月夜裏 野々香 小説の部屋

    

仮想戦記 『国防戦記』

 

 

 第39話 1980年 『氷 解』

 アルゼンチンの係争地ピクトン島・レノックス島・ヌエバ島占拠で、

 チリとアルゼンチンの戦雲が高まった。

 (赤い島 ピクトン島・レノックス島・ヌエバ島)

 

 そして、戦争のありかたでチリ、アルゼンチンとも思い悩む。

 係争地ピクトン島・レノックス島・ヌエバ島に戦場を限定できるか、だった。

 戦争が拡大すれば、チリとアルゼンチンが国境を東西に分けるフエゴ島にまで広がる。

 少なくとも紛争地の所有権を確実に決めるとしたらフエゴ島の戦いで決まる。

 さらに戦場が拡大し、全面戦争になる可能性もあった。

 チリとアルゼンチンが全面戦争で雌雄を決するならアンデス山脈越えになった。

 チリは少しずつ西フエゴの戦力を増大させ、アルゼンチンの東フエゴ側を圧迫。

 チリの大統領直属親衛隊は、青海争奪戦で実戦を経験しており、

 戦えばアンデス山脈を押さえられると豪語し、

 アルゼンチン国境守備隊を怯えさせる。

 アルゼンチンにとって、最大の問題は、国内の反政府勢力の反撃が始まっていた。

 アルゼンチン国民がインフレに堪えかね、蜂起と略奪行為が続き、収拾がつかない。

 チリが前線に増援を送っても、

 アルゼンチンは、増援を前線に送れない状況にあった。

 

 ブエノスアイレス。

 アルゼンチン軍とポンチョを着たガウチョたちが銃撃戦を繰り広げる。

 市民を味方にしたガウチョたちは、ゲリラ戦でアルゼンチン軍を追い詰めていく。

 同国人殺しの軍隊は急速に士気を低下させていく。

 そして、国境からアルゼンチンの部隊が引き抜かれ。

 国境線のチリ軍は、ますます優勢になっていく。

 アンデス山脈

 チリ軍国境守備隊

 「・・大統領は、なんと?」

 「高みの見物。だそうです」

 「戦わずしてピクトン島・レノックス島・ヌエバ島を得ても面白くなかろう」

 「軍人は面白くありませんよ。出世できませんし」

 「多少死んでも出世したいな」

 「自分が死ななければ、ですね」

 「もちろんだとも。だが階級が上がれば老後も安心。賭けてみたくもなる」

 

 

 

 01/26 エジプト・イスラエル国交樹立

 アメリカは犬猿の仲のイスラエルとエジプトの和解を成立させ、

 外交的な点数を最大限に利用する。

 アメリカ合衆国でなければできないと世界に印象づけて超大国アメリカを誇示する。

 外交的な成果も国内向けでしなく、

 国内の軋轢に苦しむアメリカ国民には色褪せて見えた。

 つまり誤魔化し。

 ソビエト連邦の融和政策は、アメリカ国民を惑わせ、

 欧州大陸で定着しつつある制限資本主義は、アメリカ国民を迷わせた。

 労働者たちは、権利を主張して賃金闘争をやめず、

 たびたび起こるゼネストは、資本家を失望させていた。

 お金持ちたちは、既得権を奪われまいと自己資本を海外の隠し口座に流出させてしまう。

 海外に流出した資本でアメリカ合衆国経済は低迷し、治安を悪化させ、

 貧富の格差を拡大させ、犯罪を増大させていく。

 アメリカは、国民を糾合させられるだけの戦争を欲していた。

 どこかの国が大量の爆弾をアメリカ合衆国に投下してくれなければ、アメリカ国民は収まらず。

 北部アメリカ州は、自由資本主義派が強く。

 南部アメリカ州は制限資本主義派が増えていく。

 アメリカ合衆国は、個人の権利を最大限に尊重する自由資本主義であり、

 弱肉強食の社会だった。

 反対するのは自由だったものの、認めるわけにはいかない。

 「イランと戦争したいな」

 「そんな事をすればイランは、ソ連側に擦り寄っていくことになります」

 「ソ連ごと叩き潰したくなるな」

 「核戦争ですか」

 「それはいやだ」

 

 

 空母ニミッツから発艦したRH53Dシースタリオン8機が砂嵐の中を飛んでいく。

 マンザリヤ空軍基地には、C130輸送機8機。C141輸送機2機が着陸していた。

 アメリカ陸軍第1特殊作戦部隊D(デルタ)分遣隊。

 通称デルタフォースがヘリの到着を待っていた。

 「大佐! シースタリオン2機が砂嵐に巻き込まれて砂漠に不時着したそうです」

 「なんだと!」

 飛行場に到着できたシースタリオンは6機だけとなった。

 「だから掃海型RH53Dではなく、全天候型HH53Dにしろと言ったんだ」

 「サッカー場の広さだと8機だし、救出に必要な積載能力に欠けていたからだろう」

 「25パーセント減か。戦力比で言うとマンパワーの比重が大きくなる厳しいな」

 「大佐! 1機が油圧計の故障で飛べません」

 「なにぃいい〜!」

 「「「「・・・・・」」」」

 「・・・撤収する」

 RH53Dシースタリオン5機が撤収し始めると、

 1機が強風で煽られてC130輸送機に激突。

 爆発した。

 04/24 イーグルクロー作戦失敗

 イラン テヘランのアメリカ大使館はイランの学生に占拠されたままだった。

 

 

 イタリアで総選挙

 逃げ回っていたイタリア富裕層は、愕然と選挙結果を見つめる。

 制限資本主義派議員多数で7年間の延長が決まる。

 そう、5億リラ超えの富豪など一握りで少数派だった。

 国民総選挙の多数決で勝てるはずもなかった。

 この選挙結果は、アメリカ合衆国の富豪を慌てさせる。

 一度、制限資本主義を導入されたら不変という錯覚も抱かせてしまう。

 「「「「くっそぉおおおおお〜!!!! どいつもこいつも泥棒野郎が!!!」」」」

 イタリアの富豪たちがワインを叩きつけて喚き散らかすが後の祭り。

 「日本への工場移転を進めろ」

 「はい」

 

 

 06/06 テヘラン アメリカ大使館。

 その日、ソビエト連邦のコンスタンティン・チェルネンコ首相がアメリカ大使館前に立った。

 籠城している300人のイスラムの学生たちは、AK47を持って、不敵に笑っている。

 各国のテレビ局がカメラを回し、チェルネンコ首相が手を振る。

 バシャ! バシャ! バシャ! バシャ! バシャ! バシャ! 

