月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『国防戦記』

 

 

 第01話 1942/06/05 『破 綻』

 4つの黒煙が洋上に立ち昇っていた。

 ミッドウェー海戦で日本機動部隊の主力空母、赤城、加賀、飛龍、蒼龍が失われた。

 

 料亭

 ミッドウェー海戦の敗北でショックを受けた艦長が二人いた。

 「問題は、大本営だな」

 「攻勢の限界を超えているのに後退イコール無能の発想でレッテル貼るからだ」

 「民族感情振りかざして戦争か。脳みそ、膿んでいるんじゃないか」

 「どいつも、こいつも、見境なくして負けるまで戦う。もうガキの喧嘩だな」

 「国力が小さい上に年功序列、権威主義、陸海軍の派閥抗争で膠着化か・・・」

 「戦争で柔軟性を無くしたらお終いだよ」

 「たぶん、輸送できなくなったら撤退とかじゃなくて、転戦とか言い出すぜ」

 「いまのうちに将兵を撤退させないと、見殺しで餓死かもしれないな」

 「ふっ バカがどもが・・・」

 「しかし、どうしたものか」

 「採算効率を考えると無駄を省いて、不足な戦力と交換したいね」

 「予算を使い切ることが正しいのだから。効率とか、採算とか気にするものか」

 「んん・・・お役所は、お小遣い帳で損益計算じゃないから・・・」

 「特に軍部は浪費が大きい」

 「軍部は、財政破綻しても、予算増加と組織拡張を望むから外征以外に道はない」

 「「はぁ〜」」

 

 

 1942年07月01日

 日本の希望はミッドウェー海戦の敗北で打ち砕かれていた。

 国力で勝ち目がなく、じり貧となっていくのは明らかで、主戦派将校も空威張りするばかり。

 元々、兵器、精神力に頼り、大国アメリカ合衆国に戦いを挑むこと自体、無謀だった。

 誰も、彼も、断罪を拒み、

 責任転嫁と臭いものに蓋の庇い合いで有耶無耶・・・

 己の不明を認めず派閥と保身に身を寄せる愚か者が大多数といえる。

 もっとも責任の所在をはっきりさせ断罪処罰させると派閥抗争、利権抗争で混乱を生むばかり。

 利己主義と保身は、戦争の勝敗より優先するのが日本軍官僚の正体といえた。

 「戦線を後退させましょう」

 二人の士官が呟いた。

 「まだ戦える!」

 「戦艦2隻で、アメリカ軍の侵攻を3年遅らせてみますよ」

 「その間に反撃の準備をしていただきたい」

 「扶桑と山城でか?」 嘲笑。

 「ええ、扶桑と山城でトラックを守り通して見せます」

 「た、例え、トラックを守れたとしても、ニューギニア方面から侵攻してきたらどうする?」

 「その時は、残りの連合艦隊で迎撃すればよろしかろう。扶桑、山城抜きでは勝ち目がないと?」

 「数が多い方が有利に決まっている」

 「艦隊の半分をトラックを守るため振り分けるよりマシでは?」

 「陛下の裁可も得た戦艦をそんな事に使えるか!」

 「そうだ。戦うのが怖いというのなら扶桑と山城から降りろ!」

 「代わりの艦長ならいくらでもいるぞ」

 「ほう・・・ミッドウェーの尻拭いをしてやろうというのに酷い言われようだ」

 「なっ!」

 「最前線に残ると言ってるのに臆病者扱いですかな?」

 「・・・・」

 海軍首脳部は、硬直した思考から抜け切れない

 

 

 8月1日

 日本軍は、ガダルカナルから撤収。

 「トラックで一休みか」

 「トラックで土木建設作業をやらされるらしいよ」

 「またか・・・」

 

 

 8月7日

 米軍、ソロモン諸島のガダルカナル島、ツラギ島、ガブツ島、タナンボゴ島に上陸

 

 9月12日

 日本軍は、ラバウルから撤収。

 

 

 9月15日

 伊19潜が米空母ワスプを撃沈。

 

 

