう」

 「比重が違うだけだ。夫の言うことを神の権威を盾に妻が聞かなくなったとか、笑えぬからな」

 瑞穂カトリックは、東洋的な仏教や儒教を取り入れつつ、

 十字架、復活を後回し、家族重視の信仰を強調。

 神父が妻帯すると神志(しんし)と名称を変え、

 同じ役回りで、微妙に安定させてしまう。

 ローマカトリックの神父は、隠れコソコソ妻帯していたり、愛人作ったり、不真面目な者もいる。

 瑞穂カトリックは、神父じゃなければ良いと逃げ道を作ってしまう。

 というわけで、瑞穂カトリックの非キリスト教化?

 言い張ればプロテスタント化が進んでいく。

  

 

 この頃、日本列島の主要幹線道路の本格的な造成が行なわれ、

 幕府の目が五畿八道のほとんどに及ぶ。

 道幅が広げられ、参勤交代で宿場や沿道が整備され、安全性も高まっていく。

 参勤交代の大名行列に刺激され、天下泰平。

 戦国のない日常が続くと旅もしたくなるのが人情。

 また、病を患ったり、生まれつき持病を持っていたり、

 犯罪の贖罪などの理由で有名神社にも行きたくなる。

 関所破りは重罪なれど、通行手形があれば伊勢参りは自由。

 日光東照宮、善光寺の参拝も出来た。

 通行手形がなくても東海道であれば、江戸を出ると、箱根関。

 静岡県の手前までの旅を楽しめる。

 もちろん、女の一人旅も、男の一人旅も、危険だった。

 しかし、旅は道連れ、世は情け、

 団体になっていくと安全性も増していく。

 日本遍歴紀行なるものが出版されるようになると、

 次第に華やかさを求め始め町民文化の下地が作られていく。

 

 

1679年

 朱雀

 朱印船から日本人が降りてくる。

 蘭学者にとっては、夢の世界で学べるものは蘭学だけに留まらない。

 ここで学んだ内容を形式上、蘭学ということにしているだけで、

 イギリス人も、オランダ人も、スペイン人も、ポルトガル人もいる。

 華僑もいれば、ペルシャ人、アラブ人まで・・・

 いくつもの文化に触れることが出来た。

 少し華奢男は蘭学者の藤沢ケイゴ。がっちりしている侍は、屋沼ヘイハチ。

 「すげぇ〜 朱子学バカを見返せる〜」

 「あれは、権威を守るのに有用だからね」

 「国学を否定するつもりはないよ」

 「だけど、知識は公平だよ。剣と同じ、誰が持っても剣。誰だって良い剣が欲しい」

 「きっと、身の丈にあった剣を欲しがると思うよ」

 「勿体無いなくて打ち合えない名刀もあるし」

 「野次るなよ。見返してやりたいんだから」

 「だけど。あつい〜」

 「しかし、ここが朱雀か、なんか活気があるな」

 「南蛮人とか、漢人がウヨウヨいるぜ」

 「だけど、すげぇ〜 町並み。江戸か?」

 「羽織、袴もどきは、絹か、麻だな」

 「木綿は厳しいか」

 「食い物も色々あるんだな。落ち着いたら噂に聞く、トムヤムクンを食べようぜ」

 「じゃ 家を借りるか、買いに行くか」

 「朱雀で作って、商館で割り振っているらしい」

 「さすが商人の国、上手いねぇ〜」

 「国境付近が安いらしい」

 「象が通れない川と堀に面して、長屋風に外壁を作っているそうだ」

 「内側に少し作物を植えられる」

 「住んで外壁を守れってか?」

 「いまのところ、平和らしいよ」

 「おれ、新陰流なんだぞ。使いてぇ〜」

 「ちょっと時代錯誤だろう。銃の時代じゃないのか」

 「いや、新陰流と日本刀が最高だと思いたい」

 「ん? あれ、なんだ?」

 格闘技らしき演舞をしている若者たちがいた。

 「・・・ムエタイだって」

 「おれの心眼流柔術とどっちが強いかな・・・」

 「先に家だよ」

 「そうだった」

 「そういえば、バタニ、ビルマ、トンブリー(タイ)、南蛮で日本人の傭兵を欲しがっているらしい」

 「うんうん。山田長政に憧れているんだ。自分の国を作りてぇ」

 閉塞的な徳川幕府体制を嫌う密出国者は、海外に扉が開かれた朱雀・瑞穂に向かい始める。

 

 

 

 

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 月夜裏 野々香です

 海里カズサと永未ショウエは、ツカサとヨヘイの子供、または、孫でしょうか。

 やることは、やっていたのでしょう。さすが悪党です。

 公儀隠密(葵、流、水面)たちも2代目か、3代目で世代を超えた腐れ縁。

 朱雀を増強していくため、母国の血を必要とし、

 母国の日ノ本も血の巡りを良くするため血を抜く必要があるような、です。

 日ノ本が鎖国してしまったので歴史の暗部、闇部というヤツで、しょうがない、という感じです。

 たぶん、教科書には載らないかも、

 何で一般渡航が禁じられた朱雀、瑞穂で日本人が増えたのだろうか、

 考えちゃいけません。

 

 朱雀・瑞穂移民で反徳川・キリシタン・浪人・犯罪者など不穏分子が減少したことで、

 新身分の “海” と北方開拓で、諸藩の造反を抑制しつつ、街道を整備、

 大型外様の脅威を低下させる。

 徳川幕府は、重商主義・重農主義の対立と、

 朱子学、陽明学、蘭学(洋学)の衝突で内紛が大きくなったため。

 幕府内の内紛を防ぎ、緊張感を高めるため、清国・南蛮船の外敵を利用し、

 徳川幕府は、竜骨付き大型船を維持。

 北方開拓は竜骨付きの大型船じゃないと無理なので、

 そういう事にしておいてください。

 

 というわけで、主役も死んだことだし。これで、おしまいです。

 

 

 第二部を書くかは、微妙です。

 朱雀・扶桑の影響で元禄文化(1688〜1707年)の華やかさに弾みがついたり。

 朱雀が欧州諸国のどこかと同盟を結んで欧州へ乗り出したり、

 地理上の発見をしたり。

 瑞穂カトリックが本場のローマ・カトリックに影響を与えたり、

 アメリカ憲法に影響されて民主化したり。

 銅山・金山・銀山を開発してしまったり。

 明治維新がソフトランディングしたり、違う維新になったり。

 伊達武士&インディアン連合 VS 騎兵隊とか、楽しそうですが・・・

 

 

 

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第08話 『キミンの戦い』
第09話 『新たな血脈』 完