 チェルネンコ首相が大使館の扉を引くと、内側の学生たちも手伝う、

 あらかじめ、根回しで決められていた。

 人質にされていたアメリカ人53人は、チェルネンコ首相によって救出される。

 イランは、アメリカ合衆国に恥をかかせれば自己満足に浸れ、

 ソビエト連邦は、アメリカ合衆国に貸しを作って得意満面。

 人質53人は近くのサッカー場に駐機していたハインド8機に分乗。

 カスピ海を越えてソビエト領へと向かい。

 その後、専用機でワシントンへと帰還。

 アメリカ合衆国は、完全に面子を潰されてしまう。

 その後、ハルピニスクオリンピックを控えていたウラジオストック共和国がモスクワを脅迫したとか。

 日本風の根回しを使ったとか、いろいろな憶測がなされた。

 

 

 特別機がケネディー空港に到着すると人質53人がタラップを降りてくる。

 歓声を挙げて歓迎する者、沈痛な表情で出迎える者、複雑な表情で出迎える者。

 大統領は表面上喜んで見せ、チェルネンコ首相と握手、抱き合う素振りを見せる。

 ワシントン

 白い家を赤い旗が取り巻く。

 しかし、すぐ星条旗の旗が割り込んで群集同士が衝突し押し合った。

 どちらもアメリカ国民同士であり、改革派と保守派の衝突だった。

 南部はますます容共が強くなり、北部は反発して保守が強くなろうとしていた。

 「・・・こ、この自由の国アメリカが負けるというのか」

 「アメリカはソビエトに負けているのではない。まして軍事力に屈しているわけでもない」

 「正義に負けているのですよ」

 「アメリカは正義の国だ」

 「あの群衆を見て、はたして、そう言えるのですか?」

 「・・・アレこそ、アメリカ合衆国国民が正義を求めている証拠だ」

 「どっちの旗が、ですかな?」

 「・・・利己主義は、お互い様だ」

 「ええ、お互い様ですよ。利己主義が戦争を起こしますからな」

 「世界がこれだけ荒れているのに日本だけは儲けている」

 「まったく。思想に頓着なところは、実にアジア人らしい」

 「人間同士の結束を単一民族に甘え、恥知らずな利害関係で構築されている社会だ」

 「しかし、世界を荒れさせている原因が思想ではなく」

 「我々の利己主義にあるのなら、考えるべきでしょうな」

 「国内の火種を誤魔化すため」

 「対外的な対立関係を構築するのは、安直な政治手法と言えますからね」

 アメリカ合衆国・ソビエト連邦で07/07を “和解の日” とする共同宣言がなされる。

 適当な条約を結ぶ前、何か公表しなければならず。

 急速に軍縮すれば軍産複合体など、反動分子に抹殺されかねず。

 苦肉の策で出された宣言と言えた。

 とはいえ、米ソの核戦争が遠ざかると、日本のシェルター産業は少しばかり落ち込む。

 

 

 国際連合

 ソビエト連邦の評価が上がると、アメリカ合衆国の評価が低下する。

 いまだに統合ドイツに駐留を続けるアメリカ合衆国を “悪魔の帝国” “居直り強盗” とヒソヒソ。

 国家間の利害関係はともかく、人の目は正直であり。

 各国に居留するアメリカ人は、肩身の狭い思いをしていく。

 国際競争力の低下に合わせて、取引も減少していく。

 

 

 満州平原

 標高200m以下。年降水量350〜700mm前後、肥沃な黒土の穀倉地帯が広がっていた。

 街の中心を東南から西北に松花江が流れウスリー川に至る。

 元々 “網を干す場” という意味のハルピンがロシア風にハルピニスクとなっていた。

 ウラジオストック共和国の首都であり、

 歩いている人間の90パーセント以上が白人。

 アジアの白人世界となっていた。

 街並みはロシア建築そのものであり、日本人が建設をしていたりする。

 日本建築も珍しくない。

 もっとも、神社仏閣が建設されて、そこで柔道や剣道が行われていた。

 日本人観光客は、日本にない日本モドキ文化を面白がり、

 外国人観光客は、ロシアと日本混在の文化を面白がり、

 ロシア人は、日本風文化と信じて面白がった。

 ハルピニスクは都市の規模でモスクワを超える勢いがあり活気もあった。

 満州油田で発電がなされ、工場は日本で旧式化した機械類が回り、

 4車線の自動車道を見掛けだけボルガ車が渋滞しながら走る。

 中身は日本製ガソリンエンジンだったり、電気自動車だったり・・・

 性能は西側で走っている乗用車とほとんど変わらない。

 ソビエト側の労働効率さえ良ければ、国際市場価格に乗るだけの性能になっていた。

 デザインも斬新なものに変わり、現在のソビエト社会を表わしていた。

 中国大陸で最大級の東北平原(南北1000km東西300km〜400km)から穀物、畜産物が集積してくる。

 初めて来た者は、惰性でウラジオストック共和国が独立していないだけと悟る。

 07/19 ハルピニスクオリンピック

 ハルピニスク開会式場

 世界中から選手団と観光客が集まっていた。

 イラン、イラク。チリ、アルゼンチンも参加して話題になってたりもする。

 ジンギスカンの曲が流れ、ソビエト人気の高さを証明していた。

 「柔道と剣道は勝つんだろうな」

 「んん、ソビエトと東欧が強くなっているから微妙」

 「仲良くなり過ぎだよ。ロシアの小さな街にも柔道場や剣道場があるじゃないか」

 「やっぱ、フルシチョフの理事国入り推薦が利いたかな」

 「日本人って、結構、義理堅いよね」

 「ロシア人はアニメの影響で始めるし、体格差があるから不利になって当然」

 「重量分けしてるだろう」

 「ロシア人の気性は、圧政の腹いせで気合入ってるから・・・」

 「・・・お・・・来た」

 開会式上空をSu27ジュラーヴリク5機編隊が舞うように旋回。

 大空に青、黄、黒、緑、赤のスモークで五輪を描いていく、

 水平飛行から高度を変えず機首を持ち上げ、垂直に近く80度ほど・・・・

 ターボファンエンジンだけで空中に浮く。

 「「「「「「・・・・・・・・・・」」」」」」 呆然

 開会式場の視線は、見たこともない新型戦闘機5機に釘付けにされ、

 すべてのカメラが空に向けられ、全世界に中継されていく。

 Su27ジュラーヴリク5機は、徐々に機首を水平に落としながら加速して大きく旋回。

 もう一度、高度を変えない状態で機首を持ち上げ、

 空中に浮き、夢でなかった事を証明してしまう。

 「「「「「「・・・・・・・・・・」」」」」」

 今度は、ロケット発射で急上昇しながら飛び去っていく。

 訳知りな者たちも見上げていた。

 「高かったんだよな。あの機体は特別だよ」

 「チタン製、炭素樹脂複合強化材もかなり増やしたし、装備も燃料も減らしている」

 「あれだけ軽きゃ できるわな」

 「便乗でチタンや炭素樹脂複合強化材を作れたから助かったけどね」

 驚愕で沈黙していた開会式場が騒然としていく。

 「・・・まぁ 効果あるんだろうな」

 ハルピニスクオリンピックは大成功のまま閉会式を迎え。

 オリンピックの旗がハルピニスク市長からロサンゼルス市長へと手渡された。

 

