月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想歴史 『キミンの時代』

    

  

   

 第08話 『キミンの戦い』

1665年

 日本の北方開拓は、蝦夷、樺太、扶桑(カムチャッカ半島)へと進んでいく。

 諸藩の力を削ぎつつ、不良浪人の禄の分配になるのだから悪くもない。

 一時は、大和(アラスカ)にも船足を伸ばしたが帰還の困難さを考えて撤退してしまう。

 そして、この頃の清国は強大だった。

 清国人は、沿海州で日本人と接触すると日本勢力を追い出してしまう。

 救いがあるとすれば、樺太を日本の領土と清国に認めさせたことで、

 日本と清国の関係は、落ち着く。

 

 この頃の清国は、中国大陸を支配し、日本のみ、朝貢を行なってない。

 清国も島国の日本と事を構えるより、

 大陸伝いに勢力を伸ばす方が楽で日本と清国の間は疎遠だった。

 一方、清国に占領されている朝鮮人は・・・

 「日本を討伐するニダ。偉大な満州族の清国なら、できるニダ」

 やっかみ、妬みで、清国に日本占領を訴え続ける。

 

 第二次英蘭戦争(1665年〜1667年)

 

 

 1666年

 ビルマのアユタヤ侵攻が激しさを増していた。

 このとき、朱雀は積年の恨みでアユタヤ攻撃を画策する。

 アユタヤ事件は日本人の傲慢さを発端にしており、

 この地も反乱で奪ったのだから、お互い様とはいえなくもない。

 しかし、その後も国境で小競り合いが続き、

 犠牲者を出したりすると、やはり、積年の恨みになるのだろう。

 しかし、違う勢力に反発されてしまう。

 朱雀は、傭兵の国ではなく商人の国だった。

 利益を求めて動き、利益に従って働く。

 その支配圏は10もの日本人町に及んで利害も複雑に絡んでいた。

 大量の日本刀が作られてビルマとアユタヤに供給されていく。

 武器や防具を輸出すれば、危険な目に遭うこともなく、

 殺し合いに参加することもなく復讐できた。

 しかも合法的に財産が増えていく。

 

 

 

1667年

 ビルマ軍の攻撃によって、アユタヤは滅びつつあった。

 ビルマとアユタヤの象兵同士がぶつかり合い、兵士たちが隊列を乱して押したり退いたり。

 朱雀船の日本人たちは、高みの見物をしながら金儲け。

 朱雀船がチャオプラヤー川を上って、アユタヤで救難活動をしていた。

 適当な大きさで少数といえど大砲で武装した船を持っていたからといえる。

 アユタヤ王宮の財産を根こそぎといってもよく。

 ビルマが殺して奪うなら、朱雀は助けて奪う。

 ポルトガル人町も、オランダ人町、華僑も、戦乱に巻き込まれる前に可能な限り財物を持ち出していく。

 しかし、持ち船に乗せられない分は、半分取られても朱雀船に乗せるしかなかった。

 この頃の朱雀船は、準ガレオン船で武装を除けばオランダ船に負けないほどの構造になっていた。

 アユタヤ王朝のお宝を載せた朱雀船は船足も重く、川を下って逃げていく。

 「またどこかの国が戦争して滅びないかな・・・」

 「うんうん」

 「今度は、タイ人は持ち逃げした資財で復興するから、手伝って上げて、また儲けような」

 「うんうん」

 にんまりと微笑む朱雀人たちがいた。

 

 