 10000トン級輸送船が最前線のトラック環礁に入港する。

 人海戦術で鉄筋、セメント、砂、砂利、土嚢袋が積み降ろされていく。

 積み込みと積み降ろしが早ければ停泊日数が短く輸送効率が良くなる。

 そのため総動員で積み下ろしが行われる。

 そして、港湾に積み上げられた資材で陣地が構築されていく。

 コンクリートは、セメント1、砂3、砂利6を混ぜ合わせる。

 セメントを増やしセメント1、砂2、砂利4の比率にするとコンクリートの強度が強まった。

 海岸の砂や砂利は、塩害でコンクリートが脆くなる傾向があり。

 内地から砂利、砂を運び込むと余計な往復と労力と手間と月日がかかる。

 地下10mの防空壕が掘られ、内側にアーチ状の鉄筋が張られ、

 コンクリートで隙間が塗り固められていく。

 人海戦術で飛行場の新設と拡張が進み、

 97式と95式戦車も建設のため利用された。

 地下10mに高さ170cm幅160cmのアーチ状の地下壕が掘られネットワーク網が作られていた。

 

 

 トラック環礁

 ランチに乗った将校が二人、海面を覗き込む。

 浅瀬は、海面に深みがなかった。

 「扶桑は、ここが良いかな・・・」

 トラック環礁の地図を見ながら四方を見渡す。

 「・・・じゃ 山城は、あっちだな」

 「戦艦の墓標か」

 「扶桑型は、どの道、役に立たんよ」

 「そうだな・・・」

 「工事を始めよう」

 「戦前からやっておけば、マーシャルも捨てずに済んだ。手間も省けたものを」

 「特殊鋼20万トンなら戦艦を建造したいと思うよ」

 「戦艦の艦長になりたがるやつがいても、辺境の守備隊長になりたがるやつはいないか」

 「まず、自分で自分の首を切るやつはいない」

 「南洋の守備隊もうまみがないからな」

 「勝ち組は中国と東南アジアを利権がらみで押さえたがるからな」

 「戦争で負けても?」

 「負けるのが嫌になったから戦艦を埋め立ててるだろう」

 「副長に恨みごとを言われただろう」

 「ブツブツ言われたな」

 「出世の道を閉ざされたら、怒るだろうね」

 「自分で部署を潰してしまうなんて、バカな生き方だな」

 「「・・・・」」 苦笑い

 

 

 

春島 夏島 秋島 冬島 日曜島 月曜島 火曜島 水曜島 木曜島 金曜島 土曜島 竹島 楓島 未島  
飛行場 飛行場                   飛行場 飛行場 対空砲台  

 ほか、環礁外縁部の小島。

 子島、丑島、寅島、卯島、辰島、巳島、午島、申島、酉島、戌島、

 亥島、瀬戸島、皿島、花島、宇治島、橘島、南島、八幡島、北島

 松島、椿島、薄島、櫻島、小櫻島、芙蓉島、増島、前島、婚島

 

 環礁の出入りは、北水道、丑島水道、エバリッテ水道、

 寅島水道、北東水道、皿島水道、花島水道、小田島水道、南水道、西水道

 このうち、大型艦船の航行は、エバリッテ水道、北東水道、南水道を使う。

 

扶桑・山城 排水量(t) 全長×全幅×吃水(m) 機関 馬力(hp) 最大速力(kt) 航続距離(kt/浬)  
34700 212.75×33.08×9.69

ロ号艦本式重油専焼缶4基

艦本式オールギヤードタービン4基4軸推進

75000 24.5 16 / 11800 45口径356mm連装砲6基

 

 

 扶桑艦長 木下三雄大佐、

 山城艦長 小畑長左衛門大佐、

 二人は、時代遅れと化した戦艦の使い道を模索する。

 そして、姉妹艦の死に場所としてトラックを選択すた。

 もう一つの侵攻ルートのニューギニア沿いは、大本営に任せる事で矛を納めてもらっていた。

 