 次回のロサンゼルスオリンピックが紹介され、デタント気運は進んでいた。

 

 

 ドイツ・オーストリア統合条約調印。

 アメリカ合衆国大統領ジミー・カーター

 ソビエト連邦書記長レオニード・ブレジネフ。

 統合ドイツ大統領カール・カルステンス。

 オーストリア大統領ルドルフ・キルヒシュレーガー。

 4者が手を取り合った映像が世界中継で流れ、大ドイツ圏が完成する。

 そして、アメリカ合衆国の撤収が正式に決まってしまう。

 米ソの策略は、統合ドイツを欧州の鬼子とするはずだった。

 しかし、ソビエト連邦の首相によるアメリカ大使館人質救出によって変わる。

 危機を招いて国民を糾合するより、

 誇り得る国史を喧伝して国民の愛国心を高める方を選択する。

 偽りな愛憎劇、外交政治劇が映像で流れ、

 欧州大陸は穏やかな風潮に変わっていく。

 ベルリン

 統合ドイツ経済はアメリカ駐留軍撤収費用で財源もなく著しく低迷する。

 とはいえ、欧州に残った自由資本主義の砦。

 各国の富豪が身を寄せ、経済は回復傾向にあった。

 ドイツの高品位工作機械がユーラシア大陸鉄道に乗せられ大量に日本に輸出されていく。

 これも回転資金回収のためで、ココム規制なんか守っていられない。

 結局、アメリカのゴリ押しは、アメリカ合衆国自体を相対的に弱体化させてしまう。

 ベルリン カフェテラス

 日本人たちが集まっていた。

 「新しい国際秩序ってやつかな」

 「どういう外交的ウルトラCだ」

 「アメリカは外交で格好つけないと死活モノだったんじゃないの」

 「金だろう。アメリカ駐留軍は撤退。統合ドイツは完全に独立する」

 「映像はともかく。現実は、アメリカ、ソビエト、欧州の3極は、主義がまとまらず混乱しているよ」

 「アメリカとソビエトは、思想的な不信で内憂抱えて身動きとれないか」

 「国内をまとめるのに主義がいるとは不便だね」

 「アジアは実利というかファジーというか。主義を必要とするのは、欧米の宿命なのかな」

 「欧米人は、権威と事勿れで流れていく日本人と違って、自己主張の強い個人が社会に参画する感じだからね」

 「権利と義務が明確なんじゃないか」

 「主義は価値観だけでなく権利と義務を明確にするからね」

 「でも大ドイツ復活だろう」

 「表面的にはともかく、恐怖のあまり、西欧と東欧は、怖じ気づいているかも」

 「核があるから、そうでもないと思うけど西欧はアメリカ。東欧はソビエトに靡きそう」

 「日独の交流も増えやすくなるかもしれないな」

 「なんか、デジャブな世情だな」

 「制限資本主義で欧州連合を構築する動きもある」

 「EC共同体は?」

 「それだと、大ドイツ圏でまとまってしまいそうだよ」

 「んん、いろんな体制が混ざって分かりにくい」

 「大戦後、米ソの干渉地帯にされてしまったのが痛いな」

 「日本は、欧州大陸の対応で、どうするんだろう」

 「んん・・・欧州は複雑だし、アメリカとソビエトも絡んでくるからね」

 「どちらにしろ、日本は自由資本主義最後の砦になるんじゃないの?」

 「「「「あははは・・・」」」」

 日本は、共産主義、制限資本主義、自由資本主義の間を上手く立ち回っていた。

 本当に自由資本主義なのかと疑われたりもする。

 もっとも、日本の自由資本主義を肯定する材料より否定する材料の方が多かった。

 テーブルに人数分のビールが置かれる。

 「お祝いのサービスです」 店員

 「「「Glückwunsche!」」」 (グリュックヴンシュ:おめでとう)

 米ソの保証で統合ドイツが成立したためか、駐留アメリカ軍の撤退のためか、

 ドイツの戦後終結と言われる。

 その日の欧州大陸は和らいでいたという。

 

 

 メガフロート ウラジオーナ

 米ソのデタントが進むとウラジオーナの価値も相対的に低下していく。

 とはいえ、北大西洋の中央にある飛行甲板にSu27ジュラーヴリクが配備され、

 制空権は、そのまま、制海権に反映される。

 アメリカ機動部隊の攻撃を受ければ鎧袖一触だった。

 しかし、ウラジオーナの制空能力が高くなれば、アメリカ機動部隊もタダでは済まない。

 既に早期警戒管制機モス。中距離爆撃機Tu22Mバックファイア。

 MiG21J2バラライカ、Su7J2フィッターが配備され、

 アメリカ機動部隊でさえ、容易に近づけない。

 Su27ジュラーヴリクが配備されれば、アメリカ機動部隊とまともな海上航空戦を展開できた。

 「これがSu27ジュラーヴリクか、かっこいいな」

 「MiG21J2バラライカとSu7J2フィッターを売っぱらって、早くこいつに変えたいものだ」

 「この大きさなら日本の戦闘爆撃型のSu27ジュラーヴリクも欲しいな」

 「日ソで共同開発しているんじゃないか」

 「でも機体は良くても、アビオニクスでアメリカに負けているらしいよ」

 ロシア人は養殖で作られた釣堀で日永一日釣りをし、

 時にロープにぶら下がり海にダイビングしていた。

 日本人たちが海底からすくい上げた土砂で何やらヒソヒソと・・・

 人生を楽しむ事に欠落している人種なのだが、

 日本はソビエト連邦最大の友好国になっていた。

 

 

