月夜裏 野々香 小説の部屋

    

喰命鬼の日記

     

 第01話 『中学一年 春の陣 四月』

 ○○年04月△△日

 その日、3年の不良たちに殴られ、初めて自分の力に気付いた。

 殴られることで、相手の寿命を削り取ることができる。

 殴られるのは嫌だが、それはそれ、

 自分の寿命が延びるのなら悪くない。

 もっとも、3年不良たちの黒い靄のような寿命は、吐きそうな寿命で閉口する。

 下の自分の白い繭のような寿命の繭に戻すのに時間を要した。

 どうせなら、もっとマシな人間に殴られたいものだ。

 ボクシングジムにでも行こうか。

 

 

 ○○年04月△△日

 丹上ボクシングジムの門を叩いた。

 なんで、そのジムにしたのか、

 たまたま、学校と家の近くで、

 ぼくが、たまたま、そのマンガを知っていただけだ。

 それにスパーリングで殴られても、あの不良3年より繭が白っぽくて不快でない。

 もっとも、悪意がなくて、寿命を奪ってしまうのが気が退けた。

 

 

 ○○年04月△△日

 ヤバい、ヤバい。

 ボクシングで相手を殴ると、殴った相手を支配してしまう事がわかった。

 自分の寿命のような白い繭の一部が相手に滑り込んで、相手の気持ちを支配していく。

 殴った相手の意識、視界、知識、精神性のほとんどを掌握できた。

 特に心臓と頭に近い部分を殴ると顕著だ。

 心臓が心情で、頭が知識という感じだ。

 視点が高くなり、視野が広がり、多人格的な意識は悪くない。

 さらに手足が増えた気分もする。

 しかし、心の準備をしないとな。

 バレたら危険人物で、即、実験台にされる、

 殺されるかもしれない、

 このことは、秘密にしよう。

 なんで、ぼくは、人と違うのだろう。

 草食恐竜の卵の中からある日、肉食恐竜が生まれる。

 人類の進化も、こういう形で起こるのだろうか、

 ぼくは、新人類。

 

 

 

 ○○年04月△△日

 学校で不良3年に殴られた。

 寄ってたかって、1年生を虐めるなんて、最低なやつだ。

 だけど、ボクシングジムで寿命を奪うより、良心が痛まない。

 ぼくは、なんて良心的な人間なんだろう。

 きっと、生きる力が乏しんじゃないだろうか。

 女にモテないのは、それが理由かも、

 女は、強くて野心的な男が本能的に好きなんだ。

 打算的で嫌な生き物だ。

 

 

 

 ○○年04月△△日

 スパーリングで殴った相手の支配権が薄れていく。

 たぶん、支配力に時間的な制限があるのだろう。

 支配権が薄れる前にコーラを驕らせてやった。

 相手は3つ上の先輩だから気が退けた。

 でも “お前を一杯殴ってストレス発散しているから良いんだ” と。

 こっちは、寿命を奪っているから、もっと気が退けた。

 

 

 

 ○○年04月△△日

 前言撤回、女の子は良い。

 3年の不良グループにいた姉さんタイプの先輩。

 萌え〜〜〜

 あんまり頭に来たので、階段で隠れ、

 一人で現れたところを頭突きをしてやった。

 頭と頭だと、かなり効くようだ。

 その後、心臓のところを押したので完璧。

 不良娘の割に恋愛経験は乏しい。

 ばんざ〜い!

 明日は、動物園で初デート。

 

 

 ○○年04月△△日

 彼女と初めて手をつないだ。

 身長は彼女の方が10cmほど高いので、かなり惨め。

 どう見ても突っ張った姉と出来の悪い大人しい弟の関係だろうか。

 まぁ 手を繋いでいるので、なんとなくカップルに見られたりする。

 問題は話す内容がない、ボキャブラリーの不足というか、

 中学生の乏しい知識では、女の子を喜ばせられない。

 ボクシングジムの先輩も恋愛経験なしで役に立ちそうにない、

 それでも、一方通行的な支配が彼女に伝わり、

 彼女は抵抗らしい抵抗もせず従う。

 ぼくのような力のある人間は他にもいるのだろうか。

 余り聞いたことはない。

 しかし、普通は教えないだろう。魔女狩りは御免だ。

 お金持ちだって自分の才覚で、お金を使って人を支配しているのだから、

 僕らのような人間が自分の才覚で、人の寿命を奪ったり、

 人の人生を支配出来たりしてもいいんじゃないだろうか。

 帰り際、人気のない場所で、怖かったけど彼女を抱きしめキスをした。

 生きてて良かった。

 

 

 ○○年04月△△日

 今日も不良たちに殴られた。

 彼女を通して情報は筒抜け、

 彼女は、その気になれば、命懸けで自分を守ろうとする気配を見せていた。

 しかし、干渉させず、日和見させる。

 殴られることで寿命が延びるのなら悪くないのだ。

 自分自身の白い繭は大きくなっていく、

 斑のような黒い染みは、時間をかければ白く変えられる。

 どちらかというと、相手の寿命が醜い器を嫌い。

 自ら望んで、こっちの命に吸収されようと滑り込んでくる。

 なので、殴る力の大きさによって奪える寿命の量が違うし、

 人によって奪える寿命の量が違うみたいだ。

 そういう感覚。

 