 朱雀の庄

 豪商たちの合議で執政を行うシステムは、既に堺で行われていた。

 幕府の手が届きにくい朱雀は、それが特に強くなって商人の国。

 合議の上で傭兵に予算が振り分けられ、海軍と守備隊に分かれる。

 そして、様々な情報が集まって物事が決められていく。

 商人にとって、利益を得られる情報は派閥力学より優先する。

 「アユタヤがついに滅んだか」

 「ドサクサにまぎれて、いろんなものを奪ってきたらしい」

 「いや、助けて上げて、お礼を頂いたんだろう、立派な人助けじゃないか」

 「敵に塩を送る。情けは人のためならず。先人は良く言ったものだ」 うんうん

 「ところで、日ノ本で動きは?」

 「・・・タタラの一部が北に向かっているらしい、有望な鉱山でもあるのかもしれない」

 「人口が増えたから鉄も必要だろう。北の大地に鉱脈が、あっても、おかしくない」

 「どちらにせよ。北の開拓は、木材も、鉄もいる」

 「ところで、イギリス勢が強気になっているようだ」

 「オランダが陰りを見せ。ポルトガル、スペイン勢は駆逐されている」

 「欧州域はともかく。東南アジアだと、まだ、オランダが強いよ」

 「しかし、オランダとイギリスは、生産地を押さえて。東南アジアの交易は、うまみが少なくなっている」

 「欧州勢の要塞やガレオン船は、大砲も銃も強い、難攻不落だからな」

 「朱雀は、もっと強力な大砲と銃がいるな」

 「日本から有力な鉄砲鍛冶を引き抜いている」

 「しかし、まだオランダ、イギリスが強い」

 「ん、引き抜き? 誘拐だったのでは?」

 「あはは・・・あの手の職人は、頑固で動かんからな・・・」

 「しょうがないよ。日本の鎖国は止められないだろう」

 「イスラム勢力や華僑勢力は?」

 「人口が多く、商業も強い」

 「当然、政治的に密接に食い込んでいる」

 「イスラムは宗教的な面で有利だな」

 「日本人は、その点が苦手なようだ」

 「欧州勢の支配は船が強く、要衝を抑えつつある」

 「朱雀船は、ガレオン船に負けるよ」

 「それに朱雀の土地に集中し過ぎて他で遅れを取っている」

 「船と武器で負けるとそうなるな」

 「しかし、朱雀の独立のため、もっと、日本人を結集させるべきだ」

 「フィリピンを占領すれば、日本との関係も強固になるのでは?」

 「いや、徳川幕府に近づき過ぎるのは、好ましくない」

 「それにスペインとの約束でフィリピンの日本人町は自治が認められて動きやすい」

 「無理に戦う事も無いのでは?」

 「だが、もう少し、日本人を増やす方が朱雀も安泰で良かろう」

 「そういえば、一関藩、伊達家の者が来たな」

 「いや、ほとんど、メキシコに向かったらしい。計算外だな」

 「反乱を起こした家族に大型ガレオン船2隻をくれてやるとは、たいした大盤振る舞いだ・・・」

 「バカ殿と言われるだけはあるな」

 「伊達家62万石の大きさから、こういうこともあるのだろうな。今後は、もっと、検討すべきだ」

 「こういう状況は、めったにないから、次は、上手くやるべきだろう」

 「藩潰しより、飢饉を利用すべきだろう。農民は役に立つよ」

 「しかし、権威に毒された家老や役人など、いらん」

 「農民に朱印船の操船は酷だろう」

 「一定の水準以上の教育を受けていなければガレオン船を動かせんぞ」

 「彼らは肉食で香料を欲しがっている。買い物が違えば衝突も小さい」

 「しかし、生産地を兵隊で抑えるとは野蛮だな」

 「武力で現地勢力を抑えると維持費が高くつく、あまり真似できないな」

 「人のいない無人島や人の少ない未開地を占領すると」

 「最初の負担こそ大きいが一定以上の人口が増えると楽だ」

 「アユタヤを占領すれば、常に1万以上の兵隊を抱えておかなくては」