 チグリス・ユーフラテス川の下流の一つ、

 シャトル・アラブ川がペルシア湾に注ぎ込んでいた。

 自然の河川を国境にすることは良くあることで、

 その川もイラクとイランの国境になっていた。

 イラクの狭められた海岸にはイラク第二都市バスラがあり。

 西側はイラン。南側はクェートに挟まれイラクの海岸幅は16.5kmほどしかなかった。

 狭められた海岸はイラクにとって脆弱で最重要な拠点だった。

 そして、石油利権を巡る紛争地になっていた。

 イラクとイランは1979年のイラン革命で親米パーレビー政権が倒れたことからキナ臭くなった。

 ホメイニー師は、周辺の君主制アラブ諸国と異なるイスラム共和制を執り周りを警戒させる。

 イラン革命後、イスラム原理主義者と、

 テクノクラートなどの民主派の確執で混乱が増していた。

 この頃、イラクはサッダーム・フセインが政権を掌握し、

 反対派を粛清しつつ独裁制を確立。

 軍事力を増強していた。

 09/22

 砂漠色のMiG21J2バラライカとSu7J2フィッターの編隊が国境を越えていく。

 数十条のロケット弾が白煙を曳きながら飛行場を襲い爆炎を起こし、

 滑走路を火の海に変えて行く。

 遅ればせながら対空砲火と対空ミサイルが打ち上げられるが命中率は低かった。

 飛行場全体で誘爆が続き。

 低空に降下したバラライカとフィッターが生き残った機体に機銃掃射していく。

 F14トムキャット、F5フリーダムファイター、F4ファントムが23mm機銃弾でハチの巣にされて爆発。

 ジェット燃料に引火すると炎上し火達磨となって四散する。

 地上でも状況が似ていた。

 深夜、T55J2、T54J2戦車が国境線を越え、

 M60、M48戦車、チーフテンを撃破していく。

 パッシブ式暗視装置、レーザー警戒機を使えば夜間でも正確に敵戦車の位置を知ることができた。

 イラクの攻勢は夜に行われ。昼間は守勢に回る。

 日本製の砲塔は、51口径105mm砲弾をはじき返し、俯角でも砲撃できた。

 M60、M48戦車、チーフテンが次々と撃破されていく。

 岩陰に潜んでいたM60戦車が砲撃。

 51口径105mm砲弾がT55J2の砲塔に命中して弾かれた。

 56口径100mm砲弾がゆっくりとM60戦車に向けられて砲撃。

 M60戦車の車体に小さな穴が空き、

 車内に飛び込んだ弾芯が砕け散って乗員を殺傷し、弾薬を誘爆させてしまう。

 イラク軍の奇襲攻撃を受けたイラン軍は混乱しながら崩れていた。

 イラン軍はアメリカ・イギリス製で構成され、

 革命後、撤収したアメリカ人がいないと、稼働率が低下、まともに運用できない。

 この戦争は、起こるべくして起こったとも、イスラム教同士で何をしているのかとも思われた。

 この手の事に擦れた人間なら、煽った国があるよ、と推測したり・・・

 「燃料は!」

 「まだだ!」

 「・・・・」

 改装によって航続距離の短くなったT55J・T54J戦車は、攻勢を持続させられず。

 改装されていないT55・T54戦車で突っ込むと俯角が利かず撃破された。

 数の少ない燃料車の到着を待たなければならないイラク軍のおかげか、

 イラン軍は崩壊から救われる。

 とはいえ、全ての戦線で、イラン軍は、後退しなければならず。

 侵略する国が非難されやすいにもかかわらず、

 イラクを支援する国は少なくなかった。

 イランに裏切られたアメリカ合衆国。

 イランイスラム革命のカザフスタン波及を恐れるソビエト連邦。

 君主を打倒したイラン革命を恐れる周辺のアラブ君主諸国。

 しかし、イランに味方する者も現れる。

 エジプトと和平を結んで西の脅威を取り除いたイスラエルは、イラン支持。

 さらにイスラム教重視のシリアとリビアが味方する。

 

 

 統合ドイツ

 アメリカ軍の撤収費用は、ソビエト軍の撤収費用より大きく、

 統合ドイツ財政を悪化させていた。

 ドイツの高品位工作機械は日本へと流れ、

 1435mm標準軌は、ユーラシア大陸鉄道の1520mm広軌へと切り替えられていく。

 統合ドイツの経済は、ユーラシア大陸の需要を当てにしなければ成り立たなくなっていた。

 統合ドイツ軍

 米ソ両軍の規格が混ざった兵装で混乱していた。

 イラク行のT54・T55戦車が船積みされていく。

 そして、イスラエル、シリア、リビアを経由してT54・T55戦車がイランへ向かっていく。

 そう、世の中、金だった。

 「これで、少しは整理されそうだな」

 「早くレオパルドUを主力戦車にしたいものです」

 「まったく、アメリカめ、居座り強盗のような国だな」

 「結局、統合ドイツも1520mmでユーラシア大陸鉄道網に組み込まれてしまうのですからね」

 「その方が収益が大きい。アメリカの自業自得だよ。良い気味だ」

 

 

  