 10月

 扶桑と山城は、少しばかりの改装ののちトラックへと配備される。

 その間、アメリカ軍の増援がガダルカナルに送られていたが攻勢はなく。

 今村中将がインドネシアからビアク島守備隊司令に就任してトラックに立ち寄っていた。

 「今村中将。ビアクへ左遷ですか?」

 「インドネシア人を保護し過ぎたかな」

 「信念もほどほどに」

 「自分の戦艦をトラックに沈めたお前らと同じだよ。信念を通して死ねるなら本望だ」

 「そんな投げやりな・・・」

 「扶桑・山城と一緒にニューギニア、ソロモンの最前線指揮官20人を道連れにしたとぼやかれていたぞ」

 「餓死するか、全滅させられるまで後退できないと思っていたので幸運でしたね」

 「貧しくて抑圧された将兵の自殺・犯罪は多い。自殺するより、出世を賭けて戦争したいと思うよ」

 「日本軍の死生観は追い詰められた結果ですからね」

 「しかし、柔軟な思考を失って硬直した軍を後退させられたものだ」

 「戦艦と道連れだからできたことでしょう」

 「精鋭の見殺しも消耗も忍びないですからね、前線から引き抜いて助けただけですよ」

 「しかし、貧民層が唯一出世できるとしたら戦功だろう。恨まれるぜ」

 「赤城、加賀、飛龍、蒼龍は沈没しているんですよ。負けは時間の問題です」

 「そうか・・・まぁ 俺はビアクが墓場でも構わんが・・・」

 トラック諸島の陸地面積100ku

 日本軍はソロモン、ラバウル、ニューギニアから撤退していた。

 陸軍将兵は、扶桑、山城の艦長が生きて内地に帰還できる道を切り開いたと伝え聞いていた。

 誰しも名誉ある甲種合格を望み。

 赤紙を恐れ、徴兵逃れに裏金を使う。

 命懸けの手柄で出世し凱旋を狙う将兵は少数派だった。

 ほとんどの将兵は、生きて帰れないと諦め撤退に安堵する。

 しかし、お礼の言葉を口に出せない。

 逆に進撃を阻んだ二人の将校を恨み、

 不平を言わないと臆病者と烙印を押され、出世が閉ざされる。

 正直者には、軍内いじめが始まる。

 徴兵された兵士が軍隊をやめられるわけがなく、軍内いじめは、死あるのみだった。

 敵軍より軍組織を恐れる将兵は恐慌に襲われ、嘘を付いて保身を図った。

 民間人でさえ、非国民・売国奴の烙印を押されたら村八分。

 無視、誹謗中傷から始まり、暴力を受け、家財資産を奪われ、いびり殺される。

 閉塞した貧しい村社会は逃げ道がなく、本音を隠し、命を削りながら生きていく。

 正義、道徳、道理は通用しない。

 身勝手な口実で弱者・不遇者の間引きに非国民、売国奴が利用される。

 冤罪を押し付け、田畑を奪ったり、娘を手篭めにしたり、いろいろ。

 一度、軍事国家で体制が決まると事勿れで、長いモノに巻かれるより生きる術はなく。

 反発する者は淘汰され、

 弱者は、利権を奪われ生きていけなくなる。

 非国民、売国奴の口実があれば、どんな好人物でも簒奪の獲物にしかならなかった。

 貧しく抑圧された社会では、家族を守るため、押し黙るしかなく。

 戦功でしか出世の道がなく、独り者でさえ怖がって反発できず体制になびく。

 日本は軍事国家。

 国内は、虚構、虚栄、恐慌、自己分裂、自暴自棄など神経質で危険な勢力を抱え込んでいた。

 二人の艦長の行為は、敵から殺される、ではなかった。

 その行為は、味方から殺される社会的投身自殺に近かった。

 とはいえ、戦線を縮小させ、

 最前線に自分の戦艦を埋め立てる心意気に賛同する将兵もいる。

 そして、3年というハッタリが功を奏したのか、

 山本長官の裁量で扶桑、山城の埋め立てが決まる。

 ニューギニア・ソロモンからの帰還兵は臆病、非国民などなど、

 不平を言いながらも献身的に協力し、陸海軍史上、稀に見る珍事となり、

 その後の歴史に残った。

 

 

 トラック環礁、

 扶桑型戦艦の吃水は通常9.69m。

 その海底は深度8mから7m弱の深度しかなかった。

 突起の大きな岩礁を爆破、幅35m弱の道を海底に作っていく。

 ランチから鉄棒を海底に突き立て、岩盤までの距離を図っていく

 「岩盤は?」

 「ほぼ水平です」

 「三度目の正直か、やれやれ」

 「もっと浅瀬の方が良くないか」

 「吃水線からキールまでの水深8m」

 「砲撃時の振動で命中率が低下するとまずい、この程度だろう」

 「爆薬の量を考えれば、この程度か・・・」

 それでも小さな岩礁が残った。

  