 「いま朱雀に住んでいる日本人は?」

 「35万程度だ。国境線は押さえているから、ビルマも、バタニも手が出せないだろう」

 「しかし、旧豊臣とキリシタンが多いな」

 「キリシタンも、カトリック系とプロテスタントに分かれ始めているぞ」

 「まだ、対立まで、行ってないだろう」

 「キリシタンのイギリス、オランダ、フランス、イタリア、ポルトガル、スペインへの渡航者も少なくない」

 「もっと、増えるかもしれないな」

 「お家大事、長男大事で、あまった次男以降は、こっちに来やすいのでは?」

 「幕府は “海” の地位は曖昧にしている」

 「一方通行は、いいとしても日本人の移民を制限されると面白くないぞ」

 「いや “海” は、北方開拓が主流になりつつある」

 「大型朱印船が維持されているのも北方の海は大型船がいいからだ」

 「太平の世で、あぶれた浪人は “海” で吸収されて北の開拓にまわされている」

 「朱雀の価値は相対的に低下しているな」

 「武家社会より自由に動ける朱雀。信教の自由が保障される瑞穂は人気があるのでは?」

 「農民が江戸で “海” になったあと才覚に任せて武士や商人を目指す者もいる」

 「取捨選択しながら徳川方の人間にして人材を生かせる “海” 制度は優れているよ」

 「若者は夢を求めるからね」

 「たぶん、キリシタンと、はみ出し者は来たがる」

 「朱雀を藩にするのは? 日本からの移民は増やせる」

 「藩主を立てると騒動の種になるよ。幕府も二の足を踏んでいるらしい」

 「一度、藩にして日本人を増やすのも、あるのでは?」

 「江戸から大名を送るのか」

 「まさか、既に現地にいる有力者、我々の中からを大名にする方が合理的だ」

 「・・・・権威を作るのは楽だ。上意下達も早いし安定する・・・しかし・・・・」

 「良し悪しだな。封建主義は止めようよ」

 「媚びへつらいは醜いよ。あの気持ちの悪さには付いていけない」

 「いまの朱雀に一番近いのが地中海のベネチアらしいが」

 「当主は市長だったかな。選挙で選ばれるらしい」

 「健全なのか。それ?」

 「さぁ 健全なんて、二の次、我々の利権が守られれば良いよ」

 「瑞穂は、どんな様子だ?」

 「水田が広がっているそうだ。自給自足はできるらしいが人口は2万に満たないらしい」

 「瑞穂は、どうするのだ」

 「瑞穂なら天草四郎を大名にする手もある」

 「踏み絵でキリシタンを見つければキリシタンは、瑞穂に集まる」

 「たぶん、幕府は、鎖国前に浪人やキリシタンをこっちに送るだろう」

 「期待したいね。あと、飢饉のときは、忘れずに行かねば」

 

 

 瑞穂の庄

 戦いが起こっていた。

 水田・田畑が襲撃された後、キリシタンは人食い人種の嫌悪感が募って、攻め立てていた・

 さらに幕府に責め立てられた裏返しで掃討作戦が始まる。

 意思疎通に十分足りる言語と知識を共有できる文字を持つ文明は高度な作戦が可能であり、

 数が増えると戦力だけでなく、戦法の幅も広がり優位になっていく。

 戦国時代が終わっても兵法書は伝わり、兵術も、その気になれば復活させられる。

 「放て!」

 人食い人種を不利な場所へ引き込んでは投石し、

 数百本の矢を谷に向けて放ち、人食い人種たちを倒していく。

 放って置くと別の人食い人種が集まってきて、同じように攻撃。

 最終的に部族ごと殲滅させていく。

 「殺して撃ち捨てるのと、食べてしまうのと、どっちが、どうなんだろうな」

 「米も大豆もある、小麦も魚も取れる。誰でも隣の人間に食われると思うと社会は成り立たないよ」

 「だな・・・」

 粗方片付けると死体を埋め、次の部族を攻撃。

 瑞穂の民も地場を広げていく。

 

 