 厚木空軍基地

 量産機型Su27ジュラーヴリクが飛び立った。

 入れ替わるように赤ペンキが塗られたMiG21J2が着陸してくる。

 新型機は、仕様が決まり基礎設計。実証機。実用機と進んで本格的な量産機となった。

 最初に完成したのは制空型であり、

 攻撃型量産機は、もうしばらく年月を要した。

 アビオニクス以外は、F14、F15に勝るといわれていた。

 もっともアビオニクスで負けると空中戦は極めて不利になる。

 とはいえ、機体は十分に余裕があり、アビオニクスの更新も余裕があった。

 「どうかね。新型機は?」

 「素晴らしいよ。MiG21j2を撃墜できた」

 「格闘戦は?」

 「そうだなぁ 1対1なら、だいたい勝てる」

 「まぁ まとも空中戦するやつが馬鹿なんだがね」

 「しかし、MiG21J2は機動性がいいな」

 「どれだけチタンと炭素樹脂複合強化材を使っているんだ?」

 「10000機超えは伊達じゃないからね。需要に対する供給だよ」

 「表面温度の問題があるけど電波吸収材(RAM)を凝着させたら相当な戦力になりそうだな」

 「おいおい。もうSu27ジュラーヴリクに切り替えようよ」

 「わかっているよ。しかし、時間稼ぎくらいしないとな」

 「また予算か」

 「アビオニクスの遅れを取り戻したいらしい」

 「しかし、ステルスもあるからな」

 「キーロフの形でようやく気付くなんて・・・それもいま頃・・・」

 「普通は、何であんな形にさせるんだろうと疑問に思うんだが・・・」

 「ロシア人の場合、製図の引き方を間違えたか、製造で間違えたかと思うんだよ」

 「ったく、航空機から軍艦まで設計を再検討しないと・・・」

 「とりあえず。早期警戒管制機型An22アンチスと」

 「Su27ジュラーヴリクで防空を次世代につなげられそうだな」

 「ジュラーヴリクは汎用性、拡張性があるからソビエトは、いろんな機体を検討しているようだ」

 「電子戦や哨戒機にも使えそうな機体だからな。使える機体があれば使うよ」

 「ヘリは?」

 「Mi24ハインド、Ka27、Ka28ヘリックス、Mi26ヘイローは更新するとして」

 「開発中のKa50、Ka52は有望だな」

 「Ka50、Ka52はAH64アパッチに勝てるだろうか」

 「対攻撃ヘリか、対戦車ヘリか、オプションで分けないとな」

 「日本は戦車がないから攻撃ヘリより、対攻撃ヘリになるんじゃないか?」

 「訓練用の戦車があるぞ。歩兵戦闘車BMP1と装甲兵員輸送車BTR70は悪くない」

 「非接地型充電が可能なら。電気走行でも良さそうだよ」

 「国内で使うだけなら電気走行の装甲車もありなのかも知れないな」

 「侵略する能力がない、は、舐められやすい要素なんだけどね」

 「それが日ソ協商の裏付けなんだと」

 「ソビエト連邦もでかい割にビビりだからな」

 「本音は、攻撃してもらいたいんじゃないの、大イスラム圏に」

 「アフガニスタンで退いたのは、それか?」

 「だけど核兵器を保有してるソビエトに侵攻する国なんてないだろう」

 「大ドイツ復活だから、わからないよ」

 「あそこも、何か作為的だな」

  

 

 揚子江

 セカンド・ニューヨークから漢口に鉄橋が伸びていた。

 北の中黄連邦と南の中華合衆国を分ける揚子江に橋が架かる。

 共産主義と自由資本主義の制度上の違いは、見かけ以上に大きなものではなく。

 南北の中国人の外見上の違いは、ほとんどなく利己主義に支配されていた。

 アメリカやイギリスの権益地からであっても南北に橋が建設され、人や物が行き来する。

 北はソビエト・日本の傀儡国家であり。

 南はアメリカとイギリスの傀儡国家と言えた。

 もっとも、双方とも核兵器、覚醒剤を制限するだけで手綱は利権だけ。

 南北対立が、この米英日ソの利権を安定させていたといえる。

 中核となっていたのは、朝鮮人、台湾人、少数民族であり。

 各国のテナント権益といえる。

 某工場

 「・・・出来たニダ。グッチニダ」

 「それは、ルイビトンある」

 「どっちでも良いニダ。制限資本主義のおかげで欧米の資本家も来てるニダ」

 「これを見せて資本家からお金を騙し取るある」

 「欲の皮突っ張らせているから、すぐ引っ掛かるニダ」

 「お前、日本人の振りして近付くある」

 「分かっているニダ。みんな馬鹿ニダ。ユーラシア鉄道で世界市場ニダ♪」

 

 

 

 イラン・イラク戦争

 航空戦は、緒戦の勢いに乗るイラク軍のMiG21J2バラライカ、Su7J2フィッターが優勢だった。

 最終型の戦闘機MiG21j2と戦闘爆撃機Su7J2フィッターは、チタン、炭素樹脂複合強化材の比率が増し、

 浮かした重量をアビオニクスに振り分け戦闘能力が著しく向上していた。

 その性能は、最新型のF16ファイティングファルコン、F18ホーネットに準じ、

 格闘戦闘ではF16、F18に勝るとも言われていた。

 MiG21J2バラライカ(機体重量5000kg)と、

 F5フリーダムファイター(機体重量4400kg)が互い先で旋回する。

 両機とも最大離陸重量は11000kgで軽戦闘機に分類される。

 F5は、対MiG21用に開発された機体であり、

 初期型MiG21であればF5にも勝機があった。

 しかし、総生産機数の差が戦力の差となり、

 MiG21J2は向上したアビオニクスと格闘戦でF5を圧倒してしまう。

 MiG21がF5の内側に回り込むと23mm弾を撃ち込んで撃墜する。

 そして、戦闘爆撃機Su7J2フィッターがイラン陣地に爆弾を投下していく。

 地上戦

 深夜

 戦車の視界は狭く。

 中東戦争だと車体から指揮官が体を乗り出して指揮するほどだった。

 潜望鏡が装備されていたりもする。

 それでも、夜になると視界が狭められ、

 大地の暗さに敵の戦車が紛れてしまう。

 パッシブ式暗視装置、レーザー警戒機を装備したT55J戦車のアイスコープにぼんやり熱源が映った。

 戦車兵がスイッチを入れると砲塔が自動的に熱源に向けられていく。

 発射ボタンを押すと同時に車体に衝撃が走り、

 砲弾が撃ち出されていく。

 M60戦車

 「3号車! どうした! 返事をしろ!」

 『・・・3号車、通信が途絶えました!』

 「T55だな。どっ どこだ!」

 『火線は10時方向だ。回り込まれるぞ』

 「ちっ なぜ、この暗闇の中で撃てる」

 『駄目だ。後退しろ』

 強襲を受けたM60戦車は闇夜で敵の位置がわからず、

 後退しつつ撃破されていく。

 一方、イラク軍は戦線を突破しても迂回戦術も、包囲戦術も行えない。

 連携が悪い上に兵站も維持できなかった。

 近代化された軍隊の補給は多岐に及び、

 一つを損なっても機能不全を起こすことから、移動は困難を極めた。

 改造された車両は、強力でも航続力が短かく戦線拡大の機会を見す見す逃してしまう。

 

 観戦武官たちは、戦争協力という名目で得られた特権があるのか、

 のんびりと戦場を見ていた。

 「イラク軍とイラン軍は、イスラム教同士だろう。それもシーア派同士で、よく戦えるものだ。」

 「国益優先とはイラクも随分、世俗的じゃないか」

 「イラクは海岸線が狭いから・・・作為的だけど・・・」

 「まぁ 一国の支配者になりたがる人間は多い。クェートだって良い国だよ」

 「どちらにしろ、イラクは狭い海岸線を広げたいと思うよ」

 「動機は分かるとして、イラクをけしかけたのは・・・」

 ごほん! ごほん!