 トラック環礁の準備が終わったころ内地で改装された扶桑、山城がトラックに入港した。

 外装を幾重にも塗装し錆び止めがされていた。

 戦艦から物資が降ろされていくと艦は軽くなり、

 吃水が浅くなり時化れば即、転覆とおもえるほど重心が上がる。

 そして、満潮を見計らい浅瀬に向かって突入をかけた。

 「操舵手。重心が高い。引っ繰り返さないでくれよ」

 「わかっています。最後の仕事ですから・・・」

 「ほかの軍艦でも操舵手はできるよ」

 「ええ、わかっています」

 戦艦扶桑の操舵手は誰にでも自慢できる名誉ある役職だった。

 戦艦の乗組員は、冠婚葬祭で鼻が高く、世間体なら最良。

 1300人以上のエリート。

 2隻なら2600人以上の職場を潰し、関連軍属の糧と栄誉を奪う。

 権威主義の世は、地位以外に頼るものがなかった。

 建造中の代艦も少ない。

 怒るのも無理ない・・・

 というより既得権益、世間体、職位。保身のため殺傷沙汰のレベルと言えた。

 とはいえ、部署を守るため日本を危険に晒してもいいのだろうか、といえなくもない。

 空船となった扶桑を満潮を見計らって春島沖の浅瀬に乗り上げ。

 同じように山城を夏島沖の浅瀬に押し込んで乗り上げ、

 両艦は、何度も振動し、停止した。

 あとは、弾薬、燃料、食糧、水を積み込む。

 艦内区画を鉄筋コンクリートで補強し、

 さらに土嚢を作って、艦体を覆っていくだけだった。

 土嚢が全長50cm×幅30cm×高さ10cmで仮計算すると後は土嚢の数が決まる。

 因みに扶桑の水線の装甲板の厚さは30.5cmで土嚢の幅と変わらない。

 戦艦の建造が大変かという目安にもなった。

 扶桑と山城は、軍艦として二度と使えなくなり、不要な兵員は内地へ帰還させられていく。

 主砲関連要員は400人で済んだ。

 主砲塔は発電気モーターで回せる程度であり、

 装甲で補強し鉄筋コンクリートで覆って防弾を強化する。

 扶桑と山城の主砲でアメリカ艦隊を寄せ付けさせないは妄想で、

 一度も火を噴くことなく空襲で破壊される、

 二人の艦長は、そう確信していた。

 扶桑と山城は、アメリカ軍の目を向けさせるだけの囮に過ぎず。

 副砲、対空砲、燃料のほとんどは、陸上に配置し、

 司令部をトラック諸島の地下壕に隠していた。

 艦橋の床に小さな鉄球と置くと転がる。

 鉄球もまともな真球を作れないのか、微妙に揺れたりする。

 「やっぱり、微妙に艦首側に傾いているかな」

 「すみません、艦長」

 「いや、準備してのことではないし許容範囲だろう」

 「海底の地盤まで責任を負わせられん」

 「それに、もう、艦長といえんよ」

 「艦長。埋め立てが始まります」

 海岸で兵士たちが土嚢に砂を詰め込んでランチに乗せていく。

 「ん? なんで内陸の土を使わないんだ」

 陸軍の士官に聞く。

 「土嚢は土じゃなくて砂ですよ」

 「そうなのか?」

 「防弾効果で常識です」

 「鉄筋コンクリートは?」

 「塩害があるのでコンクリートで使う砂利、砂は内地から持ってくるそうです」

 「橋梁計算は済んでいるので扶桑、山城の余剰区画にコンクリートを流し込みます」

 「大変だな」

 「40cm砲弾の直撃でも、1トン爆弾の直撃でもビクともしませんよ」

 「こっちは、的になるから、地下壕の方をしっかりやってくれ」

 「戦艦の主砲が健在ならアメリカ軍は上陸してこれませんよ」

 「そうもいかんだろう。扶桑も山城も集中攻撃を受けるはずだ」

 「地下壕は、地下10mで気休め程度ですが、戦艦の砲弾一発だけなら耐えられますよ」

 「空襲で破壊されなければね」

 「トラックには、台南空が配備されるのでは? 最強の戦闘機部隊と聞いてます」

 「どうかな。日本で最強でも世界で最強とは限らないだろう」

 