 平泉(バンクーバー)島

 山がちな島(3万1285km²)。緯度は高く寒い、

 標高600m〜1200mの山が連なり自然は豊かだった。

 先住のインディオは、島の西岸ヌートカ族。南岸・東岸サリシュ族。北部・中部クワキウトル族。

 大陸側にウォキャシュ族・・・

 運がいいのか、どの種族も自然調和を好み大人しかった。

 しかし、居住地を定め漁業を行い、山で作物を探しても穀物は少しずつ食い潰されていく。

 「おっ! 釣れた」

 「何で、こんなに釣れるんだ?」

 「・・・ニシンだ。またカズノコかよ。鮭とかも多いし」

 「おまえ、日ノ本でカズノコは涙もんなんだぞ」

 「わかっちゃいるが毎日だと辛いぜ。ご飯も食べたいし」

 農地や畑を整地し、作物を植えても元武士は見よう見真似。

 一緒に連れて来た遊郭の女郎の方が得意だったり。

 伊達・一関藩の家族600人足らずは、環境の変化に堪えられず。

 年老いた者、弱い者から病に倒れて減っていく。

 言語が違うと対外交渉も困難。

 しかし、子供同士が遊んだりすると遊び半分で覚えが早く。

 発音も正しかったりする。

 伊達・一関藩は、釣り糸(テグス)を持ち、インディアンと有利な取引ができた。

 

   

 朱雀の庄の小さな屋敷

 海里ツカサと永未ヨヘイは、老い行く余生を食っちゃ寝で過ごす。

 二人の世話を焼いているのは、日ノ本で誘拐した娘、キキョウとオトネ。

 二人とも、極悪非道な藩潰し、人買いを生業にしてきた割りに余生は平穏。

 朱雀の庄は、日本風の縁側も珍しくなく、

 山間に沈む夕陽が空とハイビスカスの花の赤みを染め上げる。

 「もう、黄昏だな」

 「俺達も、もう、老いぼれたな」

 「ふ もう、迎えが来るのを待つばかりだな」

 「海里。相続は済ませたのか?」

 「ああ、後は・・・死ぬだけだ」

 「・・・南国の太陽の方が肌に合うな」

 「しかし、人生を振り返っても悪党まっしぐら、ろくな思い出がないな」

 「お互いにな」

 「自分を生み育ててくれた南蛮貿易を守りたかった・・・」

 「そりゃ 幕府の権威を守ろうとする役人たちと、ぶつかるだろうよ」

 「そうだな・・・・・・」

 「・・・!? 海里・・・」

 数日後、

 永未ヨヘイも、海里ツカサの後を追うように逝く。

  

 1668年

 徳川幕府は、南蛮貿易で力を付け外国勢力と組む諸藩を恐れ。

 窓口を朱雀、瑞穂。樺太・オハだけとし、完全鎖国してしまう。

 

  

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 月夜裏 野々香です

 海里ツカサ、永未ヨヘイ 主役が死んでしまいました。

 ぶっちゃけ、時代劇の悪役、なかなかの悪党振りでしたが歴史は変わりました。

 人買いの被害者は不幸だったかも。

 しかし、窮屈な日本の封建社会より、

 心機一転、斜めチョイ上という感じでしょうか。

 日本は、鎖国して、参勤交代と北方開拓で諸藩の力を削ぎながら、

 北の蝦夷、樺太、扶桑(カムチャッカ)半島を固めていきます。

 朱雀、瑞穂、平泉は、好きにやってくれでしょうか。

 

 

 釣り糸のテグスの材料は蚕で、慶長年間(1596年〜1615年)には知れ渡って使われたそうです。

 伊達・一関藩が最初の冬を生き延びたのも、これが大きいかもです。

 

 

 史実

 1616年 明船以外の船を長崎・平戸に移す。

 1641年 オランダ商館を長崎に移して鎖国完成。

 

 1642年 寛永の大飢饉が終わったので、残りはあと三つ。

 1732年 享保の大飢饉 餓死者12000人以上 (餓死者969900人説あり)

 1782年 天明の大飢饉 餓死者30万から50万。

 1833年 天保の大飢饉 35年〜37年で最大。餓死者・・・たくさん。

 朱雀は、残った飢饉を利用して人口を増やし、力を付けられたら・・・

 

 

 ちなみに間宮海峡(たぶん違う名前)を挟み、

 樺太・オハに清国と窓口を作って大陸の情報を直接入手できて、朝鮮とも鎖国です。

 

 

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第07話 『日ノ本 伊達騒動』
第08話 『キミンの戦い』
第09話 『新たな血脈』 完