 「やはり給油車、給水車、給兵車、軍用トラックがもっと必要だな」

 「連携は、ちょっとあれかな」

 「言語と民族が違うし、単一民族じゃないんだから、あんなもんでしょう」

 「だけど日本製パッシブ式暗視装置とレーザー警戒機はやり過ぎじゃないのか?」

 「んん・・・でも戦訓ができた」

 「それにあの複合装甲の砲塔って何?」

 「地下施設でね。あれこれ、薄くて丈夫なのを試作していたから・・・」

 「頭いてぇ〜」

 「51口径105mm砲弾で撃ち抜けないなんて強靭過ぎる」

 「もっと近付かないと」

 「夜は暗視装置で攻勢。昼は砂丘に隠れて防衛じゃ 突け込めんわ」

 「やっぱ、石油の誘惑は強い」

 「金に目が眩んでアメリカ製M60戦車を破壊しているんだな」

 「いや、破壊しているのはソビエト製T55戦車だから」

 「そう思ってるのは、日本だけじゃないのか」

 「日本は、東シナ海に油田を持っているだろう」

 「石油は安いのが良いんだよ。採算性が良くなって利潤を引き上がる」

 「そんなに穴掘りが面白いか?」

 「価値が暴落しやすい戦車を作るよりいいかも」

 イラク軍は緒戦で戦線を突破した後、攻めあぐねる。

 理由は “兵站”

 戦線が拡大していくほど補給待ちが増えていく。

 近代装備の師団を移動させると大量の物資を消費する。

 必須の補給品一つが不足しただけで師団は停止する。

 補給戦の困難さは徒歩時代に考えられないほどだった。

 他の師団も孤立して突進することもできず、

 戦機を逃し、戦線を拡大できなくなった。

 

 

 アルゼンチン艦隊がサンチアゴ沖を遊弋していた。

 S2トラッカー対潜哨戒機が艦隊上空を警戒し、

 16000トン級空母ベインティシンコ・デ・マヨからSH3シーキングが飛び立っていく。

 シュペルエタンダール、A4Qスカイホークは、速度不足で、

 飛行甲板から飛び立てず陸上配備になっていた。

 アルゼンチン海軍が誇る空母も内戦状態になると費用対効果で劣る。

 空母ベインティシンコ・デ・マヨ 艦橋

 「攻撃は、適当にな」

 「はい」

 「自国民に銃口を向けるなど・・・」

 アルゼンチン海軍艦隊は、ブエノスアイレス市民の射程外にあった。

 命の危険に晒されておらず、当然、冷めていた。

 さらに守るべき自国民に銃口を向けるなど、士気は低下、等閑な攻撃しかできない。

 軍政府と国民の戦いと化し、

 ブエノスアイレスの社会機能は失われていく、

 国民の支持を失った政府は、急速に弱体化していた。

 このまま座して市民と戦い続けることも地獄。

 チリ軍は、対峙したまま、アルゼンチンの崩壊を待つだけであり、

 アルゼンチンは、チリを攻めて外敵を作り、軍政権を保とうとしても手遅れだった。

 

 

 某所

 100万ドルがポケットマネーでしかないお金持ちが世界中から集まっていた。

 ソビエト連邦がエエ格好しいで成功しており、

 アメリカ合衆国は、威信と自信を喪失しつつあった。

 そして、共産主義と制限資本主義に追い詰められていく状況にあった。

 対抗しようとする富裕層たち。

 「共産主義が台頭し、制限資本主義も我々と敵対している」

 「このままでは、我々は居場所すら失う」

 「法と秩序は我々の味方だ。そうでなければならん」

 「祖国が我々の財産を奪うのであれば、祖国をバラバラにしても財産を守る権利がある!」

 「政府が弱腰になるのなら政府を打倒して、強盗ども根絶やしにすればいいんだ」

 「そうだ。わたしの城と財産を奪うというのなら、国家も国民も敵だ。独立してやる」

 「我々の資本が養ってやっているのに噛みついてくるとは、労働者め、なんという恥じ知らすな」

 「チリが攻撃してくれれば、アルゼンチン人は内戦せず結束できるのに・・・」

 「誰かの入れ知恵で高みの見物しているのだろう」

 「誰かは、だいたい分かるな」

 「謀略が得意なロシア人と官僚がしっかりしている日本人か・・・」

 「どっちも権威主義で押さえつけられているような国だ」

 「我々も権威で国民を押さえつけたいね」

 「んん・・・ここまで追い詰められるとは、意外に手強いな」

 「まったく・・・」

 「おい! 傭兵たち。分かっているだろうな」

 「はい」

 アルゼンチンに突如現れた傭兵部隊は、統制されており兵站が機能していた。

 洋上の貨物船10隻からAH1コブラ60機、Mi24ハインド60機が飛び立っていく、

 そして、サンチアゴ上空に達すると反体制勢力を攻撃し始める。

 一つ前の型でも中身は全天候型の最新電子装備。

 そして、重要なのは将兵の質。戦争のプロだった。

 反体制派の核になる指揮系統を破壊し、

 中核の部隊を殲滅していく。

 組織的な反撃によって、ガウチョと市民たちは切り崩され、バラバラにされていく。

 お金持ちは、採算重視の傾向があり、損しても事を成そうとはしない。

 それでも追い詰められれば、軍事的冒険も行ったりする。

 この戦闘は、金の力で国家の支配権、生存圏を確立できるかのテストケースだった。

 空母空母ベインティシンコ・デ・マヨ 艦橋

 「あれはなんだ?」

 「例の編入されたばかりの艦隊かと・・・」

 「ちっ! ・・・・撃沈すれば楽しかろうな」

 「ええ」

 「しかし、どうしたものか・・・」

 