 

 トラック航空隊

 春島、ゼロ戦50機、1式陸攻70機、97式艦攻40機。

 夏島、ゼロ戦50機、1式陸攻70機、99式艦爆40機。

 二人の艦長は、1式陸攻と97式艦攻、99式艦爆を減らしても陸軍の三式指揮連絡機を欲した。

 三式指揮連絡機を4方に周回させておけば、ゼロ戦の迎撃は間に合いそうだった。

 そして観測気球。

 まともに機能するなら電探。

 奇襲さえ受けなければ、迎撃時のゼロ戦の数と高度がモノをいった。

 空戦を有利に戦う方法はいくつかあった。

 1) パイロットの技量を上げる。

 2) 機体を改良する。

 3) 機体数を増やす。

 4) 連携・戦術

 5) 機能の比重を変える。

 「航続力を減らそう。増漕の1128km分と航続力は700kmもあれば十分だ」

 21型の航続力は、機体タンク(525L)で2222km。増漕タンク(330L)装備で3350km。

 「航続力を700kmに落とせば、燃料は3分の1で、175Lで済む」

 「胴体内タンクは145Lですから、翼内を使わないと」

 「当面は、増漕タンクで誤魔化そう。20mm機銃60発は、すぐなくなる」

 「使ったらすぐに降りて装弾するしかないだろうし」

 「20mm機銃は100発に増やせるそうです」

 「そりゃ 凄い。気休めでも嬉しいね」

 ゼロ戦21型の機体自重は1680kg。

 それに潤滑油、燃料、弾薬、増漕タンク分の重量656kgが含まれて、全備重量2336kg。

 あとは足し算と引き算だった。

 全備重量2336kgから350kgが差し引かれて、全備重量1986kg

 代わりに後部座席に防弾板14kgを置いて全備重量2000kg。

 1g単位で軽量化をしなくても用兵の妙だけで336kgを浮かせられた。

 火達磨が避けられれば生存性も高まる。

 21型が飛行場を旋回しつつ離着陸を繰り返していた。

 扶桑、山城の艦長らも、航空部隊の司令と顔繋ぎが必要だった。

 「どうだね?」

 「悪くないようですな」

 「パイロットは戦果が挙げられないのが辛いようですが」

 「無駄飯ぐらいか・・・」

 「人の目を気にして、そういう棄てばち攻撃は、いい加減、やめてもらいたいものだ」

 「軍は、徴収とか、徴用とか、徴兵で民間に無理強いしていますから、後ろめたいのでしょう」

 「反戦で逆らえば非国民で村八分、いつ殺されてもおかしくないか・・・」

 「そういう逆意識は、強迫観念となって我が身に返ってくるものですよ」

 「やれやれ、酷い世の中になったものだ」

 「軍人の天下ですからね」

 「戦国時代に逆戻りか、領地が欲しくば盗ってこい」

 「近代国家とは言えませんかね」

 「人は独立してテリトリーを欲しがる」

 「テリトリーが大きいほど生存権を確保しやすく楽ができる」

 「自分が楽をするために他人のテリトリーを侵害?」

 「弱いやつを殺して自分の場を広げたくなるな」

 「自分のテリトリーを潰して、社会的投身自殺した艦長の言葉とは思えんね」

 「ふっ 生きんとする者は死ぬ、死なんとする者は生きる」

 「座右の銘ですか?」

 「いや、遺言」

 

 

  馬力 重量 全長×全幅×全高 翼面積 最高速度 航続力 武装 武装
ゼロ戦21型 940hp 1680kg/2336kg 9.06×12×3.57 22.44u 533 2222km〜3350km 20mm×2 7.7mm×2
トラック・ゼロ戦21型 940hp 1680kg/2000kg 9.06×12×3.57 22.44u 548 700km〜1828km 20mm×2 7.7mm×2
                 