 

 

 ○○年04月△△日

 自分の支配圏は、丹上ジム4人。彼女1人に及んだ。

 視界は5つ、常時意識することができた。

 また、知識を流用する事も可能であり、

 3人寄れば文殊の知恵。

 それが5人なのだから、かなり役に立った。

 テストを受ければ万点に近付く。

 て言うか、高校生の先輩4人と、1年生1人合わせて、中一のテストで百点にならないって・・・

 学者を殴って支配すれば、物凄く頭が良くなりそうだ。

 お金持ちを殴れば金ずる。

 むふ♪

 でも、理由もないのに人を殴っちゃいけない。

 

 

 

 ○○年04月△△日

 担任の先生に呼ばれた。

 「いじめられているんじゃないか?」

 だと。

 どうしたものかと思った。

 殴られれば寿命が増えるのだ。

 当然、殴られなくなれば、寿命は人並み。

 今のところ150歳くらい生きられる見込み。

 しかし、これ以上はあまり増えない気がする。

 この辺で寿命稼ぎは終わりにしようか。

 丹上ジムも辞めようか。

 というわけで、いじめられていることを先生につげると、

 なんと、不良3年たちは、放課後、謝りに来た。

 どうやら、内申書が気になったらしい。

 なるほど、暴力を振るえなくなった先生の切り札が内申書なのかと納得。

 なんて陰険な社会だろう。

 ああいう不良は、大人が殴って修正すべきだ。

 とはいえ、少なくとも担任の先生は、貢物を要求しなかったし、

 権力を誇示することなく、善意で動いてくれた。

 体育会系なのか、素朴で善良なんだろう。

 殴られて人の寿命を奪い。

 殴って人を支配しているので気が退けた。

 

 

 

 ○○年04月△△日

 3年の彼女とデート。

 電話を使わなくても、位置が分かり、連絡も付く。

 今日は、あんなことや、こんなことを・・・

 でも、最後まで行かず、やめた。

 実は、クラスに好きな同級生がいる。

 まぁ 淡い初恋ってやつだ。

 向こうは、こちらの気持ちを知らない。

 頭突きを食らわして支配してやりたいほどだけど、性格的に無理。

 でも彼女に意地悪されたら、怒ってやっちゃうかもしれない。

 もっとも彼女は、そんなことしないだろう。

 クラスには一人か二人はいるアイドル系で、周りからそういう目で見られている、

 そういうふうに振舞っていたら、そういう人種になってしまうのだろう。

 というわけで不良3年の彼女が僕の愛人。

 今日は、遊園地で遊び、

 観覧車でキスして、あんな処やこんな処を触り触り・・・

 自分の白い繭の一部が口と口から相手に侵入して支配力を強めていく。

 しかし、自分で自分に触られているような感覚は、かなり嫌だった。

 自分に抱かれるとこんな気分になるのかと、ちょっと鬱。

 僕は、もっと、カッコ良い男になるべきだろう。

 カッコ良い男に産んでくれなかった親を恨んだ。

 

 

 

 ○○年04月△△日

 今日、自分の名前を “喰命鬼” と名付けた。

 吸血鬼のTV映画を見て国語辞典を見て付けた名前だ。

 ぼくは、人間ではないのだろうか、

 しかし、親を見ると普通の人間に思えた。

 こういう能力があれば、もう少し、出世しているはず。

 そして、こういう能力を持ったぼくは、どうしたものか、

 早く自立したい気がする。

 そうだ。男の夢、自立。

 自分で稼いで自分で生きていく。

 むふ♪

 とはいえ、支配下の5人は、お金持ちではなく、お金持ち途上の人。

 あるいは、死ぬまでお金持ち未満の人。

 別段、不思議ではない、人生に満足して死ねる人間などいやしないのだ。

 たいてい、未練を残して死んでいく、

 支配下の5人から、いろんな知恵が湧いてくる。

 もっとも、どれも、これも、ろくなアイデアじゃない。

 世の中、資本主義、

 まとまったお金と、資本運用のノウハウがなければどうにもならないのだ。

 支配下は、体育会系の高校生と、

 不良の女子中学生なのだから、いくら集まっても、その程度。

 当然といえば当然。

 

 