 他者を不幸にすることで自らの幸福を勝ち取る。

 他者のテリトリーを踏み躙って自らのテリトリーを拡大する。

 サンチアゴで行われている一連の戦闘は、そういうことだった。

 サンチアゴ郊外の高台で乱舞するヘリ編隊を見つめている者たちがいた。

 「やれやれ、ガウチョたち。ピン〜チ」

 「金や権力に目が眩むと、ついやってしまうのかね・・・」

 「人間見境がなくなると、やるんじゃないかな」

 「お金持ちたちが1パーセントの資産投機で」

 「99パーセント以上の資産が守れるかもしれないなら冒険したくなると思うよ」

 「お金持ちだって自分で稼いでいるんじゃなくて、社会資本の集約で成り立っているんだろうに」

 「自分で足場を崩して、お金持ちでいられるんですかね」

 「人間は、矛盾なんて度外視できるくらい我が儘だから」

 「・・・しかし・・・どうしたものか」

 「海から来るとは思わなかった」

 「大地主の農場に置くと体制が覆されたとき吊るし揚げられる」

 「だから足のつかない貨物船かな」

 「海から来ると、わかっていたら、こっちもMiハインドくらい準備していたのに・・・」

 「ガウチョには無理」

 「イギリスもアルゼンチンがフォークランドに圧力を加えられなくなると退いたからね」

 「相変わらず独善的だな」

 「まぁ アンデス山脈なんて、いくらでも粗があるから武器密輸は容易だけど・・・」

 「チリはどうするって?」

 「とりあえず。国連でアルゼンチンの不当占拠と軍のアルゼンチン国民への弾圧を非難するらしい」

 「チリが短絡に攻撃しないのであればいいや」

 「アメリカ機動部隊がサンチアゴ沖で準備していると教えているから」

 「アルゼンチン軍の切り崩しは?」

 「それなりに準備しているけど、ホルヘ・ラファエル・ビデラ将軍は、まだ弱っていないようだ」

 「もう、ビデラ将軍も私腹肥やした資産を持って亡命すれば良いのに」

 「軍上層部のほとんどが弾劾されるからね」

 「お金持ちたちと結託したくもなるよ」

 「日本財閥は混ざってないだろうな」

 「発覚したら処分対象にすると脅迫したけど、ロシアマフィアは大丈夫なの?」

 「んん・・・あいつら元々非合法だし、スイス銀行も使いやがるからな」

 「まぁ フエゴ島のT64とM60の戦車戦もみたい気がするがね」

 

 

 ワシントン ホワイトハウス

 政局と世論調査の結果が送られてくる。

 アメリカ大使館員の救出作戦失敗。

 ソビエト連邦首相によるアメリカ大使館員救出の成功。

 この時点でジミー・カーター大統領の再選はなくなっていた。

 アメリカとソビエトで結ばれた “和解の日”

 アメリカ国民の道義的尊厳が保守派、軍需産業を押さえたと言える。

 統合ドイツ・オーストリア統合を米ソが共同保証。

 これも自己正当化で軍需産業を押さえ込むため仕方がなかったと言える。

 平和の予兆は、軍需産業を縮小しなければならなかった。

 北部アメリカ側で “強いアメリカ” という発想が強まり、

 軍産複合体の圧力はあった。

 しかし、南部アメリカ側は、現状の世界情勢で “強いアメリカを欲しない” も強まっていた。

 そして、強まっていく制限資本主義勢力がアメリカ自由資本主義を牽制していた。

 「・・・この分だと暗殺されずに済むかもしれないな」

 「大統領が殺されれば、南北戦争になる可能性も出てきますからね」

 「アメリカ国民は、次の大統領で強いアメリカを望むだろうか?」

 「アメリカは、負けることを嫌いますから」

 「アメリカが負けた相手は正義なのだ。赤い帝国ではない」

 

 

 東欧諸国

 制限された私有財産制が国民の労働意欲を掻き立て産業が拡大しつつあった。

 自由資本主義に対する共産主義の劣勢は明かだった。

 

 そして、ソビエト連邦も徐々に私有財産に対する規制を緩めていく、

 クレムリン カザコフ館

 赤の広場を歩いている人間は観光客ばかり。

 ひっそり闇に沈もうとしていた。

 赤の広場の反対側の国立百貨店(GUM)グムは、任天堂の新発売ゲーム&ウオッチの行列が並ぶ。

 テレビ局から届いた報告書は、視聴率が記され、二人をほくそ笑ませ、

 東の果てより電報が届き、

 “モスクワ宛て、ハルピニスク・オリンピックへの協力感謝します”

 “ソビエト連邦ウラジオストック共和国”

 複雑な気分にさせる。

 そして、厚みのある雲から雪が降り始めた。

 「・・・降った♪」

 「「ばんざ〜い! ばんざ〜い! ばんざ〜い!」」

 ブレジネフ書記長とチェルネンコ首相が喜ぶ。

 この年、ロシア人の民主化デモはなく、平穏だった。

 

 