ゼロ戦32型 1130hp 1807kg/2535kg 9.06×11×3.57 21.5u 544 1800km 20mm×2 7.7mm×2
トラック・ゼロ戦32型 1130hp 1807kg/2300kg 9.06×11×3.57 21.5u 556 700km〜1828km 20mm×2 7.7mm×2
                 
ゼロ戦22型 1130hp 1863kg/2679kg 9.06×12×3.57 22.44u 541 2100km 20mm×2 7.7mm×2
                 
ワイルドキャット 1200hp 2610kg/3600kg 8.8×11.6×2.8 24.15u 515 1240km 12.7mm×6  
ヘルキャット 2000hp 4190kg/5714kg 10.24×13.63×4.11 31u 612 1520km〜2500km 12.7mm×6  

 32型

 開戦を前後して開発されたゼロ戦32型は、胴体燃料タンク(60L)。翼内タンク(420L)。落下増漕(320L)

 胴体燃料タンク(60L)のみだと1時間も飛べず。空戦になれば15分もない。

 ゼロ戦32型は、翼内タンクの燃料タンクを4分の1に減らしたり。

 上空待機だと増漕タンクで、軽量化した状態で戦えた。

 「艦長。三菱と中島が納期で余裕ができたと喜んでいるそうですよ」

 「まだパイロットを磨り潰していないからね」

 「まともに飛ぶ戦闘機を造ってくれればいいよ」

 

 

 

 ビアク島(1904ku)

 伊勢、敷島、春日、日進がビアクに埋め立てられていた。

 同じ “陸長” でも自ら己の戦艦埋め立てを望んだ艦長と、

 巻き添えで己の戦艦を埋め立てさせられた艦長では意識が違う。

 伊勢、日向の艦長は、出世と引き換えに赤レンガの住人に納まってしまう。

 結果的にトラックと違って、ビアク防衛の総指揮は今村均中将が執った。

 ビアク島は、比較的大きな島で、97式戦車、95式戦車の配備率が高く100両を越えていた。

 しかし、自給自足策が執られ、

 戦車は、惜しげもなく土木作業用に投入され、水田が広がる。

 食糧自給率に比例して将兵を余計に配備できた。

 ビアク(1904ku)、パラオ(488ku)、トラック(100ku)の順に兵力が多く、

 トラックが海軍主導の島だとすれば、ビアクは陸軍主導の島といえた。

 あきつ丸、神州丸から95式戦車が降ろされていく。

 上陸作戦で有用な艦艇だった。

 しかし、戦線が縮小し、上陸作戦計画がなくなると輸送船代わりに使われていた。

 戦艦 伊勢 艦橋

 「治具不良で戦車の稼働率が低下しているな」

 「アメリカ軍が上陸する前に全車両とも壊れそうだ」

 「貧乏国ですからね。まともな治具も無いのに戦車を土木工事で酷使するからです」

 「将兵が栄養不足だとアメリカ軍が来たときに戦えない」

 「それなら戦車を使って水田を広げたくなるよ」

 「インドネシアで搾取を拒んでいたから、こっちへ送られたんじゃないですか?」

 「だから、迷惑をかけないように、こっちで自給率を高めているだろう」

 「そりゃ そうですが自給率を増やすと内地からの輸送船を減らされますよ」

 「ふ 大本営は、そういうところだからな。現場の意欲を削ぎやがる」

 「もう、どうしようもないですね」

 「しかし、水田が大きくなれば将兵を増やせる。将兵を増やせば大本営は増援したくなるよ」

 「だと良いですが」

 「ビアクは3毛作が可能だから、それで計算するなら、一人200uの水田」

 「20万の将兵が生きていくには、40kuの水田が必要になるよ」

 「現在の兵力を維持するには、戦車を潰しても田畑を広げろと?」

 「米のほかニンジン、白菜、玉ねぎ、キュウリ、ジャガイモで贅沢したければ、もっと土地が必要になる」

 「贅沢は敵ですから “病気になるから野菜も食べたい” じゃないと大本営は良い顔しないかもしれませんね」

 「けっ! 上層部は、料亭で、どんちゃん騒ぎのくせしやがって、いい気なものだ」

 「それにしても戦車は惜しいです」

 「将兵20万が餓死する方が良いのなら別だが」

 「輸送は、行われています」

 「いつまでも当てに出来んよ」

 「しかし・・・」

 「大本営のことは良くわかっているよ」

 「それとも本国から送られてきた食料を上層部だけ一人占めで、兵士に殺されるか?」

 「・・・」

 「心配せんでいい。朝昼晩で一膳分程度確保できれば、戦車は温存するよ」

 「陛下からお預かりした戦車です」

 「一銭五厘でお預かりした陛下の赤子もだ」

 「それはそうですが・・・」

 「将兵同士で食べ物の奪い合いで殺し合いになるよりマシだよ」

 「それに最低限の衣食住を維持できなくなるとモラルが保てなくなる」

 