 ○○年04月△△日

 初恋の彼女と少しだけ話しをした。

 一瞬、頭突きしてぇ〜 と思った。

 彼女曰く 「年上の人と付き合ってるの?」

 目の前が真っ暗、

 『いや、抱きしめてキスしたけど』

 『胸とか、太腿とか触ったけど、それだけだから・・・』

 と、心の中で弁解。

 「そ、そんなことないよ」 ふるふると首を振ると、

 周囲の女の子たちがヒソヒソ。

 どこかで、一緒にいたところを見られたらしい。

 がぁあ〜〜〜ん

 男子同級生もざわつき始める。

 そういえば、自分は、特定の友達が居なかったっけ。

 なんにせよ、支配下にいる5人に比べれば、友達の関係なんて薄っぺらなもの、

 知識、情感、意識を共有できる仲間がいると、

 表面的で打算な付き合いなど、どうでも良くなっていた。

 でも、初恋の彼女だけは、何とかモノにしたい気がする。

 そういう機会はないだろうか、

 今のところ、教室内で物理的ないじめはなく、心理的にシカトされていたくらい、

 なので初恋の彼女が物理的ないじめに加担する可能性は低い。

 まず、自分が標的になるかどうかも怪しい。

 内申書が怖いのだろうか、

 最近の子供は処世術重視で打算的で嫌だ。

 あ、自分もか、

 権威主義と拝金主義が強くなったせいだろう。

 権力者と金持ちは、最近の若者は、覇気がないとか蔭口叩いてるに違いない。

 思わず下剋上してやろうかと思ったりする。

 とはいえ、力があっても、それを行使するかというと

 動機になる意欲がなければ行動に移れない。

 まぁ ぼくは、草食系だから

 

 

 

 ○○年04月△△日

 中学生になって、なんとなく変わった。

 というより、肉食動物のように人間を見てしまう。

 もっとも寿命は150歳制限があるようで、おなか一杯。

 殴られるより、殴って支配圏を広げたくなる今日この頃、

 今日、同級生に 「5月病か」 と聞かれる。

 まだ、4月なのだが、心境の変化は大きい。

 ぶっちゃけ、誰にも相談できない。

 相談すれば、寿命泥棒であり、

 他人を強制的に支配してしまう独裁者というか、教祖。

 ばれたら六法全書に載っていない罪を10個くらい問われて、国に殺されるだろう。

 今日、一人の人間が支配圏から離れた。

 どうなるか興味があって、放っておいた。

 しかし、視点と視野が消え、知性、情感、意欲が削られ、

 手足が抜けていく気分は不快だった。

 彼は、どうかというと、

 こちらは、向こうが見えているのに、

 彼の方から、こちらが見えていない。

 つまりマジックミラーのように一方的だった。

 そして、自分に支配されていたことを忘れていて、

 最初にあった頃のジムの先輩という感じになっていく。

 薄まっていく、意識の中で、そうなるような気がした、

 結局、何かを強制したわけでもなく、無理強いもしていない、

 彼の補正された記憶で、そうなってしまうのだろう。

 というわけ、まともに殴ると約3週間の支配と分かる。

 

  

 ○○年04月△△日

 今日、学校で3年の不良たちに詰め寄られた。

 曰く、「ジムでボクシングをやっているだろう」

 曰く、「俺たちに復讐するつもりか」

 などなど、だった。

 別に復讐するつもりなどないし、

 寿命を奪っている自分の方が後ろめたい。

 それに殴られても回復が異様に早く、

 性格を除けば、意外と武道家向きかも知れない。

 とりあえず、復讐する気なんかないことを伝え、

 不良たちの要望に応じた。

 どーーーん!

 シュッ!

 シュッ!

 シュッ!

 「「「「・・・・」」」」

 ていうか、咲きたての若葉が簡単に落ちるわけないだろう。

 もぎって、放り上げられた木の葉をジャブで取った。

 なぜか、感心される。

 そういう漫画があるそうだ。

 最近の知識は、その手のモノばかりになっているらしい。

 ちったぁ 自分の想像力で考えろと言いたい。

 とはいえ、他人の経験、知識、情感、意識、視点、視野の流用は大きい。

 今まで孤独な世界で生きていたことが良く分かる。

 ボクシングは、なんとなく惰性で続けている。

 ボクシングをするのは、渋々で、

 ぶっちゃけ、筋肉脳のボクサーなんか支配したくない、

 しかし、4人分のボクシング経験とノウハウは絶大な効果で、

 あとは、体力と運動能力を付けるだけで飛躍な成果に繋がる。

 視点を先輩側に移すと全方位から客観視点で試合運びも出来て、

 ジムの若手エースになれそうだった。

 とはいえ、個体差、個性差があるし、やすやすと真似できず、

 自分の個性や個体にあったボクシングスタイルに変わっていく。

 なにしろ相手を殴らないことには、支配できないわけだし、

 生きていくにはこれが適当と思えた。

 女を殴れるスポーツはないのかな。

 ハーレムになるのに・・・

 

 

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 月夜裏 野々香です。

 150万HIT記念です。

 まぁ 何にしたものかと、思い悩んだところ、

 格好の題材、魔業の黎明に、喰命鬼がいました。

 自分が喰命鬼だったら気分で日記風に書いてます。

 因みに作者に、その種の力はありません。

 妄想で書いてる日記です。

 

  

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