  排水量 艦齢(以下)          
志摩 15000 16年 志摩 伊賀 伊予 甲斐 8隻
      蝦夷 飛騨 常陸  播磨   
               
潜水艦
赤龍 6500 1年1隻         12隻
鋼龍 6500 1年3隻         36隻
               

 潜水艦の大綱は60隻。現在48隻。

 戦後の6500トン級潜水艦は自動化が進み、乗員80人にまで減っていた。

 艦長(中佐)が率いる員数としては少ない。

 このまま1隻の定数80人で潜水艦隊が構成されていくと60隻で4800人で済んだ。

 長潮(ながしお) 灘潮(なだしお) 大潮(おおしお)が就役していた。

 電気自動車が主流の国は蓄電池の性能で差が出てくる。

 新型蓄電池を搭載した潜水艦は、前級よりも速く、長く航行で来た。

 元々、大型潜水艦で人員が減れば、それだけ長く潜航できた。

 海中の潜水艦から光ファイバーを芯に入れたワイヤーが海上に向かって伸びていた。

 野島崎東南東沖合約1200km

 長潮(ながしお) 艦橋

 海上に浮上させた監視アイによって、海上の様子がモニターに映る。

 「デジタルにしてからは随分と映りが良くなった。ベアからのデーターリンクは?」

 「まだです」

 「・・・海上は、大うねりだ」

 「しばらく。海中にいた方が良いですね」

 「そうだな。また、いつもの如く、海底と海中の調査だ」

 海底の地形と海層をデータに入れ、

 解析を進めていけば、それだけ、海中戦闘が有利になった。

 地道に蓄積された海洋調査で海底を確認するだけで経度と緯度まで分かる。

 原子力潜水艦でない日本潜水艦が日本近海限定で強いのは性能だけでなく、

 地の利も含んでいた。

 「大鳳退役だと、キエフ型航空巡洋艦くらい欲しくなりますね」

 「潜水艦を5隻くらい減らせば配備できるだろうよ」

 「それは、ちょっと嫌ですね」

 一度、海中に潜むことを覚えてしまうと、海上にいる事がいかに危険か肌で感じやすい。

 上空と海中の両方から狙われるような目に遭いたくないと考える。

 先任艦がアメリカ空母を魚雷の射線に納めた事も、一度や二度ではなかった。

 「次期15000トン級巡洋艦が、ヘリ空母になるか」

 「キーロフ型ステルス系VLSミサイル艦になるか微妙だな」

 「島礁配備の航空機やヘリは多いですから、領海に近いとヘリ空母の必要性が低下しますからね」

 「だが外洋でキエフ型は寂しい気がするな」

 「先任の潜水艦はキエフ型を何回も撃沈したそうです」

 「しかし、アメリカ海軍を除けば、十分、強力なはずですよ」

 「アメリカ海軍を除けないから問題なんだけどね」

 「・・・ベアからのデーターリンクです」

 高度8000m上空からの情報が送られてくると、モニターに艦船が映り始める。

 射程内であれば、対艦ミサイルや魚雷で攻撃することもできた。

 監視衛星や航空機とのデーターリンクが可能になると潜水艦の脅威は、著しく減少し、

 潜水艦の脅威は、潜水艦だけとも言われ始める。

 「艦長! 衝撃音です」

 「なんだ?」

 亀裂が走る音が艦内に響いてくる。

 「近いぞ」

 「音の方向からすると、これですかね」

 副長がモニターを指さした。

 「ベアに確認させてくれ」

 「・・・33000トン級積貨物船 尾道丸が三角波で船首を破損したようです」

 「はぁ 3万トン級の船が三角波で破損するのか?」

 「救助艇を格納したベアを出すそうです」

 「ふ 海上保安庁と取り合いした装備だったっけ」

 「人命救助は早い者勝ちだからね」

 

 

 

 日本

 とある場所は、ロシア様式の家々が珍しくなかった。

 ロシア人が妙な方言で話していたり、日露混血も増えていた。

 ソビエトに占領されたか、という錯覚も抱いたりする。

 サービスの力ともいえる。

 もっともサービスを受けるのは楽しく、サービスする方は面白くない。

 というわけで共産党の高官、ロシアマフィアが圧倒的に多く、

 日本に別荘があるのか、日本の生活に慣れているのか、違和感も少ない。

 中には日本人より早口で日本語を話していたりもする。

 某商店街は新装開店で大盛況となっていた。

 「フランスのブランド物も多かったけど、イタリアのブランド物も随分と増えたな」

 「制限資本主義で資本家が逃げて来たんじゃないか」

 「権利とか、どうなっているんだろう。国営になっているのかな」

 「諦めて帰順したお金持ちもいるらしいけど」

 「その辺を決めたくなくて、こっちで工場生産しているお金持ちもいるからね」

 「どこの国で稼いでも、自分のポケットにお金が入れば良いのかな」

 「それが人情ってやつじゃないの」

 「どっちかっていうと、デザインより、機能とか、丈夫さで選びたいね」

 「好き好きだけど。そういうのはドイツ製かな」

 「制限資本主義だと過剰供給を抑えられるとかで、評価されているみたいだけどね」

 「先行で試行錯誤しながら苦労するより」

 「後から国情に合わせて良いとこ取りが良いんじゃない」

 「実に日本らしいやり方」

 「・・・お、牛肉、ダチョウ、ワニの三肉丼だって」

 「なんか、ほとんど、牛肉っぽくないか」

 「でも食べたい」

 日本は、共産圏の工場と化して富裕層が徐々に増えていた。

 “富が人を腐らせる”

 そう警鐘を鳴らす者も増えた。

 逆説的に “人が富を腐らせる” と言えなくもない。

 身の丈を越えた資産運用などできるものではなく。

 ただ保有するだけの人間も増えていく。

 株式に換えて運用を任せても、株式会社がいつまでも健全とは言えず。

 国債を買っても土建屋を増長させるだけだったり。

 官僚の私腹に使われたり。

 サービス過剰になれば差別化が進み、

 貧富の格差も開いていく。

 他者を押さえ込んで己のテリトリーを拡大していったり。

 踏み躙られた者が犯罪に走ったり・・・

 太平洋の向こう、アメリカ合衆国は科学技術の差を利用して国益拡大を目指していた。

 しかし、合理性と効率性高めても、何を生産しても、

 貧富の格差は広がり、賃金高騰に追いつかず、採算が合わなくなっていく。

 社会資本は、いまだに強大で、一発当たれば大金持ち。

 そういった競争原理が生んだ歪みは大きかった。

 日本の総人口は1925年当時の6000万程度。

 戦後、直後の人口も回復しておらず。

 有効開発面積で、まだ余裕があり、発展の余地は残されていた。

 それでも国民総生産は、アメリカ合衆国に次いでいた。

 それは、日本の国土だけで生み出された富ではなく。

 日本の産業を支える共産圏、後進国の資源と市場によって得られた収益のリターンだった。

 基本的に国内資源のない日本資本は担保経済になりやすい。

 しかし、共産圏の工場となり、

 富裕層が膨れ上がると投機的な資産運用も徐々に増える。

 そして、共産圏の農業、工業は、回復の兆しを見せようとしていた。

 東欧諸国は、私有財産制が確立されてから労働集約・労働効率が改善されつつあった。

 ソビエトで私有財産制が導入されると採算性重視となり。

 国内産業が回復する。

 当然、共産圏の市場に頼る日本産業は傾くというジレンマも抱え込む。

 同時にロシア人の購買力が増して日本製品が売れやすくなるともいえる。

 どう転ぶかは、国民の規範、力、才覚次第といえた。

 

 

   完結

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 “めざせモスクワ” が流れず。

 ハルピニスク・オリンピックは大成功。

 “ジンギスカン” が流れるのだろうか

 寂しいような楽しいよな。

 

 

 救出作戦

 アメリカ大使館の学生300人

 全天候型HH53D(将兵2+30)×8機 乗員240人 − 人質53人 = 将兵187人

 掃海型RH53D(将兵2+35)×8機 乗員280人 − 人質53人 = 将兵227人

 ヘリの機体数が減ると兵士の数が減らされ、作戦不能になっていきます。

 掃海型5機では175人。人質53人を引くと将兵は122人で成功の見込みはなくなります。

 

 

 史実のフォークランド紛争のイギリス軍航空機は117機。

 アルゼンチン政府軍が味方しているとはいえ、

 お金持ちたちのAH1コブラ60機、Mi24ハインド60機。合計ヘリ120機です。

 アルゼンチン艦隊は、自国市民を襲撃する傭兵ヘリ部隊に対し、どうしたでしょう?

 御想像にお任せいたします。

 

 

 日本国内でブランド物生産が増えているのに、中国で偽物が・・・

 価格差次第だけど、史実と違って、日本有利かも・・・

 

 

 とりあえずキリが良さそうなので 『国防戦記』 完結です。

 チリ VS アルゼンチン と イラク VS イラン は、成るように成ってくような気がします。

 自由資本主義、共産主義、制限資本主義の問題。

 アメリカ合衆国の南北問題、ソビエト連邦の東西問題は燻ぶっています。

 やはり超大国は内政問題を抱えている方が面白げです。

 二部を書くかは不明。

 

 

 

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第38話 1979年 『あー うー』
第39話 1980年 『氷 解』 完結