 

 12月31日

  エセックス

  インディペンデンス

 

 

 軍属たちの晩餐

 「ミッドウェーで負けてしまうとはね。赤城、加賀、飛龍、蒼龍が撃沈だよ」

 「山本長官の独走を許すからだ」

 「だけど、軍特有の処世術とか、最大公約な人心掌握とか、無難な年功序列とか、大事だろう」

 「ふ 日本は、対人関係が重視されるからね。キャリアの順送り制度もあるし」

 「だけど、トラックまで撤収なんて料亭で宴会がしにくいよ」

 「だから、転進にしているだろう」

 「勝った勝ったの宴会は無理でも、宴会はできる」

 「それに扶桑と山城の埋め立てで時間を稼げるだろう」

 「だから埋め立てに賛成したのか?」

 「まぁ まともな官僚は、扶桑、山城を埋め立てる社会的投身自殺志願者くらいなものだ」

 「猪突猛進で膨張主義な軍人が多かったから丁度良かったよ」

 「ていうか、軍需品の売上欲しさで、軍をけしかけたのは我々だろう」

 「駄目だよ。軍事費が減ると贅沢できないし、列強の軍事力に負けちゃうじゃないか」

 「自分で火を付けて自分で火を消すなんてな」

 「でも、アメリカと開戦なんて、火を消し損なったじゃないか」

 「しょうがないよ。賃金上げしないと生活苦で自殺とか、殺人とか、犯罪が増えるよ」

 「8割の下級兵士が生活できなくなるが実態だよ」

 「農地解放すれば良かったんだよ」

 「地主と大家で税収を集めさせているようなものだからね」

 「面倒だよ一軒一軒から税金を集めるの」

 「士官クラスでも犯罪とか、自殺とか、殺人とか、増えているからね」

 「そのうち、軍艦を道連れに爆沈だな」

 「スッカラカンなのにアメリカと戦争なんて、想像力なさ過ぎだよ」

 「国民に国力比をきちんと伝えなかったからだ」

 「頭の良い国民は御しにくいし、人の悪い国民は、犯罪で足を引っ張られる」

 「頭が悪くて、人の良い国民が良いってか?」

 「国民が、いつまでも、そんな状態に我慢していられるものか」

 「だから軍人を増やして国民の不満を抑え込まないと・・・」

 

   

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 月夜裏 野々香です。

 じみぃ〜 です。もう、ネチ、ネチです。

 1億4000万円の大和は出てくるだろうか、

 家一軒で2000円なら70000軒。

 住宅公団で造って売ったらさぞ、日本経済を賑わしただろうと思ったり。

 東海道新幹線を建設しろよと思ったり。

 ニューギニアからソロモンにかけて沈んだ300隻以上の船舶を有効に使いたいと。

  

 ※やっぱり食は基本。

  現代の食生活を田畑に換算すると一人1500u。

  3毛作で3分の1だと500u。

  当時の南方の戦線レベルだと700uくらい。

  なので3毛作だと233u程度という計算。

  もっとも、最前線なので農薬が当てにできず目減り、3毛作の可否は不明。

  戦車を使い潰して食料自給率を拡大させたのも選択の一つでしょうか。

  大本営を信じて飢え死にするのも選択の一つですが・・・

  人一人が生きていくには、それなりの土地が必要という事で・・・

 

 

 この戦記のテーマは 『主権独立・国体保持・領土と交換しうるもの』 です。

 史実のような敗北を避けるため、日本は “なに” と等価交換するでしょうか?

 錬金術です。

 

 

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仮想戦記 『国防戦記』

第01話 1942/06/05 『破 綻』
第02話 1943年 『もう、縮み思考たい』